神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝18話 (第65話)可能性

「まさかとは思うが、これはアラガミなのか?」

 

「見た目はともかく、これはそうだろうな。ただし、これを生きていると表現するには問題があるのは間違いない。可能性としては人造アラガミの過程と考えるのが正解かもしれないな」

 

「でも、そんな事誰が一体?」

 

「今回の事案の首謀者か、もしくはその側近レベルの科学者がいるのかもしれない。人造アラガミは既に実戦に投与されているからな」

 

 無明の指す人造アラガミ。特異点をガードする存在として作られた アルダノーヴァは今は亡き前支部長でもあったヨハネス・フォン・シックザールが製造していたものだった。

 現在の所そのアラガミは極東支部の中でも極秘扱いとなっており、これが表に出ればあらゆる面で大きな混乱を招く事になる。その為にこの情報は極秘として情報統制されており、今もなお一部の人間以外は何も知らないままだった。

 

 

「可能性としては当時のデータをどこからか入手したのか、それとも当時その研究をしていた人間が今もなお続けているかのどちらかだろう。これに関しては今回の事案が解決次第、闇に葬り去るのが懸命だろうな」

 

「確かにこんな物が出たんなら世間に対するインパクトは大きすぎるだろうな。にしても誰かは知らないが厄介な物を作ってくれたもんだぜ」

 

「兄様、これはどうしますか?」

 

「このままには出来ない以上、この場で廃棄だ。今回の任務に追加としてこのデータの全抹消も追加だ」

 

 世の中に絶対と言う言葉が無いのは誰でも理解しているが、今回の内容に関しては明らかに処分しなければ、今後このサンプルとデータがあれば同じようなケースに出くわす可能性は極めて高かった。

 また、何らかの過程の中で表に公表するにはセンセーショナル過ぎた。人類を守護すべき者が敵対する物を製造している事実はあまりに大きすぎる。これまでに信頼されていた物が一気にひっくり返されるとなれば、いかに無明と言えど、対処は不可能だった。

 一番はアリサの救出だが、二番手としてこのデータを廃棄する事を改めて確認し、次へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの場所から囚われてからどれ位の時間が経過したのだろうか?拘束されたアリサは既に時間の概念を失いつつあった。

 外部の情報や外の景色が見えればまだ体内時計が狂っていても修正はできるが、現状は何も確認する事も出来ず、薄暗い部屋に入れられた状態がアリサを精神的にも追い詰める。

 偏食因子の投与もギリギリまで投与されず、食事に至っては粗末な物が時間を空けて僅かに出された程度だった。

 本来であれば特定の意識が向けられているはずのアリサに、ここまで杜撰な対応をする事は有り得ない。大車の心情と思考が自分に向けられている事をアリサは知る由も無かった。このままでは拙いとは考えるも、この場からの脱出が出来ない以上、もはやその心境は諦めにも近い物が漂いはじめていた。

 

 大車はアリサの動向をモニターで常時確認していた。目の前に行けば意識がそこに向いてしまう以上、こちらが思うような結果を得るには難しいと判断し、その為に次なる一手に出ていた。

 本来であれば難しいのだが、アリサ自身気が付いていない部分。深層心理でのトラウマは完全に克服されておらず、またそれが決定的な隙として付け込む事ができる大きな欠陥となっていた。

 恐らくアリサ自身がまだ許していない事。そしてそれが引き金となったあの襲撃が全てを物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両親の襲撃から時間が空いた頃に、突如現れそのまま新型神機使いとして所属していた頃に出会った一人の少女オレーシャ・ユーリエヴナ・バザロヴァの存在だった。

 両親がアラガミの目の前で食べられてから以降、精神的な疾患の治療と称し、今後は障害になるであろう人間の処分をさせる為に、洗脳じみたマインドコントロールがひっそりと施されていた。

 当初は大車の治療方針に異を唱える者もいたが、マインドコントロール下における、新たな記憶の上書きにより傍から見れば症状は時間と共に改善されいて居る様にも思われた結果、誰も口を出す事も出来ない事を逆手に取る。

 外部からは確認しようにもその手段が無い為に、当時、大車の主張はそのまま認められた事もあり、アリサの記憶の中に時限爆弾とも思われる様に記憶をコントロールしていた。

 本来であればこのまま神機使いとして使命を全うし、来るべき時に秘められた任務をこなす事が出来るマリオネットの様に扱う事が決まっていた。そんな状況下においてオレーシャはアリサを親しい友人として同じ任務に励み、時として姉とも家族同然の付き合いをして過ごす様になっていた。

 

 一定の環境下にあれば本来マインドコントロールが解ける事は無い。にも関わらず、オレーシャはアリサ自身が気が付かない心の壁をいとも簡単に乗り越え、幼いころからの親しい友人とも取れる様な付き合いをしていた。

 本来であれば、この時点で大車はマインドコントロールが解ける事を懸念し、引き剥がす事を優先するはずだった。しかしながら、大車はそれをする事が出来なかった。

 まだ少女でもあるアリサに目を奪われアリサ自身が持っている本来の美貌を垣間見た時だった。本来であれば駒としか思えないはずのアリサに劣情を催し、手に入れたい気持ちが元で変質的な衝動に襲われる事になった。

 

