ゼロの王子様   作:織姫ミグル

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第37章

 

 

お祭りの途中。

 

剣や鎧、服や時計などがある中でノクトは一つの服に着目し、手に持った。

 

ルイズが思わず尋ねる。

 

 

「どしたの? 服が欲しいならもっといいの買いなさいよ」

 

「いや、ちょっとな」

 

 

しかしノクトはあまりいい反応をしない。

 

考え事に夢中であるから、だ。

 

 

(スクールブレザーか·······こっちにもあんだな)

 

 

ノクトはこれをシエスタにプレゼントするのはどうかと思い始めた。

 

シエスタに何かお礼をと思って考えたノクトの中では、これはきっとかなり可愛い服であるとは思う。

なんせルシス王国が誇るルシス文化の三種の神器の一つである。

 

多分こちらでも通じるに違いない。

 

仕立てはルイズに後で頼んでみるか、と思いながら、ノクトは商人に尋ねる。

 

 

「これ、いくらだ?」

 

「三着で一エキューさ」

 

 

ノクトは一エキューがどれほどの価値であるか早速理解できた。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

ノクトはその日の夜、早速購入したスクールブレザーをシエスタに渡そうと思ったので、彼女の部屋に訪れた。

 

メイド長から居場所を教えてもらい、ドアを二回ノックする。

 

すると、『どうぞ~』という言葉が聞こえたので、ノクトは特に何も考えず扉を開いた。

 

そこには、金髪の子とオレンジ色の髪の子が、のんびりと寝転がっている。女の子として、いろいろまずいんじゃないかと思ってしまうような態勢で。

 

ノクトは、早くここから出ろと体が訴えているのを感じた。一瞬の内に上手く回避できる言葉を吐き出す。

 

 

「あー、部屋間違えたみたいだわ。悪い、それじゃあ──────」

 

 

百八十度躊躇いもなく振り返り、全力で逃げようとしたが、

 

 

「待ちな、ここは間違いなくシエスタの部屋だぞ?」

 

 

どうやら間違いではないようである。

 

更には、金髪の子ががっしりと腰に手を回し、オレンジ色の子が足を掴んでいる。

 

 

「·······えっと、つまりここにいろ、と?」

 

 

ノクトの問いに、『うん』と満面の笑みで二人は迎えてくれた。

 

夜はまだ始まったばかり·······

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「それで! アンタとシエスタはどういう関係になったのよ!?」

 

 

演技なのかドン! とちゃぶ台を叩いた。

 

何故だろう、ノクトは全てを話さなければならないと錯覚を覚える。尋問官と容疑者のような気分を味わっている。

 

二人は、シエスタからノクトについて何回も聞いたのだが、その度にお茶を濁してこられたのだ。ここで本人が来たのに何もしないわけがない。今のうちに全て洗いざらいするつもりであった。

 

ええっと、と本題に入ろうとしないノクトに、オレンジ色の子がボソッと呟く。

 

 

「·······早く言わないと生きて帰れなくなるぞこのチキン野郎·······」

 

 

待って、なんでそんな顔からは想像できない言葉をすらりと言っちゃえるのアンタ!? と、ノクトはただならぬ恐怖、悪寒を感じて、再び平和な廊下へと逃げ込もうとするが、

 

 

「だから逃がさないって言ったでしょ?」

 

 

あなたもシフト使えるんですか!? とも言えるスピードで回り込まれた。

 

 

「はやっ!?」

 

 

と呑気に感想を述べてる時間はない。背後からはなにやら尋常ではない殺気のオーラが漂っている。

 

おかしい。

 

いつからここはホラーな気分を味わうアトラクションに変わったのだろうか?

