ゼロの王子様   作:織姫ミグル

33 / 56
第32章

 

 

「·······ッ!!」

 

 

シエスタは、幼い兄弟を抱きしめ、不安げな表情で空を見つめていた。

 

ノクト達が学院へと戻り、しばらくこの休暇を家族と満喫しようかと思っていたが、先ほどラ・ロシェールの方から爆発音が耳に突き刺さってきた。何事かと思い庭に出ると、シエスタの目に惨劇が入り込んだ。

 

何隻もの船が空で燃え盛り、無惨にも落下し、山脈へ、森へと消え去っていく。

 

この様子はもちろん他の村の人達にも見ていたため、辺りは騒然と化した。

 

しばらくすると、こちらに巨大な船が艦隊となってやってきて、空から降りてきた。村人達が見守る中、草原に鎖のついた碇を下ろし、上空に停泊した。

 

その上から、何匹ものドラゴンが飛び上がり、こちらへと向かってきた。

 

 

「!? 早く家に入りましょうッ!!」

 

 

異常に気付いたシエスタは、不安な表情を抱える幼い弟や妹を家の中へと走らせた。窓から様子をうかがっていた父も、母を抱えて窓から遠ざかる。

 

瞬間。

 

轟ッ! と。

 

風の唸りをあげて、敵のドラゴンは一瞬にて村の中まで侵入し、辺りの家々に炎を吐きかけた。

 

 

「きゃあ!」

 

 

母が悲鳴をあげ、幼い子供達がビクッと震え出す。

 

シエスタも怖い。

 

怖いけど内へと隠さなければならない。

 

自分が一番年上なのだから、他の子に弱さを見せてはいけない。それでも体は素直にも震えてしまう。必死に止めようとするも、言うことを聞いてくれない。

 

家に炎を吐かれて、高温灼熱によって窓ガラスが盛大に割れ、飛び散った。

 

村が、平和な村が。

 

一瞬によって悲鳴と怒号が混じった混乱に陥る。

 

父は気を失った母を抱いたまま、他の子供達と一緒に怯えているシエスタに向かって叫んだ。

 

 

「シエスタ! 弟達を連れて南の森に逃げるんだ」

 

「え!? お父さん達は!?」

 

「俺達もすぐに追い付く! お前達は先に行け!!」

 

「は、はい!」

 

 

少女は僅かながらも願う。

こんな時、ヒーローのように駆けつけてくれるであろうあの『青年』のことを。

 

それは、無理に決まっている。

 

どうしようもないとわかっている。

 

それでも、願わずにはいられない。

 

 

(助けて·······ノクトさんッ!!)

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

タバサ達が学院に着いたのも、『()()()()()()()()()使()()』が着いたのも、翌日の朝であった。

 

 

「ああ、君たち!!」

 

「「「「?」」」」

 

「オスマン氏に即伝えねばならぬことがあるのでね、どこにいるか教えてくれるか!?」

 

 

使者は、ほぼ同時に到着したタバサ達にオスマン氏の居所を尋ねると、それを聞いた途端に早足で駆け去っていった。

 

 

「なんだったんだ、アイツ?」

 

「多分·······トリステインからの使者」

 

 

ノクトの疑問にタバサが答える。

 

一瞬ではあったが、使者の顔が見えた。何か尋常ではないような表情をしていて、一刻も争う事態な感じであった。

 

 

「「「「·······」」」」

 

 

四人は顔を合わせて頷いた。

その何かとんでもない事が起きてしまった様子に、タバサ達は顔を見合わせ、そしてその真実を確かめるべく後をついていった。

 

ついていった先にあったのは学位長室。

 

オスマン氏のいる居室の扉が、勢いよく叩かれた。

 

 

「誰じゃね?」

 

 

それでも、冷静に対処するオスマンはやはりと言うべきなのだろうか?

