『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝(改訂版)   作:ドラゴンネスト

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広大な平原のど真ん中に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道がある。街道と言っても、何度も踏みしめられることで自然と雑草が禿げて道となっただけのものだ。

そんな、整備されていない道を有り得ない速度で爆走する二つの影がある。

黒塗りの車体に二つの車輪だけで凸凹の道を苦もせず突き進むそれの上には、それぞれ三人の人影があった。

 

ハジメ、ユエ、シアと京矢、エンタープライズ、ベルファストの2組だ。

時速八十キロは出ているだろう。魔力を阻害するものがないので、魔力駆動二輪も本来のスペックを十全に発揮している。座席順は京矢側は京矢の後ろにエンタープライズ、サイドカーにベルファストと言うフォーメーションだ。本来なら両手が自由になるサイドカー側がエンタープライズの指定席になる事が多いが、今回はエンタープライズが京矢側に座っている。

 

「まぁ、このペースなら後一日ってところだ。ノンストップで行くし、休める内に休ませておこう」

 

ハジメ側では後ろに乗っているシアは夢心地で半分夢の住人となっている様子だ。

 

「ああ。休憩は町についてからで良いだろ」

 

ハジメの言葉通り、京矢達はウィル一行が引き受けた調査依頼の範囲である北の山脈地帯に一番近い町まで後一日ほどの場所まで来ていた。

このまま休憩を挟まず一気に進み、おそらく日が沈む頃に到着するだろうから、町で一泊して明朝から捜索を始めるつもりだ。

急ぐ理由はもちろん、京矢に蘇生手段があるとは言え、時間が経てば経つほど、ウィル一行の生存率が下がっていくからだ。しかし、いつになく他人のためなのに積極的なハジメに、ユエが、上目遣いで疑問顔をする。

 

ハジメは、腕の中から可愛らしく首を傾げて自分を見上げるユエに苦笑いを返す。

 

「……積極的?」

 

「ああ、生きているに越したことはないからな」

 

「オレの天生牙でも魔物のご飯になった後じゃ、流石に蘇生は難しいからな」

 

正確にはそんな肉体がなくなる様な状況では不可能なのだが、それは敢えて難しいと言っておく。

 

「鳳凰寺なら蘇生はできるし、生きてた方が感じる恩はでかい。これから先、国やら教会やらとの面倒事は嫌ってくらい待ってそうだからな。盾は多いほうがいいだろう? いちいちまともに相手なんかしたくないし」

 

「少しの労力で大量の報酬が入るんだ、急ぐに越したことはねえ」

 

「……なるほど」

 

実際、イルワという盾が、どの程度機能するかはわからないし、どちらかといえば役に立たない可能性の方が大きいが保険は多いほうがいい。

まして、ほんの少しの労力で確実に近い確率で獲得できるなら、その労力は惜しむべきではないだろう。

 

「それに聞いたんだがな、これから行く町は湖畔の町で水源が豊かなんだと。そのせいか町の近郊は大陸一の稲作地帯なんだそうだ」

 

「なるほど、稲作か?」

 

「……稲作?」

 

「おう、つまり米だ米。同じものかどうかは分からないが、早く行って食べてみたい」

 

「魔法のテーブルクロスで手に入るって言っても一日一回だからな。其処で手に入るなら手に入れたいぜ」

 

京矢の魔法のテーブルクロスで召喚したものをベルファストが調理してくれたのですっかり一行の間では米が好みになっていた。

依頼の序でに大量に購入すれば暫くの間は米には困らないだろう。品種によっては普段食べている米とは調理は違ってくるが、其処はベルファストならば美味しく調理もしてくれる。

 

「それに、こっちの世界の米料理、どんな物か少し楽しみってのもあるな」

 

「確かに」

 

「……ん、私も食べたい……町の名前は?」

 

