ゼロカラウラヤムイセカイセイカツ   作:ドゥンペイウス

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奸悪たる傲慢

 

 

ロズワール邸の門前に集まった者達を見て、『ナツキスバル』は複雑な気持ちを覚える。それは予想をしていた面々とは違う事が理由だったり、知ってる人がそこにいる事が理由でもあった。

 

「結構な大所帯なんだな。これで全員か?」

 

スバルはそう軽薄な調子で問いかける。

 

「お前…何しに来たんだよ…」

 

自分と忌々しいまでに似ている、いや、同じ顔をした存在が自分にそう返す。そこにあったのは嫌悪感や恐怖、様々な感情。しかしそれも全て声と表情の裏に隠されている。こいつは何故まともなフリができるのだろうか。何故なにも無いような顔をしているのか。

 

「お前…気持ち悪いな。なんだってそんな態度でいられるんだ?精神状態だけで言ったら『青』よりよっぽど酷く感じるのに」

 

「………?」

 

自覚が無いと来た。最も新しい英雄という名を持っているという話だが本当なのだろうか。そんな事を考えながら出揃ったと思われるエミリア陣営を改めて見る。エルザの死者の書を読んだのである程度のメンバーは知っているが前の世界にはいなかった者もいる。例えば青髪のメイドなんかは前の世界にはいなかった。『ナツキスバル』の四冊目の死者の書からどういう存在なのかは知っているが。そして…自分がいた世界で『死の商人』と呼ばれていた灰色の髪をした青年がそこにいた。

 

「その喋り方…確かにナツキさんそのものみたいですね。正直こうして会うまではナツキさんの話、半信半疑だったんですが」

 

そう言って口を開いたのは『死の商人』、もはやその呼び方が相応しいのかも分からない他人だ。丁度お前の事考えてたんだから口を開くなよ。

 

「へえ…どんな話だったか気になるな」

 

「こことは違う道筋を辿った世界があって、その違う道筋の世界のナツキさんがあなた、という話でしたよ。ナツキさんは並行世界という言葉を使ってましたけど」

 

「へぇ…まあ『ナツキスバル』ならその結論には至るよな。実際そうなんだろうし…ああそうだ並行世界の話で思い出した」

 

並行世界の話は特にしても問題はないのか…そして元々ここに来た用を忘れるところだった。

 

「なあ『ナツキスバル』、俺たちのアレはどうなってると思う」

 

「はあ?アレって…」

 

ああまったく察しが悪い。仕方なく『暴食』の権能を使って『ナツキスバル』の前に素早く移動する。この話を他のやつに聞かれると少々厄介だ。

 

「分かるだろ…俺たちの権能だよ」

 

「───ッ!!」

 

「俺とお前の両方が使えるのか、はたまた片方にしか使えないのか、片方が使った場合の記憶はどうなるのか。試そうとも思ったがうっかりそれで終わっても困るんでね」

 

「……何をする気だ?」

 

「ああホントに察しが悪いな。決まってんだろ、試しに死ねよ『ナツキスバル』」

 

 

                △▼△▼△▼△

 

「───ッ!!」

 

その言葉を言い終えた直後、相手の体の内側から『見えざる手』が爆発的に発生する。

 

「ユリウス!」

 

「アル・クラリスタ!!」

 

その剣に光を纏い、ユリウスが斬りかかる。それに対し相手は『見えざる手』で迎え撃とうとするが

 

「ってぇ…」

 

『見えざる手』をも斬り裂いたその剣が『ナツキスバル』の腕に届く。腕だけで済んだが、腕を切り落とされたダメージは相応にあるはず…

 

「なっ……」

 

相手の傷口から何かが飛び出し、切り落としたはずの腕が再生する。それはどこかで見たことのあるような現象。

 

「まさか…『色欲』の権能まで持ってんのか!?」

 

「ご明察!ってか俺としては『見えざる手』が斬られた件について気になってんだが…」

 

「こちらが手の内を明かすとでも?」

 

「……まあなら単純に潰せば良いだけだな」

 

そう言って相手は懐から十字架を象った刃を取り出す。

 

「お前…ホントに魔女教なんだな」

 

「なんだ?半信半疑だったのか?俺は悪い悪い魔女教徒なんだぜ」

 

そう言い放った直後、相手が弾丸のように飛び出す。それを合図にするかのように他の者も相手を倒さんと動き出す。四方八方から来る攻撃を相手は時に十字架で受け止めながら防いでいく。その光景を見てスバルは焦りを感じていく。

──マズイ。相手はたったひとりでこちらの猛攻を防いでいる。しかもおそらく相手は『見えざる手』が防がれたことで警戒をしているから権能をまだ使っていない。

若干の膠着状態が続いていた中、ガーフィールが一気に距離を詰める。

 

「っぶねぇ!!」

 

