「で、どちらが
自ら斬り倒した壁の上に立つ黒衣長身の女は、愉快げにそう言った。
「まぁ、見ればわかるよね。」
キーノもデイバーノックも共に無闇に長い生涯を過ごしてきた存在ではあるが、その彼らをしてもまったく覚えのない強者の気配と、それにも増して事も無げな軽口に、たちまちに身動きを取ることが叶わない。
否、キーノは、ツアーやアインズ、シャルティアに比べれば……と思わないでもなかったが、それはそもそも比べる相手が間違っている。こんな閑村に現れる存在としては破格も破格であることは疑いないだろう。
女は
「<プレイヤー>様と聞いて期待していたのだけれど、大したことはないのね。」
言っていることの意味はまったく理解できないが、そのあまりに横柄な態度はデイバーノックを苛立たせた。確かにこいつは強い。それは認めなくもない。が、さりとて突然現れた相手にそんな物言いをされる
「……では、試してみるか?」
「よせ!」
キーノは思わずデイバーノックを
「
必殺の一撃を無効化されてなお女は愉快げに笑った。キーノはその
女は開口一番「お迎えにあがった」と言わなかったか。であるのに、敢えて戦おうとする意図がわからない。そして、目的の
彼女もまたデイバーノックをアリンス・ウール・ゴーン、すなわちかの傲岸不遜な骸骨アインズ・ウール・ゴウンと勘違いしているのは明らかだが、これで仕掛けた相手がまかり間違えて本物のアインズだったら、いったい全体どうなっていたことか。
「容赦はせんぞ。
<
続けてのデイバーノックの
「<
透けたデイバーノックの体から立て続けに三発の火球が放たれる。
あの女とてこの至近距離では回避は叶うまい。
と言うか……私だって
次の瞬間、閃光と爆風にキーノの体は木の葉のように宙を舞った。デイバーノックの潜んでいた家屋が爆散するのを視界の片隅に認めつつ、慌てて<
「<
轟爆の中から、あの女の<
白と黒の
流れる髪から垣間見える
左右で異なる
そして、再び振り上げられた戦鎌は、<武器強化>の魔力を受けて妖しく青白色の輝きを放っている。
これは……デイバーノックはヤられるな。
果たせるかな、再び女が横薙ぎに鎌を振えば、ぐわっ、と叫ぶデイバーノックの声がしたかと思うと実体化したその体が爆散した家屋の残骸の上にどさっと落ちた。通常の物理的な攻撃を無効化する<
続いて女が、まだ立ち上がることの出来ないデイバーノックの傍らに歩み寄り、侮りの声を投げかける。
「本当にあなたはプレイヤー様なのかしら?」
だが、瓦礫に埋もれたデイバーノックがその言葉に応じるよりも前に、女の背後から
「「
上空にあるキーノが声の方向に目をやると、そこには二人の堂々たる
一方は剣と呼ぶにはあまりに分厚い
もう一方は、かつての彼女の仲間、ガガーランが愛用したのと同じ
状況を俯瞰しながら、キーノは軽いパニックに陥っていた。
シャルティアに突如投げ込まれた何処だか皆目見当もつかない村。
言われるままに
それを突然連れ去ろうとした破格の強さを誇る
そしてその前に立ちはだかる二人の
いったい何がどうなっているんだ!
デイバーノックを守ってやる義理なぞないのは明らかだが、さりとて村で問答無用に暴れまわる森妖精をこのまま放置してよいものか。事実、妖巨人はそれが許せない様子だが、一見して人間の村であるここを、妖巨人たちが敢えてあの化け物女に立ち向かってまで守ろうとする動機がわからない。
嗚呼、ここでも私は
まともに当たれば妖巨人には力量的に勝ち目がないように見えるが、存外二人は息が合っていて構えに隙がないばかりか、妙に不規則な読み難い動きが混じっていて……まさか酔っ払っているわけでもあるまいに……さしもの森妖精も焦った仕掛けはせずにじっくり攻撃の機会を伺っているようだ。
そのとき。
キーノは、視野の片隅に建物の影から妖巨人を背後から狙う複数の
法国にも義理はないが、一方で連中が狂信者でありつつも理由なく暴力を振るう
とキーノが意を決せずにいるうちに、妖巨人の背後にさらに三人の人間が飛び込むように姿を現した。
一人は
残る二人は、まるで自身のかつての仲間であったティア、ティナ同様に双子に見える忍者だ。神官戦士の左右を的確に固め、素早く
キーノの脳裏を稲妻が走る!
