後日友人との相談やいただいた感想など踏まえてタグなどを見直してます。よろしくお願いします。
エメラと俺の2人で食卓を囲む。
エメラが奮発したという夕食は豪華なものだった。
入隊祝いだ、と用意されたそれは本当に2人分なのかと疑うような種類と量のおかずで構成されていたのだ。
「初日どうだった?」
「普通」
「なんかその反応、お姉ちゃん心配ですよ」
自称姉は心配する様子無く、ただ目の前の食事に目を輝かせてそれを口に運ぶ。
こいつ…祝いとか言いながら、ただたくさん食べたかっただけではないだろうか。
よく見ればエメラの好物に偏っているような気がしなくもない。
というか俺の家にこんなにも食材あったか?
「どうしたの?そんなに見つめても胃の中からしか出すものないよ?」
「それは出すな。外出てたのか」
「うん、食材少なかったから」
「先に言ってくれれば買いに行ってたのに」
こんな量を作らなければ余裕で足りただろうに。
「一人で街に出ていってると思うと毎度ひやひやするな」
「大丈夫大丈夫。ほら」
そう言ってエメラが手で両耳を隠した。
手を下ろすと彼女の耳が長いエルフの耳ではなく人同様のまるっこい耳になっていた。
魔法。エルフなどが扱う“自然の力”を借りて起こす不思議な現象。
そんな現象で、他人の目を錯覚させるというのだから不思議だ。
俺の目には普通の人間にしか見えなかった。
「耳さえごまかしてしまえばぱっと見は人間と何にも変わらないよ」
ここは人間の国、街中で魔法が使いたい放題となれば国が崩壊しかねないだろう。
そのため魔法を使えなくするエルフ用の首輪なんかも存在する。
人間がエルフなどに対抗するため開発された。魔法の使用を制限する物質が使われているそうで。
しかし、何故かエメラはそんな首輪をしていても関係なしに魔法を使う。生まれつきの体質のせいらしい。
美味しそうに飯を頬張るエメラをおいて手を合わせ、席を立つ。
「ご馳走様、美味しかったよ」
「ん、マサトどこ行くの?」
「風呂まだなんだろ?薪割ってくる」
「もう割ってる、火もつけてるから沸くの待ってね」
そういうとエメラは再び口を動かした。
人類国家、この奴隷の街に朝日が昇る。
大通りは朝市で盛り上がっていた。
今日も仕事なので出勤だ。
といっても今まで学校や寺小屋に通っていたのと変わらない。
定刻までに目的地について、やることをやって帰る。
勉強をしていたのが仕事に変わっただけだ。そんな考えが、学生気分というやつなのだろうが。
しかしこの道、あまりにも人が多すぎて、通勤経路としてはあまり良くないように感じてきた。
急がば回れ、などという言葉があったか。迂回路を探してみたほうが良いかもしれない。
人込みの中を歩いて進む。
しかし今日はやけに人が多い…何かイベントがあっただろうか、と考えていたら。
「異種族と人間は、共存できる!」
人込みの向こうから男性の大声が聞こえた。
どこかで聞いたことがある声だ。
その声に続いて、その声の周囲の人々が「「そうだー!」」と声をそろえた。
声の主が誰かって、奴隷制度の撤廃を目標に活動する最近話題の政治家。
「この永津を応援よろしくお願いします!」
永津その人だ。
ありがとうございますありがとうございます、と何度も会釈し周囲の人と握手などの交流を交わす。
立派な政治活動の真っ最中だった。これは人も多くなるわけだ。
反社的と言われるこの永津という政治家だか、実はかなりの人気がある。
実際最近は奴隷制度そのものを疑問視する声もあったりするのが若者の考えで、それに支持されているのだろう。
そして何よりこの人は本気なのだ。口だけではなくしっかり行動を起こす。
「最近制定された奴隷保護法、これは異種族共存への第一歩であります!」
奴隷保護法、この人が主体となって行動して最近作成された法律だ。
奴隷に対するあまりにも不当な扱いを禁じるもので、実際どこまでというライン引きは難しいと反発もあったが実現されたようだ。
この政治家は口だけではない、結果まで示す。まあ、その分敵も多いから反社的などと言われているのだが。
丸いことばっかり言って敵を作らないようにして、何もしない政治家によりよっぽどましだと俺も思う。
などと考えながら、政治家演説のギャラリーの合間を縫って進む。
流石に仕事間に合うだろうが…朝から辛い通勤になっている。
「他種族に権利を!永津をよろしくおねがいしますー!」
ふと耳に入った、永津本人じゃない女性の声。
この声も聞いたことがあった。
思わずその声の方向に向かう。
ギャラリーの中心部に近い位置だったためかなり苦労して進むことになった。