 

返事と同時に扉もまた勢いよく開かれ、使者が叫び声で用件を述べた。

 

 

「王宮からです。申し上げます! アルビオンがトリステインに宣戦布告! 王軍は、現在ラ・ロシェールに展開中! 従って学院に置かれましては、安全のために生徒、及び職員の禁足令を願います!」

 

 

しかし、その冷静さも耳へと入ってくる使者の言葉に崩れ去っていった。

 

 

「宣戦布告とな? 戦争かね?」

 

 

平然を装ったが、内心は焦っている。

 

 

「いかにも! タルブの草原に、敵軍は陣を張り、ラ・ロシェール付近に展開した我が軍と睨み合っております!」

 

「········アルビオン軍は、強大だろうて」

 

 

オスマン氏の言葉に、使者は悲しげな声へと変わる。

 

 

「敵軍は、巨艦『レキシントン』号を筆頭に、戦列艦が十数隻。上陸せし総兵力は三千と見積もられます。我が軍の艦隊主力はすでに全滅、かき集めた兵力はわずか二千。未だ国内は戦の準備が整わず、緊急に配備できる兵はそれで精一杯のようです。しかしながらそれより、完全に制空権を奪われたのが致命的です。敵軍は空からの砲撃をくわえ、我が軍をなんなく蹴散らすでしょう」

 

「現在の戦況は?」

 

「敵の竜騎兵によって、タルブの村は炎で焼かれているそうです·······同盟に基づき、ゲルマニア軍の派遣を要請しましたが、先陣が到着するのは三週間後だとか·······」

 

 

その発言で、オスマン氏は見据えると、ため息をついた。

 

 

「·······見捨てる気じゃな。敵はその間に、トリステインの城下町をあっさり落とすじゃろうて」

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「戦、争?」

 

 

学位長室の扉に張りつき、聞き耳を立てていたキュルケとルイズは顔を見合わせた。

 

好奇心で使者の後をついていったら、戦争と聞いて、ルイズの顔が蒼白になった。

 

 

「·······」

 

 

すると一人、ノクトは何の感情を見せず、廊下を歩き出した。

 

タバサは黙ってちょんちょんとルイズの肩をつつき気付かせた。ルイズは慌ててノクトの後を追いかける。ルイズは駆け足でノクトへと近づき、腰に抱きつくように彼の足を止めさせた。

 

後ろから、タバサとキュルケが続いて歩いてくる。

 

 

「ちょっと! どこに行くのよッ!?」

 

「タルブの村だ!!」

 

「なッ!? 何しに行くのよ!」

 

「シエスタを助けに行く、それだけだ!!」

 

 

そう言うと、ノクトは進む。ルイズが全体重をかけても、ゆっくりとだが前へと進む。

 

 

「ダメよ! 戦争してるのよ!? アンタ一人行ったってどうにもならないわッ!!」

 

「·······タバサ」

 

 

そんなルイズを無視して、ノクトはタバサに声をかける。

 

なに? とタバサが小さく聞き返してきた。

 

 

「·······お前のシルフィード、借りてもいいか·······?」

 

 

振り返るその体には怒りに満ちていた。

 

まるで、触れればそれだけで火傷でもしそうなほどに怒気が全身を包んでいた。

 

 

「·······構わない」

 

「「!?」」

 

 

なっ!? とキュルケとルイズが目を疑った。ノクトは助かるとだけ言い、再び歩き出す。

 

 

「ダメよ! アンタが幾ら強くても、あんな大きな戦艦相手に勝てるわけじゃないの! わかんないの? アンタ一人行ったって、どうにもならないの! これはもはや『運命』に近いの!! 王軍に任せておきなさいよッ!!」

 

「運·······命?」

 

 

ルイズは必死にノクトを説得しようとした。しかし、ノクトの足は前へと進み続ける。

 

戦争を何度も経験して、幾度も強敵と相手にしてした彼に恐れるものなんかない。そして戦争という名において、どれだけの重みがあるかも知っている。

 

青年は決して足を止めない。何があろうとも進むその姿勢を崩さない。

 

そして、

 

そして、

 

『運命』という言葉を耳にしたノクトはピタッと止まり、腰にしがみついているルイズの体に震えが伝わるほど、ノクトの体が最大限に震えていた。

 

まるで怒りに満ちたように。

 

 

「見たく·······ないんだ」

 

「え?」

 

「もう見たくないんだよ! オスマンが言ってたじゃねぇか、この国が占領されるって。それってつまりはアルビオンで起きたようなことがまたここで味わうことになんだろ!? んなもん俺は二度と味わいたくねぇんだよッ!! 第一俺は─────ッ!!」

 

 

そこでノクトは言葉を紡ぐのを止めた。

 