百年、忘れていたこの感覚……
この間合いに阿吽の呼吸!
まるで<
理由も理屈も要らない。
私が守るべきはこいつらだ!
……だが、どうやって?
自分の力量を以てしても、あの森妖精を
さりとて、今、手を打たねば遅かれ早かれ少なくとも妖巨人の一方が首無し死体になるのは必定だ。それはとりもなおさず<蒼の薔薇>を想起させた神官戦士と双子忍者の敗北を意味する。
どうする!
待てよ……アレを使えば……
……できるか?
さらに事態をややこしくしそうな気がしないでもないが……
今、出来る最善はそれしかない!
遂に意を決したキーノは、シャルティアから託された淡く光る玉を森妖精に投げつけた。
「児戯ね。」
それまでキーノを伺う様子すら見せていなかった森妖精ではあるが、そう言い捨てると戦鎌の刃先は妖巨人に向けたまま、容易く反対側の
途端!
丁度光る玉が割れ砕けた辺りを中心に禍々しい気配を発しながら<
沈黙。
そして……
「……馬鹿だ、馬鹿だ、とは思っていたが、まさかシャルティアがここまで馬鹿だったとは。」
キーノは深い、安堵とも
*
ナザリック地下大墳墓第二階層の石造りの廊下を、女の首根っこを掴んだシャルティアがバタバタと駆ける。キーノの私室の扉を開くや、ぽい、と女を投げ入れ、
「ちょっと別件で忙しいので話は後で聞くでありんす!」
と言い残し、またもバタバタと駆け去って行った。
「……何が起こったの?」
見覚えのない玄室に独り残されたスレイン法国漆黒聖典番外席次は、我が身に突如起こったわけのわからない事態に困惑している。
何者かに首根っこを掴まれ、引き摺られるままに<
わからないのは……当世最強と自他ともに認めるこの絶死絶命が何ら抗う
「ここ、何処?」
「おや、
思わず漏らした声に応じるように、何処からともなく気品を備えた男性の声がかかった。
「何者?」
番外席次はただ声色のみから大した相手ではない、と判断して得物の刃先は床に向かって下げたまま問うた。
一方、問われた側の紳士的、とすら言ってよかった柔らかな声色は、じわじわと冷たくも静かな
「それはこちらの台詞ですぞ。
我らが居城への不法な侵入者には然るべく対処せざるを得ませんな、お覚悟を。」
番外席次は、直前の謎体験を棚上げして私に何か出来る者などこの世にいるものか、と内心嘯いたが、次の瞬間自身の認識の甘さを呪いつつ悲鳴を上げる羽目になった。
突如、無数のゴキブリが波のように彼女に向かって飛びかかって来たからだ!
(
第二階層に侵入者、
恐怖公とその眷属が初動迎撃中。)
「はぁ……?」
アインズは思わず口をパカリと開けて漏らした。
「……侵入経路は?」
ニグレドの復命は意味明瞭かつ意味不明なものだった。
(直前にシャルティアの<
ナザリック地下大墳墓が直接敵の急襲を受ける事態については種々
「シャルティアは今どこに?」
(ナザリック内にはおりません。最後の転移の方角から、デミウルゴスの下知の
うーむ、正直頭が痛い。
「コキュートスに第三階層まで上がって要撃の準備をさせろ。
シャルティアは状況が許せば第二階層へ即時帰投。
あとは……そうだな。パンドラズ・アクターに、玉座の間にいるデミウルゴスとナーベラルを十分後に第二階層に連れて来るよう伝えてくれ。」
(
「迎撃にはオレとアルベドで当たる。
ニグレド、的確な
(恐れ入ります、どうぞご武運を。)
さて、打てる手は打った。
後はどうやって現状を脱出するか、だが、記憶にはないがこれから何をすべきかわかっている、ということは、多分以前にも同じことをやってうまくいっているはずだ。そして、これを
であれば、期待には応えねばならん!
