ファミーユ“奴隷の街”   作:こなぎゆめ

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親和性至上主義

 俺、正人は今日も職場で座学を受けていた。

 仕事をするなんて嘘のような、学生のような毎日。

 それでも学生と違うのは、お金をもらっていて。

 学んでいることはどこで使うかわからないような知識じゃなくて、絶対にこれから使う知識だということだ。

 ただ、現場に出ないからあまり実感がわかない。そして身に入らない。

 そんなことを考えてしまう、いつもの研修中。

 

「君たちにも、そのうち現場に出てもらうことになる」

 

 ふと、講師役の隊員がそんなことを言った。

 そのうちもなにも、そういう職業だろう。と思わなくもないが、座学続きの新隊員に緊張感がなさすぎるのも事実。

 治安維持部隊は国家の秩序を守るためのパトロールをはじめ、取り締まりや事件の調査、場合によっては戦争への参加もあり得る職業。

 命に係わる危険かつ重要な仕事なのだということを再認識させられる。

 

「制服が届いた。それを着て、午後からは戦闘訓練を行ってもらう」

 

 俺たちの間に、入隊当時の緊張感が戻ってきたのを、その場の誰もが感じた。

 

 

 

 

 

 まるでスーツのようなデザインの制服。

 しかし現場で動きやすいように上着はノースリーブで設計されており、胸に隊の紋章が入っている。

 その下には白地の長袖、さらに腕に腕章をつけているのが特徴だ。

 そんな制服を身に着け、皆は午後の戦闘訓練を行うため広場に集まった。

 

「どう、似合ってる?」

 

 瑞樹がそういってくるっと一回転して見せつけてくる。

 回転してもデザインは一緒だろうに。

 

「似合ってるよ」

「ありがと、正人も似合ってる。」

「ありがとう」

 

 そんな何気ないやり取りをしていると空から大きな竜が翼をはためかせながら下りてきた。

 瑞樹の奴隷の神無だ。

 戦闘訓練は、武器扱いの奴隷ありで行う。

 奴隷を含め一度全員の戦闘能力を把握しておく、というのが今回の戦闘訓練の趣旨なんだそうで。

 周りを見渡せばみんながそれぞれに個性的な奴隷を連れている。

 首輪の付いたエルフや獣人族…複数人連れている人もいるな…。

 その中で飛び切り目立つのは

 

「ご主人様かっこいいにゃん…」

「お似合いです和真様」

「……ぐっど」

 

 以下略。奴隷を6人も連れて、制服お披露目で親衛隊からちやほやされいてる和真だ。

 改めて見ても多すぎる。まさか毎朝7人体勢で出勤しているのか。一度出勤風景を見てみたいものだ。

 …退勤なら見れそうだな。今度一度退勤のタイミング合わせてみよう。

 

「全員揃ったな!これより戦闘訓練を行う」

 

 各々、剣の形を模した棒を配られた。もちろん怪我しないような素材でできている。

 これを相手に一本当てたらいいという模擬戦だ。ちなみにこの棒は奴隷の分は無い。

 ただエルフなどは魔法を使えるし、獣人族なども種類によっては人より力がある。

 奴隷の数は、そのまま有利に直結する。それは現場でも同じことだろう。

 

「訓練の組み合わせを発表する」

 

 2人で一組になって、それが模擬戦の対戦相手となる。

 俺の相手は、和真だった。

 

「お手柔らかに、お願いしますね正人様」

「こっちこそ」

 

 親衛隊のリーダー、リオナが声をかけてきた。

 そこに和樹もやってきて

 

「手加減はしないけどな」

「加減してくれよ、こっちは一人だぜ」

「英雄の息子がよく言うぜ」

 

 お互い、手加減する気はない様子だ。

 しかし、相手は7人…どうするか。

 そんなことを考えながら、戦闘開始のために和真たちと距離を置いて配置に着く。

 考えても答えは出ない。やるようにやって、なるようになるだろう。そんな半分諦めの思考になったところで。

 試合開始の合図が鳴った。

 

「お覚悟!」

 

