憶断のオーバーロード   作:wash I/O

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第3話 ド・クロサマー王国へ集え

 カッツェ平野をひたすらに北へと向かう一団がある。

 

 灰色の法服に目出し帽(バラクラバ)はスレイン法国特殊部隊、六色聖典が作戦行動中に好んで用いる姿。そんな六人に加えて、一人真っ黒な外套を頭からすっぽり(かぶ)ったすらりと長身の人物が混じっている。柔らかな輪郭線からすれば女性であろうか。

 

 スレイン法国はこの百年、内部の政争に明け暮れていたといってよい。

 

 百年と少し前のある日、闇の神官長配下の漆黒聖典が作戦中に伝国の至宝二つを一夜のうちに失うという大失態を犯した。が、同時に彼らは、建国の六大神に連なると思われる一柱の神、<プレイヤー>にも邂逅していた。二つの至宝は神に()()()()()()()のだ……ということになっている。

 神は、至宝の一方である<ケイ・セケ・コゥク>を当時身につけていた女神官カイレに六色聖典の待遇改善についての啓示をもたらしたとされ、これを受けて闇の神官長は、近々法国に降臨する神を受け入れるべく啓示に従うべきだと強く主張し、一時法国の全権力を掌握して啓示の実現に尽力した。

 

 だが、待てど暮らせど(かみ)は法国を訪れることはなく、次第に闇の神官長に対しては「至宝喪失の責任を逃れるためにする行為ではないか」「そもそもカイレが出会った(かみ)は実在したのか」との批判が明に暗に注がれるようになり、一気に政情は安定さを失う。並行して、六色聖典の待遇改善の結果、森妖精(エルフ)の王国相手に長く続いていた戦争は戦線維持が困難となり、尻窄み的にうやむやのまま終わってしまった。

 これに端を発し六派閥の不和が内戦もやむ無しの空気が漂うまで悪化した時分に、幸か不幸かバハルス帝国によるリ・エスティーゼ王国への大侵攻が起こる。城塞都市エ・ペスペルを灰燼に()した決戦の後にヴァイセルフ王家が崩壊したことで、法国が従来構想していた帝国を押し立てての人間種中心の新秩序の確立、という主張(テーゼ)が俄に現実味を帯び、これを受けて上辺だけは挙国一致体制が一旦回復した。

 

 ところが、当の帝国は一転して開明政策を推し進め、自領内の亜人の希望者に市民権を与えるとともに、同時期に建国を宣言した人間種と亜人種の混合国家ド・クロサマー王国に対しても消極的容認の立場を採った。緩衝地帯に成立した帝国自由都市群も、リ・ロベルのような一部の例外を除けば、旧王国の疲弊に伴う人材難もあって基本的には亜人の都市国家への参入を歓迎した。

 さらに法国にとって()の悪いことには、ちょうど同じ頃、正義の御蟲様の使徒を自称するネイア・バラハの尽力が実り、長く対立関係が続いていたローブル聖王国とアベリオン丘陵の亜人連合(あじんれんごう)の間に和解が成立、以降順調に協調体制が進展し続けている。

 これらの複合的な影響により、(かたく)なに人間中心主義を主張し続けるスレイン法国は、大陸北西部でひたすら滅亡へ向かって蕩尽を続けるリ・エスティーゼ王国残党貴族同様に、時代に取り残された旧体制派へと落ちぶれてしまったのである。

 

 現在の状況に至る最後の決め手になったのは、世にいうバハルス帝国の東西分裂、実態としてはエ・ランテルの第二帝都化と帝国四軍団常駐、副帝制度確立である。当初スレイン法国は、帝国がついに旧王国残党を一掃し併呑するものかと動向を見守っていたが、蓋を開けてみれば四軍のうち三軍は常時エ・ランテルの南方に展開され、その仮想敵国がスレイン法国であるのは誰の目にも明らかだった。

 

 バハルス帝国からすれば、帝国自由都市の思いのほかの盛況を歓迎こそすれこれを併呑する理由などまったくなく、北部残党は放置しておけばいずれ勝手に滅びるのは必定で、過去百年以上に渡ってしばしば国境を越えて特殊部隊員を送り込んで来ては動機不明瞭な陰謀を巡らせるスレイン法国こそが、最大の不安要素だったのだ。

 逆にスレイン法国側(ほうこくがわ)は、自分たちこそ人間種の護り手であるとの矜持(きょうじ)が高かっただけに、最大の人間種国家であるバハルス帝国から拒絶されたことの衝撃は大きく、幾度かの代替わりを経ても政治的にはこの状況を巡っての六派閥の責任のなすりあいだけがだらだらと続き、下々に至っては内に籠もって我々こそが神に選ばれた民だ、そうである、そうであるに違いない、と嘯くだけの不毛な日々が続いていた。

 

 そのような次第で、現闇の神官長が風に聞こえてきたド・クロサマー王国に髑髏様再臨の噂に、一か八かの活路を求めたのは無理のなからぬところではあった。

 

