英雄の模造品   作:ヒャッハー

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故郷へ

 不思議な気分だ。

 おれとしての記憶とセフィロスとしての記憶と人格が混じり合っている。

 

 そのせいなのか、今身に付けているコートの前部は大きく開いていて、肌寒さすら感じそうだというのに不思議と落ち着く。

 おれだったころには正直どうかと思っていたこのコートも、今では悪くないどころかむしろ気に入り始めてすらいる。

 

 どうやら今の俺という個人はセフィロスの占める割合が多いようだ。

 

 セフィロスとしての記憶も己のもののように思い出すことができる。

 神羅カンパニーの私設軍隊ソルジャー、その頂点たるクラス1stとなり飛び抜けた能力を持って数々の任務をこなした。

 ウータイとの戦争にて多大な戦果を挙げて英雄と呼ばれるようになった。

 ルールや規律を重んじ、堅物だが誇り高く誠実だった親友。

 気難しく、いつもいつもLOVELESSを声に出して読んでいた変わり者だが物怖じもせずに俺に張り合ってきた親友。

 子犬のように落ち着きがなく騒がしいが、不思議と明るい気持ちにしてくれる俺を慕ってくれた後輩。

 そして、ソルジャーですらない一般兵だというのに最強のソルジャーである俺を倒して見せた男。

 

 …クラウド、ニブルヘイムの魔晄炉調査の任務に同行した少年。

 

 …そうだ、あの日の記憶も…ある。

 ニブル山の魔晄炉で己の生い立ちを聞かされ、己という存在の真実を探して神羅屋敷にあった記録を読み漁った。

 そして母ジェノバの正体、己が古代種であると、星の正当な支配者となる存在であり、他の人間たちは古代種を迫害し滅ぼした裏切り者なのだという真実を知った。

 知った気になっていた…。

 己はモンスターなどではないと、もっと崇高な存在であるはずだと…、そんな自分に都合の良い妄想を信じて…。

 

 

 覚えている。

 母に会うために屋敷を出て見たのだ。

 古代種を裏切った者たちがのうのうと生きている光景を。

 そして己の内に渦巻く激情に任せて村に火を放った。

 

 覚えている。

 いきなり炎に包まれた村に困惑している男を斬った。

 

 怒りに震えて掴みかかってきた男を斬った。

 

 泣きながら命乞いをした女を斬った。

 

 息子だけはと懇願してきた女を斬った。

 

 瓦礫を押し退けて人々を救おうとしていた、…おれ自身も斬った。

 

 覚えているんだ。

 己が放った魔法によって燃えさかる村の熱さ。

 何の罪も無かった村人たちを斬り裂いたときの感触を。

 償いようもない罪を覚えている…。

 

 ……その後はニブル山魔晄炉へ向かい、ティファを斬り伏せ、最奥の扉を開けてついに母ジェノバの姿を見つけた。

 

 いや、ライフストリームの知識とおれとして前世の記憶を得た今は知っている。

 ジェノバは俺の母ではなかった。

 細胞による遺伝的な繋がりはあるが、俺の…セフィロスの本当の母はルクレツィア。

 

 人間だ。

 モンスターではなかった。

 古代種でとなかったが、少なくとも俺は人間の両親から産まれたのだ。

 母の名はルクレツィア。

 父は……、アレのことはいい。

 

 その後はザックスを叩きのめし、クラウドに不意を打たれ母と信じていたジェノバの首と共に魔晄炉の底へ、ライフストリームの渦に呑まれたのだ。

 

 

 ……母、そうだ。

 俺ではなくおれとしての母はどうしているのだろうか。

 今がいつなのかはわからないが、旅に出てから一度も便りも出さず顔も見せていないのだ。

 心配をかけてしまっているだろう。

 父は物心ついたころには既に死んでしまっていたが、女手一つで育ててくれたのだ。

 この世にたった二人の家族、この姿で会ってもおれのことに気づくことはできないだろうが、顔だけでも見ておきたい。

 

 これからどうするにしても、まずは一度故郷へ帰ろう。

 

 先ほど倒したモンスターは前世の記憶に覚えがある。

 確かゴンガガ近辺に出現するモンスターだったはず、ということはここから故郷の村に向かうにはコスタ・デル・ソルから出る船に乗らなければ。

 

 「前世で見たように、俺も空を飛べれば楽なんだがな」

 

 俺は飛べない。

 前世の記憶にある俺は空を自在に飛び回っていたが、片側にしかない翼であれほど飛べるようには思えんし、そもそも翼がなくとも飛んでいた。

 あれはおそらくライフストリームから得た知識が成した魔法か、活性化したジェノバ細胞による作用なのだと思う。

 ならばと知識を求めて未だライフストリームの中心にいるセフィロスの本体への接続を謀るが

 

