ゼロの王子様   作:織姫ミグル

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第12章

 

 

そいつは実体のない盗人だ。

 

フードを深く被った奴は魔法学院の五階にある、宝物庫がある本塔目指して走っていた。二つの月の光は本塔につけられているいくつもの窓の中を照らし出すが、フードを被った奴はその光にすら当たらぬように俊敏な動きで走る勢いを落とさず、それでいて周囲をくまなく観察しながら目的地を目指す。

 

 

『土くれ』

 

 

と、呼ばれるメイジの盗賊。

 

その二つ名は、トリステイン中の貴族を恐怖に陥れている。

 

まず、恐怖となる要因が、『何者なのかわからない』からだ。人は、自分とは違うものを恐れる生き物だ。故に、防衛本能に従って強いもの達と手を取り合い、弱いものを叩きのめして自分の身を守ってきた。

 

攻撃対象がどんな奴なのかわかっていれば、こちらも策を考えて太刀打ちできる。だから、怖くはない。一度経験してしまえば更にその恐怖心は和らぎ、余裕という感情さえも生み出す。

 

しかし、

 

『土くれ』

 

『土くれのフーケ』だけはどうしても対策できない。

 

その盗賊の手口は繊細に屋敷に忍び込んで盗み出したかと思えば、別荘を粉々に破壊して大胆に盗み出したり、白昼堂々王立銀行を襲ったと思えば、夜陰に乗じて邸宅に侵入する。

 

あまりにも乱暴で、そして行動が全く読めない奴相手に、この国の治安維持部隊の王立衛士達も手を焼いている。

 

死者も出ていることから、国際指名手配されているらしいが、その姿が男か女かすらわからないため、どんな奴なのかわからないという恐怖が人々の心を襲う。

 

今隣に立っているものが、その盗賊かもしれない。

 

なんて考えてしまった日には、人種差別や魔女裁判といった大規模なものにまで発展してしまいそうだ。

 

疑心暗鬼。

 

故に国の治安を司る王立衛士や魔法が使える魔法衛士達すらほぼ壊滅状態と言っても良い。壊滅といっても、別にこちら側の誰かが死んだとかそういうわけじゃなく、奴は完全に神出鬼没で大胆に盗んでいき、派手な演出まで起こしてるのにその手がかり一つさえ見つからないので、完全にお手上げということで治安を守るという機能がぶっ壊されまくっている。

 

それが今、ルイズ達が通う学園内に侵入していることに、まだ誰も気付いていない。

 

忍び込むばかりでなく、力任せに屋敷を破壊するような奴が学園内に不法侵入しているというのに、警備の奴らは何やってんだと問い詰めたい。

 

ここに通っているのは優れた魔法使い達だ。

 

にも拘らず、これだけ大胆に侵入されてもなお警鐘すら鳴らさないなんて、この学校どうかしてる。自分達がどういう被害を受けているのか、全く気付いていない。

 

警備が甘すぎる。

 

それがフーケが始めに思った感想だった。

 

そうこうしているうちに、目的地まで簡単にたどり着いてしまった。

 

五階にある大きな門。

 

その中にある、『一つのお宝』

 

正確には、『強力な武器』

 

フーケは一先ず門に触れることだけはしない。万が一触れて学園全体に侵入者警報の鐘とか鳴らされたら堪ったもんじゃない。

 

フーケはプロの怪盗だ。

 

故に、もっと派手で大胆な演出をして見せて目的の物を手に入れる。

 

フードから覗かれる顔は今もなお笑っている。笑みを絶やさず、余裕を崩さず、門の隣にある分厚そうな壁に一蹴り入れて、どの程度の頑丈さかを確かめる。

 

カツン! と。

 

足の裏から伝わってきた感触だけで、この壁がどれほど最硬に作られているのかわかったのか、笑みを打ち消して舌打ちをする。

 

 

「さすがは魔法学院本塔の壁ね·······物理衝撃が弱点? ハッ! こんなに厚かったら、ちょっとやそっとの魔法じゃどうしようもないじゃないのッ!?」

 

 

フーケはプロの怪盗だ。

 

故に、盗む際には必ず抜け穴となりそうな所を見逃さずチェックする。

 

足の裏で壁の厚さと強度を測り、脆そうな部分を物理攻撃で破壊。その衝撃音で気付いた時にはもう遅い。フーケは目的の物を手に入れて誰にも見られずにその姿を消す。

 

