友人に頼まれて作ったFate二次創作(タイトル未定) 作:骨紳士
聖杯戦争のルールは、大まかに説明すると以下のようになる。
『最大参加人数は最大で7組。それらの主従が、最後の一組になるまで戦い合う』
『制限時間は一週間。短い場合は1時間も経たずに終わるし、長い場合は制限時間ギリギリまで使って行われる』
『生き残った順位ごとに、次のランクに上がるためのポイント(ランクポイントというらしい)が手に入る。最後まで勝ち残れば30点のポイントを手に入れ、ブロンズからシルバーに上がるには、50点のポイントを保有していることが条件だ』
『生成が下位になるとランクポイントを一定量奪われ、そのランクに留まるための最低点数を下回るとランクが降格される』
細かいルールを省けば、大体この程度の認識でいいだろう。
参加表明を出すと同時に色々と教えてもらったが、特に重要なのがこのルール。
『サーヴァントを所持していないマスターは、聖杯戦争開始時にサーヴァントを召喚する機会を得る』
より詳しい言えば、開始直後に該当するマスターのみが、自動生成される戦場とは別の、魔術陣が描かれた召喚部屋へと移動。
そこでサーヴァントの召喚及びサーヴァントとの事前コミニュケーション(主にサーヴァントとの方針の確認など)を経た後、三画の『令呪』というサーヴァントに対する絶対命令権を得て聖杯戦争に参加するらしい。
「覚えておくべきことが多すぎて、少し混乱するな」
受付の人が分かりやすく説明してくれるような人で助かった。
あんな分厚いルールブック、一日二日で読み切れるようなもんじゃない。
『まあ大丈夫ですよ。ブロンズランクの死亡率は上のランクと比べればかなり安全ですから』
「死亡例はある、って言ってるようなもんだよなあれ……」
個人的に最も怖いのが、マスターを死亡させた場合のボーナスだ。
一人殺すだけで、100のランクポイントを得られる。つまりは、聖杯戦争でたった一人、マスターを殺すだけでシルバーに上がるための権利を得ることができるのだ。
しかし、殺意を持って敵対すると言うことは、自身も殺される危険性が生じると言うことだ。
暗黙の了解として、ブロンズという弱者の溜まり場では無闇にマスターを殺すのうなことはタブーらしい。原因は様々だが、最も大きいのはそのマスターが上位ランクのマスターの保護下に入っている場合があるからだ。
上位マスターのお気に入りを殺してしまえば、上位のマスターがその報復を行う。
当たり前だが戦力差は絶望的だ。よほどの馬鹿でも無い限り、他のマスターに対しては殺すのではなく叩きのめして敗退させるだけに留める。
ブロンズのマスターは、特に高ランクマスターの保護下に入っていることが多い。
何せ己達が捕食される側だと理解しているのだ。己を守る後ろ盾を用意するのは当然だろう。もちろん、守ってもらうには相応の対価を払う必要があるらしいが。
「……聖杯戦争、ねぇ」
何かが引っ掛かるようで、けれど記憶を掠めて消えていく単語。
その違和感が何なのかは分からないが、どうにも気持ち悪い。
「何のために戦わされるんだろうな」」
愚痴るように呟き、改めて目的地を確認する。
聖杯戦争の参加者は、それぞれに設けられた個室(待機室というらしい)に行く必要がある。
個室に設置されている機械が、参加者を聖杯戦争の舞台に連れていくのだとか。
聖杯戦争の舞台は多種多様で、オーソドックスな街の他、船や小島が多数存在する海上や、灼熱の砂漠、挙句の果てには宇宙空間を模した場所なども存在するらしい。
それらは全て聖杯戦争開始時に自動的に生成され、聖杯戦争が終われば跡形もなく消えるらしい。どんなオーバーテクノロジーが使われているのか興味が尽きない。
「……靄がかかってた記憶も、ちょっとずつ思い出せてきたか?」
最初は混乱していた頭も、時間が経ち腹を決めたからか少しずつ正常になっていく。
己の過去が、己にできることが、少しずつだが明確になっていく。
一番重要な部分、なぜここに来たか、は未だ思い出せぬままではあるが。
「キャッ!?」
「うおっと!?」
考え事をしながら歩いていたからだろう。
俺の身長より一回り以上小さい、子供のような背丈の女性とぶつかってしまう。
尻もちをつきかける女性の手を取り、救い起こす。
「す、すいません!考え事してたら前が見えなくなってまして……」
「ああ、いえ。俺の方こそ申し訳ない。怪我はありませんか?」
黄色がかったショートヘアーと、クリっとした丸い目を見るに、かなり幼い。
俺と比べて頭一つ分ほどは背が低く、小動物のような愛らしさがある。
「大丈夫です!あ、もしかしてあなたも聖杯戦争の参加者ですか?」
「ええ、まあ。と言っても、初参加なんですが」
「奇遇ですね!私も今回が初参加なんです。同期、ってことでいいのかな?」
「そういうことに、なるのか?」
果たしてそう呼べばいいのかは分からないが、まあそういうことでいいだろう。
彼女はうれしそうに笑う。
「私以外にも初めての人がいてよかったぁ。心細かったんです、皆強そうで……」
「だよなぁ」
待機室に向かうマスター達を見ても、如何にもこれに慣れているような雰囲気の奴らばかりで、初参加の俺は食い物にされる気しかしない。
できる限り強く、そして俺に従ってくれるサーヴァントが召喚されるのを祈るばかりだ。
「もしよければ、名前を教えていただけませんか?私はシトリンって言います!」
名前、と言われて一瞬悩む。
本来ならば、隠す必要も無いのだが。
