――オルクス大迷宮 深層 第六〇階層
一行が準備を終えて迷宮攻略に動き出した後、十階層ほど順調に降りることができた。ズブの素人であったハジメの装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、
全種類の魔法を何でもござれとノータイムで使用し的確に仲間達を援護する。
ただ、回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。”自動再生”があるからか無意識に不要と判断しているのかもしれない。もっとも、そのどちらもキースとフィーナが補えるので何の問題もなかったが。
彼等が降り立ったのは十メートルを超える木々が鬱蒼と茂る樹海の階層だ。以前通った密林の階層とは異なりそれほど暑くはないのがせめてもの救いだろう。
次の階層に続く階段を求めて探索していた一行は、遠くの方からズズンッという地響きのような音が近付いてくるのに気が付いた。何事かと身構える彼等の前に現れたのは、ティラノサウルスのような見た目をした巨大な魔物だった。
但し、なぜか頭に一輪の可憐な花を生やしていたが……
鋭い爪牙と迸る殺気が議論の余地なくこの魔物の強力さを示していたが、ふと視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動いている。
それは、かつてないほどにシュールな光景だった。思わず間の抜けた表情を浮かべた一行をティラノはギンッ! と睨みつける。
「グルゥアアァァ!!」
ティラノサウルスは咆哮を上げると四人に向かって一直線に突進してくる。
ハジメは慌てずドンナーを抜こうとして……それを制するように前に出たアレーティアがスッと手を掲げた。
「”緋槍”」
その手元に現れた炎が渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、迫りくるティラノサウルスの口内目掛けて飛翔する。
そのまま頭部を貫通した炎の槍は周囲の肉を容赦無く溶かしてティラノを一瞬で絶命させた。後頭部から緋色の槍が飛び出した死骸が地響きと共に横倒しになる。
地に伏した恐竜の残骸の頭部からは、ポトリ、と向日葵のような花が零れ落ちた。
「……」
最近、アレーティアの無双が凄まじい。最初は援護に徹していたはずだが、何故か最近では他の仲間達に対抗するように先制攻撃を仕掛け魔物を瞬殺しているのだ。
そのせいで自分の出番が減ったハジメは、自分が役立たずな気がしてならなかった。まさか、自分が足手まといだから速攻で終わらせているとかじゃないよね? と内心では不安に駆られていた。地上にいた頃は誰からも無能扱いを受けていた彼の自己評価は、謙虚を通り過ぎて卑屈なほどに低いものであった。
抜きかけのドンナーを腰に戻すと苦笑いしながら目の前の少女に話しかける。
「あの~、アレーティアさん? 張り切るのはいいんだけど……最近、僕、あまり動いてない気がするんだけど……」
その言葉にアレーティアは振り返ると、無表情ながら何処か得意気な顔をする。
「……私、役に立つ。……パートナーだから」
どうやら、ただ後ろから援護だけしているのが我慢ならなかったらしい。
確か、少し前に一蓮托生のパートナーなのだから頼りにしているみたいなことを言ったような、と、ハジメは首を傾げる。
その時は、彼女が、魔力が枯渇するまで魔法を使ったことで戦闘中に倒れてしまい、そのせいで窮地に陥ったところを一騎当千の強者であるキースの助力でどうにか切り抜けた後、そのキースから魔力残量の管理について説教を受けたのだ。
そのことをひどく気にするので慰める意味で言ったのだが……思いの外、彼女の心に深く残ったようである。パートナーとして役に立つところを見せたいのだろう。
「はは、いや、もう十分に役に立ってるよ。アレーティアさんは魔法が強力な分、接近戦は苦手なんだから後衛をお願い。前衛は僕の役目だよ」
そのパートナーに注意を受けたアレーティアは若干シュンとする。
ハジメは、どうにも自分の役に立つことにこだわりすぎるきらいがあるアレーティアに苦笑しながら、彼女の柔らかな髪を撫でる。それだけで、ほっこりした表情になって機嫌が直ってしまうのだから、ハジメとしてはもう何とも言えない。
