男の娘って生き辛そう   作:ウジ虫以下

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第十二話『男の娘とデート』

 

 

 

「いったい、何処に向かってるんですか?」

 

 

「もう少しすれば分かると思う」

 

 

 これから何が待っているというのだろうか。

 用事が有るのだと言うヒダカさんに連れられ、二人並んで座りバスに揺られる。もう一時間はバスに乗っている。不安になって行き先を訊ねてみても、彼女は答えをはぐらかしてばかりだった。

 

 

 どうして、こんなことをしているのだろう。

 

 

 時は少し遡り、朝の一幕まで戻る。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「ここは……………?」

 

 

 ———起床。

 

 

 カーテンから漏れ出る朝日に撫でられて、目を覚ます。寝起きの頭では状況を飲み込めなかったが、暫くすれば昨晩のことを思い出せた。

 

 

(……ヒダカさんの家に御世話になることになったんだった。)

 

 

 昨日は泥のように眠ることが出来た。体調は最悪で、他人の家だったというのに、こうも安眠だったのは気絶していたとすら言えるのかも知れない。一晩寝たからか、頭痛も引いていた。視界は実にクリアだ。新しい世界を見渡せば、自分が寝泊まりした女の子の部屋がいっぱいに広がっている。

 

 

 布団から出るわけでもなく、ぼうっと部屋の中を眺めていた時だった、扉がガチャリと音を立てて開いた。部屋の主が帰って来たようだ。

 

 

「チヒロ、そろそろ起きて……………って起きてたんだね。おはよう。」

 

 

 柔らかな笑みを浮かべるヒダカさん。家の中では髪を結んでいないのだろう、彼女の桃色の髪はそのままの状態で下ろされている。彼女の見慣れない姿。新鮮で、何処か大人びた印象が強まる。

 

 

「縁起でもないけど、死んだように眠ってたもんだから、普通に心配しちゃった。」

 

 

 そう、笑いながら話すヒダカさんは安堵した表情を見せた。彼女を不安にさせてしまったようだ。正直、あんなことがあったもんだから自分でも目を覚ませるかは自信がなかった。ぽっくり逝っててもおかしい事では無い。

 

 

「おはようございます、ヒダカさん」

 

 

 それでも、目を覚ますことが出来たのだから心配させてしまった彼女に朝の挨拶を返す。挨拶は大事なことだ。昨日まではカナデさんに発していた言葉を、今日はヒダカさんに向けている。そんな状況を可笑しく思う。

 

 

「うん、おはよう。朝ご飯できてるよ。もうママしか居ないから、少しは寛げるんじゃないかな」

 

 

 ヒダカさんの言葉を受けて、辺りを見回し時計の類いを探す。漸く見つけた目覚まし時計を確認してみれば、時計の時針は9の数字を指していた。

 

 

 どうやら、寝過ぎてしまったようだ。彼女の口振りからして待っていてくれたのだろうか、深く反省する。と言うよりもこれは………。

 

 

「———遅刻だ!!遅刻ですよ、どうしてヒダカさんは焦ってないんですか!?」

 

 

 慌てて飛び起きたせいで、乱雑に散らかった布団を畳みつつ、あたふたする。

 

 

「今から行っても間に合わないでしょ。て言うか、今日は最初から行く気無かったし……。」

 

 

 ドタバタしている僕の姿が見るに耐えなかったのか、彼女の手によって制される。

 最初から行く気が無かったなんて、なんて不真面目な事を言っているのだと考えてしまう。心も万全、身体も万全。行ける状態なのに行かないだなんて、不良のすることだ。彼女を不良とは言わないが、僕は今、不良に片足を突っ込んでいた。

 

 

「いや、チヒロって焦ると冷静さを失くタイプ?」

 

 

「カナデさん?って人の家に荷物置きっぱで出て来たんでしょ?ウチに来た時は手ぶらだったし、教科書も制服も無しで何しに行くの……」

 

