ゼロの王子様   作:織姫ミグル

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第49章

 

 

さぁて、いよいよチップレースも最終段階に入ってまいりました。

 

スカロンはまるで表彰台の上に登らせるように女の子達をテーブルの上に乗せた。今日までの途中経過を発表するのだ。

 

 

「それでは、現在トップスリーに入っている妖精ちゃん達を紹介するわ。まずは第三位! “マレーネ”ちゃん! 八十四エキュー五十二スゥ、六ドニエよん!」

 

 

拍手が鳴り響く。マレーネと呼ばれた銀髪の女の子は優雅に一礼しテーブルから降りる。

 

 

「続いて第二位! ジャンヌちゃん! 九十八エキュー六十五スゥ、三ドニエ!!」

 

 

皆からの拍手に照れているのか栗色の女の子が顔を赤らめてゆっくりとテーブルの上から降りる。

 

 

「そして最後、第一位は·······」

 

 

スカロンはまるで太鼓でも叩く音を鳴らすかのように、口で『トゥルルルルル』と、セルフで舌を響かせて呟き、重く頷いてテーブルの上にいる女の子に手で示して紹介した。

 

 

「不肖、わたしの娘! ジェシカ!! 百六十エキュー七十八スゥ、八ドニエ!!」

 

「「「「「「きゃあ~~~ッ!!」」」」」」

 

 

それは祝福して歓声を上げているのか、それとも悔しがっての悲鳴なのか。なんにせよ、今日のために用意した、深いスリットの入ったきわどいドレスでジェシカは一礼した。

 

 

「さあ、泣いても笑っても今日がチップレース最終日! でも今日はティワズの週のダエグの曜日! 月末だからお客様がたくさんいらっしゃるわ! 頑張ればチップを大量に貰えるチャンスかも! まだまだ上位は射程距離よ。妖精ちゃん達!! 張り切って行きましょう!!」

 

「「「「「はい、ミ・マドモワゼル!!」」」」」」

 

 

女の子達は順位圏外にったとしても諦めないつもりらしい。さすがはスカロンが見込んだ女達だけではある。

 

一方、そんなスカロンに見込まれて雇われたルイズはというと、

 

 

「お前はいくらなんだ?」 

 

「·······」

 

 

ルイズは口を固く閉ざし、握り締めていた拳を開いてノクトに見せる。

 

そこにあるのは銅貨数枚。

 

ノクトはそれを見て、絶望的な状況に思わずため息をつく。

 

 

「それじゃあみんな、今日も頑張っていきましょう!!」

 

「「「「「おおー!」」」」」」

 

 

元気な声が響き渡る中、ルイズだけは声を発しなかった。多分もう無理だと思っているに違いない。様々な感情が渦巻く中、『魅惑の妖精』亭が開店した。

 

 

 

△▼△▼△▼△ 

 

 

 

なんか、ルイズの様子がおかしい。ノクトは皿洗いをしながらそう思った。今までと違って笑顔を固定する魔法を解き、自然な笑みを浮かべているように見えた。

 

にこっと笑って、それから恥ずかしくもじもじするという仕草を披露した。

 

すると近くの客がルイズに話しかける。

 

 

「君、どうしたのかね?」

 

「·······」

 

 

ルイズは人差し指を口に当てて上目遣いでそのお客様の質問に解答する。

 

 

「いえ、お客様があまりにも素敵だったので」

 

 

それが本心かどうかはわからないが、ここの常連である客はそれだけで満足したのか、こちらに来なさいと椅子を空けてトントンと叩いて招く。

 

ルイズはゆっくりとした歩調で近付いていってお客の隣に座り込むと、客は動せずに杯を差し出す。そしてルイズはここぞとばかりに必殺技を繰り出す。

 

キャミソールの裾をつまみ、貴族のような優雅な一礼を見せつける。さすがは公爵家の娘なだけあって、王侯に対するようなその一礼には、彼女の貴族としてのプライドが込められている。

 

それがルイズの武器だった。

 

他の女の子には真似は出来ない上品なその物腰。その様子にさすがに客は気付いたのか、ルイズに向かってこんなことを聞き出す。

 

 

「君は上流階級の生まれじゃないかね?」

 

 

笑顔を絶やさなかったルイズは、それでも目を見開いていた。身分がバレた、そう思うように顔をハッと上げるが、すぐにハッピースマイルサービスを提供し、何事もなかったかのように振る舞う。

