『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝(改訂版)   作:ドラゴンネスト

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「どう言うおつもりですかな…………マスター、いや、京矢殿?」

 

弾かれたまま後方に飛ぶと空中で回転しながら態勢を立て直したカムは己を弾いた影……ガイソーグの鎧を纏った京矢を一瞥しカムはそう問う。

 

「まあ、こいつらが死んだところで別にどうでも良いけどよ」

 

「「「いいのかよっ!?」」」

 

京矢のあんまりと言えばあんまりな言葉にツッコミを入れる熊人族の一同。

そんな彼らを無視して京矢は話を続けていく。

 

「少なくとも、曲がりなりにも激獣拳の名を名乗る者の、そんな様を見せつけられたら、止めない訳には行かないんでな」

 

ゆっくりとガイソーケンをカム達に突き付け、

 

「敵に容赦しないのは良いし、強くなったことを実感してそれを喜ぶのは良い。だけどな、敵を甚振ることを楽しむのは別だ」

 

「い、いや、私達は楽しんでなど……」

 

「今のお前達の顔、オレと南雲が始末した帝国兵と同じだぞ」

 

「ッ!?」

 

淡々と告げられる京矢の言葉。それはカムにとって衝撃だった。宿った狂気が吹き飛ぶほど。冷水を浴びせられた気分だ。

自分達家族の大半を嘲笑と愉悦交じりに奪った輩と同じ表情……実際に目の当たりにして来たからこそその醜さが分かる。家族を奪った彼等と同じ……それはカム達にとって耐え難い事実だ。

 

京矢も臨獣拳の事を持ち出すよりも、直接的にそういった方が良いと判断したのだが、それは正しかった。

 

「……マ、マスター京矢…………私は……私達は」

 

「テメェの過ちに気付けたのならそれで良い。甚振るのを楽しむ、嬲るのを喜ぶ者に正義の拳たる激獣拳を名乗る資格は無い」

 

動揺するハウリア達を一瞥しゆっくりとガイソーケンを下ろす。

 

(始めての対人戦だから仕方ないか。まあ、バーサーカーの状態から完全に抜け出していなかったのはオレと南雲の落ち度だからな。念の為に教本は置いていこう)

 

内心でそんな事を考えて、獣拳の教本を残していこうと考える京矢。完全に教本と教本の中に書かれた七拳聖に後のことを丸投げ、である。

 

と、そんな事を考えていると突然銃声が響いた。

 

「ん?」

 

京矢の背後で「ぐわっ!?」という呻き越えと崩れ落ちる音がする。

そう言えば、すっかり存在を忘れていたと京矢とカム達が背後を確認すると、額を抑えてのたうち回るレギンの姿があった。

 

「なにドサクサに紛れて逃げ出そうとしてんだ? 話が終わるまで正座でもしとけ」

 

すると、霧の奥からハジメがユエとシア、エンタープライズとベルファストを伴って現れる。

どうやら、京矢達が話し合っているうちに、こっそり逃げ出そうとしたレギン達に銃撃したようである。但し、何故か非致死性のゴム弾だったが。

 

ハジメの言葉を受けても尚、逃げ出そうと油断なく周囲の様子を確認している熊人族に、ハジメは〝威圧〟を仕掛けて黙らせた。

ガクブルしている彼等を尻目に、カム達の方へ歩み寄るハジメとユエとシア。

 

ハジメはカム達を見ると、若干、気まずそうに視線を彷徨わせ、しかし直ぐに観念したようにカム達に向き合うと謝罪の言葉を口にした。

 

「あ~、まぁ、何だ、悪かったな。自分が平気だったもんで、すっかり殺人の衝撃ってのを失念してた。俺のミスだ。うん、ホントすまん」

 

「ああ、そいつはオレも忘れてた事だ。お前だけの責任じゃねえ。本当に悪かった」

 

ハジメと京矢の謝罪にポカンと口を開けて目を点にするシアとカム達。

まさか京矢はともかくハジメが素直に謝罪の言葉を口にするとは予想外にも程があった。

 

「マ、マスターハジメ!? 正気ですか!? 頭打ったんじゃ!?」

 

「メディーック! メディーーク! 重傷者一名!」

 

「マスターハジメ! しっかりして下さい! 傷は浅いです!」

 

