彼女は彼氏と別れたい   作:さゆ◈

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彼氏と穏便に別れたい

 

別れたい。

 

なんどそう思っただろうか。

 

向かい側に座っている彼を見ながらそう思った。

 

◎◎◎

 

私と彼は幼馴染みだった。幼稚園の頃からずっと一緒で、家も隣で、親同士の仲も良かった。

 

いつもお互いの家にも遊びに行ってたし、一緒にいる時間も長かった。だから、必然的に仲良くなるわけでよく一緒に過ごしていた。

 

そんな彼が私に一言。

 

「俺と付き合ってくれねぇか?」

 

小学2年生の頃にそう言われた。

 

珍しく真剣な顔をしているのがひどく印象に残った。

 

おおー、とその頃の私はまだまだ未熟で子供だったので、軽い気持ちでイエスの返事を出した。

 

どうせ小学生同士のお付き合いなんて一緒に帰ったり遊んだりするぐらいで、今までと特に変わらないはず。

 

彼と一緒にいるのは楽しいし、友達として大好きだ。

 

でも私の大好きは恋愛の好きじゃない。

 

それは理解していた。というか、小さい頃からずっと一緒にいるからかもうそういう感情は絶対湧いてこない自信がある。

 

でも…下手に断って今の関係がなくなって気まずくなるよりは、付き合った方がましだ。

 

彼とは兄弟のような感じだったし、きっと彼も私の好きは友達として、あるいは家族的な意味としてのことだとその内自覚するだろう。

 

だからそれまで適当に付き合えばいい。

 

自覚したら…なんだろ、お別れパーティーでも開こうかな。

 

我ながらひどいことを思っているとは思うが、どうせしばらくしたら飽きて自然消滅するに決まっている。

 

まあ大丈夫でしょ。

 

ーーそう思っていた過去の自分を殴りたい。

 

1年経っても2年経っても3年経っても、小学6年にもなっても変わらず付き合ったまま。さらにはそのまま中学生になってもずっと一緒のままだった。

 

おかしい。こんなはずではなかったのに。

 

なんでそんなに私と付き合うことに飽きないのか疑問を持ちながらも、私は別のところでも頭を悩ませていた。

 

ーーーそれは、彼と付き合ってからだんだん彼のヤンチャが激しくなっていったのだ。

 

もとから彼は喧嘩が好きだった。

 

「男の子にとっては喧嘩なんて日常茶飯事よ。むしろあった方が元気でいいじゃない」

 

お母さんはのほほんとそんなことを言うので、小さい頃の私は嗚呼そういうものなんだなと勝手に受け入れていた。

 

だけど、彼が年齢を重ねるごとに喧嘩が激しくなっていき、ついには暴力事件なんてものも学校で発生した。

 

そしてそんなことが起こればまぁ彼は危険人物として皆から認識される訳で、色々な人から距離を置かれ始めたりもした。

 

まぁ当の本人はそんなことは気になかったみたいだけど。暴力事件を引き起こすのを繰り返していき、なんと担任の先生に呼び出されることも日常茶飯事になりつあった。

 

そんな訳で彼は私の住んでる町一体では名前が知れ渡ってしまっている。…もちろん要注意人物として。

 

これは早急にお別れした方がいいかな…。

 

友達としてなら百歩譲ってまだ許せる。うん。まだ好きでいられる。私といる時は常に優しいし、怖いことは一切しないから。昔馴染みのよしみとして、縁を切ることはしないでおこう。

 

でも…そう、今の彼との関係は友達じゃない。付き合っているんだ。

 

最近では、私が彼の彼女だということも広まり始めているようで、私を襲ってくる連中もチラホラいる。

 

…本当にやめて欲しい。誠実に、勘弁してほしい。

 

今まではなんとか、前に少し彼に教えてもらった体術を生かしたり(でも全く上手くない)後は運が良くてなんとか逃げられたりした。

 

でも、これじゃあ私の身が持たない。

 

私の身を守るためにも彼とは別れるべきだ。

 

私は身体能力がずば抜けて高いわけでも、そこまで頭が良い訳でもない。襲われたのも怖すぎて若干トラウマになりつつある。

 

もうあんな襲われるなんて怖い思いはしたくない。

 

最近では、あのお母さんにも彼と別れた方が良いと遠回しに言われ始めた。

 

…そろそろ限界かなぁ。

 

うん、すごく別れたすぎる。今すぐ別れを告げにいきたい。

 

