スーパー英雄大戦F   作:ゲーマーN

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第2話「ファースト・エンカウント」

 

 

 

 

              スーパー英雄大戦 F

 

           第2話 ファースト・エンカウント

 

 

 

    ☆

 

「それで、これからどうする?」

 

「これから、とは?」

 

「お金がどうとか、そういう目先の話じゃなくて、この先どうするかっていうこと」

 

「ああ、そうやな……」

 

 昨日は現実逃避的にひたすら鞄やら何やらを作る方に専念してしまったが、そもそも当てもなくウロウロするだけ、というのはあまりにも情けない。

 いい加減、現実を直視して、すべきことを考えねばならない。

 

「まあ、最終目標は日本に帰ることでええとして、そのためにどうやって情報とかその他諸々を集めるか、やな」

 

 手元の石を擦り合わせながらの宏の言葉に、春菜は小さく頷いた。

 錬は、元の世界に帰る方法として大体の理では「世界を救う」と口にしていたが、本当に世界を救うことが元の世界に帰るための方法とは限らない上に、仮にそれが正答だとしても”なに”から世界を救うのかを調べないといけない。

 それ故に、宏と春菜は元の世界に帰る道筋の第一歩として情報収集を挙げた。

 

「とりあえず、情報を集めるにしても、まずは街に入らないと駄目だよね」

 

「せやねんけど、中に入るのに税金取られへんとも限らんわけで、せめて少しは金目のもんを用意しとかんと……」

 

「それは、直接話をして確認してからでもいいんじゃないかな?」

 

「それでもええんやけど、その前にこの辺の内蔵はポーションに加工してしまいたいねんわ。この手の素材って、ゲーム中でも時間経過で腐っとったし」

 

 そう言って宏は、昨日解体した熊の内蔵の幾つかを指差す。

 因みに、解体の時のグロテスクな光景を見て気持ち悪くならなかったのは、ゲーム中で誰もがマスターするであろう解体スキルの恩恵らしい。

 異世界初心者ではない錬は、普通に魔物を解体した経験があるのが理由である。

 

「何が作れるの?」

 

「レベル3の特殊ポーションや。レベル5の各種ポーションにも使えんことはないんやけど、入れる瓶を作る材料があらへんし、それにどうもここらでは、ええとこレベル3のポーションぐらいまでしか材料が無さそうやから、特殊ポーションに回すことにしてん」

 

「特殊ポーションって、どんなのが作れるの?」

 

「一定ラインより上の強さを持つ熊とか狼の心臓でストレングスポーション、肝臓でバイタリティポーション、あと、熊の場合、胃袋から毒消しがいけるかな?」

 

「一定ラインって、バーサークベアでもいけるんだ?」

 

「熊系は薬の材料に向いててな。まあ、一口に材料言うても結構幅があって、例えばレベル2ポーションやったら基本レシピの素材は五種類ぐらい、応用レシピやと更に倍、いう感じで組み合わせがあるんや。更にアレンジで素材の調整入れたら、えらいバリエーションになるし」

 

 アバウトにも程がある生産関係のあれこれに春菜はそれでいいのかと問い詰めそうになるが、持ち前の生存本能からその動きを察した宏は先んじて補足説明を入れる。

 

「まあ、言うたら同じような効果を持つ薬を、全部まとめてレベル2ポーションと呼んでるだけやと思うで。現実でも、そういうケースは結構あるやろ?」

 

「ん~、それはそうかもしれないね。で、さっきから何を作ってるの?」

 

「即席の乳鉢。これがないと瓶が作られへんから」

 

「さっきから思ってたんだけど、同じような石同士を擦り合わせて、どうして大きい方の石だけ削れるの?」

 

「簡易エンチャントで小石の方を強くしてるから。因みにエンチャント中級を習得済みでかつ、道具製造もしくはクラフトスキルの中級以降からできるようになるやり方や」

 

「なるほど」

 

 知らなかった生産関係の情報を教えられた春菜は感心したように頷くばかりだ。

 熊を解体した時にいろいろ知らない素材を集めており、宏が上級の生産に届いているとは聞いていたが、ここまで様々なことができるとは思ってなかったのだ。

 

「いろいろできるんだね」

 

「というかむしろ、いろいろできへんと熟練度が上がらへんから」

 

「大変そう……」

 

「生産は慣れと根気と諦めと惰性やで」

 

 そんなことを言いながらも、やや歪ながら、実用に耐える程度の形の乳鉢を完成させる。

 

「それで、藤堂さんは採取とかどの程度やってる?」

 

「初級の熟練度十五ぐらいまで。そこで折れて街をぶらぶらする方に行っちゃったから」

 

「要するに普通ぐらいか」

 

「うん、普通ぐらい。ごめんね」

 

「いやいや。みんながみんな中級とか上級とかまでいっとったら、僕の存在意義はあらへんやん」

 

「そうだね。それに料理と歌は、私の方が上手いみたいだし」

 

「そらそうや」

 

 と返しつつ、宏は脇に逸れかけた会話を元に戻す。

 

「ほな、悪いんやけど、材料集めちょっと手伝ってもろてええ? とりあえず採れるやつでええし、そんなにようさんはいらんから」

 

「了解。でも、大して練習してないから、あんまり期待しないでね」

 

「どうせようさん集めても持ち歩かれへんし、しんどくない範囲でええで」

 

「うん」

 

 宏の言葉に軽く手を振り、適当な茂みの方に歩いていく。

 

「……さて。なら俺もこの世界の武器を解放するために素材集めに行くとするか」

 

 一人、静かにしていた錬もまた春菜とは別の茂みに歩いていく。

 その辺りの薬草の類から解放される剣など能力値的にはたかが知れているが、塵も積もれば山となる、少しでもステータスを高めるための努力は忘れない。

 そんな二人を見送った宏は、

 

「ほな、いっちょ気合い入れて頑張ろか」

 

 軽く体をほぐすように動いてから、自分が言い出した作業に入るのだった。

 

 

 