 

しかし客の妄想は止まらない。

 

 

「とある貴族のお屋敷にご奉公していたとか? それでそこで行儀作法を仕込まれたんだろう?」

 

「·······」

 

「君みたいな可愛くておとなしい女の子が奉公していたら、ただじゃ済まんだろう。行儀作法だけでなく、あんなことや、こんなことに、そんなことまで教え込まれたんじゃないのかね?」

 

 

ルイズはただ笑顔を返す。

もう喋らない方がいいと考えていたルイズはただ笑みを浮かべるだけ。

 

その笑みは、客にとっては不幸な作り笑いに見えたらしい。

 

 

「くッ! ひどい話だね。君みたいな可愛い顔をしている娘がこんな街で·······そうだ! わかったぞ! あんなことやこんなことにそんなことまで仕込もうとする無体な旦那が嫌気を指してお屋敷を飛び出したんだな! しかし両親の借金は残っている。それを返すためにここで必死に働いている、そうだろう!?」

 

「········」

 

 

ルイズは未だに笑顔を崩さない。鳶色の瞳が客の姿を反射し、そんな風に見られたら、客は魔法をかけられたかのように財布の紐を緩めたくなってしまうのであった。

 

 

「なんて、なんて可愛そうな娘なんだ。ふむ、じゃあこれを借金返済にあてなさい。ところで、あんなことやこんなことにそんなことまでされたのは一体どんなんことだね? 話してみなさい。いいね?」

 

「·······」

 

 

ルイズは困惑していた。

なんか勝手に解釈されて、妄想したその話を信じきったお客様は、ルイズに金貨や銅貨を何枚もくれる。貰った瞬間、ジャンプしそうになるほど喜ぶが、今は仕事中。喜ぶ気持ちを堪え、仕事をこなすために客の隣に腰掛けて訊ねる。

 

 

「ま、全く戦争だなんで······いやになりますわよねぇ」

 

「そうだねぇ、全く『聖女』などと持ち上げられているが、政治の方はどうなのかねぇ?」

 

「と、申しますと?」

 

「あんな世間知らずのお姫様に、国を治めることなんかできるはずがないってことさ!」

 

 

これは明らかにアンリエッタ姫への悪口だろう。唯一の親友であるルイズはその言葉を聞いて拳を握り締めるが、なんとか堪える。

 

これは任務だ。

 

街中で姫様の評判や政治家について聞いて報告するのが今回の任務だ。

 

 

「あのタルブの戦なんて、たまたま勝ったようなもんだ。次はどうなることやら、不安で夜も眠れないよ」

 

「そう、ですか·······」

 

 

ルイズは現状任務を遂行している。が、その内容はどれもひどいものだった。とてもじゃないが、姫様の耳に入れたくないものばかりだった。

 

 

「どうせならアルビオンに治めてもらったほうか国は安泰するんじゃないかねぇ」  

 

 

という意見もあれば、

 

 

「兵士どもはなにやってんだよ、さっさとアルビオンへ攻め込めってんだ」

 

 

と、勇ましい意見まである。

 

 

「軍隊を強化するって噂だってよ。全くまた税金が上がっちまうよ。冗談じゃない!!」

 

「今の軍備で国を守れるのか!? 早いとこ艦隊を整備して欲しいもんだぜ」

 

「·······」

 

 

ルイズは客達の声一つ一つ常に拾いながら情報収集をする。簡単に纏めてみると、タルブの戦でアルビオンを打ち破ったアンリエッタの人気は陰りが見え始めているように見えた。

 

戦争が終わらず、不況続きで民は皆不満を抱いている。アンリエッタは女王になるには若すぎる。故に小娘に国を任せるなという声が四方八方から聞こえてくる。

 

任務で民の声を聞かなきゃならないが、ルイズまで心を痛めてしまう。

 

そんな風にルイズはお客の隣に座ってチップを貰っては情報収集も忘れない。ジェシカのチップ集めにはとてもじゃないが追い付けない。

 

とにかくジェシカは自分の美貌を活かして、『自分に惚れている』と思わせる演技力が上手いのである。

 

ルイズはジェシカの方を観察した。ジェシカは冷たい態度で客に料理を出すと、その態度に客は驚いている。

 

 

「おいおい、なんだよジェシカ。機嫌が悪いじゃないか」

 

