ゼロの王子様   作:織姫ミグル

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第40章

 

 

水の精霊が言うには、夜中に襲撃者が来るらしい。

 

そして、魔法を使い、精霊が住む湖底の奥深くまでたどり着き、襲うのだと言う。

 

三人はばったり会ってその襲撃者と戦うつもりはない。

 

奇襲を仕掛けて出来るかぎり事を安全にかつ早く終えたいからだ。そのため、水の精霊が教えてくれた木陰に隠れ、夜中になるのを待った。

 

ギーシュは一人、持ってきたワインを飲み始めた。

 

毎回無視され続けたので、無理矢理テンションをあげてかないと身がもたないようだ。

 

一方のノクトとモンモランシーは、暇つぶしを兼ねて雑談を交わしている。

 

 

「しっかし襲撃者とはなぁ·······水の精霊は強いんじゃなかったか?」

 

「強いに決まってるじゃない」

 

 

モンモランシーは口をむすっと尖らせる。

 

 

「ならその襲撃者も相当に強いと考えなきゃいけないのか?」

 

「まあ風の使い手なのは確かね。水の精霊が相手なら、水に触れた瞬間負け決定なのよ。だから空気の球をつくって水に触れずにするのよ」

 

「んじゃまあ、そのままそいつが水の精霊を襲ってるのか? 斬ってもスライムみたいにくっつくんじゃないのか?」

 

「ええ、だからおそらく火の使い手もいるはずよ。強力な炎で体をあぶる。それで徐々に蒸発していって、気体になったら再び液体として繋がることができなくなっちゃうわ」

 

「つまり火と風の二つの系統を持つ人間か、それぞれとして二人かのどっちかだな」

 

 

戦い慣れているノクトはこれから来る襲撃者に対して憶測を立てて作戦を練る。火と風の両方を使えるメイジが一人で向かってくるのか、それとも火と風が得意な二人組みが襲ってくるのか。

 

どちらにしても。

 

相手が魔法に絶対なる自信を持っているなら可能性は残されている。ノクトが唯一勝てる要因があるといったらそこであった。

 

 

「デルフ、お前はたしか魔法を吸い込めるんだったな」

 

『おう相棒! どんな魔法だろうと吸い取ってみせるぜッ!!』

 

 

これならば、たとえ相手が相当な使い手があったとしても、互角に渡り合える。いや、相当な使い手であればあるほど有利となる。

 

ノクトにとって一番怖いのは、魔法を過信しない魔法使いだ。

 

アーデンのような絶対的な力を持つものは、故に切り札は一つしかないし、イレギュラーには対応ができない。対して、ニフルハイム帝国の兵士達のように切り札へ過度な自信を持たない者は、それを補うために無数の手札を揃えておく。

 

そうこう考えているうちに、二つの月が頂点を挟むように光っている。襲撃者が襲ってくる時間帯だ。

 

ノクトは気分を落ち着かせる深呼吸をする。敵が来るという事実に恐怖したのか、やや怯えた表情をモンモランシーは浮かべた。

 

 

「と、とにかく私は野蛮なことはだいっ嫌いだからあなたに任せたわよ」

 

「いやだからアンタが原因なんだから少しくらい手を貸せよ」

 

 

完全なる責任転換にノクトは肩を落とす。

 

 

「安心してくれモンモランシー。僕がいるじゃないか、僕のワルキューレがならずものどもを成敗してくれる」

 

 

少し酔っているのか、顔が赤くなっている。なんというか説得力があまりない。

 

 

「いいから寝てて。アンタお酒臭いし」

 

「え~? それじゃあえーっと·······まあ任せるよ」

 

 

何故だろう。こんなにも不安が先行する戦いは初めてだった。

 

その一時間後ぐらいだったのだろうか、岸辺に二人の人影が現れた。

 

二つの月が二人を照らすが、漆黒のローブを身にまとい深くフードをかぶっているので、性別すらもわからない。

 

