ゼロカラウラヤムイセカイセイカツ   作:ドゥンペイウス

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遅くなってすみません。思ったより忙しくあまり時間がとれないかもしれないので隔週くらいのペースになると思います。そうなるよう努力します。


罪人の分岐点

 

 

「そういえばあの入口から塔に入ったのは初めてだ」

 

監視塔の第五層に繋がる扉から塔に入りスバルはそうこぼす。前回は花魁熊とシャウラの針から逃れようとして砂宮に入ってしまい酷い目に遭った。『憤怒』の時もそうだが狂った状態で死ぬことの気持ち悪さは他の死と比べても段違いだ。というかこの塔での死は軒並み最悪なのだ。

 

「どうしたってッンだァ大将、辛気臭い顔ォして」

 

回想に顔を顰めているとそうガーフィールが問いかけてくる。

 

「んいや、前回はホント酷い目にあったなと思って」

 

「今回はそうならない事を祈っているよ、スバル」

 

「………お前にもずいぶん迷惑かけたもんな」

 

記憶を失くしたスバルに対して一番ショックが大きかったのはユリウスだった気がする。名前を食べられてしまったユリウスにとって縋れる対象は当時自分だけだった。それは今のレムにも言えること。これでまた記憶喪失にでもなれば目もあてられない。

 

「スバル、警戒するかしら。この瘴気、なんか変なのよ」

 

「変?変って言うと?」

 

「この瘴気前に塔を包んでいたものとは明らかに別かしら。ただ、濃さが尋常じゃないのよ」

 

その言葉にスバルはレムの方を見る。レムは顔を顰めながらその言葉に頷いた。

 

「臭いがあなたのとは比べものにならないくらい酷いです。それに、おそらく臭いの出処は上ですね」

 

上、となると四層か三層のどちらかに瘴気を出している原因があるという事だろうか。瘴気を出す存在は自分以外であれば大罪司教ぐらいしか思い浮かばない。

 

「……行って確かめるしかないか」

 

「せやね。瘴気を出してる時点で警戒すべき相手なのは確かなんやし、全員で行くべきやね」

 

アナスタシアのその言葉を合図に全員で上に向かっていく。すると異変はすぐに見つかった。異変が見つかったのは三層、『タイゲタの書庫』。その書庫の床が本で埋め尽くされていたのである。

 

「なんだァこりゃァ、誰かが荒らしでもしたのかァ?」

 

「本は大事に扱わなくちゃダメなのに……スバル?」

 

スバルはその光景にただ呆然としていた。自分の記憶に間違いがなければ床を埋めつくしている本は……いや。そこまで考えてスバルは自分の考えを打ち消す。確かに自分の死者の書の様に見えるがこんなに数があるわけがないのだ。床を埋めつくしている本の数は明らかに自分のそれより多い。

 

「これは…文字でええんかな?初めて見るんやけど」

 

そう言ってアナスタシアが本を手に取ろうとする。

 

「──ッ!!!やめろ!!!」

 

「ど、どうしたんナツキくん」

 

「どうしたかしらスバル。さっきから様子が変かしら」

 

「えっと…前回の俺のこともあるから迂闊に触るのは良くないだろ?」

 

そう言ってスバルも本に近づいていく。そして、本のタイトルを見た。

 

「────」

 

『菜月・昴』と書かれた本で床は埋めつくされていた。

 

何故、何故何故何故何故何故何故何故何故──

 

「その態度、ナツキくん、この本に心当たりがあるんちゃう?」

 

「─────」

 

「スバル、正直に答えてほしい。この本を君は知っているのかい?」

 

「知らない。俺はこんなの知らない…」

 

「スバル?」「お兄さん?」

 

「心当たりなんてあるわけがない。…ありえないんだ。なんなんだよこれは…こんなの…ありえるわけが……」

 

そこまで言ってスバルは言葉を止める。

 

───なん、なんだあの本。

 