故に彼らもこういう反応になる。

そんな反応に頭に青筋を浮かべ、口元をヒクヒクさせるハジメ。

何よりハジメにとって腹立つのは後ろでガイソーグの鎧姿で腹を抱えてカム達のリアクションを見て爆笑している京矢だ。

 

だが、今回のことは、ハジメ自身、本心から自分のミスだと思っていた。

自分が殺人に特になんの感慨も抱かなかったことから、その精神的衝撃というものに意識が及ばなかったのだ。

いくらハジメが強くなったとはいえ、教導の経験などあるはずもなく、その結果、危うくハウリア族達の精神を壊してしまうところだった。

流石に、まずかったと思い、だからこそ謝罪の言葉を口にしたというのに……帰ってきた反応は正気を疑われるというものだった。ハジメとしては、キレるべきか、日頃の態度を振り返るべきか若干迷うところである。

 

爆笑している京矢に対してはキレても良いだろうが、何気に京矢は最初から精神面の修行も考えて居たので怒るに怒れない。

 

ハジメは、取り敢えずこの件は脇に置いておいて、レギンのもとへ歩み寄ると、その額にドンナーの銃口をゴリッと押し当てた。

 

「さて、潔く死ぬのと、生き恥晒しても生き残るのとどっちがいい?」

 

「オレとしては、生き恥晒してでも生き延びる方を選んだ方がお得だと思うぜ。警告がわりに最低一人は生き恥晒すんだからな」

 

最初から皆殺しにせずに一人か二人は生き残らせて恐怖を伝える。

結果的にその方が襲撃も減るであろうと計算しているので一人は生き残らせるだろう。

 

レギンは意外そうな表情でハジメと京矢を見返した。

ハウリア族をここまで豹変させたのは間違いなく眼前の男達だと確信していた。特に自分達では一撃で命を落として居たであろう蹴りを弾いた京矢の強さは間接的にだがよく分かった。

その男達が敵対者に情けをかけるとは思えなかったのだ。

 

「……どういう意味だ。我らを生かして帰すというのか?」

 

「ああ、望むなら帰っていいぞ? 但し、条件があるがな」

 

「条件?」

 

あっさり帰っていいと言われ、レギンのみならず周囲の者達が一斉にざわめく。

後ろで「頭を殴れば未だ間に合うのでは……」とシアが割かしマジな表情で自分の大槌とハジメの頭部を交互に見やり、カム達が賛同している声が聞こえる。慰める様に肩を叩く京矢が特にムカつくが、それはそれ。

 

京矢には兎も角、そろそろ、ハウリアの連中にはマジでキツイ仕置が必要かもしれないと更に青筋を増やすハジメ。

しかし、頑張ってスルーする。

 

「ああ、条件だ。フェアベルゲンに帰ったら長老衆にこう言え」

 

「……伝言か?」

 

条件と言われて何を言われるのかと戦々恐々としていたのに、ただのメッセンジャーだったことに拍子抜けするレギン。

しかし、言伝の内容に凍りついた。

 

「〝貸一つ〟」

 

「……ッ!? それはっ!」

 

「で? どうする? 引き受けるか?」

 

言伝の意味を察して、思わず怒鳴りそうになるレギン。

ハジメはどこ吹く風でレギンの選択を待っている。

〝貸一つ〟それは、襲撃者達の命を救うことの見返りに何時か借りを返せということだ。

 

長老会議において、生きてはいるものの長老の一人を失い、会議の決定を実質的に覆すという苦渋の選択をしてまで不干渉を結んだというのに、伝言すれば長老衆は無条件でハジメの要請に応えなければならなくなる。

 

客観的に見れば、ジンの場合も、レギンの場合も一方的に仕掛けておいて返り討ちにあっただけであり、その上、命は見逃してもらったということになるので、長老会議の威信にかけて無下にはできないだろう。

無視してしまえば唯の無法者だ。それに、今度こそハジメが牙を向くかもしれない。

 

つまり、レギン達が生き残るということは、自国に不利な要素を持ち帰るということでもあるのだ。

長老会議の決定を無視した挙句、負債を背負わせる、しかも最強種と豪語しておきながら半数以上を討ち取られての帰還……ハジメの言う通りまさに生き恥だ。

 

表情を歪めるレギンに京矢が追い討ちをかける。

 

