『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』外伝(改訂版)   作:ドラゴンネスト

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058【閑話】

時は少し進む。

 

光輝達が、【宿場町ホルアド】にて、ハジメと京矢との再会によって受けた衝撃と、別れによる複雑な心情を持て余していた夜から三週間ほど経った。

 

現在、光輝達の早急に対処しなければならない欠点、〝人を殺す〟ことについて浅慮が過ぎるという点をどうにかしなければ、これ以上戦えないという事で、彼等は王都に戻って来ていた。

魔人族との戦争にこのまま参加するならば、〝人殺し〟の経験は必ず必要となる。克服できなければ、戦争に参加しても返り討ちに遭うだけだ。

 

光輝達に考える時間は、もうあまり残されていないと考えるのが妥当だ。ウルの町での出来事は、既に光輝達の耳にも入っており、自分達が襲撃を受けたことからも、魔人族の動きが活発になっていることは明らかで、開戦が近い事は誰もが暗黙の内に察している事だった。

従って、王国側としても彼ら自身としても、光輝達は出来るだけ早く、この問題を何かしらの形で乗り越えねばならなかった。

 

そんな光輝達はというと、現在、ひたすらメルド団長率いる騎士達と対人戦の訓練を行っていた。龍太郎や近藤達、永山達も、ある程度の覚悟はあったものの、実際、京矢が魔人族の女の首を切り落とす瞬間を見て、自分にも出来るのかと自問自答を繰り返していた。それがハジメが頭を撃つならもっと楽だったかもしれない。だが、首を切り落とすと言う生々しい光景は、彼らに死を強く連想させる大きな衝撃を与えていたのだ。

 

時間はないものの、無理に人殺しをさせて壊れてしまっては大事なので、メルド達騎士団も頭を悩ませている。

 

そんな、ある意味鬱屈した彼等に、その日、ちょっとした朗報が飛び込んできた。

 

愛子達の帰還だ。普段なら、光輝のカリスマにぐいぐい引っ張られていくクラスメイト達だったが、魔人族に味方する特撮ヒーロー達や、京矢と続けて敗北し続けた当の勇者に覇気がないので皆どこか沈みがちだった。

 

手痛い敗戦の連続とスタートは同じ筈のハジメや京矢との隔絶した差に直面し、折れてしまわないのは、雫や永山といった思慮深い者達のフォローと鈴のムードメイクのおかげだろうが、それでも心に巣食ったモヤモヤを解決するのに、身近な信頼出来る大人の存在は有難かった。みな、いつだって自分達の事に一生懸命になってくれる先生に、とても会いたかったのだ。

 

愛子の帰還を聞いて、真っ先に行動したのは雫だ。

雫は、愛子の帰還を聞いて色々相談したい事があると、先に訓練を切り上げた。

京矢やハジメに対して何かと思うところのありそうなクラスメイト達より先に会って、愛子が予断と偏見を持たないように客観的な情報の交換をしたかったのだ。

 

京矢から譲り受けた飾り気の無い漆黒の鞘に収まる、美しい白銀の刀身に黒い鋒両刃造りの刀を腰のベルトに差して、王宮の廊下を颯爽と歩く雫。そんな彼女の姿に、何故か男よりも令嬢やメイドが頬を赤らめている。世界を超えても雫が抱える頭の痛い問題だ。自分より年上の女性に「お姉様ぁ」と呼ばれるのは本当に勘弁して欲しいのだ。そう呼ばない後輩の直葉からも光輝が原因で絶縁状態にあるので、余計にそう感じてしまう。

 

雫は、ウルの町であの二人が色々やらかした事を聞いていたので、愛子から京矢とハジメについてどう思ったかも直接聞いてみたかった。愛子の印象次第では、今も考え込んでいる光輝の心の天秤が、あまり望ましくない方向に傾くかもしれないと思ったからだ。どこまでも苦労を背負い込む性分である。

 

「きっと、ウルでも無茶苦茶して来たのでしょうね……こんな刀をポイッとくれちゃうくらいだし……全く、何が〝これをやるから、予備の武器に使え、最低限自分の身は守れ〟よ。国宝級のアーティファクトじゃない」

