ゼロの王子様   作:織姫ミグル

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第33章

 

 

タルブの村の火災はおさまっていたが。

 

一日前の平穏な村ではなく、戦場へと変わり果てていた。

 

草原には、アルビオンの軍隊が集結している。

 

対して、トリステイン軍隊は港町ラ・ロシェールに立て籠っていた。

 

両者睨み合ったままの時間だけが過ぎていく。いつ決戦の火蓋が切られてもおかしくない状況。

 

また、タルブの村の上空では、空からの攻撃を部隊から守るため、『レキシントン』号から発艦した竜騎士隊が見張りを兼ねて飛び交っている。

 

実際、何回かトリステイン軍の竜騎士隊が攻撃をしかけてきたが、いずれもこちらにそう被害なく返り討ちに合わせた。

 

決戦を行う前に、トリステイン軍に対し艦砲射撃が実地する事をアルビオンは決めていた。

 

これで一気に敵の士気を下げようとする。

 

そのため、『レキシントン』号を中心としたアルビオン艦隊はタルブの草原の上空で、砲撃の準備を進めていた。

 

タルブの村の上空を警戒していた竜騎士隊の一人が、自分と同じ高度の一点から近づいてくる一騎の竜騎兵を見つけた。

 

竜に跨がった騎士は味方に敵の接近を告げる為、竜に甲高い泣き声を鳴かせた。

 

こちらが気付いたのならば、それは向こうの竜騎兵も同じ事が言える。

 

メスの風韻竜に乗っているのは黒い服を着た男に、桃色がかったブロンドの美少女だった。

 

 

「ノ、ノクト!? 敵がこっちに来てるけど大丈夫なの!?」

 

「·······」

 

 

ルイズが目の前にいる青年に話しかける。

 

しかし、返事は返ってこない。

 

ノクトは、タルブの村をシルフィードの上から覗き込んでいた。つい一日前に見た、素朴で美しい村はそこにはなかった。ほとんどの家は燃やされたのか、黒い煙がもんもんと立ち昇っている。

 

 

「ッ!!」

 

 

ギリッと奥歯を噛み締めた。呼吸が心なしか荒くなる。

 

シエスタと一緒に見た草原が、アルビオンの軍隊で埋まっていた。綺麗だったその光景は、今では醜いものにしか見えない。

 

そして、一騎の竜騎兵が村のはずれの森に向かって、炎を吐きかけた。瞬く間に森は燃え広がる。

 

ノクトの中で、何かがキレる音がした。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

怒りで、体が震えた。

 

ノクトの体内で、歪んだ熱が暴走する。血が沸騰してしまいそうなほど体が熱くなる。噛み締めた奥歯が、そのまま砕けてしまいそうになる。

 

そんな中、ただ一つ、気持ち悪いぐらい冷静な自分が導き出した結論がある。

 

 

(絶対許さねぇッ!!)

 

 

戦争が人間をこんなにしたんだとか言われているが、そんなものノクトには関係ない。もう、気にする前に手が出てしまいそうなのだ。

 

迫ってくる竜騎兵を迎え撃つ為、握っていた拳を開いた。

 

 

「ノクトッ!!」

 

 

ルイズの叫びに、ノクトはハッとなる。怒りで我を忘れかけた使い魔を、主が落ち着かせたのだ。

 

 

「何さっきから黙っているのよ! 敵が来てるのよ!?」

 

「ああ悪い、サンキュ。もう少しで見失うところだったわ」

 

 

同時、敵の火竜がブレスを吐いてきた。

 

シルフィードは咄嗟に方向を斜め下に向け、重力の流れに従い、敵の攻撃を避ける為急降下する。

 

そのまま地面にへとぶつかりそうな感覚を二人は覚えたが、シルフィードは再び羽を広げて風の抵抗を受けて、再び一定の高度を保つ。

 

グッ! と重力がかかり、一瞬だが数倍の体重になるがそれだけだ。

 

命に別状はない。

 

 

「助かった。ありがとなシルフィード」

 

 

きゅいきゅい、と喜びの鳴き声を発するシルフィード。

 

一方のルイズはお怒り心頭である。

 

 

「このバカッ!! もう少しで死んじゃうところだったでしょッ!?」

 

「いや·······こればっかりは俺じゃなくてシルフィードの問題だと思うんだが」

 