ノクトは様子を見る。まさか観光客とは思えないが、確証はない。しかし、その二人組は、水辺に立つと杖を掲げた。見るからに呪文を唱えているようだ。

 

間違いない、そう判断したノクトは、ギーシュに一声かけて二人の背後へと向かった。

 

その間にも雲が月を隠す。しかし、暗闇に慣れたおかげか人影は以前はっきしと見える。

 

距離は大体十メートル弱。決して短い距離ではないが、こちらのが一手早く動ける分その差はある程度埋められる。

 

奇襲をしかけるなら今だ。そう思うようにノクトはデルフを背中から静に引き抜いた。

 

そのタイミングを見計らったかのように、ギーシュが呪文を詠唱した。二人がいる地点の地面が盛り上がり、大きな手のような触手が襲撃者の足に絡み付く。

 

瞬間、

 

ドンッ! と。

 

ノクトは足に込めた力を爆発させた。

 

しかし、襲撃者の対応も素早い。背の高いほうが地面が盛り上がると同時に呪文を唱えたのか、杖の先から溢れた炎が二人の足をつかむ土の触手を焼き払う。

 

もう一人、体が小さいほうも呪文を唱えていたのか、足が自由になると身を捻るとノクトに向かって杖を振るった。

 

エア・ハンマー。

 

以前ワルドも放った事のある空気の塊が轟ッ! と襲いかかる。

 

 

「ッ!?」

 

 

ノクトは今までに養われた反射神経のおかげもあり、とっさにデルフを前に突き出した。空気の塊はデルフの刀身に吸い込まれて、魔法はノクトには届かなかった。

 

しかし、その予想外の行動に足を止めてしまった。残り距離はまだ十メートルある。ノクトは考えるよりも先に、再び駆け出そうとしたが、

 

背の高い奴が視界から外れていた。

 

 

「なッ!」

 

 

驚きの声の返答として、巨大な火の球が右方向から迫り来る。

  

チッ、と舌打ちしながらもノクトはバットを振り払うかのようにデルフをぶん回し、刀身に火の球を吸い込ませる。

 

ノクトはそちらの方向に走ろうとするが、背後から殺気が感じられた。

 

シュンッ!、と音もしない氷の矢が飛んでくる。デルフで防げないのを悟って、ノクトは空中にデルフを放り投げて宙へと体をシフトさせた。

 

いくつもの氷の矢がノクトのいた場所を通り抜けていく。

 

無傷で地面に降り立ったノクトは、二人に囲まれたこの状況を見て、脳内で約一分間ほど作戦を考える。実際には一秒しか経っていないが、体感では一分間に感じられた。

 

 

(どっちからやろうか·······)

 

 

ノクトは特に標的のことを気にせず動き出した。二人が視界に纏まって入るような位置取りが必要であるからだ。

 

その間にも迫り来る魔法をデルフの刀身に吸い込ませることで打ち消したり、身を屈めたり、虚空へシフトしてなんとかやり過ごす。

 

どうやら魔法戦において、二対一はかなり不利になるらしい。片方を打ち消している間に別のほうが呪文を詠唱する。コンビネーションはかなりいい。ゆえに手強い。

 

ノクトは一回水辺に立つ。背に湖を向けるここからなら、魔法を直接喰らうような心配は多分ない。

 

と、襲撃者の動きが止まった。

 

雲が月から離れ、さらにはノクトが水辺に立ったおかげでより明るく照らされたらしい。

 

その姿を見て二人が顔を見合わせるかのように二人の影が動く。

 

 

(なんだ? どうして攻撃をやめた?)

 

 

ノクトは首を傾げた。

こちらを油断させる為の罠なのであろうか? 

