神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第92話 疑念

 このままここに居ても状況が改善される訳では無いとばかりに、時間が経つにつれコウタやソーマは自室へと戻っていた。今医務室にはアリサしかいない。目の前には未だ意識が覚醒する事が無いままのエイジが、脳波測定の為に装置をつけたまま横たわっているにしか過ぎなかった。

 以前に自分が経験した様に、アリサは改めて感応現象が起こる事を期待しエイジの手を握っていた。未だ感応現象そのものが完全に解明された訳ではない。そう簡単に現象が起こる訳でもなく、ただ時間だけが経過していた。

 

 僅かとは言え、感応現象が起きた以上何かが起きる可能性は否定する事は出来ないが、それに多大な期待を寄せる事は考えにくく、今の第1部隊が置かれている現状を考えればやるべき事は山積していた。

 今は事実上の謹慎中とは言え、このまま部屋に戻る気力も無く、ただひたすらにエイジ手を握り顔を眺める事しか出来なかった。

 時間がどれだけ経過したのか、アリサの端末に次のミッションのアサインが入る。まずは現状を打破すべく医務室を出て、ロビーへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のミッションって小型種と中型種の討伐任務なんですか?」

 

「これって、俺達が今まで受ける事は無かったレベルだよな?」

 

 アリサとコウタが半ば呆れた様な口調になるのは、ある意味仕方の無い事でもあった。今回の任務に就く前までは高難度のミッションしかアサインされる事が無く、今現場に立っている内容はどう考えても、本来であれば第1部隊が受ける様な内容では無かった。

 

 

「ここまで来て何訳の分からん事言ってるんだ。あの支部長は恐らく俺たちを今は値踏みしている最中なんだろ。だったら実績を出して見返せば良いだろうが」

 

 ソーマの一言にアリサとコウタは無言のままソーマの顔を見ていた。本来であればこんな事を言う事はこれまでに全く無く、今までに一度も聞いたことが無いソーマの台詞に驚きを隠す様な真似は何もしなかった。

 

 

「なんだ?俺の言った事に文句でもあるのか?」

 

「…いえ、ソーマが随分と珍しい発言をしたので驚いただけです」

 

「なあソーマ。何か悪い物でも食べたのか?」

 

 ソーマ自身も柄でも無い事を言ったと自分でも理解していたが、まさか仲間からそんな事を言われるとは思ってもおらず、今言った言葉を少し後悔していた。

 

 

「とにかく、さっさと終わらせるぞ。あと、今回のミッションは何かおかしい。お前たち、ここに来てから違和感は無かったか?」

 

「特には無いですよ。コウタはどうです?」

 

「何にも感じないけどな。風邪でも引いたんじゃないのか?」

 

「……感じないならそれで良い。とにかく始めるぞ」

 

 今回のミッションに関して、若干不自然な所がいくつか存在していた。本来であれば、よほど大きなトラブルか緊急事態にならない限り、その部隊やメンバーの状況に合わせたミッションがアサインされる。それは極東支部に限った話ではなく、どこの支部でも当然の措置だった。

 格下のアラガミであれば問題は大きくならないが、その逆の場合、待っているのは全滅の未来だけ。仮に格下のミッションをアサインすれば、今度はそれ以上のアラガミが出没した場合、手の施しようがない事実があった。

 しかし、今回は不自然な程の部隊とミッション内容のギャップが大きすぎた。念の為に確認したまでは良かったが、不審な点はどこにも無い。2人は気が付かなかったのか、問題点は特に感じる事が出来ない以上は杞憂とばかりに、その不安感を頭から消し去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のミッションはおかしいです。ソーマじゃありませんが、何かいつもとは違う気がします」

 

 今回のミッションの違和感に、ここに来てアリサも気が付き始めていた。本来、小型種は中型種や大型種にくっついて動くか、独自の考えを持って動くものの、いずれも本能の赴くままと言った方が正解の様な行動を示す。

 しかし、今目の前に討伐しているアラガミ達は明らかに何らかの手段で統制された軍隊の様な動きと考えもある様な動きを見せていた。小型種でもあるサイゴードが斥候の様に動き、アリサ達を見つけたと同時にオウガテイルを呼んでいた。

 当然、そこまで来れば今回のメインでもあった中型種のグボロ・グボロとコンゴウが戦闘音を察知し寄ってくる事で、現場はあっと言う間に混戦状態に陥いるのは当然の事だった。

 適正レベルのミッションであれば混乱から苦戦は当然の流れではあるが、元々このミッションそのものが適正ではない。本来であれば受ける事は一切無いレベルのはずの内容である以上、いくら混戦状態だったとしても何ら問題がなく討伐が完了し、今は帰投準備中となっていた。

 

 

「そうだ…な…」

 

「おい、ソーマ大丈夫なのか?しっかりしろよ」

 

「お前たちは平…気…なの…か」

 

 何か高周波の様な耳では聞こえにくい音がソーマの脳内に響き、苛立ちを感じたかと思った矢先に突如激しい頭痛がソーマを襲う。2人がソーマに気を取られた所で、突如ソーマ達の頭上から雷球が降り注いできた。

