神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝38話 (第85話)戦いの事後

 ハンニバル討伐の一報は瞬く間にアナグラに報告されていた。当初は心配する部分があったものの、いざ蓋を開ければ事実上の無傷での討伐と同時に、対抗手段の有効性が確立された事は今後の見通しが明るくなった事実となっていた。

 未知の脅威が無くなれば、既に通常のアラガミと大差ない事実は極東支部の上級職の全員が安堵する事となった。

 

 

「まぁ、あいつがいて負傷者は無いだろうとは思ってたけど、まさかあのメンバーでなぁ」

 

「個人の戦闘能力だけではない事が、今回の件で証明された様なものだな。リンドウ、これからはもう少し戦術と指揮も考えた方が良いだろう。今後はそれも視野に入れるのも悪くは無いな」

 

 ツバキの一言に、その場に居た上級職は戦慄を覚えていた。ただでさえ曹長以下の新人に対して過酷とも言えるような訓練が課せられていたが、今度は全体の指揮となれば対象者は果てしなく広がってくる。

 ただでさえ忙しくしている所に新たに戦術までも学ぶ事になれば、今後はどうなるのか想像する事すら躊躇われていた。出来る事ならその案が実行されない事を祈るばかりだが、今までの事を考えれば有り合えない未来ではない。

 今回の件での有用性が示されたことを考えると、逃れる事は不可能である事だけはその場に居た上級職は悟っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰投中のヘリの中ではこの戦闘で精神的にもギリギリの戦いだったのか、先ほどのテンションから一転し、カノンは既に夢の世界へと旅立っていた。今回の戦闘で、ある意味理想とも言える戦いがそこにあった。

 全員の動きと能力を勘案し、その対処と同時に能力を最大限に発揮させる戦いは、個人だけで戦うよりも確実にリスクが低く、また投入した以上の戦果をもたらす事が出来る。厳しい訓練をしている人間でさえ、未だ殉職する者が出てくる以上、今以上の精進が必要になる事だけは理解出来ていた。

 

 

「今日はご苦労だったな。これで今後の対策が立て易くなるだろう。リスクは常に最小限に留める必要があったが、これで何とか他の部隊でも対応できるだろう」

 

「いえ、僕も参考になりました。まだあそこまでの指揮を執る事は出来ませんから、今後も精進したいと思います」

 

「そうか。だが、隣のアリサはそうは思っていないみたいだぞ」

 

 無明に言われて横を振り向くと、戦いの後とは思えない様な複雑な表情でアリサはエイジを見ていた。ここ数日間、自分の技術向上の事で頭が一杯になり不本意ながらにアリサの事は忘れていた事を思い出していた。

 恐らく原因はそれだけではない。あの神機の事が気がかりなのかもしれない。そんな事が表情に出ていたのだろうと言う事位はエイジにも理解出来ていた。

 

 

「アリサ、何か気になる事があった?」

 

 試しに聞いては見るものの、アリサからは何の返事も返ってこない。本格的に怒らせたのだろうか?自分が招いた原因に心当たりがありすぎるだけに絞りきる事が出来ない。一体何でそんな表情をしているのかが、今のエイジには分からなかった。

 

 

「エイジは……もう私には飽きたんですか?」

 

「何で?」

 

 アリサからの唐突とも言える想定していない斜め上の質問に、エイジは戸惑う以外に何も出来なかった。確かに、ここ数日はミッションの連続で碌に話す事も無く過ごしていた関係で、今日は久しぶりにアリサの顔をまともに見た様な記憶があった。しかし、その内容と先ほどのアリサの飽きた発言が脳内で一致しない。一体何があったのかを早急に確認する必要があった。

 

 

「飽きてないよ。急にどうしたの?」

 

「最近は、毎日毎日任務に明け暮れて、自分の命をまだ軽く考えているんじゃないんですか?もう、私との約束なんてどうでも良いと思ってるんじゃないんですか?」

 

「そんな事は思っていないし、事実として実力的にはまだまだだから、今以上の結果を出す為の努力はしているよ」

 

 なだめようにも、アリサの目には涙が溜まり始めていたのか、声も徐々に弱々しくなり始めていた。

 

 

「最近は一緒にミッションも行ってくれないし、碌に会話もしてません。今回だって私も居たのに……カノンさんと任務についているって聞いて……」

 

 この時点でエイジはアリサが何を考えていたのかを理解していた。確かに、第1部隊のメンバーとのミッションよりも、ここ最近は新人や他の部隊との任務を優先する事が多く、結果的にはアリサと話す時間も殆ど無くなっていた。

 よく言えば一点集中だが、悪く言えば融通が利かない。我ながら自分の考え方が極端なのが原因であることを今更ながらに悔やんでいた。

 自らが招いたこの事態に誰も助け船を出す事は出来ない。カノンは未だ夢の国から戻る気配はなく、目の前に座っている無明も、そんな事には関知するつもりは一切ないとばかりに腕を組み、目を瞑っている。今のエイジに援軍は無かった。

