魔王系Vtuberやっていたら本物の魔王にされそうです。   作:ゆゆっけ

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51話 教えてマリーナ先生

「それは災難でしたねぇ……」

 

 同情はしているようだが笑いが隠しきれていない声色でそう言われればムッとして非難の視線を向ける。己が身に起きた不幸をちょっとした愚痴と共に吐き出してみたが、それを聞く相手は事務的に相槌を打ちながら記入されたばかりの書類に目を通している。

 

「はい、こちらで受領いたしますね」

 

 そう言って書類の端をトントンと机で揃えクリアケースにしまい込むのは株式会社Connect2Links代表取締役社長であり、Vtuber事務所liVeKROne(ライブクローネ)の代表者でもあり、今回でいうなら人間界における不動産事業をも取り仕切っているマリーナという女傑である。

 

「ちゃんと聞いてますー?」

「聞いていますとも、結果的に黒惟まおとリーゼ・クラウゼの登録者も伸び、SILENT先生からもお礼の言葉を頂いておりますし。Win-Winではございませんか」

 

 先日のリーゼのやらかし……。黒惟まお抱き枕事件とでも呼ぶべき一件によって該当の切り抜きは大いに話題にあがり、リーゼだけに留まらず黒惟まおの登録者まで普段より伸びる始末。

 SILENT先生こと(しず)曰く、あの日から受注数が増え始め更に配信で語られたレビューを掲載したところそれも話題の広がりに一役買ったらしく目に見えるほどの盛況ぶりだという。

 

 なにが「あの魔王見習いも認める仕上がり!!本人抱き心地確認済み!!!」だ。

 某ネットニュースサイトに記事が上がったと聞いたときは本気で頭が痛くなった。

 

 当のやらかした本人はそれこそボイスチャット越しに土下座する勢いで謝っていたし、なんならその姿を見てほしいとカメラまで起動しようとしていたのはやめさせた。悪気がないのは重々承知なので笑って許したのだが……。

 

 このやり場のない気持ちを発散すべく、ちょうど用事もあったのでマリーナの予定を確認し事務所にいる日に魔力の貯まった赤い石を持って社長室まで訪れたのだ。

 

「それはそうですけど……」

「ご入居はいつ頃のご予定ですか?必要なら引越し業者も手配いたしますけど」

 

 これ以上は愚痴っても仕方ないかと頭を切り替えこの先の予定へと意識を向ける。今日マリーナの元へ訪れた一番の理由、それは新しい物件の契約を結ぶため。

 リーゼから新たな部屋探しの話を聞いたらしい彼女の行動は迅速の一言に尽きた。まずは候補となる物件のリストアップ、それぞれのメリットデメリットの提示。併せて事務所に所属してからの報酬をもとにしたこちらへの財務アドバイス……。

 

 複数の物件を並べ条件と費用を見比べれば、リーゼが住んでいるマンションがどう見ても優良すぎて若干の誘導じみた意図も感じないでもなかったが、リーゼから聞いていた各種費用から逸脱して割り引かれている訳でもないしこちらの心情も考慮してくれているのだろう。

 初めてリーゼの部屋を訪れた際、色々と見て回り惹かれていたこともあって決めるまでに時間はそうかからなかった。

 

 そんな私に対して「賃貸ではなくてお買い上げ頂いてもよろしいのですよ?」と本気で勧めてくるし、話を聞けば聞くほどその気にさせられそうなその手腕は恐ろしい……。さすがに高級マンションの一室をローンで買い上げる勇気はなかったが冗談のつもりで「ローンまで取り扱ってないですよね?」と聞いてみると当然のように紹介して来そうだったのでそれ以上深く考えるのはやめておいた。

 

「いまいる部屋をすぐに引き上げるつもりもないので最低限生活できるよう整えてから一気に配信環境を移す予定です、業者はその時に相談させてください」

 

 家具などの生活に必要なものは部屋も広くなるし、今使っているものは年数が経ってガタがきているものも少なくないので大体は買い替える予定ではいる。しかし配信関連の機材、特に音周りはそういう訳にもいかないのだ。