「<
起きろ!アルベドォッ!」
番外席次はひたすらゴキブリの
無論、一匹ずつは彼女の力からすれば屁でもない相手でしかないが、如何せん数が多過ぎる。それは最早虫の群れ、ではなく、黒い濁流として視覚されていた。十匹も仕留めている間に体に取り付かれるのは確実で、そんな事態は考えたくもない。
ここが何処の
だが。
番外席次は長く続く通路の先に、<
対するところの、情事にひとしきり満足していつものように愛する
さきほどまでの痴態はどこへやら、敵を目前にしていることから冷静さを失わぬよう努めていることはわかる。わかるのだが、常の彼女に比してやや大きく開き気味の瞬き一つしない瞼、その奥の金の瞳もまた凍りついたかの如くブレ一つしないことが、侵入者の背後に迫るゴキブリの山にドン
「恐怖公とその眷属たちよ、ご苦労だった。
アインズが両の手を挙げてそう呼びかけると、ゴキブリの波は番外席次の背後僅か数十センチ、のところでピタリと止まった。
「「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」」
「「ご尊顔を拝し恐悦至極!」」
「「
「「殺虫魔法断固反対!」」
「「我らにもお狩りになった遺体のお裾分けを!」」
恐怖公の眷属たちが、口々にわーわー言いながら去っていくのを眺めつつ、アインズは自身に戦意のかけらも沸かないことに呆れていた。
この緊迫感をまったく欠く緊迫の状況……何とかならんもんか?
一方の番外席次は、背後のゴキブリの気配が消え去るのを悟って、ようやく冷静な判断能力を取り戻し、改めて前方に現れた相手の姿を観察する。
こちらに近いのは女。純白の
そしてその奥に控えるは、金糸銀糸をあしらった豪奢な漆黒の
「あなたが本物の
「はっ?」
知らんがな。というか、今日はやたらとドクロサマーが話題に
「お迎えにあがったの。同道いただけるかしら。」
「おまえ、馬鹿なのか?」
行動と態度と発した言葉のあまりの乖離に、思わずアインズは率直な感想を口にしたが、刹那、番外席次が一息に戦鎌を横薙ぎに振るいつつ一直線に踏み込んで来た。
が。
その渾身の一撃は、アルベドがいつのまにやら取り出した得物の<
涼やかな金色の猫の目は余裕を浮かべてすらいるが、刹那、番外席次のやや後方に<
その身に纏う
利き腕に収まるは、一見して尋常ならざる武器であることがわかる<
そして、アルベドの背後にあって、番外席次に対しては警戒する様子すら伺わせない
三者三様いずれ劣らぬ比類なき強者の
法国、どころかこの大陸にあっては向かうところ敵なしの自身を、圧倒するような敵に
さりとて、これほど格の差を感じる相手が、しかも同時に三人も現れようとはまったく思いもよらなかったことで、今この瞬間も目前の想像の埒外の存在たちの実在を俄に信じることが出来ない。
戦って討ち死にするも一興。
だが……長く夢見つつ
ここは不本意ながら降伏の一手か。
だがしかし、素直に
「……<プレイヤー>様ともあろうお方が、女の影に隠れるのね。」
「あ!……ご愁傷様。」
この後何が起こるかを察知したアインズはそう呟いたが、果たせるかな憤怒の表情のアルベドとシャルティアに番外席次がボコられる
*
「
決死の覚悟で立ち向かった難敵が突如として姿を消し、緊張の糸が途切れたギンは大きく息を吐いた。
即席の
ふと、リキウスたちのことが気になり、守ってくれていたであろう背後に視線を向けると、クゥイア、クゥイナと共にスレイン法国の者と思われる隠密装束姿の
リ・ロベルの<千里眼>使いのユグドラシルNPC……もっとも<朱の薔薇>の面々は未だその正体を知る由もないのではあるが……トマス・リーマンから即時撤退を勧める<
もちろん、誰も異を唱えるはずはない、と思っていたし、実際誰も異を唱えることなどなかった。
