ときめきウマムスメ   作:カランコエ(Kalanchoe)

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野良猫系同級生、マンハッタンカフェ

お昼休み、昼食も終わったので眠気覚ましでも買ってこようと中庭を横切って購買へ向かっている途中、知り合いを見つけて足を止める。

 

「カフェ?」

「……リュウさん?」

 

中庭のベンチの後ろにある木の根本、草むらの上で座っているのは、夜闇のような色の長い流れるような青鹿毛と、ピョコンと跳ねたアホ毛のような白い髪がよく似合うウマ娘、マンハッタンカフェだ。

 

不思議な雰囲気をまとう彼女との出会いは特に不思議なものではなかった。

 

ちょうど今日みたいにカフェがポツンと一人で居るところに、俺が話しかけていっただけだ。

 

孤独が好きらしいカフェに、最初は警戒されていたのだが、カフェにしか見えない『お友だち』の話やコーヒーの話をしている内に仲良くなった。

 

明らかに誰も居ないのに背中を押されたり、声というか思いが聞こえてきたら『それ』が何なのか気になるし、『それ』を教えてくれる人がカフェだった。

というか、カフェと一緒に居ると不思議なことが色々起こって、それをカフェと話すことが多い。

 

それに、コーヒーについて語れる相手は貴重だ。

親の影響でイタリアンローストばかり飲んでいた俺だったが、カフェのコーヒーの知識はそんな俺のコーヒー観を180度変えてくれた。

この間のグアテマラのフルシティローストは本当に美味しかった。

 

閑話休題。

 

「隣いい?」

「……どうぞ」

 

カフェの隣、木の根本に腰を下ろす。

購買まで行く予定だったが、いつもと変わらないはずのカフェの様子が今日はやけに気になって心変わりした。

 

近付いてよく見るとカフェの白い頬がいつもより赤い気がするし、心なしかフラついている気もする。

 

「カフェ、大丈夫か?」

「……午前中は大丈夫でした」

「保健室行くか?」

「少し……休憩してからでも、いいですか……?」

 

俺が返事をするより先に俺の膝の上へとカフェの頭が乗ってくる。

こんな風に接してくることは今までになかった。

 

「えっと……」

「……」

 

スンスンと鼻を鳴らしながら、嬉しそうにピコピコとウマ耳を動かし膝枕を楽しむカフェに困惑する。

 

……まぁ、そんなことより顔の赤さから考えて熱がないか診ておく方がいいだろう。

 

「カフェ、ちょっと触るぞ」

「ひゃ…!」

 

カフェの額に手をやりながら、もう片手で自分の額に触れる。

二つを比べてみると、ほんのりカフェの方が暖かいような……気のせいなような……微妙な感じだ。

 

「リュウさん……」

 

俺の手を優しく押しのけ、ゆーっくりと起き上がったカフェはさっきより紅い顔になっていて、目はトロンとしていて焦点が合っていない。

本格的に何かの病気の症状が出てきたのかもしれない。

 

「すみません……保健室まで、ついてきてくれませんか…?」

「もちろん。肩、貸そうか?」

「お願いします……」

 

おぼつかない足取りのカフェに肩を貸し……学ランを着ていないため、ワイシャツ一枚越しに伝わる体温が結構熱い。

 

二人ともに立ち上がると、突然『何か』に引っ張られ、保健室を目指して二人で歩きだした。

 

 

 

 


 

 

 

 

「失礼しまーす!」

「……」

 

ドンドン熱く、重たくなってくるカフェを半ば引きずるようにして保健室へと入る。

とっくに予鈴は鳴っているが、こんな状態のカフェを置いていく方がマズい。

 

返事のなかった部屋の中をのぞくが、どこかで油を売ってるのか、はたまた誰かが大怪我したのかはわからないが、こんな時に限って保健室の先生はいないらしい。

 

「くそっ…とりあえずベッドまで…」

 

氷枕やらなんやらを探す前に、まずはカフェを寝かしてからだ。

一番近くのベッドまでなんとかたどり着き、真っ赤になっているカフェを横たえる。

 

ハァハァと荒く息をするカフェが辛そうで、いてもたってもいられずに動き出すのと、腕を引っ張られ、『ドンッ』と背中を押されるのはほぼ同時だった。

 

「うわぁっ!?」

 

前につんのめりながら後ろに引っ張られ、半回転しながらベッドに引きずりこまれる。

 

「リュウさん……ごめんなさい……」

 

気づいた時にはベッドの上で仰向けにされており、カフェにウマ乗りされていた。腰の上にまたがったカフェは俺の両腕を押さえつけている。

 

目の前のカフェから熱い吐息が顔に吐きかけられる。

焦点の合わない今にも泣きそうな潤んだ目は、ギラギラと光っていて、今までに感じたことのないタイプの恐怖を感じる。

 

