当初の予定の通りなのか、色々と計画が実行された結果なのか、本部へはタツミが行くことで決定した。
今回のポイントは当初から確認されていた通り、各支部との連携がメインとなったものの、今後予想されるであろう戦力の確認についての会合となった。当初は色々と渋っていたタツミも結果的にはヒバリも同行する事で、有耶無耶のうちに決定していた。
今回の任務は護衛にはなっていた物の、実際には極東支部と各支部の戦力差の確認、それと一部の人間にしか知られていないが、万が一極東支部がフェンリルに対しての反旗を翻した際にはどこまで問題視する事が出来るのかの確認でもあった。
本来であればいくら極東支部と言えどここまで危険視される事は無いが、終末捕喰を引き起こし、経済的にも戦力的にもフェンリルの保護を受ける必要が無いのであれば、今後の可能性を危険視する勢力も少なくないとの見方もあった。
「漸く着いたか。もういい加減疲れてきたよ」
「何を馬鹿な事言ってるんだタツミ。これからが本番なんだ。こんな位で疲れてると何かと大変だぞ」
極東支部から本部への移動は優に15時間を要した。いくら鍛えられているゴッドイーターと言えど、長時間同じ場所に居るのは身体的には辛い物がある。長時間の狭い場所での拘束は膨大なストレスを発生させると同時に、今後乗り物は出来る事なら乗りたくないとタツミは考えていた。
そんな事を思いながら降り立った場所は極東とは景観が大きく異なっていた。それはタツミだけではなく、ヒバリも同じような事を考えていたのか、2人は顔を見合わせ苦笑まじりに周囲を見回した。
「これから本部へ向かうが、その後は各自の行動になる。俺とツバキさんは一緒に動くが、お前たちの事は他の人間がアテンドするはずだ。取敢えずはその後合流となる。ここからは護衛任務だ。しっかりと護れよ」
「了解しました」
今後の予定に関しては事前に確認していたが、今回の本当の部分は2人には伏せられていた。
まずは現地での確認が先決とばかりにタツミとヒバリは本部へと足を運ぶ事にした。移動中に聞かされていた通り、現地には各支部から選出された隊員達が既に一団となってロビーに集まっている。
手荷物のチェックが完了し、ここで漸く本題に差し掛かろうとしていた時だった。
「あれ?タツミか?久しぶりじゃないか」
「ああ、ハルオミか。そう言えば久しぶりだな。今はどこの支部に居るんだ?」
手持ち無沙汰な所でかけられた声は旧友とも言える真壁ハルオミだった。元々は極東支部の所属だったが、各所を異動していた為に久しぶりの邂逅となった。
「今はグラスゴーだ。お前は相変わらずの極東支部なんだな」
「おまえとは違うからな。なあ、今回の招集って各支部から来てるみたいだけど、気のせいか色々と見られている様に感じるんだけど?」
「それは、お前が極東支部の所属だからだろ?他の支部から極東支部はアラガミの動物園って言われてる位だからな。そこの部隊長なら百戦錬磨の猛者って思われてるんだろ」
最初から極東でしか活動していないタツミからすれば、他の支部からはそう思われている事に驚きを隠せなかった。他の支部の話は噂程度でしか聞くことは無い物の、実際にその場面に遭遇する事は無く、結果的には何となく程度にしか思えなかった。
「タツミさん。こちらの方は?」
「こいつ?こいつの名前は……」
「これは美しいお嬢さん。俺の名前は真壁ハルオミと申します。元々は極東支部の所属でしたが、現在はグラスゴー支部の所属です。短い期間ではありますが宜しくお願いします」
ヒバリの声に反応し紹介しようとした矢先に、ハルオミがタツミを制して自己紹介を始めた。他の支部に行ってもハルオミの性格は変わらず、当時のままだとタツミは心の中で苦笑していた。
ただでさえ注目されている中でこれ以上の大事にする訳にも行かず、この場を収める事しか今は出来そうにも無かった。
「これ以上近づくな。ヒバリちゃん、こいつは査問委員会の常連だから気をつけてな」
「そんな事こんな所で言うなよ。少しは空気読めよタツミ」
「真壁ハルオミさんですね。私は極東支部所属の竹田ヒバリです。今回はオペレーターとしての招集で来ました。こちらこそ宜しくお願いします」
爽やかな表情とは裏腹に、今何を思っているのかタツミには何となくヒバリの心情を理解できた。
いつもなら軽くあしらうものの、ここは本部である以上これ以上の悪目立ちは避けたいと考えた上での挨拶でもあった。そんな会話を続けていると、やがて全員に対しての呼集が始まった。
「予想はしてたが、ここまでとはな」
ため息交じりに呟いた一言が今回の全てを物語っていた。
ツバキは今回、支部長代理として本部への出席をしていた。
現在の所、極東支部は正式な支部長は選定中の為に代理と称して出席していた。
出発時にも無明から今回の件で想定されるであろう事は事前に聞いていた為に、会議では混乱する事は少なかったものの当初の予想通り各支部から色んな事が噴出していた。