 

 呆れたように彼女が笑う。

 

 

 そうだった。何にも持って来てないんだった。鼻から準備が万全ではなかったのだ。我ながら馬鹿を言ってたんだと思い知って、ストンと腰を下ろす。そう考えると、ヒダカさんに付き合わせている状況なのだ。彼女は別に普段通り登校することも出来たはずだ。途端に申し訳なく思う。

 

 

「………………ごめんなさい。」

 

 

「なにシュンとしてんの?それよりもさ、ご飯食べに行こうよ。折角学校休んだんだし、昼から付き合って欲しい場所もあるの。」

 

 

「……はい、そうします。御予定の方も、僕で良ければ喜んでお受け致します…………。」

 

 

 ほら、何かお腹に入れたら元気出るって、と言ってくれる彼女の後を着いて行く。

 

 

 何もかも心配してもらって、彼女は何だかお姉さんの様だと思ってしまう。事実、妹さんがいるからなのか彼女は面倒見が良い方だという印象だ。これも一つ、彼女の意外な一面だと言えるだろう。

 

 

(お姉さん、か………………。)

 

 

 小さい頃の話。母が亡くなるよりも前だから、本当に小さい頃の話だ。今となっては覚えていることも少ないが、僕にも「お姉ちゃん」と呼んで慕っていた女の子がいたのを思い出した。そうは言っても、血も繋がっていないし、当時仲が良かった面倒見の良い女の子を、そう呼んでいただけに過ぎないのだが……。

 「お姉ちゃん」なんて呼んでいたもんだから残念なことに名前は思い出せなかった。それでも確かに、彼女は姉のように親しくて、実の姉とは言えないにしても、こういうのを幼馴染と言うのだろうか………。

 

 

 彼女は今、何をしているのだろうと考えた所で思考に耽るのを止めた。もう会う事も叶わない彼女に想いを馳せるよりも、今は目の前の彼女の事を優先すべきだと考えたのだ。

 

 

 見覚えのある廊下を通り抜けて、昨晩通されたリビングへと入って行く。

 

 

「あら、おはよう。起きたのねヒカゲくん。昨晩はぐっすりだったみたいね。今朝ご飯を温め直すわね。」

 

 

「おはようございます、ツバキさん。自分が寝坊したばかりに、手間を掛けてしまい申し訳ありません。」

 

 

 日高 椿(ヒダカ ツバキ)さん。それがヒダカさんの母の名前だった。いつまでも「ヒダカさんのお母さん」と呼ぶには差し障るとして、そう呼ぶようにと言われていた。

 ちなみに、父が総司(ソウジ)さん、兄が(ヨウ)さん、妹が(ヒナ)さん、だそうだ。昨晩はドタバタとしていて名前を教えて貰う事が精一杯だった。

 

 

 自分が寝入っていなければ、皆と同じ時間にご馳走になることが出来ただろう。温め直す手間も無く、待たせるようなことも無かった。

 平伏するような勢いで頭を下げ、謝罪するが、そんな必要は無いのだと何とも無いようにツバキさんは優しい笑みを浮かべて朝ご飯を用意し直してくれた。

 

 

「………美味しい。本当に美味しいです。

 どうやってこんな味が……………。」

 

 

 ヒダカさんの家では、朝は和食らしい。頂いた朝ご飯は僕の作る物と同じように見えたのだが、どうしてこうも美味しいのだろうか。何処までも温かく、心の芯まで満たされていくような感覚は至極のようであった。

 

 

「ヒカゲくんの口に合ったみたいで良かったわ。味付けは普通なのだけどね、〜〜〜。」

 

 

 そう言ってツバキさんは、料理の工夫を教えてくれた。自分も腕には自信があると思っていたが、まだまだ経験が浅かったらしい。ツバキさんに教わったことは、どれも新鮮なモノのように感じた。

 

 

「アイタッ!…………?」

 