スバルの意識はあるひとつの本に囚われた。他の本と同じ黒い表紙に漢字のタイトル。おかしな所なんてひとつもないはずなのに、スバルの意識はその本から離れられない。スバルはそのままその本に手をのばす。そのスバルの手を、レムが掴んだ。

 

「迂闊に触らない方が良かったんじゃないですか」

 

「…………あ」

 

「スバル、落ち着くかしら。落ち着いて、知ってる事を話してほしいのよ」

 

知ってる事を話せ?自分の死者の書について話さなければならないというのか。……それはできない。

 

「スバル、お願い」

 

「それ、は、その死者の書は……」

 

 

 

 

 

 

 

「それ、死者の書って名前なのか」

 

 

                △▼△▼△▼△

 

 

「それ、死者の書って名前なのか」

 

突如現れた謎の人物に全員が息を呑む。

 

「テメェ、いったい何者だ?」

 

ガーフィールが真っ先にそう尋ねる。突然現れた存在に全員が警戒態勢となる。

 

「そのローブ、魔女教徒だな」

 

「『最優』か、生きてんだなお前」

 

「君は私を知っているのか…そもそも君は一体」

 

そう問いかけられると男はスバルの方へ向く。フードに隠された顔が昏く笑った気がした。

 

「分かるだろ『ナツキスバル』、お前なら」

 

「お、前はなんなんだ」

 

「おいおい、そこまで察しが悪いわけじゃねえだろお前。その察しの悪さでここまでやってこれたってのは納得行かねえぞ」

 

そう言って男は来ている面々を見渡す。エミリアとメィリィに目が向いたとき、男の瞳が複雑な光をした気がした。

 

「………メィリィ」

 

「……?お兄さん、私のことを知ってるのかしらあ」

 

「ああ、一応お前ら全員の事は知ってるよ」

 

男が一人一人を指さしながら話しはじめる。

 

「王選候補者アナスタシア、『最優の騎士』、レムにベアトリスに…ガーフィール・ティンゼル、メィリィ、そしてエミリア」

 

そこまで言って男は言葉を切り、スバルの目を真っ向から見つめる。その瞳に宿る狂気に、スバルは後退りをしたくなる。だが動くことはできなかった。その男から目を逸らせなかった。

 

「そして…たった四回で運命を覆した『最も新しい英雄』、ナツキ・スバル」

 

その言葉にスバルは全身が崩れ落ちるような錯覚に陥る。今、相手は四回と言った。それが何を指しているのかを本能で理解してしまう。男の声、瞳、口調、態度、全てがスバルに悪寒を与える。

 

「お、まえは…なんなんだ」

 

二度目のスバルの問いに男はローブのフードを下ろして答える。満面の笑みで。

 

「──俺の名前はナツキ・スバル」

 

「──魔女教大罪司教『傲慢』担当、ナツキ・スバルだ!」

 

 

                △▼△▼△▼△

 

大罪司教、『傲慢』担当、そんな言葉よりもまず衝撃を与えたのはその名前だった。

 

「お前、どういうつもりかしら。大罪司教と言っておきながらベティーの契約者の名を名乗ることなど許さないかしら」

 

「おいおいわざわざ顔出しまでしたのに分かんねえのか?そこまで顔が違ってるわけでもあるまいし」

 

「自分の顔を鏡で見たらどうですか。あなたの顔とこの人の顔は全然違いますよ」

 

「そうかい、そりゃショックだ」

 

「………気をつけてください。瘴気の出処はあの人です」

 

レムがそう付け加え、全員が戦闘態勢をとる。相手は大罪司教を名乗っている。油断などできない。

 

「俺は戦うつもりは無いんだけどな…今回は半信半疑だったナツキスバルの存在をこの目で見れただけで俺は大満足なんだが」

 

男の瞳がスバルの目を捉える。その瞬間、スバルの胸にあるドス黒いモノが声をあげ始める。

 

「……あ?」

 

次の瞬間スバルの胸から黒い魔手が飛び出した。『見えざる手』はそのまま男へと向かっていく。

 

「お前、確かペテさんを殺したんだよな。そのペテさんの権能を使ってるのか?これは」

 