 

ルイズの理不尽な要求に困るノクト。やはりと言うべきなのかやりにくい。今生死の境目にいるという実感が沸いてこない。

 

逆に言えば、それは死なないという自信を持っているからであるのだが。とにかく、先のような奇襲はもう受けない。ここからが、反撃のチャンスである。

 

 

「さって、と」

 

 

ノクトは言う。

まるで肩の調子を確かめるように、右腕を大きく回す。

 

 

「まずやるべきなのは·······」

 

 

ノクトは辺りを見渡す。

周辺には竜騎兵が何頭も飛んでいる。竜に乗って操っている兵士は、ざっと数十人。

 

飛んでいるこの状態でシフトブレイクが出来るかどうかは、ノクトの腕次第。

 

そしてノクトはまず近くの竜騎兵に狙いを定めた。

 

 

「·······アイツだな」

 

 

こちらに向かってくる竜騎兵が一頭。

 

ノクトは背中からデルフを抜いて、調子はどうか確かめるように聞く。

 

 

「やれそうか、デルフ」

 

『おう相棒! いつでも行けるぜ!!』

 

 

それが合図となった。

 

ノクトは後ろにいるルイズの方を振り返って、

 

 

「悪いルイズ、シルフィードの操縦頼むわ」

 

「え?」

 

 

そう言い残し、ノクトはデルフを槍投げのようにして、近付いてくる竜騎兵目掛けて投擲する。

 

 

「はあッ!!」

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「な、に!?」

 

 

竜騎兵の顔に衝撃が走る。

 

向こうの敵の姿が急にいなくなったと思ったら、いきなり目の前に現れ、それと同時に熱い何かが腹の底からこみ上げてくる。

 

 

「ご、ごばぁッ!?」

 

 

鮮血。

口から吐かれた血がデルフの剣身にかかり、デルフは声を上げる。

 

 

『オイッ!! 汚ねぇもんを俺様に吐くんじゃねぇよッ!!』

 

 

デルフの抗議の声は無視し、刃を腹にめり込ませたノクトは剣を引き抜き、そして竜の頭に剣を刺す。

 

 

「グォォォォオッ!?」

 

 

という呻き声を上げて絶命したドラゴンは、翼を動かす力を失くしそのまま墜落していく。

 

前に。

 

 

「次!」

 

 

先程倒した竜騎兵の近くにいた奴に、デルフを投擲する。そしてまた腹をぶっ刺し、敵をドラゴンの上から落とすと、そのドラゴンも倒す。

 

 

「「「「「·······ッ!?」」」」」

 

 

それを見ていた竜騎兵達は思わず火竜の動きを止める。次から次へと、仲間をぶっ刺してドラゴンを撃退していく何者かに、恐怖したからだ。

 

それが、彼らの命取りとなる。

 

シュンッ! と。

 

風を切り裂き、虚空を越えるノクトは次々と竜騎兵達を一人一人確実に仕留めていく。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「よっと!」

 

 

敵を撃破させた後、シルフィードの元へとシフトして戻ってきたノクトは、降下するシルフィードの背びれにしがみつく。

 

シルフィードの目には、敵の姿がはっきりとどこにいるかが見えている。再び全速力でその地点に向かう。

 

半分まで距離を縮めて、敵が気付く。

 

ノクトの目にも確認が取れる。

 

一、二、三匹といる。

 

もっとも、何匹来ようがノクトには関係ない。

 

 

「ぶっ刺すッ!!」

 

 

ノクトはまたシフトして、操縦士である竜騎兵目掛けてデルフを投擲する。彼の投擲スキルは高すぎる。投げたらほぼ確実に当たると言ってもいい。

 

百発百中。

 

動く的相手に、彼は確実に剣を刺していく。

 

 

「す、凄い·······ッ!!」

 

 

ルイズが驚きの声を出す。

 

気付くと、ノクトがまたシフトしてシルフィードの元へと戻ってきていた。

 

するとルイズがこんなことを言ってくる。

 

 

「アンタ投擲上手すぎじゃない!? どうなってんのよアンタの腕!?」

 

「いやまあ、これが俺の力なわけだし·······あ、つか気をつけろよ。一気に急上昇させるから」

 

「へ?」

 

 

ノクトはそう言ってシルフィードに左手で撫でると、シルフィードはきゅいと鳴き声を上げる。

 