 まずは穴を掘り、適当な石を積み上げることで竈を作り上げる。

 その後、河原で石を選別して集め、乳鉢で砕いてガラスの材料を選り分ける作業を延々と続ける。ある程度の分量を用意し終えたところで、竈に何やら処理をした薪を大量に突っ込み、単なる薪材料としてはあり得ない火力の火を起こす。

 そのまま即席の竈でガラスの精製を行い、形を整えて三十本ほど瓶を作り上げ、野営地周辺の植物系素材を採れるだけ集めたあたりで、”ばてばてです”という顔の春菜が、両手で抱え込める限界の量の草や葉っぱを持ってくる。

 

「こんなもんで……ってガラス瓶がある!?」

 

「丁度、今出来たところやで」

 

「作ってるとこ、見たかったのに~」

 

「それはまた今度っちゅうことで。ついでに鍋も作っといたから、さっさと薬作ってまうわ」

 

 そう言って、材料を磨り潰したり混ぜたりと怪しげな作業を続け、鍋で煮込んだ物を瓶に詰めていく。

 

「結構作れるんだ」

 

「そら、葉っぱとかはともかく、心臓とかがあんだけのかさでこんな小瓶一本とか言うたら、普通に暴動起こるで」

 

 そんなことを言いながら、三種類のポーションを各種十本ずつ作り上げた宏は、流石に疲れたといった様子で地面に座り込んだ。

 

「お疲れ様」

 

「流石に道具まで一から作るんはきくわ……」

 

「私だったら、絶対途中で挫折してるよ」

 

「というか、やりながら思ってんけど、さっきの口ぶりからしたら、自分歌唱スキル高いんやろ?」

 

「エクストラスキルがあるから、低いとは口が裂けても言えないかな?」

 

 エクストラスキル、と聞いて宏は感心したような表情を浮かべる。

 それを見て、春菜は、今まで持っていた疑問に対してある確信を持つ。だが、それを問い詰めるのは後回しにして、宏の言いたいことを最後まで聞くことにする。

 

 因みに、エクストラスキルとは、特定の条件を満たした上で、専用のクエストをクリアすることで得られる、人智を超えた性能を持つスキルのことだ。

 古の英雄の必殺技からどんな攻撃も無効化する防御法、果ては神に捧げる舞踏まで幅広く存在するが、共通するのはクエストの発生条件がいまいちはっきりしていない、ということと、持っているだけでいろいろとシャレにならない補正がある、ということだろう。

 

「エクストラスキルまであるんやったら、尚のこと、こんなところでしこしこ鞄とかポーションとか作ってんと、何とか門番騙くらかして中に入って、広場で一曲歌ってもらった方が早かったかもしれへんなあ、と思って」

 

「でも、鞄とか持たずに歌でお金稼いでも、そんなに持ち運べないよね?」

 

「まあ、そらそうやわな」

 

「それにポーション作りも、心臓とかが腐るからもったいない、って観点だから、無駄にはならないと思うけどどうかな?」

 

「そういえば、ポーションってそういう理由で作っとったな。なんか、牛おるからカルピス作ろうとして、牛舎建てて牧場ちゅうところから始めるような作業手順やったもんで、すっかり忘れとったわ」

 

 現状を説明するに的確な表現ではあるのだが、そのあまりにあまりな比喩に噴き出す春菜に苦笑を浮かべつつ、宏は完成品のポーションを一本差し出した。

 

「とりあえず、バイタリティポーション渡しとくわ。藤堂さん、感じからいうて力技は得意やなさそうやし」

 

「この手のポーションは使ったことがないんやけど、どんな感じ?」

 

「ゲーム的には、十二時間ほど耐久値にボーナス補正が付くドリンクやな。味は保証できへんけど、少なくとも作るのに失敗はしてへんから効果はあるはずや」

 

「十二時間って、また長いね」

 

「フルに効果があるんは、飲んでからせいぜい三時間やけどな。徐々に効果が薄くなっていって、六時間から九時間で申し訳程度になって、十二時間で完全に切れるねん」

 

「……無駄にリアルなゲームなんだな」

 

 二人がポーション談義をしているところに帰ってきた錬が何とも言えない表情で口を挟んだ。錬の世界にも『ブレイブスターオンライン』というVRMMOが存在していたが、そこまでシステムがリアルを追求したものではなかった。

 ……尤も、その『ブレイブスターオンライン』のシステムが剣の世界の理そのものだったので、”リアルを追求していない”という表現が正しいかは微妙なところだが。

 

「無駄に拘ってんねん。天木さんは力技も得意そうやからストレングスポーションも渡しとくで」

 

「錬でいい。それと、ポーションは有り難く受け取っておく。今は少しでも武器を解放しておきたいところだからな」

 

 そう言って、宏から受け取った二種類のポーションを剣に吸収させる。

 

 ストレングスソードの条件が解放されました。

 バイタリティソードの条件が解放されました。

 

 ストレングスソード

 能力未解放……装備ボーナス、攻撃力5

 

 バイタリティソード

 能力未解放……装備ボーナス、生命力5

 

「……何度見ても不思議な剣だね」

 

「せやなあ。素材を入れるだけで新しい武器を解放できるとか、生産職殺しにも程があるで」

 

「そうでもない。勇者の武器は同じ系統の武器を持つことでコピーできる。ウェポンコピーシステムがあるんだが、同じ武器でも品質の良い武器をコピーするとボーナスが掛かる。本気で強くなるためには職人の存在は必要不可欠だ」

 

「……そのウェポンコピーシステム自体が職人殺しやと思うんやけどなあ」

 

 この『フェアリーテイル・クロニクル』の世界とは比べ物にならないほどにゲーム寄りの剣の世界の(システム)に何とも言えない表情を浮かべる宏。

 

「あははは……ところで、二人共」

 

「何?」

 

「なんだ?」

 

「そろそろ、お互いに手持ちのカードを全部見せ合わない?」

 

「手持ちのカード?」

 

