魔王系Vtuberやっていたら本物の魔王にされそうです。   作:ゆゆっけ

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104話 内緒の話

「大丈夫だから……ね?」

 

 大事な話も終わり、すがるように抱きつき私の胸元に顔を埋めるリーゼ。そんな彼女を落ち着かせるように背中に回した手でぽんぽんと優しく撫でる。

 

 普段は凛としていてて幼げに見える外見とは反して言動も立ち居振る舞いも私なんかよりもよっぽど大人に感じる彼女であるが、胸の内で静かに泣いている姿は年相応の少女であり私のせいでそうさせてしまっているのだと思うと心が痛む。

 

 なにより、リーゼは私の大事なファンでもあるのだ……そんな子をまた泣かせてしまった。

 

 後悔と安堵、そのふたつの感情がないまぜになって自然とリーゼを抱く腕に力が入ってしまう。後悔は彼女にそんな思いをさせてしまったこと、そして安堵はまた彼女と共に歩めること。

 

 目覚めてからは配信の成否にばかり気を取られていたし、甜孤やリリスから事の顛末を聞いてからはあまりに私の手に余る状況だったので感覚が麻痺してしまっていたのかもしれない。さらに配信自体は想像を何倍をも超える好評ぶりだ、こうしてリーゼに説明することでようやく落ち着いて実感できるようになってきた。

 

 先ほどまで何事もなく配信もできていたし身体も魔力もなんともないのだが……、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。

 

 それは以前にマリーナから魔力について講義を受けていたこともあったが、あの謎の声が言っていた事はすべて真実だと信じてしまっている自分がいる。不思議とそう思わせる説得力があったのだ。

 そうであるなら、そもそものきっかけでありあんな事態を起こしてしまった原因とも言える無意識下での魔力の隠蔽……。今私の胸の内にいる魔王の娘……魔王見習いVtuberであるリーゼ・クラウゼの3Dお披露目配信を見て恐怖という感情を覚えた私は確かにそれを行ったのだろう。

 

 なぜそんな感情を覚えてしまったのかは未だにわからないし、なぜそんなことをしたのかも全くわからない。こればかりは周りに相談しようとも思えず、ずっと自問自答しているのだ。そうしていればあの謎の声が答えてくれるかもしれないと……。

 

「……落ち着いた?」

「……はい」

 

 華奢な身体を抱き留め、背中を撫でていた手を頭へと移し美しい銀髪の髪を梳かしてあげるように撫でていると、先ほどまで小さく聞こえていた泣き声が聞こえなくなっていたことに気付く。それに泣き声に合わせて上下していた肩からも力が抜け、完全に私に身体を委ねてくれているようだ。そんなリーゼに声をかけると彼女は顔をこちらに向けず胸元に顔を埋めながら小さく頷く。

 

 きっと私には泣き顔を見られたくないのだろう、先ほどまで見せていた今にも泣きだしそうな顔を思い浮かべる。そんな強がりなところも彼女らしくて可愛らしい。

 

『ねぇリーゼ、私ね。リーゼのお披露目を見てから少し怖かったの……』

『……怖かった、ですか?』

 

 再び会話を魔力によるものに切り替えた。先ほどまでそうやっていたし今は抱き合っているのださほど意識せずともそうできる。これは誰にも言っていない話であるし、リーゼ以外には聞いてほしくない。

 

『うん、なんていうんだろう……うまく説明できないんだけど、あんなにすごいリーゼの姿を見せられて、それでその後に私のお披露目だったから……』

『そんな……わたくしなんて……』

『ううん、リーゼは本当にすごかったよ』

 

 歌にパフォーマンス、そしてサクラ子との勝負で見せたあの感情。すべてが私の心に強く残っている、リーゼからはすぐに謙遜の言葉が返ってくるがそれはハッキリと否定する。

 