『土』系統魔法のエキスパートであるフーケにとってはそれが方針らしい。

 

 

「確かに、『固定化』以外の魔法はかかってないみたいだけど······これじゃ私の『ゴーレム』でも壊せそうにないね」

 

 

男か女かも不明なフーケだが、盗みの方法には共通点がある。

 

フーケは盗みを行う際『錬金』の呪文を使用し、強固な壁を錬金によって粘土や砂に変え、穴をあけて潜り込む。

 

案外簡単なやり方で、フーケは大胆と盗んでいく。

 

入り口や出口がないのならば作ってしまえば良いという、どっかのおチビ錬金術師と同じモットーを持っている。

 

それともう一つ。

 

フーケはおよそ三十メイルはあろう巨大な『ゴーレム』を土で作り出して召喚する魔法も使ってくる。豪華な邸宅なんかその拳一振で粉々に粉砕出来るだろう。

 

跡形も残らないほどの破壊力を持つ厄介なゴーレムには、何十人も集まった魔法衛士隊達を蹴散らすほどだ。

 

そんな、世間から厄介やら恐怖やらとまで言われているフーケだが、珍しく目の前の壁にぶち当たって困ったように首を傾げている。

 

 

「やっとここまできたってのに······」

 

 

フーケは唇をかみしめる。壁に強力な『固定化』の呪文がかけられている以上、『錬金』の呪文で壁に穴を開けるわけにもいかない。

 

可能かもしれないが、分厚い上に時間もかかりそうだ。

 

 

「かといって、『破壊の水晶』を諦めるわけにもいかないしねぇ」

 

 

どうしたもんかな~なんてことを悩んでいると、

 

 

『やぁぁぁめぇぇぇろぉぉぉおおおおおおッ!?』

 

 

フーケが立っていたすぐ近くの窓から、悲鳴が響いた。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

別の影があった。

 

フードも被らず、素顔をさらけ出して無様な光景を見せつける。

 

学園の本塔てっぺんからロープでぐるぐる巻きにされて吊るされているノクトは、五階付近の窓と窓の間にいる。

 

もがき続け、身体を左右に揺らし、なんとか逃げようと模索している。

 

 

「おいマジやめろッ!? 本当にやるつもりかッ!?」

 

 

まるで死刑台に昇らされた気分だ。

 

首にかかってないだけマシかもしれないが、両腕に食い込んでくる縄が痛くて、こんなことをすぐやめるように真下にいる少女達に向かって叫ぶ。

 

ルイズとキュルケは二人横に並び合うように立ち、吊るされたノクトを見つめている。

 

これじゃ死刑というより晒し者じゃないか、という感想を抱く暇もなく、自分達でやっておきながら汚物でも見るかのようにノクトに目を向けながら、二人だけで会話するように冷酷な声音でキュルケは呟く。

 

 

「いいことヴァリエール? あのロープを切ってノクティスを地面に落とした方が勝ちよ。勝った方の剣をノクティスが使う、いいわね」

 

「わかったわ」

 

 

ルイズは今回はマジで真剣なのか硬い表情で頷いた。

 

 

「使う魔法は自由。ただし、あたしは後攻。そのくらいはハンデよ」

 

「······いいわ」

 

「じゃあ、どうぞ」

 

 

右手を差し出して先陣を切らせるキュルケにルイズは前に一歩出る。話がどんどん勝手に進められていき、それに対して不快な声音でノクトは叫ぶ。

 

 

「オイ待て!? 勝負すんのはそっちの勝手だけど俺を巻き込むなッ!? つか、この高さから落ちたら俺確実に死ぬぞ!?」

 

 

慌てすぎて声を荒げ過ぎた。

 

そんな声に、ルイズはなんてこともないような口調で言う。

 

 

「大丈夫でしょ? アンタ瞬間移動が使えるんだから。落ちる寸前になったらどこか別の所にワープすればいいのよ」

 

「そういう問題か!? そもそもまず人の命が懸かってるんだから安全対策ぐらいしっかりしろッ!! いやっていうか俺を的当てゲームの的にすんなッ!?」

 

「あぁ、もうッ!! うるっさいわねッ!! 集中するんだから静かにしてなさいッ!!」

 

 

ノクトの意志なんて関係なく、全ての尊厳を無視してルイズは懐から杖を取り出して彼のロープに狙いを定める。

 

 

「ひッ!?」

 

 

もう前方で銃口を構えているルイズのその本気度を感じて、ノクトが引きつった声を出した

 

