ゼロの王子様   作:織姫ミグル

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第39章

 

 

三人はモンモランシーの部屋へと場所を移した。

 

事情を知ったギーシュは、惚れ薬まで使おうとしたモンモランシーに感激を覚えた。

 

 

「モンモランシー·······まさか君がそんなに僕のことを·······ッ!!」

 

 

そう言い、両手を握る。

 

 

「ふんっ! 別にあなたじゃなくってもかまわないのよ? お付き合いなんて暇つぶしじゃない。ただ浮気されるのがイヤなだけッ!!」

 

 

全国のカップルに敵対するような発言をして、ぷいっと視線を横に向ける。

 

見事なまでのツンd─────もとい傲慢な態度を取るが、ギーシュは全く気にしない。

 

 

「僕が浮気なんかするわけないじゃないか! 僕は君にしか目がないんだから!」

 

 

こちらもまた浮気する男の典型的な言い訳を取りながら、モンモランシーを抱いた。さらにはキスをしようとする。

 

ギーシュの勢いに負けたのか、モンモランシーもその気になり、目を瞑る。

 

 

「いいムードになってる二人には悪いけど、んなことしてる場合かッ!!」

 

 

ツッコミながら、二人を現実へと連れ戻す為引き離す。

 

 

「野暮天だな君は!」

 

「こちとらギーシュのモンモランシー好感度アップイベントのために貢献している覚えはねぇよ!! んなことより俺の主であるルイズのことを何とかしてくれよッ!!」

 

 

そう、モンモランシーは何にも感じていないのだ。悪いことをしたら謝る。それすらもやらない。そんなモンモランシーにノクトは腹を立てる。

 

 

「そのうち治るわよ」

 

「大体どれくらいだ?」

 

 

そうねぇ、とモンモランシーは首を傾げる。

 

 

「個人差があるからそうね·······一ヶ月後か、それとも一年後か·······」

 

「長ぇよ!? 俺何回ルイズを狙うメイジと戦う羽目になるんだよッ!!」

 

「と、というか君はそんな代物を僕に飲ませようとしていたのか·······」

 

 

さすがのギーシュもこれには青くなってしまう。

 

 

「わ、わかったわよ·······解除薬を調合するから待っててよ」

 

「始めからそう言えよ、マジ焦ったわ」

 

「でも解除薬を作るにはとある高価な秘薬が必要なんだけど、惚れ薬を作るときに全部使っちゃったの。買うにしてもお金ないし·······さあどうしましょう」

 

「いやどうしましょうって·······ギーシュ、お前金持ってないのか?」

 

「ああ、一銭もないね」

 

「なんでだよ。お前ら仮にも貴族のはずだろ!?」

 

「貴族だからといってお金があるかどうかは別問題だよノクティス。僕だって一応お小遣いを父から貰ってはいるけど最低限しか与えられていないしね」

 

「ああ~、なんでこんな時に限ってイベントクリアのハードルが高くなんだよッ!!」

 

 

ノクトはガクッと肩を落とす。

 

 

「こればっかりかは仕方ないね。世の中にはお金に縁のない貴族と、お金と仲良しの貴族と、二つに別れたグループがいるのさ」

 

 

それで僕達はお金がない貴族なんだ、と付け加える。

 

仕方ない、と。

 

そう思うとノクトは、ポケットから金貨を取り出した。特に使い道がないためか、半分だけ保険用に手持ちとして運んでいたのである。なぜ自分が出さなければいけないのか·······と不思議がりながらも、訊ねる。

 

 

「これだけありゃ足りるか?」

 

 

ノクトの世界での値段に換算したらお小遣い程度だが、この世界に来てからというもの億万長者にも匹敵する量の額をモンモランシーに提示する。

 

 

「な、なんでこんなにお金を持っているんだいノクティス!?」

 

「すごい·······五百エキューはあるじゃないのッ!!」

 

 

どうやら足りるようだな、とノクトは確認を求めると、モンモランシーはしぶしぶ頷いた。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

ノクトは、シエスタに伝えようと彼女の部屋に赴いた。

 

 

「おーいシエスタ、いるか~?」

 

 

ノックをし、返事を待ってみるも返ってこない。

 

ドアのノブを回す。どうやら鍵はかかっていないようだ。ギィ~、とゆっくり押す。ノクトの視界に部屋の中が入り込んでくる。

 