 さりとて、その密命を与えた人選が適切であったか、はまた別問題である。

 

 スレイン法国と第二帝都エ・ランテルを南北に結ぶ街道には、帝国軍三個軍団が常に訓練名目で展開されているため、表立って帝国と事を構える国力を既に失って久しい法国は、街道沿いに隠密部隊を送り込むことは憚られた。ために、この七人は敢えて通常は人が決して横断しようとはしないカッツェ平野の旅人となっているのだが、つい先程も不意に現れた骸骨(スケルトン)の群れと切り結ぶ羽目になった。

 

 一見して、黒衣の女を六人の法服隊員が護衛しているかの如き編成ではあるが、骸骨の群れに対し(やいば)を振るって応戦したのは黒衣の女ただ一人であり、それも瞬く間もない出来事であった。女の戦鎌(ウォーサイス)の一振りで、十数体はいた骸骨の頭だけが(あやま)たず斬り飛ばされたゆえである。

 

「あなたたちは、何をするつもりでついて来ているのかしら?」

 

 得物の戦鎌を畳みながら、息を切らすでもなく女はそう漏らすも、返事を待つことなく歩き始める。

 六人の誰もが、

 

(共に戦っても、あなたは我々諸共に敵を斬るじゃないですか!)

 

と、口にしたくとも口に出来ないことは承知の上だ。

 

「髑髏様とやらが、期待外れでなければいいのだけれど。」

 

「御冗談はやめてください。我々の任務は、プレイヤー様を我が国にお迎えすることであって、斬り結ぶことでは……」

 

 女の不遜な発言に遂に我慢出来なくなった一人がそう抗議の声を上げたが中途で()まる。前を歩き始めていた女の姿が突如見えなくなったかと思うと、声を上げた一人の背後にあって戦鎌の(やいば)を首に当てていたからだ。

 

「風音で聞こえなかったことにしてあげるわ。」

 

 耳元でそう囁くと、再び女は(はる)か前方の歩み去る後ろ姿に転じた。

 

 慌てて六人は後を追う。

 任務前途が多難であることは疑いようもなかった。

 

 

                    *

 

 

「あの丘を越えれば見えてくるはずだな。」

 

 <(あけ)薔薇(ばら)>の一行は、緩やかな丘陵を登っている。それは峠と呼ぶほどの標高差こそないものの前方の視野を遮るには十分な高さがあり、帝国側は東西に伸びるこの丘を王国に対する事実上の国境線と見做(みな)していると聞いた。

 実際、二、三ヶ月に一度(もの)の売り買いにエ・ランテルを訪れる隊商、と呼ぶには余りに小規模な一団を除けば、亜人を含め王国民が丘のこちら側に姿を現したことは記録にないらしい。

 

 ギンは、リキウスの言葉に黙礼で応じながら、一昨日の夜、ボルド・ロフーレの商館での出来事を思い返している。

 

 

 

「久しいの。ゴ・ギンの息子、ガガーリン。

 あの腕白坊主が、随分と大きくなったじゃないか。」

 

 老婆は男の声でそう言った。

 忘れもしない、三重魔法詠唱者(トライアッド)フールーダ・パラダインの声だ。

 

 曰く、六十年ほど昔、万策尽きて寿命の延長が最早叶わぬと悟ったフールーダは、老婆が首に掛ける魔法の胸飾り(ブローチ)に憑依の秘術で人格を移したのだと言う。愛弟子である老婆の同意を得れば、こうしてその体を借りて誰かと会話することも出来るのだとか。

 

 流石にギンは俄にその言葉を信じることが出来なかった。

 

 が、父母に連れられてフールーダに引き会わされたあの日、小難(こむずか)しい談笑に退屈してフールーダの長い白髭を引っ張った途端、

 

「何をすんねん、ボケ!」

 

と母に張り手で壁まで吹き飛ばされ、その様子を見た父が大爆笑した逸話(エピソード)を開陳されて納得せざるを得なかった。仮に魔法の力でフールーダの声は再現出来たとしても、こんな他愛もない話を引き継ぐことなどありえないと思われたからだ。

 

 そして「この際だから、(わし)から話した方が早かろう」と伝えられた話は、なおまして衝撃的なものであった。

 

 リ・エスティーゼ王国に引導を渡したバハルス帝国皇帝ジルクニフ()()がその最晩年フールーダに打ち明けたところによると、彼は若かりし頃に髑髏(どくろ)様と思われる不死者(アンデッド)と夢の中で会見しており、その体験から、ド・クロサマー王国はその不死者の意思によって進められている人間と亜人の共同社会構築の実験だと考えていた、というのである。

 その時点で、フールーダが最後の手段を用いてこの世に生を繋ぐであろうことを見抜いていたジルクニフは、自身の没後、後継者たちが虎の尾を踏むことがないよう留意せよ、との意を込めて、それまで秘していた髑髏様との因縁を明かしたのだという。

