『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝(改訂版)   作:ドラゴンネスト

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009『進撃のキシリュウジン ②』

「あ、ありがとうございます! うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」

 

ぐしぐしと嬉し泣きするシア。しかし、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。

 

「あ、あの、宜しくお願いします! そ、それで皆さんのことは何と呼べば……」

 

「ん? そう言えば名乗ってなかったか……俺はハジメ。南雲ハジメだ」

 

「……ユエ」

 

「オレは京矢、鳳凰寺京矢だ。で、あいつはオレの相棒のキシリュウジン」

 

「私はエンタープライズだ」

 

「京矢様のメイドのベルファストでございます」

 

「ハジメさんとユエちゃんと京矢さん、エンタープライズさんにベルファストさんですね」

 

5人の名前を何度か反芻し覚えるシア。そして、自分たちを見下ろしているキシリュウジンを見上げて、

 

「そ、それから……キ、キシリュウジンさんですね……さんで良いですよね!? 様じゃなくて?」

 

「ああ、様じゃ無くて大丈夫だから、安心しなって」

 

やはり、味方だと分かっても見上げるほどの巨体の完全武装の巨人相手なのだから心底怖がっているシアであった。

 

しかし、そんな中でユエが不満顔で抗議する。

 

「……さんを付けろ。残念ウサギ」

 

「ふぇ!?」

 

ユエらしからぬ命令口調に戸惑うシアは、ユエの外見から年下と思っているらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。

どうもユエは、シアが気に食わないらしい。何故かは分からないが……。例え、ユエの視線がシアの体の一部を憎々しげに睨んでいたとしても、理由は定かではないのだ!

過去にベルファストやエンタープライズの体の一部の事も睨んでいたが、定かでは無いのだ!!!

 

「話が纏まったなら急いだ方がいいんじゃ無いのか? キシリュウジン、頼む」

 

京矢の言葉に頷いたキシリュウジンが掌を上に向けて片手を地面に下ろす。乗れと言う事なのだろう。

躊躇なく掌の上に乗り込む京矢とベルファストとエンタープライズ。

表情には出さずにいたがどこから見ても嬉しそうな様子で掌の上に乗るハジメとそれに続くユエ。

最後に恐る恐ると言った様子で掌の上に乗るシア。

 

全員が乗った事を確認すると膝立ちになっていたキシリュウジンが立ち上がる。

 

「うおおおおおおおおおおお!」

 

「ひいいいいいいいいいいいい!?」

 

一度は夢見たが、決して叶うわけは無いと思っていた光景が現実の物となり、心の底から歓喜の声を上げてしまうハジメと、キシリュウジンの掌の上という場所と高さに心底恐怖の声を上げるシア。

 

「一度でいいから体験してみたかったんだよな、こう言うの」

 

「何だったら次は肩にでも乗ってみるか?」

 

「マジか!? 乗って良いのか?」

 

「良いよな、キシリュウジン?」

 

京矢の言葉に良いと言うふうに頷くキシリュウジン。巨大ロボという浪漫が分かる男同士の会話が交わされるのだった。

自分の会得した神代の魔法でも作れないであろう巨大ロボ。それが今ハジメの目の前にあって掌の上に乗せてもらえている。肩にも乗せてもらえる。心底感動を浮かべていたのだった。

……流石にコックピットに入れてくれまでは言わなかったが、場合によっては京矢も許可はしてくれる。

 

 

 

 

 

 

なお、

 

 

 

 

 

「巨人が近付いて来るゾォ!!!」

 

「うわああぁぁ!」

 

近づいて来るキシリュウジンに絶賛混乱中の帝国の皆さんであった。

ハウリア族を追いかけて居て化け物としか思えない巨人と出会った彼らの心境は如何に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……このキシリュウジン……さん? 何なのでしょう? それに、ユエさん魔法使いましたよね? ここでは使えないはずなのに……」

 

そもそも、こんな巨人の存在など今まで聞いたこともないだろう。

 

「あ~、それは道中で、こいつがな」

 

「少しは時間はかかりそうだからな」

 

ハジメの言葉にそう返しながらキシリュウジンに急いで貰っていた。悪路などキシリュウジンの巨体には小石が落ちている程度のものだ。

その常識を超えた高さと歩く振動にシアがハジメに抱き付いて「きゃぁああ~!」と悲鳴を上げた。

後ろからはキシリュウジンの胸部のティラノサウルスの頭がこちらをみているし、前は空しか見えない。

 

