ゼロの王子様   作:織姫ミグル

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第22章

 

 

黒フードの男は腹を抱えて街の外へと出た。

 

ノクトが喰らわせたシフトブレイクの影響がまだ残っているのか痛みが残留している。ノクトは手加減して峰打ちでシフトブレイクしてきたみたいだが、投擲の正確さは確かなもので、急所を外さずにいいところにダメージが入った。

 

 

「ハハッ·······相変わらず、容赦ないなぁ」

 

 

黒フードの男はそう笑いながら崖を背にしてズルズルと地面に座り込む。

 

 

「ほんっとう、嫌な世の中だ」

 

 

本当に鬱屈そうな声を出して、よろよろっと立ち上がって崖に手をつける。

 

すると、腰辺りから光が漏れた。ポケットに突っ込んでいた何かが光っているのだろう。

 

片手は崖に寄りかかり、もう一方の片手は腹に。それぞれ手が塞がれている黒フードの男は面倒臭そうにため息をついて崖につけていた手を離してポケットに手を突っ込む。

 

黒フードの男はポケットから何かを取り出す。

 

水晶玉だった。

 

 

『騒ぎが起きているようだが、そちらの方はどうなっている?』

 

 

金属を擦るような、耳に障る声だった。素の声を歪めているのだろう、本当の声じゃない声を聞いて黒フードの男は、はぁとため息をつく。

 

 

「ほんっとう、嫌な役割を押し付けてくれたねぇ~。こっちはお腹がズキズキと痛むよ·······陽動の方は失敗。雇った傭兵達はみーんなお縄についちゃったよ。三人の子供の貴族達のおかげでね。あ、フーケちゃんの方はちゃんと逃げたみたいだけど」

 

『ご苦労だったな』

 

「叱責はなし? 嬉しいねぇ」

 

『お前のことなど最初から期待してない。フーケの方もな』

 

「未練もなさそうなことを言うねぇ」

 

『元々の作戦は上手くいっている。あとはこちらの方でなんとかする。お前達への命令は後回しだ。好きにしていろ』

 

 

黒フードは思わず息を吐いた。

 

全くもって自分の所属している組織というのはどいつもこいつも自分本位の連中ばかりだ。

 

 

「了解~、期待して待ってるよ」

 

 

水晶玉からの連絡は切られ、それから黒フードの男は夜空へ飛び立つ飛行船を見つめて鼻で笑った。

 

──────元々の作戦は上手くいっている。

 

──────お前のことなど最初から期待してない。

 

それらの水晶玉からの言葉を反芻してから、今度は別の人間の言葉を思い出していた。

 

 

『闇とお前を切り離してやるよ、そっち側には·····誰もいないだろ!!』

 

 

つい先程出会った青年がかつて放った言葉。

 

 

『闇はお前の味方じゃないッ!! そこにいる限り、お前は一人だ』

 

「······」

 

『早く帰ってこいよ、心優しき王様だったんだろッ!?』

 

 

そして今後間違いなく刃を向ける敵のものだ。

 

 

「さぁ~て」

 

 

被っていた黒フードから顔を出し、月明かりを見上げながら『赤髪の男』は呟いた。

 

敵の事情にさえ胸を痛めた、あの忌々しい標的の顔を思い出しながら。

 

 

「真の王となった奴相手に勝てると思ってるのかなぁ~·······()()()()()

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

船は夜を通して飛び続け、途中からワルドは船底に潜って風石の変わりに船を浮かすべく、魔法を使い続けた。

 

眠っていたルイズとノクトは貨客用の一室に通され、そこで夜を明かした。

 

陽も上がって暫く。

 

ノクトは甲板から外を眺めていた。視界には、巨大な雲が青空を遮っている光景が広がっている。

 

 

「アルビオンが見えたぞー!」

 

 

鐘楼に立っていた見張りの船員が大声をあげる。

 

その声に下を流れる雲を見つめていたノクトが顔を上げ、船の前方へと顔を向け、息を呑んだ。

 

