私は一目惚れをした。女神である私が特定の人物を愛する事はいけないこと。それは分かっているんだけどさ……日に日に想いが強くなっていくのを感じるんだよね。意識しなくても彼のことを探してしまったり目で追ってしまったりする。
彼は私のことなんか知らないだろうし、眼中にもないと思う。だって話したことすら一度も無くて認識されるはずがない。何回か話しに行ってみようと思った事はあったけど、それを実行に移せなかった。いざ話しかけようと思うと、緊張して言葉が出てこない。どんな話をしたらいいんだろうとか話し掛けて迷惑じゃないかとか色々と考えてしまう。
そんな悩みを抱えながら私は日々の日常を暮らす。そして今は一仕事を終えて、一息を付いていた。どんなに忙しくても彼のことが頭から離れる日はない。いつどんな時でも考えてしまう。
「はぁ……」
「どうしたの?クリス」
声のした方向に視線を向けるとそこには…心配そうな顔をしながら私のことを見ているアクア先輩がいた。アクア先輩は本来の姿である『エリス』だと意地悪なことをたくさん言って来るけど、クリスの姿だと普通に話してくれる。
「アクアせ……アクア」
「そうよ、上級職のアークプリーストのアクア様よ!」
酔っていることもある……いや、いつものアクア先輩ですね。アクア先輩が持っている酒瓶から察するに…一本全部飲んじゃったんだろうな。顔はもう真っ赤で蒸気が顔から出てもおかしくないほど。
「それであんたはなにか悩み事?」
「…よくわかったね」
「だってあんたったらずっと椅子に腰を下ろして頬杖を付いたまんまなんだもん。誰でもおかしいと思うわよ」
「そうか」
「それでどんな悩み事なのよ?この美しい女神様が相談に乗ってあげるわよ。」
「ある男性に一目惚れをしてしまいまして……一度も話したことがないんですが、」
「そういうことなら私にまかせなさい!!」
アクア先輩をそう高らかに宣言して持っていた酒瓶を勢いよく飲んでいた。この姿を見て、女神様だと認識できる人は居ないでしょうね。
私は立ち去ろうとしているアクア先輩を呼び止めた。
「ち、ちょっとまってください!! なにをする気ですか!」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ、私にまかせなさいって!」
この人の「任せなさい」ほど心配なものはない。何を仕出かすか分からない状態で野放しにしておいたら確実に何か事を起こす。アクア先輩ともそれなりに長い付き合いだからこそ、色々と分かってしまう。
「…その大丈夫が心配なんですよ……」
その後もアクア先輩は「まかせておきなさい〜〜」という言葉を繰り返すだけで、まるで私の話を聞いてくれなかった。