「·······さっき誰と話してたの?」

 

 

嫉妬と色欲を、全面的に出すジェシカの演技はもはや舞台の俳優だった。なにしろ、客に対して本当に焼きもちしているように見えてしまう。

 

それによって客達はジェシカは自分に惚れていると錯覚してしまうのである。所謂一種の洗脳、詐欺だ。

 

客は必死にそんなことはないと訴えかけるが、ジェシカは信じようとはしない。それも戦略の一つ、相手の男はどう見てもモテる顔つきではない。にも拘らず、ジェシカは好意を持っているかのように話し出す。これはどんな男達もイチコロだ。ジェシカの嫉妬心と強欲心が強く現れていて、言葉巧みに男の客の心を支配している。

 

チップを渡そうとしたら『いらない』といい、立ち去ろうとするが、ジェシカは腕をつかんで止めさせられる。これも演技の一つ。もう見放されたと思われたくないからジェシカはわざといらないと言って立ち去ろうとしたのだ。

 

男はジェシカにこう言う。

 

 

「わかった。他の女の子には誰にも惚れないから、お前も惚れるなよ? ほら、チップだ」

 

「いいって、いらないわよ!!」

 

「気持ちだよ、気持ち」

 

 

拒む演技をしたジェシカは男の手によって強引に握らせる。しばらく俯いていたジェシカは、ニヤッと笑ってありがとうと告げると、男はジェシカにデートでも誘おうとしているのか口をもごもごとさせていると、

 

 

「で、今日店がひけたらなんだけど、俺と────ッ!!」

 

「あ、いっけなーい。次の料理を運べって頼まれてたんだ」

 

 

貰えるもんを貰えたからもうこの男には用はない。ジェシカは立ち上がって厨房の方まで歩いていく。

 

 

「あ、おい!」

 

「あとでまた話しかけてね。他の女の子に色目使っちゃダメよ!」

 

 

ジェシカは男に背を向け、てへぺろとでもいうかのように小さく舌を出す。やはり全部演技だったらしい。汚いやり方でチップを集めているジェシカにルイズはこめかみがキレそうだった。

 

その時だった。

 

ジェシカと目が合ったのは。

 

ジェシカはルイズを見ると、自慢するように胸の谷間にチップを挟んで見せた。それに腹を立てたルイズは奥歯を噛み締める。

 

たしかノクトは姫様から貰った金貨を何枚も持っているはずだ。そんなノクトにジェシカが演技で攻められたら、ノクトは間違いなくチップをあげるだろう。

 

その時、シエスタの顔が浮かぶ。彼女もノクトの気を引くために胸でアピールしてきた。キュルケもそう、ノクトに惚れさせるために胸やアクセサリなどを身に付けてアプローチしていた。

 

女達に囲まれたノクトの姿が思い浮かぶ。

 

 

(そんなの絶対許せないッ!!)

 

 

負けるもんですか、そう誓ったルイズは固く拳を握り締め、平らな胸を張って勝ってみせると宣言した。

 

 

 

△▼△▼△▼△ 

 

 

 

そういうわけで最終日、女の子達が一生懸命になってチップを集めている最中、羽扉が開き、新たな客の一群が現れた。

 

一番前には貴族と思しきマントを身につけた中年男性。でっぷりと肥え太り、額には薄くなった神がのっぺりとついている。一緒についてきた共の者共も、下級ではあるが貴族であるらしい。腰にレイピアのような杖を下げ、軍人らしい風体の貴族も混ざっている。

 

その貴族が入ってくると、いつも明るいスカロンが口調を変えて一礼する。

 

 

「これはこれは、“チュレンヌ”様。ようこそ『魅惑の妖精』亭へ·······ッ!!」

 

 

チュレンヌと呼ばれた男は、鯰のような口髭を捻りあげると後ろにのけぞった。

 

 

「ふん、繁盛しているようだな」

 

「いえいえ、とんでもない! 今日はたまたまと申すもので、いつもは閑古鳥が鳴くばかり。明日にでも首を吊る許可を頂きに、寺院へ参ろうかと思った次第でして。はい」

 

「なに。今日は仕事ではない。客で参ったのだ。そのような言い訳などさんでもよい」

 

 

チュレンヌはそう言うが、生憎今は満席。座るスペースなどどこにもない。

 

 

「あの、チュレンヌ様。本日はほれこのように満席でございまして·······」

 