依存して欲しいわけではないので、所々で注意が必要だろう……と思いつつ、つい甘やかしてしまう。実のところ、そんな自分にこそ一番呆れているのだった。
「相変わらず仲がいいわね」
「それは構わないけど……どうやら新手が来たみたいだよ」
キースの言う通り、”気配感知”に続々と魔物が集まってくる気配が捉えられた。
十体ほどの魔物が取り囲むように彼等の方へ向かってくる。統率の取れた動きに、二尾狼のような群れの魔物かな? と訝しみながら四人は現場を離脱する。数が多いので少しでも有利な場所に移動するためだ。
円状に包囲しようとする魔物に対して、ハジメとキースは、その内の一体目掛けて自ら突進していった。そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、ラプトル系の恐竜のような魔物がいた。
頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせて。
「……かわいい」
「……流行りなのかな?」
「……いやいや」
「……流石にそれはないわよ。ないわよね?」
シリアスブレイカーな魔物にジト目を向けたハジメは、有り得ない推測を呟き、キースとフィーナは否定の言葉を口にしたが、それはどこか自信なげなものだった。
ラプトルは、先のティラノと同じく殺気を撒き散らしながら唸り声を漏らしており、臨戦態勢だ。頭上ではゆらゆら、ふりふりと花が揺れていたが……
「シャァァアア!!」
花に注目して立ち尽くすハジメ達に飛びかかるラプトル。その強靭な脚には二十センチメートルはありそうな鉤爪が付いており、ギラリと凶悪な光を放っていた。
四人は左右に分かれるように飛び退くことでラプトルの魔の手を逃れる。それだけで終わらず、”空力”を使って三角飛びの要領で頭上を取ったハジメは、試しにと頭のチューリップを撃ち抜いてみた。
ドパンッ! という発砲音と同時にチューリップの花が四散する。
一瞬、ビクンと体を痙攣させたラプトルは、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり、樹にぶつかったことでようやくその動きを停止させた。
シーン……と、静寂が辺りを包む。
トコトコとハジメの傍に寄ってきたアレーティアは、倒れ伏すラプトルと地面に散らばるチューリップの花びらを交互に見やった。
「……死んだ?」
「いや、生きてるっぽいけど……」
ハジメの見立て通り、ピクピクと痙攣した後、ラプトルはムクッと起き上がり辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り、親の仇と言わんばかりに踏みつけ始めた。
「え~、何その反応、どういうこと?」
「……イタズラされた?」
「いや、そんな背中に張り紙つけて騒ぐ小学生じゃないんだから……」
ラプトルは一通り踏みつけて満足したのか、如何にも「ふぅ~、いい仕事したぜ!」と言わんばかりに天を仰ぎ「キュルルル~!」と鳴き声を上げた。
そして、ふと気が付いたようにハジメ達の方へ顔を向けビクッとする。どうやら、今になって四人の存在に気が付いたらしい。
「……やっぱりイジメ?」
アレーティアに同情したような眼差しで見つめられたラプトルは、暫し硬直した後、直ぐに姿勢を低く、牙を剥き出しにして、唸り声と共に飛びかかってきた。
スッとドンナーを掲げたハジメは、大きく開けられたラプトルの口に照準を合わせ電磁加速されたタウル鉱石製の弾丸を撃ち放つ。
一筋の閃光となって狙い違わずラプトルの口内を蹂躙し後頭部を粉砕して飛び出た弾丸は、背後の樹も貫通して樹海の奥へと消えていった。
跳躍の勢いそのままにズザーッと滑っていく絶命したラプトルが樹海に消えていくのを四人は何とも言えない顔で見送った。
「……ホントに、なんなの?」
「……苛められて、撃たれて……憐れ」
「いや、いい加減にイジメから離れようよ。絶対に違うから」
訳が分からないものの、そもそも迷宮の魔物自体訳の分からないものばかりなので気にするのを止めた。包囲網がかなり狭まってきていたので急いで移動しつつ、自分達に有利な場所を探っていく。
ほどなくして直径五メートルはありそうな大樹が無数に伸びている場所に出た。隣り合う樹の太い枝同士が絡み合う光景は、まるで空中回廊のようだ。