 

 

「本当の事を言えばアリサとは一緒に行きたいんだけど、汎用性を高める為には色んなタイプの人達と組んだ方が戦術が拡がると思ってやってるから、アリサの事が嫌いになった訳でも飽きた訳でもないから、心配しないで」

 

「それなら一言くらい言ってくれても……」

 

 先ほどの涙から、今度は頬を膨らます様に変化している。どうやら怒っているのではなく、最近ゆっくりと話す機会が少なかったせいか、拗ねている事が理解できた。

 ここまで放置すると後々の事を考えるともう少し時間を取る事も必要なんだろうと思う頃、ようやくアナグラが見え始めてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご苦労だったな。その様子だと問題無さそうだな」

 

「パターンが分かれば対応は可能だろう。ただ、攻撃によっては気を付ける必要があるな。攻撃の内容によっては命の心配も必要だろう」

 

 無傷の帰還ではあったが、やはり接触禁忌種は伊達ではない。現状では一般の神機使いが遭遇した場合は撤退が余儀なくされる事に変わりなかった。

 いかなるアラガミであろうとも油断すれば簡単に命が消し飛ぶ以上、僅かでも生存率を上げる事は教導の立場からすれば至上命題とも思われた。ただでさえ、今回の結果から更なる訓練を課せられるのではと思われていたが、この会話で確実視される事が決定したも同じだった。

 

 

「ツバキさん。この後時間あるか?少し榊博士と話したい事がある」

 

「分かった。では1時間後にラボだな」

 

 出動前に懸念していた事実と、今回の討伐の際に採取した細胞から今後の対応を迫られる。真実を公表すべき事なのか、今後の事も踏まえて対応に迫られる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の採取された細胞とコアを解析したけど、やはりハンニバルは他のアラガミと出発点が違っていたようだね。前回の解析でも分かっていたけど、今回の件でハッキリしたと考えても構わないだろうね」

 

 今回持ち込まれたコアと細胞の解析の結果は、やはり元神機使いがアラガミ化したものが判明されていた。現在の所、この事実はこの場に居る3人しか知り得ない。今後の事も考えれば隊長格であれば介錯の延長だが、一般の神機使いからすれば、決して気持ちの良い物では無い。

 いくらアラガミと言えど、元々は同僚である事を完全に分けての討伐は無理だろうと判断する事から、この事実はある意味では隊長以上にのみ閲覧可能とすべき判断と共に早速本部へと送られていた。あと数時間もすればこの事実は各支部でも閲覧が可能となる。ただでさえ強固な個体であると同時に、対抗手段が無ければ不死性を持っている。そこに止めとばかりに元神機使いでは目も当てられない。

 今はまだ極東管内での出没ではあるが、神機使いのなれの果てであればハンニバルの各支部での出現は時間の問題でしかない。今後の対応は各支部で任されるが、結果はどこも同じであろう事は予想されていた。

 

 

「ハンニバルもそうだが、最近はエイジも本部から何度か招聘の依頼が来ているが、どうするつもりなんだ?」

 

 これ以上の事は悩んでも無意味とばかりにツバキは話題を切り替えた。今回の件とは別件だが、実はここ最近のエイジのスコアが他のゴッドイーターや支部全体を見回しても群を抜いたスコアが叩き出されていた事が原因だった。

 スコアに関しては純粋に討伐内容が反映されるだけに数字の誤魔化しは出来ない。急激な成長に本部は目をつけ、その技術の確認と場合によっては懐に入れて置きたいとの思惑から、何度か招聘の通達が来ていた。

 

 

「どうもこうも、あいつの人生はあいつが決めるべきだ。ただ、本人にはそんな関心が無いのかもしれないがな」

 

「だろうな。今あいつが抜けると今度はここの存亡の問題が出てくる以上、むざむざと本部にくれてやるつもりは微塵も無いが……何せ本部だからな」

 

 ツバキが言うまでもなく、本部のやり方は実に狡猾な部分が多々あった。極東では殆ど無いが、他の支部では事実上の昇格に伴う配置転換をチラつかせ、目当てのゴッドイーターを懐に入れるケースが多々あった。支部のトップクラスが抜ければその支部の戦力は格段に低下する。そんな杞憂がそこに存在していた。

 

 

「いや、さっきの帰投の際には中々面白い物が見れたからな。あの調子ならば大丈夫だろう」

 

「何を見たんだ?」

 

「まぁ、それ以上は本人の名誉にも影響するから、これ以上の事は本人の口から聞くと良いだろう」

 

 珍しく、含んだ様な笑いにツバキも関心を寄せるが、肝心の無明が何も言わない以上、詮索しても回答が無い事は長い付き合いの中で理解していた。未だ完全に解決した物は何一つ無い。

 がしかし、今なら何かが起きても何とか出来るであろう状況がいつまでも続いてほしい。そんな雰囲気がラボには広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タツミさん。私もついにやりました。今後は誤射が無くなるはずです」