 「…ダメだな、コピーの制御を乗っ取られて警戒しているのか」

 

 どうやら本体から閉め出しを食らったらしく、ジェノバ細胞を通しても繋がりを感じ取れない。

 

 「歩くしかないか」

 

 幸いにも以前とは違ってこの身は最強のソルジャー、一人旅であろうとモンスターなどの危険は有って無いようなものだ。

 

 

 

 

 

 

 予想通り道中のモンスターたちを苦もなく一刀の下に斬り捨てて、コスタ・デル・ソルが見えるところまで来ることができた。

 

 他の同胞(コピー)たちは擬態して移動するときは街中だろうと正宗を手に持っていたようだが、余計なトラブルを避けるためにも非戦闘時は消しておこう。

 得物である愛刀正宗は念じるだけで、霧散し、また何処からともなく己の掌に現れる。

 

 (こういったことができるとなると、己が既に人間ではないということを強く意識してしまうな…)

 

 

 しかし後は町に入り船に乗るだけだという今になって、俺は重大な見落としに気がついてしまった。

 

 「カネがない…」

 

 そうだ、カネがないのだ。

 当然だ、俺はほんの数日前まて黒いボロ切れだけで荒野をさ迷っていた。

 財布など持っているはずもなかった。

 ジェノバ細胞のせいなのか空腹も睡魔も特には気にならなかったこともあり、ここまで食事や宿に泊まるなどのカネが必要なことをせずに直行したため気づくのが遅れてしまった。

 前世の記憶のように倒したモンスターたちがカネを持っていればよかったのだが、当然そんな訳には行かなかった。

 

 「ここまで来て立ち往生することになるとはな…」

 

 前世の記憶ではジュノンから出た船の上でクラウドたちに見つかったジェノバは、途中から泳いでコスタ・デル・ソルまでやって来たらしいが…。

 同じセフィロスに擬態した身体だ、できないこともないだろうが…面倒だな、できるなら避けたいところだ。

 

しかしカネがない以上船には乗れず、どうしたものかと街から少し離れた場所で頭を悩せていると。

 

 「へいへいへい!そこのお兄さん!イカしたコート着てんじゃねーか!!」

 

 突如現れたバイクに跨がった黒いレザーファッションの集団に囲まれてしまった。

 

 「何だお前たちは」

 

 本当に何なんだこいつらは…、前世でも今世でも知らんぞ。

 

 「オレたちのことを知らねぇとはモグリかてめぇ!?」

 

 「このカッチョイー黒レザーを見てもわからねぇのか!?」

 

 「巷を騒がし、泣く子はもっと泣かす!最高にクールな走り屋集団ブラックレザーズとはオレたちのことよ!!」

 

 バイクから降りて自己紹介をしてくれるが、やはり知らない。

 なるほど、存在すら語られなかった有象無象のゴロツキということか。

 

 「あんたのコート気に入りったぜ!オレ様が着てやるからおとなしく置いていきな!」

 

 「ついでに財布もな!!」

 

 「もう身ぐるみ全部置いていけ!!!」

 

 リーダー格と思しき一際体格の良い男の発言を皮切りに、取り巻きたちが次々と要求をエスカレートさせていく。

 

 (おそらく今身に着けているものは正宗と同じく任意で作成できるとだろうが、こいつらにくれてやるのはシャクだ…このコートに目をつけるのはなかなかのセンスだがな。それよりもあのリーダー格の男、見たところ身長は2メートル近い、体格も…よし)

 

 「悪いがお前たちにやれる物は持ち合わせていなくてな。変わりと言ってはなんだが、お前たちが身ぐるみを俺にくれないか?」

 

 

 「はあ!?」

 

 「何言ってんだテメー!!?」

 

 「頭イカれてんのかあー!!?」

 

 「大人しく従ってりゃよかったのによ!オメーらやっちまえ!」

 

 頭に血が上ったゴロツキたちが一斉に向かってくる。

 

 (多対一、ここまで刀の一振りで片付いていたので使うこともなかったが試してみるか)

 

 人間ではなくなったこの身体だが、メリットもある。

 オリジナルのセフィロスがライフストリームから得た知識、それには古代種の知恵も含まれており、セフィロスの情報を持ったこの身体には、今もその知識が刻み込まれている。

 つまり、本来はマテリアを介さなければ発動しない魔法を無手でも発動させることができる。

 

  『サンダー』

 

 曇り一つ無い空から幾筋もの細い稲妻が走りゴロツキを貫く。

 

 「うげ!?」 「ぎゃあ!!?」 「あばばば!!!?」

 