巨大な·······まさに巨大としか言いようのない光景が目の前に広がっていた。雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。大陸は遥か視界の続く限り延びている。地表には山がそびえ、川が流れていた。

 

 

「驚いた?」

 

 

いつの間にか横に来ていたルイズがノクトに言った。

 

 

「いや·······もう·······慣れたわ」

 

 

ノクトは苦笑しながら呟いた。

 

 

「浮遊大陸アルビオン。ああやって、空中を浮遊して、主に大洋の上をさまよっているの。でも月に何度かハルケギニアの上にやってくる。大きさはトリステインの国土くらいはあるわ。通称『白の国』」

 

「『白の国』?」

 

 

ルイズは大陸を指さした。大河から溢れた水が空に落ち込み、白い霧となって、大陸の下半分を包んでいる。

 

その霧がやがて雲となり、ハルケギニアの大地に雨を降らせるのだとルイズは説明した。

 

と、その時。

 

鐘楼に上った船員が、大声をあげた。

 

 

「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」

 

 

ノクトは言われた方向を見た。

 

なるほど、船が一隻近づいてくる。ノクト達の乗り込んだ船より、一回りも大きい。

 

舷側に開いた穴からは、大砲が突き出ている。

 

ルイズが眉を顰めた。

 

 

「いやだわ。反乱勢·······貴族派の軍艦かしら」

 

「あんまり僕から離れるなルイズ········なんか嫌な予感がする」

 

 

ワルドがルイズにそう言う。

 

黒くタールが塗られた船体は、まさに戦う船を思わせる。こちらにぴたりと二十数個も並んだ砲門を向けている。

 

 

「·······」

 

 

ノクトは近付いてくる船を見て何かを思ったのか、ルイズとワルドの二人に一言告げて船長室へと向かう。

 

 

「なんかきな臭いな。ちょっと船長に聞いてくるわ」

 

「そうか、では僕も行こう。ルイズ、そこで待ってていてくれ」

 

 

ノクトとワルドは甲板から船長室へ歩いていった。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

船長室では見張り台へ続く導管に向かって怒鳴りつけていた。

 

 

「いいからやるんだよ! この辺りをうろついてるんだから貴族派の船に間違いないだろうが。いいか、『当方ハ商船、スカボロー港マデ行路ヲトル』だ」

 

 

雲から出てきた船は識別旗を上げずに接近してくるのである。こちらとしては敵意等が無いことを見せて進行を遮らないように伝えるしかない。

 

暫くして見張り台から声が返ってくる。

 

 

「船長、向こうから返答です。『停船セヨ、シカラザレバ砲撃ス』と!」

 

「あんだって?!」

 

 

そうしている間にも謎の船は見る見る近づいてくる。タールを塗られた黒い船体が日光で光沢を放っていた。

 

相手の船は舷側にずらりと砲を並べ、その数二十四門。こちらは申し訳程度に数門が移動式で用意されているに過ぎない。どうすればいいのかと逡巡していると、相手船の大砲の一つから砲撃が走る。

 

空気を割るような音がして、砲弾は商船の進路上数十メイルの位置をすり抜けた。

 

 

「再度向こうから『停船セヨ、シカラザレバ砲撃ス』と」

 

 

見張り台の報告とほぼ同時に船長室へノクトとワルドが入ってきた。

 

 

「なあ、さっきからあの船·······砲弾を撃ってきてるけど、何が目的なんだ?」

 

「いや、その·······停船しなければ砲撃すると向こうから」

 

 

その船長の言葉にワルドは顎に手を当てて暫く考え込むと、目を瞑っていた目蓋を開き船長に命令する。

 

 

「そうか、ふむ·······仕方ない、停船を」

 

「しかしですねぇ·······」

 

「僕らもここで死にたくはないんだ。頼むよ」

 

「は、はい·······」

 

 

船長は『これで破産だ』と呟き、停船命令を下した。

 

 