遠い目をして異世界の米料理に思いを馳せる京矢とハジメに、微笑ましそうな、羨ましそうな眼差しを向けていたユエは、そう言えば町の名前を聞いてなかったとハジメに尋ねる。

ハッと我に返ったハジメは、ユエの眼差しに気がついて少し恥ずかしそうにすると、誤魔化すように若干大きめの声で答えた。

 

「湖畔の町ウルだ」

 

割と物見遊山と言う気分も纏いながら、一行は魔力駆動二輪を走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、今日も手掛かりはなしですか……清水君、一体どこに行ってしまったんですか……」

 

悄然と肩を落とし、ウルの町の表通りをトボトボと歩くのは召喚組の一人にして教師、畑山愛子だ。

普段の快活な様子がなりを潜め、今は、不安と心配に苛まれて陰鬱な雰囲気を漂わせている。心なしか、表通りを彩る街灯の灯りすら、いつもより薄暗い気がする。

 

「愛子、あまり気を落とすな。まだ、何も分かっていないんだ。無事という可能性は十分にある。お前が信じなくてどうするんだ」

 

「そうですよ、愛ちゃん先生。清水君の部屋だって荒らされた様子はなかったんです。自分で何処かに行った可能性だって高いんですよ? 悪い方にばかり考えないでください」

 

元気のない愛子に、そう声をかけたのは愛子専属護衛隊隊長のデビッドと生徒の園部優花だ。周りには他にも、毎度お馴染みに騎士達と生徒達がいる。彼等も口々に愛子を気遣うような言葉をかけた。

 

クラスメイトの一人、清水幸利が失踪してから既に二週間と少し。

愛子達は、八方手を尽くして清水を探したが、その行方はようとして知れなかった。町中に目撃情報はなく、近隣の町や村にも使いを出して目撃情報を求めたが、全て空振りだった。

 

当初は事件に巻き込まれたのではと騒然となったのだが、清水の部屋が荒らされていなかったこと、清水自身が〝闇術師〟という闇系魔法に特別才能を持つ天職を所持しており、他の系統魔法についても高い適性を持っていたことから、そうそう、その辺のゴロツキにやられるとは思えず、今では自発的な失踪と考える者が多かった。

 

元々、清水は、大人しいインドアタイプの人間で社交性もあまり高くなかった。

クラスメイトとも、特別親しい友人はおらず、愛ちゃん護衛隊に参加したことも驚かれたぐらいだ。そんなわけで、既に愛子以外の生徒は、清水の安否より、それを憂いて日に日に元気がなくなっていく愛子の方が心配だった。護衛隊の騎士達に至っては言わずもがなである。

 

ちなみに、王国と教会には報告済みであり、捜索隊を編成して応援に来るようだ。捜索隊が到着するまで、あと二、三日といったところだ。

 

次々とかけられる気遣いの言葉に、愛子は内心で自分を殴りつけた。

事件に巻き込まれようが、自発的な失踪であろうが心配であることに変わりはない。しかし、それを表に出して、今、傍にいる生徒達を不安にさせるどころか、気遣わせてどうするのだと。それでも、自分はこの子達の教師なのか! と。愛子は、一度深呼吸するとペシッと両手で頬を叩き気持ちを立て直した。

 

「皆さん、心配かけてごめんなさい。そうですよね。悩んでばかりいても解決しません。清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫。今は、無事を信じて出来ることをしましょう。取り敢えずは、本日の晩御飯です! お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」

 

無理しているのは丸分かりだが、気合の入った掛け声に生徒達も「は~い」と素直に返事をする。騎士達は、その様子を微笑ましげに眺めた。

 

カランッカランッ

 

そんな音を立てて、愛子達は、自分達が宿泊している宿の扉を開いた。

ウルの町で一番の高級宿だ。名を〝水妖精の宿〟という。昔、ウルディア湖から現れた妖精を一組の夫婦が泊めたことが由来だそうだ。ウルディア湖は、ウルの町の近郊にある大陸一の大きさを誇る湖だ。大きさは日本の琵琶湖の四倍程である。