十字架の刃とガーフィールの盾が噛み合い、耳をつんざくような衝撃が響き渡る。相手は一瞬目を見開いてからすぐに距離をとろうとするもガーフィールがそれをゆるさない。ガーフィールが左の盾で刃を打ち払い、右の盾で相手の顔面を打ち砕こうとする。それを相手は異常な体捌きで身を回し、蹴りを入れて無理やり距離をとる。

 

「てめェ…その戦い方、黒女の…」

 

「戦い方で分かるってバトルマニアみたいだな。アイツの記憶見る限り間違ってなさそうだけども」

 

「どうして…お兄さん…エルザとおんなじ戦い方を?」

 

「…前の世界で縁があってな…メィリィ、君も、前の世界では俺と関わりがあったんだぜ」

 

「……………」

 

「……まあ、メィリィに限った話でもないんだが」

 

そう自嘲気味に呟いた相手の視線はオットーに向いていた。

 

「ひょっとしてさっきから僕に執着めいた視線がちょくちょく向けられていたのはメィリィちゃんと同じ理由ですか?」

 

「……執着、か。…間違ってないよ、それで」

 

相手は、『ナツキスバル』は何かを思い出すように目を閉じる。彼が、どんな道筋を辿ってきたのかは分からない。分からないけれど、彼もその道の中で特別な何かを得ていたのだろうか。

 

「…お前も、メィリィも…エルザも、仲間とは呼べなかったような存在だったかもしれない。…それでも、俺に協力してくれたのは確かだからな」

 

そこで一度言葉を切り、『ナツキスバル』は再びガーフィールに視線を向ける。

 

「だからさ、仇討ちとまでは言わねえけど、…踊ってもらえるかな?ガーフィール・ティンゼル」

 

「…上等だよ、黒男」

 

ガーフィールの言葉に『ナツキスバル』は壊れるくらいの満面の笑みを浮かべる。

 

「エルザの言う通り、お前は素敵だな」

 

その言葉を皮切りに両者が激突する。相手の凶刃がガーフィールの盾とぶつかり合い、鋼の音が鳴り響く。相手は刃を持っていない方の手を魔獣の大顎に変え、ガーフィールの腕を盾ごと飲み込む。

 

「グッ…しゃらくせェ!!」

 

ガーフィールは飲み込まれた腕をそのまま虎化させ、顎を肥大化させたその圧力で引き裂く。それでも相手は引き裂かれた大顎を触手に変え、ガーフィールの腕に巻き付き、そのままガーフィールの肩に十字架の刃を突き刺して逃さない。

───相手を逃そうとしない『ナツキスバル』の戦い方に脳内で警鐘が鳴り出す。

獲物を逃さんとする『ナツキスバル』がその顔をガーフィールの顔と突き合わせて言い放つ。

 

「ガーフィール・ティンゼル」

 

 

 

 

 

 

 

 

「イタダキマス」

 

その言葉に目を見開いたガーフィールを『ナツキスバル』は無数の『見えざる手』で殴り飛ばす。

 

「ゴチソウサマデシタ」

 

「ガーフィール!! くそ…コル・レオニス!!」

 

ガーフィールの意識を繋ぎ止めるために強欲の権能を使い、その負担を引き取る。その負担の大きさにスバルは立てなくなる。

 

「スバル!!どうしたのよ!!」

 

「ベアトリス…レムと一緒にガーフィールの治癒を…」

 

「ガーフィールって…あそこに倒れてる人ですか?」

 

レムのその反応にスバルは気が狂いそうになる。

──アイツは、ガーフィールの名前を…!!

 

「…グ、アァ…」

 

「その状態でまだ意識があんのは納得行かねえなぁ…精神力どうこうのレベルは超えてるだろ」

 

倒れたガーフィールを一瞥してから『ナツキスバル』はそのドス黒い双眸をスバルへ向ける。

 

狂人と目が合う

 

「お前だな?この小細工やってんのは。一体どういうカラクリで…」

 

「……ッ、とにかく二人はガーフィールを」

 

「おい、無視すんなよ。はぁ…」

 

 

 

 

 

「俺が話してる」

 

「────」

 

狂人がその左手を自分の唇に当て、十字架を持った右手をスバルに向ける。それだけでスバルは動くことも、声を出すことも、相手の言葉を無視することも出来なくなる。狂人の声が、瞳が、表情が、佇まいが、スバルの意識を、心を掴んで離さない。…否、スバルだけではない。ここにいる全員が、『ナツキスバル』から意識を逸らすことが出来ていない。

──まさか、『憤怒』の…

 

「ちゃんと俺の話を聞いてくれるようになってくれて感謝するよ。無視ってのはやっぱ傷つくからね」

 

 

「こうやって無理やり俺の話を聞いてくれるようにしておきながらって感じなんだけど正直話す事もそんな無かったわ」

 

 

 

「ああ、それでも出来れば疑問には答えてもらいたいところだな」

 

 

 

 

