ときめきウマムスメ   作:カランコエ(Kalanchoe)

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幼なじみのお姉ちゃん、サイレンススズカ

男子高校生である俺の朝は異様に早い。

理由は簡単。

 

「おはよう、リュウ」

 

ささやきながら、夕焼けのような色をした長い栗毛のウマ娘が俺のベッドに入ってくる。

『おはよう』って言いながら、寝具を剥ぎ取るどころか、しっかり肩までかけて添い寝しようとしてくるのはいつも通りの天然なのだろうか。

 

「……おはよう、スズカ(ねえ)

 

たった今かけられた布団を押し退けながら俺は返事をする。

薄闇の中、不満気な顔のスズカ姉を無視し、スマホを確認すると時刻は午前四時を示していた。

 

「あのさ、スズカ姉」

「なに?リュウ?」

 

柔らかな微笑を浮かべるスズカ姉を見て、何回言っても聞いてくれないんだろうな、と思いつつもジンワリと湧いてくる怒りから言わずにはいられなかった。

 

「休日の朝早くに走るからって俺を起こしに来るなよ」

 

というのも、スズカ姉は俺の本当の姉ではない。

いわゆる幼なじみというヤツで幼稚園ぐらいからの付き合いだ。

家族間の仲は良好で、ご近所という訳でもないのに毎朝スズカ姉が俺を起こしに来るものだから、スズカ姉はウチの合鍵をもらっているくらいだ。

 

「どうして?」

 

俺の文句にも動じずキョトンとした顔をスズカ姉は返してくる。

 

「どうしてって、毎回言ってるけど、土日くらいはもっと寝てたいんだよ」

「寝るのはいつでもできるじゃない。私と走るのは朝しかできないでしょ?」

「寝るのと走るのを同率で語る謎理論やめてくんない?」

 

いつも思うが、三大欲求である睡眠欲と走欲?を同列に語られるのは釈然としない。おかげで深夜アニメなんかリアタイで観れたことがない。

 

ただ、朝以外はスズカ姉と予定が合わないのも事実だ。

何が面白いのかスズカ姉はヒトの俺と歩調を合わせて走るのが好きらしく、毎朝必ず俺のことを起こしに来て、そのまま一緒にランニングに行くのが日課となっている。

……時々でいいから、休日は昼まで寝ていたい日もあるんだが。

 

「じゃあ、私はリビングで待ってるわね」

 

完全に俺の話を無視してスズカ姉は俺の部屋から飛び出して行く。

今日も俺の要求は聞き入れてくれなかったなと「はぁ」とため息を吐き、昇り始めた朝日を見るために渋々準備を始めるのだった。

 

 

__________

 

 

 

ひんやりとした春の朝の空気の中、薄明かりと隣に居る栗毛を頼りに走るのは嫌いじゃない。

この静けさを全身に浴びながら、黙々と足を動かすのは考え事をするのにも、逆に何も考えないのにも使える有意義な時間だと思えるから。

 

ウマ娘の全力と比べると遅すぎる速度で俺達二人は走る。

目的地は家からは少し離れた公園。目安としてちょうどいい距離にあるし、自販機もコンビニも座る場所もある。帰る前に休憩するのにもちょうどよかった。

 

黙々と走り続け、公園に到着するころには朝日が(まぶ)しく差しており、ウマ娘であるスズカ姉は涼しい顔をして汗一つかいていないが、ヒトである俺はジットリと汗ばんでいた。

 

 

 

公園にある行きつけの自販機へとたどり着き、いつも通り缶コーヒーを眺めてからスポーツドリンクを選ぶ。

汗をかいた後でカフェインを取るのはよくない。それくらい高校生の俺でも知ってる。付け加えるなら、スズカ姉がコーヒーの匂いを結構気にする。

 

「スズカ姉は……って、あれ?」

 

ガコンと音がして落ちてきたスポーツドリンクを取り振り向くと、さっきまで俺の周りでウロウロしていたスズカ姉はどこにも見当たらなかった。

 

「どこ行ったんだよ…まさか、走りに行ったとか言わないだろうな」

 

スズカ姉は走ることが大好きだ。

そして、ウマ娘であるスズカ姉が本気で走って行ったのなら、ヒトである俺には追い付けないだろうし、探すことすら難しい。

 

一応、一緒に来たのだからはぐれるのはイヤだなと思い、スズカ姉を探し始める前にスズカ姉の分のスポドリを買う。

両手にペットボトルを持ち、公園内をブラブラと歩き始めると、すぐに特徴的な栗毛は見つかった。

 

公園の端の方、芝生の上、草むらの影になっている辺りにその茜色の髪が広がっていた。

 

「何やってんだ…」

 

寝転んでいるスズカに思わず呆れてしまう。

 

「ここで寝るのはどう?風が気持ちいいし、日差しも眩しくないわ」

 

なるほど。寝るのはいつでもできるから、一緒に走った後に寝ようってか。

隣まで行って芝生の上に座ると、確かに日差しは届かず涼しくて、朝ということもあり聞こえるのは鳥のさえずりと風のそよぐ音くらいで居心地がいい。

 

「だけど、スズカ姉?俺は汗かいてるんだぜ?今ここで寝たら風邪引くんじゃね?」

 

もう汗は引いているが、濡れたシャツを通り抜ける風は少し寒い。

羽織る物を持っていない以上、ここで寝るのは後々面倒なことになりそうだ。

 

「あら、そんなこと?それなら問題ないわ」

 

自信満々に答えるスズカ姉に疑問を覚えた時にはもう遅かった。

 

「おわっ!?」

「こうすれば暖かいでしょう?」

「そういう問題じゃねぇ!」

 

いきなり抱き締められたと思ったら、そのまま強引に体を横たえられた。

 

「いい匂い…」

「あー!くそっ!こういう時、ウマ娘って面倒なんだよ!」

 

汗で湿ったシャツに顔を埋められ、強引に引き剥がそうにもビクともしない。

 

汗の匂いに関しては小さい頃からしょっちゅう嗅がれてるからスズカ姉の性癖と割り切ってるし、俺自身そんなに気にしてないからどうでもいいが、姉みたいな存在とはいえ同世代の女子に抱きつかれてるのはなんとなく気恥ずかしい。

 

なんとか身をよじって抜け出そうとしている最中にも、スズカ姉は脚を(から)めてきて、俺の自由を更に奪う。

 

「それじゃあ、おやすみ、リュウ」

「『おやすみ』じゃない!ああぁぁっ!もうっ!」

 

何をやっても離れないし抜け出せず、叩いたり蹴ったりする訳にもいかず、挙げ句の果てにスズカ姉は俺の胸元で本当に寝息を立て始めた。

 

スズカ姉のいいようにされているこの状況にムシャクシャした思いを(いだ)き、理不尽な世界を呪いながら諦めて目を閉じた。

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