その光景に目を瞑ってハジメにしがみついて居たが、しばらくして慣れてきたのか次第にその景色に興奮してきたようだ。

 

ハジメは道中でユエが魔法を使える理由、ハジメの武器がアーティファクトみたいな物だと簡潔に説明した。

すると、シアは目を見開いて驚愕を表にした。

……だが、京矢のことについての説明はされて居ない。そう、一切、だ。

 

まあ、キシリュウジンもガチャ由来の品だとは想像できるし。

 

「ってな感じで二度目の戦いじゃキシリュウジンで風達の魔神に味方して一緒に戦ったんだぜ」

 

だが、ハジメは疑問に思う。

京矢から聞かされるキシリュウジンの活躍はセフィーロでの二度目の戦いだけだ。

剣と魔法の世界で巨大ロボを操って戦う魔法騎士の事も気になるが、恐らくは一度目の戦いの決戦の時期に初めて使ったとは思うが、京矢はそれを話したがらない。

いつかは聞いてみたいとは思うが、それは飽くまで魔法騎士の従姉妹達にも関係するので帰ってからになるだろう。

 

「え、それじゃあ、皆さんも魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」

 

「オレは使う必要も無いから分からないし、エンタープライズとベルファストは使えないけど、ハジメ達はそうなるな」

 

「ああ。って言うよりも、魔力も使わないで身体能力の強化ができたり、剣から衝撃波使ったりお前って本当に人間か疑うぜ」

 

「……ん、疑問」

 

「おいおい、その言い方は酷いぜ、お二人さん」

 

しばらく呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様にハジメの肩に顔を埋めた。そして、何故か泣きべそをかき始めた。

 

「……いきなり何だ? 騒いだり落ち込んだり泣きべそかいたり……情緒不安定なヤツだな」

 

「……手遅れ?」

 

「可哀想に」

 

「手遅れって何ですか! 手遅れって! 私は至って正常です! だから、哀れなものを見るような目で見ないでください!!! ……ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」

 

「「「「「…………」」」」」

 

どうやら魔物と同じ性質や能力を有するという事、この世界で自分があまりに特異な存在である事に孤独を感じていたようだ。

家族だと言って十六年もの間危険を背負ってくれた一族、シアのために故郷である樹海までも捨てて共にいてくれる家族、きっと多くの愛情を感じていたはずだ。それでも、いや、だからこそ、〝他とは異なる自分〟に余計孤独を感じていたのかもしれない。

 

シアの言葉に、ユエは思うところがあるのか考え込むように押し黙ってしまった。いつもの無表情がより色を失っている様に見える。ハジメには何となく、今ユエが感じているものが分かった。おそらく、ユエは自分とシアの境遇を重ねているのではないだろうか。共に、魔力の直接操作や固有魔法という異質な力を持ち、その時代において〝同胞〟というべき存在は居なかった。

 

だが、ユエとシアでは決定的な違いがある。

ユエには愛してくれる家族が居なかったのに対して、シアにはいるということだ。

それがユエに、嫉妬とまではいかないまでも複雑な心情を抱かせているのだろう。しかも、シアから見れば、結局、その〝同胞〟とすら出会うことができたのだ。中々に恵まれた境遇とも言える。

 

そんなユエの頭をハジメはポンポンと撫でた。

日本という豊かな国で何の苦労もなく親の愛情をしっかり受けて育ったハジメには、〝同胞〟がいないばかりか、特異な存在として女王という孤高の存在に祭り上げられたユエの孤独を、本当の意味では理解できない。

 

京矢も転生者と異質な存在だが、前世の記憶はない上に直葉と言う同類と言うべき存在とは比較的早く出会えた。

ガチャを通じてだが同類は呼び出せるし、家族にも恵まれて居た。

 

それ故、かけるべき言葉も持ち合わせなかった。出来る事は、〝今は〟一人でないことを示す事だけであり、それはハジメに任せるべき役目と考えて邪魔にならないように離れる。

 

