『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝(改訂版) 作:ドラゴンネスト
「…………」
「…………」
京矢とエンタープライズの二人は、無言のまま、丁度入ろうとした水族館の壁をブチ破って出て来る、……どこかで見た様な籠を吊るした十字架状の物体が、人間の顔をした魚を籠の中に入れて上空へと飛び去っていく様を見送っていた。
「何やってんだよ、南雲……」
どこから見てもハジメ制作の品だと分かるそれを見て、直感的に水族館を破壊した犯人がハジメだと言う事を理解してしまう京矢。
どっからどう見てもあれはハジメの作ったアーティファクトだから、その推理はほぼ間違い無いだろう。
「……指揮官、今なら打ち落とせるが、どうする?」
「止めとけ、アイツもなんの考えも無しにこんな事はしねえだろうから」
まさか友人がこんな所で、なんの考えも無しに強盗働く訳がないとは思いたい。なので、邪魔をしない様に見送る事に決める。
そう言ったものの、大丈夫かとは思うが、犯人の仲間と思われたくないと思ってさっさと其処から離れて行く。
「ウインドショッピングと洒落込んだ訳だけどな……」
「お互い、武器のウインドショッピングと言うのも味気は無いな」
メアシュタット水族館の前から逃げて、昼食も食べた後、京矢とエンタープライズの二人は、ウインドショッピングを楽しんでいた。
武器のウインドショッピングと言うのが何とも色気のない二人だ。流石に京矢の手持ちの武器以上に上等なものは無く、また珍しい武具もない。アクセサリーでも送るべきかと思うが、其方は品質ならばガチャ産の物の方が品質や効果も上等な品がゴロゴロしている為に、贈り物なら其方を渡す方が良いだろう。
(初めて送られた物ってのは特別だろうしな)
身に付けるのに良い見栄えの良い物か、見栄えが良くなくても身に付けるであろう良質な物と言う方が良いだろうと思った結果だ。
「エンタープライズ、迷路花壇か大道芸通りにでも行って見るか?」
「そうだな」
店の前を離れて露天の買い食いを楽しみつつ、次に何処に行くのか考えている時だった。ハジメとシアの姿が見えたのは。
デートはお構い無い様子で何かを追いかける様に走る二人の姿を確認すると、京矢がどうしたのか声をかけようとした時だった。
ハジメが地面に手を付いて錬成を行った。紅いスパークが発生すると、直ちに、真下への穴が空く。
「って、何やってんだ、あいつは!?」
躊躇うことなくそのまま穴へと飛び降りたハジメとシアにツッコミを入れつつ。
水族館に続いて町のど真ん中で、謎の破壊工作を行った二人に、本当に何があったのか気になるが、ただ事では無いだろうと頷き合い、京矢とエンタープライズも二人を追いかけて穴に飛び込んでいく。
事前に拾った小石を落下しながら投げて足場の位置を確認すると、エンタープライズを抱き寄せて其方へと着地する。
「鳳凰寺!?」
「何やってんだよ、南雲?」
主に水族館での破壊活動と強盗に加えての、町のど真ん中での破壊発動だ。
何故、単なるデートで続け様に破壊活動を引き起こしているのか?と言うのは心の底からの疑問だ。
「実はな」
ハジメ曰く、下水道から子供らしき気配を感知したそうだ。それを聞いたシアがその子を助けるために動き、一気に気配を追い抜き、こうして下水に流される子供を助けに来たわけだ。
服が汚れるなど気にした風もなく下水に飛び込もうとするシアの首根っこを掴んで止めたハジメは、地面に手を付いて錬成を行った。
紅いスパークと共に水路から格子がせり上がってくる。格子は斜めに設置されているので、流されてきた子供は格子に受け止められるとそのままハジメ達の方へと移動して来た。
ハジメは、左腕のギミックを作動させ、その腕を伸長させると子供を掴み、そのまま通路へと引き上げた。
「その子が……」
「まぁ、息はあるし……取り敢えずここから離れよう。臭いが酷い」
「だな、早めに治療した方がいいだろうしな。こんな場所で治療もねえだろう」
引き上げられたその子供を見て、シアが驚きに目を見開く。ハジメも京矢も、その容姿を見て知識だけはあったので、内心では結構驚いていた。
しかし、場所が場所だけに、肉体的にも精神的にも衛生上良くないと場所を移動する事にする。