 リオナがそう言い、親衛隊6人が一気にこちらに飛び込んできた。

 ……あとはお察しの通り、それを全員捌けるわけでもなく。

 数の暴力で圧倒され、何人かに組み伏せられ。あっさりと和真の勝利となった。

 

 

 

 

 

  *****

 

 

 

 

 

 折角だから冒険をしよう、浮かれた私、エメラはそんなことを考え大通りから外れて裏路地へ入っていった。

 暗い道だが、私の気持ちは明るい。

 軽い足取りでスキップ。そんな私に

 

「お嬢ちゃん、ちょっといいかい?」

 

 ふと背後から、そんな声。

 スキップをやめ、振り返るとそこには男二人。

 うち一人は長い耳に首輪を付けていて、そこから伸びたリードをもう一人の男が持っていた。

 エルフの奴隷と、その主人というところか。

 

「何の用ですか?」

「君、エルフじゃないか。かわいいね、どこに住んでるの?っていうか今暇?」

 

 主人の男に語り掛けられる。

 おぉ、これが世に聞くナンパですかい。

 どうしようマサト。私お持ち帰りされちゃうかも、きゃっ。

 などと、ふざけたことを考えていると違和感に気付いた。

 周りの精霊が二人に反応していた。

 エルフの奴隷だけでなく、その主人にも。

 

「……ああ、そういうこと。ナンパと思って損した……」

「そういうこと、とはどういうことだい?」

「あなたたち、2人ともエルフでしょう?」

 

 主人は魔法で人間に化けたエルフ。

 しかも奴隷の付けている首輪は偽物。親和性を抑える効力がないことは。

 そんな、エルフ二人組。明らかに人類国家への潜入捜査員。怪しさ満点である。嫌な予感しかしない。

 それが示すことはおそらく

 

「君は“革命”の意思を持つ者か?」

 

 主人役の男が上着を少しめくり、そこに隠された花弁の紋章を見せながら言う。

 “革命軍”への勧誘だ。

 

「ごめんなさい、私にはその紋章を示し返すことはできないわね」

 

 自身がその紋章を体に刻んでいない、革命軍に所属していないエルフであることを告げる。

 首輪を付けたほうの、奴隷役のエルフが額に手を当て、天を仰いだ。

 それに主人役のエルフがやれやれと、首を振った。

 

「君は、故郷を愛しているか?」

 

 主人役のエルフにそう問いかけられ、私は首を縦に振った。

 それを見た主人役のエルフは満足そうに、手を差し出し

 

「革命軍へ、加入しないか?我らの想いは、故郷エルフの国家のためにあるのだから」

 

 私を革命軍に勧誘するのだった。

 差し出された手をそっと見つめて、私は尋ねる。

 

「あなたは、人間をどう思う?」

 

 そう問うと、エルフの2人組は笑った。

 何を聞いているんだと、私を少し馬鹿にしたかのような笑い。

 返ってきた答えは。

 

「親和性を持たない人間なんて、劣等種だ。力ない人間は力あるエルフが管理すべきだ。」

「……そう。それじゃまたね」

 

 その言葉を聞いて、私は踵を返し走り出す。

 人間を劣等種と呼ぶことは、エルフの中では一般的な思想だ。

 だが、それは私とは相いれない。

 

「おい、待てよ!」

 

 勧誘を拒否したことに気付き、エルフの男2人が追ってくる。

 なんか怒ってる様子だし、口封じで殺しにかかってくるだろうか。

 奴隷役のエルフが、魔法を使おうと大気中の精霊に呼びかける。

 行く手を阻むつもりかそれとも直接攻撃してくるのか……

 

「吹っ飛んじまえ!このクソ女ぁ!」

 

 男がそう叫んで、魔法を発動した。

 

 

 

 

 

   *****

 

 

 

 

 

 戦闘訓練の結果は散々だった。

 研修部屋で帰宅の準備をしつつ、そんなことを思い返していた。

 まさか1戦も勝てないとは、思わずため息が出た。

 

「ま、まぁ…評価に響くことはないだろうから…」

 