すっかり変わってしまったハジメだが、身内にかける優しさはある。

あるいは、ユエと出会っていなければ、京矢と再開しなければ、それすら失っていたかもしれないが。ユエはハジメが外道に落ちるか否かの最後の防波堤と言える。

ユエがいるからこそ、ハジメは人間性を保っていられるのだ。その証拠に、ハジメはシアとの約束も守る気だ。樹海を案内させたらハウリア族を狙う帝国兵への対策もする気である。

ハジメがその気ならば友人である京矢も存分に力を貸す気だ。

 

「そいつはお前の役目だぜ、相棒」

 

「当たり前だ、誰にも譲る気はねえよ、相棒」

 

そんなハジメと京矢の気持ちが伝わったのか、ユエは無意識に入っていた体の力を抜いて、より一層ハジメに背を預けた。まるで甘えるように。

 

「あの~、私のこと忘れてませんか? ここは『大変だったね。もう一人じゃないよ。傍にいてあげるから』とか言って慰めるところでは? 私、コロっと堕ちゃいますよ? チョロインですよ? なのに、せっかくのチャンスをスルーして、何でいきなり二人の世界を作って、理解してるって顔しているんですか! 男の友情を確かめ合ってるんですか!? 寂しいです! 私も仲間に入れて下さい! 大体、皆さんは……」

 

「「黙れ残念ウサギ」」

 

「いや、空気読めよ、残念ウサギ」

 

「少しは空気を読んだらどうだ?」

 

「此処は黙っているべきところですよ」

 

「……はい……ぐすっ……」

 

泣きべそかいていたシアが、いきなり耳元で騒ぎ始めたので、思わず怒鳴り返すハジメとユエ。冷静に注意する京矢とエンタープライズとベルファスト。

だが、泣いている女の子を放置して二人の世界を作っているのも十分酷い話であるが、その辺は京矢達三人もスルーしているのも酷いと言えば酷い。

しかも、その上、逆ギレされて怒鳴られて、呆れた様に注意されてと、何とも不憫なシアであった。

ただ、シアの売りはその打たれ強さ。内心では既に「まずは名前を呼ばせますよぉ~せっかく見つけたお仲間です。逃しませんからねぇ~!」と新たな目標に向けて闘志を燃やしていた。

 

しばらく、シアが騒いでハジメかユエに怒鳴られるか、京矢かエンタープライズかベルファストに注意されるという事を繰り返していると、遠くで魔物の咆哮が聞こえた。

どうやら相当な数の魔物が騒いでいるようだ。

 

「! ハジメさん! もう直ぐ皆がいる場所です! あの魔物の声……ち、近いです! 父様達がいる場所に近いです!」

 

「だぁ~、耳元で怒鳴るな! 聞こえてるわ! 鳳凰寺、頼むっ!」

 

「ああ! お前等、あんまり無いだろうけど、全員何処かにしっかり掴まってろよ! キシリュウジン、急いでくれ!」

 

京矢がキシリュウジンにそう指示を出すとその言葉に応えるように頷きキシリュウジンの動きが早くなる。それに合わせて掌に乗っているせいか上下の揺れも激しくなっていく。

 

そうして走る事一分、最後の(一応)大岩を蹴り砕き進んだ先には今まさに魔物の群れに襲われそうになっている数十人の兎人族が………………………この世の終わりのような顔で絶叫して居た。

 

間違い無く地響きを立てて岩を蹴り砕いて現れたキシリュウジンに驚いたのだろう。

 

 

 

 

 

 

これだけは言える。一度はキシリュウジンで魔人族のど真ん中に乗り込もうかとも考えた京矢の考えが現実のものにならなくて良かったかもしれない。

 

***

 

ライセン大峡谷に悲鳴と怒号と絶叫が木霊する。

 

ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところか。

 

そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。

姿は俗に言うワイバーンというやつが一番近いだろう。体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ刺がついている長い尻尾を持っている。

そんな飛行型のモンスター達が絶句したと言う様子で驚いた顔をしている。

 

「ハ、ハイベリア……」

 

肩越しにシアの震える声が聞こえた。あのワイバーンモドキは『ハイベリア』というらしい。

そのハイベリアは全部で六匹はいる。兎人族の上空を旋回しながら獲物の品定めでもしていたようだ。……今は六匹ともキシリュウジンの巨体に驚いてフリーズしているが。

 

