神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝36話 (第83話)それぞれの考え

 帰投間際に乱入された事も踏まえ、改めてブリーフィングが開始されていた。常在戦場は当然ながらどんな状況下にも当てはまる。新人が実際に体験した事で今後の反省点が幾つか見られていた。

 今まで教導に参加していたものの、一向に完成形が見えず何となく訓練していた者にまで話が伝わっていたのか、結果的には今まで以上に訓練に熱が入る事になった。

 

 実際の状況を確認していたツバキの目からすれば、色んな意味で今回の出来事は今後の指導に対する良いケースとなっていた。このままでは教導の効率が悪いのではと思い、訓練の内容をいつ頃どのタイミングで変更すべき事なのかを検討していた矢先の出来事。

 戦闘時における実体験は何度も言葉にするよりも確実に意味が伝わる。自分の命と直結する事実に、これまで真剣さが足りないと思われた一部の人間は真剣に取り組む様に変化していた。嫌が応にも自分がやっている事が理解出来れば、それ以上の説明は不要となる。今後はそれも活用しようと考え、訓練のメニューはそのまま据え置く事にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり刀身の威力は違うよ。剃刀で斬った様に断面が綺麗だった」

 

「あれは、ここで調整したんだ。本来の性能をなるべく使わない様にするなら、本体の能力を底上げする方向でやるしかないからな」

 

 これまでと一線を引く力に、何かしらのチューニングが施されているだろうとは思うも、エイジとて神機について完全に理解している訳では無い。だとすれば当事者から聞くのが一番だと判断したのか、今はナオヤに疑問をぶつけるしかなかった。

 

 

「何か特別な事でもしたの?」

 

「簡単に言えば単分子構造レベルまで切っ先から調整してあるから、切れ味はある意味今までとは比べ物にならないはずなんだ。ただし、長時間使用すれば切れ味は確実に鈍るから、そこからは従来の刀身の性能が発揮される事になる。

 あとは、兄貴からも言われたんだが、この神機の本来の使い方は特殊なんだと思う。開発段階でも兄貴は実装して戦闘しているからその危険性は理解しているんだ。ただ、俺たちが考えていた方法とはアプローチが違う。多分そう言う事なんだろう」

 

「で、そのプローチってどんなだ?」

 

「恐らくだが、兄貴の戦闘スタイルとお前の戦闘スタイルは似ているから、弱点に対する一撃必殺がメインなのかもしれない。懐に潜り込めれば、目の前に弱点があればそこに突き出すだけだから、ある意味人を選ぶんだろうな」

 

 確認した際に気になる一言を言われ、今までの状況や戦闘スタイルを考慮した結果でもあった。神機はそれぞの戦い方も参考にしながら性能を決めていく。幾ら見た目が同じだったとしても使い手の特徴を活かす事が出来なければ、ただの鈍刀でしかない。その結果、本人以外には使いにくい状況が生み出される為に、ベテランクラスの神機は皆がオンリーワンとも言える状態でもあった。

 

 

「あとは色んなタイプの神機使いと任務に出ると分かりやすいかもな。今はハンニバル以外での討伐任務は第1部隊のメンバーは固定されていないんだよな?だったら丁度良いかもな」

 

「そうなんだ……違うタイプねぇ……、手さぐりでやっていくしか無さそうだね」

 

 今以上に違うタイプのメンバーとミッションを重ねる事で、今まで以上の攻撃のバリエーションを増やす。新たな力の探求とばかりにエイジは今以上にミッションに励む事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カノンさん、今日の予定ってどうなっていますか?」

 

「今日ですか?今日は定期巡回がメインで、幾つか細かいミッションだった覚えがありますけど」

 

「良かったら、僕も一緒に参加しても大丈夫ですか?」

 

 穏やかな時間が流れている頃、カノンがこれから定期巡回があるからとロビーでタツミと話をしていた。防衛任務は襲撃された際に緊急出動するのは当たり前だが、それ以外にも事前に被害が出ない様にアナグラ周辺の定期巡回が基本の任務として出されている。