「……オサムだ。よろしくな、シトリン」
「はい!よろしくお願いします、オサムさん!」
名前を聞いて喜ぶ彼女は、子供のように可愛らしい。
この様子なら、奇人変人が多いというサーヴァントでも、大抵は仲良くなれるだろう。羨ましい限りだ、コミュニケーション能力はいつの時代も人間を一段階押し上げる。
「もしよければ、聖杯戦争中も一緒にいませんか?初参加同士組んだ方が、危険性も低いと思うんですけど……」
「あー、悪い。それに関しては確約できない。出現場所はランダムらしいし」
「アハハ、それもそっか」
各マスターがどの地点に出現するかは、完全にランダムだ。
戦場のど真ん中に送られるかもしれないし、エリア外ギリギリの場所かもしれない。
どの場所が有利かはマスターの方針によって変わるが、俺としては真ん中は避けたい。危なくなったらすぐ降参できるような場所が一番楽だ。
故に彼女とすぐに落ち合えるかも分からないし、先に出会うのは他マスターの可能性のが高い。先に他の相手から手を組むことを提案されたらそいつと組むことになるだろうし、彼女との共闘を確約はできない。
「それじゃあ、成り行き次第ですね。お互い頑張りましょう!」
「おう。似たような場所になることがあれば、その時は改めて組もうぜ」
「はい!ではまた!」
何はともあれ、彼女のようなマスターもいて助かった。
彼女も言っていたが、一人だけ初心者という状況はどうにも心細い。
共に成長していく人間の存在は、ほんの僅かだが孤独感を埋めてくれる。
「良い奴そうだったし、お互い生きて帰れるといいな」
面倒なこと続きなこの状況で、ようやく出会えた幸運に少し笑いながら待機室に入り、『そういえば』と受付に言われたもう一つのことを思い出す。
『マスターライセンスは、絶対に失くしてはいけませんよ』
もしも失くしてしまえば、再発行まで聖杯戦争に参加できなくなる、とか。
それにマスター自身の能力や、今はまだ無いが、サーヴァントの性能もある程度ばれてしまう。そうなれば聖杯戦争の際に不利になることは必然だ。
一瞬不安を覚え、ライセンスを入れているポケットに手を突っ込む。
「ああ、よかった。ちゃんと持ってるな」
一安心、と待機室に設置された機械にライセンスを差し込む。
しばらく待機していると、部屋の中が淡い輝きに包まれ、機械の駆動音が鳴り響く。
ついに始まるのだ、と気を引き締め、サーヴァントの召喚を行うための部屋に───。
「……あ?」
送られた場所は、事前に説明された召喚部屋の特徴とは大きく異なる。
だだっ広い廃ビルの群れと、眩い太陽、そして生身の俺がぽつりと一人。
しばらくの間、脳が現状の理解を拒み、遅ばせながらふと思い出す。
『カードの裏に、契約待ちって書かれてるだろ?それに『はい』を押した状態で聖杯戦争に参加すれば、開始前に自動的にサーヴァントが召喚される』
裏を見る。
そこには、『契約待ち』の後に『いいえ』と書かれた文字が浮かんでいた。
★★★
「やっぱり私は幸運だと思わない?ランサー」
「まったく。ここまで上手く行くとは思わなかったのぉ」
少女は嗤う。自分はやはり、最後には勝利を掴み取る人間なのだと。
彼のポケットからライセンスを掠め取り、サーヴァント召喚の可否を書き換える。
ある程度慣れたマスターには間違いなく通じないしやる意味も無いが、何も知らぬ初心者相手にはこれ以上ないほど突き刺さる。
「恐ろしい女じゃわい。油断を見せれば気づかぬ間に勝利を奪い取られている」
「こうでもしないと勝てないからね。見たでしょ?あいつのステータス」
あの初参加のマスターは、間違いなくゴールドか、惑いはプラチナでも通用する逸材だ。
自分の五倍以上の魔術回路の数と、確かに存在した魔術師の証明、
もしも普通に参加していたなら、きっと凄まじいサーヴァントを召喚していたのだろう。
サーヴァントはマスターに似るものなのだから。
「普通に召喚させちゃえば、このゲームはあいつの無双で終了。私達はまた負けて、屈辱を味わうことになっただろうね」
「そう簡単に負けるような無様は晒さんがな。だが、恨まれるぞ?奴はおそらくお前が犯人であることに気づくし、次の聖杯戦争でかち会う時にはもうサーヴァントを召喚している」
「そうね。だから、ここで私の傀儡に仕立てあげるのよ」
懐から取り出したのは、高いQPを支払い手に入れた『
一度署名してしまえば、死後の魂すらも束縛される魔術刻印への呪い。
逆に言えば魔術刻印を持つマスターにしか通じないが……彼はそれに当てはまる。
「一体彼が、ここに来る前はどんな魔術師だったかは分からないけど。少なくとも私なんかよりは、ずっとずぅっと凄い人間だったのでしょうね」
「そうだのぅ。魔術刻印を持つということは、魔術師の家の相続者。一つの家の当主であろう。覇気はあまり無かったが、腕の方はまず間違いなく一級品よ」
「そんな彼を下僕にすれば、果たしてどれだけ有利に動けるかしら?」
「儂らをブロンズに落としたあやつにも対抗しうる力を手に入れ。もしかすれば、プラチナでも通用する力が手に入るかもしれないな」
「まったく、やっぱり私は幸運ね!」
灰被りの女は嗤う。この先に勝利と栄華を夢に見て。
「さあ、勝利者になるための第一歩を踏みつけましょうか。私の騎士。私のサーヴァント」
「応とも。見せてやろう、オーディンに祝福された我が武芸」
英霊は笑う。この先に待ち受ける障害を思い浮かべて。
「「聖杯を獲るのは我々だ」」
聖杯戦争の狼煙が上がる。