「な…なぁ、カフェ?俺、なんかやっちゃった?」

「ごめんなさい……すぐ終わりますから……少しの間だけ、ガマンしてもらえますか…?」

「な、何を?」

 

俺の言葉にカフェは返事をせず、俺の両手はカフェの片手でまとめて押さえつけられた。

フリーになったカフェの片手が俺の頬を押さえ顔を固定される。

そこまでしてからカフェは目を閉じ、ゆっくりと端正な顔が近付いてくる。

 

ここまでされれば経験のない俺にも流石にわかる。

別にカフェが嫌いなわけじゃないが、力ずくで無理矢理なのは嫌だ。

 

なんとか回避する手段はないかと必死に考えるが、文字通り手足は出ないし、顔も固定されていて避けようがない。

 

止まらないカフェを再確認し、ギュッと目を閉じ、ジッと待ち構える。

 

 

 

……が、一向にカフェは来ない。

 

おそるおそる目を開くと、目と鼻の先にあるカフェの顔は止まっていた。

 

「どうして、邪魔するの…?」

 

不機嫌に目の前の俺…ではなく、背中側に向かってカフェは言う。

よく見るとカフェのつややかな長い黒髪は後ろに引っ張られているような格好になっており、前へ…より正確には、俺の方へと向かっているカフェを引き留めているようだった。

 

拘束を振り払おうとカフェが体を動かしているが、ほとんど動けないようだ。

それでも腰の上で動くのはやめて欲しい。

健全な男子高校生には刺激が強すぎる。

 

「あっ…!」

 

カフェの驚きと同時に、俺とカフェとの距離が少しだけ開き、何も無いのにカフェとの間に圧迫感を感じる。

 

「どうして…!」

 

カフェが耳を絞り、悲鳴にも似た声をあげる。

 

「どうしてアナタは私とリュウさんの間に入るの…!」

「あっ、やっぱこれ『お友だち』なの?」

 

なんとなくそうじゃないかなとは思ってたけど、カフェの言葉で確信する。

 

『お友だち』が間に入ってからは早かった。

気づいた時にはカフェの手は俺の両手から離れていて、俺の上でモジモジしていたカフェが突然俺の横に倒れた。

 

「放して…!リュウさん…!助けてください…!」

 

カフェは押さえつけに抵抗するみたいにジタバタと暴れていて、切羽詰まった声で俺に助けを求めてきた。

 

一方で『お友だち』は、ポカンとしていてまだ寝転んでいる俺の背中を『ドンッ』と力一杯叩いてきて、俺はベッドから転げ落ちた。

 

起き上がって最初に目に入ったのは、なぜか机の上に置かれたキレイに畳まれているワイシャツで『着替えろ』と言わんばかりに違和感を放っていた。

 

「……着替えろと?」

 

わかっていたが返事は返ってこない。

どうせシャツを脱がないと何もできないのだろう。諦めてボタンに手をかける。

 

「ーーー!?」

 

シャツの袖から腕を抜くと、背中側から息を飲むような音がして、暴れる音が大きくなったが、近付いてきたりはしていないので、無視してとっとと置いてあるシャツに袖を通す。

……振り向いてスカートの中とか見えたら、それはそれで困るし。

 

……着る前からわかってたが、さっきまで着てたシャツと全く同じシャツだ。まぁ『お友だち』なら、それくらいできるか。

 

着替え終わって、カフェを放って置くのはなぁと思いながらも、一緒に居たらまた襲われるかもしれない、と迷っていると『ドンッ』と背中を押され、『早く行け』と『お友だち』から苛立ち混じりの感情が伝わってきた。

 

「わかったよ。行けばいいんだろ」

 

扉の方へ強引に押され、俺が扉を開けると同時にそのまま保健室から押し出され、すぐにピシャリと扉が閉められた。

 

「なんだったんだ…」

 

結局、カフェの体調不良の原因も襲ってきた理由もわからないまま『お友だち』に追い出されてしまった。

『お友だち』が俺を守ってくれたことに変わりはないが、なんとも言えないやるせなさを感じる。

 

「……とりあえず教室に戻るか」

 

カフェは『お友だち』がなんとかしてくれるだろう。

そう自分を納得させて、とっくの昔に授業が始まっている教室へと足取り重く戻った。

 

 

 

翌日、カフェは体調不良で休み、更に翌日、中庭で、しきりに「ごめんなさい……」と謝るカフェは真っ赤になりながらもウマ娘の発情期について説明してくれた。

……めちゃくちゃ気まずかったが、また一つ勉強になった。

というか、スズカ姉は発情期無いのか?体調悪そうな時期とかないけど。

 

ちなみに、ワイシャツは一週間ほどしてからキレイに洗濯されて返ってきた。




ウマ娘の発情期概念ってどのくらい浸透してるんですかね…?
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