 

早く言った方があなたのためよ。

 

そう脅されている気がした。

 

 

「お前ら何者だよ一体!?」

 

「「ただのメイド」」

 

 

ハモる二人に、嘘つけッ!! ってとりあえず突っ込んだ。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「断ったぁぁああああッ!?」

 

 

金髪の子が、鼓膜によろしくない甲高い高音で叫んだ為、ノクトは素早く耳を塞いだ。結局この二人に逆らえないと踏んだので、何も隠さず全て話した。

 

最も、自分が異世界の人間である事は伏せたが·······

 

 

「おのれ貴様ッ! 貴様はまさか貧乳好きだったのか!? それとも安定した収入か!? それともロリコンかぁぁああああ!?」

 

「ふむ、顔からして巨乳好きだとは思ったがどうやらそれは間違いだったようね」

 

「あー、うるせぇ·······」

 

 

ノクトは二人の声が届かぬように真顔のまま両手で耳を塞ぐ。塞ぎながらとりあえず馬鹿なことを言う二人にはお仕置きが必要だと考えたノクトは二人の額にデコピンを喰らわせようとする。

 

しかし、神々に選ばれ、死を以て世界を救えという運命を背負わされた男に安寧なんて訪れるわけがない。

 

避けられたノクトの顔に金髪の子が正拳で迎撃し、オレンジの子が蹴りを鳩尾に追撃としてめり込んだ。

 

オーバーキルを喰らったノクトはグフッ! と肺から空気を吐き出し、体がくの字に折れ曲がる。ゴロンゴロンと転がっていく青年を見下ろして、ふん! と満足げな表情を浮かべる。

 

 

「甘いわね! 私達に勝とうなんて百年早いのよ!」

 

「·······てかこれだけじゃ終わらない·······」

 

 

ずいっ、と一歩踏み込んでくるのが、まるで死へ向かう階段の一段のように感じる。

 

何でこうなる·······と、内心悲鳴をあげるが、

 

ガチャリ、と。

 

そこへ、ようやくお目当てのメイド、シエスタが部屋の中に入ってきた。

 

 

「今日も疲れたぁ·······って。何でノクトさんが倒れて二人が勝ち誇っている姿があるんですかぁぁぁあッ!?」

 

 

いきなりの急展開にうろたえるシエスタ。金髪の子が髪をかき上げると、まるで大物を吊り上げたかのような口調で言った。

 

 

「おうシエスタ、アンタの純粋なる想いを踏み躙った者へ罰を与えたのさ!」

 

 

ピキィ、とシエスタのこめかみから不吉な音が聞こえた。

 

何故彼女が二人に言わなかったのかというと、きっと二人は勘違いしてノクトを襲うと思ったからだ。

 

だから今の今まで黙ってきたのに·······きたというのに!!

 

しかし、現実に起きてしまった。おそらく二人は、ノクトを連れ込んで全て吐かせた結果、このような状況にしたに違いない。

 

そんな風に、他人に言えない事を無理矢理聞き出して、尚且つ暴力を振るう事が、シエスタは許せなかった。

 

 

「へえ·······どんな罰を与えたのですかぁ?」

 

「え·······? いやさ、アンタの告白断ってあの貴族を選んだんでしょ? ·······って待って、なんでそんなに怒っているの!?」

 

 

顔をやや伏せて、髪で目線を隠す。陽炎のようにゆらりと、まるで何かが乗り移ったかのように緩急を入れて、シエスタは二人に近づいた。

 

やっぱりね、と小さく呟いたのが幽霊のような感じで怖い。

 

トドメとして、背後に何やらオーラが浮かび上がっている。

 

 

「いえー、別に怒っていませんよ?」

 

 

二人との距離がなくなった時、少女は顔を上げる。

 

シエスタよ、目が笑っていないぞ。

 

 

「いやいや、こいつはアンタを捨てたんでしょ!?だったら───────ッ!!」

 

「別に捨てられた覚えはないです! 話がややこしくなるから出てってください!!」

 

 

隣の部屋まで聞こえそうな怒号を、シエスタは珍しく叫んだ。シエスタの剣幕に負けた二人は、『『はい』』としょぼくれながら去って行った。

 

シエスタは素早く鍵をかけて、これ以上侵入させないようにする。そしてようやく、ノクトに駆け寄った。

 

 

「だ、大丈夫ですか·······?」

 

「·······大丈夫、に見えるか·······?」

 

「·······見えませんね」

 

