神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝23話 (第70話)始末

「馬鹿な!ツクヨミが倒されただと。あの最高傑作が……」

 

 モニターごしでの戦いを見ていた大車は当初はこのままならばと笑みを浮かべていたが、最終局面に入ってからは徐々に笑みが消え去っていた。

 モニター越しに見る戦局が劣勢になりつつあったのは薄々気が付いていたが、まさかの結果にそれ以上の言葉を発する事を忘れていた。

 自分の渾身とも言える研究の成果でもあるツクヨミの能力は、大車が知っているアラガミの中でも群を抜くほどの能力を有している。誰がここまで来ているのかは分からないが、まさかここまで戦闘能力が高いとは判断できずその油断が結果的には敗北を招いていた。

 自身の研究だけでなく、アリサの事も考えると、最早この場所に留まるのは危険だと判断したのか、すぐさま移動する事を決めアリサの元へと向かい出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《無明、そこからの入り口を真っ直ぐ向かうんだ。恐らくアリサは突き当りの部屋にいるはずだ》

 

「ツバキさん。今回の一連の黒幕は大車だ。アリサの保護と同時にやつも葬り去る。今の戦いを見れば恐らくは逃げるはずだ。ここからの逃走が想定されるルートを教えてくれ」

 

 ここまで侵入した時点で、既に大車の戦力となっていたテロ組織は壊滅している。

 腐ってもフェンリルの研究者として籍があったのであれば、一般人とゴッドイーターの戦力差がどれほどの物なのかはよく理解している。だからこそこの後の行動がどうなるのかは容易に予測出来ていた。

 

 

《そこから真っ直ぐ30メートル程進んだ先に右手に分かりにくいが小さなドアがある。恐らくはそこから外部への脱出ルートが作られているから、可能性があるならそこだろう。始末するなら急ぐんだ。一旦外に出ると捜索は不可能になる》

 

 打てば響くかの様なツバキのナビゲートにリンドウは表情には出さないが驚いていた。リンドウ自身がここに来る際に初めて知った内容ではあったが、姉のツバキは以前からこんな事に何度も遭遇していたのだろうと思わせる程に、その判断に淀みが一切無かった。

 古参として極東支部を支えていたが、その暗部にまで足を運んでいない事を知ったリンドウは僅かに悔やんだ。ヨハネス支部長の終末捕喰の際にその暗部を知ったつもりではあったが、現在進行形となっているこの状況は当時の事がまだ温いとまで思えてしまう。なぜ無明が極東の表舞台から去ったのかがおぼろげながらに見えた様な気がしていた。言いたいことは山の様にあるものの、今はそんな事に時間を費やすつもりは無いとばかりに目的地まで走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらは一体誰なんだ!俺の計画が台無しだ!必ず始末する!」

 

 激しい憤りを持ちながらも、大車は今後の事を素早く考え行動に移していた。今までの計画に何の不備もなく完遂できていた筈が一転し、今はこれからの事を考えつつひたすら目的地へと走っていた。

 アリサがいる部屋まではあと僅か。ここから一旦離れ、巻き返しを図るつもりだったが、その希望は脆くも崩れていた。先ほどのツクヨミの戦いからここまで一気に移動出来るとは想定していなかった大車の表情は驚愕とも焦燥とも取れる様な状態にも関わらず、無意識の内に思考とは違う行動を取っていた。

 

 

「大車!そこまでだ。これ以上の行動を起こすならここで終わらせるぞ」

 

 背後から無明の無慈悲とも言える言葉に思考の部分は怯んでいたが、体は無意識の内に全身に力が入るかのような、何か内なる物を体外に出すかの様な動きを見せていた。まるでこれが最終決戦だと言わんばかりの行動の様に思える。

 

 

「まさか貴様たちがこんなに早く動くとは計算外だった。だが、ここで終わりだ。私はこれから新世界の神として君臨する。貴様らゴッドイーターには退場願おう」

 

 愉悦に浸るその表情と共に、その一言がキッカケとなったのか大車の身体の動きが不意に止まり、やがて大きく変貌し始めていた。メキメキと音をたてながら皮膚が硬質化していくと同時に全身を覆うかの様な装甲じみた体表。その背中からはシユウを連想させるかの様な翼手とも取れる大きな腕が鋭い爪と共に生えていた。

 

 