 瑞樹がそんなことを言って慰めてくれるが、正直響くような気はするな…

 ふと、和真の側から1人の獣人族が前に出てきた。

 名前はこゆきちって言ったっけか、親衛隊の無口で小柄な猫系の獣人族だ。

 そしてこゆきちが目の前の机に肘をついて手を見せてくる。

 そのままこっちを見つめてきた。

 

「………」

「……え?」

 

 どう見ても腕相撲の体勢だ。

 そのまま無言でこちらを見据えるこゆきち。挑まれている。

 俺はこゆきちと机を挟んで膝をつき、肘を彼女と同じようにたてて構えを取った。

 

「こゆきち、何をしているのですか」

「………」

 

 親衛隊リーダーのリオナに注意されてもこゆきちは無視していた。

 和真が諦めたようにため息をつく。

 

「まー…正人も嫌がってないみたいだしいいんじゃないか」

 

 和真がそういって俺たちの間に立って。

 こゆきちと俺が合わせた手の、その上に手を置いて。

 

「レディ……ゴー!」

 

 和真の合図を聞いて、相手の手の甲を机に叩きつけるためお互いに力を込める。

 

「ぐっ…」

「…………っ!」

 

 最初は少し優勢だったが、少しずつこゆきちが押し返してきた。

 気付けば俺の手は机の上に接近していて。

 そのまま手の甲が机に触れる感触があった。

 

「………くそざこ」

 

 そんな圧勝でもなかっただろうに好き勝手言ってくれるなコイツ。

 

「こら、こゆきち!なんてことを言うのですか!申し訳ありません正人様!」

「いや、いいんだ」

 

 怒るリオナにそう返すと何度も頭を下げてきた。

 そのままこゆきちのほうに向いて言う。

 

「こゆきち、今日の夜は……わかってるわね?」

「……ぴぇ…」

 

 こゆきちが青ざめる。先ほどまで勝者の余裕を見せていたのが噓のような声が出えていた。

 罰あること覚悟の上でリオナの注意を無視したわけじゃなかったのか…というか何があるんだ夜に。

 というか和樹は笑ってる。なにを笑ってるんだか、最も頭下げるべき人だぞお前。

 

「……まぁ、こゆきちちゃんの言わんとすることはわかるけど」

 

 瑞樹が少し躊躇ってから言う。

 

「正人って…ちょっと体格がヒョロ過ぎない?」

「そうか?」

「少なくとも、これが“英雄の息子”だって言われてピンとくる体格はしてないかな…」

 

 瑞樹がこゆきちのいた場所に立ち、腕相撲の体勢をとる。

 俺は手を握り返すと和真の合図を待った。

 そして、和真の合図と同時に

 

バンッ!!

 

 俺の手は文字通り机の上に叩きつけられた。

 瑞樹の圧勝だ。

 

「……まじかよ」

「おいおい、正人。馬鹿にしてるわけじゃないが、瑞樹ちゃんに負けるってそりゃ嘘だろ」

「あら和樹、やる?」

 

 和樹に代われと言われ、瑞樹と和真の腕相撲。

 

「レディ…ゴー!!」

 

バンッ!!

 

 和真の手が、躊躇なく叩きつけられていた。

 

「嘘だろ……」

「和真、あなたもよ…」

「……ゴリラだ」

「誰がゴリラだ」

 

 

 

 

 

   *****

 

 

 

 

 

 エルフの国家の特徴として、『親和性至上主義』が挙げられる。

 親和性とは、精霊に語り掛ける力。

 仮に同じ場所で親和性が高いエルフと低いエルフの2人が同時に魔法を使おうと試みたとする。

 そうした場合、周りの精霊は親和性が高いほうの魔法使いの魔法の発動に協力し、親和性が低い魔法使いは魔法が発動できない。

 エルフの国家では親和性は人権なのだ。親和性が高い者が絶対の王者。親和性が高い者だけが、相手を魔法という圧倒的な力で蹂躙できる。

 エルフが人間を見下す理由は、これでも説明できる。

 人間は魔法を使えない、故に親和性を持たない。しかも特別魔法以外の力を備えているわけでもない。

 そんな人間を見下し、エルフの支配下に置くべきだ。

 そんな考えのエルフもいたりする。

 さて、話が逸れたが

 とにかくエルフの世界では、親和性が重要だという話で

 