「裏帆を打て。停船だ」

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

いきなり現れて大砲を放った黒船と、行き足を弱め、停船した自船の様子に怯えて、ルイズは思わずノクトに寄り添った。

 

不安そうに、ノクトの後ろから、黒船を見つめる。

 

 

「空賊だ! 抵抗するんじゃねぇぞテメェら!!」

 

 

黒船から、メガホンを持った男が大声で怒鳴った。

 

 

「空賊ですって!?」

 

 

ルイズが驚いた声で言った。

黒船の舷側に弓やフリント・ロック銃をもった男達が並び、こちらに狙いを定めた。

 

鉤の付いたロープが放たれ、ノクト達の乗った船の舷縁に引っかかる。手に斧や曲刀等の得物を持った屈強な男達が、船の間に張られたロープを伝ってやってくる。

 

その数、およそ数十人。

 

 

「·······ちょっとこの数はやべぇかもな」

 

 

その様子を見つめて、ノクトが呟いた。

 

 

「ノクト·······」

 

「心配すんなよルイズ。お前には指一本触れさせはしねぇから」

 

 

不安そうに見つめるルイズに、ノクトは優しく声をかけると、再び乗り込んできた男達に視線を向ける。

 

得物を構える水兵に混じり、メイジの姿も散見される。そのうちの一人が呪文を放つのが見えた。

 

その瞬間、前甲板に繋ぎとめられ、ギャンギャン喚いていたワルドのグリフォンがばたりと甲板に倒れ、寝息を立て始める。

 

 

「今のは·······」

 

「眠りの雲。相手を眠らせる魔法さ。どうやら向こうには、確実にメイジがいるようだな」

 

 

ノクトの呟きに、いつの間にか背後に現れたワルドが答えた。

 

数十人の水兵達にメイジ、そしてこちらにぴたりと狙いをつけている数十門の大砲·······抵抗することはまずできないだろう。

 

 

「状況はこちらが圧倒的に不利だ。抵抗はしない方が身のためだな」

 

「ま、だろうな·······けど」

 

「けど?」

 

「ルイズにもしものことがあれば、容赦はしない」

 

「ノクト·······」

 

 

最悪の事態を想定したのだろう。ノクトが苦々しい表情で呟いた。

 

どすんと音を立て、甲板に空賊たちが降り立った。

 

その中から、派手な格好の一人の空賊が、一歩前に出た。

 

元は白かったのであろう、グリース油で汚れて真っ黒になったシャツをはだけ、そこから赤銅色に日焼けしたたくましい胸板が覗いている。

 

ぼさぼさの長い黒髪は、赤い布で乱暴にまとめられ、無精髭が顔中に生えている。

 

腰布に曲刀と小型のフリントロック銃を差し、ご丁寧にも左目に眼帯を巻いていた、いかにもといった風体のこの男が、空賊の頭のようであった。

 

 

「船長はどこでぇ」

 

 

荒っぽい仕草と言葉遣いで、辺りを見渡す。

 

 

「私だが」

 

 

震えながら、それでも勢一杯の威厳を保とうと努力しながら、船長が手を上げた。頭は大股で船長に近づき、顔をピタピタと抜いた曲刀で叩いた。

 

 

「船の名前と、積荷は何だ?」

 

「トリステインの『マリー・ガラント』号、積荷は硫黄だ」

 

 

空賊たちの間からため息が漏れる。頭の男はにやっと笑うと、船長の帽子を取り上げ、自分が被った。

 

 

「船ごと全部買った。代金はてめぇらの命だ」

 

 

船長が屈辱で震える。それから頭は、甲板に佇む、ルイズとワルドに気がついた。

 

 

「おや、貴族の客まで乗せてるのか」

 

 

ルイズに近づき、顎を手で持ち上げた。

 

 

「こりゃあ別嬪だ、お前、俺の船で皿洗いをやらねぇか?」

 

 