 討伐が第一ではない事もあってか、割と緊急性は低く通常であればツーマンセルでの行動が義務付けられていた。

 

 

「私は良いんですが、タツミさんは……」

 

「俺はどっちでも良いよ。エイジがやるなら戦力は高いだろうけど……でも、第1部隊は大丈夫なのか?」

 

 タツミの言葉はある意味では当然だった。現在の所、対ハンニバルの戦闘方法が完全に確立されていない事もあり、第1部隊のメンバーは常にスクランブル出来る体制となっている。

 がしかし、その間は何もしなくても良い訳では無く、結果的には他のミッションもこなしている現状がそこにはあった。

 

 

「こっちは大丈夫です。それより、参加は良いんですか?」

 

「いや、第1部隊の運用に問題ないならこっちは大丈夫だけど」

 

「カノンさん、良いですか?」

 

 これから行く任務についてタツミが許可を出した以上、カノンとしても断る理由は何も無かった。タツミには申し訳ないが、戦闘力の差は大きく、万が一大型種を発見しても、援軍を呼ぶ前に殲滅できる可能性があるのであれば心強い以外の何物でも無かった。

 

 

「はい。ぜひお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか目処が立ちそうだね。これなら増殖を抑える事が出来るから、ある意味安心して任務をこなせるんじゃないかな」

 

「確かにそうかもしれません。ただ、強度が変わる訳では無く、通常と同じになったと考えた方が良いのかもしれませんが」

 

「相変わらず、君は戦闘に関しては現実的だね。今までのままだと接触禁忌種の扱いだったのが、少しは緩和出来る可能性が高いんだけどね」

 

 ハンニバルのコア解析が完了し、漸く一定水準での討伐が可能な所まで来ることが榊と無明の研究の結果で可能となっていた。苦労して討伐したはずのアラガミが、何事も無かったかの様に討伐後に復活するとなれば話は大きく変わる。ましてや、初見での討伐の際に第1部隊長が負傷した事実はアナグラでは周知の事実となっている以上、早急な手段の実用化のメドはアナグラにとっても明るい兆しとなっていた。

 

 

「無明、とりあえずは討伐後は心配する必要が無くなっただけでも大きな進歩だと思うが、それだけじゃ不服なのか?」

 

「そんな事は心配していない。ただ、新種が出れば今後は堕天種、もしくはその亜種が出る可能性が高い以上、最低限の準備だけでは心もとないと言った方が正解なのかもしれない」

 

 アナグラでは発注される事は少ないが、事実、非公式に接触禁忌種の討伐を幾つもこなしている人間の発言には重みがあった。

 アナグラが公式に確認する前に討伐がなされている関係上、本来の内容を知る術は無いが、事実として極東支部のコアの保管所には幾つもの接触禁忌種のコアやデータが存在している。それは今に始まった話では無い為に誰も気が付く事は無いが、誰かが討伐任務を引き受ない事にはそのデータの存在はあり得ない。

 前支部長の時代から特務としての内容にも踏み込んだ話になる以上、詳細については榊だけではなくツバキも知り得ない事だった。

 

 

「お前がそこまで警戒しているなら、今後も慢心する事は無いだろう。そう言えばエイジの神機の件だが、予想以上の成果らしいな」

 

「あれは2人で試行錯誤しながらやっている事が漸く目に見える形になりつつあるんだろう。そろそろ整備だけじゃなく、開発の事も自分でやれる様にならないと、今後は厳しいからな」

 

「そうだな……」

 

 屋敷の当主としての見解ではなく、そこには家族を見守る親の様な雰囲気があった。最近はツバキも屋敷に滞在する事が多くなったせいか、何となくだがその状況を思い浮かべる事が出来ていた。

 

 

「あと、一つ気になったのがコアの解析の際に見慣れた物があったんだけど、果たしてそれが正解なのか間違いなのかを確認する為には改めてコアの確保が必要になるね」

 