するとシルフィードは、ノクトの命令に従うように翼を羽ばたかせて一気に上昇する。

 

 

「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁあッ!?」

 

 

敵のブレスを羽ばたかせて、さらには上昇気流に乗ってやり過ごす。

 

シルフィードには、力はないが速さはあった。

 

これはノクトのシフトブレイクと相性がいい。

 

急上昇したと思いきや、再び急降下。三匹の傍まであっという間にノクトを連れ込む。

 

そして、全員がノクトのシフトブレイクの餌食と化した。

 

ある奴は腹に刃をめり込まし、ある奴は頭を切り落とし、ある奴は首から足まで大剣を二回転して切り落とした。

 

ノクトは容赦しない。

 

あの絶景を台無しにした敵軍を。平和な村を戦場へと変えた屑共を。

 

シルフィードに戻ったノクトは、再び上昇するよう命令する。

 

すると、ルイズが状況を教えてくれた。

 

 

「後方から十匹、周りを取り囲むように来てるわよッ!!」

 

「!?」

 

 

ルイズの言う通り、距離はあるが完全に背後をとられた。

 

しかし、だからといってノクトもシルフィードも焦る様子はない。

 

いや、そうする必要がないのだ。

 

 

「囲むっつーことは、各個撃破だな」

 

 

そう言うとまたノクトはシルフィードの頭に左手を置いて、ほとんど直角と言っていい角度で旋回した。

 

 

(やっぱり·······怖いッ!!)

 

 

ルイズの心の中で恐怖の波が全身へと広がっていく。ノクトの背中がなければ、恐怖に飲み込まれる所だった。

 

そもそも、ノクトの使っている魔法は一体どの系統になるのだろう? 

 

火? 風? 水? 土?

 

どう考えても、どれにも当てはまらない気がした。

 

よってルイズはこう考えた。

 

 

(まさか·······虚無!?)

 

 

あんなのは普段から勉強熱心なルイズでさえ見たことがなかった。いや、そもそもシフトブレイクの仕組みすら知らないのだ。今更そんなとんでもない展開になっても驚きはしない。

 

しないが、気にはなった。

 

ノクトの力は一体なんなのだろう、と。

 

再びノクトの剣がすれ違い様に敵を、今度は竜ごと斬り刻む。大剣を召喚しドラゴンの首を斬った途端、竜騎兵もろとも下へと落下させる。

 

落下の勢いで体がぐちゃ、という音を立てたのが聞こえる。

 

 

「う、うぷ·······ッ!!」

 

 

ルイズは思わず口元を押さえる。

 

シルフィードに乗ってて酔ったからではない、死体となった敵兵を見て吐き気がこみ上げてくるのだ。ルイズは唾液を懸命に飲み込み耐える。

 

ノクトは敵相手に容赦はしない。しかし、ルイズの方はほとんどシルフィードの上に乗っているだけだ。

 

何と言うか、ルイズの必要性が全く感じられない。

 

 

(な、なによなによ! わ、私にだってやることはあるんだからッ!!)

 

 

模索するが、何も浮かばない。これではノクト一人で戦っているようにしかならない。

 

何か、何かないかと、ルイズは手を服にあてる。

 

すると、マントの裏には『始祖の祈祷書』が入ってあった。そしてアンリエッタ王女から貰った大切な『水のルビー』。

 

 

(·······って、この二つでどうするっていうのよ·······ッ!?)

 

 

何も書かれていない本とただの指輪に、ルイズは内心泣いた。

 

しかし、だからといって現実が変わるわけではない。残る手段としては、神に祈る事ぐらいである。

 

もっとも、目の前の青年はその神様でさえ倒してしまうことが出来る力を持っているのだが·······。

 

雰囲気を出す為、『水のルビー』を指に嵌めて、両手を胸の前で強く握る。

 

 

「お願い·······ノクトと私を、どうかお守りください」

 

 

呟くと、もう一つこの場に持ってきた本を手に持つ。

 

思えば、そろそろアンリエッタの結婚式がもう少しで行われる。こんな状況でも、いつもと変わらない事を思ってしまう自分が不思議だ。

 

ずっと抱いていた疑問。

 

何故この本には何も書かれていないのだろう?