何となく、子供の素性的に唯の事故で流されたとは思えないので、そのまま開けた穴からストリートに出ることが躊躇われたハジメは、ストリートの穴を錬成で塞ぎ、代わりに地上の建物の配置を思い出しながら下水通路に錬成で横穴を開けた。そして、〝宝物庫〟から毛布を取り出すと小さな子供をくるみ、抱きかかえて移動を開始した。
とある裏路地の突き当たりに突如紅いスパークが奔り地面にポッカリと穴が空く。
そこからピョンと飛び出したのは、周囲の人影を確認する京矢、彼に続いて毛布に包まれた小さな子供を抱きかかえたハジメとシア、最後にエンタープライズも飛び出してくる。
ハジメは、錬成で穴を塞ぐと、改めて自らが抱きかかえる子供に視線を向けた。
その子供は、見た目三、四歳といったところだ。エメラルドグリーンの長い髪と幼い上に汚れているにも関わずわかるくらい整った可愛らしい顔立ちをしている。女の子だろう。だが何より特徴的なのは、その耳だ。通常の人間の耳の代わりに扇状のヒレが付いているのである。しかも、毛布からちょこんと覗く紅葉のような小さな手には、指の股に折りたたまれるようにして薄い膜がついている。
「亜人の子供って言うだけなら、単に奴隷狩りにあった子供って事で済むんだがな」
「指揮官、その子は違うのか?」
「亜人族って言う分け方は間違っちゃ居ねえな。だけど、種族が問題なんだよ、その子は、な」
「この子、海人族の子ですね……どうして、こんな所に……」
「まぁ、まともな理由じゃないのは確かだな」
オルクスの迷宮攻略後に呼び出したエンタープライズに知識には無いが、京矢もこの世界の種族については調べていた。
その中でも海人族は、亜人族としてはかなり特殊な地位にある種族だ。西大陸の果、【グリューエン大砂漠】を超えた先の海、その沖合にある【海上の町エリセン】で生活している。彼等は、その種族の特性を生かして大陸に出回る海産物の八割を採って送り出しているのだ。
そのため、亜人族でありながらハイリヒ王国から公に保護されている種族なのである。亜人族を差別しておきながら使えるから、その中の一種族だけ保護するという何とも現金な話だ。
それでも、公的な保護を受けていると言うのは幸運な話と言えるだろう。
そんな保護されているはずの海人族、それも子供が内陸にある大都市の下水を流れているなど、本来ならばありえない事だ。
大都市の下水が海に直行している筈もなく、子供の力で流れを遡る事もできるわけがない。どう考えても犯罪臭がぷんぷんしている。
と、その時、海人族の幼女の鼻がピクピクと動いたかと思うと、パチクリと目を開いた。
そして、その大きく真ん丸な瞳でジーとハジメを見つめ始める。ハジメも何となく目が合ったまま逸らさずジーと見つめ返した。意味不明な緊迫感が漂う中、シアが何をしているんだと呆れた表情で近づくと、海人族の幼女のお腹がクゥーと可愛らしい音を立てる。
再び鼻をピクピクと動かし、ハジメから視線を逸らすと、その目がシアの持っていた露店の包みをロックオンした。
その後は袋小路にハジメが作った簡易浴槽に宝物庫から綺麗な水を張り、水温を普通のお風呂の温度まで上げると、海人族の幼女(本人はミュウと名乗った)を入れるとシアに薬やタオル、石鹸等を渡しミュウの世話を任せて、自らは京矢とエンタープライズと共にミュウの衣服を買いに袋小路を出て行った。
服は兎も角、子供物とは言え下着を買う時は女連れの京矢に任せたのだが、それが功を奏したのか店員から不審な目を向けられる事なく終える事が出来た様子だ。
しばらくして、京矢達がミュウの服を揃えて袋小路に戻ってくると、ミュウは既に湯船から上がっており、新しい毛布にくるまれてシアに抱っこされているところだった。
抱っこされながら、シアが「あ~ん」する串焼きをはぐはぐと小さな口を一生懸命動かして食べている。薄汚れていた髪は、本来のエメラルドグリーンの輝きを取り戻し、光を反射して天使の輪を作っていた。
「あっ、ハジメさん、京矢さん、エンタープライズさん。お帰りなさい。素人判断ですけど、ミュウちゃんは問題ないみたいですよ」
彼等が帰ってきた事に気がついたシアが、ミュウのまだ湿り気のある髪を撫でながら三人に報告をする。
ミュウもそれで彼等の存在に気がついたのか、はぐはぐと口を動かしながら、先ずは再びジーとハジメを見つめ始めた。
良い人か悪い人かの判断中なのだろう。
ハジメは、シアの言葉に頷くと、買ってきた服を取り出した。
