ゼロの王子様   作:織姫ミグル

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プロローグ

 

 

 

 

「·········また明日な」

 

 

 

 

 

 

 

ってフレーズが俺は好きだった。

 

 

 

 

 

 

『ノクト!!』

 

 

 

 

 

ああ·······そんな名前だったけ。

 

 

『ねぇ! 今日はもうここら辺で泊まろうよ!!』

 

「ああ······そうすっか」

 

『よっしゃ! キャンプだキャンプ!!』

 

 

キャンプ自体は別に嫌いじゃない。

テントを組み立てる時の作業もなんかワクワクするし、自然の中でみんなと楽しく食いもんを食うのも悪くはない。

 

 

『なぁノクト』

 

 

·········ん?

 

 

「どうしたイグニス?」

 

『明日の朝食の準備を手伝ってくれないか?』

 

「はぇ?」

 

 

また朝食の準備手伝うのか。

別に構わないけど、俺が手伝えば料理が台無しになるってことわかってるよな? 前なんか搔き回しすぎてシチューの底の部分焦がしちまったんだぞ?

 

まあ、それでもいいなら、

 

 

「ま、別にいいけど」

 

『助かる』

 

『あ、ノクト酷くない!?』

 

 

え?

 

 

『明日一緒に写真撮りに行くって約束したじゃん!!』

 

「あ·······そうだった」

 

『おいノクト!!』

 

 

今度はなんだよ?

 

 

『明日の朝は俺と走り込みに行くっつったろうがっ!!』

 

「げっ!!」

 

 

そういやそんな約束したっけ!?

でも朝から疲れるのってなんか嫌なんだけど。でも約束を破るのは流石にわりぃしなぁ。

 

 

『俺だ』

 

『いや俺っしょ!?』

 

『俺だ!!』

 

『···········明日の朝食抜きになるぞ。いいのか?』

 

『まじかよ!?』

 

『酷くなーい!? じゃあいいもん! 俺だって明日写真撮ってあげないもんね!!』

 

 

·······························································································································································································································································································································································。

 

 

「············プッ」

 

『『『!?』』』

 

 

ヤベェ。

思わず吹き出しちまった。

 

 

『ちょ、なに笑ってんのノクト!?』

 

『元はと言えばお前があれもこれも背負いこむからだろうが!!』

 

「ははっ! ああ、悪い悪い」

 

 

·········なんだろうな。

 

 

「みんな·········ありがとうな」

 

 

なんで俺、今こんなタイミングで「ありがとう」なんて言ってんだろうな。

 

 

『?···········ノクト?』

 

『なんだいきなり?』

 

「··············いや、なんつーかさ」

 

 

何かわかんねぇけど、お礼を言っときたい気分だった。

 

 

「王都がめちゃくちゃになって、親父も死んじまって·······正直、俺一人だったらどうしたらいいかわかんなくなってたと思う」

 

 

家を失った、家族を失った。

何もかもを失った気持ちになって、俺は空っぽだった。全部が消えた時の喪失感てのは、本当に何もかもがどうでもよくなって、希望すら見出せなくなる。

 

そんな時に、お前らがいた。

 

そばにいてくれた。

 

 

「だから·······今こうして普通に、明日の予定がどーとか話せること自体······奇跡っつーか、幸せっつーか」

 

 

結局何が言いたいんだろうな俺は。

 

まあとにかく·····················その、

 

 

 

「お前らがいてくれてよかったわ···········み、みたいな?」

 

 

 

『『『·················』』』

 

「·····························」

 

 

なんか言って!?

 

言った自分が恥ずかしくなってくるから!?

 

 

『·········ノクト』

 

『どしたのノクト? いきなりそんな』

 

『さては熱でもあんじゃねぇか?』

 

「お、お前らなぁ!!」

 

 

言わなきゃよかった。

 

なんでいきなりこんなこと言ったんだ俺は!?

 

 

『············仕方ねぇ。それじゃあここは公平にくじ引きで決めっか』

 

『さんせーい!!』

 

 

公平にくじ引きで決めた結果、明日の朝はイグニスと朝食を作ることが決まった。

 

自分で食うもんを自分で作るのも悪くねぇかもな········味は保証しねぇけど。

 

 

『ノクトー』

 

「ん?」

 

『明日の昼からはどうするー?』

 

 

················昼か。

 

なんも決めてねぇな。

 

 

「適当にぶらぶら?」

 

『うわ、何それ無計画!!』

 

 

つってもやることなくね?