 

 トブの大森林を人間種の管理下に置こうとする試みは、ここ数百年の間繰り返されては都度森に住まう亜人種や魔物の逆撃を受けて挫折してきた。ド・クロサマー王国を大森林の一部と見做せば、亜人は帝国の関知するところに(あら)ず、としてきたここ百年の帝国の方針もそれに倣ったものかと思っていたが、よもやそのような裏があったとは。

 

「さっきも婆さんには話したが、リ・エスティーゼじゃ、あんたとジルクニフがその髑髏様の黒幕だって専らの噂だぜ。」

 

 何を思ってかリキウスがそう割り込んだが、

 

「黙れ若造、儂はガガーリンと話しておる!」

 

と一喝された。だがリキウスも引かない。

 

「鮮血帝と呼ばれたお方のそんな話、信じろなんて方が無理だ。特に、エ・ペスペルを廃墟にされたリ・エスティーゼ王国の血筋を引く者としてはね。」

 

と食い下がる。

 対して老婆……に宿ったフールーダは、それまで見ようともしなかったリキウスをぎろりと睨みつけて淡々と語り始めた。

 

「貴様(ごと)き若造に、ジルの思いなど理解できようはずもない。」

 

 それは歴史の証言だった。

 

「儂を含む魔法師団にエ・ペスペルの殲滅を命じたのは確かにジルじゃが、その苦渋の決断に余人(よじん)には決して見せることのない血の涙を如何ほど流したことか。

 ジルがあのとき最も悔いていたのはな。暴発した愚かなボウロロープ一党がエ・ペスペルの市民を盾に立て籠もることは十二分に予期し得たのに、よもやそこまではすまいと判断して結果的にそれを許してしまったのは、この殲滅の期を得るべくジル自身が無意識のうちに追い込んだものやも知れぬ、との思いだったのじゃぞ。」

 

 一般に、旧王国民の間では、帝国皇帝ジルクニフは鮮血帝であるがゆえに、エ・ペスペルの市民ごと旧王国最後の反撃を殲滅したもの、と理解されている。それを事実として認めつつも、フールーダの語るところは旧王国民が歴史上のジルクニフに対して(いだ)いている印象とは随分異なるそれを醸すものだ。

 

「故に、そこへ決戦の軍を進めてやたらに兵を損ないこれ以上ジルが苦しむのを()とうない一心から、儂はそれまで禁じ手として封じておった都市への無差別魔法爆撃を、自ら申し出たのじゃ。ジルは、儂の手を取って心から詫びてくれたわい……貴様(ごと)き若造に、それが理解できようか!」

 

 フールーダの声は語るうちに激昂し、最後にはやや涙混じりのものにすら感じられた。

 

 ギンは、リキウスの無用な絡みが偏にフールーダの口を軽くするための演技であることには気づいていたが、よもやこのような暴露を聞く羽目になろうとは思ってもみなかった。リキウスもそれは同様なようで、途中から視線を(そら)して申し訳なさそうにしている。

 

 フールーダもそれに気づいたようで「ふん」と一息吐いて再びギンに視線を戻した。

 

武王(ぶおう)ゴ・ギンの息子にして、金剛(アダマンタイト)級冒険者ガガーランの息子、ガガーリンよ。

 おまえが父母の高潔な魂を引き継いでいると見込んで、重大な仕事を引き受けてもらいたい。

 どうじゃ?」

 

 最早ギンにもリキウスにも断る筋はなかった。

 

 

 

 ようやく丘を越えると、見えてきたのは一面に広がる広大な麦畑だった。それは実態としては大きな村程度でしかない王国を養うには過分な規模で、城塞都市であっても一年の賄いに足りそうな勢いだ。

 

 そして彼方には、トブの大森林と、その手前に何重もの巨木で設えた城柵が見える。

 あれがド・クロサマー王国、そのものであろう。

 

 その後、フールーダの憑依を解いた老婆から受けた依頼は概ね次の通りであった。

 

 第一に、ド・クロサマー王国に髑髏(どくろ)様なる不死者(アンデッド)が本当に再臨したのか、あるいは王国による情報戦(プロパガンダ)の一環でしかないのかの確認。

 第二に、髑髏様の存否に関わらず王国の真意が那辺(なへん)にあるのかの調査。

 第三に、もし髑髏様が存在し対話可能であった場合、帝国側に敵意がないことの表明と、加えて、鮮血帝ジルクニフが髑髏様に対し、あの一夜の出会いのお蔭で自身が諢名通りの人間に堕ちずに生涯を終え得たことを感謝していた旨の言伝て。

 

 加えてボルド・ロフーレからは、

 

「この度このようなご無礼になってしまったことは申し開きようも御座いませんが、私共がド・クロサマー王国との商いの道を開きたいと考えておりますのは偽りなきところなれば、余力で結構ですのでそちらもよろしくお取り計らいいただければ有り難く。」