男達は下卑た笑い声をあげた。ルイズはその手をぴしゃりとはねつけた。燃えるような怒りを込めて、男達を睨みつける。

 

 

「下がりなさい、下郎!!」

 

「驚いた! 下郎ときたもんだ!」

 

 

男は大声で笑った。

 

その時である、淡々と空賊を見つめていたノクトが、何かに気がついたのか不意に首を傾げた。

 

 

「ん·······?」

 

「あン? なに見てんだ若いの」

 

 

首を傾げるノクトに頭が凄みながら近づく。

 

 

「いや·······別に?」

 

 

ノクトは視線を頭の手の部分に注目する。そこには指輪が嵌められていた。ルイズの持ってるやつとどこか似ていたが、今考えてもどうしようもないということで、面倒くさそうにノクトは両手を上げて降伏する。

 

 

「ふん、ジロジロ見てんじゃねぇよ」

 

 

空賊の頭はペッと唾を吐き捨てると、ルイズとノクト、ワルドを指差すと仲間達に命令を下す。

 

 

「てめぇら、こいつらも運びな、身代金がたんまりもらえるだろうぜ」

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

その後、空賊に捕らえられたノクト達一行は船倉に閉じ込められた。

 

『マリー・ガラント』号の組員達は、自分達のものだった船の曳航を手伝わされているらしい。

 

ノクトはデルフを取り上げられ、ワルドとルイズは杖を取り上げられた。

 

とは言っても、正直それはあまり意味がない。

 

ルイズは元々魔法が使えないし、ノクトに至っては元々所有している武器をいくつも召喚できるからだ。

 

だが、敵の目的がわからない以上、騒ぎを起こすのは危険だ。こちらにメリットが生まれたその時、暴れまわればいい。

 

周りには酒樽や穀物の詰まった袋、さらに火薬樽が雑然と置かれている。重たい砲弾が、部屋の隅にうず高く積まれている。

 

ワルドは興味深そうに、そんな積荷を見て回っていた。ルイズはちょこんと部屋の隅に座っており、ノクトも壁にもたれかかって座っている。

 

三人がしばらくそうしていると、扉が突然開いた。太った男が、スープの入った皿を持ってやってきたのだ。

 

 

「飯だ」

 

「おお」

 

 

扉の近くにいたノクトが受け取ろうとした時、男はその皿をひょいと持ち上げた。

 

 

「質問に答えてからだ」

 

「はぁ? 質問?」

 

 

ノクトがうんざりした顔をしていると、座り込んでいたルイズが立ち上がり、男を真正面から睨み付けた。

 

 

「·······言ってごらんなさい」

 

「お前達、アルビオンに何の用なんだ?」

 

「旅行よ」

 

 

ルイズは腰に手を当てて、毅然とした声で言った。

 

 

「トリステイン貴族が今どきのアルビオンに旅行? 一体、何を見物するつもりだい?」

 

「そんな事、あなたに言う必要はないわ」

 

「ふん、子供のくせに、随分と強がるじゃねえか·······」

 

「ふん!」

 

 

ルイズは鼻を鳴らして男の言葉を聞き流す。空賊は笑うと、皿と水の入ったコップを寄越した。ノクトはそれを受け取ると、ルイズの元へと持っていく。

 

 

「ほらよルイズ」

 

「あんな連中の寄越したスープなんか飲めないわ」

 

 

ルイズはそっぽを向いたが、そんな彼女に向かってワルドが口を開く。

 

 

「食べないと、体がもたないぞ」

 

「でも·······」

 

「食っとけって、我慢してると後々しんどいぞ」

 

 

そう言われ、ルイズはしぶしぶといった顔でスープの皿を手に取った。そしてスープを飲もうとしたが、床にしゃがみこんだままのノクトに気づいて言う。

 

 

「アンタも食べなさい。昨夜から何も食べてないじゃない」

 

「俺はあとでいい。ルイズが先に食べろ」

 

 