 

 

「ソーマしっかり!」

 

 いち早く反応する事が出来たアリサが盾を展開し、飛んできた雷球を防ぐ。突如来襲したのはシユウ堕天種。攻撃を受ければ即スタン状態になる為にある意味厄介とも思われるアラガミだった。

 何時もであれば1体だけなら何の問題も無く討伐出来るが、今は原因不明のソーマの不調と奇襲とも取れる攻撃の為に、しっかりとした陣形を取る事が出来ない。原因不明のままソーマを放置する事も出来ず、その場から動く事は困難となっていた。

 一度崩れたリズムを取り戻すのはベテランであっても厳しい物がある。突然の対応に遅れが出始めていた。

 

 

「俺の事は…良いから、お前たちが直ぐに…態勢を立て直す為…に退却…するんだ」

 

「今のソーマでは無理です。このまま迎撃します」

 

 盾で防いだはずの神機は既に銃形態へと変形が完了し、既に狙いはシユウの頭に向いている。このまま一気に殲滅すべく、引金を引こうした時だった。

 

 

「お困りの様ですね。これは我々に任せて下さい。総員、目標はシユウ堕天だ」

 

 無機質とも取れる口調と共に、今まで見た事もない部隊がシユウの翼手と頭を目がけて一斉射撃を開始した。その場に居た全員の銃口はシユウ堕天へと向けられている。精密射撃さながらの銃撃に迷いは無かった。

 神機を見れば新型ではあるが、新しく配属されたなんて話は何も聞いていない。

 今はツバキが不在の為に、本来であれば支部長からアナウンスがあるはずだったが、配属はおろか一部隊が来る事すら聞かされていなかった。弱点に対しての一斉射撃が終わると同時に、リーダーらしき人間が一気に飛び出す。

 攻撃を受けたシユウは怯みこそすれ、討伐された訳では無い為に渾身とも取れるカウンター攻撃を繰り出す。先ほどの銃撃の影響なのか、これまでの様な動きは見る影も無かった。シユウの攻撃はまるで何事も無かったかの様に回避され、一刀の元に斬り捨てられていた。

 

 

「協力ありがとうございます。あの、あなた達は一体?」

 

「それはまた後ほど。私たちはこれで失礼します」

 

 最初に声をかけられたのは恐らくはこのリーダーらしき人物ではあったが、どこか気が置ける様な雰囲気は一切無かった。それどころか、自分達の事など意にも介していないかの様に無機質な声と抑揚のない口調。助けて貰った事は有りがたいが、何となく気に入らない感情があった。

 

 

「何だよあいつら」

 

 この場に居た3人にはそんな気持ちが漂いながらもアナグラへと帰投した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リッカさん。ここに新しく配属される神機使いの事知りませんか?」

 

「配属?私は何も聞いてないかな?何かあったの?」

 

 助けて貰った謎の部隊の事を帰投直後にヒバリに確認してはみたが、情報を得る事が出来なかった。本来受付を通してアサインされるはずにも関わらず、受付がその事実を関知していない。話かけた際に感じた印象が徐々に疑念へと変わりだしていた。それならばと神機の整備で入るはずだとあたりをつけて、アリサはリッカの元へと足を運んでいた。

 どんな神機使いであっても、神機の整備を避ける事は不可能でもあり、しっかりとした整備がないままの出撃が命取りになる事は、初めてゴッドイーターになった人間には嫌と言うほど一番最初に聞かされていた内容でもあった。

 アリサとて、そんな初歩的な事は分かっている事もあり、ヒバリが知らないのであればとリッカの元へと急いだものの、肝心の答えはまさかのNOだった。

 

 

「実はさっきの任務で見た事も無い新型神機使いの部隊が応援に来てくれたんですけど、何も知らされてなかったので、ひょっとしたらと思ったんですけど」

 

「だったら、一番最初にここに話が来るはずだけど、今の所そんな話は来てないからちょっと分からないかな」

 

「そうでしたか。忙しい所ごめんなさい」

 

「それは良いんだけど、最近エイジが出撃してないみたいだけど、何かあったの?」

 

 整備士であれば、出撃の状況は誰よりも良く知っている。もちろん、出撃していない事位はリッカも知っているが、何故出撃しないのかまでの理由は知らせれていない。

 何も知らないリッカの質問に本当の事を言う訳にも行かず、今は申し訳ない気持ちを持ちながらもアリサは当たり障りのない話で切り抜けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイジ、もう目を覚ましてくれませんか。早くエイジの声が聞きたいです」

 

 アリサの呟きの返事は返ってくる事がなかった。詮索出来ないのと同時に、今回のミッションに対して助けに入って来た部隊の事は、結果的には何も知らされる事がないままだった。

 僅かな戦いで見た技量はこの極東支部に於いても上位に入るのは間違いなかった。しかし、誰もその部隊に関しての面識が無い為にそれ以上の事は分からないまま。本当に存在していたのかすら怪しいと思われる程に、報告の俎上にすら出なかった。