そこには、

 

ルイズとシエスタが言葉では表現しにくい格好でいた。

 

詳しく言うと、ルイズがシエスタを押し倒していた。シエスタの大きな胸が、ルイズの小さな胸にぶつかっている。しかし、そんな障害をもろともせずに、ルイズはシエスタと熱いキスを交わしている。

 

熱い吐息が二人の唇から漏れ続けている。第三者であるはずのノクトの顔が真っ赤に染まっていく。

 

 

(·······なんだこれ·······)

 

 

そのあまりにも予想外の光景に、ノクトは言葉を失う。

 

シエスタの格好は、普段着である草色のシャツにブラウンのスカート姿であった。

 

しかし、そのロングスカートは激しい動きがあったのかめくれあがっており、ぎりぎりの位置でなんとか耐えている。

 

また、汗なのだろうか、二人のシャツも少し湿っていた。

 

ともかく、

 

これ以上詳しく地の文では表現してはいけない態勢で二人はキスをしているのだ。

 

と、そこでようやく二人がノクトの存在に気付く。

 

 

「ノ、ノクト·······さ、ん」

 

 

シエスタの目が見開かれ、顔が赤くなっていく上に、涙が浮かんできた。

 

おそらく、一番見てほしくない青年に見られてしまった恥ずかしさと悲しさが、どっと押し寄せて来たのだろう。

 

 

「·······何しに来たのよノクト·······」

 

 

一方のルイズはただ睨んでいる。この領域に入ってくるなと目が訴えていた。

 

 

「お邪魔しました」

 

 

いるにいられないノクトは丁寧な言葉遣いで一礼してから廊下に出ると、その場から立ち去った。

 

ただドアを開けただけなのに罪悪感が完全に支配してしまっている。どうやらルイズはこちらを敵と見なしているようだ。迂闊に近づいてしまったら大方ボコボコにされてしまう。

 

そんな中、ノクトはルイズを相手に対処できるのだろうか?

 

おそらくできる。しかし、傷つかない方法があるのならばそっちを選ぶ。

 

ノクトは、力付くでシエスタから引き離す方法を完全に捨て、モンモランシーの解除薬に期待をかける。更に言うと、少し見たかったと思う好奇心は消え去っていた。

 

本当にシエスタの為になんとかせねばと思うノクトであった。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「はあッ!? 何言ってんだよ!! 一体どういうことなんだよそれッ!?」

 

「だから言ったじゃない。()()()()()()

 

「マージかッ!?」

 

 

次の日の夕方、ノクトは解除薬を貰おうとモンモランシーの部屋に再び訪れた。

 

ちなみに、今日はシエスタと会っていない。ノクトにとって、あそこは開かずの扉に見事認定されたのだ。

 

これでやっとシエスタが解放されるなー、と思いながらモンモランシーの部屋の扉を開いたのだが、現実はそう甘くない。

 

ギーシュは隣で残念そうな表情を浮かべて黙っている。そして、モンモランシーが今日の一日を簡潔に説明した。

 

 

「仕方ないじゃない。秘薬が売り切れてたんだもの」

 

「そんなんありか!? てか、その秘薬はいつ頃手に入るんだ?」 

 

「それがもう、入荷が絶望的なの」

 

 

淡い期待をことごとく裏切られ、ノクトは深いため息を吐いた。

 

 

(なんでこんなにも幸先が悪いんだよ。一体どんだけ俺に不幸を押し付けてんだよッ!!)

 

 

体をぐったりと机に預ける。魂が抜けてしまいそうな脱力感であった。その様子に少し罪悪感を感じたのか、モンモランシーは詳しい話を付け加えた。

 

 

「その秘薬ってのはね、ガリアとの国境にあるラグドリアン湖に住んでる『水の精霊の涙』なの」

 

「随分メルヘンな名前だな」

 

 

聞き慣れない言葉に、モンモランシーは首を傾げる。

 

 

「ま、とにかく、その水の精霊達と最近連絡が取れなくなっちゃったらしいの」

 

 

打つ手がないと、お手上げポーズをとり、更にはギーシュも既に諦めている。

 

 

「ったく、ホントないわッ!!」

 

 

ノクトは再びため息を吐きながらも、一人決心して立ち上がった。二人の視線が集まる。

 

 

「どうするのよ」

 