シアの今着ている服に良く似た乳白色のフェミニンなワンピースだ。それに、グラディエーターサンダルっぽい履物、それと下着だ。
ハジメが服を着せ、温風を出すアーティファクト、つまりドライヤーを宝物庫から取り出し、湿り気のあるミュウの髪を乾かしていく。
ミュウはされるがままで、未だにジーとハジメを見ているが、温風の気持ちよさに次第に目を細めていった。
「……何気に、ハジメさんって面倒見いいですよね」
「何だ、藪から棒に……」
ミュウの髪を乾かしながらシアの言葉に眉をしかめるハジメだったが、その姿こそ文字通り面倒見がいい証拠なので、シアは頬を緩めてニコニコと笑う。
何となくばつが悪くなっているのを見て、京矢は話題を逸らしてやろうと口を挟む。
「で、この後の事だけどな……」
「ミュウと言ったか? その子をどうするかだな……」
京矢とエンタープライズが自分の事を話していると分かっているようで、上目遣いで二人を交互に見るミュウ。
二人の言葉を聞き、ハジメとシアは取り敢えず、ミュウの事情を聞いてみることにした。
結果、たどたどしいながらも話された内容は、ハジメと京矢が予想したものに近かった。
すなわち、ある日、海岸線の近くを母親と泳いでいたらはぐれてしまい、彷徨っているところを人間族の男に捕らえられたらしいということだ。
そして、幾日もの辛い道程を経てフューレンに連れて来られたミュウは、薄暗い牢屋のような場所に入れられたのだという。そこには、他にも
そこで幾日か過ごす内、一緒にいた子供達は、毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくることはなかったという。少し年齢が上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていたらしい。
遂にミュウの番になったところで、その日たまたま下水施設の整備でもしていたのか、地下水路へと続く穴が開いており、懐かしき水音を聞いたミュウは咄嗟にそこへ飛び込んだ。
三、四歳の幼女に何か出来るはずがないとタカをくくっていたのか、枷を付けられていなかったのは幸いだった。汚水への不快感を我慢して懸命に泳いだミュウ。幼いとは言え、海人族の子だ。通路をドタドタと走るしかない人間では流れに乗って逃げたミュウに追いつくことは出来なかった。
だが、慣れない長旅に、誘拐されるという過度のストレス、慣れていない不味い食料しか与えられず、下水に長く浸かるという悪環境に、遂にミュウは肉体的にも精神的にも限界を迎え意識を喪失した。そして、身を包む暖かさに意識を薄ら取り戻し、気がつけばハジメの腕の中だったというわけだ。
「完全に予想通りだったな」
「客が人に値段をつける……ね。オークションか。それも人間族の子や海人族の子を出すってんなら裏のオークションなんだろうな」
「気分が悪くなる話だな」
「オークション自体は楽しいだろうが、人身売買は反吐が出る」
「……皆さん、どうしますか?」
シアが辛そうに、ミュウを抱きしめる。その瞳は何とかしたいという光が宿っていた。
亜人族は、捕らえて奴隷に落とされるのが常だ。その恐怖や辛さは、シアも家族を奪われていることからも分かるのだろう。
だが、ハジメは首を振った。
「保安署に預けるのがベターだろ」
「まっ、この場合はそうするしか無いか」
「そんなっ……この子や他の子達を見捨てるんですか……」
「いや、指揮官達の話を聞く限り、そちらの方が良いだろう」
「そんな、エンタープライズさんまで!」
京矢、ハジメ、エンタープライズと三者の考えが一致したのだった。
***
保安署とは地球で言うところの警察機関のことだ。
そこに預けるというのは、ミュウを公的機関に預けるということで、完全に自分達の手を離れるということでもある。
なので、見捨てるというわけではなく迷子を見つけた時の正規の手順ではあるのだが、事が事だけにシアとしてはそういう気持ちになってしまうのだろう。
それに、誘拐されたという証言があれば公的機関が動いて誘拐組織の摘発もしてくれるだろう。
どう考えても一個人の集まり程度で動くよりもメリットが有る。
ハジメと京矢は、そんなシアに噛んで含めるように説明する。
「あのな、シア。迷子を見つけたら保安署に送り届けるのは当然のことだ。まして、ミュウは海人族の子だ。必ず手厚く保護してくれるさ。それどころか、海人族をオークションに掛けようなんて大問題だ。正式に捜査が始まるだろうし、そうすれば他の子達も保護されるだろう」