 

との商魂逞しい付言があった。

 

 約束された報酬は、第一の依頼に対し交金貨五百枚。第ニ以降は実績に応じての出来高払い。ただし、本作戦の遂行に当たり万が一王国によって<朱の薔薇>一行が捕縛されたり害されることがあっても帝国は一切関知せず、の条件付きで、故に書面による契約は交わされなかった。ロフーレ商会は金剛(アダマンタイト)級冒険者の相場での取次手数料を約している。

 

 帝国の下風につくことを潔しとしない<朱の薔薇>としてはいずれも破格の条件だが、無論、彼らを当地へ誘ったのは報酬の多寡ではなく、そこに真の冒険を見出したからだ。

 

「しかし、髑髏様とやらの居る、居ないの裏取りだけで金貨五百枚とは……何に使おうかな?」

 

 そうでない者も約一名いるようではあるが、これはリキウスなりに緊張を(ほぐ)すべく口にされた冗談(ジョーク)なのであろう。

 

 一面の麦畑の間を貫く小道を進むうちに、大声で意が届くか届かぬかの辺りに農作業をしていると見える二人の人影を認める。一人は人間の男性だが、もう一人は明らかに小鬼(ゴブリン)だ。

 意を決したリキウスは、似合わぬ笑顔を浮かべつつ、大手を振って挨拶を送ってみたが、ややあってリキウスに気づいた二人は、こちらに近づいてくるかと思いきや、王国方面へと脱兎の(ごと)く駆け去った。

 

(まぁ、こっちにはギンさんもいるし、そうなるわな。)

 

「オマエ(たち)一旦(いったん)(かた)カラ()リテオケ。」

 

 次の展開を予測したギンは、いつものように彼の左右の肩にちょこんと乗っていた双子忍者に声をかける。

 

「承知」と黙礼。

 

 そのまましばし歩き続けると、果たせるかな、前方よりただならぬ気配が近づいてくるのに誰からとでもなく気づき、四人は自然とリキウスとギンが先頭に並び立ち、左右脇を双子忍者が堅めるいつもの戦闘隊形(フォーメーション)を取った。

 

 現れたのは、剣と呼ぶにはあまりに分厚い巨大な両手持ち剣(バスタードソード)を軽々と片手で掴んで歩み来る、ギンと同じ、否、純血の妖巨人(トロール)だった。体格はギンとほぼ互角か。無言のままこちらへ向かって来ており、あと二十と数歩かと思われる間合いで右手の剣が高々と振り上げられた。

 

「ココハ(わたし)(まか)セテモラオウ。」

 

 ギンは後背に提げていた得物の戦槌(ウォーハンマー)を両手に構えた。クゥイア、クゥイナ、リキウスが隊形を維持したまま数歩後退(あとずさ)ったのと、妖巨人が一気に間合いを詰めて剣を振り下ろしたのはほぼ同時だった。

 

 下段から振り上げられたギンの戦槌が、妖巨人の剣をガキン、と払って火花を散らす。

 

 その音だけで鼓膜が破られそうな迫力だ。

 が、リキウスはおや、と思う。何に遠慮してか、ギンの迎撃が普段よりも鈍く感じられたからだ。

 

「モウ一合(いちごう)所望!」

 

 そう叫びつつ妖巨人は今度は横薙ぎにギンを襲った。

 リキウスはギンが逆撃(カウンター)で妖巨人の頭蓋を割る結末を思い浮かべたが、さにあらず。ギンはしっかと大地を踏みしめつつ、開いた両の手で戦槌を構えその()で剣撃を受け止めた。

 

 再びガキン、と火花が散る。

 

「オォ、見事(みごと)ナリ!」

 

 妖巨人が嬉しげに笑んだのがリキウスたちにもわかった。

 その妖巨人は何を思ってか剣を地面に突き立てて手放し、

 

()()チヲ所望!」

 

と両の手の平を開いてどんと構えたが、対するギンは、

 

(ことわ)ル!」

 

と切って捨てた。

 

(おく)シタカ!」

 

 なおも妖巨人は食い下がったが、ギンは威儀を整えてこう応じた。

 

青々(あおあお)(しげ)ッタ(はた)()ラスハ、貴様モ本意(ほい)デハアルマイ。」

 

 この返しに妖巨人は随分と感じ入った様子で、改めて礼を執った。

 

()ノ子、()、家名ハ(ガン)。」

()ノ子、()、家名ハ(ギン)。」

 

「ナント!