ルシス王国が陥落した時のことを思い出したからだ。自分の父であるレギス国王は、戦火に巻き込まれないように先に旅立たせ、そして王都陥落の一部始終を見せないようにした。

 

そんな経験二度と御免だ。

 

 

「とにかく俺はタルブの村に行く。行って、シエスタ達を助けるッ!!」

 

「だ、だからって、アンタが行ってどうなるってのよ!?」

 

「俺は────ッ!!」

 

 

そこでノクトは息を詰まらせる。

 

“王”だから、とノクトは言葉もなしにそうルイズに告げようとしていた。

 

言葉がなくても伝わってきたルイズは、掴むその手をつい弱めてしまった。ノクトは自分の道を最後まで貫き通すのが彼という人間だ。こうなってしまっては誰も止められない。

 

ノクトは目を限界まで見開き、怒りの感情を剥き出しにして突き進む。

 

 

「·······俺は、お前やアンリエッタ姫、それにシエスタ、そしてこの世界を守る。そう決めているから行くんだよ·······ッ!!」

 

 

それに、と青年は続ける。

 

 

「自分がのうのうと暮らしている陰で、別の誰かが苦しんで、血まみれになって、助けを求めて、そんなことにも気付かずに! ただ見知らぬふりして生きていることなんかできるわけねぇだろうがッ!!」

 

 

そうだ。

 

フーケを捕まえたのだって、

 

ワルドを倒して、王女の任務を達成したのだって、

 

ノクティス・ルシス・チェラムがこの世界にきたことだって、

 

きっかけは神々が与えた『運命』によるものだったとしたら、その一点だけは見過ごせない不幸な出来事だ。

 

今回だって、本来ならタルブの村にいたはずだ。

 

そこで今回の事件にも巻き込まれたはずだ。それなのに、『運命』は残酷にもその前に自分が去ってしまい、シエスタとその村の人達が危険にさらされている。

 

シエスタ達は何も悪い事をしていない。それなのにただの『運命』という一言のためだけに皆が殺されるだなんて耐えられない。

 

いや、どんな理由があっても許せない。

 

本来なら自分も受けるはずの痛み。巻き込まれないだけでこんなに辛いものだとは思わなかった。

 

 

(絶対に·······ッ!!)

 

 

助ける。

 

今にもぶちギレそうな感情を押さえ込む。

 

だから、邪魔をするな。

 

自分に今『運命』なんぞ押し付けるな。すぐ側でみんなが苦しんでいる事に気付けずに、ただ一人のうのうと生き続けるなら、その『運命』に苦しむ人々にいくらでも巻き込まれてやる。

 

そう覚悟したノクトだからこそ、こう宣言する。

 

 

「たとえ戦争でも! なんであろうと俺は行く!! 人を助けるのに躊躇とか迷いとかそんなの関係ねぇ!! 誰かを助けるのに理由なんていらねぇんだッ!!」

 

 

瞬間、左手に刻まれた文字が輝きだした。

 

ノクトのその強い想いに応えるかのように、意志を持っているかのように、輝きだす。

 

眩しいくらいに光が満ちている。

 

 

(·······これって!?)

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

頭の中にその言葉が意味となって語られてくる。

 

それはもはや、『運命を超越』したレベルの代物であった。

 

 

「·······フッ」

 

 

不覚にも笑ってしまった。

 

アルビオンの巨大な戦艦を倒せる自信はない。

 

ないのだが·······

 

青年の左手には、可能性が残されたたった一つの切り札。

 

それが眠っていたのだとわかったのだ。

 

 

「·······ルイズ·······」 

 

 

ノクトは再びルイズの方に体を向ける。

 

 

「戦争だろうが何だろうが、俺はシエスタを助けに行く·······それだけだ」

 

 

その揺らぎのない意思を持ったノクトに対し、ルイズは呆れた声で言った。

 

 

「馬鹿じゃないの? アンタ、勝ち目がほとんどない戦いに身を投じて、それで死んじゃったらどうするのよッ!?」

 

「死なねぇよ」

 

 

とあっさり言い、ノクトはルイズの頭にポンと乗せる。

 

 

「俺は、お前の使い魔だ、ルイズ」

 

「!!」

 

「だったら、なんとしてでも生き延びて帰ってくる。約束する」

 