そう言われルイズはスープを一口ほど口へ運ぶとどこか不満そうな顔をする。口に合わなかったのだろう。ルイズはもういいと、ノクトに渡して部屋の隅へと移動した。

 

不味いものを渡されたノクトは、『それを食えってかご主人様』という呆れたような目付きで見る。

 

ノクトは我慢してスープを食べ終えると、する事が無くなった。ワルドは壁に背中をついて、何やら物思いにふけっている。ノクトとルイズは先ほどと同じように、床にしゃがみこんでいた。

 

しばらくそうしていると、再びドアが開いた。今度は痩せすぎの空賊だった。空賊はじろりと三人を見回すと、楽しそうに言った。

 

 

「お前らはもしかしてアルビオンの貴族派かい?」

 

「「「·······」」」

 

 

ルイズ達は何にも答えない。

 

 

「おいおい、だんまりじゃ分からねえよ。でも、そうだったら失礼したな。俺達は、貴族派の皆さんのおかげで、商売させてもらってるんだ。王党派に味方しようとする酔狂な連中がいてな。そいつらを捕まえる密命を帯びてるのさ」

 

「じゃあ、この船はやっぱり反乱軍の軍艦なのね?」

 

 

ルイズがそう問いかける。

 

 

「いやいや、俺達は雇われてるわけじゃあねえ。あくまで対等な関係で協力し合ってるのさ。まあ、お前らには関係ねえ事だがな。で、どうなんだ? 貴族派なのか? そうだったら、きちんと港まで送ってやるよ」

 

 

ノクトは顎に手をつきながら、この男の問いに対する答えを考える。

 

貴族派だ、と言えばこの場で自分以外の全員が殺されずに済むし、港まで運んでもらう事もできる。嘘をつくのはあまり好ましい方法とは言えないが、この際背に腹は代えられないだろう。

 

そう考えてノクトが口を開こうとすると、

 

 

「そう俺─────」

 

「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか!!」

 

 

ルイズがそれを遮るかのように、真っ向からその空賊を見据えて告げた。

 

 

「馬鹿言っちゃいけないわ。私は王党派への使いよ。まだ、アンタ達が勝ったわけじゃないんだから、アルビオンは王国だし、正統なる政府はアルビオンの王室ね。私はトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまりは大使ね。だから、大使としての扱いをアンタ達に要求するわ」

 

 

ノクトは思わず目を丸くしてルイズを見つめた。そしてルイズの言葉を聞いて、空賊が笑う。

 

 

「正直なのは確かに美徳だが、お前達ただじゃ済まないぞ」

 

「アンタ達に嘘ついて頭を下げるぐらいなら、死んだ方がマシよ」

 

 

そう言うと、空賊は笑みを消してルイズ達に言った。

 

 

「·······頭に報告してくる。その間にゆっくり考えるんだな」

 

 

そう言って、空賊は部屋から去って行った。

 

ノクトはルイズを見てから、ぼそりと呟く。

 

 

「おいルイズ、いくらなんでも馬鹿正直に話すなよ」

 

 

ノクトの言葉にルイズはふんと鼻を鳴らし、

 

 

「最後の最後まで、私は諦めないわ。地面に叩きつけられる瞬間まで、ロープが伸びると信じるわ」

 

「たまには嘘をついてその場を凌ぐもんだぜ?」

 

「それとこれとは話は別。嘘なんかつけるもんですか、あんな連中に!」

 

 

するとワルドが寄ってきて、そんなルイズの肩を叩いた。

 

 

「良いぞルイズ。さすがは僕の花嫁だ」

 

 

そんな二人を見て、ノクトは思わずため息をついた。

 

 

「確かに別にいいかもしれねぇけど·······ルイズ、お前が死んじまったら任務はどうするんだ? もしもお前が死んで任務が失敗したら、トリステインはたった一国でアルビオンと戦わなくちゃならなくなる。そこまで考えてたか?」

 

「そ、それは·······」

 

 

ノクトの正論にたちまち、ルイズは言葉に詰まった。案の定、そこまで考えてなかったようだ。

 

