星と少年   作:Mk.Z

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<エンブリオ>を売る男
第一話 始動


 

 □■カルディナ 冶金都市グロークス

 

 カルディナ。それは、大陸中央部に覇を唱える連合国家である。経済力を至上の原則とするこの国では、国家とは商業都市の集合であり、都市は商人たちの集合だ。だからこそ、そこにはひとつの自由があった。

 

 ものを買うことの自由。

 

 この国に売られていないものはない。天地の武具や皇国のマジンギアなどの貴重品でさえ、手に入る。必要なのは十分な金銭と、そして――

「情報だよ、シモン君」

ある豪邸の一室。白基調へと統一された、上品華麗な小部屋の窓辺で豪奢な男が呟いた。富を溜め込んだことを示すかのように、その顔はひどくふくれている。

「情報、でごぜえやすか」

 それに応えたのは側に控えていた粗野な男だ。髭面を傾け、きょとんとしている。

「いくら金があっても、どこで売られているかを知らねば買えんと言うことだ。棚に並べられていないものを取ることは出来ん」

 富豪は湿っぽい声で言った。

「つまり、棚に辿り着くための道筋が商品にもなり得るということだな……資料はそこにある」

 机の上の紙束を指す。

「君には私の……ホンのちょっとした買い物の手伝いをしてもらいたい。腕利きだと聞いている。経費は全て此方で持つのだから、必ず探し出せる筈だ……その、‘’売り場‘’をね」

「承りましたでさぁ」

 男――シモンは気の抜けた声で返事をし、のっそりと頭を下げた。用は済んだとばかりに相手が足早に出ていく。控えていた召し使い達もそれについていき、一時的に誰もいなくなった客間でシモンは頭を上げた。

「ケッ。天下のグロークス市長、マンドーリオ・グラマンの‘‘ちょっとした’’お買い物かよ。よく言うぜ」

 その顔は既に先程の野卑なものではなく、鈍く光る刃のように研ぎ澄まされていた。大きな目がぎょろりと動く。シモンは唇を蠢かせ、息を小さく吐いた。

「まぁ、リスクは承知の上だがね……」

 そう呟くと、【大盗賊】シモンは窓を乗り越え、夜の闇に溶けるように消えていった。

 

 

 

 

 一週間後。カルディナ東部、クレマーラという町の路地裏で髭面男の変死体が発見された。

 顔は恐怖にひきつり、両腕は何かを遠ざけようとするかのように広げられていた。奇妙なことに、彼は砂漠の町、そのただ中で溺れ死んでいたのだ。

 恐ろしき事件に町の住民はみな慄いたが、そこは世の常、一ヶ月もするとやがて過去の陰惨な事件達の一つとして忘れ去られた。

 

 ◇◆◇

 

 □■【ドラグノマド】

 

 酒場は広く、しかし同時に人でごった返していた。罵声、怒号、世間話が飛び交うなか、運よく端のテーブルを手にいれた二人が話し合う。喧騒は二人にとってプライバシーを守る()()()()ヴェールだった。

「それで、受けてくれないか?リンダ」

テーブルの右端で男が尋ねた。

「今回のは合計十四人の大人数だ。失敗はまずない。」

「まぁ、ワルい話じゃないのは知ってるんだよ、キュビット」

テーブルの左端、リンダと呼ばれた女はにこやかに返し、

「あたしをわざわざ誘うっていう辺りを除けばね!」 

顔を歪めた。

「あたしは別に強くない。<エンブリオ>にも大した特殊性はない。そんな大仕事に誘われる理由がない」

「それは……依頼主にメンバーは予め指定されていたって話はしただろ?」

 キュビットは困り顔でエールを呷って続けた。

「頼むよ……あとは君だけなんだよ。メンバーが揃わないと明日の昼に出発できないんだ」

「じゃあなんでその御依頼主サマはあたしなんぞを指定したのさ?明らかにまともな任務じゃないよそれ、他に強いやつもいないみたいだし。怪しィ~ね」

リンダもエールをぐいっと呷り、

「変な事件に巻き込まれるのは御免だね!あたしはここを楽しめりゃそれでいいんだから」

少し赤くなった顔でにべもなく言い切った。

キュビットはますます困り顔になった。眉毛は八の字に傾き、唇はへの字を描いている。

「そこまで言うなら…これを」

 そういって彼は一つの包みを取りだし、人の良さが窺える丁寧な手つきでテーブルに置いた。

リンダは益々うろんげな目付きになった。

「なにさ、コレ」

「依頼を受けるときに渡されたんだ、君が同行を渋ったら渡すように、って」

「ふーん……」

 リンダは右手を伸ばして包みをつまみ、引き寄せた。つまらなさそうに包みをほどく。次の瞬間、リンダは目を見開いた。がばりと顔をあげ、キュビットを見つめる。

「気が変わった。この話受けるよ」 

「それはよかった!でもなんで急に……?」

最初から受けてくれればここまでの面倒がなかったのにと頭をかくキュビットに、リンダは顔を震わせながらこう答えた。

「なんてーか……断った方がヤバそうだからさ」

 