 

〝水妖精の宿〟は、一階部分がレストランになっており、ウルの町の名物である米料理が数多く揃えられている。

内装は、落ち着きがあって、目立ちはしないが細部までこだわりが見て取れる装飾の施された重厚なテーブルやバーカウンターがある。また、天井には派手すぎないシャンデリアがあり、落ち着いた空気に花を添えていた。

〝老舗〟そんな言葉が自然と湧き上がる、歴史を感じさせる宿だった。

 

当初、愛子達は、高級すぎては落ち着かないと他の宿を希望したのだが、〝神の使徒〟あるいは〝豊穣の女神〟とまで呼ばれ始めている愛子や生徒達を普通の宿に止めるのは外聞的に有り得ないので、騎士達の説得の末、ウルの町における滞在場所として目出度く確定した。

 

元々、王宮の一室で過ごしていたこともあり、愛子も生徒達も次第に慣れ、今では、すっかりリラックス出来る場所になっていた。

農地改善や清水の捜索に東奔西走し疲れた体で帰って来る愛子達にとって、この宿でとる米料理は毎日の楽しみになっていた。

 

全員が一番奥の専用となりつつあるVIP席に座り、その日の夕食に舌鼓を打つ。

 

「ああ、相変わらず美味しいぃ~異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」

 

「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……いや、ホワイトカレーってあったけ?」

 

「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」

 

「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べたことないからでしょ? ホカ弁の天丼と比べちゃだめだよ」

 

「いや、チャーハンモドキ一択で。これやめられないよ」

 

極めて地球の料理に近い米料理に毎晩生徒達のテンションは上がりっぱなしだ。

見た目や微妙な味の違いはあるのだが、料理の発想自体はとても似通っている。素材が豊富というのも、ウルの町の料理の質を押し上げている理由の一つだろう。米は言うに及ばず、ウルディア湖で取れる魚、山脈地帯の山菜や香辛料などもある。

 

美味しい料理で一時の幸せを噛み締めている愛子達のもとへ、六十代くらいの口ひげが見事な男性がにこやかに近寄ってきた。

 

「皆様、本日のお食事はいかがですか? 何かございましたら、どうぞ、遠慮なくお申し付けください」

 

「あ、オーナーさん」

 

愛子達に話しかけたのは、この〝水妖精の宿〟のオーナーであるフォス・セルオである。スっと伸びた背筋に、穏やかに細められた瞳、白髪交じりの髪をオールバックにしている。宿の落ち着いた雰囲気がよく似合う男性だ。

 

「いえ、今日もとてもおいしいですよ。毎日、癒されてます」

 

愛子が代表してニッコリ笑いながら答えると、フォスも嬉しそうに「それはようございました」と微笑んだ。

しかし、次の瞬間には、その表情を申し訳なさそうに曇らせた。何時も穏やかに微笑んでいるフォスには似つかわしくない表情だ。何事かと、食事の手を止めて皆がフォスに注目した。

 

「実は、大変申し訳ないのですが……香辛料を使った料理は今日限りとなります」

 

「えっ!? それって、もうこのニルシッシル(異世界版カレー)食べれないってことですか?」

 

カレーが大好物の園部優花がショックを受けたように問い返した。

 

「はい、申し訳ございません。何分、材料が切れまして……いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが……ここ一ヶ月ほど北山脈が不穏ということで採取に行くものが激減しております。つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」

 

「あの……不穏っていうのは具体的には?」

 

「何でも魔物の群れを見たとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越えるごとに強力な魔物がいるようですが、わざわざ山を越えてまでこちらには来ません。ですが、何人かの者がいるはずのない山向こうの魔物の群れを見たのだとか」

 

「それは、心配ですね……」

 