「もう人間を超えた存在となった。これから貴様たちを葬り去りこの実力を世界に示す」

 

 そう言い放つと同時に翼手から大きな光弾が何発も放たれる。放たれた光弾はアラガミが放つそれと大差無かったのか、無明たちは躱しながら距離を置き臨戦態勢に入っていた。先ほどのツクヨミの戦いからの連戦となり、見た目以上に消耗は激しい。だかと言って、このまま見逃すつもりは3人には毛頭無かった。

 

 

「大車!アリサはどこへやった!」

 

 臨戦態勢の中で叫び声と同時にエイジが斬りかかる。裂帛の気合と共に白刃が大車に向かう。何もしなければ一刀両断の内に斬り捨てる程の斬撃だった。

 胸中の思いを出しながらもエイジは冷静に長引かせるつもりも無く一刀両断で斬り捨てるはずだったが、大車の翼手がその斬撃を阻む。防がれた一瞬こそは驚くも、今までの戦いから相手を格下として見下ろす様な事は一度もしていない。

 慢心は自身を窮地へと追いやる事は自身の身体に嫌と言うほど刻まれている。その結果こちらの想定外の結果が出はしたが、エイジは動揺する事は何も無かった。

 

 

「おいおいマジかよ。あの斬撃を防ぐなんておかしくねえか?」

 

「おそらく、大車はアラガミとの融合を成功させたのかもしれない。だたし、完全に制御下に置く事ができているかは疑問だが」

 

「どう言う意味だ?」

 

「言葉の通りだ」

 

 エイジが斬りかかっている間はリンドウと無明は何も手出しをしていなかった。場所からすれば通路の途中である事と、無明の中で一つの仮定を出し、その回答を見るかの様にどこか達観した様な目でエイジ達の戦いを見ていた。

 本来であれば元人間とは言えアラガミ相手であれば全員で戦う方が効率と安全面からすれば一番とも取れる。そんな事はこの場所にいる無明やリンドウが一番良く分かっていた。

 慢心は死を招く。極東では当たり前の話にも関わらず、今のこの場にはエイジだけが大車と対峙していた。

 

「貴様ら馬鹿にするのもいい加減にしろ。こいつを殺した後は貴様らも同じように殺す」

 

「貴様如きにできるとは思わん」

 

 それが当然だと言う無明の言葉に焦りは感じなかった。3人ではなく、エイジ一人の戦いである事に大車は憤りを隠す事は出来ない。本来であればリンドウも真っ先に加勢するつもりだったが、何故か無明に止められていた。

 

 

「エイジ一人で大丈夫なのか?」

 

「今のあいつなら大丈夫だろう。こちらとしても本当の事を言えば今回の任務は何かと好都合だったからな。細かい事は終わってから説明する。今はこの戦いを見ていれば良い。いざとなれば加勢する」

 

 無明は何か考えがあるようだが、今のリンドウには一体何を考えているのか見当もつかない。リンドウもエイジが負けるとは微塵も思っていないが最悪は介入する事だけを確認し今の戦いを静観する事を決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどの広場に比べればやや大きめの通路での戦いは何かと制限が発生する。一番の問題は大きな回避行動が取れず、仮に出来たとしても紙一重で避ける事が不可避とも取れる戦いを余儀なくされている点だった。

 一見するとエイジには不利な局面とも取れるが現実はそうでは無かった。狭い場所においては大柄な体は動きが制限される。

 その結果、それに見合った攻撃しか繰り出せず今回はエイジではなくむしろ大車の方が制限されていた。仮に戦い慣れていればこんな局面であっても打破できるが、大車は身体能力こそ大きいが戦闘面においてはかなり劣っている。

 大車に限った話ではないが、ゴッドイーターでさえも特に新人から中堅になる一歩手前の人間が必ずと言って良い程に陥るのと奇しくも同じ理由がそこにはあった。

 

 

『戦術と戦略』

 

 

 言葉としては然したる程の差は何も無い。しかしながら、今の現状は完全に戦略ミスと言われても否定する事が出来ない部分があった。この場においての戦術は不必要だが、戦略は必須事項。

 大きな力の行使はそれに相応しい場面でしか行使できず、無理に行使しようとすれば今度は周囲がそれを拒んでしまう。その結果として今は自身の能力を完全に使いこなす事は出来ない。単純でがあるがそこに気が付かない時点で決着は事実上ついている。