「仕方ねぇだろ? こっちから行って貰いにいくしかねぇじゃん」

 

「え、えええッ!! 正気!? 水の精霊は滅多に人前に姿を現さないし、ものすごーく強いのよ!? 怒らせでもしたら大変よッ!?」

 

「ん~、つまりは怒らせなければいいだけの話じゃねぇの? 礼儀正しくしていれば姿を現すだろうし」

 

「だ、だとしても! どうなるかわからないじゃない!! あ、言っとくけど私は行かないから! 学校も休むわけにはいかないんだからッ!!」

 

 

ふん! とそっぽを向くモンモランシーに、ノクトはピキリとこめかみから音がした。

 

 

「つか、アンタがそんなもんを作ってワインに混ぜたからこんなことになったんだろうが!! ルイズが元に戻るまでちゃんと責任を持てよッ!!」

 

「な·······ッ!? か、勝手に飲んだのはルイズでしょ! 私は悪くないわッ!!」

 

「あっそ、じゃあいいよ。オスマンに学院内に『禁則の品』を持ち込んでいる生徒がいるって報告するから」

 

 

そんじゃ、といって立ち去ろうとするノクトに、モンモランシーは焦って腕を掴む。

 

 

「待ってッ!? それだけはやめてッ!!」

 

「じゃあなんとかしてくれよ。そもそもアンタの薬が原因なんだから」

 

 

グッ、とモンモランシーが言葉に詰まる。

 

惚れ薬は作られる事を禁じられている。それを、あろう事かオスマン学院長に伝えられたら人生は間違いなく悪い方向に変わっていく。

 

つまりは、まだ捕まりたくはないモンモランシーであったのだ。

 

 

「わ、わかったわよッ!! 行けばいいんでしょ、行けばッ!!」

 

 

はぁ、最悪、とうなだれるモンモランシーに、ギーシュは手を肩に乗せた。

 

 

「安心してくれモンモランシー。僕がついているじゃないか」

 

「アンタ弱っちいし、正直気休めにもならないわ」

 

「そ、そんな!?」

 

「ノクティスの方がまだ信用できるわ。だって彼、あなたに勝ったんですもの」

 

 

そう言ってギーシュの手をどける。ギーシュは今の一言で傷ついたのか石のように固まって硬直している。

 

この二人、恋人として本当に大丈夫なのだろうか? とノクトは自分の身ではないのに不安を覚えた。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「凄いな君は! いつの間にタバサのシルフィードを手懐けたんだね!?」

 

「あなた·······本当に何者なの?」

 

 

二人は別々の感想を述べる。ノクトはそれに対して無言のまま苦笑いを溢した。彼の左手のルーンは光輝いている。

 

そう、ノクトとギーシュとモンモランシーは、タバサから借りたシルフィードの背中に乗っているのだ。馬より早く目的地に辿り着けるのがポイントである。

 

タバサはキュルケと一緒に帰郷しているが、シルフィードだけは学院に留守番をさせていた。その間、ノクトが面倒を見ることになったのだ。そして、タバサは『必要になった時いつでも乗っていい』と言い残して、キュルケと共に故郷へと帰っていった。

 

ノクトは左手に刻まれたルーンでシルフィードを従わせ、目的地まで空を飛んでいた。

 

 

「あれよ。あれが『ラグドリアン湖』よ」

 

 

しばらく時間が経ち、モンモランシーが指差した。

 

二人がそちらに視線をやる。

 

そこには、太陽の光りがキラキラと輝いている大きな湖が一面と広がっていた。

 

おぉ~、と二人は感想を口にする。ここが目的地であるのだと理解したシルフィードは、丘の上へと降り立った。

 

 

「これがラグドリアン湖か! いやぁなんとも綺麗な湖だ! ここに水の精霊がいるのか! 感激だッ!!」

 

 

地面の感触を得たギーシュは、一人興奮しながら丘を駆け降りていった。

 

一人、旅行の気分を味わっているギーシュは、ぐんぐんと加速していく。しかし、勢いをつけたスピードはそう簡単に止まるわけがない。

 

案の定、ずっこけたギーシュはそのまま湖へと頭からダイブした。

 

 

「足が立たない! 足が! 足がぁぁぁあああッ!!」

 

 

泳げないのか、必死に手足を激しく動かしている。バシャッバシャッ、と水しぶきが綺麗であった。

 

 