 

「ヤバいヤバいヤバいヤバいッ!!」

 

 

やはり殺される。

 

そう感じたノクトは後ろで両腕を縛られている片方の手に短剣を召喚し、結び目を切るために急いで刃物を擦らせる。刃物は摩擦でどんどん硬い縄に食い込んでいき、溝を作り出す。

 

一つ目の結び目が切れた音がした。

 

残りはどれくらいかはわからないが、さっさとしないとロープを切るための詠唱を始めているルイズの魔法によって殺される。

 

注連縄のように固いから本当に急がないとヤバい。小さな結界に囚われた王子は、主人の爆裂魔法から逃れるために必死に縄を切る。

 

絶体絶命の大ピンチ状態の中、ついに死刑のギロチンが解き放たれた。

 

 

「えいッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

チュドオオオオオオオオンッ!!

 

 

壁の砕け散る、甲高い悲鳴のような轟音

 

空気すらも燃やしつくす炎の刃。

 

ノクトの後ろにあった分厚い壁を輪切りにし、壁のレンガを切り崩すように無数の熱波の刃が暴れ狂う。近くにあった窓も割れ、破片は内側へ飛んでは来ず、外側に弾けるように地面へと落ちていく。

 

爆煙が巻き起こり、視界が数瞬確保されなかったが次第に晴れていき、

 

薄っすらと空中を舞う爆煙の中、ノクトを縛っていたロープは今もなお本塔のてっぺんにくくりつけられているのが見える。

 

それはつまり、

 

 

「ゼロ! ゼロのルイズ! ロープじゃなくて壁を爆発させてどうするの!? あんな細いロープをすり抜けて壁を爆発させるなんて、むしろ器用過ぎて羨ましいわッ!!」

 

「そ、そんな······」

 

 

ルイズは愕然とした。

 

脱力したように膝をつき、目の前の光景を唖然として見ている。

 

 

「あなたってどんな魔法を使っても爆発するんだから! あっはっは!」

 

 

腹を抱えて笑っているキュルケに、ルイズは悔しくて悔しくて奥歯を思いっきり噛み締めて、生えている爪が内側にめり込むくらい拳を握りしめて、思わずその拳を地面に叩きつける。

 

 

「さぁて、次はあたしの番ね。見てなさいルイズ、今から本物の魔法って奴を見せて上げ────」

 

 

既に勝負は決したと言わんばかりに微笑んでいたキュルケだったが、途中で言葉を詰まらせた。

 

その様子に、ルイズは顔を上げると、どういうわけかキュルケが目を見開いて愕然とした表情を見せている。

 

ルイズも同じように、爆裂した壁から垂れ下がっているロープの先を辿ってみると、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そして、当のノクトの姿は何処にもなかった。

 

しばらくして、

 

 

シュン!! と。

 

 

空間を切るような音が背後から聞こえてきたと思ったら、青い光を纏ったノクトが短剣を地面に刺して、テレポートを使って虚空を渡っていた。

 

 

「はぁ、はぁ······マジ、焦ったわ」

 

 

冷や汗が身体中から吹き出して、身の危険を感じていたノクトは安全な地面に無事着地したことで安堵に包まれると、膝をがっくりと折って両手を地面につける。

 

後ろにはノクトの姿があり、そして前には壁ごと破壊したロープがある。

 

状況が読み込めていくと、勝ち誇っていたはずのキュルケの顔から笑みが消えていく。

 

 

「う、嘘·······嘘よ······ッ!?」

 

 

信じられないといった目で見るも、現にノクトはそこにいる。

 

それを見たルイズはキュルケの代わりに表情がぱぁっと輝き、身体を小刻みに震えたまま、

 

 

「うそ········やった!! 切れたぁぁあッ!!」

 

 

跳び跳ねて喜びをアピールするルイズだが、ノクトは爆裂の際に発生した煙を少し吸い込んでしまったようで、咳き込みながら、そして涙を流しながら二人の方に振り返る。

 

 

「ゲホッ! ゲホッ!········なぁ···もう、これで·····十分、満足、しただろ?」

 

 

定まらない呼吸の中、ノクトは涙ぐんだような声でそう訊ねた。そんなノクトに主人であるルイズは駆けよっていき、本当に嬉しそうに先程まで自分が拘束されていたロープを指差して叫んだ。

 

 

「見なさい! ノクティス! 私の魔法でロープが切れたわ! 私の勝ちよッ!!」

 

 

