神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第6話 アナグラ

想定外のアラガミの出現はあったものの、コアの取得と試運転を兼ねた事の成果を携えて討伐完了し、屋敷に戻ると珍しくエイジが待っていた。

 普段であれば待つような事は一切ない。装備を外しながら話をしていると今日まで休暇らしく、渡したい物があると告げられていた。

 

 

「兄様、リンドウさんがこれを渡してくれと」

 

 

 エイジの手には外部記憶用のディスク。普段であれば通信かメールで済むはずが、今回は珍しくディスクの手渡し。この時点で何らかの秘匿な内容である事は容易に想像できるが、それをエイジ経由で渡す事に違和感があった。

 肝心の内容についてもエイジはリンドウからは何も知聞かされておらず、そのまま受け取るも恐らくは重要なデータか何かとアタリを付けたのか無明は一旦受け取った。

 

 

「そうか。後で確認しておこう。それよりも休暇は今日までか?」

 

 

 

「はい。今日の夕方にはアナグラに戻る予定です。それと、リンドウさんが連絡してほしいと言ってました」

 

 

 いつもとは明らかに違う雰囲気に手渡されるディスク。どう考えても普通ではなく、ここまで手間をかけるのであればどうひいき目に見た所で碌な事にならない事が確実に予想されていた。

 だからと言って、今の時点では何も出来ない以上、このまま確認してから考えるのが一番手間がかからないと無明は判断していた。

 

 

 

「明日、別件でアナグラに行くからとリンドウにはそう伝えておいてくれ」

 

「分かりました。では明日と言う事も伝えておきます」

 

 

 

 

 まずは確認が先決とし、詳細な内容に関しては後日リンドウに確認すれば良いだけの話。そう考え無明は取得した神機のデータの更新と特務で疲弊していた身体を休ませる事を優先した。

 

 

 

 

 

 翌日には普段であれば中々目にする機会がない人間、無明がアナグラのロビーに居た。知らない人間からすれば一体誰なんだと訝しく見るものも居たが、その視線を何事も無かったかの様に無視し、思い立ったかの様にカウンターに居たヒバリに話しかけた。

 

 

「ヒバリさん、リンドウは今どうしている?」

 

「リンドウさん達第1部隊は現在ミッション中ですが、現状は帰投準備中なので、あと1時間もすれば戻る予定です」

 

「そうか。なら通信で良いから、確認したい事があると伝えておいてくれ。あと支部長は部屋に在室か?」

 

「支部長は在室中ですので、このまま行かれるなら連絡しておきます」

 

 

 その言葉を聞いた無明はリンドウが不在の今その用件を後回しにし、おもむろに支部長室へと出向いた。

 

 

「よく来たね無明君。コアの確認は終わったから、暫くは特務の依頼は無いと思ってくれたまえ。毎回の事とは言え、今回の結果には満足だ」

 

「支部長、今日来たのはコアの件だけではなく、現在の進捗状況の確認も兼ねていますので、この後時間を少し頂けますか?」

 

 

 そう言いながらも、無明は現在の状況の説明をし始めた。

 今のアナグラは最近になってようやく流通出来始めた食糧品の流通状況や今後の予定、食料品以外にも神機における進捗状況の説明を的確にする。

 

 アナグラは完全なアーコロジーとなっている関係で、本部や他の支部からの影響は限定的にな物となっており、その結果として他の支部には無い一定以上の技術水準と住環境が整えられている。

 

 極東支部が他の支部とは決定的に違うのは支部長の政治力も然ることながら、ここ最近になって安定し始めた食糧事情が一番の大きなウエイトを占めていた。

 

 この時代、たかが食糧などと言う人間は何処にもおらず、一支部だけで事実上の完全なる自給自足の体制を作り上げていた。それでは無く、この貴重な食料は場合によっては戦略物資となりうる可能性が非常に高い。

 

 そんな事も影響してか、世界の中でも一番の激戦区でもあると同時に、実力を備えた神機使いの数、外部居住区の生活環境が他と比べても雲泥の差となっているのか、他の支部からは羨望の目で見られる事も多かった。

 

 

「あと、余談ですが先日の件ですが、外部への進捗状況はどうでしょうか?」

 

「他の支部でも概ね好評と言っても良い位だろう。今後も研鑽を積んでくれたまえ。君には期待しているよ」

 

 フェンリルが管轄しているこの世界、一企業が統制した社会主義的な環境でありながらも実際には資本主義の世界となっていた。

 外部居住区だけではなく支部そのものが一つの国家の体をなしている以上、人口の増加やそれに伴う資本の注入など、やるべき事はアラガミの討伐だけではなく、本部が全ての支部を統轄するのは事実上不可能との判断から、各支部にはそれなりの裁量権が与えられていた。

 

 情報がある程度あれば、人間誰もが今以上の環境を求め、各支部に動く事もありうる。そうなると人的な物や資材関係など、ありとあらゆる物が不足し、その結果として外部居住区にすら入る事が出来ない人間があふれ出すと言った事が認識されている為に、それを解消すべく目下その対処に追われている現状がそこにはあった。

 