「吹っ飛んじまえ!このクソ女ぁ!」

 

 そう叫んで奴隷役のエルフは私エメラに向かって魔法を発動した、はずだった。

 

「あれ…………」

 

 発動しない。

 勿論首輪はエルフ用ではないので親和性を阻害する効果もない。

 魔法が発動しない理由は単純で。

 この3人の中で私が、最も親和性が高いのだ。

 そんな私が予め、周囲の精霊を自身の支配下に置いておいたからだ。

 

「嘘だろコイツ……!?」

 

 魔法を使って反撃してやりたいのは山々だが私は奴隷の身。ここで他人の奴隷や人間に危害を加えた場合、責任を取るのは正人で。

 しかも公務用の首輪を付けた奴隷が、となれば責任は重い。

 正人の迷惑になるようなことは避けなければならないのだ。絶対に。

 危害を加えない程度に魔法を使い、逃げるしか手段はない。

驚いてる二人に背を向け走る。

 

「関係ねぇ、この女は人間の犬だ!こっちを攻撃できるはずもねぇんだ、直接やってしまえ!」

 

 主人役のエルフがそう言うと、2人が懐から刃物を取り出し追ってきた。

 困ったことに、私の進行方向は大通りとは別の方向。

 変に冒険して、知らない道に迷い込んで、その知らない道に向かって男から逃げている。

 どうにかして大通りに戻りたいところだが……

 そんなことを考えていると

 

「可愛いじゃねぇか!人間の犬なのが勿体ねぇな!」

「……っ」

 

 至近距離に詰めてきた奴隷役のエルフがナイフを構えていた。

 精霊に呼びかけ空気の壁を作り出し、ナイフを受け流す。

 

「そんな親和性を持ってるのに人間にばかり股開いてんだろうなぁ…!俺はどうよ、人間なんかよりよっぽどいいぜ!」

 

 お断りだって言ってるでしょ……。

 しかもあまりにも汚すぎる。

 空気の壁を破裂させて起こった突風で加速し、相手との距離を開けた。

 

「助けてー!!襲われていますー!!」

 

 そう叫んでみるも少し奥まで来てしまったか、反応がない。

 ただ親和性が高い私のほうが優位である、それは変わらない。

 よく考えれば空気の壁でも作り出して、道を遮断してしまえば安全に逃げられるような……

 

「あいつ魔法の使い方下手だぜ!やっちまえ!」

 

 もしかして、相手は私が魔法をまともに使えないと思ってる…?

 そんな私の頭に一つのひらめき。

 この時間の、ここより東側の大通りならもしかして……

 私は安全に逃げるのをやめて、そのまま走り出した。

 向こうののほうが身体能力は高い、追いつかれるたび距離を離し少し魔法の扱いが下手なふりをしながら逃げることにした。

 

 

 

 

 

   *****

 

 

 

 

 

 瑞樹とともに奴隷待合室に来た。

 神無と呼ばれる竜が姿勢を低くし、瑞樹を鞍に乗せた。

 

「ほら、正人」

 

 瑞樹が自身の後ろに俺を乗せてくれた。

 瑞樹は街中で選挙活動している父の手伝いに行くそうで、俺の帰る方向が同じなので途中まで乗せて行ってくれるそうだ。

 神無の上にお邪魔する。2回目だが慣れなくて少しそわそわした。

 瑞樹が、神無に向かって言う。

 

「神無、今日は戦闘訓練お疲れ様」

「いえ、たいしたことでは」

 

 瑞樹の問いに神無がそう答えた。

 耳を疑って思考が停止した。

 

「しかし流石神無、全勝だったわね…」

「現場はもっと危険ですから、気を緩めないように。もっとも瑞樹様には指一本触れさせませんが」

「あら頼もしい」

 

 神無が離陸し、ようやく状況を飲み込んだ。

 

「え、竜って喋るの?」

「何ですか、全敗」

 

 空を翔けながら神無が返事をする。

 返ってきた言葉が凄い辛辣だった。

 瑞樹が失笑しながら

 

「喋らない竜族も居るようね。喋るわよ、神無は」

「瑞樹様、それは違います。私レベルになると、喋れるのです」

「言うじゃない」

 

 まぁ、竜車などの街中で稀に見れる竜族たちが喋っているところを見たことがないから…おそらくその通りだろうけど

 この神無はやけに自信過剰な性格をした竜のようだ。

 

「やっぱり、神無は強いのか」

「当たり前です。あなたみたいな有象無象と一緒にしないで下さい」

 

 当たりがあまりに強すぎる。俺なんか悪いことした?