愛子が眉をしかめる。他の皆も若干沈んだ様子で互いに顔を見合わせた。

フォスは、「食事中にする話ではありませんでしたね」と申し訳なさそうな表情をすると、場の雰囲気を盛り返すように明るい口調で話を続けた。

 

「しかし、その異変ももしかするともう直ぐ収まるかもしれませんよ」

 

「どういうことですか?」

 

「実は、今日のちょうど日の入り位に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者のようですね。もしかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」

 

愛子達はピンと来ないようだが、食事を共にしていたデビッド達護衛の騎士は一様に「ほぅ」と感心半分興味半分の声を上げた。

フューレンの支部長と言えばギルド全体でも最上級クラスの幹部職員である。その支部長に指名依頼されるというのは、相当どころではない実力者のはずだ。同じ戦闘に通じる者としては好奇心をそそられるのである。

騎士達の頭には、有名な〝金〟クラスの冒険者がリストアップされていた。

 

***

 

愛子達が、デビッド達騎士のざわめきに不思議そうな顔をしていると、二階へ通じる階段の方から声が聞こえ始めた。男二人の声と少女二人、女二人の声だ。何やら少女の一人が男に文句を言っているらしい。それに反応したのはフォスだ。

 

「おや、噂をすれば。彼等ですよ。騎士様、彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

 

「そうか、わかった。しかし、随分と若い声だ。〝金〟に、こんな若い者がいたか?」

 

デビッド達騎士は、脳内でリストアップした有名な〝金〟クラスに、今聞こえているような若い声の持ち主がいないので、若干、困惑したように顔を見合わせた。

 

そうこうしている内に、六人の男女は話しながら近づいてくる。

 

愛子達のいる席は、三方を壁に囲まれた一番奥の席であり、店全体を見渡せる場所でもある。一応、カーテンを引くことで個室にすることもできる席だ。

唯でさえ目立つ愛子達一行は、愛子が〝豊穣の女神〟と呼ばれるようになって更に目立つようになったため、食事の時はカーテンを閉めることが多い。今日も、例に漏れずカーテンは閉めてある。

 

そのカーテン越しに若い男女の騒がしめの会話の内容が聞こえてきた。

 

「もうっ、何度言えばわかるんですか。私を放置してユエさんと二人の世界を作るのは止めて下さいよぉ。ホント凄く虚しいんですよ、あれ。聞いてます? 〝ハジメ〟さん」

 

「聞いてる、聞いてる。見るのが嫌なら別室にしたらいいじゃねぇか。〝鳳凰寺〟の所から1人移れば2人部屋になるから寂しくないだろ?」

 

「んまっ! 聞きました? ユエさん。〝ハジメ〟さんが冷たいこと言いますぅ」

 

「……〝ハジメ〟……メッ!」

 

「おいおい、〝南雲〟あんまり冷たくしてやるなよ」

 

「へいへい」

 

「って、〝京矢〟さんがそれを言いますか? 毎回良いところで邪魔をするくせに!」

 

「悪い悪い」

 

「指揮官、悪びれてないだろう」

 

「そうですよ、〝京矢〟様」

 

その会話の内容に、そして彼等の声が呼ぶ名前に、愛子の心臓が一瞬にして飛び跳ねる。

 

彼女達は今何といった? 少年達を互いを何と呼んだ? 少年達の声は、〝あの少年達〟の声に似てはいないか? 愛子の脳内を一瞬で疑問が埋め尽くし、金縛りにあったように硬直しながら、カーテンを視線だけで貫こうとでも言うように凝視する。

 

それは、傍らの園部優花や他の生徒達も同じだった。

彼らの脳裏に、およそ四ヶ月前に奈落の底へと消えていった、3人のうちの2人が浮かび上がる。

クラスメイト達に彼が居れば大丈夫だと言う希望を与えた最強であった少年、〝異世界での死〟というものを強く認識させた少年達、消したい記憶の根幹となっている少年達、良くも悪くも目立っていた少年達。

 

尋常でない様子の愛子と生徒達に、フォスや騎士達が訝しげな視線と共に声をかけるが、誰一人として反応しない。

騎士達が、一体何事だと顔を見合わせていると、愛子がポツリとその名を零した。

 

「……南雲君? ……鳳凰寺君?」

 

無意識に出した自分の声で、有り得ない事態に硬直していた体が自由を取り戻す。

愛子は、椅子を蹴倒しながら立ち上がり、転びそうになりながらカーテンを引きちぎる勢いで開け放った。

 

シャァァァ!!