「さっきの小細工って一体どういうカラクリなんだよ。俺はあんな力ないからどういうもんかさっぱり想像がつかない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひょっとしてソレも権能なのか?そんな権能は無かった記憶なんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ、効果が強すぎて答える事も出来なくなってるのか。結構加減がムズいな『憤怒』の権能って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあこうして誰も手を出さないでいてくれるんだから、今のうちに殺っとくべきだよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次でまた会おう『ナツキスバル』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ル!────スバル!!」

 

視界の端で『彼女』が自分を呼んでいる。必死にこちらに手を伸ばしている。だけど『彼女』は見えざる手で拘束されていて動けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の腸が飛び出しているのが見えた

 

 

                △▼△▼△▼△

 

 

「ああホントに察しが悪いな」

 

──考えろ

どうすればこの狂人を対処できる。

高を括っていた。

ここにいるメンバーなら負ける事は無いのではないかと。

──相手は躊躇しない

こちらを殺す事に一切の躊躇いが無い。

どうにかして対処法を考えないと…

 

「決まってんだろ、試しに死ねよ…って」

 

考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ「おい」考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ

思考に深く潜っていた意識が無理やり引き戻される。あの狂人がこちらの顎を掴んで、無理やり顔を合わせてくる。そのドス黒い双眸が先の悪夢を思い起こさせ、スバルは全身を悪寒が突き抜ける感覚を覚える。

───怖い。目の前のこの男が、狂人が恐ろしい。

 

「その反応…お前、戻ってきたな?」

 

「─────ッ!!」

 

「てことはお前は使えるのか…俺は記憶ねえんだけど」

 

「─────」

 

「使った方にだけ記憶が残るとかそういう事か?だとしたら結局俺が使えるかは試すまで分からないって事になるよなぁ…」

 

目の前であの狂人が何かを話している。こうして顔を突き合わせている状態が先の悪夢を思い起こさせてくる。飲み込まれる。恐怖に、狂気に。

 

「────スバル!!」

 

『彼女』の声が聞こえる。エミリアの声が、あの終わりの時にも聞こえた声が。そうだ。ここで怖気付いてる場合なんかじゃないんだ。まずは目の前のこの男を…

 

「イン…ビジブル…」

 

「あ?」

 

「…プロヴィデンス!!」

 

「うぉっ!?」

 

スバルは叫びと共に不可視の手、もはやこの二人の間ではただの第三の手である魔手を胸から打ち出す。当たらなくても、一度距離を取れれば良い。この後何をすれば良いのかは知っているのだから。

 

「ユリウス!!」

 

「アル・クラリスタ!!」

 

光を纏った剣でユリウスが『ナツキスバル』に斬りかかり、相手は『見えざる手』でユリウスを迎え撃とうとする。けれど、その迎撃は失敗する。

 

「なっ…!?」

 

『見えざる手』をも斬り裂いたユリウスの輝く剣が『ナツキスバル』の腕に届く。

 

「…おい、痛えだろ」

 

そう言って、『ナツキスバル』は切り落とされた腕の傷口からまた腕を生やす。──ここまでは想定内。『見えざる手』が斬られたことで、相手はしばらく警戒して権能を使うのを躊躇う。相手が躊躇している間にやれるだけやるのがこちらの勝機となる。

 

「コル・レオニス」

 

「あ?獅子の心臓がどうしたんだよ」

 

ここにいる全員分の負担を受け止める事は、プレアデス監視塔の時とは比べ物にならない程の苦しみを伴うだろう。それでも構わない。元より短期決戦でやらなければ相手は権能を使い出す。

 

「……『強欲』の権能ってとこか?」

 

「…そうだよ、効果は絶対教えてやんねえけどな」

 

ここにいるメンバーの多くが監視塔に一緒に行った者達で助かった。彼等ならこれを使う自分の判断の意味をわかってくれるだろうから。

 

「…バルス、ラムとガーフとユリウスが最前線でやるわ」

 

「ああ…それで頼む、姉様」

 

「あまりの苦しみに無様な姿を晒すくらいならオットーあたりとでも一緒に背負いなさい。あまりに無様なようならレムを頼るわよ」

 

「ああ、頼りにしてるよ姉様。二人も頼む」

 

「心得た」「任せとけッ大将!」

 

二人の頼もしい返事に胸が熱くなるな感覚を覚える。

──大丈夫だ、自分は一人で戦っているのではないのだから。

二人が盾と剣を構え、それに応えるように『ナツキスバル』も十字架の刃を取り出し構えて、壊れるような笑みを浮かべる。

 

「仲間が多くて妬ましいよ、お前」

 

一度は敗北し、終わりを迎えてしまった戦いが、狂人『ナツキスバル』との再戦が幕を開ける。






えーお久しぶりです。言い訳をすると忙しかったんです。テスト期間で。テストも終わったのでこれからはもう少し早く更新できるようになると思います。そうします。頑張ります。
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