 瑞樹曰く、空を飛べるのはもちろん、竜族は親和性を持っているため、エルフなどが魔法などによる遠距離攻撃を使おうとしても親和性で圧勝すれば一方的な戦闘が出来るそうだ。

 竜族が高級奴隷である所以だ。武器としての性能が桁違い。竜族に対抗するには竜族を連れてなければと言っても過言ではない。

 

「竜族って、強いんだな…」

 

 改めて感じて、思わず声に出た。

 そんな言葉を「実はそうでもないです」と神無が否定した。

 この竜、謙遜ができたのか。いやここまでくると嫌味に聞こえるな。

 

「街中で見る竜が、竜車として。武器としてではなく乗り物として使われている理由は何だと思いますか?」

「え?」

「20秒あげます。19……18……17」

「えーっと……」

「16……15、答えは戦闘において使い物にならないからです」

 

 考えさせろよ。せめて待てよ、20秒。

 不満そうな俺を見ることも無く、神無が続ける。

 

「親和性を持つという意味、正人様はお分かりですか」

「はじめて名前呼ばれたな……エルフのカースト制度のことか?」

「そうです、竜族も同様実力主義。親和性が重視される世界。親和性を持たなかった、恵まれなかった竜族は……竜世界から追放され、奴隷として生きているのです。」

 

 実は戦闘力はエルフ未満の竜族もいるでしょうね、と神無が締めた。

 竜世界から追放された竜族。それは、神無を含んでの言葉だったのか。

 少しだけ、重たい空気を感じた。

 急に、神無が別の話を振ってきた。

 

「正人様は奴隷を飼わないのですか」

「え?」

「英雄の息子と聞いていたので言わなかったのですが、今日の訓練を見て瑞樹様がすごく心配していたので……」

「ちょっと神無…!」

 

 瑞樹が慌てたように神無を窘める。

 神無や瑞樹の言わんとしていることはもっともだ。

 今日は訓練だったから大丈夫だった。もし、本番だったら。

 もし、仮にパトロールに出た現場で不審者と戦闘になったときに……

 もしものことを考えて、護身用の武器“奴隷”を連れておけということだろう。

 なにも戦闘用の奴隷でなくとも、逃げ足の速い獣人や動物系を連れているだけでも救える命があるということだ。

 命がなくなってからでは遅いぞ、と忠告を受けているわけだ。

 ただ、奴隷制度が嫌いな瑞樹にとっては複雑なことだろう。

 ふと、頭にエメラの顔が浮かんだ。あいつなら喜んでついてきそうな気もするが。

 いや、無理だ。わざわざ危険な現場に連れてなんてこれない。

 そんなことを考えてたら、演説の声が耳に入る。

 瑞樹の父、永津の演説だ。朝もやってたのに、熱心なことだ。

 

「近くの広場で下ろすわね」

「あぁ、ありがとう」

 

 瑞樹がそういって、近くの広場に神無を着陸させる。

 父の手伝いに向かう瑞樹を見送って、俺は帰路に着いた。

 

 

 

 

 

  *****

 

 

 

 

 

 私エメラはまだ、追ってくる2人のエルフから逃げていた。

 親和力がこちらのほうが上だから、捕まることはないだろうのにしぶといものだ。

 

「おらぁ!」

 

 投げナイフが飛んできた。こんなものを隠し持っていたとは…油断ならない。

 空気の壁を作りそれを防ぐ。

 走れ、走れ私。きっともうすぐ大通りだ。

 そう言い聞かせた。

 

「思い出してみろ、どうしてテメェは奴隷になった!どうして人間に惨めな思いを受けて、そのまま黙っていられるんだ!あぁん?!」

 