 ◇◆

 

 □■郊外 翌日・正午

 

 砂漠と市街地の境目。さんさんと太陽が残酷に照りつける中、十四人の人間が一人を中心に半円になっていた。中心にいるのは冴えない男、キュビットである。いささか疲れた顔で彼はぐるりと辺りを見回した。

 

 濃い面子だ。最初の彼の感想はそれだった。もちろんあらかじめ交渉で顔は合わせているが、それでも一同に介して初めて感じるものがある。

「……ボーッとしてるなよ、さっさと始めてくれ」

一同の一人から発せられたその不機嫌そうな声に、キュビットは慌てて気を取り直した。

 

「では改めて、仕事内容の確認だ。一応、各人には詳しい内容も話してあるはずだが、追加連絡もあるのでまとめて、概要だけは再度確認させてもらう」

キュビットは一旦切り、話を続けた。

「今回の目的は冶金都市グロークス、及びその市長の調査だ。市長には都市内部での不正な商取引及び贈収賄、そして市民への非人道的行為などの疑いがある」

 

 カルディナは都市の集合体として出来上がった国家だ。必然、各都市の自治権の裁量は大きくなる。とはいえ、好き放題されては国家としての枠組みが持たない。ゆえに行き過ぎた横暴は取り締まらねばならないのだ。当然、そのための調査も。

 

「グロークスまでは歩きで半日くらいだ。野盗なんかの敵襲には警戒しておきたいが、まぁそうそう派手なことはないだろう、俺たちの仕事はあくまでも軽い調査だ」

本職じゃあないしな、とキュビットは緊張をほぐすように皆に笑いかけた。笑い返すものはいない。少しだけ傷ついてから彼は続けた。

 

「なお、ここからが追加事項なんだが、昨日の夜中にグロークス周辺でモンスターの目撃情報があったらしい。<UBM>の可能性もあるとのことだから、一応それにも気を付けておいてくれ」

 

 ◆◆◆

 

 □■カルディナ グロークス近郊 砂漠

 

 砂漠はひどく暑かった。大気は熱で揺らぎ、そのはるか向こうにはサンドワームが哀れなならず者を捕らえているのが見える。地平線まで続く砂の海を、所々で大きな砂岩の影が切り崩している。足元、踏み固められた道の端をムカデのような虫が這いずっていた。いずれ人をも呑み込むサンドワームにまで大きくなるのかもしれない。

 一行の目指す都市の城壁は直ぐそこのように見えたが、そこまでの道のりは一向に縮まなかった。ただつまらないだけの道行きに飽いてか、彼らは次第に雑談を始めていた。

「ねぇ、君はなんでこの話を受けたの?」

 傍らの少女の質問に、少年ーーAFXは目をぱちぱちさせた。帽子を深くかぶり直して答える。

「理由はないよ…断る理由もね。報酬に文句はなかったし」

「そうだよね!知ってる?このメンバーはあらかじめ指定されてて、しかも前払いで個別のボーナスまで付いてたらしいよ?あたしこれもらったんだ、これ」

そういうと、少女は胸元のネックレスを持ち上げた。 

「イカすデザインでしょ。めちゃつよの回復力増幅効果付き!買ったら高すぎてとてもじゃないけど手が出ないの」

彼女は青い瞳をきらめかせ、屈託なく笑った。

「君は?何貰ったの?」

 AFXはあまり気が進まなかったが、その朗らかな笑顔の圧に耐えかねて渋々、帽子を上げて、その下のものを見せた。

「かっこいいじゃん!その眼鏡、じゃなくて、ゴーグル?」

「ゴーグルかな。高レベルの鑑定とか、看破とかがついてる……怖い話だよ」

「怖いの?どうして?」

「僕にぴったりな報酬をくれたことが、だよ。君のそれも多分そうでしょ?」

 AFXはそういうとまた帽子を深くかぶり直した。

「全く無名の僕らを指名、そして各々にぴったりな報酬をくれた。素性やジョブや、それこそエンブリオまでも把握してるんだ」

「そうだね、少なくともあたしは無名だよね…君もあんまり知らないけど」

 彼女は気を取り直すように頭をふった。

「ま、無名同士、自己紹介しとこうよ!あたしはメアリー・パラダイス、ジョブは【教会騎士(テンプルナイト)】ね!」

元は王国出身なのか?そんなことを思いながら、AFXもまた名乗る。

「僕は【偵察隊(リコノイター)】AFXだ……宜しく」 

 

 ◇◆◇

 