 既に最初の段階で厳しい事を言われている以上、下手に何かをいう必要性も無く、今のアリサはそれが終わればエイジの見舞いと医務室へと足を運んでいるのが日課の様になっていた。

 

 

「アリサ、今はまだ何も変化は出てないから、そんなに根を詰めなくても大丈夫だから」

 

「先生、エイジの容体に変化は無いんですか?」

 

「今の所はね。脳波は変に安定してるんだけど、何か変化があれば脳波にも影響が出るから直ぐに分かるんだけど……」

 

 昏睡状態が未だ続いているも、目を覚ます肝心の手立てが無い以上、あとは見守る事しか出来ない。早く目が覚めて欲しいとは思いながらも、万が一記憶が欠損した状態であればと考えると素直に願いにくい。どうすれば良いのだろうか?そんな葛藤がアリサの中に渦巻いていた。

 

 

「あんまりこんな事言うのは好きじゃないんだけど、本来ならもう目が覚めても良いはずなのよ。脳波が安定しているのであれば、精神に異常を来しているとは判断出来ないのも事実なのよね。考えられるとすれば、本人の意思で目覚めたくないと思っているかもしれない」

 

「本人の意思で、ですか……」

 

 ルミコの発言に驚きを隠す事が出来なかった。確かに、エイジと恋人になってから色々と話をしたが、アリサの中ではあの時の屋敷での言葉は一生の宝物様な気持ちで胸の中にに残っている。

 確かに、細かい事部分での苦労はあったとしても、未来につながる言葉を言いながら、胸中では否定する様な事があったとは思えなかった。

 

 

「あくまでも私の個人的な所見だから、気にしなくても良いわよ。彼の事はたまに見るけど、見た感じではそうは見受けられなかったから。後は恋人同士なんだから、目覚めたらもう少し色んな話をするのも悪くはないわよ」

 

 アリサの心配を払拭する様に笑顔で話されると、それ以上の事は何も言う事が出来なかった。実際にはエイジの事だけでは無い。新しく来た支部長と、今の第1部隊が置かれた現状を考えれば決して何かを楽観視したくなる様な状況では無い。

 目の前のエイジが目が覚めた時にはそんな心配が無いような状況だけは作っておきたい。そんな考えがそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ。そうです。今回の実験の検証は成功でした。今後の事もありますので、まずはご報告をと思い連絡しました。……そうです。次回に付いては……そうですね。やはりここは新設の部隊に入れ替えた方が何かと……分かりました。ではその様にさせて頂きます」

 

 誰も居ない支部長室にはガーランドが誰かと話している声だけが響いていた。今回の就任に関しては、極東支部だけでは無く、本部の中にも様々な憶測を呼んでいた。当時独断で進められたアーク計画に関しては本部内でも緘口令が引かれているものの、フェンリルの一部の幹部は当時のいきさつを未だ引きずっている。

 それは偏にこの世界の中でも一番の厄介事でもある、極東支部の取り扱いでもあった。

 

 ガーランドが就任する前には大よその事しか分からなかったが、実際に就任してから真っ先に確認したのがここの現状確認でもあった。建前上は自治権を認める事で国としての役割を担わせていたが、とある時期から極東の状況が大きく変貌していた。

 データ上では何ら問題ないが、内部を改めて詮索すると、支部長の権限でも分からない事実がいくつも発覚している。

 

 本来であれば全権限を持っている人間が知らない事実があるのは極めて命取りとも言える事でもあった。

 事実、ここでは部隊長であれば確認出来る情報は他の支部に比べても秘匿の重要性が格段に高い物が多く、また他の支部への異動の際にはこの内容についての公言は許されていない。

 情報一つで状況は大きく変わる事はこの時代でも変わらない。

 にも関わらず、支部長の権限で、見る事が出来ないデータがあるのは不信感以外の何物でもなかった。だからこそ、本部からの尖兵とも言える人物、ガーランド・シックザールが就任された理由がそこにはあった。

 

 ただでさえフェンリルの庇護下にあるとは言い難い極東支部が反旗を翻せば他の支部も同調する可能性は捨てきれない。本来であれば信用されていない事の裏返しでもあるが、その事実を認める事が出来る人材は今の本部には誰も居なかった。

 下手に手を出せば、今度は自分の身分が脅かされる。アーク計画に加担した上層部の末路は誰もがおいそれと口に出せない公然の秘密でもあった。

 

 

「君達には次のフェイズで退場してもらう事にしようか」

 

 ガーランドの机の上には第1部隊のメンバーに関する調書が置かれていた。現時点でガーランドの真意に気が付く人間は未だ誰もいない。激戦区だけあってか、ここの平均年齢は他の支部と比べてもダントツで低い。ならば、理屈さえ通れば後は赤子の手をひねるよりも容易いだろうと考え、ガーランドは次のフェイズへと移行する事だけを考えていた。

 

 

 

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