四人はそれぞれの方法で頭上に太い枝に飛び移る。彼等はそこで、頭上から集まってきた魔物達を狙い撃ちにするつもりなのだ。
五分もかからず眼下に次々とラプトルが現れ始めた。”焼夷手榴弾”でも投げ落とそうかと思っていたハジメは、しかし、硬直する。隣では魔法を放つため手を突き出した状態でアレーティアも固まっていた。あのキースでさえ呆然とした表情だ。
なぜなら……
「なんでみんな頭に花を付けてるの!?」
「……ん、お花畑」
「意味が分からないわ……どういう生態をしているのかしら?」
現れた十体以上のラプトルは全て頭に花を付けていた。それも色とりどりの花を。
思わずツッコミを入れてしまったハジメの声に反応して、ジロリ! と首を傾けるようにして声の聞こえてきた方向を見やるラプトル達。
その眼が、ギラリと剣呑な光を放つ。そして、襲いかかろうと跳躍の姿勢を見せた。
ハジメは”焼夷手榴弾”を投げ落とすと同時に、その効果範囲外にいるものから優先してドンナー&シュラークで狙い撃ちにした。連続して発砲音が轟き、その度に紅い閃光がラプトルの頭部を一発の狂いもなく吹き飛ばしていく。
残りの三人も同じく魔法を使って周囲の個体から一体ずつ確実に仕留めていく。
きっかり三秒後、群れの中央で”焼夷手榴弾”が爆発して摂氏三千度の燃え盛るタールを撒き散らす。灼熱の炎がラプトルを焼き尽くす光景を目にしたハジメは、この階層の魔物にも十分に通用することにほっと胸を撫で下ろした。やはり、あのサソリモドキが特別強力な魔物であったようだ。
結局、ラプトルを殲滅するのに十秒と必要としなかった。しかし、キースの表情は冴えない。それに気が付いたハジメは、訝しみながら問いかけた。
「……キース師匠?」
「ハジメ君、おかしくないかな?」
「え?」
「ちょっと弱すぎる」
その言葉にハッとなるハジメ。
確かに、ラプトルもティラノも動きは単純そのもので特殊な攻撃もなく簡単に殲滅できてしまった。それどころか殺気はあれども何処か機械的で不自然な動きだった。
花が取れたラプトルが怒りを露わにして花を踏みつけていた光景を見た後なので尚更、花を付けたラプトル達に違和感を覚えてしまう。
慎重に進むべきだ、キースがそう言おうとしたその時、補助技能の一つ、”気配察知”が再び魔物の接近を捉えた。全方位からおびただしい数の魔物が集まってくる。少し遅れてハジメの”気配感知”と”魔力感知”もその反応を感知する。
ハジメの感知範囲は、現在、半径二十メートルといったところだが、その範囲内において既に捉えきれない程の魔物が一直線に向かってきていた。
「……ヤバイ。三十、いや四十以上の魔物が急速接近中だよ。まるで、誰かが指示しているみたいに全方位から囲むように集まってきてる」
「……逃げる?」
「……いや、この密度だともう逃げ道はないよ。ここは一番高い樹の天辺から殲滅するのがベターじゃないかな?」
「ん……特大の行く」
忍者のように樹上を高速で移動しながら周囲で一番高い樹を見つける。そして、その枝に飛び移り、眼下の足掛かりになりそうな太い枝を砕いて魔物が登って来にくいようにした。
ドンナーとシュラークを構えながら静かにその時を待つ。アレーティアがそっと服の裾を掴むのを感じ取ったハジメは、手が塞がっているので代わりに少しだけ体を寄せてあげた。服の裾を掴む手が少しだけ強くなる。
遂に第一陣が登場した。ラプトルだけでなくティラノの姿もある。ティラノは樹に体当たりを始め、ラプトルは器用に鉤爪を使ってヒョイヒョイと樹を登ってくる。
ドンナー&シュラークの引き金を引いた。発砲音と共に閃光が幾筋も降り注ぎ、鉤爪で樹にしがみついていたラプトルを次々と撃ち抜く。
「”ディストーション・ジャベリン”!」
――時空魔法 範囲攻撃呪文 ”ディストーション・ジャベリン”
再装填までの間隙を埋めるようにキースが槍状に歪曲した空間を投げつける。物理的な障害が意味をなさない防御貫通攻撃が、先に登っていたラプトルの死骸を貫通して後続のラプトルや樹に体当たりをしていたティラノの肉体を貫いた。
その隣ではフィーナが同じように”ディストーション・ジャベリン”を繰り出し、樹に群がるラプトルを二、三体纏めて串刺しにする。
「大盤振る舞いだ!」
