へんしん(ある朝気がかりな夢から目覚めるとなんかちいさくてかわいいやつに変わっていた男の話) 作:酢酢酢豆腐
「ウオーッ!?ウオーッ!?」
「ギギギ…」
凄まじいカラテストレート右!左!
あわれ討伐対象のなんか縞模様の虫は正しく虫の息だ!
「ウオーッ!?ウオーッ!?」
「ギギギ…」
彼の攻撃は止まらない。凄まじいカラテストレート右!左!
他のちいさくてかわいい生き物に比べて、大猩猩の手脚は長く、強靭だった。そして、攻撃の手を緩めるつもりは一切無かった。
何故なら朝から労働の窓口で並び、勝ち取った仕事だからだ。
武器を持たずに討伐に挑む様に、「鎧」はいい顔をしなかったが、結局は討伐を受注することができた。
「ウオーッ!?ウオーッ!?」
「ギ…」
凄まじいカラテストレート右!左!討伐対象のなんか縞模様の虫はたちまち絶命!
人員・物資の回収に用いられるドローンが飛んでくると討伐対象の死体はすぐさま回収される。死体が何に利用されるのか、何故鎧達はちいさくてかわいい生き物達に労働や報酬を与えるのか。謎は尽きないが、この地では誰もそのようなことを気にしない。彼がこの危険なに転移してきてから、既に一週間が経過していた。一週間で多くのことが分かった。
この大地では、どこからともなくうンまいものが湧いてくること、危険な害獣(それも一人で対処できるような強さのものから、空想上の化物めいたものまで大きな振り幅がある)であふれているということ、ちいさくてかわいい生き物達は善良だが弱く危機察知能力が鈍いこと、鎧の人が労働や嗜好品や通貨を用意し、流通させていること。
ハチワレとも何度か会った。今は手頃な家を探しながら、草むしりでお金を稼いでおいしいものを食べながら暮らしているらしい。手っ取り早く武器を買うため、素手で4度討伐をこなしたことを伝えると「すごい!すごい!」と我が事のように褒め称えてくれる。自然、ゴリラとハチワレは一緒にいることが多くなっていった。
「わ!傷だらけだよ!討伐帰り?」
「オッスオッス」
「そっかぁ。武器無しで怖いの討伐出来ちゃうなんてすごいねっ!」
「コッカラッス!」
「え!もう武器買うお金貯まったの?じゃあ市場寄ってさぁ、カルメ焼き食べて武器選びしてこ!」
「オーッス!」
カルメ焼きとは、砂糖を発泡させた焼き菓子だ。サクサクとした歯応えと、焦がした砂糖の香りが特徴的だ。原始的な闘争との落差が凄い。砂糖は特段貴重でもないようで、労働をすれば2個や3個買うことはたやすい。この大地では物の価値を気にすることは愚かなことだ。彼は学んだ。
「サクサクでうまっ」
「ッスッス」
報酬袋から貨幣を何枚か取り出して鎧の人に渡せば、カルメ焼きはすぐに手に入った。賑わう市場の片隅で適当な場所に腰掛け、ハチワレとゴリラはカルメ焼きに舌鼓をうつ。
「カルメ焼きおいしいねぇ」
「オッス」
「そういえばなんか西の方でアオリイカ飛んでるの見た子がいるって」
「コッカラッス?」
「倒せたらさぁ、おいしいらしいよアオリイカ」
「オッス!」
「そうだね!食べたいねアオリイカ!」
「オッス!」
「武器も見に行こっ!」
「ウオーッ!」
鎧の人が道端で開いている店舗では、ちいさくてかわいい生き物達が作る作品よりも高度な武器や衣服を購入することができる。今日のために貯めた虫討伐の報酬袋、その数合計5つ。少しはカルメ焼きで減ってしまったが、目当ての武器を買うのには十分な金額だ。
「いらっしゃい」
「色々あるんだねー」
「コッカラッス」
「迷っちゃうけどあのツンッ!てやるやつかっこいいなぁ、見てたら欲しくなってきちゃった」
「オーッス?」
パイン材の木目が美しい棘付き棍棒、それが彼の今日の目当てだ。
身の丈の半分程度の長さの、大振りな棍棒である。イアイドやムチ・ドーなどのカラテに長けているわけではない以上、鈍器こそ至高。「剣を捨てメイスを持て」というコトワザもある。
「オッスオッス」
「この棍棒?お目が高い」
「オッス」
「まいどあり」
「アッス」
「殴るやつ買ったの?これもかっこいいね!」
片手で持って袈裟斬りに振るう、両手で持ってフルスイングする。風を切る音が聞こえ、ずっしりとした棍棒の重みが心地良く、頼もしい。
「いい物買えたね!カルメ焼きも美味しかった!」
「オッス!アッス!」
「買い物に付き合ってくれてありがとうって?気にしないで!あとさ今日さとってもいい天気だから原っぱでお昼寝しよっ!からだ天日干し!」
「オッスオッス!」
ぽかぽか陽気に包まれ、二匹は原っぱで横になった。ゴリラはピカピカの棍棒をそっと抱き締めると、じきに寝息をたてながら眠るのだった。
ハチワレちゃんかわいい。