 

そんなことを独り言ちながら、そっと腰の刀に手を這わせる雫。愛子の部屋を目指しながら、この刀のメンテナンスについて、国直営の鍛冶師達のもとへ訪れた時のことを思い出す。

 

それもそのはずだろう。刀鍛冶としては知識も経験もない二人だが、京矢が愛用する斬鉄剣を参考にオリハルコンという素材を元に作り上げたその刀は出来こそ一級の職人が作り上げたダイの剣やロトの剣には劣るだろうが、それらの世界の勇者が使う武器に準ずる逸品だ。

 

そんなことを独り言ちながら、そっと腰の刀に手を這わせる雫。愛子の部屋を目指しながら、この刀のメンテナンスについて、国直営の鍛冶師達のもとへ訪れた時のことを思い出す。

 

この刀、雫は名の刻まれてないそれを、無銘の刀と呼んでいるが、その刀をこの国の筆頭鍛冶師に見せたときのことだ。

最初は、〝神の使徒〟の一人である雫を前に畏まっていた彼だったが、鑑定系の技能を使って刀を調べた途端、態度を豹変させて、雫の肩を掴みかからんばかりの勢いで迫って来たのだ。そして、どこで手に入れたのか、誰の作品なのかと、今までの態度が嘘のように怒涛の質問、いや、尋問をして来たのである。

 

目を白黒させる雫が、何とか筆頭を落ち着かせ、何事かと尋ね返した。すると、彼曰く、これほどの剣は王宮の宝物庫でも見たことがない。

出力や魔力を受けるキャパシティという点では聖剣を遥かに超え、武器としての機能性・作りの精密性では上をいっているという。……そして、そんな代物であってもロン・ベルクが見たらオリハルコンの無駄遣いと言いそうなレベルで差があるのが悲しい所だろう。

 

京矢の予備武器として作ったと言う事もあり、ハジメとしては不満だったが、余計な能力は待たせられず、魔力を流すことで切れ味を強化するだけだが、刃の部分はオリハルコン製なのでまず大魔王バーンかバランか超魔生物ハドラーでも相手にしない限りは、欠けることもなく、メンテナンスも殆どいらないという。

ハジメも魔力を通して電撃を纏ったり、風刃を飛ばしたりしたかったが、その辺の木の枝でも技としてそれが可能な京矢を使い手としてすると、泣く泣く諦めるしかなかった。

 

ただ、問題があるとすれば、魔力を流し込むための魔法陣がないことである。それも当然だ。ハジメは、直接魔力を操れるし、京矢はそれを気で行っている。元々誰かに譲渡するのはハジメしかなかったのである。なので、雫が使う分においては、〝ただ硬くてよく切れるだけ〟の刀だ。

 

そして、何故か魔力を直接扱えでもしない限り、起動出来ないという不可解な刀に(鍛冶師達からはそう見える)、王国直属の鍛冶師達は闘志を燃やした。

 

これほどの機能性・精密性をもった武器は作れないが、使えるようにするくらいはしてみせる! と。要は、何とかして使用者の魔力を流し込めるようにしようというわけだ。結果、三日三晩一睡もせず、筆頭鍛冶師を中心に国直属の鍛冶師達が他の仕事を全てほっぽり出して総出で取り組んだ結果、何とか魔法陣を取り付けることに成功した。

 

これで、雫も詠唱を行うことで刀の能力を引き出すことができるようになった。その後、ほとんど全ての鍛冶師達が魔力を枯渇させて数日間寝込んだが、彼等の表情は実に晴れやかだったという。

 

職人魂の凄まじさを思い出して遠い目をしていると、目的地である愛子の部屋に到着した。ノックをするが、反応はない。国王達への報告をしに行っていると聞いていたので、まだ、戻ってきていないのだろうと、雫は、壁にもたれて愛子の帰りを待つことにした。

 

愛子が帰ってきたのは、それから約三十分ほどしてからだ。廊下の奥から、トボトボと何だかしょげかえった様子で、それでも必死に頭を巡らせているとわかる深刻な表情をしながら前も見ずに歩いてくる。

 

