男の娘って生き辛そう   作:ウジ虫以下

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本編
第一話『男の娘と清楚系同級生?』


 

Q.1 男の娘と女装男子の違いを述べよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

女の子のような容姿をしている男と、女の子のような容姿にしている男という違いではないか、と僕は思います。

 

 

 

 僕の名前は、緋影 千尋(ヒカゲ チヒロ)。周囲の人々からは女の子のようだと言われて生きてきました。女の子と間違われたことも数え切れないほどです。

 

 

 そのように言われる事に、少なからず自分にも原因があるという意識もあります。

 

 

 亡き母譲りの長く美しい白絹のような髪の毛は、男であることなんて関係ないかのように真っ直ぐとした、女の子のような髪質をしていました。

幼い頃からそれはそれは、美しい物なのだとたいそう持て囃されたものでした。

 

 

 そんな誇りである髪を、女の子のように長く伸ばしているのが、一つ目の原因。

 

 髪の毛だけでは飽き足らず、顔でさえも母に似た女の子然とした容貌。母譲りのルビーのように輝く真紅の瞳が、それらをより際立てせているんだとか…。これが二つ目の原因でした。

 

 

 そんな僕ではありますが、少しばかり男らしさというものを出す為に、学ランが指定校服である高校に進学したのです。

 

 

 訳あって切れず仕舞いである髪の毛は、邪魔にならないように頭頂部で結びポニーテールに。男の子はすぐ大きくなるから、と少し大きめのサイズの学ランを父に買ってもらい、いざ身につけて全身鏡に映る自分を見る。

 

 

 そこには女の子が必死になって男の子の格好をしている様に見える自分がいるだけでした。

 

 

 それでも、一年生の頃はクラスメイトともそれなりの関係を築けていた。進学先の高校では最初こそ、こんな容姿の僕を避ける人も多かったけれど、それでも少し経てば話しかけてくれる人も増えていった。

 

 

 最初は、人形のような摩訶不思議なもののように接していた人々も、話してみればそんなことも無くなって。一人の人間として、クラスメイトとして接してくれるようになった。みんなが皆、そうしてくれたというわけではなかったけれど、それでも一年生の頃は、良かったと思う。

 

 

 

 

 そんな環境も長くは続きませんでした。

 

 

 

 

 生活が一変したのは、2年に進級してすぐの頃です。

 

 

 クラスの女子グループのリーダー的存在である日高 茜(ヒダカ アカネ)さん。彼女はどうやら、僕の容姿から身なり、性格までが気に入らないようでして僕のことが嫌いみたいでした。

 

 

 最初こそは、虐めとすら呼べないような些細な陰口から始まりました。

 

 

「男のくせに女みたいだ」「男なのに髪を伸ばしているなんて意味がわからない」程度の誰しもが僕を見て抱く感想だったから、事情を説明すればわかってもらえるのだと思っていました。

 

 

 しかし、そんな考えは唯の他人に対する願望であったと思い知らされたのもその時でした。一人のクラスメイトがヒダカさんの言葉に賛同しました。

 

 

「私もなんか普通じゃないなって思ってた!」

 

 

 一人が乗れば、そこからは疑念を持っていた人達も乗り始めました。

 

 

「はっきり言って気持ち悪いよね」

 

「トランスジェンダー?とかいうやつなら女子制服着ればいいのにね。それも意味わかんないけど」

 

「あーあ、これから一年男女?女男?と一緒の空間か」

 

とか。とか、とか…。

 

 

 

 それでも、陰口であれば僕が聴こえていないフリでもして耐えていればいいと思っていたんです。

 

 しかし、最初は陰口からといっても、一度でも不信感を抱いた人たちは排他的思考になるとでも表現するのでしょうか。次は、物が無くなったり、少しぶつかられたり、無視をされたりと本格的な虐めへ発展して行きました。

 

 もちろん、自分が無くしてしまった、故意ではなかった、考え過ぎだったと考えることもできます。それでも、その時はもうそんな考えすら出来ない状態になっていたんです。

 

 

 

 今日も今日とて、校門を抜け、自分の教室へと足を運ぶ。陰鬱とした気分であったし、最近は教室に行きたくないと思うことも少なくなかったが、父が学費を払ってくれているのだ仕方がないと思う。