「お二人さん、それは聞き捨てならんな」 

足を早め、唐突に声をかけてきたのは二人の少し後ろを歩いていた男だった。

「確かにあんたらは無名かも知れんがね、この俺は違う!ドラグノマドでもちいっとは知られた顔よ!その名も、【芸術家】モーリシャス藤堂だ!」

 AFXとメアリーは顔を見合せ、同じ結論に達した。

「知らない」

「知らないな」

「そらあんたらの情報力の問題さ!目敏い奴らはとっくに俺に目をつけてるぜ。アートで戦いを鮮やかに彩り敵を翻弄する、人呼んで戦場のアーティストさ!」

めげることなく、藤堂は言い切った。

「大体、このメンバーが無名ってのも言い過ぎだ、そりゃ超級職とかはいねぇがよ」

藤堂はうんうんと一人で頷くと、勝手に解説を始めた。

「例えばリーダーの【司令官】キュビットはそれなりに有名だぜ、でっけえサンドワームをパーティー組んで倒したこともある。その隣歩いてんのが【影】リンダ、腕利きの斥候だな」

彼は二人の戸惑った顔を見もせずに続ける。

「出発前に怖い顔でリーダー急かしてたのは【大戦士】グリゴリオ、なんと<UBM>の巨大熊とタメ張って追い払ったことがあるらしい…あそこ、グリゴリオと話してんのは【疾風剣士】シマだな、相棒だって話だ」

「いいよ、もう分かったから……」

AFXはそういうとますます帽子を深く被った。今聞いた名前はどれも耳に馴染みのないものばかり。人材が豊富なカルディナの、それも国家上層部からの指名なのだ、本来なら準<超級>の一人もいていいだろうに、ここには最大でも並のカンスト勢しかいない。

「おかしいよなぁ…」

首をかしげる彼を、メアリーはじっと見つめていた。

 

 ◆◆◆

 

「それで、あんたはリーダーだろ?思うところはないわけかい?」

「勘ぐったってしょうがないだろ、しつこいよリンダ」

同時刻。この二人も依頼の裏を疑っていた。

「気になるんだよ、実際変じゃないか」

「うむ、その疑問、もっともであるな」

その言葉にリンダとキュビットはがばりと振り返った。

後ろに居たのは悠々たる老騎士であった。黒々とした大鎧は所々に傷がつき、まさに百戦錬磨のごとく。ただ奇妙なことに両腕の籠手は無く、素手が剥き出しにされている。キュビットは困った顔で静かに抗議した。

「Ⅳ世。急に後ろに出てくるのやめてもらえないかな」

「うむ、失敬」

老騎士の名はゴルテンバルトⅣ世。調査隊のなかでも無名のほうのメンバーである。

「儂が考えるに、目的は人材育成であろうな」

「人材育成?」

「カルディナは最も<マスター>の多い国。しかし上級者ばかりに仕事を任せては後進が育たない。わざわざ無名のものばかり選り抜いて依頼を出すのだ、我々を戦力として役立たせるべく、経験を積ませて強化しようという目論見であろう」

「もっともらしく聞こえるね」

「推測にすぎんがな」

Ⅳ世はかぶりを振ってそう言った。

「でも、当たってるかもしれないよ」

「そうかね?では、儂ら以外の意見も聴いてみようではないか」

Ⅳ世はそういうと、

「どうかね、グリゴリオ殿」

グリゴリオに声をかけた。

見るからに寡黙な彼はその仏頂面を崩すことなく、静かに口を開いた。

「正しいだろう。今日までに2件、同様の……無名のものを選んだ依頼が他の都市で出されていると耳にした。依頼の内容より、その引き受け先にこだわっているとみていい」

「目的がカルディナの戦力強化なら、それの使いどころがもうすぐあるってことだ。キヒヒヒ、グランバロアか……ドライフあたりと本格的にドンパチを始めようってんじゃないか?楽しみだねェ」

「落ち着け、シマ。お前は今にでもドライフあたりに斬り込みに行きそうで危なっかしい」

たしなめるグリゴリオに、慣れた様子でシマが引っ込む。

「とりあえず、今回の依頼の内容に変わりはないよ。国家規模の思惑は俺たちには関係ないことさ」

エキセントリックなシマに面食らったように、キュビットは述べた。

 

 ◇◆

 

 藤堂は二人に騒がしく絡んだ後、満足したのだろうか、別の話し相手を探してふらふらと隊列の後ろに行ってしまった。今はフードを完全に被った、男とも女とも知れない人物に話しかけているが、完全に黙殺されている。その少し後ろでは、全く同じ顔の四人組が、同じく一言も話さずに歩いていた。雰囲気のおっかなさにAFXは思わず身震いした。