とまれ、トマスの話を素直に信じれば、異変は北に十分歩いたところで起きるはずだと睨んで身支度を整え、駆け出してしばらくすると進行方向から数件先の家屋が三連続の大爆発を起こして吹き飛んだ。駆けつけてみれば犯人と思しき白黒頭の女が独り佇んでいる。しかも、ギンもゲも、一目見るだけで「コレハ……
さりとて、ゲは当然として、ギンも逃げ出す選択肢などまったくなく、むしろ、初めて得た
とにかくすべてが一瞬のことであったし、二人共少なからず酒が残っていたので、
ワケガワカラナイ……
が、正直な感想だった。リキウスたちが捕らえたスレイン法国の特殊部隊員から少しでも事情が聞き出せれば重畳といったところだろう。
「
「
再びゲの大きな手がばちん、とギンの肩を叩く。
「……兄弟?」
「
俺ト貴様ハ
とゲがニヤリと
「おまえたち、大丈夫だったか?」
そんな二人に上空から声がかかったのはまさにそのときだった。
二人がその声に応じる前に、
「おまえがオレの身を案じてくれるとは……」
と瓦礫の中からうめき声が聞こえたが、それに対しキーノは、
「おまえなんぞ知るか!」
と
対してギンは、何処か懐かしさを感じるその声色にそちらへと視線を返したが、直後絶句した。
「ドウシタ、兄弟?」
ゲも中空に浮かんだ
が。
ようやく発せられたギンの言葉で拍子抜けとなる。
「
……
このちっこい女の子が……
ゲは大きな頭をこれでもか、と傾げた。
言われたキーノも混乱している。
……
この可愛らしい私が……よりによって、
しかし、イビルアイの名を知っているとは……
まさか!
「おまえ、ガガーリンか?」
「ソウダヨ、
問われたギンは、懐かしさのあまり口調が子供時分に帰っている。
「
「ハハハッ、
ギンはそれを笑い話として流した。
よもやそんなこととは、と、ゲは申し訳無さそうに頭を掻きながら、
「イヤ、ソレハ
ウム、ガガーリン……モ
と埋め合わせた。
「イヤ
ここではっきりと言っておかねば、双子忍者の二の舞いだ。
「こいつ、スレイン法国の
ギンたちを背後から狙っていた
キーノが口を挟む。
「無理に聞き出そうとするなよ、自害されるぞ。」
だが、これに対しては風花聖典を名乗る男から反論があった。
「それはもう百年も前に廃れた野蛮な慣習で、今は作戦失敗時には投降が認められている。」
そうなのか?
スレイン法国もえらく軟化したものだな、とキーノは感心する。
「で、ギンさん……こちらは?」
キーノの存在に気づいたリキウスが、どうやら既に事情を承知しているように見えるギンに声をかけた。見たところ随分と可愛らしい女の子だが、この修羅場で行き合う相手が見た目のままの存在であろうはずもない。
そして、返ってきた言葉に皆が驚愕することになる。
「私ガ
「イビルアイ!」
「
「大好き!」
リキウス、クゥイア、クゥイナ、三者三様に驚いた急所は微妙に異なっていた。
クゥイナが言葉を発したのは、リキウスの知る限りはこれが最初で最後だった。
*
「……事情を説明してもらおうか。」
本当に毎々度々のことながらトンデモない絵面になっているな、と思いつつアインズは口を開いた。
手頃な部屋がなかったので、第二階層のキーノの私室が即席の取調室になっている。両手を組んでふんぞり返って立つアインズの両脇には、守護者統括アルベドと、追って合流した参謀デミウルゴスに助手のナーベラル・ガンマ。
デミウルゴスとナーベラルを連れてきたパンドラズ・アクターは、アルベドとシャルティアが放つ異様な毒気に当てられてそそくさと退散済みだ。これ以上話が拗れるのを避けたかったので、アインズも無理には引き止めなかった。
そして四人の前で正座させられているのが、ナザリック地下大墳墓への不法侵入の罪を問われている漆黒聖典番外席次……端正な顔は最早痣だらけでアインズですら哀れを感じている……と、同
「まずシャルティア!