でも、どう別れを切り出せばいいのか。

「別れよう」そう口にしたら、彼はいいよと素直に言ってくれるだろうか。

 

平和に終われるかな…。下手したら殴りかかってきそう。

彼が殴ってきた人達みたいになりそうで怖い。

 

しかも問題なのが、彼と現在同じ学校、しかも同じクラス、家が隣、両親の仲はまぁ…まだ悪くはない。

 

そんな状況で別れたいと言って彼に逆上されたらどうなることか。……うん、想像するだけで怖い。

 

今まで彼がどんなに酷い行為をしてきたことか知ってるし実際に目撃してしまったこともある。

 

もしそれを自分にされるかもしれないと思うと、別れを告げた後が怖すぎて中々言い出せないなこれ。

 

そう思い、どうしたものかと考えているうちに過ぎていった。

 

そして中学3年。そろそろ区切りを着けなければ。

 

人生の1つの重要イベント。受験を目の前に、私は1つの覚悟を決めた。

 

待っていましたこの日を。私は高校を受験する理由で別れを告げようと彼の家に行き話を持ちかけた。

 

「んで、改まって話ってなんだ?悠依。」

 

先程一緒に買った缶コーヒーを飲んでいる彼がそう呟く。

 

私は、気合を入れながらずっと言いたかった言葉を声に出す。

 

「あのね、私と別れてほしいの。」

 

グシャリ。

 

彼が持っていた缶コーヒーが潰れ、中のコーヒーが床に溢れ落ちた。

 

その音に思わず身体が反応してしまう。

 

そんな私を、彼は無表情で覗き込んできた。

わぁ、どんな反応するかと思っていたけど想像以上。こんな無表情な彼の姿久しぶりに見たかも。

 

なんか闇落ち寸前みたいな顔してるけど大丈夫かなこれ。

めっちゃ怖いです。

 

「…理由は?」

 

「えっと…」

 

「…んだよ、他に好きなやつでもできたのか?」

 

彼の顔が近ずいてきて距離をとろうとしたが、いつの間にか壁に追いやられて逃げられなくなった。

 

「や、違うよ」

 

その理由でいったら彼がありもしないその人を探しに殴りまわりに行く可能性がある。この理由はよろしくない。

 

「だよな。じゃあ何だよ?…なんか不満でもあったか?」

 

「えーと、その、」

 

私は心を落ち着かせて用意してきた理由を口に出す。

 

「ほら、私達受験もあるし、高校もきっと別れるしお互いの為にならないと思うから。」

 

「…お前、高校どこ受けようとしてる?」

 

「あー、えっと…。」

 

思いがけない質問に驚いた。そこ突いてくるんだ。

 

「高度育成高等学校っていう所だよ。」

 

「嗚呼、確か入れさえすりゃほぼ希望する就職先や進学先に応えてくれる馬鹿げた学校か。」

 

「うん。もし本当だとしたらすごい良い学校だなぁと思って…。」

 

ちなみに、そこが行きたい学校と言うのは嘘だ。本当に受けようとしてる学校は別にある。

 

じゃあなんでその学校の名前を出したのかというと、その答えはこの学校の倍率だ。

 

高度育成高等学校は、国が運営する進学校で、入学すれば希望する就職率や進学率がほぼ100%の夢のような学校だけど、その分ものすごい倍率になっている。

 

そんな倍率が高くて合格できるかわからない所を彼が受験するはずがない。彼は受験なんて楽に終わらせたいって言ってたしね。

 

そう思っていると、彼は突然クククと笑いだした。

 

「奇遇だなぁ?俺もそこ行こうとしてたとこだ。」

 

「え?」

 

「希望する高校が同じなんだ。なにも別れることはねぇだろ?」

まじか。

 

「えー、っと、」

 

「なんだ?他にも別れたい理由でもあんのか?」

 

どうしよ。

 

「そ、そんなことないよ!」

 

私は曖昧な笑顔を作ると、彼…龍園翔は私に美しい笑みを浮かべながらこう言った。

 

「ならいい。…でも、俺たちはずっと一緒だ。今までも、これからも。もし次その言葉を言ったら、それ相応のことを俺がしても文句は言うなよ?」

 

なんですかそれ。殺されるってことかな。言ってることえげつない?

 

逃がさないと言いたげな目をしながら、彼は優しい手で私の頭にポンっと手を乗せる。

 

「だが、なにか俺にイヤなとこがあったら遠慮なく言えよ?」

 

どうしたものか。

 

私は先程翔が潰した缶を見ながらそう思った。

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