「これで終了か。やれやれだ」
「いや~暫くはこんな任務は御免こうむりたいよ」
激戦区となった戦場に落ち着きが戻り始めた頃、漸く終わったことに安堵したのか気持ちが徐々に切れて来たのか疲労が一気にタツミ達を襲ってきた。
本部での最終任務が緊急であった事を考えればこの結果に着いては関係者は安堵の表情と同時に新システムの今後の展開に大きな希望で満ち溢れていた。
本来であれば第1部隊が対抗するはずのアラガミであったが、結果的には4人のチームでの討伐と、改めてタツミの戦闘力の高さを見せつける結果も合せて知る事となった。本来であれば今日は休暇のはずだったが、緊急ミッションの関係でこのまま終了となった。
「そろそろ帰投準備だ。2人も大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
「私も大丈夫です」
何とか返事はしたものの、緊張が切れたのか想像以上の戦闘に力尽きたのか2人は座り込んで動こうとはしなかった。本来であればいくら緊急事態とは言え、新人が大した研修もせずに接触禁忌種と対峙する事は暴挙以外の何物でも無かった。
しかしながら偶然チームとなったタツミ達の力で討伐が完了し、その事実も本部では驚きと賞賛の対象ともなった。今までの事を思い出す頃には帰投のヘリが到着し、無事に帰投する事となった。
「タツミさんお帰りなさい」
笑顔で出迎えてくれたヒバリにタツミは嬉しさを隠しきれなかったが、本部に到着した際に出撃時とは違った雰囲気を感じ取っていた。決して悪意を感じる事は無く、むしろその逆の賞賛を称えるかの様な雰囲気に4人は周囲を見回した。
「あの~ヒバリちゃん。何だか雰囲気が出る時とは違う様にも感じるんだけど」
「皆驚いてるんですよ。あの戦闘はモニターされてましたし、ログも確認出来ましたから、今回の件は恐らくここに居る全員が知ってるからだと思いますよ」
「何で驚くの?」
「ここだと接触禁忌種とのミッションは殆ど無いですから、今回の状況は実はかなり厳しい戦いになるんじゃないのかってここでは話されてたんですけど、結果的に新人含めて4人って所で驚かれてるんだと思います」
「なるほどね。でも今日で研修も終了だから、もうどこにも行く時間は無いね」
「こればかりは仕方ないですよ」
既に夕闇が迫ろうとしている。これから何をするにも時間は足りず、これで一日が終わろうとした時だった。
「ご苦労だったなタツミ。今日はこれで任務完了だ。予定通り本日付で研修を修了とする。この後は懇親会の名目で食事会が開催されるから、早めに準備はしておけ良いな」
ツバキからの連絡で今日の予定はこれで決定となった。時間も既に遅くなっているので今から何をどうする事も出来ず、言われた通りに準備する以外にやるべきことは何も無かった。
ヒバリとの僅かな時間とは言え、一緒に動く事が出来た事を良しとしこの後の為に自室へと戻る事となった。
タツミの支度が終わり、言われていた場所に行くと今回の緊急ミッションの打ち上げとばかりに今回のスタッフが全員参加していた。本来であればドレスコードもあるが、あくまでも慰労を兼ねた食事会なので、そこまでこだわる事も無く、殆どが制服での参加となった。
タツミが到着する頃には既に始まっていたのか会場の雰囲気は柔らかい様な空気が流れていた。
「今来たのか?随分遅かったみたいだけど」
会場を見渡していたタツミに声をかけたのは、今まで一緒に戦ってきたハルオミだった。一緒に別れたはずが、何をどうしたのか先に会場入りしていた事に疑問はあったが、それ以上の追及はある意味無駄だとばかりに近くにあった飲み物を手にした。
「ちょっと手間取っただけだよ。しかし、この規模は流石に凄いな。極東でも偶にするけどここまでの規模は無いぞ」
「まあ、色んな支部から来てるのもあるだろうし、名目上は技術交流だから元々これも予定に組み込まれてたんじゃないか?でないと、ここまでの規模の内容は簡単に用意は出来ないと思うが」
共にここまで大事になっているとは予想もしていないものの、テーブルの上に出ている料理を食べるとハルオミの言ってた事に信憑性がある様な気がしていた。
今回の内容は本来であれば想定外の出来事とも言えるが、結果だけ見れば成功だったのだろう。しかしながら今回の戦いで犠牲者が全く出ていない訳ではない。
公表されていないものの、今回の戦闘で殉職者も出ているし、タツミ自身もそれなりに負傷している。
細かい部分まで見ればネガティブな事も少なくないが、恐らく今回の内容に関してはある程度の加工をされた情報が各地に発表される事になる事も今までの本部のやり取りの中で想像は出来た。
しかしながら、そんなことまで一ゴッドイーターが気にしても仕方ない。そう気持ちを切り替えタツミはしばらくの間、この環境に馴染ませる様に静かに食事をしていた。
「タツミさん。今日はありがとうございました。今回の戦いを今後に役立てたいと思います」