そのハイベリアの一匹が遂に行動を起こした。

自分達よりも巨大で強い魔物が現れたとしても、空を飛べる自分達ならば逃げ切れると考えたのだろう。

ならばさっさと適当な獲物を捕まえて逃げようと大きな岩と岩の間に隠れていた兎人族の下へ急降下すると空中で一回転し遠心力のたっぷり乗った尻尾で岩を殴りつけた。

轟音と共に岩が粉砕され、兎人族が悲鳴と共に這い出してくる。

 

ハイベリアは「急げ」と言わんばかりに、その顎門を開き、後ろにいる強大な敵に捕まる前に無力な獲物を喰らおうとする。

狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。

 

周りの兎人族がその様子を見て瞳に絶望を浮かべた。誰もが次の瞬間には二人の家族が無残にもハイベリアの餌になるところを想像しただろう。

しかし、それは有り得ない。

 

なぜなら、ここには彼等を守ると契約した、奈落の底より這い出た化物がいるのだから…

 

ドパンッ!! ドパンッ!!

 

峡谷に二発の乾いた破裂音が響くと同時に二条の閃光が虚空を走る。

その内の一発が、今まさに二人の兎人族に喰らいつこうとしていたハイベリアの眉間を狙い違わず貫いた。

頭部を爆散させ、蹲る二人の兎人族の脇を勢いよく土埃を巻き上げながら滑り、轟音を立てながら停止する。

 

同時に、後方で凄まじい咆哮が響いた。

呆然とする暇もなく、そちらに視線を転じる兎人族が見たものは、片方の腕が千切れて大量の血を吹き出しながらのたうち回るハイベリアの姿。すぐ近くには腰を抜かしたようにへたり込む兎人族の姿がある。

おそらく、先のハイベリアに注目している間に、そちらでもハイベリアの襲撃を受けていたのだろう。二発の弾丸の内、もう一発は、突撃するハイベリアの片腕を撃ち抜いたようだ。

バランスを崩したハイベリアが地に落ちて、激痛に暴れているのである。

 

「先手は南雲に譲ったが」

 

「次は私たちの番だ」

 

キシリュウジンの掌より二つの影が飛び出す。ガイソーグの鎧を纏った京矢とエンタープライズだ。

 

「剣掌!」

 

ガイソーグの放つ気刃がハイベリアの一体の胴を切り裂き、同時にエンタープライズの放った矢が別のハイベリアの脳天に突き刺さる。

脳天を撃ち抜かれたハイベリアと胴を切り裂かれたハイベリアがぶつかる様に絡み合いながら地面に落ちる。

 

そして、キシリュウジンの巨体の掌から飛び出したガイソーグとエンタープライズだが、エンタープライズの召喚した艦載機に騎乗し、そのまま地面に降りる。

 

シアを襲っていた双頭のティラノ“ダイヘドア”と同等以上に、この谷底では危険で厄介な魔物として知られている彼等が、何の抵抗もできずに瞬殺された。人知を超えた巨人の出現と同様に有り得べからざる光景に、硬直する兎人族たち。

 

生き残ったハイベリア達が危機感を覚え咆哮を上げながら飛び去っていくのが見える。ハウリア族を巨人の囮に逃げようとしているのだろう。

 

だが、

 

「コブラーゴ!」

 

足元にハウリア族が居ては巨体のキシリュウジンでの追撃は難しいと判断したガイソーグがコブラーゴ達に指示を出す。

元々キシリュウジンの剣とショルダーアーマーを構成する騎士竜達だ。本体となるキシリュウジンに比べれば二体とも小型の個体だ。

 

コブラーゴ達は肩から外れ、剣と合体し本来の姿に戻ると剣となっていた尾を武器に逃げ出したハイベリア達を追撃する様な形で叩きつける。

……帝国兵が陣取っている階段の近くにハイベリア諸共。

そして、そのまま二体の騎士竜は帝国兵の皆さんを放置してキシリュウジンの元に戻り再合体する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なあ、あの剣……飛んでこなかったか?」

 

「ああ、しかも持ち主の所に戻っていったよな……」

 

暫くの間、先ほどの光景に帝国の皆さんに沈黙が流れる。

その光景が現実であるとします様に大地には斬撃の跡とハイベリアの血が付着している。

彼等とて渓谷の魔物についての知識はあるのだ。厄介な魔物を最も容易く始末する様よりも、キシリュウジンの剣が生きて動いた事に驚いている。

 