「そういえば、あれは大丈夫なのかな…」

「あれって?」

「モンスター。<UBM>が比較に上がるくらいにはでかいのが出た……って話」

AFXは帽子の下で、見えない眉間にシワを寄せた。

「モンスター相手は嫌なんだ。勝ち目ないから」

「それならね、多分大丈夫だよ!」

メアリーは向日葵のように笑って言った。

「あたしもそのニュース見たんだけどさ、目撃情報があったの、グロークス挟んで反対側なんだよね!」

確かにそれなら安心かもな、とAFXは思った。都市の外壁は相当の大きさがある。迂回してくるような行動範囲のモンスターは限られているだろう。

「それでね、ニュースによると……そのモンスターはおっきな猿みたいな奴だって!」

「なおさら安心。サンドワームの類だったら地下を潜ってこっちに来るかもしれなかった」

しかし、砂漠に猿というのはそぐわない。 ひょっとすると、本当に<UBM>かもしれない、とAFXはうつ向いて考える。メアリーの話は続く。

「しかもさ、側にいっぱい子分の猿がいたんだって、そいつらがーー」

 不自然に途切れた会話に違和感を覚えて、AFXははっと顔を上げた。目に飛び込んできたのはーー

 

右腕を斬り飛ばされたメアリーの血飛沫と、たった今それを完全なる無音で成した子猿の姿だった。

 

 ◇◆

 

 それは同時多発的に、そして恐ろしいほど静かに起こった。黒々とした猿の群れが雲霞のように彼らを飲み込む。キュビットの軽装鎧を殴り付けた猿の爪をグリゴリオがはたき落とし、大声で叫んだ。しかしその声は誰にも届くことはない。

何故ならば、

(無音!)

 敵手の能力特性を把握し、グリゴリオは焦る。辺りを見渡せば、他のメンバーも奇襲を受け、その対応に追われていた。衣擦れ、鎧が揺れる金属音、砂だらけの地面を踏みしめる足音。その全てがレトロな無声映画のように静かだった。

(あいつらの襲撃の前には、俺たちの音は普通だった。でなければ違和感を覚えた筈だ)

 無音で迫る猿の群れに感覚を狂わされながら、グリゴリオは必死で思考を回し、大鉈をふるって敵を蹴散らす。隣では無音のシマが楽しげに双剣を振るっていた。被弾はしていない筈なのに、彼もまた無音である。

(接触……この猿どもに触ることで無音になるのか!自分達自身に由来する音をも消して静かに近づきやがったな!)

 その推測は正しい。この猿の群れ、【消音猿軍 シャットアップエイプ】の能力は、完全なる消音。自分由来の音だけでなく、武器や鎧を介してでも、強制的に触れた者の音を奪い去ること。

 さらに言えば、もうひとつ厄介な特性がある。

「銘が【猿軍】……おそらくこの群れ全体が<UBM>だね。最悪、根絶やしにしなければ討伐したことにならないかも」

キュビットがそう呟く。その言葉に、グリゴリオは黙って首肯した。

(群体タイプのモンスターなら大概はコアを潰せば殺せるが……こうまで各個体が独立したやつは見たことがない。指揮個体を倒しても終わらないかもしれん)

「幸い、スキル特化でステータスは致命的じゃないね。ここは僕が立て直すよ」

 どうやってだ!グリゴリオは思わず出ない声で吠えた。キュビットのビルドは典型的なサポート型で、ステータスはそこまで高くないと既に聞いている。レベルすら上がりきってはいない。敵の猿たちも、近接格闘特化ではないとはいえ十二分に強い。そこまで考えを巡らせて、グリゴリオは、はっと眼を見開いた。

(何故声が出ている?)

 キュビットもまた鎧越しに触られている。同じく武器でしか触れていないグリゴリオと条件が同じであれば、彼も同じ様に音を消されている筈。そうでないのは、違う条件があるからに他ならない。

(まさか、どうにかするというのは襲ってくる猿の方ではなく……)

 グリゴリオの思考を裏付けるように、キュビットはしっかと口を開き、宣言する。

「《喧騒曲:最終楽章(ヤマビコ)》」

『スキル起動、セッティングの提示ヲ』

「半径四〇、クリーントーンでボリュームを最大に上げろ!」

了解(ラジャー)

次の瞬間、全てが音を取り戻しーー

 

「……何をした?」

 飛びかかる猿を切り払いながら尋ねたグリゴリオの言葉に、キュビットは半透明の操作盤ーー自身の<エンブリオ>の映像を見つめながら答える。

「僕のヤマビコは範囲内の音を操作できるんだ。敵の消音能力は条件も緩いみたいだし、特化した上級の必殺スキルならレジスト出来ると思って。うまくハマってくれたよ」

その言葉通り、目に映る全ては本来の音を取り戻していた。

「音さえ戻れば、あとは普通のモンスターの群れってことで、君たちに任せるよ」

キュビットは一仕事終えたとばかりにへたり込む。

「【司令官】の支援はもうつけてるから、掃討をよろしくね」

「上出来!」

 思わず嬉しげな笑みをこぼしたグリゴリオは、違和感の消えた身体で大鉈を奮い、本格的な戦闘を開始した。

 

 ◇◆

 

「クソッ!最悪だ!」

猿の群れを必死で躱しながらAFXは吐き捨てた。訳の分からない無音状態は誰かの活躍ですぐ解除されたが、それで何が変わるわけでもない。もともと奇襲が済んでしまえば嫌がらせ程度の効果しかなかったのだ。