「それに、これは大都市にはつきものの闇って奴なんだろ? その子が捕まっていたところだけじゃなく、公的機関の手が及ばない場所では普通にある事だろうから、誘拐と人身売買の証人が居れば動く理由になる。何よりフューレンの問題だ。どっちにしろ、通報は必要だ」
「……お前の境遇を考えると、自分の手で何とかしたいという気持ちはわからんでもないがな……」
「そ、それは……そうですが……でも、せめてこの子だけでも私達が連れて行きませんか? どうせ、西の海には行くんですし……」
「はぁ~、あのな。その前に大火山に行かにゃならんだろうが。まさか、迷宮攻略に連れて行く気か? それとも、砂漠地帯に一人で留守番させるか?」
「ってか、誘拐された海人族の子を勝手に連れて行ったら、その時点でオレ達も誘拐犯の仲間入りだろうが」
「指揮官達の言う通りだ。あまり無茶な事を言うな」
「……うぅ、はいです……」
どうやら、シアはこの短い時間で相当ミュウに情が湧いてしまったようだ。
自分の事で不穏な空気が流れていることを察したのか、ミュウはシアの体にギュウと抱きついている。ミュウの方もシアにはかなり気を許しているようだ。それがまた、手放すことに抵抗感を覚えさせるのだろう。
しかし、京矢達の言っていることは当然の事なので、肩を落としながらも頷くシア。
そんな中、ハジメは屈んでミュウに視線を合わせると、ミュウが理解出来るようにゆっくりと話し始めた。
「いいか、ミュウ。これから、お前を守ってくれる人達の所へ連れて行く。時間は掛かるだろうが、いつか西の海にも帰れるだろう」
「……お兄ちゃん達は?」
ミュウが、ハジメの言葉に不安そうな声音で京矢達はどうするのかと尋ねる。
「悪いが、そこでお別れだ」
「やっ!」
「いや、やっ! じゃなくてな……」
「お兄ちゃん達がいいの! お兄ちゃん達といるの!」
思いのほか強い拒絶が返ってきてハジメが若干たじろぐ。ミュウは、駄々っ子のようにシアの膝の上でジタバタと暴れ始めた。
今まで、割りかし大人しい感じの子だと思っていたが、どうやらそれは、ハジメ達の人柄を確認中だったからであり、信頼できる相手と判断したのか中々の駄々っ子ぶりを発揮している。元々は、結構明るい子なのかもしれない。
ハジメとしても京矢としても信頼してくれるのは悪い気はしないのだが、どっちにしろ公的機関への通報は必要であるし、途中で危険極まりない【大火山】という大迷宮の攻略にも行かなければならないのでミュウを連れて行くつもりはなかった。
なので、「やっーー!!」と全力で不満を表にして、一向に納得しないミュウへの説得を諦めて、ハジメが抱きかかえると強制的に保安署に連れて行くことにした。
ミュウとしても、窮地を脱して奇跡的に見つけた信頼出来る相手から離れるのはどうしても嫌だったので、保安署への道中、抱え上げているハジメの髪やら眼帯やら頬やらを盛大に引っ張り引っかき必死の抵抗を試みる。隣におめかしして愛想笑いを浮かべるシアや苦笑いをしている京矢、こんな時にどうすればいいのかと戸惑っているエンタープライズがいなければ、ハジメこそ誘拐犯として通報されていたかもしれない。
髪はボサボサ、眼帯は奪われて片目を閉じたまま、頬に引っかき傷を作って保安署に到着したハジメは、目を丸くする保安員に事情を説明した。
事情を聞いた保安員は、表情を険しくすると、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要との事で、ミュウを手厚く保護する事を約束しつつ署で預かる旨を申し出た。ハジメの予想通り、やはり大きな問題らしく、直ぐに本部からも応援が来るそうで、自分達はお役目御免だろうと引き下がろうとした。が……
「お兄ちゃんは、ミュウが嫌いなの?」
幼女にウルウルと潤んだ瞳で、しかも上目遣いでそんな事を言われて平常心を保てるヤツはそうはいない。
早々に抵抗を諦めてハジメに説得を丸投げした京矢に恨めしげな視線を向けつつ、ハジメも「うっ」と唸り声を上げ、旅には連れて行けないこと、眼前の保安員のおっちゃんに任せておけば家に帰れる事を根気よく説明するが、ミュウの悲しそうな表情は一向に晴れなかった。