ノクトはもう一度ため息をついてから、

 

 

「こんな事は言いたくねぇけど、もうちょっと状況考えようぜ。お前はどこか短気すぎる」

 

「うっ·······」

 

 

何か言い返したそうだったが、正論なので何も言い返す事ができない。

 

そんなルイズを庇うためか、ワルドがノクトに言う。

 

 

「僕の花嫁をいじめないでくれないかい? それに、今の僕達じゃ状況をよく見てもできる事は何もないだろう?」

 

「·······もし本気でそう思ってんなら、魔法衛士隊の質を疑うわ」

 

 

何? とワルドが顔をしかめた直後、ノクトの目が鋭くなる。扉の方を睨み付け、ノクトは手のひらを広げる。まるで何かを掴もうとしているように。

 

その直後、扉が開いた。先ほどの痩せすぎの空賊だ。

 

 

「頭がお呼び───」

 

「ッ!!」

 

 

そう言いかけた瞬間、ノクトは短剣を召喚して空賊へと投げると、その距離を素早く詰めて空賊の喉元に刃を突き付ける。

 

そして、人差し指に口を当てて黙るように指示すると、小さな声で言う。

 

 

「騒ぐな。少しでも声を出したら、お前の首を斬る」

 

「·······ッ!!」

 

 

空賊はこくこくと頷きながら大人しくなった。それから振り返って、呆然としているワルドとルイズの方を見ると、静かに言う。

 

 

「脱出するぞ、ルイズ、ワルド」

 

「え、ええ!」

 

「·······ああ」

 

「武器がある場所まで案内しろ、でねぇと───」

 

 

空賊はまた潔くこくこくと頷く。

 

それからノクト達はデルフリンガーとワルドとルイズの杖がある部屋まで空賊を案内させ、武器を取り戻した。

 

 

『よお相棒、寂しかったなー』

 

「しっ!! 静かにしろ」

 

 

途中で他の空賊達に会わなかったのはそういう道を選んで通ったり、空賊を脅して通らなければいけない道にいる空賊の仲間を別の場所に行かせたり、隙をついてノクトがシフトして気絶させたりしたためだ。

 

自分達の武器を取り戻すと、ワルドがノクトに言った。

 

 

「杖は取り戻したが、これからどうするんだい? ここは空の上だよ」

 

「空賊達の頭の所まで行く。アイツを脅せば、港まで連れて行ってくれるはずだ」

 

「そんなにうまくいくかしら·······護衛もいるでしょうし、メイジもいるんでしょう?」

 

「その質問に答えてぇとこだけど、喋ってる暇はない。早く行くぞ」

 

「どうしてだい?」

 

 

ワルドが尋ねると、ノクトは怯えている空賊にデルフの切っ先を突きつけながら、

 

 

「こいつは俺達を頭の元まで案内するはずだった奴だ。そいつがいつまでも帰ってこなかったら、何かあったと考える方が自然だろ? そうなったら、必ず他の仲間がやってくる。その前に、頭の元まで行って叩きのめす必要がある」

 

 

その後、空賊に無理やり案内させて辿り着いた先は、立派な部屋だった。

 

後甲板の上に設けられたそこが、頭·······この空賊船の船長室であるらしい。

 

 

「中は? どうなってる?」

 

「ッ!!」

 

 

脅迫して部屋の内部を説明させる。

 

空賊から話を聞くと、部屋の中には豪華なディナーテーブルがあり、一番上座に頭が腰かけているという事だ。

 

 

「そうか、ありがとさん」

 

 

そう言ってノクトはデルフの柄で空賊の頭を殴って気絶させると、襲撃の作戦を練った。

 

 

「俺が頭との距離を一気に詰めてそいつを脅す。その間、ワルドはルイズを護っててあげてくれ。敵にメイジがいるかもしれねぇけど、スクウェアクラスのアンタなら別に平気だろ?」

 