そして、そのまま自分の部屋の扉とその横に立っている雫にも気づかず通り過ぎようとした。雫は、一体何があったのだと、訝しそうにしながら、愛子を呼び止めた。

 

「先生……先生!」

 

「ほえっ!?」

 

奇怪な声を上げてビクリと体を震わせた愛子は、キョロキョロと辺りを見回し、ようやく雫の存在に気がつく。そして、雫の元気そうな姿にホッと安堵の吐息を漏らすと共に、嬉しそうに表情を綻ばせた。

 

「八重樫さん! お久しぶりですね。元気でしたか? 怪我はしていませんか? 他の皆も無事ですか?」

 

今の今まで沈んでいたというのに、口から飛び出るのは生徒への心配事ばかり。相変わらずの愛ちゃん先生の姿に、自然と雫の頬も綻び、同時に安心感が胸中を満たす。

しばし、二人は再会と互いの無事を喜び、その後、情報交換と相談事のため愛子の部屋へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、ですか……清水君が……」

 

雫と愛子、二人っきりの部屋で、可愛らしい猫脚テーブルを挟んで紅茶を飲みながら互いに何があったのか情報を交換する。

そして、愛子からウルの町であった事の次第を聞き、雫が最初に発した言葉がそれだった。

 

特撮ヒーローに変身した京矢とハジメを含む数人による万単位の魔物達に対する万夫不当の無双劇と、その後の巨大なロボット同士の戦いには唖然としたが、その後の室内には、やり切れなさが漂っている。

愛子は、悄然と肩を落としており、清水のことを気に病んでいるのは一目瞭然だった。雫は、愛子の性格や価値観を思えば、どんな事情が絡んでいても気にするのは仕方ないと思い、掛けるべき言葉が見つからない。

 

しかし、このまま落ち込んでいても仕方ないので、努めて明るく、愛子の無事を喜んだ。

 

「清水君のことは残念です……でも、それでも先生が生きていてくれて本当よかったです。京……鳳凰寺君と、南雲君には本当に感謝ですね」

 

昔の様に名前で呼びそうになるが、訂正する。そんな資格は無かった。もう、彼とは親しい間柄ではなくなったのだと、改めて思う。

 

愛子は、微笑みかけてくる雫に、また、生徒に気を使わせてしまったと反省し、同じく微笑みを返した。

 

「そうですね。再会した当初は、私達の事も、この世界の事も全部興味がないといった素振りだったのですが……八重樫さん達を助けに行ってくれたのですね。それに小さな子の保護まで……ふふ、少しずつ昔の彼を取り戻しているのかもしれませんね。あるいは、変わったまま成長しているのか……頼もしい限りです」

 

その後の会話で愛子がハジメに対してほかの生徒とは異なる特別な感情を抱き始めていることに気づいた雫が心の中で絶叫したり、置いて行かれた親友に思わぬライバルが増えている事を確信して、引き攣る頬を手で隠しながら天を仰いだ。

……京矢がその他のフラグを立ててないのが不思議なくらいだが、エンタープライズとベルファストの二人を思い返してみると、実はどこかで立てていても不思議じゃないと思う。

 

愛子と雫は、二人して咳払いを繰り返して気を取り直すと、先ほどのやり取りなど何もなかったように話を続けた。

 

「それで、先生。陛下への報告の場で何があったのですか? 随分と深刻そうでしたけど」

 

雫の質問に、愛子はハッとすると共に、苦虫を噛み潰したような表情で王国への憤りと不信感をあらわにした。

 

「……正式に、南雲君と鳳凰寺君が異端者認定を受けました」

 

「!? それは! ……どういうことですか? いえ、何となく予想は出来ますが……それは余りに浅慮な決定では?」

 

二人の力は強大だ。僅か数人で六万以上の魔物の大群を、未知のアーティファクトで撃退した。その仲間も、通常では有り得ない程の力を有している。極め付けはキシリュウジンとヨクリュウオーと言う二体の巨大ロボットの存在だ。

にもかかわらず、聖教教会に非協力的で、場合によっては敵対することも厭わないというスタンス。王国や聖教教会が危険視するのも頷ける。

 