 「オ、オメーら!?」

 

 取り巻きたちは脳天に落雷の直撃を受けて地面に伏せ、ピクピクと痙攣している。

 死ぬような威力ではないはずだが、まあしばらくは目を覚ますことはないだろう。

 

 「クソっ!テメーよくもオレ様のかわいい弟分たちを殺しやがたなー! もうテメーのコートなんていらねえ!ミンチになりやがれー!!」

 

 激昂したリーダー格の男がバイクに跨がって突撃してくる。

 

 「随分と仲間思いなようで好感を覚えるが、悪いな」

 

 今度は全速力で走るバイク目掛けて一筋の稲妻を走らせる。

 

 「うぉ!?チクショーどうなってんだ!!?」

 

 受けた電撃によって電気系統が狂ったのかコントロールを失いあらぬ方向へと走っていき、転倒した。

 

 「ギャー!!??」

 

 (かなりの勢いで滑っていったが、死んだか?)

 

 

 

 「ぐ…、うぅ……」

 

 「どうやら生きているようだな」

 

 近寄って確認したところ打撲や擦り傷はあるが命に別状はなさそうだ。

 

 「安心しろ、お前の取り巻きたちも死んではいない。しばらくすれば目を覚ますだろう。俺としてもこんなどうでもいいことで殺しをするのは気分の良いものではないしな」

 

 「だが、命は取らないがお前たちの身ぐるみはいただいていこう」

 

 

 

 

 思っていた通りだ。

 リーダー格の男は俺と近い体格だったおかげでやつの着ていたジャケットに袖を通しても着心地に違和感はない。

 取り巻きたちの一人がかぶっていたキャップ帽を拝借して、長髪を一つ結びにして縛る。

 

 「よし。これで俺のことをセフィロスだと一目で見破られるようなこともないだろう」

 

 神羅の連中はセフィロスの生存に危機感を抱いている。

 神羅の影響力が強いこの世界で無駄に存在を喧伝しても良いことはないだろう。

 

 「意外と持っていたな」

 

 ゴロツキたちから抜いた財布を懐に納める。

 これで船代としばらくの旅費にはなる。

 服とバイクは置いていくのだ、全裸で荒野に放置されるよりはマシだろう。

 

 転がるゴロツキたちを置いてコスタ・デル・ソルに入り乗船の予約を済ませ、船に乗る。

 

 (ジュノンには神羅の兵士たちが詰めているはずだが、気づかれずに済むだろうか?)

 

 甲板で潮風を受けながら思考する。

 これから船が向かうジュノンは神羅の軍事拠点だ、海底には魔晄炉と研究所もあり警備は厳重であろう。

 (地方の一般市民たちならともかく、神羅の兵士ともなれば俺の顔を知っている者がいても不思議ではない)

 

 気づかれても突破は可能だろうが、これから先神羅の追っ手を気にし続けるというのは面倒だ。

 

 (ジュノンが見えてきたな。さあどうなるか)

 

 

 

 

 結果として気づく者は一人としていなかった。

 

 …自分で言うのも何だが、セフィロスといえば神羅の英雄であり世の少年たちの憧れ。

 前世の知識でファンクラブだって存在していると知っているのだが。

 

 (ひょっとして、セフィロスという存在はあの前開きのコートと前髪で認識されていたのか?バレなくて安心してはいるが、妙に残念な気分になるな…)

 

 少しだけ肩を落としながらジュノンを出て旅を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 そして故郷があるはずの場所にたどり着いた俺を出迎えてくれたのは、懐かしの村ではなく瓦礫の山となった廃墟だった。

 

 

 

 

 




 前回から間が空いてしまいすみません。

 初めて小説を投稿してみましたが、思っていた以上に大変ですねこれ。
 今まで読み専でたくさんの作品がエタっていくのを残念だなと思っていましたが、完結まで持っていける作者様はもちろん何話も投稿して連載している方々への尊敬の念が強まります。
 私も気力の続く限り頭の中の妄想を吐き出していく所存ですので、これからもお付き合いの程よろしくお願いいたします。


 セフィロス(擬態)くんの中身はセフィロスの割合が大きいですが、元のおれくんの記憶や人格も入ってはいるのでオリジナルより相当マイルドなセフィロスとなっています

 今話に登場したゴロツキたちは本作オリジナルです。
 原作には影も形も存在しませんが、セフィロス(擬態)くんをそのままの格好で行動させると問題があるのと、無一文である現状を解決するための資源として本作のFF7世界に生を受けました。
 一応馬鹿さ加減と人生楽しんでそうなキャラクターモデルとしてはFF7リメイクに登場したベグ盗賊団。
 多分もう出番はないです。

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