そんな様子を見かねた保安員達が、ミュウを宥めつつ少し強引にハジメ達と引き離し、ミュウの悲しげな声に後ろ髪を引かれつつも、ようやく一行は保安署を出たのだった。
当然、そのままデート再開という気分ではなくなり、シアは心配そうに眉を八の字にして、何度も保安署を振り返っていた。
やがて保安署も見えなくなり、かなり離れた場所に来たころ、未だに沈んだ表情のシアにハジメが何か声をかけようとした。と、その瞬間、
背後で爆発が起き、黒煙が上がっているのが見えた。その場所は、
「ハ、ハジメさん。あそこって……」
「チッ、保安署か!」
「チッ、敵を甘く見ていたつもりはねえが、随分と仕事の早い事だなっ!」
そう、黒煙の上がっている場所は、さっきまで京矢達がいた保安署があった場所だった。
四人は、互いに頷くと保安署へと駆け戻る。タイミング的に最悪の事態が脳裏をよぎった。すなわち、ミュウを誘拐していた組織が、情報漏洩を防ぐためにミュウごと保安署を爆破した等だ。
焦る気持ちを抑えつけて保安署にたどり着くと、表通りに署の窓ガラスや扉が吹き飛んで散らばっている光景が目に入った。しかし、建物自体はさほどダメージを受けていないようで、倒壊の心配はなさそうだった。
四人が、中に踏み込むと、対応してくれたおっちゃんの保安員がうつ伏せに倒れているのを発見する。
両腕が折れて、気を失っているようだ。他の職員も同じような感じだ。幸い、命に関わる怪我をしている者は見た感じではいなさそうである。
ハジメと京矢が、職員達を見ている間、エンタープライズと共に他の場所を調べに行ったシアが、焦った表情で戻ってきた。
「ハジメさん! 京矢さん! ミュウちゃんがいません! それにこんなものが!」
シアが手渡してきたのは、一枚の紙。そこにはこう書かれていた。
〝海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族を連れて○○に来い〟
「ハジメさん、これって……」
「どうやら、あちらさんは欲をかいたらしいな……」
「随分とふざけた真似をしてくれるな」
「やれやれ、下手な欲を出さなきゃ良かったのによ」
ハジメはメモ用紙をグシャと握り潰すと凶悪な笑みを浮かべ、京矢は軽い口調に似合わない冷酷な笑みを浮かべ、エンタープライズは表情と言う物が抜け落ちた様な顔をしていた。
おそらく、連中は保安署でのミュウと京矢達のやり取りを何らかの方法で聞いていたのだろう。そして、ミュウが人質として役に立つと判断し、口封じに殺すよりも、どうせならレアな兎人族も手に入れてしまおうとでも考えたようだ。
そんな三人の横で、シアは、決然とした表情をする。
「ハジメさん! 私!」
「みなまでいうな。わーてるよ。こいつ等はもう俺の敵だ……御託を並べるのは終わりだ。全部ぶちのめして、ミュウを奪い返すぞ」
「たっぷりと教えてやろうぜ、下手な欲は身を滅ぼすってな。ボランティアでこの街の大掃除と行くか」
「はいです!」
「了解した」
正直、これから先の危険な旅に同行させる気がない以上、さっさと別れるのがベターだと考えていた。
精神的に追い詰められた幼子に、下手に情を抱かせると逆に辛い思いをさせることになるからだ。
とはいえ、再度拐われたとなれば放っておくわけにはいかない。余裕があり出来るのに、窮地にある幼子を放置するのはきっと〝寂しい生き方〟だからだ。
実際、自分には関係ないと見捨てる判断をすれば、確実にシアは悲しむだろう。
それに、今回、相手はシアをも奪おうとしている。ハジメの〝大切〟に手を出そうというのだ。つまり、〝敵〟である。
京矢に至っては異世界の裏社会に対応しても後始末まで手が回らないなら手を出すべきではないと考えていた。だが、敵対したのならば既に相応の対処をするべきと斬り捨てる。
最早、遠慮容赦一切無用。彼等は触れてはならない一線に触れてしまったのだ。
一同は武器を携え、京矢に至っては鎧の魔剣だけでなく、ディノミーゴとピーたんまで取り出している。
そして、化け物を呼び起こした愚か者達の指定場所へと一気に駆け出した。
最早、愚者達が明日の朝日を拝む事はないだろう。
44話でaiで作った挿絵は如何でしょうか?
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あり
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なし