 

 

 父には、学校での状況を話してはいないが、何かきっかけさえあれば何処かから伝わるかもしれないという気もする。

 

 

 たとえば、担任の先生とか。思い浮かべてみたものの、それ程熱心な教師であるという印象もない。だからこそ、自分の口から漏れさえしなければどうということはないのだ。我慢だ、我慢。

 

 

 そんなことを考えながら、教室の前までやって来た時、背後から自分を呼ぶ声がした。

 

 

「おはよう、ヒカゲくん。早速なんだけど、以前話した件は考えてくれたかな」

 

と、話を進めて来る声の主は、担任の井口先生だった。

 

 

「校長先生も時代に合わせたジェンダーレス制服を取り入れようって考えなのよ?大丈夫、貴方さえ良ければ女子制服を着てもらって構わないことになっているから」

 

 

 先生方はどうやら僕の性自認が女性であると決めつけて、度々そのような話を持って来ていた。

 

 

「校長先生が、あの生徒はいつになったら女子制服を着て来るんだって煩いのよ。先生のためを思って早めにしてくれないかな?」

 

 

「あの、僕は………。」 

 

言葉が詰まってしまう。

 

 

「クラスの子達だってそうすれば奇異の目で見て来ないはずだわ。ね、どうかしら?」

 

 

「父と相談してみます…。」

 

 

「お母さんとは話してみた?女性のことなら一番身近な女性に話してみるのが一番よ」

 

 

 そのように、先生は言葉を紡ぐ。あぁ、やっぱりそれ程生徒に対して熱心な教師ではないのであろう。

 

 

「……………母はもう他界しておりますので…。」

 

 

「………えーと、そうだっけ。それじゃあ、お父さんと話してみてね。先生待ってるから」

 

 

 もう何度目かになるであろう説明をすると、井口先生はバツの悪そうな顔をして話を切り上げた。

 

 

 

 会話が終われば、教室の戸を潜り、自分の席に着いた。我慢の時間がやって来る。

 

 

「うわ、まだアイツ来てんのかよ」

 

 

 今では、最初のうちは加わっていなかったような男子生徒の陰口すら聞こえるようになっていた。我慢だ、我慢。

 

 

 そうしていると、ヒダカさんが数人の友人と会話をしながら、僕の席の横を抜けていく。

 

 

 故意ではなかったのだと思いたい。抜けていく彼女らの身体が僕のペンケースに当たり、床へと落ちた。運が悪い事に開いたままであったせいで中身をぶち撒けてしまう。早く拾わなければいけない。そそくさと中身を集めている時に、ヒダカさんが振り返った。

 

 

「え、ごめん。当たっちゃった感じ?」

 

 

 彼女の軽率そうな声が、妙に心に刺さった。もしかしたら、その時はなんだかイライラしていたのかもしれない。井口先生のせいか、それともヒダカさんのせいか。原因があるとすればきっと自分のせいだったのだと思う。

 

 

 それでもその時は、つい要らない疑いを彼女に口にしてしまっていた。

 

 

「あの、出来れば物を隠すのだけはやめてください。」

 

 

「は?私達そんなことはしてないんだけど」

 

 

 その時の彼女の表情は、とても嘘を吐いているようには思えなかった。やはり考えすぎだったのかもしれない。どうやら僕は、在らぬ疑いをかけてしまったのだ。

 

 

「本当意味わかんないわ、アンタ。」

 

 

と言い残すと、彼女はすぐに輪の中に戻って行った。

 

 

 

 それからは自責の念に駆られ、授業にも身が入らず、そうこうしているうちに、お昼休みがやってきた。クラスに居場所のない僕は、そそくさと自作の弁当を食べ終え、教室を出る。特にコレと言う行先もないけれど、教室に居るよりは、こうしてフラフラしているほうが幾分か気楽であった。

 

 

 途中で、自分を呼ぶ声がした。しかし、この学校に僕に話しかけて来るような人物は、あまり記憶にはないのだけれど…。

 

 