無事、弾丸の再装填を終えたハジメが複数の焼夷手榴弾を眼下に放り投げる。ドンナーの弾丸に撃ち抜かれた焼夷手榴弾は即座に爆発、辺りに炎を撒き散らす。それだけで十五体は始末したものの、その顔に満足感はない。
既に三十体を超えるラプトルと四体のティラノがひしめき合い、彼等のいる大木を圧し折ろうと、或いは登って襲おうと群がっているからだ。
「ハジメ?」
「まだ……もうちょっと」
アレーティアの呼びかけにラプトルを撃ち落としながら答えるハジメ。アレーティアはハジメを信じてひたすら魔力の集束に意識を【集中】させる。
そして遂に、眼下の魔物が総勢五十体を超え、今では多すぎて判別しづらいが、事前の”気配感知”で捉えた魔物の数に達したと思われたところで、ハジメは、アレーティアに合図を送った。
「今だ!」
「んっ! ”凍獄”!」
魔法のトリガーを引いた瞬間、四人のいる樹を中心に眼下が一気に凍てつき始めた。ビキビキッと音を立てながら瞬く間に蒼氷に覆われていき、魔物に到達すると花が咲いたかのように氷がそそり立って氷華を作り出していく。
――水属性最上級魔法 ”凍獄”
氷結範囲は指定座標を中心に五十メートル四方。その射程範囲内に居た魔物達は一瞬の抵抗すらも許されずに、氷華の柩に閉じ込められ目から光を失っていく。
「はぁ……はぁ……」
「お疲れさま。流石の威力だね」
「……くふふ……」
周囲一体、まさに
アレーティアは最上級魔法を使った影響で魔力が一気に消費されてしまい肩で息をしている。おそらく酷い倦怠感に襲われていることだろう。
脱力する彼女の腰に手を回したハジメは、その体を支えながら首筋を差し出した。
――種族固有技能 ”血力変換”
吸血鬼族は種族固有の技能として”血力変換”という技能を持っている。これは文字通り、吸収した血を自らの力に変える能力であり、その派生技能に[+魔力変換]という技能が存在している。
神水でもある程度は回復するのだが、吸血鬼としての種族特性なのか全快するには時間が掛かるため、神水の節約も兼ねて此方で回復させるようにしている。
アレーティアは、称賛の言葉に僅かに口元を綻ばせながら照れたように「くふふ」と笑いを漏らし、差し出された首筋に頬を赤らめながら口を付けようとした。
だが、それを止めるように突如ハジメが険しい表情で立ち上がる。”気配感知”の技能が更に百体以上の魔物を捉えたからだ。
「キースさん」
「ああ、百体以上はいるね」
「!?」
「流石におかしい……仲間の位置を把握するような固有魔法を持っているにしても、たった今、全滅させたところなのに、また特攻だなんて……まるで強制されてるみたいに……強制? あの花、もしかして……」
「……寄生?」
「オレも同感かな。寄生能力を持つ植物系の魔物がこの階層の主なんだろう」
むしろ、この状況ではそれ以外の可能性は皆無と言っていいだろう。
「厄介ね。あの花を取り付けている本体を倒さない限り、私達はこの階層の魔物全てを相手にすることになる……けど、その本体についての手掛かりが何一つない。寄生対象が人間だったなら、頭の花を取ってから聞き出すこともできたけど……」
「……魔物が相手ではそれも難しいですね。実際、さっきのラプトルは頭の花を取った僕達にも襲いかかってきましたし」
「ええ。だから私達は物量で押し潰される前に、何の手掛かりもなく、この階層の魔物達を操っているのであろう本体を見つけ出さないといけないわ。でなければ、とても階段探しなんてしていられないもの」
本当に、この奈落の底は理不尽としか言いようがない厄介な迷宮である。今回の階層は圧倒的な数の暴力で殺しに来たというわけだ。
そうしている間にも魔物達はこの場所に迫ってきている。座り込んでいるアレーティアに吸血させている暇はないので、ハジメは神水入りの容器を差し出した。
「……嫌」
しかし、アレーティアはそれを拒んだ。訝しむハジメに彼女は両手を伸ばす。
「ハジメ……だっこ……」
「抱っこ? まさか吸血しながら行く気なの!?」
ハジメの推測に「正解!」と言うようにコクンと頷くアレーティア。確かに、神水では彼女の魔力回復は遅いし、不測の事態に備えて回復はさせておきたい。
しかし、自分が必死に駆けずり回っている時にチューチューされるという構図に若干の抵抗を感じずにはいられない。背に腹は替えられないと分かってはいるが……