 戦略を考えれば至極当然の結果がそこには存在していた。

 

 

「なあ、エイジの動きだけど、何となくお前の動きに似ている気がするんだが、あれは教えたのか?」

 

「一々そんな指導はしない。恐らく今回の任務で培った動きがそれを体現しているだけだ」

 

 リンドウが驚くのは無理も無かった。狭い場所での戦闘は敵味方関係なく同じ条件下の元での戦闘となる。この場所になったのは全くの偶然だが、結果的には大車の動きは封じられていた。

 いくら翼手があろうが壁を壊しながらでは破壊力もスピードも通常よりも大幅に低下する。その結果、攻撃の方法や軌道がハッキリと確認でき回避にせよ防ぐにせよそれなりの戦闘経験者であれば容易にこなす事が出来ていた。

 互いの行動を見れば一目瞭然と言える程に対比している。その結果がまさに今の戦闘状況に表れていた。

 

 

「貴様ごときが蠅の様にウロチョロするな」

 

 攻撃の殆どが回避され、偶に当たる際には盾で確実防がれる。狭い中での戦いを経験した事が無い人間からすれば近距離ににも関わらず攻撃が一度も当たらないのはストレス以外の何物でも無く、それは大車にとっても例外では無かった。

 

 

「戯言はそれだけか?」

 

 エイジの視線は既にゴッドイーターとは一線を超えていた。本来であればここまで怒りを表に出す事は任務中では有り得ない。怒りに我を忘れれば待っているのは死のみ。そんな戦いの鉄則を破ってまでも目の前に居る大車に殺意だけを向けていた。

 

 

「貴様!」

 

 一瞬とも取れる僅かな隙。翼手の爪を槍の様にエイジに向かって突きつける。完全に伸びきったそれは目の前に大きな隙となって存在していた。

 攻撃の瞬間を狙いエイジは一気に懐に潜り込む事に成功し、その勢いで背中から生えた翼手の一つをいとも簡単に斬り落とす。

 斬られた瞬間は一体何が起きたのか大車が理解するには少しだけ時間を要していた。

大車の目の前には今さっきまで背中に合ったはずの翼手がゴロリと横たわっている。

 自身の目で確認し、ようやく理解が追い付き始めていた。

 

 

「所詮はハリボテの力をかざして神気取りなんてつまらない話だ」

 

 今まで任務でいたはずのエイジの口調が明らかに変化している。今まで何度も任務に出ていたリンドウは驚きを隠す事無くこの戦いを見ていた。

 今まで見ていたのはエイジの一部にしか過ぎない。目の前で戦っているのは一人のゴッドイーターではなく、ただ一人の人間だった。

 しかしその戦いはまるで大人と子供以上に違っていた。ほぼ全ての攻撃を往なすと同時に、往なせないと判断した攻撃は完全に回避する。時折見せるその表情と共に出される一撃はこれまでの物とは一線を引いていた。

 今は一体誰と何のために戦っているかすら危うい部分。それほどまでに今のエイジは殺伐とした雰囲気と同時にドス黒い殺意を身に纏っていた。

 

 

「そろそろ終わりだ」

 

 短い一言と同時に目の前にいたはずのエイジの姿が忽然と消えたと同時に再び大車に白刃が襲い掛かる。

 同じ攻撃であればいくら素人とは言え回避や防御に回ることが出来る。事実、最初の一撃を防いでいた大車はその事を忘れてはいなかった。右下からの切り上げを察知し、硬質化した腕で防ぐべく右腕を出したはずだった。大車の予想は大きく外れ、自身の身体に大きな斬撃と共に血飛沫が舞う。

 防いだはずの腕は斬られていない。斬撃の速度が反射速度を上回り、結果的には斬りつける事に成功していた。斬りあがった刃はそのままの勢いで再び斬り降ろされる。

 最早斬撃の速度に大車はついていく事が出来ず、エイジは先ほどの切り上げから更に一歩踏み込んでいた為に深手を負わす事に成功していた。

 

 

「新世界の神に対して……」

 

 大車はそれ以上の言葉を発する事が出来なかった。斬り捨てた後に首に一筋の刃が走る。神速の一撃は本人が気が付く前に首と胴体を分離していた。この時点で大車は絶命し、ここで漸く戦いの幕が降ろされた。

 

 

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