 それから幾日かが過ぎ、このままでは今まで自身が施してきた物が全て水泡に帰すのでは思われていた時だった。本来であれば任務対象外のアラガミと遭遇した場合、速やかに撤退するか迎撃するが、その時は不運が重なり、アリサとオレーシャしかその場には居なかった。

 このままでは全滅する可能性が高く、応援を待つ余裕も無かった事もあり、オレーシャは自ら囮となってアリサを逃がす事に成功した。

 その後は捜索オレーシャの捜索にあたるも、結果的には捕喰されたと結論付けされ、そのまま捜索は打ち切られていた。

 その事実を知ったアリサは自分自身を責め、以前の状況に戻ろうとした際にオレーシャの姉でもあるリディアにアリサの為だと説得し、オレーシャの記憶を消す事にした。この時点で表向きにはアリサには何の非も無く、またこの事実を知る当事者にも緘口令が敷かれる事となり事態は収束していた。

 

 本来であればこの時点でアリサの記憶には何も無いはずだった。しかしながら、今までの人生経験の中で感じていた幸福感やその感情までもが消失した訳ではなく、単に記憶の深層に封じ込んでいるにしか過ぎなかった。

 アリサ自身が思い出すのではなく、時として夢に出たりと完全に忘れ去っている訳ではなかった。

 端的な記憶の中で全部を知る事は不可能でもあり、また第三者がそんな事実を確認する事は出来ない。そんな得体の知れない感情の中で、アリサは心因的にリディアを次第に避ける様になり、結果として大車と共に極東支部へと異動する事になっていた。

 

 

「アリサ、君の記憶の底にある物を引きずり出させてもらうよ。その時の君の顔が今から楽しみだよ」

 

 大車はアリサ自身を手に入れる為に当時のマインドコントロールの状況を再び利用し、そして自分の物にしようと企んでいた。

 その為には今の状況を良しとはせず、まずは精神の衰弱をさせ、その後に封印していた記憶を蘇らせる。

 自身の欲望の為に再びアリサをコントロールしようと企んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無明達が潜入し、どれ位の時間が経過したのか、それを確認する術は何も無い。本来であれば、潜入の際には単独での行動が望ましいが、先ほどの培養液が入って居ると予想されたケースの中にはアラガミとも人間とも思えない様な物がサンプルか、標本の如き状態で保存されていた。

 アラガミはオラクル細胞から発生し、捕喰を繰り返す事で進化を遂げる事はゴッドイーターであれば誰もが知っていた。しかし、この中にあったものはその常識を覆し本来のアラガミとは違った異形の物とも思える物だった。

 

 

「まさかとは思ったが……これを考えた人間は恐らく、アラガミと人間を融合させようとしてるのだろう。これはその結果と判断した方が間違いないな」

 

「なあ無明、そんな事出来るのか?」

 

「理論上は可能だ。オラクル細胞が持つ本能とも言うべき部分を制御する事が出来ればが前提だ。我々ゴッドイーターも理論上は同じでしかない。ただ、対抗する細胞を常時摂取するからこそ今が保たれているに過ぎない。ただ、この研究に関してはそれよりももっと根本的な所が違うのかもしれん。

 従来のアラガミならばコア剥離と同時に霧散するが、強固な個体であれば暫くは形が残る。その際に細胞を摂取して培養したんだろう」

 

「そんな事は可能なんですか?」

 

「エイジ、今俺たちが潜入している所はどこだ?」

 

 極東支部の交戦地域に中でもここエイジス島は一般的な場所と比べると、明らかに個体の強さが際立ったアラガミの出現率は極めて高かった。本来であれば人工建造物に寄ってくる可能性は低いが、ここには本来であれば長期間に耐える事が出来る為のオラクルリソースが保存され、そして激闘とも言えたアルダーノヴァとの戦いの後に飛び去ったノヴァの残滓がここにはまだ残されている。

 その結果、餌に群がる動物の様に色んなアラガミがここに来る。弱肉強食と言える生存競争の中で、ここに来るアラガミは自然と高位の存在となる事が多かった。

 

 

「まさか、ここでの討伐後の細胞を使ったって事ですか?」

 

「そう考えるのが無難だな。そうなると間接的に協力していると言われれば、そうとしか答えようが無い。だが、これはまだ推測の域を出ていない以上、ハッキリとした証拠が無ければ真実は見えてこないだろう」

 

「ま、何にせよ早いとこアリサを救出して、その後でここのデータは廃棄で良いんじゃねえのか?」

 

「それが一番だな。まずは今後の事も踏まえて再度確認する必要がある。ツバキさん、さっきの話は聞いていたか?」

 

《ああ、聞いていたさ。しかし、この事実に関しては私が言う事ではないが、確実に処分しないと、後々の禍根になりかねん。ましてやアラガミの残滓で作りましたでは、対応する事すら出来ないだろう。この件については博士にも連絡しておくが、処分の方法は無明に一任する》

 

 ゴッドイーターと言えど、清廉潔白だけでやって来た訳ではない。ましてや今回のメンバーに関しては特務と言う名での任務をこなしている以上、否定も肯定もする事は無かった。

 

 ただあるのは目の前にある事だけが真実。そう考える事で、この先へと急ぐ事を決めていた。

 

 

 

 

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