「あっ、スズカ姉」
「……リュウ、その人は誰?」
「……リュウくん、その人は?」
……周りの温度が下がった気がする。気のせいだろうか?
えーっと、放課後にライス先輩と二人で部活の庶務をこなして、届け出を提出しに部室に荷物置いて出てきて、帰りに中庭で珍しくスズカ姉とエンカウントしただけなんだが……
二人の視線がめっちゃ痛い。冷たい。
「初めまして、リュウの幼なじみのサイレンススズカです」
「は、初めまして、び、美術部部長のラ、ライスシャワー、です」
俺が間に入る前に二人が自己紹介を始める。
それが終わると同時に右腕をスズカ姉に掴まれ、左腕にライス先輩が抱き付いてきた。
「あら」
「あ、あの」
「……えっと、スズカ姉?ライス先輩?どういう状況?これ?」
追い付かない理解をそのまま口にするが、二人とも答えてはくれない。
にらみ合う二人の視線からは今にもバチバチと火花が散りそうなほどの熱を感じる。
二人に気を取られていると、突然『ドンッ』と何かが背中にぶつかってきて、「うわぁっ!?」なんて間抜けな声をあげて転びそうになるが、腰に回った白い手と両腕を掴む二人がそれを許してくれない。
「……リュウさん……好き、です」
「カフェ!?」
「!」
「!?」
聞こえてきたか細い声は間違いなくマンハッタンカフェだ。
もう頭が回らない。なぜ俺は三人のウマ娘に囲まれて、内一人に告白されているんだ。それも太陽の下、学校の中庭で。
「リュウ、私はリュウのこと愛してるわ」
「リュウくん…!ライスは、リュウくんのこと、だ、大好きだよ!」
「……私はアナタの所有物ですよ?」
「待て待て待て!?どういうこと?!」
三人が顔を見合わせて押し黙る。
よし。
静かな内に状況を整理しよう。
今、俺は右腕をスズカ姉に、左腕をライス先輩に、腰をカフェに掴まれている。
そして、カフェは俺が好き。
スズカ姉は俺を愛してる。
ライス先輩は俺が大好き。
……もしかして、三人同時に告白されてる…?
そんなギャルゲーみたいな展開ある?
……というか、修羅場か?これ。
…………いや、逃げられないし、マズくね?
ウマ娘の
「……私はリュウと寝たことあるわ」
「言い方ァ!!」
突然の爆弾発言に思わず大声でツッコミを入れてしまう。
確かにスズカ姉とは何度も一緒に寝たことはある。
が、そういうやましいことは一度も起こってない。
「……私も……同じベッドに入ったこと、あります……」
「……ライスはシャツ脱いでもらったことしかない……」
スズカ姉に煽られて、二人もそれっぽいことを口走っている。
もちろんライス先輩ともカフェとも、そういう間違いは犯していない。
ヒートアップしていく静けさの中、俺だけが寒気に身を震わせていた。
正直に言うが、この状況めっちゃ怖い。
理由が俺なのが一番怖い。
頭がいい訳でも、顔がいい訳でも、体を鍛えてる訳でもない俺が、三人のウマ娘に取り合われてる状況が一番怖い。
「とりあえずケンカはやめない…?」
回らない頭で当たり障りのないセリフを選ぶ。
口を開いたのは、もちろん怖いからだ。
「リュウが一番好きな人を教えてくれたら、すぐにでもケンカをやめるわ」
間髪を入れずにスズカ姉が返事する。数秒前の自分を殴りたくなる。何が当たり障りのないセリフだ。
さっきの俺の発言が無くても、どうせその内飛んでくる質問だが、まだどうやって切り抜けるか決まってないぞ。
助けを求めるべくライス先輩の方に視線をやると、ほんのり朱が差したライス先輩は俺の左腕に体を押し付けてくる。
意外とあるんだな、とか余計なことを考えてしまうからやめて欲しい。
「ライスも、リュウくんの一番好きな人、知りたいな」
「……私も、知りたい、です」
……八方塞がりというやつらしい。
ここで問題なのは、誰を選ぶかだ。
この中で一人を選ぶのは論外。残り二人に何されるかわからん。
三人以外の人を選べば、その人に迷惑がかかるかもしれない。
一番好きな人は自分とか言えるほど、俺の心臓は強くない。
誰も選ばないのは……考えるまでもなく却下。
となると、答えは一つ。
「三人とも一番好きだ!」
ほんの一瞬、空気が凍り、三人のため息と共に溶ける。
「相変わらず優柔不断なのね……」
「こういう人を『へたれさん』って呼ぶのかな…?」
「……私は、そういうところも好き、ですよ…?」
これで辺りに漂う緊張は緩んだ。
一触即発の雰囲気から、軽い会話ができる空気にランクダウンだ。
なお、俺への拘束は緩んでくれない。
「それで、一番を決めるにはどうしましょうか?」
「と、とりあえず美術部の部室にみんなで行かない?あそこなら誰も来ないよ?」
「……屋外だと、できないこともありますからね」
不穏な言葉ばかりが聞こえてくる。
もしかしなくても、このままだとマズいのでは…?