結局、了承してアレーティアを抱っこ……は邪魔になるので、おんぶして、苦笑する二人と共に、ハジメは本体探しに飛び出していった。
☆
ありふれルート
第4話 樹海の戦い
☆
現在、一行は二百体近い魔物に追われていた。周りは百六十センチメートル以上ある雑草が生い茂り、ハジメの肩付近まで隠してしまっている。アレーティアなら完全に姿が見えなくなっているだろう。
そんな生い茂る雑草が鬱陶しいと、既に吸血は済んでいるのにアレーティアはハジメの背中から降りようとしない。
後ろからは魔物が、
ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
と、地響きを立てながら追ってくる。
併走するラプトルが四方八方から飛びかかるのを迎撃しつつ、探索の結果一番怪しいと考えられた場所に向けて三人はひたすら駆け抜ける。
致命的な包囲をさせまいと、アレーティアも周囲の魔物に魔法を撃ち込んでいく。
カプッ、チュー
一行が怪しいと睨んだのは樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側に見える迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所だ。
何故、その場所に目星を付けたのかというと、襲い来る魔物の動きに一定の習性があったからだ。魔物を迎撃しながら探索していると、ある方向に逃走しようとした時だけやたらと動きが激しくなるのだ。まるで、その方向に行かせまいとするように。
このまま当てもなく探し続けても魔物が増え続けるだけなので、イチかバチかその方向に突貫してみることにしたというわけである。
カプッ、チュー
「アレーティアさん!? さっきからちょくちょく吸うの止めてくれませんかね!?」
「……不可抗力」
「嘘だ! ほとんど消耗してないでしょ!」
「……ヤツの花が……私にも……くっ」
「人のせいにしちゃいけません! というか余裕だね、本当に!!」
「夫婦漫才はそこまで。ハジメ君、どうやら伏兵がいたみたいだよ」
え? という疑問の声は出なかった。キースの”気配察知”程の性能はない”気配感知”でも縦割れの前に陣取る魔物達の気配を捉えることができたからだ。
今、彼等を追う二百体以上の数を上回る魔物がいるわけではない。それでも、五十を上回る数の魔物が此方を包囲するように前方から迫っていた。
「……そうか。他の魔物を操るだけの知能を持っている魔物なら、待ち伏せの罠ぐらいは用意していてもおかしくはない……」
「けど、これで確信したわ。この先に”本体”がいる」
「それなら、やることは一つだな。このまま魔物の群れを強行突破する!」
「はい!」
「んっ!」
「ええ!」
キースの宣言に、その場にいる彼の仲間達は一斉に応じた。
「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」
しかし、応じたのは仲間だけではない。待ち伏せをしていた魔物の中でも素早い身のこなしが特徴のラプトル達が唸り声を上げて飛びかかってくる。
「「”ディストーション・ジャベリン”!!」」
ドパンッ! ドパンッ!
「”緋槍”!」
二条の次元の槍が前方に立ち塞がる魔物達を一直線に刺し貫き、その軌跡から逸れた位置から襲いかかるラプトルを紅い閃光と灼熱の槍が撃ち貫く。
草原諸共に魔物の群れを貫いた”ディストーション・ジャベリン”の後を追うように、左右から襲い来る魔物達に対処しながら一直線に突き進むと、それを阻むように今度は無数のティラノが立ち塞がる。
「”破断”!」
吸血姫の指先から放たれる細い水流が立ち塞がる魔物の首を次々と両断していく。
―――水属性中級魔法 ”破断”
空気中の水分を超圧縮して撃ち放つウォーターカッターだ。湿度が高いこの階層には空気中に多くの水分が含まれており、水属性の魔法をより高効率で運用できる。
射程圏内、それを確認したハジメは”空力”で跳躍すると”縮地”で一気に縦割れに飛び込んだ。その後を飛行呪文”アクロバティック・フライト”で追いかけるキースとフィーナ。全員が縦割れに入り込んだのを確認したキースは後ろを振り返る。
(((((((ソーラー・ウィンド!)))))))