「こいつはサービスだぜ」

 

そう言って一振りの日本刀を引き抜き、それを振るって見せると命を落として居た者達が息を吹き返しているではないか。

それにはハウリア達も騒めいている。確実に仕留めて居たはずの者達が生き返ったのだから、その反応も無理はないだろう。

 

京矢の使った剣は天生牙。以前にもアリシア・テスタロッサを蘇生した際にも使った、死を殺す事の出来る妖刀だ。

 

「これは形なき者を切り、死すらも殺す刀。残念ながら二つの意味で次は無いぜ」

 

死者を蘇生するという奇跡を見せられ、この状況で部下全員の命を救われたのだ。レギンにとって彼らの言葉を拒絶する理由は無かった。

 

「わ、わかりました。我らは帰還を望む!」

 

「そうかい。じゃあ、さっさと帰れ。伝言はしっかりな。もし、取立てに行ったとき惚けでもしたら……」

 

ハジメの全身から、強烈な殺意が溢れ出す。

もはや物理的な圧力すら伴っていそうだ。ゴクッと生唾を飲む音がやけに鮮明に響く。

 

「その日がフェアベルゲンの最後だと思え」

 

「おう、キッチリと利子つけて返してもらうからな」

 

どこからどう見ても、タチの悪い借金取り、いやテロリストの類にしか見えなかった。

後ろから、「あぁ~よかった。何時ものハジメさんですぅ」とか「ボスが正気に戻られたぞ!」とか妙に安堵の混じった声が聞こえるが、取り敢えずスルーだ。せっかく作った雰囲気がぶち壊しになってしまう。

もっとも、キツイお仕置きは確定だが。

 

ハウリア族により心を折られ、レギンの決死の命乞いも聞いていた部下の熊人族も、京矢によって蘇生された熊人族も反抗する気力もないようで悄然と項垂れて帰路についた。

若者が中心だったことも素直に敗北を受け入れた原因だろう。レギンも、もうフェアベルゲンで幅を利かせることはできないだろう。

一生日陰者扱いの可能性が高い。だが、理不尽に命を狙った上に、誰一人犠牲を出さずに済ませられたのだから、むしろ軽い罰である。

 

ハウリアをあそこまで鍛え上げた挙句、その片割れは死者蘇生さえも行う化け物。最早、神の領域にあると言って差し支えないだろう。そんな相手を敵に回す愚を犯す者はそうは出ないだろう。

寧ろ熊人族の中から出ようとしたのなら、必死に説得するレベルだ。

 

霧の向こうへ熊人族達が消えていった。

それを見届け、ハジメはくるりとシアやカム達の方を向く。もっとも、俯いていて表情は見えない。

なんだか異様な雰囲気だ。カム達は、狂気に堕ちてしまった未熟を恥じてハジメに色々話しかけるのに夢中で、その雰囲気に気がついていない。シアだけが、「あれ? ヤバクないですか?」と冷や汗を流している。

更に自然な態度で既にハジメから距離を取っている京矢の姿に本気でヤバイと感じてしまった。それを見てこっそりとシアも京矢達の所に避難して行く。

 

ハジメがユラリと揺れながら顔を上げた。その表情は満面の笑みだ。だが、細められた眼の奥は全く笑っていなかった。

ようやく、何だかハジメの様子がおかしいと感じたカムが恐る恐る声をかける

 

「マ、マスター?」

 

「うん、ホントにな? 今回は俺の失敗だと思っているんだ。短期間である程度仕上げるためとは言え、鳳凰寺みたいに歯止めは考えておくべきだった」

 

「い、いえ、そのような……我々が未熟で……」

 

「いやいや、いいんだよ? 俺自身が認めているんだから。だから、だからさ、素直に謝ったというのに……随分な反応だな? いや、わかってる。日頃の態度がそうさせたのだと……しかし、しかしだ……このやり場のない気持ち、発散せずにはいれないんだ……わかるだろ?」

 

「い、いえ。我らにはちょっと……」

 

カムも「あっ、これヤバイ。キレていらっしゃる」と冷や汗を滝のように流しながら、ジリジリと後退る。

ハウリアの何人かがハジメからの訓練を思い出したのか、既にガクブルしながら泣きべそを掻いていた。

激獣拳を学んで強くなったとは言え訓練のトラウマは払拭されては居ないのだ。

 

ハジメは、笑顔を般若に変えた。そして、怒声と共に飛び出した。

 

「取り敢えず、全員一発殴らせろ!」

 

わぁああああーー!!