 貴様ハ武王(ぶおう)()(ギン)ノ息子カ?」

 

 名を交わして、()と名乗った妖巨人は破顔する。

 こんな僻地にまで父の威名は轟いていたものか、と対するギンも驚きを隠せない。

 

()(ちち)()カラ貴様ノ御父君(ごふくん)ノ噂ハ()イテイタ。御息災(ごそくさい)カ?」

「十五年ホド(まえ)身罷(みまか)ッタ。」

 

「……ソウカ。充実シタ御生涯(ごしょうがい)デアラレタカ?」

()ワレルマデモナク。」

 

重畳(ちょうじょう)ナリ!」

 

 がっしと二人は固い抱擁を交わし、リキウスと双子忍者は呆気にとられた。長い付き合いでギンのことを、単にがたいが並外れて大きい人間のように考える癖がついていたが、同時に彼は武妖巨人(ウォートロール)でもあるのだ、ということを改めて思い知らされた(てい)だ。

 

 つまるところ、この打ち合いは妖巨人の文化における挨拶だったのだ。

 

(とも)カ?」

 

 ギンの肩越しに、リキウスたちにゲの視線が向かう。

 

(とも)ダ。」

 

とギンが応じると、ゲは相変わらず恐ろしげではあるもののにっこりと微笑み、

 

「歓迎シヨウ!」

 

と、ギンと肩を組んで歩き出した。

 

 なるほど、フールーダを名乗る老婆、そしてボルド・ロフーレの人選は決して間違ってはいなかった、とリキウスは得心する。並の人間や亜人では、あのゲに出会ってこのような対応を取れたとは思えない。

 

 三人は、まるで旧知の友のように親しげに会話しながら先を行く二人の巨人の後を追った。

 

 

 

 夕闇が迫る頃になって、ゲの先導で<朱の薔薇>の四人は何の問題もなく王国の城柵内に入ることが叶った。途中通過したいくつかの城門(ゲート)は屈強そうな大鬼(オーガ)小鬼(ゴブリン)、ときに野伏(レンジャー)風の人間に警備されていたが、ゲが会釈すると誰も共にある<朱の薔薇>に対して警戒する様子すら見せなかった。

 

 一行は集落の外れにあるゲが暮らす天幕(テント)に招かれ、夕食を供されることになった。床に敷かれた毛織物に言われるがまま座って待っていると、人間と小鬼(ゴブリン)の女性がにこやかに語らいながら、決して豪勢ではないが心の籠もった手料理を届けてくれた。

 

()マンナ、(きゅう)(たの)ミニ。」

 

とゲ。

 

「ゲさんにお客様なんて珍しいこともあるものね。」

 

 ふふふ、と微笑みながら人間の女がからかう。

 

武王(ぶおう)悟吟(ゴ・ギン)ノ息子、()トソノ友ダ。(もてな)サヌワケニハイカンノデナ。」

 

「あらまぁ。じゃぁお酒をもう少し後で届けましょうか。

 その代わり、今度またよく肥えた野牛でも仕留めて届けてくださいな。」

 

 やや年嵩の小鬼(ゴブリン)の女がそう求めると、

 

(たし)カニ()()ッタ!」

 

 ガハハと笑ってゲが応える。

 

 考えようによっては、これは極々当たり前な、それぞれの者がそれぞれの出来ることをやって補い合い互いに感謝し合う、そんな光景であるのかも知れない。が、それが思うほど容易く現実のものとならないこともまた事実。その極当たり前でありながら、それでも疑う余地なく世にも稀な光景に、<朱の薔薇>の四人はただただ驚かされた。

 

()御母堂(ごぼどう)ハ人間ナノカ?」

 

 酒を酌み交わしながら、ゲから無遠慮に発せられたギンの肌の色の薄さについての問いに対する答えに、ゲは随分と驚いた様子だった。

 

 体の造りは相同であるのだから、交わって交われぬことはないのだろう、とは思っていたが、如何せん体の大きさや肉付きの差異があるし、そもそも人間と妖巨人(トロール)審美眼(しんびがん)は随分と食い違っていて互いに情欲をそそられるでもない。だから、トブの大森林の妖巨人の部族(クラン)が村……ゲを含め、当地の者は皆、ド・クロサマー王国の名を口にすることはなく、ただ「村」と自分たちの領域を呼ぶようだ……に加わってから随分と経つが、敢えてそれを試みる者はいなかった、とゲは語った。

 

 ギンの両親の馴れ初めが、帝都闘技場における力試しの勝負であり、しかも勝ったのが母ガガーランの方であったことを知るに及び、ゲの興奮は頂点に達した。

 

是非(ぜひ)御母堂(ごぼどう)ニ一度オ()イシタカッタモノダ!」

 

「フフ、貴様ハ(こし)()カシタデアロウナ。」

 

 そう言って二人はガハハハハと愉快そうに笑うが、どうにもリキウスには二人の笑いのツボがよくわからない。ただ、妖巨人たちが強さというものに無上の価値をおいており、それに比してしまえば種族の差などというものが然程の意味を有していないのだ、ということは理解できた。

 

 あるいはこの二人だけが特別なのだろうか?