「·······やっぱり、今一度恋愛対象を考え直した方がいいのかしら?」

 

「ああ、俺もそう思うぜ」

 

「きゅい!」 

 

 

モンモランシーの悩みに『自分も同意だ』と言いたいのか、シルフィードが鳴く。

 

 

「·······まあ、アイツにも良い部分はあんだろ·······」

 

 

さすがのノクトもこれにはなんて言葉をかければいいかわからなかった。

 

シルフィードと一旦別れを告げた二人は、ゆっくりと波打ち際まで近づいた。同時、ギーシュも岸辺にたどり着く。必死に泳いだのか、『ぜぇ、ぜぇ』と激しく呼吸をする。

 

 

「き、君達はなんでほっとくんだ! 泳げない僕を見捨てないでくれよ!」

 

 

ギーシュの必死の叫びも、右から左へと流したモンモランシーはじっと湖面を見つめた。哀れみの意味も含めて、ノクトはポンと肩に手を当てた。

 

好きな子にあっさりとスルーされたギーシュは、燃え尽きたようにその場で崩れてしまった。

 

 

「うぅぅぅぅぅう、ノクティスッ!! 君だけがぼくの味───────ッ!!」 

 

「ヘンね」

 

「どうした?」

 

 

モンモランシーの疑問に、ノクトは耳を傾け、そばに向かう。そしてノクトに抱きつこうとしたギーシュはノクトが避けて前に進んだことにより、腕は何も掴めず、そのまま地面へと落下していった。

 

 

「水位が上がってるわ。昔、ラグドリアン湖の岸辺はずっと向こうだったはずよ」

 

「そんな上がるのか? 見間違いとかじゃねえの?」

 

「そんなことないわ。ほら、あそこに屋根が出てるわ」

 

 

ノクトはそっちの方を向くと、たしかにそこには藁葺きの屋根が見えた。さらによく見ると、澄んだ水面の下に家が沈んでいることに気付いた。ダムに沈んだ村という単語が思い出される。

 

モンモランシーは水に指をかざして目を瞑った。

  

その間、ノクトはギーシュのことが気になり後ろを振り返る。

 

そこには、体育座りでいじけているギーシュの姿があった。

 

地面にひたすら指でなにか文字を書いている。おまけに、『みんな·······みんな·······僕に対する扱いが酷いよ』と、呟いているのが余計に怖い。

 

しばらく放っておくか、と思い再びモンモランシーへと視線を向ける。

 

 

「水の精霊はどうやら怒っているようね」

 

 

既に目を開けて、困ったような口調で言った。

 

 

「なんでわかるんだ?」

 

「私は『水』の使い手、『香水』のモンモランシーよ。ここの水の精霊と、トリステイン王家は旧い盟約で結ばれているの。その際の交渉役を、モンモランシ家は何代も務めてきたわ」

 

「務めてきた?」

 

「えぇ·······今は色々あって他の貴族が務めているわ」

 

 

モンモランシーの口調が少し重くなった。おそらく、あまりよろしくない出来事があったのだろう。変に蒸し返すのもどうかと思ったのか、ノクトは深く追求しない事にした。

 

 

「あれか? 水の精霊って女性の姿をしてるのか?」

 

 

ノクトの中での水の精霊といえば、『水神リヴァイアサン』を思い出すが、ゲームのRPGではそういうイメージを持っている。

 

モンモランシーが口を開こうとしたその時、ギーシュが二人へと飛びかかってきた。

 

 

「なんで二人とも僕を無視し続けるんだよぉぉぉぉおッ!!」

 

 

いじけてもかまってくれない事に気付き、怒りよりも悲しさが先行した。

 

なんというか、惨めである。

 

 

「キャッ!?」

 

「おっと·······」

 

 

ギーシュの全身を使った愛情表現も、モンモランシーは回避する。その際、態勢が崩れたのか、ノクトへと体を預けた。ノクトもまた、ガシッとモンモランシーの腰に手を回す。

 

 

「な、ななな、何してんのよアンタッ!!」

 

「倒れそうになったから支えてあげたんじゃねぇか」

 

 

ばっしゃーんッ!! と再び湖へと突っ込んだギーシュの存在を忘れ、モンモランシーは顔を真っ赤にして、ノクトから離れる。

 

 

「べ、別に一人でなんとかできたわよッ!!」

 

「あ、そ。そりゃ悪かったな」

 

 

なんで怒っているんだろ? と不思議がるノクトをよそに、モンモランシーは必死に高鳴る鼓動を抑える。

 

一方、

 

 

「し、死ぬ! 今度こそ死んでしまうからぁぁぁぁぁあッ!!!??」

 

 

ギーシュの悲痛な叫びにノクトはただ頑張れ、と応援した。

 

ギーシュはずぶ濡れとなったシャツを脱ぎ、扇いで乾かしている。あまりの落ち込み具合にモンモランシーも一応は謝ったが、効果は果たしてあったのだろうか?