「あ、アーティファクトだ! あの剣はアーティファクトの魔剣だぁー!」

 

「報告しろ! 急げぇ!」

 

「巨人は巨大なアーティファクトの剣を二本も持っているぞ!!!」

 

「報告にはそのハイベリアの遺体も持っていけ! 証明のためだ!!!」

 

暫くした後再起動したら大騒ぎになり、また報告の兵士達が走らされる。

もう彼らにとって目の前の突如現れた巨人のお陰で価値のある奴隷が出てくるのを待つどころでは無かった。

 

既に、

・城壁の意味を無いものにする巨体、

・同じような巨大な魔物を打ち倒しその首を武勲として下げている戦闘力、

・見事な造形の武具を作り出せる技術力、

・序でに攻城兵器レベルの大きさのアーティファクトの剣を二本も持っている。

と驚異のレベルが既に魔人族以上にされていたりする。

完全に誤解だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイベリア達から助かったと思う暇もなく、今度はもっと恐ろしいものを目の当たりにしている兎人族達の目に飛び込んできたのは、掌から手を振っている人影。

 

その人影は見覚えがありすぎる。

今朝方、突如姿を消し、ついさっきまで一族総出で探していた女の子。

一族が陥っている今の状況に、酷く心を痛めて責任を感じていたようで、普段の元気の良さがなりを潜め、思いつめた表情をしていた。何か無茶をするのではと、心配していた矢先の失踪だ。

つい、慎重さを忘れて捜索しハイベリアに見つかってしまった。彼女を見つける前に、一族の全滅も覚悟していたのだが……

 

その彼女が新たに現れた巨人の掌の上でブンブンと手を振っている。

不幸にもキシリュウジンが大き過ぎてその表情に普段の明るさが戻っているのにそれは見えていない。

ホント、ここで見えていれば良かったのに。

 

「ああ、あの子はあの巨人に捕まったのか……」と達観した様な絶望した様な表情を浮かべ、そして、あの巨人は残る自分達も捕まえに来たのかと、勘違いして限界を超えた恐怖からフラッと揃って意識を手放す兎人族の皆さん。

 

「「えっ!?」」

 

そんな彼らの心境など知るよしもないガイソーグとエンタープライズは突然倒れた兎人族達を本気で心配してしまう。

キシリュウジンも「何事!?」という様な様子だ。

 

「お、おい、しっかりしろ! おーい、南雲! ちょっと来てくれ!」

 

「チッ!? あの魔物は血液に毒でも持っていやがったのか?」

 

ガイソーグの鎧を外し、意識を失った彼等の脈を片膝をついたキシリュウジンが掌を地面に降ろす前に飛び降りて来たハジメと一緒に一人一人確認しているが、全員気絶しているだけの様だ。

 

何らかの毒なのかと疑う京矢とハジメだったが、

 

「…………キシリュウジン」

 

ユエのその言葉に二人は一瞬動きを止める。

 

「あの~、みんなはキシリュウジンさんを見て気絶したのではないでしょうか?」

 

シアの的確な一言に納得してしまう。

 

「シアさんも怖がっていましたね、最初は」

 

ベルファストの言葉にそう言えばそうだったと思う。

 

巨大ロボットという存在に対する知識がある地球人と巨大ロボットという概念の無い異世界人の感覚の違いを忘れていた様子の二人であった。

 

なお、一匹だけ大怪我しているだけで死んでいないハイベリアが死んだ振りをしていたのだが、しっかりと気付いていた京矢にトドメを刺された事を追記しておく。

 

その後、数分かけて念の為に兎人族の無事を確認して死人がいないことに安堵した二人だった。

流石に助けに来た相手を驚かせてショック死させたなんてシャレにならない。

 

「ヤベ、確かにそうだったかもな。キシリュウジン、戻ってくれ」

 

京矢の指示に従ってディノミーゴとコブラーゴ達に分離して小さくなり、京矢の四次元ポケットの中に戻っていくディノミーゴ達。

そんな光景に残念そうな顔を浮かべるハジメだった。憧れの巨大ロボを間近で見れた感動は忘れないだろう、永遠に。

 