「博士、それは一体?」

 

「人間のDNA塩基配列だよ。正確には神機使いのが前に付くけどね。多分、僕よりも無明君の方がよく知っているだろうね」

 

 何気に重大発言が出た事でツバキも驚きを隠しきれなかったが、神機使いのDNAの配列と酷似しているのであれば、その正体は簡単に想像が出来る。榊としては一研究者としての考えに基づく考察だが、現場管理のツバキにとっては決して気持ちの良い物では無かった。そして、その答えは目の前の男が一番良く知っていた。

 

 

「榊博士の言う通り、あれはゴッドイーターがアラガミ化しきったなれの果てだろう。何よりもリンドウの右腕と今回のコアのDNAが酷似している以上、可能性を否定する事は出来ない。実際には見れば分かるはずだ。だが、そこまで行けば最早介錯のレベルはとうの前に超えている以上、討伐任務であっても単なるアラガミにしかすぎない」

 

 ラボには無明の無慈悲とも言える言葉だけがそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒバリさん、エイジを見かけませんでしたか?」

 

「エイジさんは現在、定期巡回の任務についていますので、もう暫くすれば戻るはずですよ」

 

「そうだったんですか。ありがとうございます」

 

「そう言えば、最近はアリサさん、エイジさんと一緒じゃないケースが多いですね。何かあったんですか?」

 

 何気に言ったはずの一言ではあったが、どこかアリサが沈んでいる様にも見えた。アリサとエイジの仲はヒバリが一番良く知っている。だからこそ表情に表れている感情がヒバリには理解できなかった。

 

 

「ヒバリさん、タツミさんとは最近はどうなんですか?」

 

 話をしながらも手を休める事無く動かしていたはずが、突如その動きが止まる。今は業務中なので、こんな話をする事は殆どない。そんな事はアリサも分かっているはずだったが、そんな事に今は囚われている暇は無かった。

 

 

「わ、私の事ですか?今は業務中なのでそんな話は終業後にしてほしいんですが」

 

 一瞬だけ動揺したものの、持前のポーカーフェイスで何事も無かったかの様にアリサに告げる。今は業務中なので関係ない事は話さないと意思表示をする事で、アリサも漸く何を口走ったんだと言う事に気が付いた。

 

 

「すみません。業務終了後に改めて話をしたいんですが、都合は良いですか?」

 

「私で良ければ大丈夫ですよ。終わりましたら声をかけますね」

 

 

 

 

 

 

 

 ヒバリの業務時間が終わる頃、まるで待ち構えていたかの様にアリサが待っていた。男女であればこれからデートではとの推測も出来るが、女同士ではデートでは無い事だけは間違いでは無い。業務の交代に関する時間帯。ロビーでの引継ぎもあってか、他人に構う暇は無いとばかりに雑多な状況が続いていた。

 

 

「アリサさん、お待たせしました」

 

 待ち合わせとばかりにアリサの元に駆け寄ろうとすると、何かの情報を受けたのか、交代したはずのオペレーターが突如として慌ただしく端末を叩き出す。ヒバリは交代したばかりにも関わらず呼び止められていた。

 

 

「ヒバリさん。緊急の用件ですが、内容が内容なので業務外で申し訳ありませんが変わっていただけますか?」

 

 交代したばかりで既に事務的な手続きは完了している。にも関わらず、ヒバリが指名される事で、何らかの緊急任務が入った事だけは予想されていた。ヒバリが変わったと同時にアリサの端末にも連絡が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジさんとの任務だと誤射が全く無いので、自分の腕が上がった様に思えるんです」

 

 定期巡回を二人でしていた物の、今の所アラガミの気配は無くこのまま何も問題が起こる様な事は無かった。いくら極東とは言え、頻繁にアラガミと遭遇する訳ではない。仮に居ても小型種が割と多く、その結果として簡単な内容と推測できればそのまま討伐となる事が多かった。