 僕を呼んでいたのは、姫宮(ヒメミヤ)さんだった。

友人と歩いているところに、僕を見かけたから声を掛けてくれたらしい。

 

 

 彼女とは、中学校が同じで、中学校の頃から、三年一緒のクラスでもあり、高校でも一年生の時は同じクラスであった。一年生の頃から何かと気にかけてくれる子で、そんな彼女のおかげで一年生の時は馴染めていたと言ってもいい。

 

 

 だからこそ一方的なものではあるが、数少ない友人と呼べるのが彼女であった。

 

 

「こんな所でどうしたの、ヒカゲくん。」

 

 

 彼女は容姿端麗で、こうして僕みたいなのとも優しくしてくれる。

 

 

 そんな彼女だからこそ、瞬く間に周囲と打ち解け、今では学園の華となっていた。

 

 

「ちょっとフラフラとしてただけです。」

 

 

「そうだったんだ。せっかくだし、お話したかったんだけど、もうちょっとで予鈴なっちゃうみたいだよ。早く戻らなくちゃね。」

 

 

 そう教えてくれた後、それじゃあまたね、と笑顔を振り撒き、小さく手を振った後、友人の元へ戻って行った。

 

 

 戻ってきたヒメミヤさんに彼女の友人が

「あの子、クラスで虐められてる子でしょ。関わんない方がいいよ。」

と言っているのも聞こえてはいたが、ヒメミヤさんならきっと大丈夫だろうと踵を返し、教室に戻る。

 

 

 

 それからは、もう少し我慢していれば帰れるのだと自分に言い聞かせて、ただ時間が過ぎるのを待って…待ってい…。

 

 

 辺りを見れば、もう夕焼け空になっている事が伺えた。どうやら僕はずっと、居眠りをしていたようだ。

 

 

 放課後になったとしても、居眠りしている僕を起こしてくれるような人がいるはずもなく、眠りこけていたみたいだった。授業の途中までしか記憶もないし、僕は不良行為を働いてしまったみたいです…。

 

 

 まだ眠気の残る頭を起こし、時計を見てみれば下校の時刻が近づいている。早く教室を出なければいけない。もっとも、母が亡くなってからは家事は僕の担当であったから、より急がなければいけないのだという思いが先行させた。

 

 

 教室を出て、一階まで降りた時に忘れ物をしていることに気がついた。ロッカーに置いて来てしまった体操服は、以前にも無くなってしまったことがある。

 

 

 朝は、ヒダカさんに良からぬ疑いを掛けてしまったのだ。出来ることなら誰かに盗られている可能性も考慮して、忘れ物の類いには気をつけるべきだと考える。

 

 

 

 幸いにして、まだ校内にいる。取りには行けるはずだと再び教室を目指す。

 

 

 

 そうして、教室の扉の前まで辿り着いた時、中に人の気配があることに気づいた。

 

 

(こんな時間に誰だろう…。)

 

 

 扉に手を掛けるが、一向に開けようとは思えずにいる。単純に考えれば自分と同じように忘れ物をした生徒、もしくは先生といったところだろう。

 

 

 しかし、中から密かに漏れる声は女声であり、一人で何事かをブツブツと話しているようだった。

 

 

「まったく、男の子なのに他の男子とは点で違うなんてけしからん。」ブツブツ

 

 

 僕には何だかわからない確信があった。この中にいる人物こそが、自分の持ち物を奪っているのだ、と。

 

 

 今日という日は、自分らしくない日だった。

 

 

 今日でなければ見て見ぬ振りをして、この場を去っていた。だけど今日は、犯人が知りたくなったのだ。そして問い詰めてやろうとすら思えた。

 

 

 だからこそ一度は諦めた手をもう一度扉に掛け、勢いよく教室の扉を開く。もう鬼が出るか、蛇が出るかは関係なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァ…❤︎ハァ…❤︎この匂いは、ダメですね❤︎いけないですよ❤︎いかんですよ❤︎❤︎❤︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 中に居た存在とは、こちらに気付きもせずに僕のゼッケンの貼られた体操服を手に持ち、一心不乱に鼻に擦り付けて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この作品でも、既存の作品と同様にキャラクター設定や素人絵によるキャラデザの投稿を予定しております。
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