「うん。どんなスキルをどのぐらいの熟練度持ってたか、とか、今何レベルぐらいでグランドクエストをどのぐらい進めてたか、とかね」

 

 春菜の提案に、宏は少し視線を泳がせて考え込む。

 

「悪いんやけど、ステータス画面見んと正確な数字が分からへん」

 

「大体でいいよ。私だって、自分のステータスも細かいスキルも覚えてないし」

 

「ああ。そういえば、二人はステータス魔法を使えないんだったな」

 

 宏と春菜が、ここが現実の世界だと確信した理由の一つが、ゲームの能力を使えるくせに、ステータスの参照が出来ないことである。

 ゲームで取ったスキルに関しては何となく体が覚えているため実用上は問題ないのだが、ゲームの時に最大まで鍛えたもの以外は、今現在どのぐらいと数字で言えないのが非常に不便だ。その点、錬のステータス魔法は実に羨ましい代物である。

 

 ステータス魔法とは、『ブレイブスターオンライン』とその元になった異世界に存在する、自らのステータスを可視化する特殊な魔法である。

 視界の端のアイコンに意識を集中することでステータス画面を見ることができる。自分のLvや装備品、攻撃力などの能力、覚えている魔法、更に勇者の場合はスキル、勇者の強化項目や解放した武器などを確認することができる。

 

 この『フェアリーテイル・クロニクル』の世界とは比較にならないほどに『ブレイブスターオンライン』の世界はゲーム的な(システム)で運営されていた。

 

「ん~……」

 

「東君が、何を気にしてるのかは分からないけど、少なくともこれからしばらくは、私達は運命共同体なんだよ?」

 

「せやなあ……。まあ、いろいろ作った後やから、今更言うたら今更か。それに、藤堂さんは大丈夫かな……」

 

「大丈夫、って?」

 

「昔な、生産関係でいろいろあったんよ。ちょうど休止期間やったから、僕自身は直接関わってへんけど、そのいろいろの絡みで一人、ゲーム自体を続けられへんなったし、嫌気さして生産やめたとかゲーム引退したとかもようさん出たしで、僕も含む職人連中は、自分のスキル開示に一般人より慎重やねん。さっきまでは緊急事態にテンパっとって、不用心に作りすぎた感じやけどな」

 

「……ごめん」

 

 いろいろあった、という内容を何となく察して謝罪の言葉を口にする春菜。

 彼女が知っていたのは、高校受験の最中に何かあったらしい、ということだけ。生産スキルが高い人間の噂を殆ど聞かない理由を、この時初めて実感として理解したのだ。

 

「とりあえず、藤堂さんは生産スキルの種類、どんだけあるか知ってる?」

 

「え? えっと、確か……。素材関係が採掘、採取、伐採でしょ? そこから派生の一次加工が精錬、紡織、木工、クラフトだったかな? で、最終製品にするのが鍛冶、裁縫、錬金、製薬、道具製造だったっけ?」

 

「大体そんなとこやな。付け加えると、最終製品系スキルにはその他に大工、家具製造、造船、土木、アクセサリ制作があって、分類上は生産に入るんが料理、釣り、エンチャント、農業やな」

 

「料理はともかく、釣りとエンチャントも生産に入るんだ……」

 

「入るねん。まあエンチャントは魔法系にも分類されとるから、魔法熟練の影響も受けるけどな」

 

「エンチャントが生産に入るのは納得だな。尚文がアクセサリー商に教えられた[[rb:魔力付与 > エンチャント]]は、明らかに生産スキルに分類されるものだったからな」

 

 共に、勇者として召喚された一人である岩谷尚文の技能を思い出す錬。

 魔力付与とは、加工した宝石に魔力を与えることで宝石に備わる力の方向性を制御するものであり、これにより装飾品に特別な力を与えることができた。

 その技能を知る錬としては、エンチャントが生産スキルというのはむしろ納得が行くものだった。

 

「で、僕がカンストしてへん製造スキルは、料理、釣り、農業、土木の四つで、エクストラスキルを取れてないんがそれプラスエンチャントと家具製造」

 

「……はあ!?」

 

「驚くことはあらへん。一次加工までは、普通に上級生産まで届いたら必然的にカンストするタイプのスキルやし、それに製造とか生産系のスキルは初級の熟練度七十を突破したら、一回のログアウトで一種類だけやけど、材料なしでもログアウト中にある程度勝手に上がるし」

 

「それでも、いくら何でも信じられないよ……」

 

 春菜の反応に苦笑した宏は、他のカラクリを説明することにした。

 

「藤堂さんがどう思ってるかは知らへんけど、生産スキルって実は、格上狩りをしてる時の攻撃スキルを除けば、熟練度を上げるための累積作業時間が一番短い系統やねんで。ただただ単純に、作業以外の要素が煩雑でシビアなだけで、材料関係の問題が解決すれば、結構上級って上がるん早いねん。それに、一部除いて、殆ど全部並行で育てへんと、材料が揃わへんし」

 

「それでも、ねえ……」

 

「他にもカラクリがあってな。初級生産スキル全部を五十まで上げると、メイキングマスタリーっていう、作業時間及び作業負荷軽減と成功率上昇、材料の歩留まり向上、採取時の材料増量の効果があるスキルを覚えられるねん。これを覚えると、熟練度向上のための試行回数が跳ね上がるから、ものすごくスキル上げがやりやすくなるんや」

 

「そんなスキルがあったんだ……」

 

「あんまり知られてへんっていうか、中級の職人連中でも存在知った時にはスタミナ上がりすぎて、他の初級よう上げ切れんで取得できんかったやつがおるし。まあ、これ取ってから大体二年あれば、材料集めの狩りに付き合ってくれる身内がおるって条件で、藤堂さんが最初に挙げたスキルぐらいは全部上級カンストできるで」

 

 要するに、このゲームの生産は、メイキングマスタリー習得が前提になるが、上位に行くほど作業そのものは楽になるのだ。

 スタミナ消費が最大値に依存するという意味で一番苦労する最序盤に役に立たないあたり、本末転倒というか非常に悪意を感じる仕様である。

 