 

ハウリア達が蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出す。一人も逃がさんと後を追うハジメ。しばらくの間、樹海の中に悲鳴と怒号が響き渡った。

 

後に残ったのは、避難に成功した京矢とシアと、

 

「……何時になったら大樹に行くの?」

 

「これはかなり掛かるな」

 

「では、終わるまでお茶でも如何でしょうか」

 

すっかり蚊帳の外だったユエとエンタープライズ、ベルファストの呟きだけだった。

 

***

 

深い霧の中、京矢達一行は大樹に向かって進んでいた。

先頭をカムに任せて、これも訓練とハウリア達は周囲に散らばって索敵をしている。

骨身に刻まれた油断大敵の信念で、全員がその表情に真剣なものを貼り付けていた。

もっとも、全員がコブか青あざを作っているので何とも締りがないが……

 

「なあ、あれは何だったんだ?」

 

「激獣拳ビーストアーツ、だ」

 

魔力を使えないはずの亜人が何故か魔法じみた超能力みたいな力を使ったり、超人じみた身体能力を発揮した光景を思い出してハジメは京矢に問い掛けると、あっさりと答えが固有名詞で返ってきた。

 

「いや、固有名詞じゃ分かんねえよ」

 

「んー、簡単に言えば特撮ヒーローの超人拳法」

 

「なるほど、そりゃ強かった訳だな」

 

「ああ、丁度その拳法の教本が手元に有ったから、剣術よりもこっちが良いだろうと思ったしな」

 

それで納得する地球出身組。ガチの特撮ヒーローに変身したり、特撮ヒーローの劇場版ラスボスヴィランに変身したり、二号ヒーローの変身アイテムを二つもくれたりと、異世界よりも驚きな現実に導いてくれた友人ならば、それも有りかなと納得してしまうハジメであった。

 

次はバルカンってヒーローに変身して戦ってみるかな~なんて考えている辺り、現実逃避なのだろう。

 

そんな風に和気あいあいと雑談しながら進むこと約十五分。一行は遂に大樹の下へたどり着いた。

 

大樹を見た第一声は、

 

「……なんだこりゃ」

 

「枯れてんな……」

 

という驚き半分、疑問半分といった感じのものだった。ユエも、エンタープライズもベルファストも予想が外れたのか微妙な表情だ。

彼らは大樹についてフェアベルゲンで見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していたのである。

 

しかし、実際の大樹は……見事に枯れていたのだ。

 

大きさに関しては想像通り途轍もない。

直径は目算では測りづらいほど大きいが直径五十メートルはあるのではないだろうか。

だが、明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。

 

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」

 

ハジメとユエの疑問顔にカムが解説を入れる。

それを聞きながらハジメと京矢は大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた通り石板が建てられていた。

 

「これは……オルクスの扉の……」

 

「……ん、同じ文様」

 

「って、事はココで間違いは無いはずだよな」

 

石版には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。

オルクスの部屋の扉に刻まれていたものと全く同じものだ。ハジメは確認のため、オルクスの指輪を取り出す。指輪の文様と石版に刻まれた文様の一つはやはり同じものだった。

 

「ここが大迷宮の入口で間違い無いみたいだけど、こっからどうすりゃ良いんだよ?」

 

京矢は大樹に近寄ってその幹をペシペシと叩いてみるが、当然変化がある訳はない。

ハジメはカム達に何か知らないかと聞くが返答はNOだった。

アルフレリックからも口伝は聞いているが、迷宮の入口に関係する口伝はなかった。隠していた可能性もないわけではないから、これは早速貸しを取り立てるべきか? と悩み始めるハジメ。

 

「オレ達、他の迷宮の踏破者にしか分からない様にしてるんじゃ無いか?」

 

京矢の言葉にハジメは成る程と思う。考えてみれば此処には多くの亜人が住んでいるのだから、小さな子供が誤って命の危険がある大迷宮に迷い込む危険を無くす為にも簡単には入らない様にするのは道理だ。

その可能性を考えて此処を作った解放者が他の迷宮の踏破者しか入らない様にしている可能性は高い。

 