 

笑みを浮かべて。

 

獰猛で、野蛮で、荒々しく、上品さのかけらもない、けれど確かに最高に最強な笑みを浮かべて、この上ない力を感じさせる言葉を出した。

 

その笑みを見て、ルイズはあの夜の一件を思い出す。

 

ノクトの故郷、ルシス王国が陥落してしまった時、奪還するために様々な戦いに身を投じた。

 

例えそれが無謀であろうとも、

 

無鉄砲で、

 

向こう見ずで、

 

命知らずであろうとも。

 

どんなに説得しても行ってしまう、ずるい人間。

 

だから、少女がやれる事は、もう一つしかない。

 

 

「なら·······私も行く」

 

「·······は?」

 

「私も行くの! 私を守る使い魔なら、主人の側を離れちゃダメでしょ!?」

 

「何言ってんだ! お前はダメに決まってんだろッ!?」

 

「ダメッ!! もう決めたの!! 前にも言ったけど、私にだってささやかだけどプライドってもんがあるのよ! 私は貴族よ!! 魔法を使える者を貴族と呼ぶんじゃない、目の前に押し寄せる『運命』から逃れない者を貴族と呼ぶのよッ!!」

 

「·······ッ!!」

 

 

ノクトは迷った。さすがに戦場にルイズを連れていってはマズイに違いない。

 

この少女も、青年と同じく一度決めたら絶対にやり過ごすタイプなのだ。困っている人間に、手を差し伸べるというタイプ。

 

ノクトは考えたが、時間はかけなかった。ここで無駄に時を消費したくない。

 

故に聞いた。

 

 

「命の保証はできねぇぞ? その覚悟はあんのか?」

 

「今更よ」

 

「·······わかった」

 

 

ノクトは腰にしがみついているルイズの手に自分の手を置いて、

 

 

「行くぞッ!!」

 

「ええ!!」

 

 

ルイズはノクトの腰から手を離し、二人して駆け出した。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

広場に出て、ピューッと甲高い口笛をタバサは吹いた。

 

すると、一瞬のうちにシルフィードが降り立ってきた。

 

 

「二人·······乗せてあげて」

 

 

シルフィードは短く『キュイ』と鳴いて了解の意を主人に伝えた。

 

 

「悪いなタバサ。シルフィードには絶対に傷つけさせねぇから」

 

 

タバサはコクリと頷く。

ちなみに、キュルケもついて行くと言ったが、

 

 

「人数が多けりゃいいってもんじゃない、逆に足手まといになる」

 

 

だからダメだ、とノクトに断られた。

 

キュルケはその一言にガックリとへこんでしまったが、すぐに笑顔になって顔を上げて、

 

 

「だったらダーリン! 絶対死なないで帰ってきてねッ!!」

 

「ああ!」

 

 

そう言ってシルフィードの背に乗る。そして、左手で頭を触ってやった。

 

瞬間、ルーンの文字が再び輝く。

 

 

「俺の友人を助けたいんだ。わがままだってことはわかってる·······けど、頼む!」

 

 

ノクトの悲痛な願いがシルフィードに伝わる。

ルイズがひょいっと飛び乗ってノクトの腰に手を回した。

 

 

「しっかり掴まってろよルイズッ!!」

 

「え·······?」

 

「全速力で頼むぜシルフィードッ!!」

 

 

するとノクトは左手でシルフィードを撫でた。光輝くルーンがそれに呼応し、シルフィードも理解したかのように短く鳴き声をあげる。

 

同時に、シルフィードは力強く羽ばたいた。一瞬のうちに高く空に浮かび、鮮やかに飛び去っていった。

 

 

「早いわねぇ」

 

 

キュルケがポカンと口を開けて言った。今まで見たことがないスピードであった

 

 

「·······最高速度·······」

 

 

タバサも、さすがのその速さに目を丸くしていた。

 

 

「ちょ!? は、ははは、速すぎぃッ!! どれだけ速度を出してんのよノクトォォォォオッ!?」

 

 

風圧に負けそうになっているルイズの絶叫が上空にて響き渡った。

 

 

(待ってろシエスタッ!!)

 

 

ノクトはそんな風圧には負けずに友であるシエスタを救うため、ハルケギニア上空を飛ぶ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。