男の娘って生き辛そう   作:ウジ虫以下

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『ヒメミヤさん』

 

 私、姫宮の朝は、大好きな人の匂いから始まる。

 

 

 枕元に置かれたソレを手繰り寄せ、顔元に持って行く。もう最近では、匂いが薄れて来ている気がしないでもないが、思い出補正で———まだイける。

 

 そう、ソレとはヒカゲくんから"貰った"彼の体操服のことである。

 

 コレもう本当にヤバイ❤︎❤︎❤︎何がヤバイと聞かれたらヤバイとしか言えない❤︎もう語彙力がない❤︎生きる伝説❤︎アーティファクト❤︎合法麻薬❤︎コレもう国で取り締まった方がいいんじゃないですか!?

 

 

 乱れ切った呼吸を落ち着かせる。

 

 

 猫や犬を飼っている人々は、顔を埋めてその匂いを嗅ぐ人もいるとは言うけれど、彼らはヒカゲくんの匂いを知らないから犬猫で満足しているんでしょう。

 

 モーニングルーティンを終わらせて、制服を着る。うん、いつもの清楚系完璧優等生美少女の私ですね!

 

 鼻歌でも歌いたい気分ではありますが、優等生を演じる私は、日々の生活でも気を抜きません。いつでも完璧な私を見てほしいですからね、ヒカゲくんに。

 

 …………あれ、それともギャップ狙いで意外な一面を見せる方が……。いえ、やっぱり自慢の完璧幼馴染の私を見てほしいですね!!

 

 朝からこんな浮かれ気分なのも、全てヒカゲくんに出逢えたおかげです。私が変われたのも全て彼のおかげなんです。崇めましょう、ヒカゲくんを。

 

 

 ルンルンルンルン〜♪と登校します。通学カバンには、先日"頂いた"もう一枚の体操服も忘れません!!

 

 

「皆さん、おはようございます♪」

 

 

「ヒメミヤさん聞いた?A組の、あの女の子みたいな人。問題起こしてから教室来なくなったんだって。やっぱ不登校かな?」

 

………………A組の、女の子みたいな子???

それってやっぱりヒカゲくんのこと???え、ヒカゲくん学校来てないんですか?ヒカゲくんが不登校?あんなに明るくて、可愛いくて、綺麗で、誰の事も傷つけないような人が?ヒカゲくんが問題なんか起こす筈ないじゃないですか。きっと何かの間違いですよ。彼のことを理解すれば、皆きっとヒカゲくんの素晴らしさに気付く筈なのに。ねぇ、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして…………。

 

「あれ、ヒメミヤさんってその子と中学同じなんじゃなかったっけ?やっぱヒダカ達やり過ぎだよね」

 

…………………あ、やっぱりそうなんですね!!

あのヒダカとかいう女が原因なんですね。あぁ、やっぱりそうだ。だから、言ったんだ。ヒダカとかいう女は許せないってあんな女が居たから穢れも知らないようなヒカゲくんが、闇に堕とされたんだ。あぁ、私が救けてあげないと。ヒカゲくんの唯一の理解者で、幼馴染の私が救け出してあげないといけない。でも、日高茜、あの女だけは許せない。例えヒカゲくんが誰かを恨むような事は絶対無い性格だったとしても、私が代わりに天誅を下さなければならない。ヒダカ、許さない許さない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。

 

 

 いえ、きっと何かの間違いですね!これからヒカゲくんのクラスを見に行ってみましょう。ヒカゲくんは、今日も学校に来ているはずですから!

 

 

 

 

 

 

 

………

……

…………………いない。ヒカゲくんがいない。学校の何処を探してもいない。ヒカゲニウムが足りてない。ヒカゲくんの無垢な笑顔からしか得られない成分が足りない。ヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくんヒカゲくん…………チヒロ、くん。

 

 今、ヒカゲくんは何をしているんだろう。家に居るのかな?無事ならいいな。体調崩してないかな?お腹出して寝たりしてないかな?お父さんとは仲良くやってるのかな?学校に来なくなっても、優しいヒカゲくんだもん、家事は怠ってるわけないよね?ヒカゲくんは、お父さんと二人暮らしだからお母さんとか恋しいんじゃないかな?

 

 あ、私が行ってあげようかな?ヒカゲくんの家に様子を見に行くんだ。うん、そうしよう。

…………………………………………

…………………………………

…………………………

……………………

……………

………

……

…………………………私、幼馴染なのにヒカゲくんの家知らないや。

 

 

まぁ、いいや!今度ヒカゲくんが学校に来た時に遊ぶ約束でもすれば解ることだもん!

 

 

…………………今度っていつだろう。

 

 

 

 

『あ、あの………今日のことはお互い忘れて、また幼馴染として過ごしていくというのはどうでしょうか…?』

 

『………………無理そうかも。』

 

 

 あれ?あれ、あれ?なんだろう、この記憶。私がヒカゲくんが私のことを拒むはずなんてないのに…………。

 

 

……………………あぁ、そうでした。私ヒカゲくんに避けられてるんでした。鞄の中の体操服も、家にあるのだって盗んだモノだったんでした。でも、泥棒ってわけじゃないです!私達、幼馴染ですから。あぁ、謝らないといけないですね!ヒカゲくんに会って謝らねば。でも、ヒカゲくんとの接点がもうない。幼馴染なのに家も知らない。どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…………ヒカゲくんに纏わりつく羽虫から聞き出せばいいか!

 

 

———あぁ、いつの日か貴方が思い出してくれるというのならそれで良い。私のことを忘れてしまったことも水に流すことにしよう。だって私達は、おさなn………………………。

 

 

 もう匂いもしなくなってしまった彼の体操服を抱えて、ただ荒れ狂う心を鎮める。誰かが貴方を傷つけるというのならば、私だけが貴方の理解者になってあげるから。だから、大丈夫だよチヒロくん。

 

 お母さんが亡くなった時のような、傷ついた貴方の顔だけは見たくない。

 

 

 

 




モチベが低い。

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