 顔を汚している血を片手間にぬぐう。自分の血ではなく、メアリーの血だ。これがまだ消えていないということは生きているらしい。

 そう、【教会騎士(テンプルナイト)】メアリーの腕を一撃で斬り飛ばしたあたり、猿たちの攻撃力はかなりのものだ。或いは何らかの奇襲系スキルを有していたのか。なんにせよ食らったらただでは済まない。()()()()()()()()()()()()()()()を思ってAFXは歯噛みした。

 その思考の隙をついて、三匹分の猿の爪が迫る。AFXはバザールで買ったばかりの安物の槍を突きだし、そして同時にあきらめた。直撃コースだ。一匹を弾いても 残りの二匹の攻撃は当たる。重傷、行動阻害は避けられないだろう。もちろん痛覚は消しているが、本能的な恐怖にAFXは瞼を閉じた。

 だが、次にAFXが目を開けたとき、眼前にあったのは巨大な拳、握りしめられた右手だった。漆黒と煌めく黄金に彩られたそれは、襲い来る猿を次々と弾き飛ばしていく。さもありなん、指の一本だけで人間の胴ほどもあるのだ。

「怪我は無いみたいだね!」

 そう朗らかにのたまう声に、AFXは後ろを振り向いた。

 さっきまで腕を斬り飛ばされて倒れ伏していたメアリーが、五体満足で先程の拳とよく似た“左手”の上に仁王立ちしていた。

「ごめん、一瞬【気絶】しててさ。いやーもうちょっと寝てたらやられて死んでたよ!良かった良かった」

死ななければ何でも良いのか?そのポジティブさにAFXは思わず呆れて笑ってしまった。

「回復能力の<エンブリオ>か……!腕の欠損まで直せるのかよ」

「や、実は落ちてたのをまたくっつけただけなの。流石に腕一本生やすのはキツいんだよね、だから…」

メアリーは言葉を切ると、即座に巨大な腕から飛び降りる。次の瞬間、拳法のごとき構えをとった “両腕”が周囲の子猿たちを薙ぎ払った。

「…大きな傷は負わないにこしたことはないのよね、さぁアシュヴィン、やっちゃって!」

その言葉に、大きな両の手がともにサムズアップした。

「サンフランシスコのドージョーで習ったカラテよ!」

誇らしげに語る彼女に呼応して、腕ーー彼女の<エンブリオ>アシュヴィンがいきり立つ。純粋な大きさによって拡大された格闘術は、猿達を木っ端のように弾き散らした。だが敵もさるもの、数を恃んでの戦術か、何匹もの猿が同時に飛びかかり、アシュヴィンに取りつく。そして爪と歯を力任せに叩きつけ、その表面を抉り取り始めた。このままでは擂り潰されると見たAFXが、助太刀せんと槍を構える。しかしその踏み込みはメアリーによって止められた。

「せっかく助けてあげたんだし、もう一回やられに行くことないじゃない」

「いや、でもこのままだと……」

「大丈夫」

メアリーはにっこり笑うと、

「自分で言ったじゃない?回復能力の<エンブリオ>か……!って。《癒しの息吹(ヒリング・オーラ)》」

宣言と同時に、アシュヴィンが一瞬金色に輝き、その傷を完璧に治す。

「そーんでもって……」

メアリーが腰を落とし、身体を捻る。次の瞬間、振り抜かれた掌底が二人に忍び寄っていた猿の顎を捉え、ノックダウンした。

Don't get overconfident yet!!(油断大敵)ってね」

そして彼女は得意気に振り返った。

 

 ◇◆

 

 それを遠くから眺めて、モーリシャス藤堂は感心していた。

「結構な回復能力だな。コンスタントに使えるし、ガードナー自身にも効くのが良いねぇ」

 その代わりガードナーとしてはそこそこだが。と、藤堂は心の中で続けた。まともに空飛ぶ拳を食らった猿でも一撃で仕留められていない。複数回連撃を叩き込めば倒せるだろうが、こう数が多くてはそれも難しい。ましてや猿達はアシュヴィンの動きを学習し始めていた。攻撃が当たらなくなってきている。

 リソースの多くを能力特性に割いたがゆえ、ガードナーとしての性能が劣るのは珍しい型ではない。ならば、それを埋める方法も決して珍しいやり方ではない。

「そう、助け合いってやつだな。そうだろ、Mooo」

「……」

 藤堂は隣の人物、先程の男と女とも知れないフードの人物に声をかける。

「俺が撹乱する、あんたはそのまた後詰めを頼む」

Moooが静かに首肯したのを目の端で捉えると、藤堂は跪いて砂漠に掌を当てた。

「さぁ、行ってこい!【アダム】」

そして、砂漠が揺れた。

 

 ◇◆

 

