神を喰らいし者と影   作:無為の極

48 / 278
外伝2話 (第48話)思惑

 呼び出しから戻ると、そこには既に部屋に戻ったのか、それとも新たな任務に出かけたのか、ロビーは先ほど迄の喧噪から少しだけひっそりとしていた。

 本来であればエイジもタツミも隊長だけあって、やる事に困る様な事は何一つ無い。しかし突如として聞かされた話の内容はお互いに関係するだけでなく、どちらにしても部隊の運営にまで影響が出る可能性がある。

 当然ながら先送りした所で解決する事は無く、決定事項を覆すだけの緊急事案が発生している訳でも無い。

 そこで先ほどの話の事で少しだけタツミと相談する事になり、今後どうするのかを決める事にした。

 

 先ほどの話の中で行くメンバーを聞けば、そには無明とツバキ、そしてヒバリの3人の名前が出て来た。

 今回のメンバーだけ見れば、態々護衛を付ける必要は全く無いが、他の支部とのバランスを考えて体裁を繕う事が優先とも聞いていた。しかしながら、現地でアラガミが出れば討伐任務の可能性も高く、単純な出張とは誰も考えていなかった。

 

 

「実際の所、どうしますタツミさん?」

 

「どうするも何も、どっちかが行くんだろ?それにあのメンバーで護衛の必要ってあるのか?」

 

 タツミの言葉では無いが、今回のメンバーに無明が居る時点で護衛は不要なのは共に知っている。だからこそ無意味とも取れる任務に気乗り出来ない部分が存在していた。

 

「そこは建前って榊博士が言ってた以上、仕方ないですよ」

 

「だよな。おっ、そろそろこっちは定期巡回だからこの話はまたな」

 

「分かりました。日程的に時間が無いですから今晩にでも」

 

 

 内容はともかく、一番手っ取り早いのは当事者でもある無明に確認する事。そう考えエイジはラボに足を向けていた。ラボの扉を開けると、そこには定期検査の都合で第1部隊のメンバーとシオが来ていた。

 

 あの後、聞かされたのはシオについては屋敷で住まわせるのと同時に、人間社会に溶け込める様な教育が必要である事、そして不安定な状態の身体の定期検診の途中でもあった。

 

 今は完全にアラガミとしての能力が沈黙しているとは言え、万が一の事を考えれば、その措置はある意味必然とも取れていた。

 

 

「あれ?シオ来てたの?」

 

「エイジか~久しぶりだな」

 

「今日はシオちゃんの定期検診だったんで、ここに来てるんです。そう言えば、さっきの要件は何だったんですか?」

 

「実は長期出張の打診があってね。内容は不明なんだけど護衛でタツミさんとどちらかが行く事になったんだよ。兄様、一体本部で何があったんですか?」

 

「今回の内容は上層部の混乱回避の会合がメインだな。こっちは現地で別行動だが、例の試作神機の性能検査と新種のコアに関するフォーラムも併せて開催だから大事になったんろう。護衛は必要ないが、おそらくは各支部の戦力の誇示も含まれているから、その顔見せだろう」

 

「そうだったんですか。でも話だけ聞くと面倒ですね」

 

「極東支部以外は事実としてフェンリルからの支援が無いとやっていけない所が多いからな。こちらとしては無意味でも本部の顔つなぎと、あんな状態だから互いに派閥関係をつくりたいんだろう」

 

 

 この時点で、エイジの中では面倒な話にしか思えなかった。

 事実、他の支部よりも極東の支部の方が戦力としてだけではなく、人的消耗が激しい為に人手不足が慢性化している。

 エイジは態々そんなくだらない事に付き合いたいとは全く考えていなかった。そんな考えを無明に見抜かれていた為に、無明もわざとそう考える様な言い方をしていた。

 

 

「で、誰がそんな中行くんだ?」

 

「兄様とツバキ教官にヒバリさんだよ」

 

「珍しい組み合わせですね?なんでヒバリさんなんでしょう?」

 

「兄様、決めたのは誰ですか?」

 

「決めたのは榊博士とツバキさんだ。確か、現地でもオペレーターとしての何かがあるらしいが、別行動の予定だから詳しくは聞くのが一番だが、話には出てなかったのか?」

 

「いえ、特に聞いて無いです」

 

 

 詳しい事は結局聞いていないが、行くメンバーだけは聞いていたのでそれ以上の詮索が出来なかった。

 内容はともかく、長期ともなれば色々と面倒な事位しか考える事もできず、結果的にはタツミが戻ってから改めて話し合う事にするしかないと考えていた。

 

 

「本部ってとおいのか?」

 

 

 検査が終わったのか、シオは動けるのが嬉しくなったのか、先ほどの会話の事を聞いて来た。ラボには他に誰も居ないのと、シオの事は基本的には秘匿状態の為に話を聞かれて困る様な事は何も無かった。

 

 

「遠いのは遠いね。移動だけでほぼ一日かかるし、こことは全然違うよ」

 

「そっか~とおいのか?何だかすごいな」

 

「そこまで行けば旧時代の旅行と同じだからね。今回は仕事だけど中々海外に行くなんて事はないかな」

 

「そ~だ!それだよそれそれ!」

 

「コウタ、どうしたんですか急に?」

 

「だからさ、長期で海外だろ?行くメンバー考えたらさタツミさんの方が良くない?」

 

「コウタの言ってる意味が分からないんですけど」

 