 

 きっとその引越し業者というのも関連企業だったりするんだろうなぁと思いつつ一旦新居についての思考を止め、ついでの用事として持ってきた魔力の貯まった赤い石が入った巾着のような布袋を鞄から取り出して相手に差し出す。

 

「これお願いします」

「交換ですね、ではこちらを」

 

 もう何度も同じやりとりをしているので相手も心得たものですぐに巾着を受け取り中身を軽く確認した後に新たな石と交換してくれる。私の魔力なんて一体なんの役に立つのだろうと思い、その使い道について尋ねてみたこともあったが。赤く光る石を指先で転がしながらふふふと怪しく笑う姿を見てからは余計な事は聞かないようにしている。

 

「ではお手をこちらに」

 

 促されるまま魔道具であるブレスレットを外し手を差し伸べるとひんやりとした指先が私の手の平に触れる。魔力によってなにか変調をきたしていないか軽い診断のようなことまでしてくれる、こと魔力に関することはマリーナに任せっぱなしだ。

 

「どうですか?」

「いつも通り問題ありませんわ、貯まるペースも以前に比べ安定していますし心配ないかと」

 

 相変わらず魔力に関してはさっぱりなので、問題ないと言われ一安心する。一時期は魔力の貯めすぎを示すブレスレットの石が赤くなる間隔が日に日に短くなり頻繁に交換してもらっていたのだが、ここ最近はそんなこともなく一定間隔で安定している。

 

「じゃあ、今日もお願いしてもいいですか?」

「えぇ、それでは……」

 

 魔力を貯めた石を渡し診断のあとは互いの時間が空いていればマリーナ先生による魔力に関するレクチャーが始まる。歴史的なことから魔力の扱い方まで、もともとリーゼの家庭教師として優秀だったらしい彼女の話はわかりやすいし面白い。リーゼからすれば放任主義もいいところだと言われていたようだが相手によって適切なやり方を選んでいるだけというのはなんとなく想像がつく。

 

……

 

「ですから我々魔族は人間界ではあまり魔力の行使は行いません。なぜだかわかりますか?」

「えぇと……こっちでは魔力の回復に時間がかかるし、行使するにも効率が悪いからですよね?」

「その通りです。魔族といえど魔素のうすいこちらの土地では回復は遅れてしまいますし行使についても同様です。まおさんのように配信で常に潤沢な魔力を受け取れているならばまた話は別ですが」

 

 人々の信仰によっても魔力の回復ができるというのは以前にも聞いている。私の魔力はほとんどそれによるものだ。

 

「ですので近年では配信者、特にVtuberという形で信仰を集める者が増えておりますわ」

「別に信仰を集めるだけならVtuberじゃなくてもいいんじゃ?」

 

 マリーナの話によれば現在Vtuberとして活動している者の中にはそれを主な目的としているかは定かではないが人間ではない種族、魔族に準ずる者たちが多くなっているらしい。しかし、それは別にVtuberとかじゃなくても配信者だったり芸能人でもいい気はする。

 

「そうですね、仰る通りですが。信仰されその力を効率よく受け取るには魔族としての姿……まおさんなら魔王としての姿で支持を集めなくてはなりませんから。その点、Vtuberというのはとても便利なのです」

 

 たとえば魔族が人間の姿で配信者や芸能人となってもそれではあまり意味がないらしい。あくまでその魔族本来の姿で支持される必要があるというのであれば、たしかにVtuberというのは理に適っている。

 

 もしかしたら私の知り合いの中にも魔族や人間以外の種族がいたりするのだろうか。もっとも、向こうもこちらへ同じことを思っているかもしれない。

 

 しかし、そうであるならば……。ただの人間が魔王の姿で支持を得られたとして、本来多く扱えないはずの魔力を魔族であるマリーナから見ても驚くほどにその身に宿している私は一体何者なのか……。以前にも確認したが私、来島(くるしま)音羽(おとは)は魔族でもないし魔族の血が流れているという訳でもない。

 