 

しかし、先程感じられた殺気はいつの間にか消え去っている。

 

すると、がばっとフードを二人は取り払った。

 

 

「キュルケ!? タバサ!?」

 

 

どこからともなくギーシュの声が聞こえた。思いがけない展開に、ノクトも目を疑う。

 

 

「なんでお前らがここにいんだよ!? 襲撃者ってお前達のことなのか!?」

 

「それはこっちの台詞よ!! なんであなた達がこんなとこにいるのよ!」 

 

 

ノクトとキュルケ、二人は同時に叫んだ。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「え!? その剣魔法を吸いとっちゃうの!?」

 

「そうらしい。俺もまだよくわかってねぇんだけど、魔法であるならば吸収できるみたいだ」

 

『ハハッ、驚れぇたろ。俺様の力はどんな魔法でも無効化できるんだ』

 

 

タバサ以外の三人が、打ち合わせする事なく同時に驚きの言葉を口にする。

 

あの件から一時間、五人は簡単な夜食を取るため、たき火の周りでタバサとキュルケが持参した肉を焼いていた。周りが炎によって明るくなり、互いの顔がはっきしと見える。

 

肉を口に運ぶノクトに、キュルケは自分が抱いている質問をぶつけた。

 

先の件で自分とタバサの魔法を打ち消したからくりを。

 

その返答が、デルフが持つ剣の特性であることを説明する。

 

三人はポカンという擬音が似合うくらいに目を丸くし、タバサもまた僅かながら驚いているようだった。

 

ただ一人、モンモランシーだけがノクトに話しかけた。

 

 

「そんなの最強じゃない。どんな魔法ってスクエアスペルでさえもでしょ? それに加えてあなたが使うあの瞬間移動の魔法も合わせればもはや無敵じゃない」

 

「そうでもねぇよ。シフトっていう魔法を使うには魔力が必要だし、魔力が切れたらどこかで一旦休まないといけなくなる」

 

 

謂わば諸刃の剣みたいなものだと付け加えたが、モンモランシーにはどうやらわかっていない様子。

 

 

「でも、魔法使いに対してはかなり有利な展開に持っていけるわね。タバサと二人がかりでも負ける可能性もあったわけだし」

 

 

ポン、と無表情であるタバサの頭にキュルケは手を置いた。嫌みではなく、ただ純粋にそのデルフの能力に対して感嘆する。

 

 

「ま、その代わり魔法を使わない相手には通用しないけどな。だからその代わりに、俺のシフトっていう能力で敵を斬り倒していくんだ」

 

 

ノクトは簡潔に結論を述べると、今度は彼がキュルケ達に質問をぶつけた。

 

 

「んで、なんでまた水の精霊を襲ってたんだよ?」

 

「あなたたちこそなんで水の精霊を守っていたのよ?」

 

 

質問を質問で返すのはあまり好まれないやり方ではあるが、ノクトは特に気にせず、今までの経緯を説明した。

 

むしろこっちの状況も説明する予定であったので、先にすませようかと思っていたほどでもあった。

 

 

「·······つーわけでルイズが惚れ薬を飲んじゃって今頃シエスタと言葉では言い現せないことをやらかしそうになってるから『水の精霊の涙』が必要なんだ」

 

 

自分で言っててなんだが、それは相当まずいのでは? と思わず心の中で訊ねてしまった。あまり使われる事のないノクトの頭が回転し、鮮明にその状況が思い描かれる。

 

 

『ミス・ヴァリエール、私·······あなたのこと』

 

『ええ、わかってるわ·······だから、一緒に』

 

『ええ、共に·······ッ!!』

 

(やめろやめろやめろッ!! 考えるな考えるなッ!!)

 

 

ノクトは頭を思いっきり振り回し、その想像をなかったことにする。

 

 

「そんな事があったのね·······しかし惚れ薬なんてなんで作ったの?」

 

 

キュルケは、パクリと小さく肉をかじるモンモランシーに訊ねる。

 

 

「べ、別に作ってみたかっただけよ」

 

 

質問の内容があまり触れてほしくなかったのか、モンモランシーは割と早口で答えた。

 

 

「まったく、自分の魅力に自信のない女って最悪ね」

 

 

呆れられた口調に、モンモランシーはこめかみに血管を浮かべて声を荒げた。

 