 

存外に大きく響いたカーテンの引かれる音に、ギョッとして思わず立ち止まる五人の少年少女と立ち止まる事のない1人の少年。

 

愛子は、相手を確認する余裕もなく叫んだ。大切な教え子の名前を。

 

「南雲君! 鳳凰寺君!」

 

「あぁ? ………………………………………………先生?」

 

「どうした、南雲? ん? ああ、先生、園部に、お前らも、奇遇だな、こんな所で。確か四ヶ月ぶり位だったか?」

 

愛子とクラスメイト達の視線の先に居たのは、白髪に眼帯、鷹の目の様に鋭い目に近寄りがたい雰囲気を纏った、最早彼を簡単にはハジメと認識する事が出来ないほど変わり果てていたハジメと、大剣を背負って腰に長い棒状の剣のようなものを差しながら、以前と全く変わっていない飄々とした雰囲気を纏った京矢だった。

 

……と言うか、コイツは何故夏休み明けに久し振りに有った様な態度で返してくるんだと、夏休みの旅行中に偶然クラスメイトと会った様な態度なんだと言う考えが一同に浮かぶ。

四ヶ月だぞ、四ヶ月。連休で旅行に行ってて久しぶりに帰ってきたんじゃねえんだぞ。と。クラスメイト達は京矢の態度にそんな事を思った。

 

「南雲君、鳳凰寺君……やっぱり南雲君と鳳凰寺君なんですね? 生きて……本当に生きて…」

 

「いえ、人違いです。では」

 

「へ?」

 

死んだと思っていた生徒達との奇跡のような再会。感動して、涙腺が緩んだのか、涙目になる愛子。

今まで何処にいたのか、一体何があったのか、本当に無事でよかった、と言いたいことは山ほどあるのに言葉にならない。それでも必死に言葉を紡ごうとする愛子に返ってきたのは、全くもって予想外の言葉だった。

思わず間抜けな声を上げて、涙も引っ込む愛子。

スタスタと宿の出口に向かって歩き始めたハジメを呆然と見ると、すっと手を伸ばした京矢に肩を掴まれている。

 

「いや、先生って呼んどいて、今更誤魔化せるか?」

 

「いや、聞き間違いだって事にしよう。あれは……そう、方言で〝チッコイ〟て意味だ。うん」

 

「せんせんとか、ぜいぜんとかの聞き間違いとか言い張る気か? いや、流石に無理あるだろう、それ?」

 

「ってか、お前はなんで驚かないんだよ!?」

 

「いや、宿の人の話から推測程度はできてたしな。で、気配を探ってみれば、なんか懐かしい気配がいくつも有ったし」

 

要するに、宿に泊まる時国や教会に関するVIPが泊まってるから失礼のないようにしてくれと言われた時に、この町の事と愛子の天職から、もしかしてと辺りをつけていた所に、カーテンで仕切られた部屋の中の気配を読んだ所、懐かしい気配がいくつも有った訳だ。

 

つまり、京矢は愛子がカーテンを開ける前の時点で知っていたと。控えめに言っても、本当に人間か疑うレベルである。

 

「知ってたんなら、この二人の会話を止めろよ! お前だって思いっきりオレの名前を呼びやがって!」

 

「同じ宿に泊まってたら、何かの拍子に見つかるかもしれないだろ? オレが。お前だけなら見られても気付かれないだろうけど。それに、流石にチッコイは先生に失礼だろ? 確かに小さいけどな」