その先には、ビラを配る少女。永津の娘。
「何やってんだ瑞樹」
瑞樹。俺と一緒に入隊した隊員だ。
「あら、正人おはよう。何って父のお手伝いよ。仕事まで時間あるしね」
「いや、俺出勤してるんだけど。瑞樹は時間大丈夫なのか」
「…………え…あっ」
瑞樹が、自身が時間を忘れていたことに気付き、あわてふためき「ご、ごめんパパ!私仕事行ってくるね」と永津の耳に小声で伝える。
彼女は持っていたチラシを永津に渡し、足元にあった自身の鞄を拾う。
そして俺の手を引き、言う。
「行くわよ、正人」
「え?」
「あなたも出勤でしょ」
瑞樹が手を引かれて歩き出す。
人込みを抜けると、瑞樹が口笛を吹いた。
するとどこからか空に瑞樹の竜奴隷、神無が現れた。
「さ、行くわよ乗りなさい」
「え」
いいのか、竜なんていう高級乗り物に乗せてもらって。
しかも竜車と呼ばれる『竜が運ぶ籠』なんてなく、直接神無の背中の鞍に案内された。
鞍には2人分の乗り場所があった。
竜車ならまだしも、鞍とは……こんな機会、滅多にないぞ。
なんて思っていると「いいからいいから」と再び手を引かれ、鞍に乗った。
「正人、しっかり綱握っとかないと落ちるから注意しなさい!神無、お願い!」
神無が翼をはためかせ、俺達を乗せて空へ飛ぶ。
見上げる永津政治家に目線で見送られ、瑞樹がそれに手を振った。
俺もお辞儀をし、神無は空を翔けだした。
風を切る、その風が直接肌を打つため、竜車に乗るより圧倒的に迫力があった。
正直感動した。でもちょっと怖かった。
職場に着いて席に着く。
入隊して間もない俺たちは、まだ仕事に必要な知識がない。そのため座学ばかりで
「学生気分抜けねーな…」
机や椅子のの並びやら、机の上に置かれた教材やらなんやらと。
なにもかもが学生を彷彿とさせる要素ばかりだ。
そして
「やあやあ、おはようだ」
こうやって隣のやつが声をかけてくることもだ。
「初めまして」
「聞いたよ、あの“英雄”の息子なんだって。あっ紹介が遅れたねボクは和真。好きに呼んでくれて構わないさ」
「どうも、俺は正人だ」
そんな、軽い自己紹介を済ませた次の瞬間。
和真の後ろに人型獣人族の奴隷が複数人いることに気付く。
「こっちがボクの奴隷達だ、挨拶を」
「リンです」
「カカオだわん」
「こすずにゃん」
「初めましてシオです」
「…………こゆきち」
「そして私がリーダーのリオナです」
「「「「「「6人揃って“和真様親衛隊”」」」」」」
あまりにも濃い挨拶をされて反応に困った。
えっ、奴隷飼いすぎじゃない?そして連れて来すぎじゃない?
何だよ親衛隊って。堂々と自己紹介させたけど和真は恥ずかしくないのか?
しかも全員人間寄りの獣人族の女性。傾向的に言えば…比較的幼めのような気がする。
俺はなんと反応したらいいものか。…あまり触れないようにしよう。
「…ま、正人だ、よろしく」
「ありがとう、ボクのかわいい奴隷たち」
当の和真本人は何もなかったかのように堂々としている。
俺は思った、和真…こいつは変わっている。いや、むしろヤバい奴だ。
まあでも、声をかけてくれるあたり好意的な様子。
「正人、君の奴隷も見せてくれよ」
「いや、俺は」
エメラは今は家だ。
俺が奴隷を連れていないと分かると、和真はそっかとあっさりしていた。
「それより、そろそろ仕事が始まるぞ。奴隷は奴隷待合所に移動しなくていいのか」
連れてきた奴隷は、機密情報を聞かないようにするだけでなく建物の中に居ても場所を圧迫するだけなので、専用の待合室で待機させておく仕組みになっている。
待合室なんて響きがいいが、実際そこはただの大きな倉庫なのだが。
それほど広い場所でないと全員分の奴隷を収容できないと言われればその通りで。少しだけかわいそうに思えてくる。
ちなみに瑞樹の連れている竜、神無は大きすぎて収まってないらしい。
竜奴隷など例外中の例外だ。
「そうですね。正人様、親衛隊を代表してこのリオナがご挨拶申し上げます。これから和真様と親衛隊をよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしく」
リオナという奴隷と握手を交わす。
頭に大きな動物のような耳がある少女だが、人と同じような手とぬくもりを感じた。
「和真様、お手数ですがリードを」
リオナにそう言われた和真は、全員のリードを持って待合所に親衛隊を連れていく。
いや持ってるリードが多すぎるだろ。
そんなシュールな光景を目にして、俺は苦い顔で和真と親衛隊を見送った。
仕事に対する基礎知識の学習。隊の規則の周知などを受ける。