 変化は劇的に起こった。砂丘が一つ、轟音を立てて爆発する。その中から現れたのは、アシュヴィンと瓜二つの腕。それも六本である。

「すごいな、まだ手があったのか!」

AFXは驚嘆してメアリーを見た。

「いや、あたしのアシュヴィンは両手だけなんだけどな…」

メアリーが同じく驚いて呟く。

 二人の驚きをよそに、新たなアシュヴィンは猿達へと襲いかかった。更なる敵の、それもその厄介さをよく知ったばかりの敵の襲来に猿達がどよめく。黒い群れはざわめくと、新しいアシュヴィン達に飛びかかった。猿達の黄ばんだ爪が突き刺さりーー

 次の瞬間、新たなアシュヴィンは全て木っ端微塵に砕けた。あまりの脆さに思わず呆然とした猿達の隙を、本物のアシュヴィンは見逃さなかった。張り手のごとく掌を広げ、猿達を薙ぎ払う。

 ギイギイと慌てて体勢を立て直した猿達の目には、依然戦闘態勢の一対のアシュヴィンと、いつの間にか再出現した六本の偽アシュヴィンが映っていた。

「芸術的だな」

 藤堂は呟いた。既に彼の<エンブリオ>は発動し、その役目を果たしている。藤堂の<エンブリオ>、TYPE:アームズ、【万象戯画 アダム】の主な能力特性は造形と彩色だ。どのような形や色にでも変形する粘土こそが彼の能力。

 であれば、目の前のなにかを複製するのも当然可能である。

 強度は望むべくもないが、撹乱にはうってつけだ。そして、例え破壊されたとしても彼自身のSPが続く限りは再構成できる。

「即興には即興の美がある、とはいえやっぱ雑になるな……ほらあそこ!色が滲んでるだろ?」

「……」

 話しかけられたMoooはあいも変わらず沈黙していた。その足元からはどろどろとねばつく水のような何かが流れ出している。周囲ではその粘液に捕らえられた猿達が、砂漠の真ん中で溺れていた。その毛皮はゆっくりと溶かされ、消化されている。

「……」

 無言のままのMoooが左手を掲げ、走り回る猿たちを指し示す。足元の粘液が蠢き、素早く伸び上がると、その猿達を器用に絡めとった。

【海嘯蟲 ソラリス】、自在に形を変え一切を貪る巨大スライムのガードナーである。

「…注意しろ」

 突然、無言だった彼が口を開いた。驚き顔の藤堂を無視してMoooは展開させていたソラリスを引き戻し始める。

「おいおい、後詰めを頼むって言ったじゃあねぇかよ。逃げられたら後が厄介だぞ」

 抗議する藤堂を無視して、Moooは砂漠の一点を見つめる。次の瞬間、砂漠が噴水のように噴き上がり、ひときわ大きな、まるで黒い山のような大猿が現れた。

 

 ◇◆

 

「あれが情報にあったヤツか」

今しがた猿の頭を叩き斬ったグリゴリオがそう言った。隣ではうずうずしたようにシマが三匹の猿をまとめて細切れにしている。

「どうする?アタシはああいうデカい手合いは手に負えないよ」

 短剣を構えたリンダがぼやく。

「あなたはどうだろう?Ⅳ世」

 キュビットに問われて、老人は静かに首をかしげた。

「儂は対処が難しい。儂の<エンブリオ>は、周りを巻き込みかねぬのでな。出来れば他の…」

そう言って老人はシマを見つめ、

「…他のお歴々に任せたいと思う」

そう締め括った。

「なら、俺たちが行こう。もし他の奴らが動いたなら合わせる」

そういってグリゴリオとシマは大猿へと駆け出した。

 

 ◆

 

「《来たれ大海嘯(ソラリス)》」

 その宣言と共に、ソラリスが膨れ上がる。一定時間体積を増加させ戦闘力を上げる必殺スキルは、遺憾なくその効力を発揮し、ソラリスは大猿をまるごと呑み込んだ。藤堂が息をのむ。

「すっげぇ!あんた一人で倒せるんじゃないかよ」

 だが、フードの下のMoooの顔は険しかった。大猿がもがき、腕がソラリスの水面を突き破る。その勢いのまま、大猿は易々と跳躍しグリゴリオ達へと飛びかかった。

「《地塩土(ジエンド)》」

 グリゴリオが何らかのスキルを宣言し、そのとてつもなく大きな拳を迎え撃つ。大鉈によって勢いを止められた拳は、謎の白い粒を撒き散らしながら大きく傷ついていた。大猿が全身の毛を逆立てて唸る。

「抜刀ォ!《賦羅素丸》!《埋納素丸》!」

 その後ろから、シマが自らの<エンブリオ>たる一対の二刀を握り斬りかかった。だが、大猿の強靭な毛皮は大して傷つくこともなくその攻撃を受け止める。と、掠り傷を起点にその毛皮がグニャリと歪み、弾けた。大猿がいらだたしげに吠える。毛皮は一点にかけて収縮すると同時に、一点を中心に膨張していた。