男がそう言って顔を歪ませていく。──満面の笑みへと。

まずい、まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい──

スバルの本能が絶叫しはじめる。それに共鳴するように男の、『ナツキスバル』の黒い核が産声をあげる。

───やめ

制止の言葉が声になる前に黒い衝撃が書庫を襲う。

 

「な、何だってェンだコレ」

 

「あなた、何を…」

 

男の狂気が増していく、魔手が書架を倒していく。のびていく魔手は明らかにスバルのそれより多い。ペテルギウスと同じかそれ以上のように思えた。焦燥感に駆られながらスバルは何をすべきか考えていく。

 

「──ッ!! ユリウス! ネクトを!」

 

「分かった!!」

 

こういう場面でのユリウスは判断が早くて助かる。前に『怠惰』を倒した方法。それと同じ事をする。ユリウスが剣を抜き、剣が七色に輝き出す。

 

「これは…」

 

「エミリアたん達は俺の後ろに」

 

「おいおい戦う気は無いって言ってんだろ」

 

「君に無くても大罪司教を名乗り、友人を愚弄した時点でこちらにはある」

 

「『最優』も結構短気なんだな…まあ俺は意地でも戦うつもりはないんだけど」

 

さっきから体がおかしい。胸にある黒い情動が抑えきれない。

 

「ぐ、グゥ……あァ…」

 

「スバル…?どうしたの!?」

 

黒い情動が意思に反して飛び出していく。のびていく魔手はそのまま男へと向かっていき、男のすぐ横をすり抜けていった。

 

「危ねぇな。なにすんだよ」

 

『見えざる手』を使った直後、反動がスバルを襲う。

──マズイ

頭が割れるように痛い。このままだと意識を失う。どうすればいい。

 

「………もう良いよ。飽きた」

 

「…どういうつもりだ」

 

「戦う気は無いって最初から言ってんだろうが。今はそいつの治療でもしてやれ。『ナツキスバル』に死なれると厄介だ」

 

意識が落ちていく。ここで落ちたらどうなるか分からないというのに。意識が──

 

「うっ…」

 

「お兄さん!」「スバル!」

 

最後に男がなにかを投げた気がした。

 

 

                △▼△▼△▼△

 

──暗い、黒い場所にいる。

いるだけで不安になるような場所。影の庭園。それでも不安を一切感じないのは『彼女』がいるからだ。

 

『愛してる』

 

『彼女』がまた自分に愛を告げている。それに答えなくてはいけない。ナツキスバルは『彼女』に意識を向けようとした。それでもできなかった。『彼女』の目の前にはもう人がいたから。

 

『──お前もここに来んのかよ』

 

『ナツキスバル』はそう言ってスバルを見る。その光景を見た瞬間、ナツキスバルから止めどない嫉妬が溢れ出す。『彼女』と自分の聖域を侵した存在。それをゆるせなかった。だからナツキスバルは──

 

 

                △▼△▼△▼△

 

「……ん、あ?」

 

「みんな!スバルが起きたわ!」

 

「エミリア…たん?」

 

「そうよ、エミリア。ただのエミリアよ」

 

体を起こしてまわりを見渡す。どうやら塔の四層にいるようだ。仲間たちもみんないる。どうやら誰一人欠けずに済んだらしい。

 

「体調はどうですか」

 

「んにゃ、平気よ平気」

 

「そうですか。…で、本当は?」

 

「………若干頭が重い」

 

どうもレムには敵わない。ほかの面々も心配そうな顔でこちらを見ている。

 

「あーアイツは?」

 

「逃げられたよ、残念ながら」

 

「あの野郎、最後に魔石を投げてきやがッた」

 

「そのせいで『タイゲタの書庫』の本は大体が燃えてしまった」

 

「そうか……書庫に火を…」

 

「……ナツキくん、あの男が書庫を燃やした理由として考えられるのは二つ。ひとつはウチらの足止めの為、もうひとつは…何かしらの証拠の隠滅」

 

「……………」

 