 ただの人間が魔王を名乗りネット上で活動を始め、そこからVtuber黒惟まおとして活動している偽物の魔王……。

 

「では座学はこのくらいにして次は実践に移りましょうか」

「今日はうまくいくかなぁ……」

 

 自身の正体に得体の知れないものを感じながらも座学の終わりを告げられ、少しだけネガティブになっていた思考を振り払う。魔力の行使はイメージが大事と何度も言われているしやるなら楽しくだ。ただ、いままで一回も上手くいったことがないことを思えば若干暗い気持ちが残ってしまうことは仕方ないだろう。

 

 目の前には水の入ったグラスが置かれその上には葉っぱが一枚……。最初にこれを見せられたときは漫画の真似事じゃないかと笑ったものだが、マリーナが言うには実に理に適っているものらしい。なんなら魔界でも一般的に行われているらしく、作者は魔界出身ではと疑っているようだ。

 

 もっとも漫画のようになにか特性を見分けるためという訳ではなく単純に魔力を用いて事象を発現させる訓練らしいが。

 

 グラスを手で包み込むようにかざし、念じる……。今日は葉っぱを動かそうとしているのだが……。いつも通りうんともすんともいかない。マリーナが言うにはあんなに魔力を受け取ることができているし多少なりとも行使できるはずだとは言われているのだが。出来ないものは出来ないのだ。

 

「やっぱり……」

「むしろ魔力をここまで持っているのに一切行使できないというのは何度見ても不思議です」

「うぅ……」

 

 いつもの事とはいえ、そうバッサリ言われてしまうと少しだけ傷ついてしまう。魔族の存在を知りこの身に魔力が宿っていることを知ったときはそれの行使が楽しみのひとつだったのに……。

 というかこのまま一切魔力が行使できないまま、万が一私が本物の魔王になったときはどうするのだろうか……。我が身の事ながら他人事のように考えてしまうのはあまりに実感がないからだろうか。

 

「では手を」

「はい」

 

 差し伸べられた手を取り目を閉じる。ひんやりとした手からはなにか力のような……うまく言葉で言い表せない感覚が流れ込んでくる。

 

『魔力は感じられますね?』

『はい』

 

 この言葉ではなく魔力を介しての会話というのにも随分慣れたものだ。いまでははっきりと魔力の流れまで感覚として掴めていると思う。このように呼び水とでも言えばいいだろうか、外部からの刺激がありその力の志向性を与えられてはじめて魔力が行使できるのだ。我ながらただの魔力タンクじゃんとその融通の効かなさに嘆息が禁じえない。

 

 ゆっくりと目を開けマリーナから与えられた葉っぱを動かすという魔力の志向性、それを違和感なく受け取り自らの意思として手のひらに魔力を意識して動かしていく。そうすると先程まで沈黙を保っていた葉っぱがクルクルと回りだし、しまいには水面の上に立ち上がる。人の力を借りてるとは言え、葉っぱを動かすという志向性の中なら自由自在に操れるのは楽しい。

 

『こちらは随分上達いたしましたね』

『喜んでいいのか微妙ですけどね……』

 

 結局一人では魔力の行使もままならないのだ、魔王となった際には膨大な魔力タンクとして誰かの役に立てとでも言うのだろうか。まぁ、まったく役に立たないよりはマシだろうからリーゼあたりにうまく使ってもらおうかな……。

 

 結局その日も最後まで自力による魔力行使は叶わず、魔力によって疲れは感じていないはずなのだが精神的にはずいぶん疲れてしまった。こんなときは、配信で精神を回復するに限る。

 そんな思考も筒抜けだったのであろう「変わりませんね」と掛けられた声に「もちろん」と笑顔で応え、配信のことを考えながら部屋を後にする。

 去り際にちらりと見えたマリーナの表情はそんな私に呆れたのか、それとも別に思うところがあったのかなんともはかりかねるそんな笑顔であった。

 

「魔力のためでもなく信仰を得るためでもなく、ただ支持してくれる者のために動くことが出来て、それが自身の為だと本気で思える。それが出来ている時点で魔王たる資格はあるのですよ」




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マシュマロ
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