「·······ああ。任せておいてくれ」

 

 

ワルドが頷く隣で、ルイズは一人不安そうな表情をしていた。先ほど空賊の前で啖呵を切ったのに、自分一人だけ何もできないというのが、彼女には歯がゆかった。これでは、何のためにここにいるのか分からない。

 

そんなルイズの頭にノクトの手がポンと乗っかり、安心させるように告げた。

 

 

「心配すんなよ、絶対にお前を守るから」

 

 

ルイズは相変わらず不安げな表情を浮かべながらも、こくりと頷いた。

 

ノクトは静かにデルフを抜くと、左手のルーンが輝く。それからワルドとルイズを一旦見回してから、

 

 

「オラッ!!」

 

 

扉が蹴り破られると同時、ノクトはシフトの力とルーンの力を開放して部屋の中を瞬間移動して駆け回る。

 

周りで驚愕の表情を浮かべている空賊達を無視し、ディナーテーブルを飛び越えると、上座に座っている空賊の頭の首に刃を突き付ける。

 

デルフの刃が首を切り飛ばすと思われた直前、デルフがぴたりと止まった。

 

 

「動くな魔法も唱えるな何もするな。少しでも変な真似を起こしたらお前の首を切り落とす」

 

 

ノクトがそう言ったのは、空賊の頭が大きな水晶のついた杖をいじっていたからだ。

 

どうやら、こんな格好だがメイジらしい。

 

デルフの刃は頭の首の皮一枚を切り裂くか切り裂かないかという非常に絶妙な位置で止まっており、ノクトがその気になれば頭の首を文字通り飛ばすだろう。

 

その一方、頭は動揺を浮かべる事もなく、ワルドに護られているルイズに視線を向けた。

 

 

「·······部下から聞いたが、お前ら王党派を名乗ったらしいじゃねえか」

 

「ええ、名乗ったわ」

 

「何しに行くんだ? あいつらは、明日にでも消えちまうよ」

 

「アンタらに言う事じゃないわ」

 

 

棘のある声でルイズが答えると、ノクトに剣を突き付けられているというのに歌うような楽しげな声で頭が言った。

 

 

「貴族派につく気はないかね? アイツらはメイジを欲しがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」

 

「死んでもイヤよ」

 

 

相も変わらずにルイズがそう告げると、頭が再びその口を開く。

 

 

「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」

 

 

もう我慢の限界だった。ノクトが頭に言い放つ。

 

 

「ねぇ·······そう言ったはずだが?」

 

「·······貴様はなんだ?」

 

 

頭がじろりとノクトを見ると、ノクトは頭を睨み付けながら告げた。

 

 

「アイツの使い魔だ」

 

「使い魔?」

 

「そうだ、何か悪いか?」

 

 

そうノクトが呟くと、頭は何故か大声で笑った。

 

 

「トリステインの貴族は、気ばかり強くってどうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らずどもよりは、何百倍もマシだがね」

 

 

頭はそう言いながら、わっはっはっはと笑い続ける。

 

ノクト達は、頭の豹変ぶりに戸惑い、顔を見合わせた。それでもデルフは変わらずに、頭の首に添えられていたが。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そう言ってから頭は、杖を明後日の方向へとポイッと床に投げ捨てた。ノクトは戸惑いながらもデルフを引き、警戒しつつ一歩後ろに下がる。

 

そして周りに控えた空賊達が、一斉に直立した。

 

そして頭は、()()()()()()()()()

 

なんと、それは『カツラ』だったのだ。眼帯を取り外し、作り物だったらしい髭をびりっとはがした。

 

現れたのは、凛々しい金髪の若者だった。

 

 

「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官·······本国艦隊と言っても、すでに本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。まあ、その肩書よりこちらの方が通りが良いだろう」

 

 

そう言ってから若者は居住まいをただし。

 

威風堂々、

 

名乗りを上げた。

 

 

「アルビオン王国皇太子、“ウェールズ・テューダー”だ」

 

 

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