 男の一人が、私を追いかけながらそんなことを聞いてきた。

 

「さ、どうしてでしょうね。ただ私は平和主義者だから、あなたたちには協力できないわ」

「平和だァ?!人間なんて平和からほど遠い存在じゃねぇか!」

「………」

「テメェは知らねぇのか!人間が起こした、エルフの里への侵略を!」

 

 その言葉を聞いて、ふと頭が痛くなった。そんな気がした。

 何人も、犠牲が出た。何人ものエルフが抵抗することもできないまま死んだ。

 私が、殺した。

 エルフの領土の中で最も人間の国家に近い場所で起きた、とある昔の侵略戦争。

 

「隙ありだ、女ぁ!」

 

 一瞬過去を思い出していた私に、奴隷役の男がナイフを振り上げる。

 とっさに突風を起こし、距離を取る。

 そして微かに耳に聞こえた、とある人の声。

 この時間、近くの大通りになら居るはずだ。

 この奴隷の街で、最も平和を求めている男が。

 エルフの男二人が再びこちらに迫ってくる。

 軽く、深呼吸。

 

「侵略戦争では多くの犠牲者が出た。でも、だからこそ。平和を脅かすあなた達を放っておくわけにはいかないのよ」

「寝ぼけてんじゃねぇぞ!女ァ!!」

 

 男二人を可能な限り引き寄せて、再び魔法を使う。

 わざとらしく、あたかも相手の攻撃魔法で吹っ飛んだように見せながら、自身の体を

 反対方向に吹き飛ばす。

そして、叫ぶ。

 

「助けてー!!革命軍に襲われていますー!!」

 

 そして、自身の支配下に置いておいた精霊を手放す。

 

「神無ッ!!」

 

 そんな女の人の声が聞こえたその瞬間、竜の咆哮が場を支配した。

 

 

 

 

 

  *****

 

 

 

 

 

「神無ッ!!」

 

 助けを求める声が聞こえ、瑞樹は竜を呼んだ。

 路地裏から、声の主の女性が吹き飛ぶように現れたのを確認し、その奥に革命軍が居るのを悟る。

 永津が、演説を聞きに来ていた観衆を避難させる。

 神無が、周りの精霊を制圧し路地裏で魔法を発動。

 無事、革命軍の人間二人を取り押さえることに成功した。

 

「治安維持部隊、瑞樹です!!あなた達を拘束します!」

 

 神無の巨大な腕が革命軍の二人を地面に押さえつけて離さない。

 そのまま手首と足首を拘束、本来であれば首輪などを付けて魔法を封じることろだが、瑞樹は持っていない。

 まぁ、心配しなくとも神無が居るうちはこの2人は魔法は使えないだろうが。

 

「テメェは……!あの政治家のとこの……!!」

 

 拘束された、男の一人が憎たらしく瑞樹と永津を睨んだ。

 

「テメェら、奴隷の解放とか言いながらしっかり奴隷飼ってんのかよ、ああん?!」

「………」

 

 神無が睨むと男は怖気づいた様子で以降の言葉を発しなかった。

 瑞樹は襲われていた女の子を探したが、もうすでにどこかに避難したのか、民衆の中にさえその姿はなかった。

 誰かが治安維持部隊の本隊に通報したようで、増援は直ぐやってきた。

 幸い、現場検証をせずとも証言者は多い。拘束した二人を引き渡して、事は片付いた。

 永津が観衆に振り返り、言う。

 

「皆様、緊急時にもかかわらず指示に従って避難していただきありがとうございました。」

 

 永津が神無を見て、続ける。

 

「知っている方も多いとは思いますが、改めてご説明を。

この子は、私達の“家族”の神無です。もっとも、見ての通り血はつながってませんが

決まりのため、首輪を付けています。決まりを作る政治家が、今の決まりを破っていては示しがつかないでしょう?」

 

 永津が笑って。

 

「この子や、ほかの皆の首輪を取ることが私の使命です。」

 

 その日はまだ革命軍が近くにいるかもしれないということで、解散となった。

 

 

 

 

 

   *****

 

 

 

 

 

 俺、正人は帰路についていた。

 穏やかに流れている小さな川の上にかかる橋を渡る。この川を渡れば少し大通りと呼べる場所ではなくなる。

 都市部と田舎を分けるような橋…と言えば言い過ぎだが。

 俺たちの家は少し街外れにある。おかげで通勤が少し苦労している…引っ越そうかな。

 

「なんか、騒がしいな。」

 

 今来た道を振り返ってそんな感覚を覚えた。

 瑞樹たちが演説をしている場所で何かがあったのか…?