(((((((プラズマ・ブラスト!)))))))
((((((タイフーン!))))))
((((((メイルシュトローム!))))))
((((((ヘイル・ストーム!))))))
((((((ホワイトアウト!))))))
(ミラーリング!)
――雷魔法 範囲攻撃呪文 ”ソーラー・ウィンド”
――雷魔法 範囲攻撃呪文 ”プラズマ・ブラスト”
ダメージそのものは大したことはないが、超広範囲にプラズマ攻撃を放つ”ソーラー・ウィンド”で怯ませたところに、麻痺と衝撃による行動阻害の効果を持つ”プラズマ・ブラスト”が放たれ、縦割れの洞窟に迫りつつあった魔物達の動きを止める。
――風魔法 範囲攻撃呪文 ”タイフーン”
――氷魔法 範囲攻撃呪文 ”ヘイル・ストーム”
足を止めた魔物達は纏めて”タイフーン”の生み出す竜巻の内側に拘束される。”ヘイル・ストーム”により降り注ぐ拳大の雹が魔物に激突した衝撃で砕け散り、風の刃と共に魔物達を嵐の如く切り裂いていく。
――水魔法 範囲攻撃呪文 ”メイルシュトローム”
――氷魔法 付与呪文 ”ホワイトアウト”
空気中の水分が凍えることで視界が白一色となり”ホワイトアウト”を引き起こす。同時に”メイルシュトローム”の生み出した水流も凍りつくが、直ぐに割れて新たな水流が押し流す。氷の破片は舞い上がり、刃となって魔物を切り裂く。
魔法単体の威力自体は”凍獄”のそれほどではない。しかし、”呪文融合”により無数の呪文を同時に放つことで”凍獄”以上の効果を発揮している。
それは、魔導の探求者にであるアレーティアにとって目指すべき頂の光景と言ってもいいだろう。【魔導神】の御技を目に焼き付けるように、その目を大きく見開きジッと見つめていた。37……否、72もの呪文からなる”
その呪文が終了する頃には割れ目の入口は極大の氷によって塞がれていた。念には念を入れて”錬成”で割れ目を塞いでおく。
「これで取り敢えずは大丈夫かな?」
「キース師匠、お疲れさまです」
「……お疲れさま」
「ありがとう。ところで、君達は何時までそのままでいるつもりなんだ?」
「個人的にはそろそろ降りてもらいたいところなんですが……」
「……むぅ……仕方ない」
背中のお姫様にジト目を向けるハジメ。その眼差しを受けた吸血鬼のお姫様は渋々、本当に渋々といった様子で彼の背中から降りた。余程、ハジメの背中は居心地がいいらしい。
「さて。少しだけ休憩を取ってから洞窟の奥に進むことにしましょうか」
「それがいい。先に進む前に消耗した魔力を回復させるべきだ」
ということで、体力と魔力を回復させるために十分程度の休憩を挟んでから、錬成で入口を閉じたため薄暗い洞窟を四人は慎重に進むことにした。
しばらく道なりに進んでいると、やがて大きな広場に出た。広場の奥には更に縦割れの道が続いている。或いは次の階層への階段かもしれない。
一行は辺りを探る。”気配察知”や”気配感知”には何も反応はないが何となく嫌な予感がするので警戒は怠らない。感知系の技能を誤魔化す魔物など、この迷宮にはごまんといる。何なら第三階層で”気配感知”の通じない魔物が出てきたくらいだ。
一行が部屋の中央までやってきた時、それは起きた。
全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのだ。四人は一瞬で十字陣形を構築すると、飛来する緑の玉を迎撃する。
しかし、その数は優に百を超え、尚、激しく撃ち込まれるので四人は壁を作り出し防ぐことに決めた。”錬成”で石壁を作り出すハジメと、氷の魔法で氷壁を作り出す残りの三人。緑の玉は二種類の壁に阻まれて貫くこともできずに潰れていく。
「多分、今のが本体の攻撃ですね」
「オレも同意見だよ。問題は本体が何処に居るかだけど……」
「アレーティアさん、わかる?」
「……」
「アレーティアさん?」
”気配感知”等の索敵系の技能を持っていないアレーティアだが、吸血鬼の鋭い五感はハジメとは異なる観点で有用な索敵になることがある。そのため索敵系の技能が通用しない相手には、彼女の索敵は非常に有用なものになってくる。