 

 ツバキさんとの会話に花を咲かせ過ぎたあまりに、ヒダカさんに小突かれてしまう。自分の母親とペチャクチャと話している男など、良い気分はしないだろう。隣を見遣れば、不機嫌そうに膨れた彼女が、此方をジッと睨んでいた。

 

 

 それで、終わり。それがヒダカさんの家での朝の一幕。

 

 

 

 それからは、昼の予定の為に準備をすると言って、ヒダカさんはアレやコレやと忙しそうにしているばかりであった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 そして場面はバスの中に戻る。

 

 

 ゆらゆら、ゆらゆら。学校も行かないで、行き先も分からずバスに揺られて遠出をしているのが現状であった。

 

 

 ヒダカさんが何とも答えてくれないものだから、ただバスの揺れに身を任せて、流れゆく景色を眺めていた。

 

 

 そんな状況が幾分か続いた時、バスが停まり、車内の人々が静かに色めき立つ。よくよく考えてみれば、彼らとは長いこと同じ車内に居たような気がした。

 

 

「ほら、着いたよ。それじゃあ行こ」

 

 

 ヒダカさんに促され、目的地だと言う外へと歩みを進める。

 

 

 着いた場所。目的地とは———————。

 

 

「……遊園地、ですか?」

 

 

 ヒダカさんの予定とは遊園地に行くことであったのだろうか。

 

 

 ———天気は良好。何色も、何色もの色で彩られた遊園地の入り口は、輝かんばかりに堂々とした勢いであった。誰も彼も笑顔を浮かべて、これから待ち受けるアトラクションを心待ちにしている。きっと、この先を潜り抜けた先には夢の国が待っているような気がした。

 

 

「そう、遊園地。どうせ学校サボっちゃったんだし、暗い事も洗い流せるかなって。………やっぱり、ワタシと一緒じゃ嫌だったよね。」

 

 

「そんなことないですよ!!ヒダカさんと来れて、嬉しいですよ?」

 

 

 彼女は自虐的にハハハ…と笑い、暗い顔で澱む。

 だがしかし、そんなことは無かった。彼女の言うように、彼女と一緒だから嫌などという考えはこれっぽっちも持ち合わせていない。だから、否定したのだ。

 

 

 それに、こういう場所に訪れるのなら"友人"と来たいと夢見たモノだから、ヒダカさんと来れたことを嬉しく思ったのも本心だ。

 

 

「そう、なんだ………。じゃあ、中入ろっか」

 

 

 遊園地に入るって言ったって僕は今、無一文であった。バスの運賃でさえ、ヒダカさんに払って貰ったような状態だ。遊園地の入園料など到底払えるわけもない。これ以上払って貰うのは気が引ける。

 

 

「お金の心配してんの?大丈夫だよ。此処まで来て、そう言えばお金持って無かったね、帰ろっか。なんて言うわけないじゃん。想定済みだから」

 

 

 何から何まで彼女に任せ切りで、払って貰っているなど情け無い。早いこと返す事が出来れば良いのだが、その目処も立っていない。だから、申し訳なくて目を伏せた。

 

 

「どうしてもって言うなら、出世払いね?

 ———ほら、行こ」

 

 

 手を繋がれて、中へ中へと引かれて行く。自分とは程遠い、笑顔の溢れる場所へと連れられて入って行く。あの時と同じように変わらない温かな手は、未知を恐怖する心を安心させた。

 

 

 

 ———ぐっと閉じた目を開けば、笑顔で溢れた眩い世界が待っていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「…………………………すごい。」

 

 

 煉瓦造りの街並みが、キャッチーなデザインをしたマスコットが、何処までも大きくて壮大なアトラクションが。目に着く全てが新鮮で、心を躍らせる。

 

 

「まだ入り口だけど?ほら、アレとか乗りに行こうよ」

 

 

