神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝10話 (第57話)女子会

「あ、あの、え、エイジさん。良かったら私の初めての……貰ってください」

 

 

 日常を過ごしていた筈の第1部隊のメンバーに衝撃が走った。コウタは飲んでいたジュースを吹き出し、ソーマは読んでいた書類が手から零れ落ち、アリサは一体何の事なのかエイジに鋭い視線を投げつけていた。

 

 

「あ、あの~カノンさん。初めての……何でしょう?」

 

 戦略級の爆弾が落ちたかの様に、カノンの発言にロビー一帯は静まりかえっていた。

 言われたエイジに対して第1部隊の人間だけではなく、その場に居た全ての人間の視線が容赦なくエイジを視線で刺し殺すかの様に突き刺さる。

 もちろん、エイジには一体何の事なのかも理解出来ず、カノンから言われた瞬間は呆然としていたが、そこは歴戦の猛者とも言える反応でいち早く立ち直る事に成功した。

 

 

「おいエイジ。何時の間にカノンに手を出したんだ」

 

「あらあら~。いつの間に?随分と積極的ね」

 

「誤解ですよリンドウさん。サクヤさんもですが、僕も一体何を指してるのか分からないんで、コメントのしようも無いんですが」

 

 そんな事を言いながらも、問題の発言をしたカノンを見ると、そこには布が被されたバスケットがあった。カノンの発言によって辺り一面にブリザードが吹き荒れた様な空気が漂っていたが、カノンの手に持っている物を見て、漸く事態が沈静化される事になった。

 そもそもの発端は密着取材があった頃のちょっとした一幕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジ~腹減ったけど何か食べる物ない?」

 

「あのさ、僕はコウタの母親じゃないんだから、オヤツをねだらないでほしいんだけど」

 

「そんなつもりは無いんだけどさ、最近は試作とか作ってないの?」

 

「最近はちょっと時間が無かったから、手持ちは何も無いよ。そうだ、カノンさんは何か持ってないの?」

 

「わ、私ですか?今は何も無いです。と言うか、材料が無いので作れないですね」

 

 食材が他の支部と比べて格段に手に入りやすいものの、そう頻繁に手に入る訳ではなかった。外部居住区の様に、買い物に行く余裕が無かった関係でエイジ自身も手持ちがなく、せいぜいが普段の食事用のストックしか無かった。

 無理にでも作れば無い事も無かったが、これを作れば今度は普段の食事にまで影響が出る為に事実上は何もないと言った方が正解だった。

 だからこそ、その場に居合わしたカノンに確認してみる事になっていた。

 

 

「自分で作ったらどう?」

 

「そんな事出来たら言わない。こっちも手持ちがレーション位なんだけど、それじゃあ味気ないから頼んだんだよ」

 

「だったらそれで作れば?」

 

「う~ん。残念ながらそんな便利なスキルは持ち合わせてないんだよ」

 

「じゃあ、諦めるんだな」

 

「え~マジで!」

 

 何時もならばここで他のメンバーからツッコミが入るはずだが、生憎とソーマは非番の為に不在、アリサはリンドウとサクヤと3人でミッションに出ていた。このツッコミ不在の中で偶々そこに出くわしたカノンの話を振られたのが発端だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひょっとしたら、あの時の話の事?」

 

「そうなんです。コウタさんの為では無いんですけど、自分のレパートリーを増やしたいのでアレンジを前提にレーション使ってみたんです」

 

そう言いながらカノンがバスケットから取り出したのはクリームタルト。本来であればそこにフルーツの一つや二つ使えばよかったが、果物は外部居住区に買いに行かない事にはアナグラで手に入れる事は困難な代物でもあった。そこまでしなくても簡単に出来る事から、チョコレートをふんだんに使ったタルトを見せた。カノンの発言はともかく、それを見た一部の人間は残念そうに、それ以外の人間はつまらない物を見たとばかりに周囲の空気は一気に日常へと変化して行った。

 

 

「この生地に流用したんだよね?」

 

「そうです。これに使ってみたんですが、どうでしょうか?」

 

「この生地なら問題ないんじゃないかな?でもこれならキッシュも大丈夫な気がするけどね」

 

 一口食べながらそんな感想を言っていると、何故か他の目がこちらに向いている事に気が付いた。リンドウとソーマは既にその事に興味を失い、コウタはタルトにしっかりと視線が定まっている。明らかに聞かなくても考えている事はよく分かった。

 

 

「ねえ、カノン。これってこの前エイジが作ってた物と同じようにも思えるんだけど?」

 

「実は、この前の味が良かったのでレシピを聞いて作ってみたんですけど、どうでした?」

 

「十分な位に美味しいわよ。ただ、これを考えたのがエイジって所が微妙なのよね」

 

 このアナグラでのエイジのイメージはゴッドイーターのであるのは勿論だが、それ以上にシェフかパティシエと言ったイメージを持つものが多く、事実第1部隊以外の人間も何度か食べているので、その腕前は良く知られていた。

 広報によってそんな風景までもが放送された関係で、一部のメディアからはレシピ本の要請まで来ていた。

 

 