 

詔を考える為に渡されたのに、いくらなんでもそれはおかしかった。

 

結局どういう理屈であったんだろうと、何となく開いた。

 

特に理由もなく。

 

本当になんとなく。

 

だから、

 

その瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

ルイズが始祖の祈祷書に浮かび上がった内容を読んでいる間、ノクトは残りの竜騎兵を倒していた。

 

二十いるアルビオンの竜騎士隊も、シルフィードとノクトの連携により無惨にも全滅と化した。

 

天下無双と謳われたアルビオンの竜騎士でも、風韻竜とルシスの王子の前には歯が立たない。

 

残るは本家、絶対に忘れることのない、アルビオンへと上陸する際に見かけたあの巨大戦艦。その船の下では、港町ラ・ロシェールが攻撃を受けている。

 

 

「あれを壊さなきゃ、どうやら終わらねぇみてぇだな」

 

 

しかし、どうすればあれを倒せるのだろうか?

 

こちらの武器はファントムソード十三本と、デルフリンガー一本と、その他の武器達だけだ。今までは同じ大きさでの戦いであったが、今回のはスケールが違う。

 

リヴァイアサン戦くらいのレベルの戦いだ。

 

そんな状況でのノクトの策は、敵艦に乗り込んで内部から破壊するという、シンプルな案であった。いや、それ以外にいい方法が浮かばなかった。

 

ノクト達が潜り込もうと、近付いたその時、

 

敵の艦隊の右舷側がフラッシュのように光った。

 

瞬間、シルフィードが再び直角に移動方向を変えた。

 

ノクト達がいた場所に無数の鉛の弾が通過する。シルフィードの咄嗟の判断がなければ、今頃死んでいたに違いない。

 

心臓の鼓動が大きくなる。ここにきて、生死の境にいるのだと実感した。

 

 

「チッ!」

 

 

とノクトは舌打ちをする。

 

どうやら敵はこちらの存在をちゃんと認識しているようだ。

 

一拍置いて、再び鉛の弾がノクト達目掛けて発射される。しかし、シルフィードの持つ速さを利用し、避ける事だけに集中すれば、なんとかやり過ごせる。

 

やり過ごせるのだが、それだけだ。

 

目標である敵艦に乗り込む行為をする為の手札が圧倒的に不足していた。

 

 

(クッソッ!! 何か、何か手はないか!?)

 

 

歯を食いしばり、シルフィードが懸命に自分達の寿命を伸ばしている間にも、必死に考えを巡らす。

 

 

(せめて隙を作れれば·······ッ!!)

 

「·······なに、これ·······!?」

 

 

“ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ”

 

以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。

 

初歩の初歩の初歩。

 

『エクスプロージョン』

 

 

「ッ!!」

 

 

ドクン! とルイズの鼓動が一段と大きくなった。

 

そして『エクスプロージョン』の呪文が浮かび上がる。

 

あまりの急展開にルイズは思わず笑いそうになる。

 

ここまで読めるなら、読み手として文字が読めるのなら、きっとこの呪文の効力が発揮されるのではないか?

 

だって、今まで失敗だと思われた魔法は毎回爆発していたのだ。

 

では、なんで毎回爆発していたのか?

 

失敗して爆発した例が他にあったのだろうか?

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

これほど笑ってしまう話、ルイズには体験した事がなかった。

 

 

「ねえ、この指輪を使って初めて読めるなんて·······どこのパズルよ。私も案外抜けているのね」

 

 

自分にもあったのだ。この戦況を変える事のできる切り札が。

 

熱していた頭の中が、ゆっくりと、ゆっくりと冷めていく。

 

心拍数、血液循環、筋肉、骨、体のありとあらゆる組織が落ち着きを取り戻す。

 

『エクスプロージョン』という名の呪文のルーンが、すらすらと頭の中に入ってくる。

 

まるで、それを望んでいたかのように、それを待ち侘びていたかのように、理解していく。

 

ここまできたら、やろう。

 

いや、やらなければならない。

 

今もどこかでこの戦争の行方を心配している姫様の為に。

 

こんな自分を守ってくれる、大切な使い魔の為に。

 

そして、今まで秘められた力に気がつかなかった自分の為に。

 

さぁ、始めよう。

 

この日、

 

この時、

 

この場所で、

 

新たに生まれた物語を。

 

 

─────ゼロのルイズの物語をッ!!

 

 

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