 無明も対外的な所属は極東支部なので、建前上はアナグラ内に部屋がある事になっているが、現実は外部居住区の外に屋敷を構えそこが居城となっている。

 ゴッドイーターであれば定期的な偏食因子の投与は必要不可欠だが、実際には独自に開発した技術で賄っている現状がある為に、アナグラに顔を出す事は極めて稀だった。

 

 全部を秘匿する事は不可能である以上、ある程度の内容までは支部長にも報告しており公的には極東支部所属でありながら、実際には非公式ながらに独立した立場を取っている。

 本来であればこの様な事実が認められる事は一切ありあえないが、ここまでの大きな技術提供や資材提供をし、これとは別に契約した代償とも言えるが、この件に関しては一部の人間しか知りえない事実だった。

 その為溢れかえった人達の一部が敷地内で生活してる関係上、その呼称が分かりやすく屋敷と称する所以でもあった。

 

 進捗状況の確認の為の支部長との会談を終え、ロビーに戻ると目的の時間にはまだ遠いのか、第1部隊は未だ帰還していない。ロビーを見渡せば他の部隊の人間や職員が各々のすべき事に専念しているた。

 

 無明自身、暇と言う物を嫌い常に何かをしてる事好むも、何か研究出来る物は何もなく、アナグラ内でやれる事は殆どない。この僅かな時間の隙間を埋めるべく、少し思案した結果、妙案を思いついた。

 

 

「ヒバリさん、この後何か予定はあるか?」

 

 何かを思い付きカウンターにいた業務中だったヒバリに声をかける。

 

 

「いえ、第1部隊の帰投が済めば今日はフリーです。どうかされましたか?」

 

 

「そうか。終わったならこの後…」

 

 

「ちょっと待った!」

 

 ヒバリと話をしていた無明の会話に割り込む形で、後ろから全力で走りながら叫び声が聞こえてくる。

 

 

「ヒバリちゃんとは俺がこの後デートの…」

 

「そんな約束はしていません!」

 

 叫んだ相手は第2部隊隊長の大森タツミその人。ミッションが終わり意気揚々とロビーにやってきた際に楽しげに話しかけられたヒバリを見て突進してくる。

 他の神機使いや職員達には毎度の光景だが、話しかけている人物に面識が無く、これからどんな修羅場かとある意味期待した目で当事者には気付かれない様に注目していた。

 

 

「おまえなぁ?っと無明なのか?どうしたんだ今日は?」

 

 慌てて来たかと思えば、以前に挨拶された人物である無明。リンドウからは第6部隊隊長だと告げられてはいたものの、公的には榊が言う様にそんな部隊は存在しておらず、アナグラで見かける事すら殆ど無い。

 本当にそうなのか確認すら出来なかった人物が目の前に居る。

 本当に実在しているのか、アナグラ七不思議的な感覚にさえなりつつあるも、目の前に居れば疑問しか湧かなかった。

 

 

「タツミか。ヒバリさんにデートの誘いなんかじゃないから安心しろ。ちょっとお願いしたい事があったから話してただけだ」

 

 いくら素性が良いとは言え、食材は作るだけではなく食べる事で本当の評価が第一と考える無明。時間つぶしに新作のレシピを作る事を考えたが、試食する人間が身近にいないので単純に目の前に居たヒバリに頼む事にしただけだった。

 

「無明さん。お願いってなんでしょうか?」

 

「ヒバリさんは甘い物は好きか?手持ちのストックで思いついた物があったから、ちょと作ろうかと思ってな」

 

「甘い物は好きですが、一体何を?」

 

「それは出来てからのお楽しみだから、これから時間無いか?」

 

「いえ、そんな事でしたら是非ともお願いします」

 

 

 笑顔で応えるヒバリを尻目にタツミが撃沈された瞬間でもあった。事実まだ帰還に時間がかかるのであれば労いついでに作るのも悪くは無い。そう判断した結果でもあった。

 

 新作と言う名の食べ物を別室で作っていると、辺り一面に甘い匂いが漂い始めていた。匂いに引き寄せられた者は一体何が作られているのだろうか?そんな疑問を解消すべく、その場に居た人間の興味はそこに集中してた。

 

普段であればそこに有るはずの無い匂い。その原因ともなるも物を持ってきたのは今では意外と貴重な生クリームと、試作品として栽培されている果物をふんだんに使ったケーキに、既に流通が決定している新鮮な果物を乗せたタルトを幾つか持って出て来た。

 

 

「折角だ。みんなも遠慮なく食べてくれ」

 

 そのやり取りを遠くから見守っていたのか、そう言った瞬間にどこからともなく女性の神機使いや職員達がやってきた。

 普段では配給品でお菓子を作るにしても材料やコストの兼ね合いで中々作れず、またスポンジやタルト台は作るとなると中々手間がかかる。

 

 物珍しさだけではなく、素材を十分に生かされたデザートはこのご時世では中々お目にかかる機会は例え神機使いと言えど少なかった。

 

 気が付けばいくつかあったはずのデザート類はあっと言う間に無くなっている。

 結果については聞く必要は無いとばかりに、各々の皿には分けられたデザートが載っていた。

 当初は時間つぶしの為に作られた物だったが、まさか帰投後にこんな物が用意されているとは思ってもおらず、こんなシチュエーションが就業終わりの女性陣にはちょっとした憩いの時間となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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