 当初は何が言いたいのか誰にも分からなかった。しかし、先ほどのシオとの会話の中で出て来た海外旅行との言葉にコウタは何かを閃いた事だけは確かだった。

一体何をと思った途端、どうやらアリサもコウタの狙いが分かったのか、珍しく同調していた。

 

 

「コウタにしては良いアイディアですね。たまには役に立つんですね」

 

「なあ、アリサ。何でそこまで俺の評価が低い訳?もういい加減凹むぞ」

 

「その為には、少し確認する必要があるので、一度リッカさんにも聞いてみますね」

 

 

 コウタとアリサのやり取りに、エイジとソーマは蚊帳の外だった。2人の表情を見る分には何の問題も無いとは思うも、一体何を考えているのか想像出来なかった。

 

 本部に関しては直接のやり取りをしたことが無いエイジにとって、今回の出張そのものも何の意味があるのかその必然性を見出す事は出来なかった。

 単純に外に出るから何か良い事が起こるのではと思案する事も無い。しかし、無明の話からすれば自分にとって然程意味の無い事にしか思えなかった。

 

 

「エイジにお願いがあるんですが?」

 

「何か出来る事あるの?」

 

「実は、このまま話しても問題ないんですが、単純に話すのあれなんで何か手土産になる物がほしいんですけど」

 

「手土産って誰に?」

 

「ちょっとリッカさんと話すのにこのままでも良いんですが、少しだけ考えがありまして」

 

「出来る事なら協力するけど、手土産って何が必要?」

 

「お菓子があると有りがたいんですけど」

 

 ここで漸くアリサが言わんとしている事が理解できた。

 恐らくは今回の件でリッカに何か話をするが、ヒバリまで居ると何かと面倒なんだろうと推測できた。しかし、これからとなると何も用意出来ないと言った方が正解だが、エイジには一つだけ思い当たる事があった。

 

 

「今新作作ってるから、感想を教えてほしいって事でどうだろう?」

 

「!ありがとうございます」

 

「じゃあ、持ってくるよ」

 

 

 少しの時間が経過した所でエイジは白い箱を持ってきた。中身は新作のデザート。

 このアナグラでも甘い物は食べる中での大きな娯楽とも言えていた。いくら作る材料が大量にあろうとも、肝心の作る技術が無ければ何の意味も成さない。

 特にエイジや無明がたまに作る試作と称したお菓子類は色んな意味でアナグラの中でも評判が高かった。これならば何の問題も無いと思いつつ、箱ごとアリサに渡すと早速ラボから出ていく事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リッカさん、少しお茶しませんか?」

 

 

 休憩中のリッカの所に来たのは普段は中々来ることが無いコウタとアリサだった。神機の整備は重要だが、神機使いの中で整備やメンテナンスまでやる人間は少なく、その為に神機使いが整備班に来る事は極めて稀でもあった。

 

 

「良いけど、どうしたの急に?」

 

「実は、例の出張の事で相談があったので」

 

「これから休憩だから構わないけど」

 

 

 エイジが用意したデザートは絶大なまでに効果を発揮した。

 普段も口にする事があるが新作となれば話は変わってくる。最初はそんな話をしつつも時間は限られている以上、思いっきりよく話の確信を突くことにした。

 

 

「リッカさん、ヒバリさんの件は知ってますよね?」

 

「うん。聞いているけど、それがどうしたの?」

 

「実は行くメンバーは決まっているんですが、護衛でエイジかタツミさんが行くらしいんです。でも、今までの事を考えるとエイジよりもタツミさんの方が色々と良いんじゃないかと思うんですけど、リッカさんはどう思います?」

 

「どうって言われてもね……でも、少なくともヒバリは口で言うほどタツミさんの事は悪い印象は無いと思うよ。普段の会話でもたまに出てくるからね。あえて言うならタツミさんがやりすぎてちょっと引いてるって感じじゃないかな」

 

 

 リッカのタツミに対する印象は実際にはアナグラの全員が知っているのではないのかと思う程の状況だった。

 何事もやりすぎるのは逆に悪いイメージしか沸かないが、恐らく本人はそんな考えは微塵も無いのだろう。ヒバリに対する対応はこれまで同様に一向に変わる気配は無かった。

 

「実は、今回の出張が2週間程なんですけど、内容が内容なので、出来れば旅行の様な感じで行って貰えればと思ったんですけど。もちろん任務だってのは分かった上でですが」

 

 そこまで言われてリッカもアリサが何を考えているのか理解する事ができた。確かに、終末捕喰事件以降はかなり慌ただしい日々が続いているのと同時に、あの時のタツミの負担も今考えると想像以上の負担がかかっていた。

 

 実際にに整備していたリッカでさえも、あまりの神機の摩耗ぶりに冷や汗を何度か経験している。

 もちろんそれは決して良いとは言えないが、あの当時の状況下では仕方ないと判断せざるを得ないのもまた事実だった。

 

 そんな事もあってか、最近のヒバリのタツミに対する態度は以前に比べてかなり軟化しているのは直ぐに理解できた。

 そんな中での今回の話は色んな意味での僥倖とも捉える事が出来る。余計なお世話と言われればそれまでだが、何となくでもこの内容をリッカ自身、応援したいと思う部分も少なくなかった。となれば、やるべき事は一つだけ。

 今回のアリサが持ってきた話に乗っかった所で誰も困る様な話でも無かった。

 そうと決まればあとは実行に移すだけとなった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。