 ニヤリとシマが笑い、一歩下がった。次の瞬間、黒と黄金の拳が大猿に殴りかかる。

「やっちゃえアシュヴィン!」

 アシュヴィンは一瞬サムズアップすると、両の手でチョップをくり出した。が、力が乗り切る前、振り切る前に手を伸ばした大猿に受け止められた。メアリーが残念そうな顔で唸る。

 即座に大猿の周囲の地面から、アダムが化けた偽アシュヴィンが迫った。だが、大猿は意に介さずに全身で受け止め、逆にアダムを粉砕した。白い粘土の破片が雪のように飛び散るその向こうから、更なる追撃をとグリゴリオ、シマ、ソラリスが飛びかかる。

 だが、大猿はそれを再度の跳躍で易々とかわした。

 飛び上がったそれはAFXの目の前へと、轟音を立てて着地する。砂埃がもうもうと漂い、砂漠の地面は大きく抉れていた。 

 AFXはひきつった顔で、なけなしの【ジェム】を投げつけた。翠風術師の奥義魔法《エメラルド・バースト》が解放され、グリゴリオに受けた右腕の傷をぐちゃぐちゃにする。大猿は苦しげに呻き、AFXを睨みつけた。

 AFXは思わず手の中にあった槍を投擲し、それがまるで爪楊枝のように容易くバラバラにされるのを見て乾いた笑いを溢した。大猿が牙を剥いて無事な方の拳を振りかぶり、AFXの顔に影を落とす。その大岩のような拳を、大木のような槍が受け止めた。

「助太刀だ、少年!」

ゴルテンバルトⅣ世が唸り、猿の拳を押し返す。踏ん張った足元がガリガリと音を立てて砂漠に二筋の溝を彫っていた。

 大猿は恨めしげに老人をねめつけた直後、足元を掬われてどうと倒れた。すかさず、それをなしたソラリスの奔流が大猿を押し潰さんとする。

 大猿は骨と筋がぐちゃぐちゃにシェイクされた自らの右腕を一瞥すると、左腕で地面を叩き、空中へと逃れた。その衝撃で近くにいたものたちを吹き飛ばすと、状況を不利と見たのか、大猿は再び地面を蹴り、今までで最大の跳躍を見せて彼ら調査隊から大きく離れて行った。

「逃すなァ!」

 グリゴリオが目を血走らせて叫ぶ。呼応するようにシマが駆け出し、ソラリスが触手を伸ばし、アシュヴィンが空を駆ける。だが、追いつけるものは誰一人いなかった。諦めたようにキュビットが号令をかける。

「……取り敢えず周囲を警戒しつつ集合だ、回復使える人は協力して」

 

 ◇◆

 

 □■カルディナ グロークス近郊 砂漠

 

 幸いにも、メンバーは全員が無事生きていた。散り散りになっていた調査隊を呼び戻すと、キュビットが状況を纏め始める。

全く同じ顔の四人組ーーカルテット兄弟と言うらしいがーーは、何処からか傷だらけで現れると、小猿たちの掃討をしていた、と奇妙な喋り方で述べた。

『追撃は完了』

『ひとたび将が崩れれば烏合の衆』

『言えるだろう、ほぼ全滅、とな』

『……』

その後ろから小声で話す女が出てくる。女はおろおろとうろたえた様子で弁明した。

「す、すいません、わたし何にも出来なくて……」

「あぁ、別に気にしないでくれ、ユーフィーミア。君の能力はさっきの状況には向いていないだろうし」

ユーフィーミアはそれを聞いてほっと息をついた。

 一通りの状況確認や回復が済むと、キュビットは再び調査隊を集めた。盗み聞きを避けるため、自身の<エンブリオ>で遮音結界を張っている。今までもこうしていたのか、とグリゴリオは一人得心した。