 ゲートを抜ける時に繋ぎっぱなしだった手を、離すことも忘れて、童みたいに目を輝かせ、始めに乗るのは何だって、彼女は楽しそうに声を上げる。

 

 

 最初はジェットコースター。次にメリーゴーランド。ダークライドやウォーターライド、フリーフォールは定番らしい。

 

 

 あっちだ、こっちだ、って園内を練り歩いて手当たり次第に乗って行く。周りにどう映っているかなんて気にしないで、ただ楽しむ為に。やがて僕も楽しくなって、はしゃいで笑う。

 

 

 そうしていく内に、日が暮れて行き、目玉だというパレードの時間が刻一刻と迫って来ていた。

 

 

「これからパレードだよ。この為に来たと言っても過言じゃない。………始まった。」

 

 

 多様なポップ音楽が鳴り、赫々たる照明、華々しいフロート車が道を行く。遊園地のマスコット達はリズムに乗せてダンスを踊り、キャストと共に此方を楽しませようと愉快な掛け合いをして見せる。周りの人達は一様に無邪気な弾んだ声を上げて、写真を撮るなり、会話に花を咲かせるなりして、各々の楽しみ方を追求する。

 

 

 僕は、と言うと。その迫力に飲まれてしまって、圧倒されていた。何にも口に出さないで、何処までも明るく楽しいショーを眺めている。もはや気負うことも忘れて、誰よりも目を輝かせていた。夢のような光景が、羨ましかったのかも知れない。そう、ずっと夢見ていたのだ、こんな夢のような場所に誰かと来れることを。楽しい時間を誰かと共有できることを。家族とは終ぞ叶わなかった夢の一幕を、望んでいたのだ。

 

 

 やがて、そんな楽しいパレードも終わって、集まっていた人々は散らばり始める。

 

 

「初めて、だったんです。遊園地で誰かと同じ時間を共有するのって初めてだったんです。」

 

 

「母が亡くなる前に、一度来た記憶はあったんですけど、それっきりだったんです。父と男二人でだなんて日々じゃ、来る機会も無かったから、最初で最後と思っていました。」

 

 

「最初の一回だって、身長制限か何かでジェットコースターなんて乗れなくて、母も父も僕に合わせてメリーゴーランドとかコーヒーカップだとかそういったモノに乗ってくれた。だから、いつか家族でまた来ようって話になって。でも、結局それは叶わなくて。今日まで、ただ叶わぬ夢を願ってばかりでした。」

 

 

 何処までも惨めな自分語り。一方的に吐き出すように、長々とヒダカさんに話してしまう。

 

 

 今、彼女には僕の顔がどのように映っているのだろうか。哀れに思われていることだろう。

 

 

「……ねぇ、一つだけ教えて。チヒロは今日、楽しかった?」

 

 

 優しい表情の彼女から、問いかけられた質問。僕はそれに、本心のままに、答える。彼女の方をしっかりと捉えて、振り向き状に言い放って魅せる。

 

 

「———はい、楽しかったです!ヒダカさんと来れて良かった。ありがとうございました。」

 

 

 僕は、上手く笑えているだろうか。自分が出来る最高の笑顔を持って、礼を述べた。本当に、ヒダカさんと来れて良かったと思ったから。その本心が少しでも伝われば良いと、笑顔を持って彼女に答える。

 

 

「〜〜〜ッ!!………そ、それなら良かった。じゃあ、帰ろっか………………。」

 

 

 僕の笑顔が、彼女にどう映ったのかは分からない。もしかしたら、ぎこちない笑みは情け無いものだったのかも知れない。それでも、これが僕のありのままだったのだ。

 

 

「………また、来よっか。」

 

 

「———!?………はい!!」

 

 

 夢のような一日は、こうして幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




絵ばっかり描いてたら執筆遅れました。

追記.必須タグ【ガールズラブ】を除外しました。長いこと検索妨害・タグ荒らし等に繋がっていましたこと深くお詫び申し上げます。


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