 

「その言い方の時点で、物凄く失礼ですよ! ていうか、どうして誤魔化すんですか? それにその格好……何があったんですか? こんなところで何をしているんですか? 何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか? 二人と一緒に落ちた檜山くんはどうしたんですか? 南雲君! 鳳凰寺君! 答えなさい! 先生はそんな漫才で誤魔化されませんよ!」

 

愛子の怒声がレストランに響き渡る。京矢が掴みかかろうとする愛子を避けた事でハジメの袖口を愛子が掴む。

幾人かの客が噂の豊穣の女神に男に掴みかかって怒鳴っている姿に、「すわっ、女神に男が!?」と愉快な勘違いと共に好奇心に目を輝かせている。

 

生徒や護衛騎士達もぞろぞろと奥からやって来た。

 

自分達を唖然としながら見ているクラスメイト達に呑気に手を振りながら、久しぶりだと言っている友人を一発くらい殴っても良いだろうかと思う。

……今のハジメが不意打ちしても、京矢には簡単に避けられるだろうが。

 

信じられないと思うべきか、何もなかった様に、久しぶりだと言って手を振ってる京矢に怒りを覚えるべきかと、クラスメイト達の心境が一つになった瞬間であった。

 

と、そこでハジメを救ったのは頼りになるパートナーの少女。もちろん残念キャラのウサミミではなく吸血姫の方である。

ユエは、ツカツカとハジメと愛子の傍に歩み寄ると、ハジメの腕を掴む愛子の手を強引に振り払った。

その際、護衛騎士達が僅かに殺気立つ。

 

「……離れて、ハジメが困ってる」

 

「な、何ですか、あなたは? 今、先生は南雲君達と大事な話を……」

 

「……なら、少しは落ち着いて」

 

冷めた目で自分を睨む美貌の少女に、愛子が僅かに怯む。二人の身長に大差はない。普通に見ればちみっ子同士の喧嘩に見えるだろう。

しかし、常に実年齢より下に見られる愛子と見た目に反して妖艶な雰囲気を纏うユエでは、どうしても大人(ユエ)に怒られる子供(愛子)という構図に見えてしまう。実際、注意しているのはユエの方で、彼女の言葉に自分が暴走気味だった事を自覚し頬を赤らめてハジメからそっと距離をとり、遅まきながら大人の威厳を見せようと背筋を正す愛子は……背伸びした子供のようだった。

 

「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君と鳳凰寺君ですよね?」

 

今度は、静かな、しかし確信をもった声音で、真っ直ぐに視線を合わせながら二人に問い直す愛子。

京矢の観念しろよと言う視線と。こっそりと耳打ちされた言葉で観念したのか頭をガリガリと掻くと深い溜息と共に肯定した。

 

「おう、改めて。久し振りだな、先生」

 

「ああ。久しぶりだな、先生」

 

「やっぱり、やっぱり南雲君と鳳凰寺君なんですね……生きていたんですね……」

 

再び涙目になる愛子に、京矢とハジメは特に感慨を抱いた様子もなく肩を竦めた。

 

「まぁな。色々あったが、何とか生き残ってるよ」

 

「ああ、結構色々有ったよな」

 

「……本当にな」

 

主に、この世界の真実を知ったり、ガチの特撮ヒーローになったり、巨大ロボットに乗ったり、実は過去二回も地球が滅びるかどうかの瀬戸際だったり、地球と異世界を友人が四回も救ったりと、インパクトの強い出来事を思い返すハジメ。

改めて思うと、主に目の前の友人関連の事が殆どだった。

 

「よかった。本当によかったです」

 

そんなハジメの心境を知らず、それ以上言葉が出ない様子の愛子を一瞥すると、ハジメは近くのテーブルに歩み寄りそのまま座席についた。

ふと横を見てみるといつの間にか京矢とエンタープライズとベルファストの3人は席についていた。

それを見て、ユエとシアも席に着く。シアは困惑しながらだったが。ハジメ達の突然の行動にキョトンとする愛子達。

 