何の騒ぎなんだ、コレは?」
番外席次をアルベド共々タコ殴りしている間、シャルティアは第二階層の守護者は自分でありその責務を果たしているのだ、という顔をしていたが、自分がボコっている侵入者を連れ込んだのが他ならぬ自分らしい、ということをアインズから指摘され、途端に顔色を失い正座の列に加わったものである。
「キーノと……間違えたのでありんす。」
「キーノ?
何だソレは!」
勝手なもので、既にアインズの短期記憶においては自らツアーの元から連れ帰ったキーノ・インベルンに関する情報は、キーノという
それに気づいたデミウルゴスがナーベラルに何か耳打ちし、ナーベラルは口元を隠して何かごにょごにょする。ややあって今度はナーベラルがデミウルゴスに耳打ちし、そしてデミウルゴスがアインズに耳打ちする。
アインズが、デミウルゴスとナーベラルに遅れて合流するよう命じた理由がこれだ。
デミウルゴスが日記の形で百年と少し、延べ二千五百巻以上記録し続けているこちらの世界に渡って来て以降のナザリックの記憶は、
すなわち、デミウルゴスの日記がデータベース層、シズの検索がアプリケーション層、<
「ああ、そういうことか。
キーノ・インベルン。
デミウルゴスに「アインズ様はツアーのとき同様、個人的なメモをお残しのはず」と言われて
「で、どうしてシャルティアがそのキーノとこの
アインズはたちまちにキーノの容姿までを思い出すことが出来ないが、今しがたデミウルゴスを通して聞いたキーノはもっと小さいぺったんこな女の子で、こんなスラリと背が高く引き締まった肉体の女戦士であろうはずがない。女以外、共通点がまったくないじゃないか、と。
「プルチネッラの新兵器でありんす。」
駄目だ……まったくわけがわからん。
再びデミウルゴス、ナーベラル、
<お助け玉>は<伝言>の劣化版で、淡く光る硝子玉の形状をしており、割ることで事前に決めた相手に位置情報のみが伝達される
つまり、伝達相手は基本的にシャルティアが設定されており、誰かが<お助け玉>を割ると即座に彼女はその位置情報を知ることが出来る。後はシャルティアがその位置に向かって<
「で……どうしてキーノが<お助け玉>を使うことになるんだ?
と言うか、キーノは今何処に居る?」
「アリンス・ウール・ゴーンなる不届き者の正体を探らせるべく送り出したのでありんす。」
「……はぁ?
あの話は終わりにしなかったか!」
少なくともアインズ自身は、アリンス・ウール・ゴーンの名を騙る者がいたとてそれが何事ぞ、と
「アインズ様は、あちきが怒るならともかく、と仰せになったでありんす。じゃによって、あちきが正体を突き止めねばなりんせん、と思ったのでありんすが、間違っておりましたでありんしょうか?」
なるほどそういうことか、とようやくアインズは腑に落ちる。我ながら、慣れから下僕たちへの言葉遣いに油断があったことは否めない。
いや、それくらいわかってくれよ!
と思わないでもないのではあるが、相手がシャルティアであれば、それは我儘な期待と言うものだ。そういうことにしておこう。でないとやっとれんわ!
