魔王系Vtuberやっていたら本物の魔王にされそうです。   作:ゆゆっけ

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23話 はじめまして

 リーゼ:もう少しでつきます

 SILENT:はい

 

 電車が目的の駅につく頃、スマホから今日会う予定の相手へとメッセージを送る。

 まさかあのSILENT先生にお会いすることになるなんて……。マリーナからまお様がわたくしのVtuberデザインを依頼していると聞いたときは驚いたし、先生の方から会いたいと言われるなんて思ってもみなかった。

 

 もしもSILENT先生がわたくしのママになるのであれば……、まお様はわたくしの姉ということになる。まおお姉さま……。まおお姉ちゃん……。

 ただのリスナーで一方的に憧れていた魔王様とそんな関係になれたとしたら、と考えたらどうにもにやける頬を止めることが出来ない。話を聞いてから何回マリーナから表情についてからかわれたことか。

 

 電車を降り改札を出ながら時間を確認する。約束の時間まではまだ三十分程、マリーナに付き添いましょうか?と言われたがここで甘えてしまう訳にはいかない。

 うっかりこのことをお父様に喋ってしまい、VtuberデビューするにはSILENT先生から認められなくてはいけないのだ。わたくしひとりの力でなんとかする必要がある。

 

 今日の予定についてはマリーナにも相談したし、まお様からも色々とアドバイスをもらっている。

 まお様は「(しず)はちょっと、いや、かなり人見知りなところあるから……」と、とても心配されていたので、わたくしがしっかりエスコートして差し上げて良好な関係を築くことが出来れば認めていただける可能性は高い。

 

 駅から数歩出るとショーウィンドウに映る自身の姿を見て服や髪に乱れが無いか軽く確認する。

 今日の服は以前まお様に選んでもらい契約の際にも着ていったものだ。あのときはあらかじめ考えていたとはいえ、いきなりVtuberになると宣言しそのままマリーナと共にお父様を説得しに戻ってしまったので、他の服はまお様のお部屋に置いていってしまっている。

 

 なので、まだまお様のお部屋にお邪魔する理由が残っている……なんて少ししか思っていない。

 

 リーゼ:着きました、水色のブラウスに白いスカート姿です。髪の毛ですぐわかるとは思いますが……

 SILENT:私ももう少しで着きます

 

 一応、まお様からSILENT先生の連絡先を教えて頂きメッセージのやりとりは出来ているのだが、必要最低限のやりとりといった感じでこちらからもあまり踏み込むことは出来ず。初対面でどんなことを話せばいいか……。こんな時はまお様のコミュニケーション能力が羨ましくなる。

 

 そんな事を考えながら今日の予定をスマホを見ながら復習していると何者かが近づいてくる気配を感じ顔を上げる。その先にはSILENT先生ではなく男性二人組が何やらお互いに言葉を交わしながらまっすぐこちらへ向かってきているのが見えた。ニヤニヤとした笑みを張り付け、こちらの姿を上から下まで舐め回すような視線で見られてるような気がして正直あまりいい感じはしない。

 

 「話しかけられてもまともに相手をしてはいけません」とマリーナからも言われている通りすぐにでも場所を変えられるよう、なるべく視線を合わせないように二人組の様子を伺っていると、新たな人影がその進行方向を塞ぐように現れその姿に目を奪われる。

 

「遅れて、ごめんなさい。……さぁ行きましょ?」

 

 駆けてきたせいか黒いワンピースの裾とツインテールを揺らして現れたわたくしよりも年下に見える少女……、それがSILENT先生だとすぐに認識することはできなかった。勝手なイメージではあるのだが、描かれる作品を見ているうちに成熟した女性のイメージがどうしてもついてしまっているのだ。

 

「サイ……」

 

 思わずSILENT先生と呼びそうになり口をつむぐ、この雑踏の中でその名で呼ぶのはどう考えてもまずい。

 

「えっ、この子と待ち合わせしてたの?超かわいいじゃん、もしかしてアイドルとか?」

「あーこっちの子は日本語わかる?ハロー?」

 

 こちらがすぐに先生の姿に気付いて話を合わせてすぐにこの場を離れればよかったのだが、初動で遅れてしまったせいで退路を塞ぐように男たちが回り込み話しかけてくる。無視して歩き出そうとしてもスッと進行方向をそれとなくガードされ身動きが取れない。

 

「なになに?観光かな?観光って英語でなんて言うんだっけ」

「あーなんだっけなー、ツアー?」

「ばっか、お前それだとただの旅じゃね?」

 

 ゲラゲラと笑いながらもこちらへの視線を外さず、なおも話しかけてくる二人に先生はどうしようと不安げに視線を巡らせている。

 わたくしがしっかりしないと……。

 先生がどこかほかの場所に視線を向けている隙を見て、静かに体内の魔力を活性化させ軽い威圧と共に二人の目を見てゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「どいてくださいます?」

 

 ぴたりと言葉と動きを止めた二人を確認し、視線を外してゆっくりと目を閉じて再び開ける。これで瞳は元通りのはずだ。

 素早く先生の手を取ってその場から立ち去った。

 

「とりあえずここまでくれば……」

 

 駅前の雑踏を抜け人通りが少なくなってきたところで足を止め、改めて先生の方へと向き直る。

 待ち合わせ場所ではゆっくりと見る余裕なんてなかったがSILENT先生の姿を見ると、身長はわたくしよりも小さく、艶やかで美しい黒髪をツインテールに結っているせいか余計に幼く見える。しかし、ワンピースを着ているせいでわかりにくいがしっかり女性らしいスタイルをしているように見えるので小柄な女性といった雰囲気だ。

 

 わたくしにも、もう少し……、その女性らしさがあれば……なんて考えてしまう。

 

「この先にわたくしの知り合いからオススメされた喫茶店があって、そこでなら気兼ねなくお話できると思います。そちらに向かっても?」

 

 小さなトラブルはあったがまずは当初の予定通りマリーナから勧められた喫茶店へ案内すべく提案し首を傾げる。なんでもマリーナの知り合いがやっているお店らしく、我々の事情にも明るく希望であれば人払いまでしてくれるという。

 こちらの提案を聞いた先生はこくりと頷き、そして駅前から繋がれていた手へと視線を移す。

 

「あっ、失礼いたしました」

 

 その視線に気付いて慌てて繋いでた手を放し軽く頭を下げる。そんな様子を見ながら空いた手を数度握りしめた先生は小さく頷き視線で先を促す。それを出発の合図としてお互い特に話すこともなく目的地への喫茶店へと向かうのであった。




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