しかし、その質問に返事が来ることはなかった。訝しみ、再び彼女の名を呼ぶハジメだが、その返答は……
「……逃げて……ハジメ!」
いつの間にか自分に向けられた右手から放たれる風の刃というものだった。咄嗟に体表を覆うように魔力を展開することで、サイクロプスより奪った固有魔法”金剛”を発動させる。
まだまだ未熟なため、おそらくサイクロプスの十分の一程度の防御力だが、風の刃も鋭さはあっても威力はないので無傷で防ぐことができた。
「アレーティアさん!?」
「裏切り? いえ、その頭の花は!?」
「今の緑の玉か!」
まさかの攻撃に驚愕の声を上げるが、アレーティアの頭の上にあるものを見て事態を理解する。そう、彼女の頭の上にも花が咲いていたのだ。それも、アレーティアに合わせたのか? と疑いたくなるぐらい良く似合う真っ赤な薔薇が。
「うぅ……」
常の無表情を崩して悲痛な表情をするアレーティア。ラプトルの花を撃った時、ラプトルは憎々しげに踏みつけていた。あれはつまり、花を付けられ操られている時も意識はあるということなのだろう。体の自由だけを奪うようだ。
だが、それなら解放の仕方も既に知っている。ハジメは薔薇の花に照準を合わせ引き金を引こうとした。
しかし、操っている者もハジメが花を撃ち落としたことやハジメの道具を知っているようで、そう簡単にはいかなかった。
アレーティアが花を庇うように動き出したのだ。上下の運動を多用しており、外せば彼女の顔面を吹き飛ばしてしまうだろう。ならばと、接近しようとすると今度は、片方の手を自分の頭に当てるという行動に出た。
「……厄介な……」
つまり、誰かが接近すれば彼女自身を自らの魔法の的にすると警告しているのだろう。”自動再生”の固有魔法を放つ彼女は確かに不死身に近いが、上級以上の魔法を使い一瞬で塵にされて尚”再生”できるほど生物を辞めてはいない。
そして、彼女は最上級魔法すらノータイムで繰り出すことができる。特攻など分の悪い賭けは避けたいところだ。
ハジメの逡巡を察したのか、それは奥の縦割りの暗がりから現れた。
アルラウネやドリアード等という人間の女と植物が融合したような魔物がRPGにはよく出てくる。一行の前に現れた魔物は正しくそれだった。
もっとも、神話のように美しい姿をしているなどということはなく、内面の醜さが溢れているかのように醜悪な顔をしており、その口元は何が正しいのかニタニタと笑っていた。触手のようにウネウネとうねっている無数のツルが実に気持ち悪い。
すかさずエセアルラウネに銃口を向けるハジメであったが、発砲する前にアレーティアが射線に入って妨害する。
「……ハジメ……ごめんなさい」
悔しそうな表情で歯を食いしばる。自分が足手まといになっていることが耐え難いのだろう。今も必死に抵抗しているはずだ。
口は動くようで、謝罪しながらも引き結ばれた口元からは血が滴り落ちている。鋭い犬歯が唇を傷付けているのだ。悔しいためか、呪縛を解くためか、或いはその両方か。
アレーティアを盾にしながらエセアルラウネは緑の玉をハジメ達に撃ち込む。
三人は、それを各々の武器で打ち払った。球が潰れ、目に見えないがおそらく花を咲かせる胞子が飛び散っているのだろう。
しかし、アレーティアのように三人の頭に花が咲く気配はない。どうやら彼等には胞子が効かないようだ。ニタニタ笑いを止め怪訝そうな表情になるエセアルラウネ。
(多分、耐性系の技能のおかげかな)
その推測通り、エセアルラウネの胞子は一種の神経毒である。そのため、”毒耐性”によりハジメには効果がないのだ。無論、”対毒”技能を持つキース達にも通用しない。つまり、三人が助かっているのは全くの偶然で、アレーティアが油断したとは責められない。アレーティアが悲痛を感じる必要はないのだ。
エセアルラウネは三人に胞子が効かないと悟ったのかアレーティアに命じて魔法を発動させる、その瞬間。
(”ヒート・ボディ”!)