 今後の事も考え、今は固定されていないメンバーとの任務に入る事でエイジは更なる技術の向上とばかりに、今まで以上に多くの任務についていた。

 

 

「それはカノンさんの動きが良かったんですよ」

 

「そうなんですかね。私自慢じゃありませんが、誤射が一度も無かったミッションは無いんです。今日は一度も無かったので嬉しいんです」

 

 極東の誤射姫と面白くも有りがたくも無い二つ名を頂戴しているが、事実として誤射率に関しては極東で一番を誇る。そのせいなのか、ブラストによる火力には大きな魅力があるものの、率先して同じチームでの任務に入りたいと思う人間はあまり居なかった。

 今回エイジに簡単に譲ったタツミでさえもそんな状況が前提での話だったが、態々向うからその話が出たのであればそれこそ断る理由は何も無かった。

 

 

「多分、位置取りの問題じゃないかな。挟撃を意識すれば誤射は確実に減るだろうし、アラガミからの攻撃も少なくなるから一度は考えるべき戦術なんだけどね」

 

「そうなんですか。私はまだそこまで意識した事がなかったので、これからはそれも意識しながらやってみますね」

 

 本来であれば射線上に仲間が居た場合、何もせずに場所取りを変えるのがある意味セオリーだった。しかし、混戦となればそこまで意識が行かなくなるのと同時に、カノンも一刻も早く討伐したい気持ちから、通常よりも引き金を引く速度が速く、結果的には回避する前に着弾する結果が割と多かった。

 これに関しては恐らくタツミも理解はしているが、混戦の最中で意識する事は難しく、その結果として被弾する事が多かった。

 

 そんな状況を踏まえてエイジがとったのが、ある程度攻撃の範囲を変える事でアラガミを意図的に誘導し、その結果カノンと挟撃する形となる事で誤射が減っていた。その結果として討伐時間の短縮と味方の損害状況が小さくなっている。

 万が一射線に入っても直ぐに離脱するので、可能性は更に難くなっていた。まだこの事実を当事者でもあるカノンには知らせておらず、その結果として小さな誤解を生むことになっていた。

 

 

「カノンさん。あれって……」

 

「何か捕喰された後ですよね?一体何なんでしょう?」

 

 遠目で見れば、既にこと切れているのか、横たわったアラガミが動く気配も無いままに放置されていた。誰かが任務として来ているのであればどちらかが知ってるはずだが、生憎と今回の事に関しては何も聞いてい居なかった。

 

 

「これは……カノンさん。直ぐにアナグラへ連絡をお願いします。恐らくはハンニバルです」

 

「わ、わかりました。直ぐに連絡をいれます」

 

 エイジからの一言でカノンは思わず硬直していた。ハンニバルの脅威についてはアナグラ内部では既によく知られているせいか、その後の対処は素早かった。

 直ぐに連絡がつながり、あと少しすれば恐らくは第1部隊のメンバーが来るはずだった。

 

 

「大丈夫だとは思いますが、万が一ハンニバルだった場合、カノンさんは速やかに退却してく下さい」

 

 今の所目視では発見出来ないが、万が一の事も考え二人は臨戦体制に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊急任務だ。現在、定期巡回中のカノンから連絡が入った。まだ確認された訳ではないが、ハンニバルと思われる攻撃の形跡が発見されている。現在状況はエイジが哨戒に当たっているが、念の為に第1部隊を招集している。ただ、リンドウは現在帰投中、ソーマとコウタは神機のメンテナンスの為に直ぐに出動する事は出来ない。現時点で動けるのはアリサだけだ。準備は良いか?」

 

「問題ありません」

 

 ツバキからの指示により、ハンニバルとの再戦とも言える緊急ミッションが舞い込んで来た。先ほどの定期巡回にどうやらカノンと共に動いていたのか、その途中で焼け焦げた傷を持ったアラガミが発見されていた。

 目下最大の懸念事項でもあるハンニバルとの再戦の幕が切って落とされようとしていた。

 

 

 

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