 

 興味深いことには、ゲの父グは今もトブの大森林の中に半ば隠居として暮らしており、村に交わることはほとんどないのだそうだ。

 ゲが語るには、グ自身は人間との共存を快くは思わなかった。が、村からやって来て腕試しを所望した小鬼(ゴブリン)ジュゲムの想定外の屈強さ、なお増して、共生の可能性を熱くかつ無邪気に語った初代女王ネム・エモットに心を動かされ、自身はともかく息子のゲには、新しい生き方を試みさせるも悪くなかろう、との判断を下した。

 以来、ゲは村で暮らすようになり、これが存外ゲにとっては居心地が良く、時折森に入って父を訪ねることはあるものの、お互いに異なる社会で暮らすことを認め合いつつ現在に至るのだと言う。

 

 思っていたのとは随分違うな、とリキウスは食事を楽しみながら考えを整理する。

 

 以前から、ド・クロサマー王国がどのように人間種と亜人種の共存共栄を実現しているのかについては疑問に思っていた。が、ここまで実際に見聞きした様子やゲの言葉を素直に信じる限りは、何らかの強制力による統合ではなくあくまでも個々人の自主性によるそれであって、しかも、異種共存に馴染まない者は馴染まない者なりにそのまま受け入れられているらしい。

 ある意味それは、すべての住民がそう思っているかはともかく、自身の暮らす帝国自由都市が理想とするところ……銘々がその(せき)を負う限りにおいて自由勝手……とさほどズレているとも思えず、むしろそれを徹底して実現しているもののようにすら思える。

 フールーダ……の残留思念?……に聞かされた話から、髑髏(どくろ)様なる不死者(アンデッド)の尋常ならざる魔力がこの異種統合の背後にあるのではないか、との思いも(いだ)いていたが、今のところそういったものを伺わせる様子はないし、そもそもゲの話には髑髏様のドの字すらも登場はしなかった。これはどういうことなのだろうか。

 

 ひとまずゲの信は得られたとは言え、いきなり本題を切り出すのは憚られたので、<朱の薔薇>の来訪の目的については、ボルドから依頼されたところのロフーレ商会との通商交渉のみがゲには伝えられている。少なくともこれは嘘ではない。

 ゲは、そういう話は自分ではわからない、と正直に告げ、明日以降人間か小鬼(ゴブリン)のその筋の話に明るい者たちを紹介するから、今夜のところは歓待を受け入れて休んでくれとリキウスたちに告げたので、彼らもそれに素直に従うことにした。

 

 ここまでの流れからすると、商談をまとめてからの方が髑髏様の話を切り出し易いかも知れない。

 

 と、考えをまとめ終えたか終えないか、といったとき、不意にリキウスは自分が誰かに呼ばれたような気がして左右に首を振った。変わらずギンとゲは親しげに酒を酌み交わしており、クゥイアとクゥイナは食事を終えて得物の手入れをしている。

 

(リキウス・アインドラくん、聞こえるかね?)

 

 今度ははっきりと声が聞こえた。耳から、ではなく、頭の中に直接届く声。リキウス自身は初めての体験となるが、これは<伝言(メッセージ)>の魔法か?

 

(覗き見の非礼は追って詫びるが今は黙って聞いてくれたまえ。()には咳払い一つ、(いな)には二つで応えてくれればいい。)

 

 この声は……リ・ロベルで訪ねた元気な死にかけ爺さん、トマス・リーマンだ。

 あの爺さんが街を出て動けようはずもないが、この距離を伝わる<伝言>なんてあり得るのか?

 覗き見、というのは……これが<千里眼>か?

 

(君の(そば)にいる尋常ならざる二人はお味方だね?)

 

 とまれリキウスは、ギンとゲを見て、ゴホン、と一つ咳払いをする。

 

(北へ徒歩で十分ほどのところに、元から居た同じく尋常ならざる者と、少し前に何処からか<転移>してきた者が居るが、これはご承知かな?)

 

 なんだと!

 

 体に一気に緊張を漲らせつつ、リキウスは二度の咳払いで応じる。

 

「駄目ボス、どうした?」

 

 立て続けの咳払いに気づいたクゥイアの声がかかるが、リキウスはそれを片手で制した。

 

(加えて……)

 

 ……まだあるのか?

 

(ここまでの四人は君達でも何とかなる相手だが、もう一人、君達では手も足も出ないであろう者が接近しつつある。おそらくは駆けていてまもなく相見(あいまみ)えることになるだろう。これも承知ではないのだね?)