「わたしには、そうは見えないが」

 

 

そう言うとチュレンヌは腰にあったレイピア型の杖を引き抜くと、天井に掲げ光を放つ呪文を唱える。脅しである、席を退かないと貴様等の命はないという、脅迫である。

 

その光を見た平民の民達は怯え、酔いが覚めたかのように立ち上がって出入口から人が消えていく。店は一気に沈黙に包まれた。

 

 

「どうやら、閑古鳥というのは本当のようだな」

 

 

太った腹を揺らして腹で笑うと、チュレンヌ達は真ん中の大きなテーブルに腰掛ける。

 

ノクトはそんなチュレンヌの態度に少し腹立ったのか、ちょうど横にいたジェシカにアイツは誰なのか訊ねる。

 

 

「あのデブのおっさん、誰だ?」

 

「しぃー! 声がでかい!! この辺の微税官を務めてる“チュレンヌ”よ。ああやって管轄区域に入ってきては私達にたかるの。嫌なやつ、銅貨の一枚も貰ったことがないんだから」

 

「ふーん」

 

「貴族だからって威張っちゃって、アイツの機嫌を損ねたらこの店が潰されちゃうから、みんな大人しく言うこと聞いてるの」

 

 

どんな世界でも権威を利用して庶民達を脅す連中はいるみたいである。そんなチュレンヌを恐れて女の子達は酌をやりに行かない。それでチュレンヌはイラついたらしい。まるでわざとらしく店の悪口を言い出した。

 

 

「おや! だいぶこの店は儲かっているようだな! このワインはゴーニュの古酒ではないのかね? そこの娘が着ている服はガリアの仕立てだ! どうやら今年の課税率を見直さなければならないようだな!!」

 

 

チュレンヌがつれてきた取り巻き達もその言葉に賛同するように声をあげるが、チュレンヌは女の子達を見回し、フンと鼻をならした。

 

 

「女王陛下の微税官に酌をする女はおらんのか! この店はそれが売りなんじゃないのかね?」

 

 

チュレンヌがそう言うも女の子達は震えていて、誰も動けなかった。ジェシカが小声で呟く。

 

 

「触るだけ触って一チップもよこさないアンタに誰が酒を汲むもんですか·······ッ!!」

 

 

ジェシカが憎憎しげに呟いた、まさにその瞬間、チュレンヌに酌をしにいく勇者が現れた。

 

ワインを乗ったお盆を掲げて近付いていくのは。

 

ノクトの主人であるルイズだった。

 

彼女はとにかく、チップを集めなきゃいけないということにしか頭になく、客と店の雰囲気まで気が回らないのである。

 

近付いてきた女、ルイズにチュレンヌは鋭い目付きで睨み付ける。

 

 

「なんだお前は?」

 

「どうも、ルイズと申します。お客様·······素敵ですね」

 

 

マニュアル通りに言った言葉だが、チュレンヌはそんなことはどうでもよく、ルイズの体つきを見て高笑いする。

 

 

「だぁあはっはっはッ!! なんだ! この店は! 子供まで雇っているのか?」

 

「·······」

 

 

ルイズはビキッ! と顔を引きつらせるがなんとか堪える。ルイズは我慢しキャミソールを持って一礼する。

 

しかし、チュレンヌにはルイズが好みではないらしく、

 

 

「ほら行った行った! 子供に用はない、去ね!」

 

「·······」

 

 

ビキッ!ビキッ! とルイズがこれでもかというくらいこめかみがぴくつくのを感じた。怒っているらしい。ノクトは必死で願った。やめて、怒らないで大人しくして。相手は微税官なんだから、と。

 

しかし、次の一言でルイズの怒りゲージはマックスを越える。

 

 

「なんだ、よく見ると子供ではないな·······ただの胸の小さい娘か」

 

「·······ッ!!」

 

「ふはははは! まるで洗濯板みたいだ、かわいいなぁお嬢ちゃん」

 

 

ルイズはいよいよ不快の絶頂だった。思わず手が出そうになるほど、ルイズは体が震えていた。

 

そして。

 

チュレンヌはそんなルイズの胸に手を伸ばし、歪んだ表情で触ろうとする。

 

 

「どれ、このチュレンヌ様が大きさを確かめてやろうではないか」

 

 

そこまで言ったその瞬間。

 

