色々あって、カナデさんの家で御世話になることになった。
「カナデさん、朝食出来ました〜♪」
今は朝食を用意しているところでした。
この家での僕の役割は、これから住を提供してもらうのだから、家事くらいは任せてほしいという話で落ち着いたのだ。
今日は学校を休むことになったので、少しだけのんびりとした朝を過ごしていた。
と言うのも、僕がカナデさんの家に持って来れたのは本当に、この身一つで教科書も制服も家にあるのだから仕方ないということだ。
あの時は咄嗟だったし、余裕も無かった。だから今日、隙を見て必要な物を家に取りに行く手筈になっている。本当に家出って感じがした。
「あぁ、ヒカゲありがとう。うん!スゴイ美味しそうだ!……というか、アタシより女子力高くないか………?」
「き、気のせいですよぅ…………。」
僕は男なのだから女子力なんかは求められないわけです。しかし、母が亡くなってからは父と二人暮らし、家事力が必要となった僕は、俗に言う女子力が身に付いたのだ。
それでも今は、この家事力でカナデさんに喜んでもらえている。すごく嬉しい。
失礼だけど、カナデさんは男勝りな性格をしているからナヨナヨとしていて家事力くらいしか取り柄が無い僕とは真逆な感じがする。
カナデさんとなら、お互いを支え合って生きていけるような気がする。
カナデさんとなら…………………。
僕はそこで、邪な考えを振り落とすように頭をブンブンと振った。
だって、考えちゃダメだろう。こんなにも良くしてくれるカナデさんと僕なんかが釣り合う筈もないのに……。
カナデを見れば、僕の作った朝食をモグモグと頬張っていた。時折うんうんと唸っては、美味しいよと声を掛けてくれる。彼女が笑顔で、そう言ってくれるだけで心が満たされていく。
「この味噌汁なんて毎日食べたいくらいだよ」
「ま、毎日!?…………〜〜っ!!」
これって、よくあるプロポーズなのでは?
カナデさんが何にも考えてないのは分かっているけれど、僕だけ意識してるなんて……。
今の僕、スゴイ馬鹿みたいじゃないかな?
顔が熱くなっていないかペタペタと頬に触れる。………大丈夫、だと思う。
「カナデさんの家に御世話になってる間なら、頑張ってみます」
「でも、毎日なんてヒカゲの負担になるだろう?アタシは……家事得意じゃないけど。」
「いえ、御世話になっているのだから料理くらいやらせてください!」
気にしなくてもいいのに…。と言ってくれるが、僕がやりたいのだ。
出会ったあの日の恩返しも出来ていない。こんな事で返せる程の小さな恩ではないが、少しずつカナデさんに尽くしていこうと心に決める。
◆◆◆
今は、朝食を食べ終え、一服してからカナデさんと共に僕の家の前まで来ていた。
余裕の無かったため、持って来れなかった必要な物を取りに来たのだ。平日昼間、誰も居ないであろう時間帯に………。
教科書、制服、着替えなどをボストンバッグに詰めていく。これから暫くは、カナデの家から学校に通うことになる。本格的に家出のような感じだ。
「…………………もう、いいのか?」
「はい。この家との別れも済ませました。
……戻れる日が来ればいいんですけどね。」
なんて、しんみりとした風に言ってみせる。
いけない、いけない。後一つだけ持って行かなければ、ならない物があった。
———————亡き母の写真だ。
母の写真は、そう多くは遺っていない。そもそも普段から写真を撮るような人でもなかったから数がないのだ。その中でも、まだ小さかった僕と一緒に写っているモノなど限られていた。
……これから、撮っていく予定だったのだとか。
「それ、お母さんの写真か?……綺麗な人だね」
「僕の憧れだから。これだけは忘れたらダメかなって……」
母は僕の憧れで、誇りだったから家から離れたとしても写真くらいは持って行きたいと思っていたので。その時は卒業をした独り立ちの時だと思っていたけれど、こんなに早く来てしまうなんてと少し嘆いた。
◆◆◆
「それじゃあヒカゲ、いってらっしゃい」
そんなこんなで一日学校を休み、カナデさんの家から通い始めることになった初日。
「先輩、何かありました?この前よりもポワポワフワフワとしている気がします」
「え〜?そうかな〜?」
ヒロミさんから問い質されてしまうが、学校が終わればカナデさんが待ってくれているのだと考えたらニコニコとしてしまう。
少し身が入っていないような気もするが、今日の勉強も熟せてはいるのだから問題は無いと思うのだ。ヒロミさんに鬱陶しげにされてしまえば、集中しないといけないとは思うが、彼女も気にしてはいない様子だ。
「おぉ……。これはまた….。ヒカゲくん、何か良い事があったって顔だね?」
ヒジリカワ先生にまで言われてしまう。そんなに顔に出ているのだろうか。やはり気を引き締めるべきかもしれない。
「そ、そうですか?」
「まあ、キミが笑顔なのは悪い事じゃあないんだ。相談が有れば、いつでも受け付けてるよ」
ヒジリカワ先生は、ヒラヒラと手を振って去って行く。
そういえば、最近はヒジリカワ先生との帰り際の会話もしていない。ヒロミさんとはしているようだけど、僕に心の余裕が出来始めたから様子を見てくれているのだろうか?なんて、自惚れたことを考えた。
◆◆◆
「ただいま帰りました」
「あぁ、おかえりヒカゲ」
自分の家ではないのに、ただいまおかえりと掛け合いをしているなんて不思議だなとも思う。それでも、カナデさんがおかえりて言ってくれるのは嬉しい。
カナデさんは、何をしているのだろうと覗いて見るとギターを触っているところだったらしい。チューニングしているのだろうか、ペグを回して弦を引いたり、ボロンと弦を弾いて音を試す。出会った日に担いでいたギターだろうか。すごくカッコいい。様になっているなとも思った。