 

 リキウスはゴホンと咳払い。

 

(ピーから君達については気にかけるよう言われているので余計なお世話かとは思いつつ声をかけさせてもらった。私としては、状況を把握出来ていないのであれば即時撤退を進言する。武運を祈っているよ、御機嫌よう。)

 

 そこでトマスからの声は途切れた。

 

 ピーというのは、確かあの四人組の中でも無愛想な灰色の魔法詠唱者(マジックキャスター)だが、あの男が自分たちを気にかけていたとは……いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

 

「ギンさん、それにゲ!」

 

 ん?と二人の巨人がリキウスに目を向ける。

 

「どうもマズいことになってるらしい。

 かなり呑んでいるようだが酔いは大丈夫か?」

 

 二人の巨人はそれぞれ得物を手に取ると、真っ赤な瞳でニヤリと笑った。

 

(大丈夫なワケないよな……)

 

 

                    *

 

 

 香の薫り満ちた一室の中で、漆黒の道服(ローブ)不死者(アンデッド)は静かに佇んでいた。

 

 あの夜……<魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)>の実験に成功した夜に出会った女野伏(レンジャー)に誘われて居着いた村は(こと)(ほか)居心地がよく、ついつい長居が過ぎたと思わないでもないが、人間種と亜人種が何の隔てもなく共に暮らすその様子は、不死者でありつつも人間たちの間で長く暮らした経験を有する彼にしてもなかなかに興味深く、ここ百年覚えたことのない安らぎを感じていたのも事実だ。

 

 流石にこの身を日中に晒すのは憚られるので、星の配置の宜しい夜に魔法の実験に森へ出向く以外は、女野伏に充てがわれた一室に籠もっていることが大半ではあるが、ひょっとするとこの村であれば、自分は普通に出歩いても受け入れられるのかも知れない、と近頃は思いつつもある。女野伏は、それを拒むでもなく勧めるでもなく、好きにしてくれていて構わないと言って、しばしば飲食不要の彼への慰めとして、森の最奥で採集される街で売ればかなりの高値がつくであろう香木を届けてくれていた。

 

「ん?」

 

 不意に室外にただならぬ気配を感じて、彼は窓の方に目を向けた。

 

「誰か居るのか?」

 

 ややあって応答がある。

 

「事を構えるつもりはない。入ってもいいか?」

 

 聞き慣れない若い女の声だ。

 にしては、老成しているかのように度胸が座っている。

 

「オレが怖くないのであれば構わんよ。」

 

 すると音もなく窓が開き、そして閉じられた。

 どうやら来客は魔法で<隠形(おんぎょう)>していると見える。やがてその魔法が解かれ、小柄で整った顔立ちの少女、といってよい姿が見えた。特別な気配は感じられないが、おそらく見た目通りの存在ではあるまい。

 

「突然押しかけた非礼は詫びる。

 聞きたいことはただひとつ。おまえは……アリンス・ウール・ゴーン……なのか?」

 

 はて、どう答えたものか、と不死者は思案する。

 確かにこの村に来て以来、自分は女野伏からその名で呼ばれ続けてはいるが、それは自身の真名ではない。

 

「……気のせいかも知れないが。

 おまえ、以前、リ・エスティーゼに居たことはないか?」

 

 続けて女からそう問われて不死者はさらに思案する。

 確かに居たことはあるが、もう百年も昔の話、この女がそんな時分のことを知るはずもない。

 

「あぁ、これを外さないと話が通じないかも知れないな。」

 

と女が左手の薬指に嵌めていた指輪を外して、不死者は不意に緊張を覚える。

 

(こいつも不死者?

 しかも……真祖吸血鬼(トゥルーヴァンパイア)か!)

 

 指輪の魔力で隠蔽していた自身の真の気配を晒したキーノは、こんな偶然てあるものだろうか、と自身がここを訪れるに至った顛末を思い返す。

 

 

 

「キーノ、仕事でありんすえ。」

 

 いつものように何の前触れもなくキーノの私室に駆け込んできたシャルティアは、むんずとその首根っこを掴んで<転移門(ゲート)>へと引き摺り込んだ。

 

(また虫退治か……今回はエラく前回から()がないが、別の害虫でも発生したんだろうか?)

 

 そんなことを考えながらされるがままに身を任せていると、転移先はどうやらいつもの森の中ではなく、ぽつぽつと民家が立ち並ぶ夜半の村だ。

 

「おまえはここに居る、不届きにもアリンス・ウール・ゴーンを名乗っている不死者(アンデッド)を見つけ出し、その正体を探るのでありんす。」

 

「はぁ?」

 

 唐突なことに事情を呑み込めないキーノを余所に、シャルティアは丁度掌に収まるほどの淡い光を放つ玉を投げ寄越した。

 

「それを割れば迎えに来るでありんす。では、首尾よく(よろ)しゅう。」

 

 それだけ言い残すと<転移門>は閉じられ、キーノはここが何処かもわからぬ村落の、誰の家かもわからぬ屋根の上に独り取り残されてしまった。

 

「……無茶苦茶だなぁ。

 <道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)>。」

 

 とりあえず預かった光る玉を値踏みしてみると、正確なところまではわからないものの<伝言(メッセージ)>に似た効果を持つ魔法が封じられており、シャルティアの言を合わせて考えれば使用者の居場所がシャルティアに伝わるのだと考えて間違いなさそうだ。これを割れば、たちどころに<転移門>が開いて再び首根っこを捕まえられるのは想像に難くない。

 

 もうちょっと穏便な移動手段は提供できないのか?