講師役の、先輩や上司であろう人が前で説明しているのを聞いて、メモを取る。分からないことがあればその都度質問する。本当に学生のようだ。
横の和真は意外にも真面目に話を聞いている。
眠気が俺を襲う。そんな中、一つ気になる話が俺の耳に入った。
「皆さんの中には、奴隷を飼っている方も多いと思います。先ほど説明したように、パトロール時などには奴隷を連れていくこともあります。」
たしか奴隷は武器だ。そんな話だっただろうか。
街のパトロールを行う、その仕事は確実に安全だとは言えない。
危険に遭遇した時に自身を守るため、事件が起きたとき場を制圧するため。
各々武器を現場に持参する。つまり、奴隷を現場に連れていく。
「そんな時に、リードを握ったままというのはいささか不便ではありませんか」
講師役の隊員が言う。
それは確かにその通りだ。
足の速い奴隷を連れていても手綱を握ったままでは主人のペースでしか移動できない。
逆に足の遅い奴隷が居た場合も、緊急時はそのペースでしか移動できない。
まぁ、神無みたいな主人を乗せて移動できる場合は別だが。
「我らのような職種の人たちは、申請すれば『公務用首輪』と呼ばれる特殊な奴隷用の首輪を貸与されます。その首輪を付けている奴隷は放し飼いが許可されます」
公務用首輪、この街で住んでいれば勿論聞いたこともあれば見たこともある。
本来、奴隷を外に連れ出す際には例外を除き首輪と手綱を握っておくことが法で義務付けられている。その例外がこの『公務用首輪』だ。これを付けた奴隷は主人の公務執行のためという理由のもとに手綱を必要としない。
勿論、放し飼いが許可されるだけではない。エルフ用の首輪などに本来あるはずの魔力を抑える機能、これも撤廃される。つまり武器としての魔法の使用が奴隷に許可されるというわけだ。
ただなんでも許されるなんてわけではない。首輪には管理番号が振られ、過度な行動や紛失、ましてや奴隷が逃げ出したなんて場合は始末書で済むかどうか。
まぁそんなもの仕事以外で使うなという話ではあるが、実際そこまで言われたりはしないようだ。ただし、それでもしも何かあったときは…という話で。
そのため調教を済ませた信頼できる奴隷に与えてください、そんな説明をした講師役は申請書を配布した。
「必要な方は期限内に事務担当に提出してください。というかもう、今書いてしまいましょう」
その言葉を聞いて俺も申請書を受け取った。
横にいる和真がすごい速さで申請書に記入していく。
「……あの親衛隊全員分申請するのか?」
「…正人君、ボクはこのためにこの仕事に就いたのさ」
「えっ」
「彼女たちはリードにつながれている限り不自由だ。もちろん家では首輪は取るが外だとそうはいかない。しかしどうだ、これがあれば彼女たちは自由だ。一人で買い物にも行ける!」
「……お、おう」
意外と奴隷愛の強い奴のようだ。若者には奴隷と家族のように接する人は多い。
まぁ、それ以前に6本もリード持って現場とか行けないわな。
そもそも6人も連れてくることに疑問を覚える。つまり異常なのだが。
いや、この性格だ。もしかしたら全員連れてきたいのだろう。
その奴隷たちも親衛隊を名乗っているし、実は和真は奴隷との仲がかなりいいのだろう。
「すみません、私もう取得済みで」
瑞樹はそんなことを言って申請書を返していた。
思い出せば。今朝瑞樹が口笛を吹いたあの時、神無は放し飼い状態で飛んできて瑞樹のもとに現れた。
すでに公務用首輪を付けていたのか。政治家である父が取得したのか、待合所に収まりきらないのを考えて先に取得したのかは定かではないが。
………しかし、公務用首輪か。
『耳さえごまかしてしまえばぱっと見は人間と何にも変わらないよ』
頭によぎったのはそんなことを言う少女。
和真の言う通り、これがあればエメラも公道を堂々と一人で歩けるのか。
耳を、自身の正体をごまかす必要なんか無く堂々と。
俺は1人分のエルフ用の首輪を申請用紙に記入し、提出した。
数日後、申請した首輪はそれぞれに配布された。
勿論莫大かつ厳重な注意書きが書かれた書類などにサインをし、提出した。
でも和真はそんなものを全く読んでなかった。全員に書類が配布されるより早くサインして提出していた。
あぁボクの夢が叶った、待っててねボクの奴隷たちと。そんな呟きを横から聞かされ、待ってられなかったのか部屋を飛び出し自身の奴隷に付けに行った。
そんな和真をみんなで見届けて俺も規約を読む。途中で飽きていたが、エメラのためと思い読み切った。覚えてるかと言われれば…細部は怪しい。