そもそも今回のメインでもあった終末捕喰事件は対外的には極東支部の関与は一切認めていない。仮にこれが表舞台にさらされる事になるとなればフェンリルそのものの存在が問題視される事から深く追求はされないものの、それでも真相は確信したいとの思惑が容易に理解できた。
本来ならば追及される事が確実視されていたが、現在のツバキの身分は支部長代理である以上、これ以上の権限は無いと突っぱね各支部の追及は見事に避けていた。
「こればかりは仕方あるまい。今の時点で語れる事は多くないのと、これ以上は本部預かりだからこちらが騒がない限り本部は静観するしかないから、これでこの話は終わりだろう」
「そうあってほしいが、これ以上の事は私に聞かれても説明は出来ないから悩ましい所だな」
「それだけじゃないだろうな。後は極東支部の立ち位置の確認がしたかったのだろう。フェンリルも一枚岩じゃない。各々の利益だけ考えている輩も多いからな」
これが会議の前であればそんな風に考える事は無かったが、いざ出席すればそんな考えしかその場にはなく、事実自分たちに害が無ければ問題にすらしていない支部も多数存在していた。
「そう言えば気になる事があったが、あの当時お前は確かに8割の上層部が賛成していると言ったが、最終決戦の時には簡単に認定していたが、一体どうやったんだ?」
「あれか。種明かしすれば簡単な話だが、全員をひっくり返した訳ではない。単純に数の論理で過半数超えが分かった時点で頑なに反抗している人間には退場してもらっただけだ」
あまりの簡単な物言いに流石のツバキも言葉を発するには時間がかかった。
幾ら連合企業体とは言え、実質フェンリルの経営陣の退場は簡単には出来ない。それを容易く話す無明に対してツバキは驚きを隠せなかった。
一枚岩ではないの無明の一言が全てを物語っていた。
コングロマリッドであるが故に他よりも僅かでも優位に立ちたいとばかり考え、それ以外の事に関しては呆れるほど無関心であれば、これ以上の存続は無駄と考えるのはある程度仕方がないとも言えた。
それほどまでに意思の疎通が出来ないのであれば退場させるしかないと考え、これを機に風通しを良くしたいと同時に考えていた。しかしながら、腐敗は腐敗を呼ぶ。
一つの物を排除すれば今度は新たな腐敗を招く。各々が自分たちの権力闘争をしていても、一般人の事まで考える事は皆無に等しく、これが今のフェンリルと言う名の企業の実態でもあった。
その為に今回の様な子供だましの画策を図り、全支部の中でも一番とも言える極東支部を我先に囲みたいとの思惑が透けて見えた。
「釘は刺してあるから、おかしな事にはならないはずだ。上は確かに腐っているが、中には良識を持った人もいる。基本は独立独歩でも十分だろう」
「こちらとしても、アラガミとの戦いだけならまだしも上の権力闘争に巻き込まれたくはないからな。この先の事を考えると気が重い」
今後の課題である事に変わりは無いものの、今の状況をこまねいて見ているつもりは毛頭なかった。当人達は知る由もないが、今回の目玉でもある戦力の確認は今後の極東支部の未来を占う試金石でもあった。
オペレーターが集められた趣旨は、神機使いの生存率の向上と新システムの運用に関する内容だった。今までは突発的なアラガミに対しては何も出来なかったが、新システムの運用で理論上の生存率は格段に高くなっていたが、ここで想定外の状況が発生した。
新システムの運用には各オペレーターの力量が如実に現れ、その結果として場合によっては旧システムの運用の方が生存率が高くなる逆転現象が起きていた。
期待されたはずの新システムの導入に関しては協議した結果、全部の支部に導入ではなく一部の支部に試験導入される手筈となった。
「そう言えば、あのシステムって凄いな。あれなら突発的な乱入でも安心して討伐出来るから助かるよ」
「あれは多分、人をかなり選ぶんじゃないか?極東ならともかく、少なくともグラスゴーでは無理だな」
運用の為の現場として、タツミはハルオミと同じチームとして動いていた。
今回の研修の際には他の支部でも少しづつ増えて来た新型神機使いが送り込まれていたが、極東支部からは旧型のタツミが来た事で現場の空気が若干悪くなっていた。
現状ではまだ新型神機使いの数は圧倒的に少ないものの、新型特有の根拠の無い優越感に浸り、タツミを非難するかの様な目で見ていたが、実際に戦場に出るとその評価はあっさりと一転した。
そもそも極東と他の支部では判断基準が大きく違っていた。極東支部ではヴァジュラ程度のアラガミはソロで討伐出来て初めて一人前と称されるが、他の支部では少ない所で1チーム、多い所では3チームが派遣され、それでもギリギリの戦いが要求されていた。
いくら新型神機使いと言えど、戦場では同じ立場での戦いとなる為に、同じチームとなった者は皆がタツミの技術に息をのんだ。
防衛班では当たり前の負ける戦いは一切せず、あるがままの状態を受け入れそのまま何事も無かったかの様に討伐を続けていた。
本来であれば、同じ神機使いである以上、大きな差が無いはずだとタカを括っていた人間は知らない間になりを潜め沈黙する他無かった。その結果、本人の意図しない所で極東支部所属の神機使いは別次元の生き物だと徐々に認識されていた。