シュン! という音と共に、

 

ノクトの体がチュレンヌのすぐ前に立っていた。

 

 

「な、なんだ貴様!? どっから現れ────ッ!!」

 

 

その言葉が最後まで紡がれることはなかった。体を強張らせるチュレンヌの手を掴み、そのまま襟首を掴むと、ずるずると羽扉の外側へと放り投げた。

 

 

「グワッ!?」

 

 

ノクトに放り出さられたチュレンヌは、どういうつもりなのか怒号に似た感情で聞いてくる。

 

 

「貴様、どういうつもりだッ!! 私は女王陛下の微税官だぞ!?」

 

「それがなんだよ」

 

「な、なに!?」

 

「アンタに酌を上げた奴は、女王陛下の女官で由緒正しい家柄の者だぞ?」

 

「なッ!? で、デタラメだ! 女王陛下の許可証も持ってないくせに、適当なことを言うんじゃ────ッ!!」

 

 

そう言いかけたところだった。

 

ルイズがノクトの横に立つと、ポケットからアンリエッタの許可証を取り出してチュレンヌの顔に突きつけた。

 

 

「へ、へへへ、陛下の許可証!?」

 

「ノクトの言う通り、私は女王陛下の女官で、由緒正しい家柄を誇るやんごとない家系の三女よ。アンタみたいな木っ端役人とは違って陛下から信頼されているのに、洗濯板はあんまりじゃないの? 覚悟は出来てるわよね?」

 

「ふ、ふざけるな!! そんなの偽造だ。偽造に決まっている! こんな小娘に陛下が許可証を出すはずが────ッ!!」

 

 

言葉が終わらないうちに、ノクトは短剣を召喚して首もとに押し付けるとぶっきらぼうに言い放つ。

 

 

「死にたくなかったら、さっさと謝れ」

 

 

冷たく、本気な目をしていた。

 

そこまでやられてチュレンヌは本気で命の危機を感じたのだろう。チュレンヌは肥えた体を折り曲げて、平伏すると、その一緒についてきた共の者も、ルイズとノクトに平伏し謝罪の言葉を述べる。

 

 

「も、申し訳ありませんでした!!」

 

「ゆ、許して! い、命だけは!!」

 

 

それからチュレンヌは懐をがさごそと慌てて体をあさり、でっかい袋をそのままルイズに渡した。そんな彼に倣って、他の貴族達も財布を取り出してルイズに引き渡す。

 

 

「こ、これでどうかお許しください。ど、どうか!!」

 

「·······」

 

 

ルイズはゴミを見るような感じで目を細くし、低い声で言い放つ。

 

 

「今日見たこと、聞いたこと、全部忘れなさい。でないと、命がいくらあっても足りないわよ」

 

 

そこまで言われてチュレンヌ達は力強く頷き、わめきながら夜の闇へと消えていく。

 

それを確認したノクトとルイズは颯爽と店内に戻って行く。すると、鼓膜が破れんばかりの盛大な拍手が響き渡る。

 

 

「すごいわルイズちゃんッ!!」

 

「あのチュレンヌの顔ったらなかったわ!!」

 

「胸がスッとしたわ、もう最高ッ!!」

 

「ノクティスさんも、カッコよかったわ!!」

 

「さっきのあれ! 魔法よね!? あんな魔法初めて見たわ!! なんていう名前の魔法なの!?」

 

 

スカロンが、ジェシカが、女の子達がノクトとルイズを取り囲む。誉めてくれるのは嬉しいが、しかし困ったことになった。

 

身分がバレた今、情報収集がしづらくなった。

 

また一からやりなおしか、と思い二人は『魅惑の妖精』亭から立ち去ろうとすると、

 

 

「いいのよ、ルイズちゃん、ノクティスちゃん」

 

「「え?」」

 

「ルイズちゃんが貴族だってこと、初めから知ってたわん」

 

「なに!?」

 

 

ノクトは慌ててジェシカの方を見る。しかし彼女は必死で私は何も言ってないと両手で手を振って同時に首まで横に振る。

 

 

「ど、どうしてわかったの?」

 

「そりゃあ、だって、ねぇ?」

 

 

スカロンの言葉を女の子達が引き継ぐ。

 

 

「だってあれだけお客さんにあんなにひどい態度を取られていたら、嫌でもいいとこのお嬢様だってわかるじゃない」

 