「アネットか。あれは結果が良かったからであって、俺の本来の仕事じゃないよ。それに俺は極東では第2部隊、防衛がメインであって討伐部隊は別にいるからな」
「でも、今回の内容はこのチームの中での一番の戦力だと判断しました。本当の事を言えば今回の配属はかなり嬉しかったんです。私は新兵とは言え新型だからって目で見られていたので、今回の戦闘は今後の参考にしたいと思います。旧型とか新型とか私は気にしてません」
「極東は殆どが旧型だからそこまで気にはならないよ。確かに第1部隊には2人の新型神機使いがいるけど、皆そんな気持ちで戦っていない。こんな職業だから今日、明日を生き抜くことが最優先で、その結果としてアラガミを討伐しているからスコアが高いんだよ。それにアネットが思うほど俺は強くないよ。誰もが護りたい物があるからこそ頑張れる。それだけだよ」
アネットに対する内容は間違いなくタツミの本音でもあった。タツミ自身が神機との適合が当初から高い水準ではなく、努力の結果として今の地位にある。
本当の事を言えば極東全体を守りたいと考える程の実力は備わっていないと自分では判断している。戦場ではいかなる希望があったとしても、そこへたどりつくまでの様々な状況を把握し、判断しての結果とも言えた。
「何だか、自分語りみたいでごめん。とにかく、生きて帰れば何かしら良い事があるはずだよ。今日でお別れだけど、自分達のやるべき事はどこの支部でも変わらないから。戦場で培う技術はそんな積み重ねだよ」
決して自慢するつもりもなく、今そこにある事象をそのまま受け入れる事は言うのは簡単だが、感情が入ればそれは途端に難しくなる。自戒の意味を含みアネットと話を続けていた。
会場入りしてからは各支部関係なく色々と話をする機会が多くなった事に、ヒバリも今回の出張に関しては若干ながらも楽しさと、新システムへの期待も胸に抱いた。根底にあるのは、オペレーターの技術で帰還率が高くなるのであれば、今以上何かが出来るかもしれないとの考えに至った。
今回の出来に関してはまだまだの部分は仕方ないとは思いつつも、極東に帰った時のリッカへの土産話になるだろうと思いながら、各々と楽しんでいた。
そんな中で不意に考える事が一つだけあった。今回の戦いの中でいかに極東支部の戦力が他の支部に比べて高いのかをハッキリと自覚したのと同時に、その評価の元となったタツミへの関心が異常な位に高い事もヒバリの中では考えさせられる物だった。
事実、今日で最後となるからなのか、それとも今後の事も踏まえてなのか。遠目で見ているとタツミは静かにしたいと思っているにも関わらず、色んな所から話かけれられていた。
アネットに関しては同じチームだった事もあり、それなりに分からないでもないが、何故か他の支部のオペレーターや女性の神機使いまでもがタツミと話ている事に、ヒバリは戸惑いと自分では無い様な嫌な気持ちが黒い靄となって出ている事を自覚していた。
きっかけはここに来てからのタツミの評価だった。
極東では当たり前すぎたのか何も感じる事もなく、ただそれが普通だと感じ、任務の終わりには毎回の如く食事に誘われてるが、ここに来てからはそんな事は一切なく、任務の終わりには戦闘時のシステムの調整等で中々話す機会も急激に少なくなっていた。
本来であれば今日の休暇でも何時もの様に楽しく過ごせるはずだったが、緊急呼集で呼び出され戦場に向かうタツミの姿を見て、ほんの少しだけ不満な部分もあった。今となってはその感情が何なのか、恐らくヒバリ自身気が付いている。
この場にリッカが居れば間違いなくツッコミが入る事も間違いなく想像できた。
だからこそ自覚出来ていた。
「そっか。私、タツミさんにもう囚われていたんだ」
その場に誰も居なかったせいか、ヒバリの呟きを聞く者は居なかった。
そのまま時間だけが経過し、ここで漸く長きに渡った長期出張とも言える研修が終了した。
「じゃあなハルオミ。また何処かで会えると良いな」
「タツミこそ簡単にくたばるなよ」
本部に来てからは何かとハルオミと共に行動する機会が多く、色んな部分での旧交を温める事になった。
研修が終わり各々が所属の支部へと帰る頃だった。タツミは不意にハルオミから話しかけられた。
「なあ、一緒に来たヒバリちゃんだけど大切にしなよ。お前を見ている目が何となく最初よりも違った気がしたから」
「何でお前がヒバリちゃんって呼んでるんだよ。大切なんて今更だぞ」
「まあ、俺からの忠告だと思ってよく見なよ。じゃあ、またいずれ何処かで」
「そうだな」
そんな話と共に2人は別れ、タツミ達も極東支部へと帰路を急いだ。
本部での研修は終わっても全てが終わった訳ではない。元の環境に戻り更なる活躍と、帰り際のハルオミの一言を思い出しながらタツミは極東支部へと戻った。
これで長期出張編は完結です。
次回からは違うエピソードとなりますので、よろしくお願いします。