 

そうこうしている内に、かなり時間が経っていた。ノクトは早く水の精霊を見てみたい様子である。

 

すると、そんなノクトに気付いたのか、モンモランシーは腰にさげていた袋から一匹のカエルを取り出した。

 

鮮やかな黄色に、黒い斑点がいくつも散っている。

 

 

「それがアンタの使い魔か?」

 

 

モンモランシーの手の平にちょこんとのっかって、命令を待つ姿は使い魔にしか見えない。

 

ノクトの問いに『えぇ』と頷くと、人差し指を立てた。

 

 

「いい? “ロビン”。あなた達の古いお友達と連絡が取りたいの」

 

 

そういって、モンモランシーは手に持った針で指の先を突いた。ぷくーと風船のように赤い血が膨れ上がって赤い玉を作り出したかと思ったらすぐに崩れた。

 

その血を、使い魔のカエルに付着させた。

 

それからすぐに、モンモランシーは魔法を使って傷の治療をする。瞬く間に傷は塞がり、皮膚に残った血をぺろっと舐めた。

 

 

「覚えていれば私のことがわかるわ。じゃあロビンお願いね。偉い精霊、旧き水の精霊を見つけて盟約の持ち主の一人が話をしたいと告げてちょうだい。わかった?」

 

 

カエルは肯定の意をこめて、ピョンと湖の中へと消えていった。

 

 

「ロビンが水の精霊を呼びに行ったわ。見つかったら連れてきてくれるでしょう」

 

「なんだ、随分と簡単じゃねぇか」

 

「呼ぶことだけは、ね。問題は水の精霊が涙を渡してくれるかの話なんだけど·······」

 

 

瞬間、水面が突如光だした。

 

なんとも早い、水の精霊のお出ましであった。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「なんだッ!?」

 

 

一言で言うなら、それは凄かったに限る。

 

ノクト達と少し離れた水面が突如輝きだし、生き物がいるかのように水という固体がごにょごにょと動き出す。

 

後、風船のようにプクッと膨れ上がり、様々な形に変化していく。ノクトは、アメーバみたいなのを思い出した。水が輝きながらぐにょぐにょと動く姿は、何か気持ち悪い。

 

ノクトが呆然と見ている間に、モンモランシーのカエルがぴょこんと地上に上がった。そのまま跳ね続け、主の元へと向かう。

 

モンモランシーは、それを迎えるかのようにしゃがみ込み、両手を前に差し出す。そこに乗っかったカエルは、自分の活躍を褒めてほしいと、ゲコッと鳴く。

 

 

「ありがと、きちんと連れてきたのね」

 

 

モンモランシーは、あまり見せることのないとびっきりの笑みを浮かべて、カエルの頭を撫でる。

 

ギーシュが何やら叫んでいるが、誰も気にかけない。

 

モンモランシーは、カエルを手に乗せたまま立ち上がり、水の精霊に話しかけた。

 

 

「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で旧き盟約の一員の家系よ。もし私の血を覚えていたら、私達にわかるやり方と言葉で返事をしてちょうだい」

 

 

凜とした口調で喋るその姿は、なにやら貫禄が見える。水の精霊は返答の代わりに、再び形状がぐねぐねと変わっていく。誰かが粘土をこねっているような錯覚を覚えながら、それはノクト達にもわかるような形へとなった。

 

その姿に、モンモランシーはやや頬を赤く染め、ギーシュとノクトは目を丸くする。

 

それは、紛れも無いモンモランシーの姿そのものであった。違う点をあげるとしたら、体が一回り大きい上に服を着ていない。

 

ある程度予測していたとは言え、実際目の当たりにしたら、一言も発せないとはこの事を言うのだろう。

 