「こちとら、何年酒場をやってると思ってるの? 人を見る目だけは一流よ。けど安心して、何か事情があるんでしょう? ここにいる人たちは過去の秘密をバラす子なんていないから、心配しないで」

 

 

女の子達は互いに顔を見合わせて同時に強く頷いた。どうやら、鋭く観察できるのはジェシカだけではなかったようである。

 

そんな冷たい空気を変えるように、スカロンが指をパチンと弾くと、楽しげな声で話し出す。

 

 

「はい、お客さんも全員帰っちゃったので、チップレースの結果を発表しまーす!!」

 

「「「「「キャー!」」」」」

 

 

女の子達が歓声をあげるも、すぐに素面に戻り微笑んでルイズの方を見た。

 

 

「ま、数えるまでもないわよね」

 

 

ルイズの真下に置かれている大量の袋。その中には新金貨が何枚も入っていた。火を見るより明らかだ。

 

優勝はマレーネでもなく、ジャンヌでもなく、ジェシカでもない。

 

スカロンはウィンクするように片目を瞑ってルイズの手を握って掲げる。

 

 

「優勝は、ルイズちゃんよ! 妖精ちゃん達、ルイズちゃんに拍手を送ってあげて!!」

 

「「「「「わぁぁぁぁあッ!!」」」」」

 

 

店を救ったルイズを祝福するように、女の子達は盛大な拍手をルイズに送って上げた。

 

 

 

△▼△▼△▼△ 

 

 

 

翌日の夜。

ルイズは体調が悪いと言う理由で仕事を休んだためか、ノクトは人一倍皿洗いを頑張った。仕事を終えたノクトは屋根裏部屋へと戻っていく最中、あることに気が付いた。

 

部屋の床板から光が漏れている。ルイズが起きている証拠だ。

 

体調悪いんじゃなかったのかよ、というツッコミをしようと屋根裏部屋へと続くはしごを登ると、部屋は綺麗に掃き清められ、雑巾までかけたらしく誇り一つ舞っていない。積まれていた荷物は整理整頓されており、人が住める体勢になっていた。

 

 

「な、なんでこんなに綺麗に片付いてんだよ!?」

 

「私がやったのよ。あんなに汚いところにいつまでも住めないわ」

 

 

声の方を向いて、ノクトは目を見開く。

 

ルイズの格好についてだ。

 

ルイズは優勝賞品である、『魅惑の妖精のビスチェ』に身を包んでいた。ノクトはその姿に目のやりどころに困り目を逸らしてしまうが、ルイズが立ち上がったと思ったら、ノクトの首を両手で掴んで前へと強制的に向けさせる。

 

 

「せ、折角着たんだから·······か、感想の一つぐらい言いなさいよ」

 

「·······」

 

 

そう言われ何を口にしたらいいのか悩むノクトは、頬を赤く染めているルイズになんて声をかけたらいいのかわからなかった。

 

上半身の真ん中はラインは網の目になっていて、ルイズの白い肌を覗かせる。黒いビスチェはぴったり張り付き、体のラインがはっきりとわかった。

 

ノクトは動悸が早くなるのを感じた。

 

しかし、年下の女の子にそんな目で見てはダメだと自分に言い聞かせ、つい後ろを向いてしまったら、ルイズの足音が後ろから聞こえてきた。

 

そして。

 

そして。

 

ルイズはノクトの後ろから抱きつき、ノクトを硬直させる。

 

 

「えっ!? ちょっ!?」

 

「·······ダメ」

 

「·······え?」

 

「折角着たのに、見てくれないなんて·······そんなのダメ」

 

 

そう言われて、ルイズはノクトの背中に抱きついたまま、腰を掴んで一八◯度回転させてルイズの今の姿を見せつける。

 

 

「·······どう? ·······似合って、る?」

 

 

ルイズは頬を赤く染めてそう聞いてきたため、ノクトは素直に口角を上げて告げた。

 

 

「ああ、とっても似合ってるぞ、ルイズ」

 

「ッ!! そ、そう·······」

 

 

急に恥ずかしくなったのか、ルイズはベッドの中に隠れてしまう。時間はもう朝日が登る早朝。東から現れる太陽の光が天窓から射し込んでくる。

 

爽やかに屋根裏部屋を朝の光が覆い尽くしていく。

 

それはまるで、二人の優勝を祝福しているように見えた。

 

 

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