しかし、だからといって、直ちに異端者認定するなど浅慮が過ぎるというものだ。異端者認定とは、聖教教会の教えに背く異端者を神敵と定めるもので、この認定を受けるということは何時でも誰にでもハジメと京矢の討伐が法の下に許されるという事だ。場合によっては、神殿騎士や王国軍が動くこともある。

 

そして、異端者認定を理由に二人に襲いかかれば、それは同時に、二人からも敵対者認定を受けるということであり、あの容赦のない苛烈な攻撃が振るわれるということだ。その危険性が上層部に理解出来ないはずがない。

にもかかわらず、愛子の報告を聞いて、その場で認定を下したというのだ。雫が驚くのも無理はない。

 

雫が、そこまで察していることに、相変わらず頭の回転が早い子だと感心しながら愛子は頷く。

 

「全くその通りです。しかも、いくら教会に従わない大きな力とはいえ、結果的にウルの町を救っている上、私がいくら抗議をしてもまるで取り合ってもらえませんでした。南雲君と鳳凰寺君は、こういう事態も予想して、ウルの町で唯でさえ高い〝豊穣の女神〟の名声を更に格上げしたのに、です。護衛隊の人に聞きましたが〝豊穣の女神〟の名と〝女神の双剣〟の名は、既に、相当な広がりを見せているそうです。今、彼らを異端者認定することは、自分達を救った〝豊穣の女神〟そのものを否定するに等しい行為です。私の抗議をそう簡単に無視することなど出来ないはずなのです。でも、彼等は、強硬に決定を下しました。明らかにおかしいです……今、思えば、イシュタルさん達はともかく、陛下達王国側の人達の様子が少しおかしかったような……」

 

「……それは、気になりますね。彼等が何を考えているのか……でも、取り敢えず考えないといけないのは、唯でさえ強い南雲君と鳳凰寺君に〝誰を〟差し向けるつもりなのか? という点ではないでしょうか」

 

「……そうですね。おそらくは……」

 

「ええ。私達でしょう……まっぴらゴメンですよ? 私は、まだ死にたくありません。あの二人と敵対するとか……想像するのも嫌です」

 

雫がぶるりと体を震わせ、愛子は、その気持ちはわかると苦笑いする。下手したら戦うことすらなく、巨大ロボで踏み潰されて終わりだろう。

 

そして、国と教会側からいいように言いくるめられて、ハジメと敵対する前に、愛子は、光輝達にハジメから聞いた狂った神の話とハジメの旅の目的を話す決意をした。証拠は何もないので、光輝達が信じるかは分からない。

なにせ、今まで、魔人族との戦争に勝利すれば、神が元の世界に戻してくれると信じて頑張ってきたのだ。

 

実は、その神は愉快犯で、帰してくれる可能性は極めて低く、だから、昔、神に反逆した者達の住処を探して自力で帰る方法を探そう! などといきなり言われても信じられるものではないだろう。

光輝達が話を聞いたあと、戯言だと切って捨てて今まで通り戦うか、それとも信じて別の方針をとるか……それは愛子にも分からないが、とにかく教会を信じすぎないように釘を刺す必要はある。愛子は、今回のことでそれを確信した。

 

「八重樫さん。南雲君も鳳凰寺君も、自分が話しても信じないどころか、天之河君辺りから反感を買うだろうと予想して、私にだけ話してくれたことがあります」

 

「話……ですか?」

 

「はい。教会が祀る神様の事と、南雲君達の旅の目的です。証拠は何もない話ですが……とても大事な話なので、今晩……いえ、夕方、全員が揃ったら先生からお話したいと思います」

 

「それは……いえ、分かりました。なんなら今から全員招集しますか?」

 

「いえ、あまり教会側には知られたくない話なので、自然に皆が集まるとき、夕食の席で話したいと思います。久しぶりに生徒達と水入らずで、といえば私達だけで話せるでしょう」

 

「なるほど……分かりました。では、夕食の時に」

 

その後、雫と愛子は雑談を交わし、程よい時間で分かれた。夕食の約束は守られないと知る由もなく……。

44話でaiで作った挿絵は如何でしょうか?

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