アレーティアの全身が炎に包まれた。当然、彼女の頭に咲いていた薔薇の花も燃えていく。エセアルラウネは唯一の操り人形が壊れたことに焦燥の表情を浮かべつつ、平然と仲間の命を奪った三人をどこか非難するような目で睨みつける。
だが、安心してほしい。この魔法は攻撃呪文ではなく付与呪文であるのだから。
――火魔法 付与呪文 ”ヒート・ボディ”
付与呪文”ヒート・ボディ”は対象全体に炎を纏わせる呪文だ。魔法攻撃でしかダメージを与えられない相手に物理攻撃を通すことが可能になる呪文の一つであり、決して呪文の対象を傷つけるような効果は存在しない。
つまり、この呪文により燃えたのは異物である薔薇の花のみだった。
「……あなたにそんな顔をする資格はない! ”緋槍”!!」
体の自由を奪われた屈辱と憤怒が存分に込められた緋色の槍は、その主を操り人形としていたエセアルラウネの頭部を一瞬で焼き尽くした。
頭部を失ったエセアルラウネはそのまま体をグラリと傾かせると、手足をビクンビクンと痙攣させながら地面に倒れ伏した。
「大丈夫!? アレーティアさん!」
無事に寄生から解放されたことは百も承知だが、あのエセアルラウネに寄生されていたという事実そのものが心配であり、焦燥の表情でアレーティアの安否を確認するハジメ。
「……ごめんなさい。また、迷惑をかけて……」
対して、アレーティアは本当に申し訳無さそうな表情で謝罪の言葉を口にする。
「いや、今回のは仕方がないよ」
「そうね。魔力切れとは訳が違うわ。今回のは完全に初見殺しだったわ」
「うぅ……でも……」
「……耐性技能を付ける装備品があればなあ」
今後、エセアルラウネのように味方の体を操るような魔物が出てきてもおかしくはない。その対処法についてキースが考えを巡らせる横で、今回も足手まといになってしまったことに落ち込むアレーティアを励まそうと四苦八苦する二人。
どうすれば、彼女を励ますことができるだろうか。それは、エセアルラウネの攻略よりも遥かに難しそうだった。
☆
ユニット名:南雲ハジメ
サイズ :M
移動力 :6
地形適応 :空A 陸A 海B
タイプ :空、陸
登場作品 :ありふれた職業で世界最強
モデル :イチナナ式(劇場版 マジンガーZ/INFINITY)
武器
・錬成
・格闘
・シュタルブレード
・ドンナー&シュラーク
・シュラーゲン
・シュラーゲン[MAP]
所有
・タウルブレード
・シュタルブレード
・ドンナー&シュラーク
・シュラーゲン
ユニット名:キース
サイズ :M
移動力 :6
地形適応 :空A 陸A 海B
タイプ :空、陸、海
登場作品 :サモナーさんが行く
モデル :真ゲッタードラゴン(ダイナミック企画オリジナル機体)
武器
・一騎当千
・呪文融合・封印式
・呪文融合・強化式
・呪文融合・拘束式
・呪文融合・凍結式
・カタストロフィ
・マキシマム・チャージ
未解放
・サモン・モンスター
・エクストラ・サモニング
・マイクロ・ブラックホール
・イベント・ホライズン
所有
・爪熊の小剣
・魔鋼蠍の小刀
・魔鋼蠍の刀
・魔鋼蠍の斬馬刀
・魔鋼蠍のコラ
・魔鋼蠍のククリ刀
・魔鋼蠍のデスサイズ
・シュタルブレード
ユニット名:フィーナ
サイズ :M
移動力 :5
地形適応 :空A 陸A 海B
タイプ :空、陸
登場作品 :サモナーさんが行く
モデル :パープルツー(銀河機攻隊 マジェスティックプリンス)
武器
・手斧
・ヘルズ・フレイム
・ディメンション・ソード
・英霊召喚:緋炎聖女
ユニット名:アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール
サイズ :S
移動力 :7
地形適応 :空S 陸A 海B
タイプ :空、陸
登場作品 :ありふれた職業で世界最強
モデル :サイバスター(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
武器
・緋槍
・砲皇
・破断
・凍氷
・凍柩
・蒼天
・天灼
・凍獄