男の娘って生き辛そう   作:ウジ虫以下

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【注意】この話には一部の方々にとって不快に感じ兼ねない表現、描写が含まれています!!自己責任で、お読み下さい。

もし、リスクを冒したくない人がいれば、


『なんやかんやあって、カナデさんと同居し始める』


という内容だけ覚えて、次の話を待っていて下さい。どうか御理解の程、宜しくお願い致します。




第八話『醜悪』

 

 

 カナデさんとのデート?から一夜が明け、日曜日がやって来た。休日は疲れ切った身体と心を休めるために使う日だ。カナデさんと出掛けたことで、メンタルケアは充分だった。

 

 

 つまり、今日は精神的にも余裕があるのだ。

 

 

 最近はやれていなかった、細かな部分の掃除をしてしまおうと思う。隙間汚れや、手の届かない高い所、折角だからエアコンのフィルターも掃除して……………。

 

 

◆◆◆

 

 

「よし、綺麗になったかな」

 

 

 掃除が終われば洗濯物を干す。そして、今晩の夕飯のために買い物に行くことにする。

 

 

 どうやら父は、出掛けているようだったので昼食は簡単なモノで済ました。一人の時に力を入れる程の甲斐性は持ち合わせていなかったのだ。

 

 

 夕食は父の好きなカレーにしようと決めて、他に必要なモノがないか確認する。

 ティッシュもあるし、ゴミ袋もある。卵は一昨日買ったばかりだし、バターは………。サラダ油が無いな。確認しておいて良かった。

 

 

 戸締まりをしっかりとして、カレーの材料とサラダ油、と口ずさみながらスーパーへと歩みを進めた。

 

 

◆◆◆

 

 何一つ忘れる事なく、無事に買って帰れたわけだけど、安かったから買い溜めしてしまった。下校中に買って帰るよりは、休日に買っておいた方が良いのは明らかなので誤差のはず。

あまり日持ちはしないようではあるが、献立を工夫すればいいか。

 

 

 やる事が無くなって暇になってしまった。最近は暇が出来るようなことも無かったからか、この時間が心地よい。宿題だって疾うに終わっていたし、もうカレーを仕込んでしまおうかと思う。

 

 

 調理の為に頭頂部で髪を纏め、愛着のあるクマのアップリケの付いたエプロンを見に纏う。この歳にしては、少し子供っぽい気もするが家で使う分には関係ないだろう。

 

 

 時刻は18時。父の予定は聞いてはいなかったが、そろそろ帰って来てもいい頃ではないだろうか。

 

 

 カレーの材料を適当なサイズに切っていく。まるごと入れて煮詰めるような作り方もあるけれど、我が家では食べやすいようにしておくのが普通だった。いつかはチャレンジしてみても良いけれど、父は僕のカレーを美味しいと言ってくれるし、通常と変えてみる程のチャレンジ精神は残念ながらない。

 

 

 じゃがいもの皮を剥いて、芽を取るのを忘れずに………。

 

 

———ガチャっと扉を開ける音が聞こえてきた。どうやら父が帰って来たようだ。早めに帰って来てくれて良かった。夜も外で食べて来ると言われたら、一人で食べないといけなくなるところだった。

 正直、孤食は寂しい。今でこそ学校でもヒロミさんやヒジリカワ先生と食べることが増えたが、教室にいる時は一人で食べていたのだ。自分で詰めた弁当を一人で食べるなんて、凄く虚しい行為だった。

 

 

「おかえり、お父さん。今、夕飯を作ってるから座って待っててよ」

 

 

 まな板の方を見ていたので、父に面と向かって伝えることは出来なかったが、それなりの音量で発したので聞こえていることだろう。

 

 

 手を進めていく。父が帰って来たので、より早く切り分けていく。まだまだ時間は早いが、あんまり待たせるわけにもいかない。

 

 

 ネクタイを結んで行ったのだろうか、背後からシュルシュルとした衣擦れの音を耳が拾った。休日なのに珍しいな、と思う。

 

 

「………なぁ、チヒロ。最近母さんに似て来たんじゃないか」

 

 

 確かに、記憶の中や写真の中の母の姿に似て来てはいると思う。それでも、あの美しい母に似ることは誇らしいことになるだろう。自慢だ。唯一の自慢。

 

 

「…………そうかな?」

 

 

「……あぁ、なんだかチヒロの後ろ姿を見ていると母さんを思い出すよ」

 

 

 そんなことを口にした父が、僕の背後にまでやって来ていた。父の影と被って、手元が見え辛くなる。何だか少しだけ様子がおかしいような気がした。

 

 

「……今、包丁を使ってるから危ないよ?夕飯は父さんの好きなカレーだから座って待っててよ。……………………だから」

 

 

「———なぁ、チヒロ。少しだけ、お前は我慢していればいいから……」

 

 

「——何言って………〜っ!!!」

 

 

 父の口からは珍しくアルコールの臭いががするな、なんて考えていた。きっと酔っていたから母の面影と重ねているだけなんだって一人で納得していた。

 

 

 その時だった、自分の臀部を大きな手が掴み上げたのは。咄嗟に咎めようとして、声を上げると地面に組み伏せられてしまう。フローリングの硬い床に頬を押しつけているで、当然痛い。衝撃で口内が切れたのか、口いっぱいに血の味がする。不幸の味だ。

 このままでは不味いと思って抵抗しようとするが、びくともしなかった。父の力は男のそれで、僕なんかとは全く違う。嫌でも自分が男として劣っているのだと自覚させられる。この男には敵わないのだと、細い手足では抵抗なんて無駄な事なのだと告げるように。

 

 

(酔っているだけなんだ、お父さんは酔っているだけ。きっと僕に気に入らない所があって、それを正そうとしているだけ。………力で組み伏せて?)