「本末転倒やって思うやろ? でも、これを簡単に習得できたら、今度は生産が楽になりすぎるんちゃうか、って気もするから、こんなもんでええんちゃう?」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「まあ、そう思っといてくれた方がありがたいかな。で、最後のカラクリやけど、大工、造船、土木、農業、釣りの五つは、放置の効率が他より大きく設定されてるねん」

 

「そうなの?」

 

「うん。特に大工、造船、土木は、中級あたりから普通にゲーム内時間で連続五日とかかかる仕様やから、この辺のスキルは例外的に、放置の経過時間がリアルやなくてゲーム内時間で判定されるようになってんねん。それに、他のスキルに比べて試行回数が少なくても熟練度上がるし」

 

 『フェアリーテイル・クロニクル』では、現実世界の一時間でゲーム内時間が四時間経過する。ログアウト中でもスキルの自動訓練システムがあるこのゲームでは、放置で熟練度上昇を狙うプレイヤーも少なくはない。

 だが、殆どのスキルはログアウト時に現実時間でカウントされる上に、生産系は熟練度やメイキングマスタリーなどに応じた補正を受けるため、特に効率が悪い。

 しかし、宏が例に挙げた三つのスキルは、例外的にゲーム内時間と同様に扱われるため、放置による成長効率が他とは比べ物にならない。

 

 いろいろと楽になる仕様がこっそりと仕込まれている生産関連だが、結局VRシステム自体に組み込まれた接続時間制限の四時間――ゲーム内で十六時間を、スタミナやMPの回復時間以外全て採取や加工に投入できる精神構造をしていなければ、とても上級には到達できない。

 逆に言えば、それができるだけの精神構造と生産関連の情報を持っているのであれば、五年で宏ぐらいの領域に到達することは可能な、良くも悪くも単純な積み重ねが物を言う仕様になっているのである。

 

「土木と大工は高校受験の頃、何件かギルドとかNPCの城作る仕事を引き受けて育ててん。これやったら一ヶ月に一回覗くだけでええし、付属の施設までパッケージで一括で作ってくれるから、ほっといてもガンガン上がるしな。それに、城とか家作る時だけ、整地とかの土木作業と築城作業をワンセットで指定できるねん」

 

 宏が受験に入る前は、まだ例の職人絡みの事件は発生していなかったので、この手の依頼を受けて熟練度を上げる余地が存在していた。

 但し、今ではそこまで楽に上げることはできないだろう。他のプレイヤーから依頼を受けることはもとよりNPCからの依頼も目立つことこの上ない。

 本当に、この生産職に優しくない仕様と環境こそがこのゲームの最大の不満点にして問題点である。

 

「お城まで作れるんだ……」

 

「作れるねん。ものすごい時間が掛かる上に、メイキングマスタリーでも大して期間が短くならへんけど、その代わり、関連施設抜きでも十とか二十とか平気で上がりおる」

 

「船も似たようなやり方でカンスト?」

 

「うん。これまた高校受験の後半ぐらいにな。こっちはNPCから受けた船団製造クエストで上げた他、城作らせてもろた知り合いのギルドが冗談で軍艦作る、言い出したからそれに便乗して作ったりとか」

 

 予想以上に奥の深い話に、春菜は、自分の楽しみ方が浅かったことを思い知る。そんな()()()()()クエストが転がっていたとは、不覚にも程がある。

 

「で、エクストラスキルは、鍛冶をカンストした時に、いろいろやってて仲良くなったNPCから変なクエスト引き受けて、そのまま指示に従ってうろうろしとったら神殿の前で見たことない材料で武器作れ、言われて、製造に成功したら『神の武器』っていうスキルが追加されて、もしかしてと思っていろんなところに顔出したら、同じ流れであれこれ覚えてん」

 

「あ~、私が取った時と似たような流れ。私のは『神の歌』だった」

 

「他にも、腰蓑と草の鎧簡易版を作ったった自称キ○キ○ダンサーが、『神の舞踏』ってスキルをゲットしてるらしいで」

 

「この分だと、他の生活スキルも似たような感じかな?」

 

「全部が全部、そうでもないやろうけど、少なくとも最終製品スキルは大体が『神の何とか』やと思うわ」

 

 因みに、生活スキルに関しては、他にも演劇、演芸、楽器演奏、選択、調教、交渉、商売など幅広く存在するが、その効能はピンキリである。

 なお、生活スキルのほとんどはランク分けがなく、その分最大熟練度が高い仕様になっている。とはいえ、戦闘スキルと違って最大まで育てる者は少なく、またエクストラスキルが存在しないであろうものも多い。

 

「まあ、とりあえず僕の手札はこんなところかな? 戦闘スキルはせいぜい基本攻撃と挑発が上級、スマッシュが辛うじて折り返してるぐらいで、他は全部初級やで」

 

「魔法は?」

 

「そこまで手が出えへんかったから、生産の時に役に立つ生活系魔法とか生産用魔法とか以外は触ってへん」

 

「そっか、了解。でも、それだけエクストラスキルを持ってたら、パラメーターはすごいことになってるんじゃないかな?」

 

「耐久と精神とスタミナはすごいで。他はまあ、レベル相応やと思うけど。一応、グランドクエスト第一章クリア済みで、レベルは百二十四や」

 

 キャラクターレベルには上限が設定されていないが、グランドクエスト第一章をクリアするまでは百が上限である。もっとも、難関で有名なグランドクエストも第一章までは大したものではなく、普通にプレイすれば問題なくクリアできるので、殆どのプレイヤーが百から二百レベルの間にいる。

 但し、生産スキルでは一切キャラクターレベルが上がらないため、基本的に職人プレイヤーはそれほどレベルは高くない。春菜の友人も製薬の初級をマスターしたところで挫折したのだが、その時点で春菜とは四十ぐらいレベル差が付いていた。

 それを知る春菜は、目の前の職人の予想以上のレベルに驚愕の表情を浮かべた。

 