「サクヤさん。それ酷くないですか?」

 

「ごめんなさいねエイジ。そんなつもりじゃないんだけど、何というか……ここには他にも何人もの女性が居るんだけど、何となく女子力と言うか、女としての矜持がね」

 

 そんな事を言いながらサクヤは該当すると思われる方向に目をやるも、肝心の当人達は視線を合わせる事も無く明後日の方向を向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでエイジはあんなに女子力が高いんですかね?」

 

「前に聞いた時には、今まで全部の事を自分達でやっていたからだって聞いたけどね?」

 

「でも、それを言うならナオヤさんもですよね?」

 

「でもナオヤはあんまりああ言った物は得意じゃないみたいだよ」

 

「へ~、リッカさんって随分と詳しいんですね。普段は何を話しているんですか?」

 

「い、いや、私の事はどうだって良いの。でも前にも2人で作って何時もとは違った物を食べた事あったけど、すごく美味しかった記憶があったから、この前の話の種に聞いただけで」

 

 カノンの試作事件?から数日後、時間にゆとりがあったアリサとリッカ、休憩がてらやってきたヒバリが珍しく3人でプチ女子会を開催していた。

 本来であればもう少し落ち着いた場所でするが、今回は何となく時間が合った関係上、ロビーで開催する事となった。

 普段はアラガミと戦う事が専門とは言え、お年頃の女子が話す事は恋バナが定番とばかりに用意してあった苺のムースをふんだんに使ったケーキを前に休憩時間をしっかりと堪能していた。

 

 

「でも2人で作ったって意味深じゃないです?」

 

 先ほどの発言をいつもならば軽く聞き流してはいたが、今は軽々しく聞き流す様な事も無く何故かアリサが珍しく食らいついた。

 

 

「2人って言っても、完全に2人きりでもないし、作ったのってナオヤの家だから、他にも人が居たし……」

 

 この時点で随分と誤爆しているが、話しているリッカ本人は何も気が付いていないのか、それともアリサは事情を知っているからと安心しているからなのか、本来のリッカならば気が付くはずの事がいくつか通り過ぎて行った。

 

 

「リッカさ~ん。先ほどかなり気になる発言があったんですけど、それってナオヤさんの家に行ったって事ですよね?」

 

「へっ?い、いや、だって、ナオヤの家って………」

 

「ヒバリさん、ナオヤの家はエイジの家でもあるんです」

 

「それって?」

 

「元々、2人は同じ家なんですけど、外部居住区以外にも安全な場所があって、元々はそこに住んでたんですよ」

 

 この時点でアリサは気が付いていないが、本来であれば屋敷の存在は機密事項に抵触し誰もが知っている訳ではなかった。リンドウの生存が確認されてからも何度かシオの関係で屋敷に行く事があり、それがあまりにも当たり前すぎた結果、本来の秘匿事項である事をすっかりと忘れていた。

 

 

「ねえ、アリサ。屋敷の存在って秘匿事項じゃなかったの?今サラッと暴露していたけど?」

 

「え?」

 

 この時、初めてアリサは見えない部分で嫌な汗をかいていた。

 確かに当時から現在に至るまで秘匿事項で誰にでも気軽に話す事は一度も無かった。秘匿事項の漏洩はどんな結果になるのかを考えれば、どう贔屓目に見ても楽観的な未来をもたらす事は無い。

 もちろんアリサ自身は口が軽い事はないが、リッカが居た事と、シオの存在を遠まわしにでも知っていたヒバリがそこに居た事で、重要なはずの部分がすっかり抜け落ちていた。

 肝心のヒバリを見れば、一体何の話なのか疑問しかない。

 このままでは何かあると拙い事が起きるのではと、有り得ない考えが脳内をグルグルと回っていたが、このままでは何の解決も出来ないとばかりに意を決しようとした時だった。

 

 

「あっ、アリサ。そのケーキの味はどうだった?」

 

 ミッションから帰って来たのか、そこには任務に出ていた筈のエイジとコウタがそこに居た。

 先ほどの話は聞かれていない物の、最終的にヒバリが聞けばその時点で誰かが暴露した事が発覚してしまう。そんな考えに囚われていた影響もあり、エイジの存在に気が付く事に遅れていた。

 

 

「………すごく美味しかったです」

 

 たった今、意を決して何かを伝えようかと思った矢先の出来事にアリサは内心これから一体何をどうすれば良いのかを必死に模索したが、肝心の内容が既に暴露されている以上誤魔化す事は無理と判断し、ここは素直になるしかないと腹を括る事を決めた。

 屋敷がこの極東支部の中に於いてどれ程機密事項の塊であるかは初めて訪れた際に嫌になるほど聞かされている。既にアリサの脳内では今回の結果に対する懲罰が何なのかを予想する事しか出来なかった。

 

 

「次の休暇にちょっと来てほしいんだけど、ヒバリさんも良かったら屋敷に来ない?」

 

「は、はい」

 

 アリサの決心はこの瞬間に崩れ去り、それを見ていたリッカはどうすれば良いのか悩む事となった。ヒバリに関してはアリサの葛藤など知る由もなく、素直にうなずく他無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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