 

 

 違う、違う違う。父のしようとしていることは、そんな事じゃない。血走った眼を、下卑た口元を目で捉えた。もう嫌でもわかった。父が自分に何をしようとしているのか。僕が女みたいだから、亡き母に似て来ているから。

 ……………だから。

 

 

 ダメだ。どうにかして抜け出さなければ取り返しの付かないことになる。こんなのは、僕も父も望んでいた未来ではないはずなんだ。父は血迷っている。自分で解決しなければ、されるがままになってしまう。……でも、僕さえ我慢すれば、我慢……我慢。

 

 

「や、やめてよお父さん!!痛いよ!!」

 

 

 そんなのはダメだ。声で抗ってもダメだった。もう聞く耳を持っていない。隙を見て逃げ出すしかないんだ。…………だから、ベルトなんかに手を当てないでよ。

 

 

 隙は、すぐにやって来た。此処しか無かった。好機だった。その隙で顎に頭突きを咬まして、緩んだ父の手から逃げ出す。そのまま、玄関を抜けて外に出る。……何だか、こんな事が前にもあったような。

 

 

 ある程度、自宅から距離が取れた所で足を止める。もう、戻れない。家には戻りたくない。怖い。怖い。父が怖い。今まで、あんなに優しかった父が、あんな猛獣の様なことをするなんて。……怖い、怖いよ。

 息の整わない身体を、自身の手で抱き寄せる。恐怖で震え上がった身体は、それでも治らない。誰か、救けて欲しい。……誰か、誰か。…………カナデさん。

 

 

 ポケットにスマホを入れていたことを思い出す。良かった。この身一つで出てきたわけじゃなかったらしい。

 必死になって、カナデさんに連絡を入れた。こんな時ばかり頼っている自分が情けなくなる。それでも、もう我慢出来なかった。

 

 

『…どうしたんだ、ヒカゲ?』

 

 

 カナデさんは、通話に出てくれた。彼女の声を聞いただけで安心してしまう。そのせいか、涙が止め度なく溢れていく。

 

 

「………カナデさん、救けて……僕を救けてください。」

 

 

『———わかった。今何処にいる?すぐに向かうよ』

 

 

◆◆◆

 

 カナデさんは、本当にすぐに来てくれた。僕の様子を見て、場所を移そうと提案してくれる。カナデさんと出会ったあの日と同じように手を引いてくれた。それだけで救われたような気がした。

 

 

 場所を移すと連れられて来たのは、カナデさんの部屋だという場所だった。彼女のクールなイメージと合っているけれど、所々昨日見れた可愛いさがチラつくような部屋模様だ。

 

 

 着いてから、温かいお茶を用意してくれたカナデさん。少しだけ何も言わない時間が続く。それでも彼女といるから、この時間も安心できる。僕の口から話して来るのを待ってくれているのだろうか。彼女は気遣いが上手い人だ。だから、頼らせてもらうしかない。彼女に救けてほしかった。どうしようもない暗闇から引き上げてほしかったのだ。

 

 

 そして、口を開く。自分から今日あった事を全部話していく。話すと気が楽になった。

……………抱え込まなくていいというのが、どれだけの救いとなることか。

 

 

「…………そんなことが。ヒカゲ、辛かったよな。苦しかったよな。———アタシを頼ってくれてありがとう」

 

 

 話を聞いてくれたカナデさんが、僕のことを抱き締めた。在りし日の母の温もりを思い出す。

 大好きだった母。……そして、大好きだった父。もう声を上げて泣くしかなかった。考えただけで限界だった。カナデさんの胸の中で子供のように泣き喚く。大好きだった、大好きだったのに全て失ってしまった。もう元の家族には戻れない。こうなってしまっては無理なんだ、と嘆くしかない。

 

 

「……ヒカゲ、聞いてくれ。良かったらなんだけど、行く場所がないならアタシの家に居てくれないか?………今のヒカゲを放ってなんて置けないよ」

 

 

 カナデさんは、ずっと優しい言葉をくれる。僕が欲しかった言葉をくれる。誰かに必要とされたかった。誰かに優しくしてほしかった。

……だから、彼女の言葉は救いだった。彼女の存在は救いだった。僕の救い。僕はカナデさんに救われたのだ。二度も救ってもらったのだ。

 

 

「———はい。カナデさん、どうか僕を此処に居させてはもらえませんか?」

 

 

 そうして、僕が置いてもらうという形で、カナデさんとの同居が始まったのだ。

 

 

 チヒロの濁った瞳は、もう何も他を映さない。ただ、目の前の彼女へと盲目的に恋焦がれるだけだった。

 

 

 

 

 

 





曇らせの為には必要だったんです!覚悟を持って投稿致しました。
この話以外にはボーイズラブのような展開は予定していません。(というか男の娘×美少女を百合とするなら、これはNLなのでは…?)

前話にて相談させて頂いたタグについては、評価は気にせず自分を貫くことにしました。それでも、百合を期待して見てくれる人の為にも一話に注意書きを設けることで被害を防ごうと思っています。

気づいたら凄く伸びてて驚きました。皆様から頂いた感想等はgoodしか返せていませんが、一つひとつ噛み締めて励みとなっています。感謝します!

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