『でもね、そんな失敗したらどうしようとか、リーゼより上手くやらなきゃみたいなそういう緊張や焦りとも違ってね、リーゼがただただ怖かった……私の存在、黒惟まおの存在が消えてしまうような気がして……。ごめんね、何言ってるのかわからないよね?』

 

 自分でもめちゃくちゃな事を言っているというのは自覚している。それにこんなこといきなり言われてもリーゼだって困ってしまうだろう。

 

『まお様が消えてしまう……』

 

 だけどリーゼは私の話をきちんと聞いてくれている。こんなの傍から見れば、ものすごい才能の片鱗と成長を見せた彼女に恐怖し、自らの存在が危ぶまれるのではないかと危機を感じる情けない先輩の姿であるのに。

 

『だから、もう一人の私……黒惟まおが言うには、魔力を身体の奥底に隠しちゃったんだって』

 

 そう、あの謎の声はもう一人の私……黒惟まおなんだろう。それを別人格と言っていいのか、はたまたこの身に流れているかもしれない魔族の血によるものなのか……封印されてしまった古の記憶なのかは定かではないが。あれは間違いなく黒惟まおという存在だった。

 

『まお様……それは……』

『だから、配信前のマリーナさんのチェックでは大丈夫だったし途中までは私も魔力には余裕があるなって思ってたの』

 

 これまでずっと顔を伏せていたリーゼが私の言葉を受けてこちらへと顔を上げる。すっかり涙は止まり流した跡が少しだけ残っているが、なんだか得心がいったような表情だ。

 

『だから、あの時……急激にまお様の魔力が膨れ上がったように感じたんですね……』

『そう感じてたんだ』

『……あの場にものすごい魔力が集まることはわたくしもお披露目配信で感じていました。しかし、あの時はまお様の魔力が膨れ上がったにも関わらずあの場の魔力はそれほど減っていなかった……すぐに祝福によって周りの魔力ごと使われたので気のせいかとも思っていたのですが、それなら納得できます。しかし、そうであれば……その、今は大丈夫なのですか?』

 

 あのマリーナをも欺いた魔力隠蔽だ、リーゼの懸念はもっともだろう。今は平気でもまたいつ同じ現象が起こるかわからないのだ。

 

『実はね、あれから体内の魔力に関しては前よりずっと感知できるようになったんだ。だから、今は大丈夫だと思う……どこまで信用していいものかは自信はないけど』

『……その、少しだけ魔力の交換を致しましょう……それで多少はわかるはずです』

『うん……』

 

 いくら自身のことであっても魔力に関しててんで素人である私の自己判断など当てにならないだろう。なぜか少しだけ頬を赤らめたリーゼからの提案に深く考えず頷いて同意する。

 

『……どうすればいいの?』

『まお様はただわたくしの魔力を受け入れてくれれば大丈夫です……。こうやって……その、触れ合っているのですから難しいことはありません』

 

 触れ合っているというか抱き合っているのだ、今更ながら少しだけ恥ずかしくなってきた。琥珀色だったリーゼの瞳が緋色へと変わっていき、その深くて吸い込まれそうな瞳の輝きに視線が奪われてしまう。

 

「ん……っ」

「……っ」

 

 私の魔力と入れ違いにリーゼの魔力が身体の中に入ってきたのを感じる……。前に魔力を抜いてもらったことはあるが、こうやって誰かの魔力を直接流し込まれるのは初めての経験だ。配信などでリスナーたちの思いを魔力として受け取るのとは違い、はっきりと彼女の魔力であることが感じられる。これもきっと自身の感知能力が上がったおかげだろう、入ってきた魔力はすぐには私のものとは溶け合わずに探るように身体の中を巡っていって最後にはいつものように溶け合ってしまう。

 

『……なんだか不思議な感じ。リーゼの存在をより濃く感じるっていうか……まるで身体が溶け合ったような……』

 

 こうやって抱き合っているからだろうか、互いの境界が曖昧になり身体も心も魔力もまるで一緒になってしまったような感覚を覚える。

 