「結構高いやろ? 材料集めでそれなりにダンジョンに潜ってるから、自然と上がってくるねん。戦闘やと基本的に前衛、っちゅうか壁役がメインやから、挑発と基本攻撃が上がってるねん」

 

「珍しいと思ったら、そういうこと。でも、それだったら私としては結構やりやすいかも」

 

「ほほう? ということは、藤堂さんはやっぱり後衛タイプ?」

 

「後衛っていうか遊撃かな。補助魔法とか状態異常、いわゆるバフとデバフがメインのバランスタイプ。各種バフは、エクストラ以外では最高性能のやつまで覚えてるよ。レベルは百五十三」

 

「ふむふむ。熟練度はどんなもん?」

 

「女神の加護だけ最大。他は七割ぐらいかな? 状態異常は全部折り返したところ」

 

「そらまたすごいなあ」

 

 補助魔法は熟練度が伸びる条件が特殊で案外育てにくく、しかもパーティでの寄与度が低くカウントされるためキャラクター経験値に反映されにくく、不遇代表の生産ほどではないがキャラクターレベルを上げにくい。

 その上、複数種を必要とする場面が多いのに一つずつのMP消費が大きいので、レベルを上げて物理で殴る方が楽であると途中で切り捨てるプレイヤーも多い。

 

 格上を殴ると熟練度上昇が早くなる攻撃系スキルや、大ダメージを回復すると成長が早い回復スキルと違い、熟練度の上がりが一律なのも、パーティでの重要度の割に育っているプレイヤーが少ない原因である。

 そのため、普通に戦闘ができてかつ熟練度の高い補助魔法を扱える人物は回復役以上に需要が高く、ドロップ品なども優先的に回してもらえることが多い。

 

「後は回復が女神の癒やしを折り返したぐらいまで、攻撃は中級攻撃魔法各種と中級魔法剣を幾つかMAXにしてる。得意な武器系統は細剣系かな?」

 

「手数と手札の枚数で勝負するタイプか。ほんまにバランス型やね」

 

「うん。かっこいいからこのスタイルにしろって言われて、おだてられてね」

 

 気恥ずかしそうに苦笑を浮かべる春菜の姿に、彼女でもお調子者みたいなことをするのか、と宏は目の前の綺麗所の評価を改める。

 確かに見栄えとしては、レイピアでの魔法剣を主体とした、手数と手札の枚数で華麗に相手を圧倒するスタイルが良く似合う女性だが、学校で見た性格としては、むしろ足止めと状態異常を多用して、堅実に地味に仕留めるタイプかと思っていた。

 

 なお、『フェアリーテイル・クロニクル』の戦闘系スキルと魔法系スキルは、生産系スキルとは比較にならないほど多くの種類が用意されており、そのうち、スキルが初級、中級、上級と分かれているのは基本攻撃と基本射撃、各種武器スキルと魔法修練だけである。

 それ以外の技に分類されるものは取得条件を満たすと上位の強力な技を覚えられるようになっており、それがランク分けの代わりになっている。その取得条件もランク分けされているものとは異なり、必ずしも下級スキルをマスターする必要があるわけではないので、上級スキルのみをマスターしているという自体も起こりうる。

 

 技や魔法の覚え方は、条件を満たした上でNPCから教えてもらうのが基本だが、自分で編み出す、文献などから復刻する、プレイヤーから教えてもらう、などの方法でも可能である。

 但し、自分で編み出すのは非常に難易度が高く、知られている限りではレベルが上位三人のプレイヤーが一つ二つ編み出した程度である。そのうち一つがエクストラスキルだったという噂だが、真偽の程は定かではない。

 

 更に補足しておくと、ランク分けのない生産・生活スキルは熟練度五百で、それ以外のスキルは熟練度百でマスターとなる。

 

「後は、歌唱のエクストラスキルと料理をマスター、かな?」

 

「歌唱のエクストラスキルがあるんやったら、呪歌とかは使わへんの?」

 

「あれ、範囲が広すぎる上に対象の識別ができないから、使い勝手が悪いんだ」

 

「そっか。そういえばキ○キ○ダンサーも、特殊舞踏は見てる人間全員巻き込むから使い勝手悪い、って言うとったわ」

 

 魔法制御的なスキルがあるのなら使い勝手も大幅に改善するのだろうが、無駄なところでリアリティを追求する『フェアリーテイル・クロニクル』にその手のスキルはなく、おかげさまで歌唱も舞踏もエクストラスキルまで存在するというのに、実質単にNPCからお捻りを巻き上げるためだけのスキルに成り下がっている。

 

「とりあえず、私の手札はこんなものかな?」

 

「ふむ。となると宏が相手を抑え込んでいる間に俺が前衛で一気にダメージを与えて、それを春菜が支援するというのが基本戦術になりそうだな」

 

「錬君の手札はどうなの?」

 

「魔法適性は水と援護。あと、味方や敵の魔法を付与できるマジックエンチャントという勇者専用魔法を使うことができる。Lvは……」

 

「レベルは?」

 

「……元の世界では300を越えていたが、この世界に来て1に下がったな」

 

「「レベル1!?」」

 

「ああ。だが、強化方法の共有をしてるから実際のステータスはそこまで絶望的なものではない。だから、この辺りの魔物が相手なら十分に戦えるはずだ」

 

「強化方法の共有って?」

 

「勇者の武器には特別な強化方法が存在している。聖武器1つにつき3つ、眷属器1つにつき1つ、合計20の強化方法を実践している。他にも武器を解放したことによるステータス付与もあるから、普通のLv1よりは遥かに強いはずだ」

 

 勇者の武器には武器ことに様々な強化方法があり、強化方法を共有することで何倍もの力を得られる。聖武器4つと眷属器8つ、合計20の強化方法を共有している錬は、Lv一桁にしては破格のステータスを持っている。

 流石にレベルが百を越えている上にエクストラスキルを保有している二人ほどではないが、レベル上げをすれば直ぐにその域に達することができるだろう。

 