……下手に入る方法を伝えて、自信過剰な長老が大迷宮に挑んで長老陣全滅からの口伝消滅もシャレにならないのでそうしていた可能性も高い。

 

亜人の種族の長老達に伝わる口伝によって導かれた大迷宮の踏破者のみが大迷宮に入れる様にされている。京矢はそう推測していた。

 

京矢の推測にはハジメも納得するしか無い。

 

改めて周囲を調べようとした時、石板を観察していたユエが声を上げる。

 

「ハジメ……これ見て」

 

「ん? 何かあったか?」

 

京矢とハジメが大樹を調ようとしていた時ユエが注目していたのは石板の裏側だった。

そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。

 

「これは……」

 

「一つはオルクスの紋章。他のはきっと他の解放者の紋章だろうな。南雲、指輪を嵌めてみてくれ」

 

「ああ」

 

京矢の言葉に答えたハジメが手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。

 

すると……石板が淡く輝きだした。

 

何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。

 

〝四つの証〟

〝再生の力〟

〝紡がれた絆の道標〟

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

「……どういう意味だ?」

 

「自分の迷宮に挑戦出来る条件を提示してるんだろうけど?」

 

「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」

 

「最低でも四つは迷宮を踏破して来いって事か? 森から出ない亜人族には不可能な条件だな」

 

「確かにそれなら指揮官の危惧していた不安は起こらなくて済むな」

 

一つ目の鍵は最低でも四つの迷宮を踏破するだけの実力とその証明。

どれだけ自信過剰な者が亜人族の中から出たとしても、此れならば下手な犠牲者は出ない。

 

「……再生の力と紡がれた絆の道標は?」

 

頭を捻るハジメにシアが答える。

 

「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、ハジメさん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」

 

「……なるほど。それっぽいな」

 

「亜人が簡単に来られるなら、それっぽいよな」

 

「はい、京矢様達の様にこの世界の神に反逆しようとする方達で無ければ信頼は得られそうにないですから、間違いはないかと」

 

つまり、大迷宮に挑む為の鍵の一つは亜人族からの信頼。霧に惑わされる事なく大樹へと導いてくれる案内人だ。

同時にエヒトと敵対するという意志の有無。これは奴隷にすると言う形でパス出来るだろうが、そこまで考えてはキリがないだろう。

 

そうなると残る鍵は一つ『再生』。

 

「……あとは再生……私?」

 

ユエが自分の固有魔法〝自動再生〟を連想し自分を指差す。

試しにと、薄く指を切って〝自動再生〟を発動しながら石板や大樹に触ってみるが……特に変化はない。

 

「むぅ……違うみたい」

 

「……ん~、枯れ木に……再生の力……最低四つの証……もしかして、四つの証、つまり七大迷宮の半分を攻略した上で、再生に関する神代魔法を手に入れて来いってことじゃないか?」

 

「なるほど、そうなると優先的に入手する神代魔法の一つは『再生』魔法で決まりだな」

 

要するに目の前の枯れた木を神代魔法で再生して初めて迷宮に入ることが出来るという事だろう。

 

この大樹にあるのが帰還に関係する魔法で有るのなら、再生の神代魔法は優先的に入手する必要がある。

……これから向かう大迷宮で他の迷宮の神代魔法の手掛かりを得られれば良いのだが。

 

「はぁ~、ちくしょう。今すぐ攻略は無理ってことか……面倒くさいが他の迷宮から当たるしかないな……」

 

「ん……」

 

「まっ、そう言うなよ。運が良ければ、他の迷宮の何処かで帰還に繋がる神代魔法が手に入るかも知れないんだぜ」

 

「確かに……その可能性もあるか」

 

ここまで来て後回しにしなければならないことに歯噛みするハジメ。ユエも残念そうだ。そんな二人に対して既に切り替えて次の目的に意識を向けている京矢。

大迷宮への入り方が見当もつかない以上、ぐだぐだと悩んでいても仕方ない。ハジメとユエも気持ちを切り替えて先に三つの証と再生の神代魔法を手に入れることにする。

 

「此処にあるのが目的の神代魔法でした、なんてオチはゴメンだからな。三つの迷宮の中に再生が無かったら面倒が増える」

 

「そうだな。それが第二の目標か」

 

「……ん」

 