「まっ、肩に乗るのはまた次の機会でな」

 

「へっ、楽しみにしてるぜ」

 

その時までにカメラを用意しておこうと思うハジメだった。

 

「ヘブッ!」

 

まあ、そんな会話の最中に何かがぶつかる音と共にシアの悲鳴が聞こえた。

最後までキシリュウジンの掌の上に乗っていたシアが地面に落ちただけであった。

 

「うぅ~、私の扱いがあんまりですぅ。待遇の改善を要求しますぅ~。私もユエさんみたいに大事にされたいですよぉ~」

 

 しくしくと泣きながら抗議の声を上げるシア。

シアは、ハジメに対して恋愛感情を持っているわけではない。ただ、絶望の淵にあって〝見えた〟希望であるハジメをシアは不思議と信頼していた。

全くもって容赦のない性格をしているが、交わした約束を違えることはないだろうと。しかも、ハジメはシアと同じ体質である。〝同じ〟というのは、それだけで親しみを覚えるものだ。

だから、京矢やエンタープライズ、ベルファストに対する信頼は有ってもハジメ程ではなかった。

 

そして、そのハジメは、やはり〝同じ〟であるユエを大事にしている。

この短時間でも明確にわかるくらいに。正直、シアは二人の関係が羨ましかった。それ故に、〝自分も〟と願ってしまうのだ。

 

シクシク泣くシアの姿は実に哀れを誘った。

流石に鬱陶しそうなハジメは宝物庫から予備のコートを取り出し、シアの頭からかけてやった。

これ以上、傍でめそめそされたくなかったのだ。反省の色が全くない。

 

しかし、それでもシアは嬉しかったようである。突然に頭からかけられたものにキョトンとするものの、それがコートだとわかるとにへらっと笑い、いそいそとコートを着込む。

ユエとお揃いの白を基調とした青みがかったコートだ。ユエがハジメとのペアルックを画策した時の逸品である。

 

「も、もう! ハジメさんったら素直じゃないですねぇ~、ユエさんとお揃いだなんて……お、俺の女アピールですかぁ? ダメですよぉ~、私、そんな軽い女じゃないですから、もっと、こう段階を踏んでぇ~」

 

モジモジしながらコートの端を掴みイヤンイヤンしているシア。

それに再びイラッと来たハジメは無言でドンナーを抜き、シアの額目掛けて発砲した。

 

「はきゅん!」

 

弾丸は炸薬量を減らし先端をゴム状の柔らかい魔物の革でコーティングしてある非致死性弾だ。

ただ、それなりの威力はあるので、衝撃で仰け反り仰向けに倒れると、地面をゴロゴロとのたうち回るシア。

「頭がぁ~頭がぁ~」と悲鳴を上げている。だが、流石の耐久力で直ぐに起き上がると猛然と抗議を始めた。

 

「京矢様、彼等が目を覚ました様子です」

 

「ああ、ありがとう、ベルファスト。おーい、南雲、目を覚ましたみたいだぞ」

 

きゃんきゃん吠えるシアを適当にあしらっているハジメの姿を眺めているとベルファストから兎人族が目を覚ましたと伝えられた。

その事をハジメへと伝えるとぎゃんぎゃんと吠えていたシアも其方へと顔を向けた。

 

「シア! 無事だったのか!」

 

「父様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、

 

「巨人が……消えた?」

 

「何だったんだ……」

 

突如消えた巨人の姿に最早言葉も出ない帝国の兵士の皆さん。先程までの光景が、自分達の見た巨人の姿が、夢でも幻でもないと地面に刻まれた傷跡が物語っている。

 

突然の脅威の喪失による安堵から腰を抜かして座り込むものもいる。

だが、

 

「あれ、何かの魔法なんじゃないのか?」

 

あんな巨人が今まで見つからなかった事に対する疑問に答えを出す様に誰かがそんな声を出す。

巨人達は転移や姿を消す様な魔法を使えるのではないかという不安が彼等を襲う。

 

実は自分たちの姿を見つけて始末する為に、逃さない様に転移をしたのではと疑心暗鬼に襲われる兵士達。

伝令のために大半の消えた彼等は言い知れぬ不安に襲われていたのだった。

44話でaiで作った挿絵は如何でしょうか?

  • あり
  • なし

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