 

「うっさいわね! 仕方ないじゃい! このギーシュったら浮気ばっかりするんだから! 惚れ薬でも飲まなきゃ病気が治んないのッ!!」

 

「も、元を辿れば僕のせいなのかい·······?」

 

「つか、それだったら別れればいいんじゃねぇーの?」

 

 

最もな答えを、ノクトは意識せずに答える。

 

しばらく静まる周囲、そしてモンモランシーの顔が真っ赤に染まると、指をいじくりながら独り言のように喋る。

 

 

「べ、別にギーシュが好きとかそういうわけじゃないのよ? ただギーシュが私の事を好きになったのに他人の女の子といちゃいちゃするのは色々とどうかな~って思っているだけなのよ? 別に振ってもいいけどそれだったらギーシュがかわいそうでしょ?」

 

「あっそう。そういうことなら仕方ないな。みんな、そういうことらしいわ」

 

 

ハッとなり、皆の視線がこちらに向いている事に気付く。モンモランシーは恥ずかしながらも、プイッと視線を明後日の方向へ向ける。

 

 

「と、とにかく! 私達は『水の精霊の涙』が必要なのよ!」

 

 

ふーん、といやらしい笑みを浮かべながら、適当にキュルケは相槌をとった。

 

 

「でも、それだと困ったわね·······あなた達とやり合うわけにもいかないし、かといって水の精霊を退治しないとタバサの立つ瀬はないし·······」

 

「つか、そっちの理由はなんなんだ?」

 

 

ノクトはようやくキュルケ達の理由を聞こうとしたが、今度は困った顔を浮かべられた。

 

何か言えない事情があるのか? と思い、とりあえず様子を見る。キュルケはたき火の炎を無表情で見つめてるタバサに目をやると、ため息を吐いた。

 

なんで答えるだけなのにそのように悩むのだろう? と、ノクトは不思議に思う。むしろ聞いてはいけなかったのだろうかと逆に感じてしまい、頭を掻く。

 

 

「あー、いやそんなに悩むなら別に答えなくてもいいんだが·······」

 

「え、あ。ち、違うのよ。ええと、ほら、タバサのご実家に頼まれたのよ」

 

 

キュルケは一回息を吐くと、次はすらすらと続ける事ができた。

 

 

「水の精霊のせいで水かさがあがってるじゃない? そのせいでタバサの実家の領地が被害に遭っているらしいの。それであたしたちが退治を頼まれたってわけ」

 

 

キュルケの話を聞いて、今度はノクトが困った表情を浮かべた。それだったらキュルケ達も諦める事はできないのだ。

 

 

「あー、じゃあさ、明日水の精霊とちょっと話してみねぇか?」

 

 

ノクトは少し考えた後、妥当な提案を提示してみた。水のかさを上げるのも何か理由があるに違いない。ならばそれもついでに自分達が解決すればいいのだ。

 

キュルケの顔が驚きと疑いで混ざり合う。

 

 

「水の精霊が聞く耳なんか持ってるかしら」

 

「それなら別に問題ない。午後水の精霊と話したからな。襲撃者を退治したら『水の精霊の涙』を貰う約束したんだから、もう一度会うことになってるしな」  

 

「ふむ·······」

 

 

とキュルケはノクトの言葉を信じて頷くと、隣にいるタバサに聞いた。

 

 

「結局は水浸しになった土地が元に戻ればいいわけなのでしょ?」 

 

「·······」

 

 

コクリ、とタバサは小さく頷く。

 

どうやら交渉成立のようだ。

 

 

「よし決まり! じゃ、明日になったら交渉してみましょ!」

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

「水の精霊よ。もうあなたを襲う者はいなくなったわ。約束通り、あなたの一部を貰えるかしら?」

 

 

翌朝、モンモランシーはこの前と同じようにカエルを使って水の精霊を呼んだ。

 

今回はモンモランシーの姿にはならず、アメーバみたいなままであった。一行の代表者としてモンモランシーは話しかける。すると、突然水の精霊はブルッと残像が見える程の勢いで震えた。