次の目標を決めるとハジメはハウリア族に集合をかけた。

 

「いま聞いた通り、俺達は、先に他の大迷宮の攻略を目指すことにする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」

 

「お前達のための隠れ里も用意した。守っていくのはお前達次第だ」

 

そして、ハジメはチラリとシアを見る。

その瞳には、別れの言葉を残すなら、今しておけという意図が含まれているのをシアは正確に読み取った。

いずれ戻ってくるとしても、三つもの大迷宮の攻略となれば、それなりに時間がかかるだろう。当分は家族とも会えなくなる。

 

シアは頷き、カム達に話しかけようと一歩前に出た。

 

「とうさ「マスターハジメ! マスター京矢! お話があります!」……あれぇ、父様? 今は私のターンでは…」

 

シアの呼びかけをさらりと無視してカムが一歩前に出た。ビシッと直立不動の姿勢だ。

横で「父様? ちょっと、父様?」とシアが声をかけるが、まるでイギリス近衛兵のように真っ直ぐ前を向いたまま見向きもしない。

 

「あ~、何だ?」

 

取り敢えず父様? 父様? と呼びかけているシアは無視する方向で、ハジメはカムに聞き返した。

カムは、シアの姿など見えていないと言う様に無視しながら、意を決してハウリア族の総意を伝える。

 

「ボス、我々もボスのお供に付いていかせて下さい!」

 

「えっ! 父様達もハジメさんに付いて行くんですか!?」

 

カムの言葉に驚愕を表にするシア。十日前の話し合いでは、自分を送り出す雰囲気だったのにどうしたのです!? と声を上げる。

 

「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし! ボスの部下であります! 是非、お供に! これは一族の総意であります!」

 

「ちょっと、父様! 私、そんなの聞いてませんよ! ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと……」

 

「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」

 

「ぶっちゃけちゃった! ぶっちゃけちゃいましたよ! ホント、この十日間の間に何があったんですかっ!」

 

カムが一族の総意を声高に叫び、シアがツッコミつつ話しかけるが無視される。

何だ、この状況? と思いつつ、ハジメと京矢はきっちり返答した。

 

「却下」

 

「ダメだ」

 

「なぜです!?」

 

ハジメと京矢の実にあっさりした返答に身を乗り出して理由を問い詰めるカム。他のハウリア族もジリジリとハジメに迫る。

 

「足でまといだからに決まってんだろ、バカヤロー」

 

「修行不足だ、お前らじゃついて来れない」

 

「しかしっ!」

 

「調子に乗るな。俺達の旅についてこようなんて百八十日くらい早いわ!」

 

「具体的!?」

 

なお、食い下がろうとするカム達。しまいには、許可を得られなくても勝手に付いて行きます!とまで言い始めた。

どうやら、ハートマン軍曹モドキとビーストアーツの訓練のせいで妙な信頼とか畏敬とかそんな感じのものが寄せられているようである。

このまま、本当に町とかにまで付いてこられたら、それだけで騒動になりそうなので、京矢はハジメに下がっていてくれと言って条件を出す。

 

「なら、お前達は此処で鍛錬を続けろ。次に樹海に来た時に相応の力を身につけていれば、オレから南雲に進言してやる」

 

さり気無くハジメを格上扱いしている京矢であった。

 

「……そのお言葉に偽りはありませんか?」

 

「ない」

 

「嘘だったら、人間族の町の中心でマスター達の名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」

 

「お前等、タチ悪いな……」

 

「そりゃ、マスター達の弟子を自負してますから」

 

とても逞しくなった弟子達? に頬を引きつらせるハジメ。ユエがぽんぽんと慰めるようにハジメの腕を叩く。

まあ良いかと京矢はビーストアーツの教本を代表としてカムに渡す。

 

「其処に書かれているのはグランドマスター達七拳聖の方々と獣拳の創始者の教えだ。それを持って今後も鍛錬に励めよ」

 

『ハッ! マスター京矢!』

 

京矢から恭しく教本を受け取るカム達を眺めながらハジメは溜息を吐きながら、次に樹海に戻った時が面倒そうだと天を仰ぐのだった。

 

「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない……旅立ちの日なのに……」

 

傍でシアが地面にのの字を書いていじけているが、やはり誰も気にしなかった。

44話でaiで作った挿絵は如何でしょうか?

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