「兎に角、俺の心配はいらないから安心してほしい」

 

「そうは言っても……」

 

「ねえ……」

 

 流石にレベルが一桁というのは不安を覚えずにはいられない宏と春菜。錬が初心者殺しのフィールドボスであるバーサークベアを不意の一撃で葬っていることもすっかり忘れ、二人は心配そうに顔を見合わせるのだった。

 

    ☆

 

 スタミナソードの条件が解放されました。

 ヒーリングソードの条件が解放されました。

 

 スタミナソード

 能力未解放……装備ボーナス、スタミナ上昇(小)

 

 ヒーリングソード

 能力未解放……装備ボーナス、回復効果向上(小)

 

「意外と街まで距離あるなあ……」

 

「だよね」

 

「徒歩ならこんなものだろう?」

 

 翌日、二日間お世話になった野営地を片付けた三人は街を目指して移動を開始した。

 

 そう、二日間である。

 

 なんと彼等は、屋根も碌にない野ざらしの土地で二日も生活していたのだ。鞄を作ってなお三人分の敷布団になる熊の毛皮があったにしても呑気な話である。

 あの後、移動するには時間が微妙だということになり、ガラス瓶を作ってるところを見たいからもっとポーションを作ってほしい、という春菜の我が儘に応え、手頃なレベル2ポーション各種を気力が持つ限界まで作る羽目になったのだ。

 もっとも、道具類は揃っていたので最初の特殊ポーションよりは楽に数を作れたのだが、それでも相応のスタミナを消費したのは言うまでもない。

 

 因みに、こんなラフな作り方でもレベル4から下のポーションぐらいは失敗しないのは、どうやらエクストラスキル『神酒製造』と『神薬製造』の恩恵らしいのだが、確証を得られないので黙っていた宏である。

 

「考えてみれば、バーサークベアがおるぐらいやから、街から結構離れてるんはしょうがないか」

 

「三人揃って、変なところに落とされたよね~」

 

「ほんまや」

 

 とりあえず、曖昧な記憶を頼りに街を探すため、ある程度人が通っていると思われる小さな道を歩く。決して街道のように整備はされていないが、獣道というほど頼りなくもない。三人が進んでいるのはそんな絶妙な具合の道である。

 文字にすると普通に会話をしているように見えるかもしれないが、実際は錬を間に挟むことで宏は春菜と過剰に距離を取っており、二人の間に挟まれた錬は実に居心地の悪そうな表情をしている。

 

 辺りは森というほど鬱蒼としている訳ではないが、草原というほど開けている訳でもなく、地形や植生、生き物の分布からファーレーンの首都ウルスの近郊だろう、と『フェアクロ』のプレイヤーであった二人の予想が一致したぐらいであり、具体的にどちらへ行けばいいのかはわからない。

 なので、とりあえずバーサークベアがいたのと反対方向に行こう、というのが三人の方針である。何しろ、そちらへ行けば本格的に森の中に入る羽目になる。

 

 なお、ウルスはゲームのスタート地点で、βテストの頃から実装されていたゲーム最古の地域である。βテストでは、十分以上に広いファーレーン全域が実装されており、結局テスト中に全てを見ることは叶わなかったという話だ。

 

「あれ、街道じゃないか?」

 

「それっぽいなあ。次はどっちに行くか、やけど……」

 

「看板とかもなさそうだよね……」

 

 当然と言えば当然ではあるが、この脇道が何処に繋がっているか、などと言うのを記す看板は何処にもなかった。昔この辺りでよく草むしりをしていた覚えのある宏でも、その手の看板の見覚えはない。

 もう五年近く前の記憶なのでうろ覚えだが、確かこの脇道は、付近に住む住民や冒険者が薬の材料を集めるためによく入る道であり、その先の森も似たような土地だったはずである。

 

「どっちやったかなあ……」

 

 広い街道の真ん中付近まで出ると、とりあえず手掛かりになりそうなものがないかを探す。

 

「藤堂さん、覚えてない?」

 

「全然。私、この辺りを歩いていたのってもう四年以上前だし」

 

「僕も似たようなもんやからなあ。ずっと辺境で引きこもりやっとったし。ウルス自体にはクエスト漁りにとかで去年ぐらいまで結構来てんねんけど、基本外に出る必要なかったしなあ……」

 

「私は拠点がダールだったから、この辺りの土地勘はもう、全然なくなってる」

 

「今になって、ゲーム知識のない尚文の苦労を思い知ることになるとはな……この世界のゲーム知識が無い俺は話に入ることすらできないな」

 

 お互いにため息をつき合う。誰か人がいれば、どっちに行けばいいかぐらいは分かるのだが、残念なことに人通りが全くない。普通なら隊商などが行き来しているはずだが、どうやら丁度タイミング的に空白の時間帯だったらしい。

 

「よし。棒でも倒して……」

 

「それで真ん中に倒れたらどうするん?」

 

「その時は、どちらにしようかな、で」

 

「それやったら、最初からどちらにしようかな、で決めたらええんちゃう?」

 

「そもそも、人が来るまでこの場で待機するのも手じゃないか?」

 

 それもありかな、と錬の提案に春菜は頷いた。今が人の行き来のない空白の時間帯であるならば、それが過ぎるまで待機するというのも手段の一つではある。

 そんな話をしていると、丁度春菜が指差した方向に人影が見えた。

 

「藤堂さん、誰かおるみたいや」

 

「本当だ。ちょっと話を聞いてみよっか」

 

「一応、警戒は怠らないように。盗賊や奴隷狩りの可能性もあるからな」

 

「了解や」

 

「うん」

 

 第一村人ならぬ第一異世界人発見、とばかりに、此方に向かって歩いてくる人影に歩み寄っていく。もちろん、悪い人だった時のための警戒は怠らない。

 

「なんか様子がおかしいなあ」

 

「うん。すごく切羽詰まってる感じ」

 

「病人、か? 随分と顔色が悪いみたいだが……」

 