 

その勢いでピッ、と一粒の水滴がノクト達目掛けて飛んでくる。

 

 

「うおッ!」 

 

「おおッ!?」 

 

 

とノクトとギーシュは慌てるが、なんとかそれを小壜の中へと入れる事に成功した。

 

よし、これでルイズが元に戻るなーと感心していたら、用件を終えた水の精霊が帰ろうとしたので、ノクトは引き止める。

 

 

「って待てよ!? 『水の精霊の涙』は!? くれるんじゃねぇのかよっ!?」

 

「だからもう少し丁寧に話しなさいッ!」 

 

 

とモンモランシーに叩かれるのが報酬であった。

 

しかし、水の精霊は特に気にした様子もなく、再び水面にあがってくると、今度はモンモランシーの姿へと変わった。

 

もちろん昨日と同じ恰好。今度はキュルケやタバサといった女の子がいるため、モンモランシーは恥ずかしそうに呟いた。

 

 

「何て言うか、これって反則じゃないのか?」

 

『どうした? 単なる者よ』

 

「出血大サービスをやっててさ。どうして水かさを増やしているか教えてくれないか? もしかしたら、俺達でも手伝えるかもしれないと思ってな」

 

『·······』

 

 

水の精霊は再び様々な表情に変えていく。これがどうやら悩んでいるポーズなのだ。

 

 

『お前達に任せてよいものか我は悩む。しかし、お前達は我との約束を守った。ならば信用して話しても良いことと思う』

 

「そっか、サンキュ」

 

 

ここで断られたら全てが意味を成さないからちょっと不安だったノクトだったが、信用してくれたので結果オーライだ。

 

今度は、さまざまな形状に変化していく。

 

が、結局はモンモランシーの姿に落ち着くのであった。

 

 

『数えるほどもおろかしいほど月が交差する時の間、我が守りし【秘宝】をお前たちの同胞が盗んだのだ』

 

「秘宝か?」

 

『そうだ。我が暮らすもっとも濃き水の底からその秘宝が盗まれたのは、月が三十ほど交差する前の晩のこと』

 

 

それっていつなんだ? と小さくモンモランシーに訊ねると、大体二年前ね、と返事が返ってきた。

 

 

「じゃあつまりあれか? その秘宝を奪い返すために水かさを増やし続けてたってのか?」

 

『左様。水が浸食し続ければいずれ秘宝に届くだろう。水がすべてを覆い尽くすその暁には我が体が秘宝のありかを知るだろう』

 

 

なんつー気の長い話なんだろ·······と思う。

 

果たして何年かかるのだろうか? 数字に換算したらとんでもない数になりそうだ。

 

 

「それだと困る人達がいっぱいいるわけだし、俺達に任せてくれた方が手っ取り早いと思うけど、どうだ?」

 

『ああ、お前たちを信用しよう』

 

どうやらうまくいったようだ。

最も、その秘宝を取り返さなければ意味がないのだが·······。

 

 

「そんじゃまあ、その秘宝の名前を教えてくれないか? 探したくても名前も形もわからなきゃ意味ねーし」

 

『【アンドバリの指輪】。我と共に時を過ごした指輪だ』

 

「了解」

 

 

期待を裏切らないいい名前だな。と、ノクトが秘宝の名前の出来に納得していると、モンモランシーがなにかを思い出すかのように呟く。

 

 

「なんか聞いたことがあるわ」

 

 

少しだけ思考を巡らせ考えこむ。

 

 

「『水』系統の伝説のマジックアイテム。たしか、()()()()()()()()()()()()()()()·······」

 

『そのとおり。誰が作ったものかはわからぬがな。死は我にはない概念ゆえ理解できぬが、死を免れぬお前たちにはどうやら【命】を与える力は魅力と思えるかもしれぬ。しかし【アンドバリ】の指輪がもたらすものは偽りの命。旧き水の力·······所詮益にはならぬ』