今日だってほとんど適当に過ごしてたし。

 

 

『あ、じゃあさ【ハンマーヘッド】行こうよ!!』

 

『ああ·········そういやシドの爺さんに頼み事してたっけな』

 

『タッカからは食材の調達の依頼も来ていたぞ』

 

『シドニーにもレガリアのメンテしてもらわないとだし!!』

 

 

················ははっ!

 

あっという間に明日の予定埋まったな!

 

 

「じゃ、そうすっか」

 

『おー!!』

 

『では·········明日に備えて』

 

『ああ、明日朝起きられるように··············』

 

「そんじゃ────」

 

 

 

 

 

“また明日な”················································································································。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「···········ッ!!」

 

 

かろうじてだが瞼が動いた。

それは自分の意思で動かしているとは思えないほどわずかなものだ。ほとんど痙攣にも近い感覚で、ゆっくりと、ゆっくりと···········()()()()()()()()()()()

 

 

(··········今のは夢?)

 

 

いや········走馬灯か。

 

数秒、視界がどんどん何の像も映さなくなっていく。フォーカスの遠近が揺らいで、脳が現実を離れようとしている。

 

 

(··········俺、は···········)

 

 

ここがどこなのか、薄れゆく意識の中で理解した。

 

自分が“誰なのか”、自分が“何をしたのか”、自分は“何故ここにいるのか”ということを思い出した。

 

周りには何もない。気配もない。痛みは微かに感じるが、それもすぐに意味はなくなる。

 

 

「···············」

 

 

だらりと下がった己の手に、わずかな力が戻る。

 

付けていた“指輪”が跡形もなく塵と化していっている。自分の体も、燃え尽きるように灰となっていく。意識が消えていくのに呼応して、頭の中で考えれる時間はわずかだというのがわかる。

 

 

“王子”

 

“歴代王の宝具”

 

“六神”

 

“夜明け”

 

“王の使命”

 

············そして、

 

 

(··········俺は、“死ぬんだな”··········)

 

 

世界は闇に覆われ、世界に太陽が昇ることはなくなった。

朝が訪れなくなったことにより、世界中に【シガイ】と呼ばれる化物たちが出没するようになった。人は朝日を浴びることを忘れ、あるものは化物退治、あるものは奇跡を願い、あるものは化物と化した。

 

それを救うには、“選ばれし王”の力が必要だった。

 

 

(··········役目、終えたんだな········)

 

 

長かったな。

 

闇を祓うために選ばれた王、“ノクティス・ルシス・チェラム”はそう思った。

 

 

(················)

 

 

彼が朝日を拝むことは二度とない。

 

ノクトが闇を覆う元凶となるものを倒したことで、世界には光が戻ったはずだ。

 

そうであって欲しい。

 

でないと、

 

 

(昨日みんなと過ごした最後の夜··········本当はもっといろんなことを話したかったんだ)

 

 

みんなのために()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのくらいの代償がないと意味がない。

 

 

(·······『また明日』·······か)

 

 

あの時言った言葉が、脳内で何度も蘇る。

あの時した約束は、結局守れたんだっけ? ちゃんとみんなとした約束は果たせたんだっけ? それすらも今思い出せなくなって来ている。

 

その事にノクトはほんの少しだけ胸が痛んだが、

 

 

(·············悪い)

 

 

体に宿す力がもうない。意識は既に手放しかけている。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ああ········眠いな。

 

彼らには悪いが、朝日を拝められるビジョンが頭に浮かばない。というか考える力さえも、もうないに等しい。体のあちこちが灰と化し、残るは上半身だけとなっていた。

 

 

(················)

 

 

薄れゆく意識の中で唯一残っている、“一枚の写真”。それを胸ポケットから取り出して確認し、ノクトはゆっくりと目を閉じて微笑んだ。

 

 

(目を閉じて··········次に目が覚めたなら·············)

 

 

彼は手に握っている写真をもう一度見た。

 

一緒に旅をして来た仲間と共に撮った最初の写真。全てが始まった最初の一歩の風景。自分の父親から預かった愛車を囲んでみんなと一緒に撮った思い出の一枚。

 

その光景を最後に、思い浮かべながら、

 

 

(“明日”になってたらいいな)

 

 

もう目を覚ますことのない王子は、心の底から大切にしていた愛しき友人たちの姿を思い受かべながら········ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた誰?」

 

「·························は?」

 

 

抜けるような青空と突如聞こえてきたその透き通った“女の子”の声に、目を覚ますはずのない王子は瞳を開けた。

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