家に帰ったら、その首輪をエメラに見せた。
「おお、公務用首輪!」
「これがあれば、堂々と街中を歩けるな」
「…もしかして、結構心配かけてた?私が一人で街中歩いてるの」
「正直心配してた。エルフとか結構魔力に敏感なんだろ?街中で公務用首輪付けたエルフに感知されたらと思うと」
「それはバレない自信あったけど…そっか、確かにね」
エメラは申し訳なさそうな表情をした後に、笑って。
「ありがとう、大切にする」
その表情は本当に嬉しそうで。
そんな大げさな、なんて言えなかった。
*****
私、エメラの気持ちは軽やかだった。
幸せすぎて天にも昇る思いだ。いやもう、天は超えてる。天の上って何があるんだっけ、何かあったっけ知らないや。
それは何故かと聞かれれば、正人がプレゼントをくれたのだ。
それが何かって、聞いて驚け。公務用首輪だ。
正人は私が首輪を付けることを嫌う。そんな正人が首輪をくれた。
きっと悩んで、私のことを心配して、私のことを考えて、私のために面倒な書類手続きも済ませてくれたのだろう。
いいだろう。うらやましいだろう。みんなもそう思わないかね。
そんな誰に投げかけるのかわからない問いを思い浮かべながら、外出の用意をする。
これがあれば耳を偽装し、バレないように外を歩く必要もない。
貰った首輪を付ける。
エルフや一部の竜族などは、魔法と呼ばれる力が扱える。
魔法は周囲の精霊に呼びかけ、協力をしてもらうことによって発動する力だ。
空気中に居る風の精霊に呼びかければ風を起こしたり、炎の精霊に呼びかけて火を起こしたりと色々できる。
そんな精霊に協力をお願いする力は“親和性”と呼ばれる。
ただしこの首輪はエルフ用、その親和性を制限する。
親和性が下がるが魔法を使えないレベルではない。でも普段と違うので少し違和感を感じた。
でも魔法など使う必要はない、いざ行かん。
機嫌よく食材を買うため家を出た。
いつもより周りを気にしなくていい。
ただし今までの行いがバレる可能性があるから、いつもよく行っていた店は避けるようにしよう。
「おっ、正人んとこの嬢ちゃん!」
街中を歩いていると声をかけられた。
昔正人の父がよく買っていた饅頭の露店、その店主だった。
「わあ、お久しぶりです。元気してましたか」
「いや嬢ちゃんらしき人は街中でちょくちょく見かけるけど、声かけにくくてよ…どした今日は」
おぉう、バレてた人1名発見。
以前正人と二人で饅頭を食べに来た時以来だが、よく私の顔を覚えてたものだ。
「聞いてくださいよ~、正人が就職して、プレゼントくれたんですよ!」
「おぉ、この前正人にも会ったがあいつもいつの間にか就職かぁ…成長したなぁ。そして嬢ちゃんも大きくなったじゃねぇか、あんなに小さかったのによぉ!」
「いつの話をしているんですかもう…小さい頃はお世話になりました」
「しかし、小さいころと比べると正人も嬢ちゃんも変わったなぁ…」
「そうですか?いや、そうですね」
「だって、初めて見たときは可愛かったが、今ではこんなに凛々しくなって。ま、昔も今も美人ってことには変わりねぇわ」
「美味しい饅頭を食べて育ちましたから」
そんな風に昔話に華を咲かせた後、饅頭をいっぱい買わされた。くそっ、商売上手め。
あの店の売り上げ6割くらい私たちじゃないのだろうか。いやそうに違いない。感謝しろあの饅頭屋。
そんなどこ目線なことを考えながら買い物を再開した。
色々な思い出話をして、気分が上がっている。
思わず、足も弾んだ。
浮かれた私は。そんな私を狙う影があることに、このときはまだ気付かなかったのだ。
2話をお送りしました。
ありがとうございました。
そして、改めまして1話も色々意見や感想。ありがとうございました。
一つ気になった意見をいただきまして。
展開が早いというか、情報量が多いという意見。
振り返ってみれば今まで、オリジナルの物語をこうして形にすることは少なかったような。なかったことは無いんですが、身内以外に公開というのは初めてですね。
…何が言いたいのかと言いますと、原作ファンが多く見に来る2次創作と違い、世界観の説明をより丁寧にしなければいけないこと。
そして何より、私の書き方。書きたいとこを描きた過ぎて急いでる節があり…それが影響しているような。
友人が「趣味なんだから書きたいように楽しんで書けばいい」と言ってはくれるのですが、考え物だなと。
オリジナルって難しいなぁと感じました。
さて長々と自分語りも終わり2話もいかがだったでしょうか。
世界観説明が本当に多くなりがちで申し訳ないところではありますが、ぜひ3話も見ていただけると幸いです。