 

腹を押さえながらも、なんとか起き上がる。

 

戦い慣れしているノクトにここまでのダメージを与えるのは凄いの一言に尽きた。

 

 

「す、すみません。私の同室の人が」

 

「いや、別に良いよ。こういうのは慣れてるから」

 

 

主にご主人様のおかげでと、苦笑いを浮かべるノクトに、シエスタはもう一度ぺこりと頭を下げた。

 

 

「えと·······お帰りになりますか?」

 

「ああ、そうするか」

 

 

と立ち上がったその時、ノクトははっとなる。

 

まずい、まずい。

 

危うく忘れるところだった。

 

 

「ああそうそう。土産があるんだ」

 

「土産、ですか?」

 

 

? マークを頭に浮かべるかのように、小首を傾げるシエスタに向かって、ノクトは包みからあるものを取り出した。

 

スクールブレザーだ。

 

 

「何ですかそれ? 見たことのないデザインですね」

 

「ああ、けどシエスタなら似合うと思って、良かったらどうかなと思ったんだけど·······えっと、やっぱいらねぇよな」

 

「い、いえ!! 有り難くいただきますッ!!」

 

 

そう言ってぶん取るようにノクトからプレゼントをもらったシエスタは内心ジャンプするほど喜んでいた。その証拠に、シエスタはもらったスクールブレザーをもう離さないとばかりにぎゅうっと胸で抱き締めている。

 

するとシエスタは顔を真っ赤にしながら、こう言い出した。

 

 

「あの、今着てみてもいいですか」

 

「ああ、もちろんいいよ·······え?」

 

 

そう言ってシエスタは何のお構いなしに、ノクトの目の前でまた服を脱ぎ始めた。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「全くシエスタは何を考えているんだか·······」

 

「きっとシエスタは再びノクティス様をゲットしようとしているんだと思う」

 

「なるほどねぇ~、やはりあのお風呂の一件から積極的になってくれたのね」

 

 

二人はシエスタとノクトを二人っきりにさせる為、ぶらぶらと廊下を歩いていた。

 

彼女の発言から、きっとまだノクトは誰も選んでなく、これからゆっくり選ぶようである。

 

それならば、二人のやった事はお門違いだ。後で謝らないとなーと二人は思う。

 

と、思っていた時。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ん~? だから一緒にお風呂に入ったのさ、我ながらよくあそこまで育ったと思うよ」

 

()()·······()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()·······」

 

「「そうそう·······ってあなた誰?」」

 

 

二人は振り返る。

 

そこには、絶対に知られてはならない人間がいた。

 

いや、人間の仮面を被った鬼がいた。

 

夜は、まだまだ続く。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「ど、どうでしょう?」

 

「お、おお、とっても似合ってるぞシエスタ」

 

 

実際、とっても似合っていた。

 

やはりシエスタはノクトの世界の出身の子孫ということもあってか、スクールブレザーがすごく似合っていた。

 

そう言われたシエスタは、心臓の鼓動が激しくなる。

 

心なしか、体が熱くなっている。

 

 

(ノ、ノクトさんに見られてる·······今更なのに恥ずかしいッ!!)

 

 

異国の格好をしたからだろうか。いつものメイド服とは違って全く別の姿をした自分が恥ずかしくなり、つい目を瞑ってしまうほど顔を真っ赤にする。

 

ノクトはノクトで先程目の前で着替えられたから見ないように後ろを向いて顔を赤くしていた。

 

 

「き、気に入って、くれたか?」

 

「は、はい!! とっても嬉しいですノクトさん!!」

 

「そ、そうか。そりゃよかった。じ、じゃあ俺はこれで·······」

 

 

バタン、と。

 

部屋からいなくなったノクトにシエスタは『え?』と、虚しい空気が部屋中を支配していた。

 

すると、己の愚かさを表すかのように顔がまた赤くなっていく。せっかく良いムードへと持っていけそうだったのに、何故自分は動かなかったのだろう、と

 

 

(うぅ·······バカバカバカバカバカバカ、私のバカァァァアッ!!)