「ま、待って!」
「何を待つの?」
「えっとね、リュウくん。男の子はウマ娘には勝てないからね?暴れないでね?」
「……大丈夫ですよ、リュウさん。痛いことはしませんから」
「た、助けて!『お友だち』!」
『三人は無理』
「……」
『もし死んじゃったら、責任取って私がお嫁に行くから大丈夫』
「いや、それ全然大丈夫じゃないし、普通に会話してるんじゃなあああぁぁぁ!!!」
必死の抵抗も虚しく美術部へと連れ込まれた……
「小さい頃は『スズカ姉ちゃんと結婚する!』なんて言ってて……」
「あの…」
「『ライス先輩には俺がついてないと…』って……」
「ねえ…」
「『毎朝カフェが淹れたコーヒーが飲みたい』と……」
「……帰っていい?」
「ダメ」「ダメだよ」「ダメです」
……なんで俺は俺との
てっきり食われると思ってたのだが……
いや、ムリヤリ力ずくで…じゃなくて良かったんだが。
「なんで誰も襲って来ないんだ…?」
ボソッと呟くとスズカ姉が答える。
「だって、最初に誰が一番か決めないといけないでしょ?」
「順番決めないとね?」
なるほど。
俺をめぐって順番争いか。
……怖。
そんな話をしていると、カフェがクイクイと袖を引っ張ってくる。
「……リュウさん。シャツを、まくってくれませんか?」
途端、ゾワリとした感覚がくる。
三人の視線が俺に集中しているのを痛いほど感じる。
「……この状況でシャツまくるのイヤなんだけど」
そう言いながらも断れずにシャツをまくってしまうのが悪いんだろう。
お腹のあたりまでまくったところで、カフェがシャツの中に
「ちょっ!?カフェ!?」
「うそでしょ…」
「……」
カフェは胸のあたりで止まると、しばらく静止して、チュッと音を立ててから離れていった。
「……私は、これで十分です」
満足げに笑ったカフェを視界の端に捉えながら、シャツを前に引っ張り胸元を見ると、カフェの居たあたり、ちょうど心臓の上あたりにクッキリとキスマークが刻まれていた。
「私も…!」
「ライスだって…!」
「えっ、ちょっ!?」
顔を上げると目の前にはスズカ姉の顔があって、振り払おうと左手を上げようとしてライス先輩に掴まれる。
「ひゃっ?!やめっ!?」
そのまま両腕を俺の首に回したスズカ姉は俺の首に顔を埋める。長い髪が顔を撫でてきて、くすぐったい。
一方、ライス先輩は掴んだ左手の薬指を口に含んでいて、舌で指先を転がしながら、指の根本をカプカプと甘噛みしている。
……ネットリとした熱い口内の感覚に、変な気分になりそうだ。
二人ともチュッと音を立て、離れる。
ドロドロになった左手の薬指には根本に薄く噛み跡があり、手元に鏡が無いので見れないが、首にはキスマークがついているのだろう。
「ふぅ…」
「ライスも、満足かな」
「……じゃあ、今日はこれでおしまいにしませんか?リュウさん、疲れてるようですし」
「そりゃあ、疲れるよ…」
今日だけで起きたイベント多すぎなんだよ……
「じゃあ、リュウ、一緒に帰りましょうか」
「あっ、ライスも一緒に行く!」
「……私も、ついていきます」
……これで家の場所がバレるから、休日もこの三人にアタックされるんだろうな。
簡単に未来が予想できて、少しうんざりした気分になりながらも、この好きな友人三人に『俺
……でも、三人集まる度に修羅場はイヤだなぁ。
なんとも言えない気分になりながら、三人に腕を引かれて美術部を後にした。