へんしん(ある朝気がかりな夢から目覚めるとなんかちいさくてかわいいやつに変わっていた男の話) 作:酢酢酢豆腐
「ウォ〜ッ…」
洞窟に射し込む朝日と共に目覚める。ここの暮らしでは、労働はしたい時にすれば良いし、労働が無い日にはこのように明るくなれば起き、夜の帷が落ちれば眠る、そんな生活を送っている。
未だにこの思考が言語にならず、謎の鳴き声しか出ない身体には慣れない。あくび一つとってもご覧の有り様である。ウォーッってなんだ。
俺は一体何なのだ。幸い自動変換される鳴き声と身振り手振りで大意は伝わるが、これでは細かいニュアンスが伝わらないし不便極まりない。
他のちいさくてかわいい生き物達の鳴き声がどういう意味か何となく分かるのは便利なのだが。
そういえば、この前水面に映った自分の身体をまじまじと見てしまったが、デフォルメ化されたゴリラそのものだった。そして他のちいさくてかわいい生き物に比べてムキムキしていて腕が長い。
しかし、この暮らし自体は気に入っていた。何せうンまいものを食べようと思えばこそ労働も必要となるが、基本的にこの大地では食料が湧く。比喩ではなく、文字通り食料が湧くのだ。一週間とちょっとの生活を通じて、めぼしい湧きスポットはいくつか把握していた。
代表的な湧きスポットを上げるとすれば、ごはん湧きどころである。
ご飯湧きどころとは、文字通りご飯が湧く場所である。炊飯器めいたオブジェクトが地面にめり込んでおり、蓋を開けるたびに無限にご飯が補給される。他の奴がいっぱいいるスポットもあれば、俺とハチワレしか見たことがないスポットもある。この前よそのスポットでうさぎっぽい見た目の生き物が、炊飯器に入ったごはんにふりかけを振っていたが、その後はふりかけ飯が再生産されるようになった。
湧きどころはこの世界、この大地?の最も不思議で現実世界の物理法則からかけ離れた場所だ。
今日は珍しく目的のある日だ。ハチワレと待ち合わせてアオリイカを狩るのだ。この辺りのちいさくてかわいい生物が言っていたが、最近空飛ぶアオリイカの群れがいるらしい。めんつゆとわさびはこの前購入したのであとはイカを仕留めるだけだ。
「おまたせっ!」
ハチワレとの待ち合わせ場所で待つこと10分程度、サスマタを具えたハチワレが駆け寄って来た。最近良さげな洞窟を見つけたのでそこで寝起きしているとのことだ。
「なんかあっちの方でいっぱい見たって!」
「まわりこめーっ!まわりこめーっ!」
空を覆いつくさんばかりのアオリイカの群れ!
他にも大勢のちいさくてかわいい生き物達が集い、各々の得物でもってアオリイカを狩ろうとしていた。得物もたぬちいかわ達は投石でアオリイカの高度を下げさせ、棍棒や長物をもつちいかわ達がそれを追ってとどめを刺すといった役割分担が自然となされていく。
「すみ」
「わっ!?」
「グワーッ墨目潰し!?」
南無三!?
アオリイカの墨吐き攻撃がゴリラに直撃!視界不良!
「ウオーッ!」
素晴らしい棍棒を両手で持ち、満身の力を込めて投擲する。いかに骨無しと言えどもこの一撃は強烈に効いた。完全に高度を失い墜落したアオリイカにハチワレのつんっ!が決まり、ここにハチワレ達のイカ狩猟は成功したのだった。
「皮を剥がして…なんこつを抜く…」
「オッス」
アオリイカを解体するのだ。投石部隊のちいかわもやってきては分前を得て去ってゆく。ハチワレは寛容だ。ゴリラもハチワレの寛容さに倣うこととした。討伐者として墨袋と身の一番おいしそうなところを得たふたりはほくほくとしていた。なお、墨袋はなんか絵とか描くときに使えるから取っておくといいと投石ちいかわのひとりが教えてくれた。
イカ、めんつゆ、わさび。
この組み合わせに勝てる刺身は無い。身体が汚れることも厭わず、わさびを乗せたイカの身にめんつゆをぶちまけ齧り付く。
「おいしいねっ!」
「オッス」
「ねぇねぇあれやる?」
ハチワレが拳を繰り返し突き上げる動きをする。
「アオリイカさいこー!」
「ウォーッ!」
終