「まあ、災難だったけど、グロークスはもうすぐそこだ。落ちた人もいないしこのまま街へ入ろう」

「待て」

呑気なキュビットの総括に、グリゴリオは待ったをかけた。

「その前に、俺たちの敵について話し合っておきたい」

「敵?敵って……」

「おそらくは調査対象。グロークスの手の者だ。<UBM>をけしかけたのもそいつらだろう」

「そ、それは流石に考えすぎだよ、直接刺客が来たならまだしも!大体どうやってけしかけるのさ」

「【(デコイ)】系統ならば可能であろうな」

Ⅳ世が重々しく言いきった。

「《ルアー・オーラ》にて誘導してくれば容易く連れてこられる、後は見たままだ」

「それ、根拠は?」

「勘だ」

「非論理的極まりないネ……キヒヒ」

シマが不気味に笑う。キュビットは大きくため息をついた。

「そういうのは各自で個人的に警戒してくれ……とりあえず街へ入って休憩しようよ」

「全員の回復は済んでるよ」

リンダが口を挟んだ。

「だけどさ、アタシも気になることがあるんだよね……」

「君もか?いったい何が気になるって言うんだ?」

「いやこの子がさ、怪しい人影を見たって言うのよ」

そう難しい顔をするリンダの後ろから、おずおずとユーフィーミアが顔を出した。 

「あの、わたし、なにも出来なかったからせめて回りを警戒しようと思って…そしたらチラッと見えたんです」

ユーフィーミアは一瞬言葉を切って、

「二人。なんか、こっちを監視してるみたいでした」

そう続けた。

「俺たちの調査対象のグロークス市長にはクーデターの疑いもあった筈だ。その勢力じゃないのか?」

「いやでも、クーデターの話はわりかし確度が低いって聞いてるんだけど」

「確度が低かろうと疑いは疑いだ」

グリゴリオはキュビットに向かってはっきりそう述べた。

「俺たちの任務詳細が漏れた可能性もある…グロークスに向かう奴らなら他にもいる筈だろうからな、少なくとも……」

「グロークスで無防備に休憩、というのは控えたほうが……ククク、良いかもネ」

 グリゴリオの提言をシマが引き取って締めた。

 

 ◇◆

 

 AFXは輪の端で物思いに耽っていた。隣ではメアリーが彼を揺さぶっているが、お構い無しだ。

(そろそろ良い頃だ。経験則から言ってもグロークスに入る前後で行動を起こす筈……)

彼の思考は暗く、深く沈んでいく。なぜならーー

(裏切り者。この中に一人はいる。だが誰が?誰が……)

確信はある。根拠もある。彼以外には理解も納得も出来ないだろう情報だが、彼にとっては何より確かなものだ。

 AFXは周囲を睥睨し、無視されてむくれるメアリーに目を留めた。少なくとも、彼女ではないだろう……きっと。

 

 ◇◆

 

「それで、その噂は真実なのか?」

『肯定する。ティアンが少なくとも一人、この件に関わって死んでいる』

『与太話なら死人が出るはずもなし』

『取引先への友好の意の提示だろう。わざと口封じが可能な人材を派遣した』

「取引は可能なのか?」

『不明だ』

『些か難しいだろう。それほどの能力、コストは絶大だと思われる』

『裏切り者は警戒される。再び裏切らないとも限らないからだ』

「ならば、直接示すしかないな」

そういうと、その人物ーー調査隊の一人は、機会を窺うことにした。調査隊の中にじっと身を潜めて。

 

 ◇◆

 

「にしても、噂だと思ってた猿の<UBM>が本当に来るなんてね……」

ようやくもの思いから帰ってきたAFXに、メアリーはそうぼやいた。

「この分だと、他の噂にも出くわしたりしてね!」

「他の?」

AFXの疎そうな顔に、メアリーは呆れたとばかりに首を振った。

「<DIN>とか見てないの?そんなんじゃあたしみたいな“情報通”にはなれないわよ?」

「……情報通?」

AFXの鸚鵡返しを無視して、メアリーは言った。

「色々あるけど、あたしが好きなのはねぇ、やっぱりあれかな!……グロークスの、<エンブリオ>を売ってくれる商人の噂!なんかワクワクしない?」

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 □■カルディナ グロークス近郊 砂漠

 

 砂漠はひどく暑かった。そこを疾る彼もまた、熱にやられて身体に痛みを抱えている。いや、痛みの原因はそれだけではない。

 裂けた右腕。ズタズタの背中。全身に疲労と損傷を抱えながら、【シャットアップエイプ】の親玉は逃避行を続けていた。  

 彼らは群体だが、ひとつの個ではない。独立した猿たちが群れとして緩やかに結び付いているだけだ。だから自らの命は皆、惜しい。

 彼は群れの中核だったが、<UBM>としての中枢というわけではない。本来なら彼が倒されても他の猿がいる限り【シャットアップエイプ】は続く。それは群れという構造そのものに与えられた名前だからだ。

 だが、他の小猿たちが()()()()()()()()()()()()、そして残りも調査隊との戦闘ですべて倒された今、彼は一人だった。孤独だった。そしてーー

 

「無防備」

 

閃光が閃き、直線が疾駆する。次にまばたきを終えたとき、彼の身体はバラバラの肉塊になっていた。

 ほどなく命が終わり、恐怖する間もなくその意識が消える。光の塵が飛び散るなか、砂漠に一人の剣豪が立っていた。まっさらな左手で刀を鞘へと納め、鋭い目であたりを見回す。

 

【<UBM>【消音猿軍 シャットアップエイプ】が討伐されました】

 

 【MVPを選出します】

 

 【【■■■】がMVPに選出されました】

 

 【【■■■】にMVP特典【沈黙沓 シャットアップエイプ】を贈与します】

 

「ほう、俺が貰えるのか?確かに()()()()()()()()()()()()()が……奴らは人数が多かったからな。功績も希釈された、というところか」

 剣豪はひとり首を傾げると、目の前の革靴を満足げに拾い上げた。

「なんにせよ、後始末は終わった。帰還するとしようか」

 剣豪は朗らかに笑うと、ゆっくりと砂漠に一歩を踏み出し、そして一陣の風と共に消え失せたーー足音を置き去りにして。

 

 To be continued

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