 戻って確認するか…

 そう考えて走り出そうとした瞬間

 

バシャバシャ!!

 

 真下を流れる川から激しい水音。

 

「ん?」

 

 思わず、橋から身を乗り出し下を確認する。

 川のど真ん中に人影があった。

 ………まさか、誰かが溺れてる?

 透き通ったような川ではないので、あまり確信をもてなかった。

 一瞬、川から獣の耳のようなものが出てきて、再び水中へ。

 間違いない、何かが、誰かが水中に居る。

 大丈夫か、水面に向かんでそう叫んで少し待ったが、再び耳のようなものは姿を見せなかった。

 

「おいおい…?!」

 

 誰かが溺れている、おそらく獣人族か。

 橋は幸い高くなかった。

 思わず、その恰好のまま水面に飛び込んだ。

 それが、よくなかった。パニックになったとはいえ泳げる体勢は確保してから潜るべきだ。

 ましてや鞄を持ってなど。

 穏やかな川など橋から眺める風景だけで、飛び込んで初めてその流れを経験するものだ。

 

(おいおい…!!)

 

 他人に向けていたはずのそんな言葉は、いつしか自分に向けたものになっていた。

 このままではまずい、溺れる。

 ミイラ取りがなんとやら。溺れている人を助けに来たのに俺が溺れては…

 ふと、川の中に先ほど見た獣耳が見えた。

 自身の下にその持ち主の少女が見え、目が合った。

 もこもこしたような白い被り物をした幼い容姿。ただ、手と足が大きな白い猫の肉球のようになっていた。

 少女はこっちを見るなり、こちらに近づいてきた。

 あれ、もしかしてこの子泳いでる?

 そしてその容姿に見合わない、俺の手より一回り大きな手と大きな力で俺の腕をつかんで泳ぐ。

 泳いだ少女に引っ張られ、俺は岸辺へ上がった。

 

「ぜぇ…はぁ……」

「だいじょうぶ?」

「あぁ、ありがとう」

 

 溺れていると思った少女に、まさか溺れそうになっているとこを助けられるとは……

 緊張が解け、思わず息が荒くなった。

 

「なにしてたの?」

「いや、君こそ川の中で何してたんだ」

 

 こんな少女相手になんだが…溺れているのを助けに来た、とは言いずらかったのでごまかしてしまった。

 

「おさかなさん、とってた」

 

 少女はそう答えると、白いワンピースのポケットから何匹か魚を取り出した。

 白いワンピースは肉球の手や足、帽子などとは違い水に濡れて透けていた。

 その下には幾つか包帯などが巻かれていたたが、下着などが少し見えてしまって少し恥ずかしくなって目をそらした。

 耳あてのあるふわふわした帽子を被っている割にはワンピース。寒いのか暑いのかわからない、変わった格好をしている少女だ。

 

「ミアがとったおさかなさんだけど、いっぴきいる?やいてたべると、おいしいよ?」

 

 これが、ミアという少女と俺の出会いだった。




さて、親和性至上主義をお送りしました。いかがだったでしょうか。
結構間隔があいてしましましたが、待ってくださってた方がいらっしゃいましたらありがとうございます、そしてごめんなさい。
多趣味なものでほかの趣味をやっていました。
主に絵を描いていまして、もし機会あればというより需要(あと気力)あれば挿絵でも書いてみたいものですね。私の絵にそんな実力があるかはさておき…
最後にミアという少女が登場しました。しばらくは多分この子が中心になって話が進んでいくかもしれません。
勢いで始めた小説ですが、この子のエピソードのキリのいいとことまで行けたらなと思いつつ…
また次回でお会いしましょう。それでは
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