本当に喜びを感じすぎて、ルイズの声は歌っていた。胸を張ってキュルケに対して『私の勝ちね!!』と無言で訴える姿を見て、もう怒る気力すらなくなったのか、ノクトは脱力して地面に完全に横たわる。

 

 

「う、嘘、嘘よ········あたしがゼロのルイズに負けるなんて········ッ!?」

 

 

余談だが、現実を受け止めきれないキュルケは相当ショックだったのか、壁の端で丸まってぶつぶつと呟いていた。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「あの分厚い壁を、破壊した!?」

 

 

フードを深く被ったフーケは爆裂の嵐に巻き込まれそうになり、慌てて窓から離れて悲鳴まであげようとするが、爆発が全て揉み消してくれた。

 

『固定化』をかけられていた分厚い障壁を、あの少女が放った正体不明の爆裂魔法を目の当たりにして、フーケは悲鳴すら忘れて息を呑んでいた。

 

窓から即座に離れて、そしてガラス片は外側へと落ちたため、フーケには傷一つない。

 

熱波が吹き荒れた。『固定化』の概念を破壊した弊害らしい。どうやら彼女の魔法はただの爆発ではない。

 

何か、秘密があるに違いない。

 

 

「なんにせよ」

 

 

今日はやはりラッキーな日だ。

この千載一遇のチャンスを逃してはいけない。

 

 

「今のうちに」

 

 

フーケは杖を取り出して呪文を詠唱し始める。とても長く、複雑な文章を数秒ほど呟くと、地面に向けて杖を振る。

 

 

「······ふふっ」

 

 

フーケの顔に変化はない。

 

ただし。

 

その口元だけが、まるで口裂け女のように真横へ細く長く笑っていると。

 

 

地面が、勢いよく爆発した。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 

「残念ね! ツェルプストーッ!!」

 

 

初めて勝ちルイズは、本当に素直に喜んでいた。

 

今まで散々バカにされてきた分、鬱憤でも晴らそうとしているかのように勝ち誇ることをやめない。

 

キュルケはルイズに負けたことが悔しいのか、プライドがとにかく傷ついたのか、膝をついたまましょぼんと肩を落として、壁の端の地面で指を使って何か変な絵を描いている。

 

見た感じ、相当精神的ダメージを喰らっているご様子だった。

 

ノクトはもう、なにもしてやれない。

 

だって、こっちは完全なる被害者なんだから、慰めるつもりもなかった。

 

そんなことを思っていた瞬間だった。

 

 

ドゴォォォオオオオオオッ!!

 

 

と、地面全体が大きく揺れた。

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

ずっと無言で存在すら忘れかけていたタバサでさえも、本を読むのを中止した。本を閉じ、杖を持って立ち上がり周囲を見渡す。

 

 

「なん······っ!?」

 

 

地面が傾きそうな振動に、ノクトは思わずよろめいた。視界の端では転びそうになったタバサが再起したキュルケによって腕の中で支えられている。

 

更にもう一度、砲撃が直撃したような衝撃が学園を襲う。

 

爆心地は、相当近い。

 

余波が一瞬で学園全体に広がっている。パラパラと、学園の壁から粉塵のようなものが落ちてくる。

 

低く、重たい音が響き始めた時だった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「きゃああああああああああッ!?」

 

「ルイズ!?」

 

 

ルイズが悲鳴を上げ、ノクトは今何が起こっているのか冷静になろうと努めたが、ふと気付いてしまった。

 

地面が隆起し、その中から『手』のような形をしたものが生えていた。隆起部分が何だかガキゴキと固い音を鳴らして、別の何かに形状を変えているように見えたが、その姿が『人の形』に見える。

 

ルイズはそんな巨大な土で出来た人形に掴まれ、捕らわれてしまった。

 

 

「ァ、ああああああああああああああああああああッッッ!!!??」

 

「ッ!?」

 

 

ルイズを掴んでいる五本の指が強く握られて、同時に、腰を掴む手がさらに食い込んでくる。あまりの激痛にルイズは目を閉じて更なる悲鳴を上げる。

 

主人が苦しんでいる。

 

ならば見過ごすわけにはいかない。

 

今もなお、主人はわけのわからない人形に掴まれているのだから救わねばならない。

 

 

(た、助けて········ノクティスッ!!)