 

「おお、そうか。だったら今後は期待出来そうだな」

 

「はい!任せてください!」

 

 ハンニバル戦である程度の目途がついた事と同時に、今まで研修の名目で来ていたアネットとフェデリコの研修期間が無事に終了した事による送別会兼、慰労会が同時に開催されていた。

 本来であればアナグラの内部で開催される予定だったが、せっかく極東に来たからとの配慮から、屋敷の離れで急遽宴会が開催される事となった。本来であれば研修に来たはずのアネットとフェデリコが主役になるはずだったが、今回ハンニバルの討伐にカノンが参加していた事から、会の話題をカノンがさらっていた。

 

 極東の誤射姫と言われる本人が聞けば悶絶しそうな二つ名は、ここ極東以外にも他の支部にも名前だけは広がっていた。実際の所、驚異の誤射率は他の神機使い達の脅威となっていたが、今回のハンニバル討伐から、その評価は一変していた。

 事実として、同じ部隊に所属していたタツミやブレンダンに関しては、今回のミッションでの誤射率が0の事実に驚き、討伐の主戦力とまで言われれば、その内容に疑いを持つことはある意味当然とも思われていた。

 虚偽の報告が無い以上、ミッションの内容を見る限り誤射した事実は何一つ無い。その戦術に関しての間合いの取り方や運用方法に関してはタツミよりも、むしろブレンダンの方が関心を寄せていた。

 

 

「なぁエイジ、その……無明さんの間合いの取り方ってどんなだった?」

 

「アラガミの動きを予測しながらカノンさんの目の前に誘導したって言った方がある意味正解かもしれません」

 

「ログだけ見ると、確実に当たる場面があった様にも見えるけど?」

 

「それは気配を感じて回避したらしいです。僕も流石に常時そんなに気を配るのは無理ですよ」

 

 この一言で完全にタツミは戦闘内容を把握出来た。簡単に言えば意識の問題。当たる前提なのか、回避する前提なのかで戦闘中の立ち位置が大きく変わってくる。

 回避するのはどうにも出来ないと判断した結果でしかなく、決してカノンの射撃の技術が向上している訳ではなかった。

 

 

「……本人には知らせない方が良いかもしれないな」

 

「その件に関してはコメントのしようがないです。あとはタツミさんの気持ち一つかと思いますが……」

 

 大よそ答えにはなっていないが、エイジにもこの件に関しては返答に困っているのは間違いなかった。ここでは敢えて口には出さなかったが、回避の為にアラガミと背後からの気配を同時に探る事が出来れば、今後アラガミの攻撃を避ける事は容易になるとは言えず、タツミを目の前にある意味ご愁傷様としか言えない気持ちだった。

 

 

「話は変わるが、今回ここを利用させてもらったけど、本当に良かったのか?」

 

「それなら、兄様に許可もらってますから大丈夫です。別に決まった人間だけが利用している訳では無いですから」

 

 周りを見れば既に盛り上がっているのか、第1部隊の人間以外に、今回は研修に来ていた2人とタツミにカノン、あとはヒバリにリッカといつものメンバーだった。一部アルコールが入っているからなのか、どこか騒がしい雰囲気がそこにあった。

 

 

「いや~本音を言えばヒバリちゃんの浴衣姿はそそるね~。目の保養になるよ」

 

「この前もここに来てましたよ」

 

「そうだ!何であの時一言声をかけてくれなかったんだ!」

 

「だってタツミさん巡回で出てましたよね?」

 

 以前にアリサの見舞いと称した女子会の話をタツミはヒバリから聞いていた。リンドウの結婚式以来ここの施設は一部が解放されていたが、敷居が高いと感じているのか第1部隊以外での使用実績はほとんど無かった。

 

 

「流石に任務放棄なんて立場的には出来ないからな。これからは暇を見つけて考える事にするけど、お前はここが自宅なんだよな?」

 

「そうですけど…それがどうかしたんですか?」

 

 今さっきまでおどけていたはずのタツミの表情が突如変わる。これは部隊長としてだけではなく、一人の男としての顔だった。

 

 

「大した事じゃないんだが、部隊長なんてやっていると、割と他の隊員の事も客観的に見える事があるんだけど、中々腹を割って話す機会が少なくてな。今日みたいな感じでゆったりと話す事が出来る場所があるのは悪くないと思えて仕方ないんだ」

 

「そうでしたか。第1部隊はある意味うまく動いているので考えた事も無かったですけど」

 

「それはお前が気がついていないうちに、みんなを引っ張っているからだろ。うちの部隊は皆一癖も二癖もある連中ばっかりだからな」

 

 他の部隊の内容までは解らないが、確かにメンバーを見ればタツミの考えている事は理解できる。ある意味では同じ立場にいる人間の思考そのものでもあった。

 部隊を率いる者はそのメンバーの命までも守る事が必須となる。先が見える様で未だ見えないこの状況を考えるには、もう少しだけ時間が必要でもあった。

 

 

 

 

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