 

 

己の愚かさを呪うように、ポカポカと自分の頭を殴りつける。後悔で一杯になったシエスタの思考は、しばらくの間正常には働かないようだった。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「やべ、眠ぃ·······」

 

 

ノクトは、止まらない欠伸を手で押さえながら主人の部屋へと戻っていた。

 

夜遅くなのだろうか、他の人とすれ違うような事はなかった。寮、といってもノクトの知る寮とはちょっと違う。基本的に自分の部屋に閉じこもっている人が多いのか、他の貴族と会うような事はそうそうない。

 

あるとしても、仕事をしているメイドさん、ギーシュにキュルケといったごく僅かな人達だ。

 

それとも、夜更かしせずに早く寝る人達ばかりなのだろうか?

 

といっても、気にした所で答えがわかるわけでもないし、わかったとしても今後どうなるわけでもない。

 

すぐさま頭の中で、どうでもいい事だという方向に切り替える。

 

 

(うぅ·······ねむ·······)

 

 

朝早くから起きた故の眠気と、戦勝祝いで賑わっていた人込みをかきわけた疲労から襲いかかる欠伸を噛み殺す。

 

今日はもう明日に備えて寝るか~と、眠気に耐える気力もない青年は部屋の扉を開くと。

 

鬼がいた。

 

わかりやすく言うならば、言葉では到底あらわす事ができない程怒っているルイズが、腕を組み、仁王立ちしていたのである。

 

 

「·······ど、どした? ルイ、ズ·······?」

 

 

殺される。

 

このルイズは、なにか後一つの衝撃を与えたら確実に飛びかかってくる。

 

ノクトの主であるルイズは、怒ると傷害事件として書類送検されてもおかしくない程の暴力を振るう。

 

けど、今は前より優しくなってから体罰は受けなくなった。何故体罰を受けなくなったのかは、ノクトにもわからない。単純に、ノクトが元王族だからか、身分の違いに気付いて体罰をすることをやめたのかと、ノクトは心の中で勝手にそう思っていた。

 

しかし、今回は違う。

 

なんというか、今までとは比べられない程怒っている。そう、アンリエッタ王女と出会う日の前にあった時よりも数倍·······。

 

ともかく、今の状況は非常にまずい。下手したら死ぬ。死ななくても半殺しには間違いなくされてしまう。

 

だから、ここは穏便に解決せねばならない。

 

できる限り丁寧に、丁寧にノクトはルイズに尋ねたのだ。

 

 

「な、なんですかご主人様?」

 

「とりあえずあのメイドの所に何しに行ったのかを説明してくれる?」

 

 

空気が震えた。

 

一言一句が刃と化して、ノクトに襲いかかるような勢い。これならば、問答無用で迫ってきた方がまだ怖くない。いや、だからってボコボコにされたくはない。

 

全身から嫌な汗が噴き出る。背中は既にびっしょりであった。

 

今のルイズには、嘘を言ってもすぐにばれてしまうような印象がある。残されたノクトの手は、ちゃんと何をしたか話すという事だ。

 

 

「いや、えっと·······シエスタに土産を届けるために行ったんだが?」

 

 

ブチッ、と音がしたわけでもないのに、なぜか耳に入った。それはまるで、血管がちぎれたような音であった。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

ルイズは、出来る限り平常心で貫き通すつもりであった。自分のためにプレゼントを買ってくれたし、自分のことを守ってくれたし、それは感謝している。

 

だからこそ、シエスタと一緒にお風呂を入ったと聞いてもギリギリ耐える事ができた。最も、ストレス発散のために情報提供者である二人を得意の爆裂魔法で破滅にまで追いやったが。

 

そして、二人が部屋でなにかやっているのを聞いた時も、本当にギリギリの中のギリギリで耐える事ができた。

 

本来ならば虚無の魔法を使ってノクトを本気で殺そうとしたが、踏み止まった。

 

使い魔を信頼することもまた、主の仕事の一つである。案の定ノクトはすぐに戻ってきた。

 

そこまでは許せた。

 

まあ土下座して何度も謝れば半殺しぐらいで済ませようとも思った。

 

しかし、ノクトはシエスタに何をしたのか?