周囲の事など知らんとばかりに、生徒達の後ろに佇んで事の成り行きを見守っているフォスを手招きする。

 

「京矢様、宜しいのですか?」

 

「ああ。クラスの連中に今更会っても話すことは何もねえからな。そんな事より、飯にしようぜ。トータスの米料理、結構楽しみにしてたんだぜ」

 

「それでは、ニルシッシルと言うスパイスを使った料理はいかがでしょうか?」

 

「天丼やパエリアみたいなのも良いけど、それも良いな。エンタープライズは如何する?」

 

「私は指揮官と同じ物で構わない」

 

「なあ、南雲、仕事終わったら報告前にもう一泊くらいして行こうぜ。他に二、三皿食いたい料理も有るし」

 

「……お前なあ、完全に観光気分じゃねえか」

 

一応は人命が掛かっている依頼を引き受けたのだが、最悪は蘇生も可能なのでわりと余裕があるハジメと京矢。ワイワイとどんな料理を頼むか話し合っている。

ベルファストの料理は味も栄養バランスも最高だが、こうして異世界の料理を食べるのは楽しみである。

 

その状況に困った笑みで寄って来たフォスに注文を始めた。

 

だが、当然、そこで待ったがかかる。

京矢達があまりにも自然にテーブルにつき何事もなかったように注文を始めたので再び呆然としていた愛子が息を吹き返し、ツカツカとハジメのテーブルに近寄ると「先生、怒ってます!」と実にわかりやすい表情でテーブルをペシッと叩いた。

 

「南雲君、鳳凰寺君、まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、こちらの女性達はどちら様ですか?」

 

愛子の言い分は、その場の全員の気持ちを代弁していたので、ようやく二人が四ヶ月前に亡くなったと聞いた愛子の三人の教え子のうちの二人であると察した騎士達や、愛子の背後に控える生徒達も、皆一様に「うんうん」と頷き、二人の回答を待った。

 

ハジメは少し面倒そうに眉をしかめるが、どうせ答えない限り愛子が持ち前の行動力を発揮して喰い下がり、落ち着いて食事も出来ないだろうと想い、仕方なさそうに視線を愛子に戻した所で別の方向から待ったが掛かる。

 

「愛子様でしたか? この場は食事の場ですよ。お気持ちはわかりますが、その様な態度は教師として如何でしょうか?」

 

静かだが有無を言わせない叱責するベルファストの言葉に詰まってしまう愛子。

 

「あうう……す、すみません」

 

完全に大人の女性のベルファストと小柄な愛子では大人に子供が叱られてる構図である。

 

「ですが、自己紹介が遅れてしまった事をお詫びします。改めまして、私は京矢様のメイドのベルファストでございます」

 

「指揮官の部下のエンタープライズだ」

 

「……ユエ」

 

「シアです」

 

「ハジメの女」「ハジメさんの女ですぅ!」

 

「お、女?」

 

ユエとシアの自己紹介に愛子が若干どもりながら「えっ? えっ?」とハジメと二人の美少女を交互に見る。上手く情報を処理出来ていないらしい。

後ろの生徒達も困惑したように顔を見合わせている。いや、男子生徒は「まさか!」と言った表情でユエとシアを忙しなく交互に見ている。徐々に、その美貌に見蕩れ顔を赤く染めながら。

 

「ってか、鳳凰寺の奴、あんな美人のメイドさんどうやって手に入れたんだよ?」

 

「お前もそう思うか。つーか、あの二人、ヤバイくらい美人なんですけど……」

 

「王宮のメイドなんて目じゃない程だよな……あのメイドさん」

 

一部の男子生徒がベルファストとエンタープライズの容姿に見惚れてそんな会話を交わしていたりする。

44話でaiで作った挿絵は如何でしょうか?

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