『……。直接、他人の魔力を受け取り自らの支配下に置かず好きにさせるというのは本来であれば危ない行為ですから……そこはお気を付けください』

『わかった……リーゼだから大丈夫だったんだね』

『……。わたくしが見た限りでも特に何か魔力が隠されているということはなさそうです』

『それなら、よかった……』

 

 たしかにリーゼの言うように誰ともわからない意思を持った魔力が体内を巡るというのは考えるだけでぞっとする。今回は信頼のおけるリーゼであり、何度か魔力のやりとりをしているからこそ受け入れられたということだろう。同じことをマリーナに頼めるかというと……少しだけ恐ろしさが先立ってしまう。

 

「でも……ほんとうにリーゼの瞳は綺麗だね。ずっと見ていたくなっちゃう」

「……そうですか?」

「普段は綺麗な琥珀色だけど……今の赤い瞳はなんだか目が離せなくなるっていうか……やっぱり魔力のせい?」

 

 これでもう内緒の話は全部だ。魔力交換を行ったせいか、それともその怪しい輝きのせいかリーゼの瞳から熱に浮かされたように視線が外せない。

 

「視覚というのは五感の中でも特に重要とされていますからね、我々魔族はそこに加えて魔力を感じる部分もありますが視ることもできますし。ですから昔から目というのは魔力の面でも重要なのです」

 

 たしか人間が得る情報は八割だか九割は視覚情報からという話をどこかで聞いたことがある。それは魔力を操る魔族とてほとんど同じことなのだろう。魔眼と呼ばれる存在も物語の中にはいくつも出てくる、それらはきっと実在するのだ。

 

「目を見るだけで、目を合わせるだけで暗示をかけてしまう……ということも魔族によっては可能ですので、お気を付けください……もっともまお様くらい魔力を保有していれば生半可なものでは効果はないと思いますが」

「じゃあ、今リーゼから目が離せないのは魔力に魅せられてるから?それともリーゼに魅せられてるから?」

 

 私が少しふざけて微笑み視線を合わせながら首を傾げると、緋色だったリーゼの瞳が琥珀色に戻り視線を逸らされてしまう。

 

「……知りませんっ、まお様はそうやってわたくしにまで暗示をかけようとするんですから」

「私は一人じゃ魔力行使全然できないのは知ってるでしょ?」

「だから……なおさら性質が悪いのです……」

 

 散々な言われようだが、からかったのは私からだこれくらいは甘んじて受け入れなくては。

 

「あっ、そうだせっかくリーゼが入れてくれたハーブティ。すっかり忘れてた……」

 

 ティーポットで蒸らしている間に話し始めてしまったせいでその存在をすっかり忘れてしまっていた。随分と時間が経ってしまっているのでいくらお気に入りのブレンドハーブといえども、かなりえぐみや苦味が出てしまっているだろう。

 

「もったいないけど……入れ直した方がいいよね、入れ直してくる……ってリーゼいつまでこのままでいるの?」

「……」

 

 今度は私が用意しようかと立ち上がろうとするが、当然リーゼに抱きつかれたままでは立ち上がることはできない。再び視線を合わせようと顔を覗き込もうとするがぷいっと顔ごと逸らされてしまう。

 

「リーゼ?」

「わたくし本当に心配したのです」

「それは本当にごめんって……」

「謝らないでください」

 

 つい少し前に交わしたやりとりだが、今回はその意味合いが違うように聞こえてしまう。そしてあの時と違ってリーゼの表情を見ることは出来ないが、泣きそうって事はその声色からしてないだろう。

 

「……謝らないでいいので、もう少しこのままでいさせてください」

「……わかったよ」

 

 ギュッと私の背中に回された腕の力が強まる、この分だとどうやっても私からは離れてくれなさそうだ。それに無理やり引き剥がそうにも筋肉痛が残っているこの身体ではとてもそんな気にはなれなかった。




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マシュマロ
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