アインズ自身は自分の知恵はデミウルゴスには遠く及ばない、と思い込んでいるが、こうして断片的であれ情報さえ出揃えば……そもそもデミウルゴスに比してアインズに不足しているのは知恵ではなく、足りぬ
シャルティアが、アリンス・ウール・ゴーンの正体を探る
並行してアウラ、マーレと何かをやっていた……件のトブの大森林の果樹園が野良
そのキーノだが、出先でこの現地人としてはツアーに次ぐと思われる
ナザリックの
加えて、<お助け玉>に戦術上こういう利用方法がある、という気づきはなかなかどうして価値ある発見と言えよう。この一事を以て今回の件は十二分に採算が合う。
さて、問題はこの白黒をどうするか、だが。
殺してしまうのは簡単だが、頭を冷やして考えればこいつはシャルティアとキーノに巻き込まれた被害者でもある。ひとまずは事情を訊き出してから……だよな。
「次に……名前がわからんから仮にシロクロ、と呼ぶが。
シロクロ、おまえは何なんだ?」
問われた本人からしてみれば、わけもわからぬうちに
「私はスレイン法国漆黒聖典所属番外席次。」
訊いておいて何だが……やっぱりわけがわからん。
「デミウルゴス!」
「はっ。」
先程から繰り返されるこの冗長なやりとりを番外席次は興味深く観察していたが、どうやら目前の骸骨は何事につけても知識を欠いており、自身のわからぬ言葉が会話に表れる都度、こうして部下に下問して答えを得ているようだと当たりをつける。
「ひとつ訊いていい?」
「……なんだ?」
番外席次の問いに思わずアインズが応じると、発せられた質問は命知らずにもほどがあるものだった。
「あなた、馬鹿なの?」
……死なずに済むように気をつかってやっているのに、どうして死に急ぐんだ、このシロクロは!
「騒々しい、静かにせよ!」
アルベドとシャルティアから再び放たれた壮絶な殺気が頂点に達するよりも前に、アインズはその気勢を削いだ。これでシロクロが瞬殺されることはあるまい。いや、別に死んでも困りはしないが、何が起こっていたのかわからなくなってしまうのだけは真っ平御免だ。
「……シロクロよ、馬鹿はおまえの方だ。」
アインズは、敢えて諭すように優しく話しかけた。
「おそらく、おまえは自分より強い者に出会ったことがほとんどないのだろう。」
番外席次の目線が微かに泳ぐ。どうやら図星のようだ。
「だが、此処に居る誰もが、おまえ
「私は死など恐れない。」
思った以上に幼い馬鹿だな、とアインズは思う。
「では……」
アインズは
「おまえを傷つけるに十分なデータ量をもった武器をくれてやる。
死ね。」
「……はぁ?」
「こちらは別におまえには何の興味もない。何が起こったのか知りたいだけだ。が、説明するつもりもなく死も恐れないと言うのであれば、とっとと死ね。手間が省けて助かる。」
「……」
「なぜ死なない?」
「……」
「どうした、死など恐れないんじゃなかったのかぁ?
さぁ、首を割くも、胸を突くも、
「口出す無礼をお許し下さい。」
とデミウルゴス。
気づいてくれるとは思っていた。
本来は追い込むのが
アインズの黙礼を受けてデミウルゴスが話し始める。
「さて、お許しがでたので……シロクロ、と言ったかね?」
いや、それはオレが適当に付けた
「我らが至高の主はご覧の通り見た目は恐ろしい御方だが、同時に広大無辺の慈悲に溢れる御方でもある。
番外席次は黙ったままデミウルゴスを見つめている。
「その、筆舌に尽くし難い僥倖を受けているキミがだよ。拾いたくとも拾うこと能わぬ命も多いこの世界で、命を拾われたキミ自身が、自身の命を拾わんとせぬことが、如何ほどに愚かで罪深いことかわかるかね?」
いささか難渋な表現でこの馬鹿が真に理解出来ているか不安に思わないでもないアインズではあったが、流石は我が
ま、こいつは
一方の番外席次は遂に心を折られたものか、涙こそ落とさぬものの正座した膝の上に置いた両の手を硬く握り締めたまま言葉を失っていた。
「……わかってくれたようで何よりだよ。
では、素直に我が至高の主のご下問にお答えするように。いいね?」
黙ったまま頷く番外席次を見て、アインズは心の中で「やったねデミ!」とガッツポーズを取った。そして遠からずこの出来事を忘却するアインズには、この能天気な自身の対応を後悔する機会すら与えられないのである。
<次回予告>
「死など恐れぬ、と言った言葉に偽りはないな?
ないんだよなー!」
パカリと口を開いて楽しげに嗤う骸骨に、シロクロ、キーノ、そしてデイバーノックまでもが己の在り様の変容を迫られる。
憶断のオーバーロード第5話『銘々の
「もう要らないんだ、多分。」
呟くキーノの微笑みを見よ!