 

「盗んだ奴の特徴とかわからねぁのか?」

 

『風の力を行使して、我の住み処にやってきたのは数個体。眠る我には手を触れず、秘宝のみを持ち去っていった』

 

 

モンモランシーが昨日言った言葉を思い出す。そのような風の使い手は、相当な使い手らしい。

 

どうやらノクトが思っている以上に、困難な問題でありそうだ。

 

 

「そいつらの名前とかわかるわけないよな……?」

 

『確か個体の一人がこう呼ばれていた。【クロムウェル】と』

 

 

って寝てたんじゃねえのかよ! と突っ込みそうになったが、それを再び呑みこむ。ノクトと水の精霊、概念が違うのだからどうしようもないのである。

 

そんなノクトをよそに、キュルケはその名に覚えがあったようだ。

 

 

「聞き間違いじゃなければ、そいつはアルビオンの新皇帝の名前ね」

 

「アルビオンの新皇帝·······なんか嫌な感じがすんな」

 

 

ノクトはあまり不幸にならないような展開を望んだ。なにせ指輪を取り返すために一国の皇帝と戦わなければならないのは少しぶっ飛んでいる。

 

しかし。

 

だとしても取り返さなければならない。ノクトは使命感を抱くようにして、水の精霊にこう告げた。

 

 

「じゃあ俺らがその秘宝を取り返すから、これ以上水かさを増やさないでくれないか?」

 

『わかった。指輪が戻るのなら水かさを増やす必要もない』

 

「サンキュ。んで? いつまでに取り返せばいいんだ?」

 

『お前達の寿命がつきるまででかまわぬ』

 

「随分と気前がいいな」

 

『気にするな。我にとっては明日も未来もあまり変わらぬ』

 

 

何と言うか話術の長ける人に騙されるタイプだな、とノクトは水の精霊のキャラを決定づけた。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

これで話が終わったと判断したのか、水の精霊が再び姿を消そうとした。

 

しかし、

 

 

「待って」

 

 

全員がその声の持ち主に振り向く。

 

タバサであった。

 

滅多に口を開かない彼女が、なぜ水の精霊を呼び止めるのだろうか?

 

皆が同じ疑問を抱く中、タバサは周りを気にせず話を進めた。

 

 

「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」

 

『なんであろう?』

 

「あなたは私達の間で『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」

 

『単なる者よ。我とお前達では存在の根底が違うゆえ、深く理解はできぬ。しかし我が思うには、我の存在自体がそう呼ばれる理由であるのだろう。我に決まった形はない。しかし、我は変わらぬ。お前達が目まぐるしく世代を入れ替える間、我はずっとこの水と共にあった』

 

 

正直、ノクトには何を言っているのかさっぱりであった。

 

ただ、タバサが時折頷いてはいるので、おそらく彼女は理解しているのであろう。

 

 

『変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう』

 

 

タバサは最後に大きく頷くと、目を瞑り手を合わした。キュルケは優しく肩に手を置いた。どうやら二人だけの秘密のようである。それならば仕方ない、そっとしとくべきである。

 

 

「ほら、アンタも誓約しなさいよ」

 

「? なにをだい?」

 

 

ピキリとモンモランシーの頭の中で何かの音がすると、ギーシュを思いきりグーで殴った。

 

 

「な・ん・の! ために、私が惚れ薬を調合したと思ってるのッ!?」

 

「え? あ、ああ!」

 

 

とギーシュは、納得したようにぽんと手を叩く。

 

再びモンモランシーが頭を殴る。

 

 

「えぇと、ギーシュ・ド・グラモンは誓います。これから先、()()()()()()()()()()()()─────」

 

「違うでしょ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()! アンタのことだからすぐに二番三番を作ってくるでしょーが!」

 

 

それから、ギーシュはモンモランシーの要望通りの誓約をした。

 

最も、それが守られるかと聞かれたら、答えは果てしなく『微妙』であるが。

 

 

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