 

 

そう彼女が自ら封じた視界の中で、そう念じると。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ブゥゥゥウウウンッ!! と。

 

 

蜂の羽音を数百倍にしたような不可思議な音がルイズの耳を叩く。

 

 

「······え?」

 

「うぉぉおおおおらぁぁぁあッ!!」

 

 

突然の一撃に、ルイズは驚いて目を開けた。

 

すると、僕であるノクトが刃こぼれしたような両手剣を大きく振るって、ルイズを掴んでいた『手』の丁度手首部分が切断されていた。

 

大剣の輪郭をよく見る前に、ルイズの身体を固定していた『手』は地面に叩き落とされる。それと同時に、ルイズもそのまま地面に落ちて尻餅をついてしまう。

 

 

「無事かルイズッ!?」

 

「え、ええッ!!」

 

 

すぐに主人の安否を確認するノクトは、大剣を構えて警戒する。

 

見ると、ノクトの持っている武器はまた見たこともないデザインだった。細かい刃がいくつも付けられた剣は、振動するように縦に超高速で回転していた。

 

覇王の大剣。

 

厳つい姿は山の如し すべてが規格外の王の証。振動する刃で与えるダメージが増加し続ける。

 

いわば、ノクト達の世界で言うチェーンソーのようなものだ。

 

ノクトはルイズを救うため、土で出来た人形の手を切断するために、回転した勢いで剣を投げつけてシフトブレイクをぶつけて薙ぎ払った。

 

切断された手は、衝撃を受けた途端に結合が解かれ、バラバラと元の土くれに戻って砂埃となって消えていった。

 

しかし、たとえ手を切断して主人を救い出しても、ノクトは警戒を怠らなかった。一度武器を虚空へと消し去ると、ルイズの元に駆け寄り、そのまま脇で抱えて反対側の手に剣を召喚して遠く離れるために別の場所へと槍投げのように投げつける。

 

シュン!! と。

 

空間を裂く音を響かせて、ノクトとルイズは十メートルもの距離を一瞬で移動する。壁に刺さった剣を抜き、すぐに土くれ人形の方に振り返る二人だったが、

 

 

「······ふふっ」

 

 

錆びた女の声が、人形の肩から聞こえた。

 

いつの間にか人形の肩に乗っていた黒いローブを身に纏った謎の人物の手には、『小さな箱』。それを手にした黒いローブは、ノクト達の方を見向きもせず、ずしんずしんと地を踏み鳴らす。

 

 

「ま、待ちなさ────」

 

 

追いかけようとするルイズだったが、ノクトは無言で右手で行手を遮る。

 

 

「ちょっと!? 何すんのよ!? 早く追いかけないとッ!!」

 

「わけのわかんねぇ奴相手に無闇に動くのは危険だ。今は様子を見てから動いた方がいい」

 

 

そう言われて何も言い返せなかったルイズは、大人しくノクトの言うことに従う。

 

しばらくすると、

 

黒いローブを身に纏った謎の人物を乗せた人形は夜の庭を歩いていたが、魔法学院の城壁を一跨ぎで乗り越えると、そのまま屋外へと出てしまった。

 

 

「ここにいろルイズ。様子を見てくる」

 

「ちょ、待ちなさいッ!? 私も一緒に─────」

 

 

ルイズが言い切る前にノクトは剣を天高く投げて、一人で上空へと瞬間移動する。城壁の上に投げ置かれた剣へとワープすると、土くれ人形がどこへ行くのか身を潜めながら観察する。

 

夜の草原を地響きを重く鳴らしながら進んでいく人形は、八十メートルも離れたところで突然崩れ去った。

 

 

「!?」

 

 

崩れ落ちた土くれ人形は山となり、その場を動かなくなったのを見て、ノクトは驚愕するが、様子を見に行くためにまた剣を投げてワープする。

 

シュン!!

 

シュン!!

 

と小刻みに空を切り裂く音を響かせ、十メートルの距離を移動したら、空中に置かれた剣を手に取りまた投げつけて次の十メートルの距離を飛ぶ。

 

そして、最後の目標地にまで届く距離まで来た時、ノクトは土くれ人形が崩れ落ちた山のてっぺんに突き刺してシフトする。

 

だが、土の塊以外何もなかった。

 

 

「くそッ!!」

 

 

ノクトはつい舌打ちをして周囲を見渡した。

 

当然ながら、あの黒いローブを身に纏った奴の姿はどこにもなかった。

 

風が吹き、追撃することはできず、土の山にはかつて王子だった者だけを残して、謎の盗人はどこかに消え失せてしまっていた。

 

 

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