「……声をかけてみる」

 

 意を決して、春菜がその二人に近付いていく。いざという時に割り込めるよう、剣を抜く準備だけは怠らず、宏と共にその後を追いかける錬。

 初対面の相手の警戒心を解く、という観点では、野郎より春菜の方が遥かに適任だという理由による役割分担だ。

 

「あの……」

 

「申し訳ないが、今急いでいる」

 

「その人、どうしたんですか?」

 

「ポイズンウルフの爪にやられた。応急処置はしたが、毒が全身に回ったら終わりだ。そういうわけで申し訳ないが……」

 

 急ぐ足を止めずに早口で言い捨て、三人が来た方に早足で進む。

 

「東君、ポイズンウルフの毒って、さっきの毒消しで……」

 

「消せるはずやで」

 

 何ともご都合主義的な状況に釈然としないものを感じつつも、それでも死人が出るよりはマシだろうと一本差し出すことにする。

 

「藤堂さんは、毒消し系の魔法は無理なん?」

 

「ポイズンウルフの系統に対応してるのは覚えてないんだ。あまち受ける機会ないし、あの系統の毒は殆どの人が耐性持ってるから、そんなに一生懸命は覚えなかったし」

 

「あ~、そうやなあ」

 

 毒や麻痺などの状態異常に分類されるものは、高い耐久地を持つか耐性を得ることで効きにくくなり、かつ治りやすくなる。

 また毒と一口に言っても原因は様々であり、薬だと対応する毒消しか上級生産のみで作れる万能薬を使用する必要があり、魔法で治療する場合も同じく対応する異常が治療できる魔法か行為の治癒魔法を使うこととなる。

 中盤以降の毒一つ取っても五種類は入り混じってくる状態異常に対して、いちいち治療するより耐性を得て防ぐほうが早いという結論に達する者が多く、耐性の取り方が一般的になる前からヒーラーをやっている人を除き、肉体系の状態異常を回復させる魔法が充実しているプレイヤーは少ない。

 この点、毒は毒と一律として毒の状態異常として扱われる剣の世界では、強力な回復魔法を使えれば、大半の毒を解毒することができたのだが、残念ながら、錬には回復魔法の適性がないため解毒の為の魔法を使用することができない。

 

 なお、ポイズンウルフという魔物は、狼が瘴気を浴びて毒を持つようになった生き物であり、単品の強さはそれほどでもないのだが、元が狼だけあって群れを作る習性がある上に、回るのがかなり遅いとはいえ致死性の毒を持っているため、ゲームではバーサークベアとは別の意味で初心者殺しの魔物として知られている。

 この毒は爪牙の両方から感染する性質を持っており、特に噛みつかれると確実に致死量を流し込まれるのが厄介……であるのだが、遅効性の毒は耐性を得るのに丁度いいため、毒消し片手にギリギリまで狩りをして危険域に入ったところでその毒消しで毒を消すという方法で、大体のプレイヤーが早々に実用ラインでの耐性を持ってしまうため、驚異になるのは本当に序盤だけなのだ。

 この辺りが、春菜がポイズンウルフの系統に対応する解毒魔法を覚えていない理由である。大概の人が耐性を持つので解毒魔法を覚える必要はないというわけだ。

 

 しかも、宏ぐらい人間を止めた耐久値を持っていると、耐性のない状態異常でも殆ど影響を受けない。逆に、このクラスのプレイヤーが防げない毒となると、耐性なしの駆け出しや一般人なら、触れるどころか遠くから吸い込むだけで即死しかねないほどの毒性を持つ。

 

「そういうわけやから、試しにこれ飲ましたってください」

 

「……本当に効くのか?」

 

「バーサークベアの胃袋で作った毒消しやから、遅効性の毒にはよう効きますよ」

 

 半信半疑のまま、それでも目の前の三人が自分を担ごうとしている様子が無かったため、賭けに出ることにしたらしい男性。

 背負っていたもう一人の男を降ろし、その口に慎重に瓶を近付ける。

 辛うじて意識が残っていたらしい毒にやられた男が、コクコクと液体を飲み干すと、少しずつ呼吸が落ち着いてくる。

 

「藤堂さん」

 

「ん」

 

 薬を飲ませている間にざっと傷の状態を見た春菜が、初級の回復魔法を発動させて傷口を塞ぐ。

 

「多分、これで大丈夫だと思います」

 

「やけに効きが早い薬だな」

 

「冒険者向けの調合やから、たかが毒を抜くのに、あんまりちんたらやってたらあかんのですよ」

 

 宏の言葉に納得する男。彼等の見ている前で、毒に侵されていた男がゆっくり立ち上がる。

 

「本当によく効く薬だ……」

 

「助かったよ、君たち」

 

「いえいえ、たまたまちょうど薬を持ってただけですし」

 

「そうそう。材料腐らすんもったいないから、言うて作っただけの薬なんで、気にせんといてください」

 

「……とのことだ」

 

 もったいないから、というレベルでこれだけの薬を作れるのが、どれほどの希少価値かを明らかに分かっていない二人を、唖然とした顔で見つめる男達。

 彼等の表情から薬の価値を何となく察した錬が宏と春菜に呆れの表情を向ける。自分の作った物の価値も理解していないのか、と言いたいのが一目で分かるその表情を目にした男達は、”ああ、苦労してるんだな”とその顔に同情の色を浮かべた。

 

「とにかく助かった。薬の代金を払いたいんだが、いくらだ?」

 

「最近の相場がよう分からへんので、当座の生活費程度の金額と、近くの街までの案内でお願いします」

 

「……分かった」

 

 値段を聞かれて困り、正直にそう答える宏。

 どうやらわけありらしいと判断した男その一が、とりあえず医者代と考えていた額の半分を差し出す。

 不本意な理由で元の世界に戻されてから『ブレイブスターオンライン』で後輩と共に大規模ギルドの経営をギルドマスターとして行ってきた錬は、ギルド運営の経験から足元を見られていることを察してはいたのだが、この世界の相場が分からないことから交渉に口出しをせずに見逃すことにした。