 

 とまれ、せめて今少し状況説明があって然り、と思わないでもないが、あの心底能天気に出来ている化け物にそんなことを求めるだけ無駄なのは()うに承知のこと。このまま逃げ去ったとてナザリックの連中から逃げ(おお)せるとも思えず、こうなった上は速やかにシャルティアの求めに応じて回収してもらうのが吉だろう。

 

 そう割り切って周囲を見渡せば、確かに余人(よじん)にはわかるまいが彼女には自明な不死者の気配が伝わってくる。

 

「こんな簡単にみつかるものなら、自分でやればいいじゃないか。」

 

 シャルティアを含むナザリックの下僕(しもべ)たちがアインズの許可なく現地人に接触することを禁じられている、などと夢にも思わぬキーノは、そうボヤきながらその怪しげな気配が発せられる家屋へ向かい、果たせるかな目的の不死者と対面した。

 

 が、すぐには気づかなかったものの、自分はこの不死者に見覚えがある。

 

「念のために重ねて言うが、私はおまえには敵意はないから短気は起こさないでくれよ。」

 

と断りを入れた上で、キーノは核心に触れた。

 

「おまえ、六腕にいたデイバーノックだよな?」

 

 たちまちに返事はないが、それまで微動だにしなかった不死者の体が一瞬ぎくりと動いたのをキーノは見逃さなかった。

 

「もう百年も経ったことだし打ち明けるが、<(あお)薔薇(ばら)>を憶えているか?」

 

「……リ・エスティーゼの金剛(アダマンタイト)級冒険者の……か?」

 

 もう、この返事の時点で正体を打ち明けたようなものだ、と思わないでもないが、この際こちらも正体を明かした方が相手も話し易かろう。

 

「私は<蒼の薔薇>の魔法詠唱者(マジックキャスター)……イビルアイだ。」

 

「!」

 

 暗闇の中でもデイバーノックの最早眼球のない瞳が驚きのあまり見開かれたのが、キーノにはわかった。ややあって、ようやくデイバーノックから言葉が返る。

 

「<蒼の薔薇>のイビルアイ、憶えているとも!

 おまえ……も不死者化したのか?」

 

「私は元からこうだ。」

 

「え?」

 

「……まぁ、私のことはこの際どうでもいい。まさかこんな形で再会することになろうとは思ってもみなかったが、どうしておまえがアリンス・ウール・ゴーン、ということになっているんだ?」

 

 キーノは手短に本題を問う。

 返事は呆れたものだった。

 

「……勘違いだ。」

 

「はぁ?」

 

「この村の女野伏(レンジャー)……ニモ・エモットと言ったか。その女の前で<魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)>の実験をやってな。以来、アリンス・ウール・ゴーンとかいう不死者と思い込まれている。」

 

「……どうして正さない?」

 

「存外ここは居心地がいいのでな。」

 

 なんじゃそりゃ!

 キーノは深い眩暈を覚える。

 

 アリンス・ウール・ゴーン、というのは、どう考えてもあの化け物中の化け物、アインズ・ウール・ゴウンの名が誤って伝わったものだ。誤って伝わったものとは言え、その名をデイバーノックが騙っているとナザリックの連中が知れば、おそらくこの死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は言葉にするも憚られる酷い目に遭うことになるだろう。そんな事情を知る由もないとは言え、こいつもなんて能天気なヤツなんだ、と。

 

「私におまえの行く末なんぞ案じてやる義理などないが、おまえ……かなりマズいことになっているぞ。」

 

とキーノ。

 

「どういう……ことだ?」

 

 さしものデイバーノックも不安げな様子で問う。

 

「おまえが騙っているその名は洒落にならんほどヤバいものなんだ。」

 

 と、ここまで話して、二人はほぼ同時にただならぬ気配を察知した。

 

「ヤバい……というのは、コレのことか?」

 

とデイバーノック。

 

「……いや、そんなはずないとは思うが。」

 

 刹那!

 

 キーノが入って来た窓の穿たれた壁に、ザンッ、ザンッ、ザンッと斬り込みが入るや二人に向かって倒れ始め、思わず二人は後退(あとずさ)った。

 

 そして戦鎌(ウォーサイス)を肩に担いだ物騒な来訪者の声を聞く。

 

「お迎えに上がりました、髑髏(どくろ)様。」

 





<次回予告>

 漆黒聖典番外席次の脅威がキーノに、そしてナザリック地下大墳墓に迫る。迎え撃つは心優しき黒衣の紳士。

「我らが居城への不法な侵入者には然るべく対処せざるを得ませんな、お覚悟を。」

 憶断のオーバーロード第4話『ナザリック地下大墳墓急襲さる』

 そして番外席次は新たな真名を得る……


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