「彼が魔石を投げたのは、ナツキくん。君が手に取ろうとしていた本の方向だ。そして彼はその本を焼き払った。……ナツキくん、あの本はなんなのか話してもらえる?」

 

「……あの本は、あの本には俺の故郷の文字が使われてる」

 

「スバルの…故郷の文字?」

 

「納得がいったかしら。あの文字、前にスバルが書いてたのよ」

 

「それで、あの本に書かれていた名前は?」

 

言うべきなのだろうか。もしもここで言って、彼女達が無事な保証がどこにあるのか。──思考は堂々巡りだ。答えは出ない。それに、あの男をどうにかしなくてはいけない現状、避けては通れない説明だ。

 

「……『菜月・昴』」

 

──ペナルティは訪れない。

 

「あの本に書かれていた名前は『菜月・昴』だ」

 

 

                △▼△▼△▼△

 

スバルのその言葉を受けてそれぞれにの表情に宿ったのは戸惑いだ。当然だ、スバル本人ですら意味が分からない。

 

「…スバル、本当に君の名前だったのか?」

 

「本当だよ。…俺が一番混乱してる」

 

「確かにそういうことならナツキくんのさっきの動揺っぷりに納得がいくんやけど…あれは『死者の書』なんやろ?そんな事ありえないと思うんやけど」

 

アナスタシアの言うことは正しい。死んだ事のある人間なんて普通はいない。それが普通なのだ。

 

「俺だって意味が分からないよ。俺はあんなの知らない」

 

別にスバルは嘘をついているわけではない。確かにスバルは自分の死者の書がある事を知っている。だがそれは自分の死者の書だ。──他の『ナツキスバル』の死者の書などは知らない。

 

「分からないことをこれ以上考えても意味は無いかしら」

 

「そうね、今考えるべきは…」

 

「『傲慢』の大罪司教、か」

 

「ウチからしてみるとそもそもアレが『傲慢』なのかは怪しいと思うんねんけど」

 

「じゃあ何だッてンだアイツは」

 

「考えられるのは『色欲』かしら」

 

その言葉にそれぞれが微妙な表情をする。確かに『色欲』はその姿を自在に変えられる。だがあの男は──

 

「『傲慢』を名乗った大罪司教は『色欲』ではないと思う」

 

「理由は?」

 

「あの男は『見えざる手』を使っていた。スバルの目を通して見たから間違いないよ」

 

「『見えざる手』って『怠惰』の?」

 

「つまりアレは次代の『怠惰』ということですか?」

 

「それはないよ」

 

そう言ってスバルはようやく口を開く。正直頭がこんがらがりすぎてやばいが、今はそんな場合じゃない。

 

「『怠惰』の魔女因子は他のやつに移ったりはしてないはずだ。それに」

 

そこで一度言葉を切って、スバルは少し目を瞑る。さっきから皆が意図的に話そうとしなかったことにも触れなくてはいけない。

 

「相手は『ナツキスバル』って名乗ったことについても考えなくちゃいけない」

 

「お兄さんと同じ名前って可能性はないのお?」

 

「無いな。そもそも俺の名前は一般的じゃないし。それにアイツは俺と同じ顔をしてたろ」

 

その言葉に沈黙が落ちる。さっきアレと相対した時は皆、顔が違うやらなにやら言っていたが実際には同じ顔だったはずだ。その瞳や笑みはともかく。

 

「だからウチらは『色欲』かと思ったんやけど…」

 

「俺と『色欲』は一度会ってる。あんな風には化けないはずだ」

 

「そうなると結局アレがなんなのかという疑問に戻りますね」

 

「スバル、心当たりはあるかい?」

 

「………無いな」

 

アレがなんなのかは分からない。分からないが、アレが確かに『ナツキスバル』なのは間違いないような気がした。彼がした「たった四回」という発言。そこに鍵がある気がした。

 

「これ以上ここにいる意味はないかしら」

 

「そうね、皆にも伝えなくちゃいけないし」

 

「とりあえず戻るしかないか…」

 

 

 

 

──お前は本当になんなんだ『ナツキスバル』

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