 この世界の知識を持つはずの二人が納得した表情をしてたのも理由の一つである。

 

「それで、こんなところでどうしたんだ?」

 

「ちょっと、迷子になりまして……」

 

「土地勘がないので、どっちに行けば街があるのかが分からなくて困ってまして」

 

「しかも、無一文なんで、街についたところで中に入れるかどうかもはっきりせえへんで……」

 

「ぶっちゃけ、土地勘どころかこの国の一般常識その他も欠けているのが現状だ。その辺りを教えてくれると助かるんだが……」

 

 薬代で足元を見るぐらいの強かさはあるが、流石に命の恩人を無下に扱うほど腐ってもいなければ荒んでもいない男達は、元々ウルスまでは行く予定だったこともあって、連れていくついでにどの程度の知識があるかを確認して、必要なことを教えてやることにした。

 

「そういう事情なら分かった。丁度これからウルスに行くところだったから、ついてくるといい」

 

「ありがとうございます、助かります」

 

「なに、助けられたのはこっちだしな。そうそう、自己紹介がまだだったな。俺はランディ、そいつはクルト。ウルスを拠点に活動してる冒険者だ」

 

 男達の言葉に合わせ、三人も自己紹介を返す。

 仲間を背負っていた男がランディ、毒を食らった方がクルトらしい。クルトの方がやや砕けた性格をしているようだが、正直それほど違いを感じない。

 

 なお、この二人曰く、冒険者ランクは下から三番目の七級だそうで、所謂中堅の入口ぐらいの力量らしい。どうやらその辺りの仕組みはゲームと同じらしく、宏もゲーム中では七級冒険者だった。

 春菜はもう少し上の五級だが、廃人の中には難関で知られているグランドクエスト四章中盤まで進んでいるのに、冒険者ランクが八級や九級で止まっているような偏った猛者も居るとの噂である。

 

「それで、こんなところで文無しで迷子って、いったいどうしたんだ?」

 

「なんかよく分からない現象が起こって意識が飛んで、気が付いたらあの森の入口辺りに居たんです」

 

「……最近よく聞く話だな」

 

「……僕ら以外にも、そういう人がおるんですか?」

 

「あくまでも噂だがな。とりあえず、ファーレーンでは王宮の指示で、そういう人間は保護することになっているから、一度そっちの方に顔を出すといい」

 

 その言葉が理解できず、思わず三人は怪訝な顔をする。

 あくまでも噂のはずなのに、王宮が指示を出して保護している。おかしな話だ。

 

「その話やと、国の上層部は与太話みたいな噂を信じとる、いうことになりますけど……」

 

「そうなるな」

 

「それって、偽物とか出てこないんですか?」

 

「どうやってか、本物を識別してるらしいぞ」

 

 春菜の疑問にクルトが答えるが、余計に疑問が増えるだけで何の答えにもなっていない。

 

「本物を識別してる、っていうことは、最低でも一人は本物が居た、ってことかな……」

 

「……以前、俺が召喚された異世界には勇者の生存を確かめる機材があった。似たような道具がこの世界にもあるんじゃないか?」

 

「分からへん。分からへんけど、なんか変な話や」

 

「元々、簡単にはいかないだろうとは思ってたけど、思った以上にややこしいことになりそうだね」

 

「参ったもんやな……」

 

 どうにも、いろいろとタイミングが良すぎる。

 薬については、ぶっちゃけ偶然もいいところだろうとは思うが、王宮の方はまず間違いなく、何かが関係している。

 とはいえ、多分関わらずに済ませるのは難しそうだ。

 

「とりあえず、何にしても先立つものは必要やから、金策を考えんとあかんやろうなあ……」

 

「ちょっと歌って稼いでみるよ。アカペラになるから、上手く行くかはわからないけど……」

 

「ほう、ハルナは歌が得意なのか?」

 

「それなり、という感じかな?」

 

「ちょっと、歌ってもらってもいいかい?」

 

 クルトの申し出に一つ頷くと、大きく息を吸い込んで、そのよく通る美しい声を辺り一帯に響かせる。

 そこらをウロウロしていた動物達まで足を止め聞き惚れるあたり、流石は『神の歌』といったところか。

 

「……本当に、君達は何者だ?」

 

「ただの剣士だ」

 

「ただの通りすがりの迷子です」

 

「右も左も分からへん田舎者で、誰かに助けてもらわんと、明日にも餓死しかねへん若造です」

 

 答えになっていない答えを返し、いろいろなことをはぐらかす三人であった。

 

    ☆

 

 ■ストレングスソードが解放されました。

 ■バイタリティソードが解放されました。

 ■スタミナソードが解放されました。

 ■ヒーリングソードが解放されました。

 

 

 

 ユニット名:東宏

 サイズ  :M

 移動力  :5

 地形適応 :空A 陸A 海B

 タイプ  :空、陸

 登場作品 :フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~

 モデル  :コン・バトラーV(超電磁ロボ コン・バトラーV)

 

 武器

 ・基本攻撃

 ・スマッシュ

 

 

 

 ユニット名:藤堂春菜

 サイズ  :M

 移動力  :7

 地形適応 :空A 陸A 海A

 タイプ  :空、陸

 登場作品 :フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~

 モデル  :炎神レイアース(魔法騎士レイアース)

 

 武器

 ・剣

 ・魔法剣

 ・エレメンタル・ダンス

 

 

 

 ユニット名:天木錬

 サイズ  :M

 移動力  :7

 地形適応 :空A 陸A 海B

 タイプ  :空、陸

 登場作品 :魔獣戦記ブレイブスター(仮)

 モデル  :ランスロット・アルビオンゼロ(コードギアス 反逆のルルーシュⅢ皇道)

 

 武器

 ・ハンドレッドソード

 ・流星剣

 ・流星剣[MAP]

 ・エアストバッシュ

 ・二刀流

 

 その他

 ・アサッシングソード

 ・ベルセルク

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