無表情だった水の精霊────もといモンモランシーは笑みの表情へと変える。次に怒り、次に泣き、次に呆れ·······人間が持つ感情を全て表情に浮かべていく。

 

なるほど、これがこちらにわかるやり方なのだろう。

 

それは美しいに限った。モンモランシー自身がもともとかなりの美人であったがゆえに、その効果は倍である。ようやく一巡したのか、再び無表情へと変わった水の精霊は、モンモランシーが最初に質問した内容に答えた。

 

 

『覚えている。単なる者よ。貴様の体を流れる液体を、我は覚える。貴様と最後に会ってから、月が五十二回交差した』

 

「よかった·······水の精霊よ、お願いがあるの。厚かましいとは思うけどあなたの一部を分けて欲しいの」

 

『·······』

 

 

水の精霊は口を開いていない。なのにノクト達の耳の中に入っている。いや、耳の中にというより、脳の中に直接話しかけているような感覚であった。

 

 

(·······ん? 一部?)

 

 

不思議であった。

精霊の涙というのは、文字通り精霊が流す涙ではないのだろうか?

 

ノクトは疑問を解消すべく、モンモランシーの肩をつついた。

 

 

「なあ、体の一部ってどういうことなんだ?」

 

「あのね·······涙といっても水の精霊が流すわけないじゃない。涙ってのは比喩表現で、体の一部をさすのよ」

 

「ふーん·······そりゃずいぶん物騒なことをするな」

 

「だから滅多に手に入らないのよ。街の闇屋に仕入れている連中は、どんな手を使って手に入れてるのかまったく想像もつかないわ」

 

 

どこでも闇屋は酷いんだなー、と人事のようにノクトは話す。すると、無表情であった水の精霊が笑みへと変わった。

 

 

「お、もしかして通じた?」

 

『断る。単なる者よ』

 

「そりゃそうよね。残念でしたー。さ、帰りましょ」

 

「え!? ちょっッ!?」

 

 

何の躊躇いもなく諦めるモンモランシーに、ノクトはずっこける。

 

 

「何早く諦めてんだよ! こちとら主人を元に戻すために必死になってんだぞ!! つか、アンタも笑いながら断るな! 悪意しかねぇじゃねぇかッ!!」

 

「ちょっと! やめなさいよ!! 怒らせたらどーすんのよッ!?」

 

 

ノクトの行動にモンモランシーは止めようとするが、ノクトはそれをはねのける。

 

ここで断るのはまあ予測はできていた。世の中ギブアンドテイクである。こちらが何かしなければならないのだ。

 

そしてこういった場合、向こうも何かしてほしいと感じているのが多々ある。

 

 

「水の精霊よ、何か困ってることがあるんじゃないのか? それを解決したら、アンタの涙を貰う。それでどうだ?」

 

『·······』

 

 

ノクトはその事実を知っている。あくまでも漫画やゲームの話だが、魔法があるんだからおそらくこういう展開にはイベントが発生する。何かお使いを頼まれたり、何かを討伐してほしいとか言ってきたりなど、前世で色んな依頼を受けてきたノクトだからこそ、こういう展開には慣れっこだった。

 

と、水の精霊が再び様々な表情を浮かべている。どうやらこれが悩んでいる状態であるのだろう。

 

 

「ねえ、なんで悩みがあるなんて知っているの?」

 

 

モンモランシーもまた、何故ノクトが知っているのか小声で問う。

 

 

「お決まりの展開だからだよ。ま、今に見てろって」

 

「?」

 

 

疑問を頭に浮かべるかのようにモンモランシーは首を傾げる。当然のようだが、理解できていない様子だ。

 

すると、再び水の精霊が語りだした。

 

 

『いいだろう、単なる者よ。我に仇なす貴様らの同胞を退治してみせよ』

 

「退治·······討伐か?」

 

『左様。我は今、水を増やすことで精一杯で、襲撃者の対処にまで手が回らぬ。その者どもを退治すれば、望み通り我の一部を渡してやろう』

 

「いやーよ。私、ケンカなんて」

 

「お前何もせずそのまま帰ったらオスマンに報告するからな」

 

 

嫌がるモンモランシーを、ノクトは半ば強制的に頷かせる。

 

 

「わかったわよ! 勝手にしなさいよ!」

 

 

いや、もともとお前のせいだろうが、とノクトは心の中で突っ込んだ。

 

 

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