 

 

『いや、えっと·······シエスタに土産を届けるために行ったんだが?』

 

 

その瞬間。

へーじょーしんなどという言葉はどこかへ吹き飛んだ。

 

同時に、こめかみにくっきりと浮かび上がった血管がキレそうになった。

 

いや、もうキレている。

 

これはダメだ。いや、これだけだったらもしかしたら許せたかもしれない。

 

でも、ダメだ。

 

この使い魔には一度死んでもらう必要がある。きっと自分の中に取り巻くもやもや感はこれで解消されるに違いない。

 

ルイズの中で、ノクトが殺害候補に見事採用された瞬間であった。

 

 

「へぇ~、土産を·······ねぇ」

 

 

そう言うとルイズは杖を振るい、扉にロックをかけた。

 

ガチャリという音がして、慌ててノクトは扉に駆け寄りドアノブを回したが、開く様子はない。

 

 

(おい嘘だろッ!? ちょっとちょっとちょっとちょっとッ!?)

 

 

何故かわからないが、それがルイズの逆鱗に触れてしまったようだ。

 

恐怖が、体を支配していく。

 

焦りが思考を妨げる。

 

 

「知ってる? 『虚無』が使えるようになってコモン・マジックは成功するようになったのよ。これも神が私のためにと思って授けてくれたのね」

 

 

ルイズの口調、音量は至って普通であった。普通であるからこそ、余計に怖い。絶対怒っているのに平然とした態度をとる、というギャップによるせいだ。

 

 

「待って、ここまで怒っちゃう程のことをした覚えがないんだけど俺にはッ!?」

 

 

瞬間、ルイズの肩から立ち上るドス黒いオーラが膨れ上がった。火に油を注ぐとはこういう事を言うのだが、ノクトにはもちろん自覚などない。

 

 

「覚えがなくても大丈夫、どのみち全てを忘れることになるのだから」

 

 

会話のキャッチボールが成立しない。ノクトが優しく投げても、ルイズがそれを投げ返さなければ意味がないのだ。

 

交渉する余地がないと判断したノクトは、再びノブを回すが、うんともすんともしない。

 

 

「無駄よ。ロックがかかっているもの。力任せで開くわけがないわ」

 

 

絶体絶命とはこの事を言うのだろう。

 

 

(まずい、これ絶対まずいッ!! 絶対に殺されるッ!! 殺されるに決まってるッ!!)

 

 

いっその事、ダメ元でこの魔王と戦うべきだろうか。いや無理だ。間違いなく数秒で負けてしまう。あらゆる敵と戦ってきたノクトでも、魔王少女ルイズに対しては絶対に勝てないと第六感が告げてきている。

 

 

(もうこうなったらッ!!)

 

 

ノクトは掌を開いて背中にあるデルフへと手を伸ばす。

 

 

「な、なあルイズ·······?」

 

「なに? 遺言なら聞いてあげるから言っても構わないわよ?」

 

 

ノクトは告げる。ただし遺言ではないが。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

 

そう言ってノクトはデルフを引き抜くと木製のドアに向かって振り下ろした。パカンと一刀両断された扉は二つに割れ、そのままノクトは廊下に出ると、後ろを振り返ることなく全力で逃げ出した。

 

彼の手にかかれば、このような包囲網など簡単に突破できる。

 

しばし呆気にとられていたルイズは、口元に笑みを浮かべた。

 

 

「うふ、うふふ。うふふふふふふふふふふふふッ!!」

 

 

それ危険すぎる笑みだった。ルイズの怒りのゲージは頂点を越して、新しい境地に入ったようである。

 

なるほど、どうやら使い魔は主に喧嘩を売ったようだ。

 

 

「まあいいわ、アンタが逃げても·······()()()()()()()()()?」

 

 

魔王は標的を変える。青年という主人公の事を好きであるメイド少女のヒロインに。

 

眠れない夜はまだまだ続く。

 

 

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