「ヒカゲも触ってみるか?」
「僕に、出来るでしょうか……?」
物は試しだよ。そう言って大事なギターを渡してくれた。構え方もわからないし、音の正しい出し方も知らない。ただ弾くだけともいかないし、どうしようもないので先程見た光景の再現だけをしてみる。
「ここを押さえて、こっちを弾いてみなよ」
カナデさんが、僕の手に重ねて場所を示してくれる。言われた通りにやってみると、間伸びした音が出る。どうやら下手くそだったらしい。
「僕には無理だったみたいですね」
「そんな事は無い。意欲さえあれば、お姉さん教えてあげるよ?」
「またの機会に。それよりも、カナデさんに弾いてみてほしいです」
僕が我儘を言うと、カナデさんは快く弾いてくれた。曲名は知らない。もしかしたらオリジナルかもしれない。それでも、曲のイメージはカナデさんにピッタリな感じがした。
◆◆◆
カナデさんと共に夕食を取り、カナデさんと同じタイミングで眠りに着く。
床に敷かれた来客用の布団だという敷布団に包まり、眠くなるまでの間カナデさんと会話をする。幸せな、二人だけの時間が其処にはあった。
「ヒカゲは今日、どうだった?学校は楽しかった?……それとも、あんまりだったかな?」
「今日、同じ保健室登校の後輩に咎められましたよ。何かありました?って。その時、カナデさんの事考えてたんです。何だかニコニコしちゃって、それが顔に出てたみたいです」
「あぁ〜!アタシと話してる時に別の女の話したな〜?お姉さん妬けちゃうな〜♪」
「で、でもカナデさんの話でもありましたよ?」
冗談だよ♪と軽快に笑う。夜だから声は抑えめだ。そのように笑うと、お淑やかなお嬢様のような印象も受けた。不思議だ。
こんな風に話していられる時間が、なんとも心地良く感じる。
「色々ありましたけど、カナデさんのおかげで僕救かってますよ。本当に感謝しかない。カナデさんがいなかったら僕は………。」
「アタシだって、ヒカゲに救けられてるよ」
そう言い切った後、布擦れの音が聞こえて沈黙が続く。寝返りを打って壁の方を向いてしまったのだろうか。もう寝るのだろうか。
もう少し話したかったけれど、僕だってたった今、本音を打ち明けたので少し気恥ずかしい。寝てしまおうと思う。
横向きに寝ようと思ったところで、此方を向いていたカナデさんと目が合った。寝返りを打った後、彼女は此方を見ていたようだ。
「「〜〜〜〜〜〜っ!?」」
ばっちりと見つめ合った後に、お互い恥ずかしくなって逆向きに寝返る。背を向け合うようにして眠りについた。
◆◆◆
カナデさんの家での生活が続いて、彼女について気づいた事が少しある。
カナデさんは甘い食べ物が好きだ。でも、辛い食べ物は嫌い。案外、可愛い物は好き。でも怖い物は嫌い。魚が好きで、肉も嫌いではないがあまり量を食べはしない。ネイルが得意だが、ギターを弾く。バラエティよりはニュースを好む、とか。
知らなかった事なんて挙げ出したら切りはないが、意外だなと思ったのは彼女はチューハイを好むという事。
少しだけ元気がないなと感じる日、食後に飲む事があった。今現在、お酒には良い印象は無いがカナデさんがアルコールに呑まれているような感じもしなかった。
大人の真似事がしたくて時折飲んでたら、虜にされちゃったってわけですよ、と笑ってみせた。嫌なこと考えちゃった時には特に頼ちゃあうのだ、と口にしていた。
見ていて嫌な気もする。それでも別段止めようとは思わない。彼女にだってそういう日があっても良い。自分に弱さを見せてくれたのが嬉しいとすら思う。
それよりも、普段のカッコよく振る舞うカナデさんの姿も無理をしていたのではないか、なんて心配になってしまう。
カナデさんの本当の心を知りたいと強く思った。
◆◆◆
今日もまた、チューハイを口にしていた。そういう日には彼女のために肴を用意したりもする。
少しだけ、本当に少しだけ重い空気の中、チビチビと飲んでいる。僕は空気感に耐えられずに、会話を広げようとするのだが空回りしてしまっているのかも知れない。
カナデさんは、短い返事を返すばかりでニュースをジッと見つめていた。
「…………うん、そうだよな。きっと受け入れてくれる……………。」
カナデさんは独り言を言うことで、なにか心の中の何かを整理しているように見えた。彼女も思い悩むことがあるのだ。それなら僕がカナデさんの支えになってあげられたらなとも思う。こういう時、カッコ良くフォローなんか出来たら。…………カナデさんみたいに。
「………なぁ、ヒカゲ」
「は、はい?」
カナデさんが此方に顔を向ける。目と目が合っている。照れ臭く感じてしまう。
この生活も割と長い事続いている。カナデさんに頼り切りになっているところもある。もう彼女が居ないと生きていけないような感覚にすら陥っている。彼女も僕と同じように感じてくれているのだろうか。それは少し自惚れかもしれない。
何だか甘い空気が続いて、漸く彼女が口を開く。
「———アタシと一緒に死んでくれないか?」
前回は見なくてもいいと言ったので、此方でも載せときます。
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相談させて頂いたタグについては、評価は気にせず自分を貫くことにしました。それでも、百合を期待して見てくれる人の為にも一話に注意書きを設けることで被害を防ごうと思っています。
気づいたら凄く伸びてて驚きました。皆様から頂いた感想等はgoodしか返せていませんが、一つひとつ噛み締めて励みとなっています。やっぱり貰うと嬉しいね。感謝します!